知っていますか? ピカソが「息抜き」として楽しんだ キュートな焼き物たち!
パブロ・ピカソといえば、世界で最も有名なアーティストのひとり。誰もが知っている現代美術の巨匠です。しかし、そのピカソがじつにキュートな
陶芸作品を大量に残していることは、彼の絵画作品ほどには知られていないのではないのでしょうか。
『ピカソの陶芸』(パイ・インターナショナル刊)はその名のとおり、陶芸だけを200点以上収録したピカソの作品集。知らなかったピカソがいっぱいで新鮮です。監修者の
岡村多佳夫先生にお話を伺いました。
岡村多佳夫(おかむら・たかお)
美術評論家。早稲田大学大学院博士課程修了。専門はスペイン美術史、近・現代美術史。「生誕100年記念ダリ回顧展」など美術展の監修を多く手がける。著書に『ピカソ──巨匠の作品と生涯』(角川文庫)など多数。2014年、長年勤めた大学を退任。現在、個人で美術史の寺子屋を開講すべく準備中。
「陶器では、君は何もできない」──当然、ピカソの絵画は有名ですが、陶芸作品は意外に知られていませんね。
「絵画って、いちいち細かい決まりがあって、わけわかんないところがあるでしょう」
──えっ、わけわかんないって、どういうことでしょう!?
「絵画というのは描くにあたって、構図であるとか、主題であるとか、考えないとならないことがいろいろあるわけです。陶芸は、そういう難しいことは考えないで済むから。割れ物だから壊れていくことが前提で、次から次へと自分が描きたいものを描いている。形がある程度でき上がっているところに、好き勝手にどんどん描けるわけです」
──形ができ上がっている、というのは?
「ピカソは南フランスのマドゥーラ工房で陶芸をやっていたんだけれど、基本はその窯元にある焼き物に絵付けをしていたんです。
だから、
共同制作ですね」
皿の上の料理を再現? 劇中劇のよう
──半分、他人の手が介入しているし、焼き上がってくるまでどうなるかわからない、コントロールしきれないところがあったんですね。
「ガラスも同様、火を使う芸術ってそうで、自分が手出しできない部分があるんですね。リトグラフなんかの版画も、刷り師によって変わってしまうけれども」
──本のなかにも、「陶器は版画のような機能を持つ。焼くことは刷ることだ。そのときに
君が表現したものが何かを知る。刷り上がったとき、それはもはや彫ったものではない。
陶器では、君は何もできない」というピカソの言葉が紹介されていました。陶器制作には、
自分の想像を超えるおもしろさがあったんでしょうね。
絵画の基本モチーフである静物を陶器で表現
「落書きのようなものだよね。
息抜きでもあったんだと思いますよ」
──息抜きでさえ、制作なんですねえ。
「なんか描いてないとダメなんですよ、あの人は。マラソンランナーなんかでもよく、走ってないと体調が悪くなるなんていうけど、それと同じじゃないかな? それに、制作が娯楽、趣味だったんだと思います。だから描き続け、つくり続ける。ピカソは
多作で知られてるけれど、数があるのも不思議ではないんです」