結婚しても夫婦がそれぞれの姓(名字)を名乗る「夫婦別姓」。いまの日本では結婚すると女性が姓を変えることが多いですが、海外では別姓が一般的な国も。
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いずれ日本もそうなるのでしょうか。今回は夫婦別姓をめぐる法律などの現状から、メリット・デメリットまで詳しくご紹介します。
夫婦別姓、日本の法律ではどうなってる?
まず大前提として、日本では法的に夫婦別姓が認められていません。
婚姻届を出すと法的に「夫婦」>となるわけですが、そのさい男性か女性のどちらかが姓(名字)を変えて、同じ姓を名乗らなくてはいけません。これは「夫婦同氏」といって、民法で決まっています。
ちなみに「夫婦別姓」は、正しくは「夫婦別氏」といいます。
これは「姓」や「名字」のことを法律用語で「氏」というからですが、一般には夫婦別姓という言葉で知られているので、この記事でも基本的にはそう表記します。
■日本ではいつから夫婦同姓に?
はじめて法律で定められたのは明治31年の民法です。明治時代から大きな変更がないまま、現在にいたっています。
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いっぽう世界ではどうかというと、以下のように別姓が基本、もしくは希望のパターンを選択できる国も多くなっています。「夫婦同姓」を法律として強要いているのは、どうやら日本だけのようです。
・フランス:同姓、別姓、結合性(夫婦の姓をつなげる)
・ドイツ:同姓か別姓
・オーストラリア:同姓、別姓、結合性
・アメリカ:州により異なる
・タイ:別姓、夫の姓で同姓、結合性
・韓国:別姓
・中国:原則別姓
どうして夫婦別姓が注目されているの?
「夫婦同姓」の日本では、ほとんどの場合、結婚すると女性が姓を変えています。けれども明治や戦前とはちがって女性の地位は向上し、社会進出が進んでいます。
そのなかで「女性だけが姓を変えるのは不公平だ」「仕事をするうえで名前を変えるのは不都合」などの意見が出てきたわけです。
さらに世界的にも別姓や結合姓を認める動きが進んでおり、2016年には国連が日本に対して「夫婦同姓は女性差別だ」として撤廃をうながす勧告が出されました。
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こうした流れもあり、日本政府は「選択的夫婦別氏制度」の導入を検討しています。「選択的夫婦別氏(別姓)」とは、結婚するさいに「希望する夫婦は別姓を選択することもできる」という制度です。先にご紹介したドイツと同じタイプですね。
■世の中の意見は
2013年実施の世論調査では、選択的夫婦別姓の導入について20代の47.1%が「かまわない」と答えていますが、60代では33.9%。
全体として、若い世代は夫婦別姓に対してポジティブなのに対し、高齢になるにしたがってネガティブな意見が増えるようです。
・選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について|法務省
夫婦別姓の2タイプ
いま日本で夫婦別姓をしたいなら、どんな選択肢があるのでしょうか。おもな2タイプをご紹介します。
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■事実婚タイプ
婚姻届は出さずに一緒に暮らすタイプです。内縁関係ともいいます。
フランスなどでは一般的ですが、日本だと多くはありません。というのも、日本では役所の手続きなど公的な書類や法律では法的に結婚している、配偶者であるということが重要。
そのため、事実婚の場合は手続きが複雑になったり、配偶者と認められないこともあったりするからです。
■通称タイプ
婚姻届は普通に出して、仕事や社会生活では今までどおりの姓(名字)を「通称」として使います。いまの日本では、このタイプが主流なようです。
ちなみに筆者が働いていた会社や同業他社も、ほとんどの人が「通称」として旧姓のまま働いていました。
ただし、身分証明書や公的な書類では通称は使えません。
夫婦別姓のメリットは?
夫婦別姓のメリットは、つぎのようなものが挙げられます。
■アイデンティティを守れる
結婚前の姓(名字)はその人のアイデンティティの1つ。ちがう名字で呼ばれることに抵抗がある人や、自分の名字に愛着のある人も、夫婦別姓なら問題をクリアできます。
■仕事上、姓が変わることで発生するデメリットの回避
仕事をするうえで、名字が変わると取引先にいちいち説明しなければなりませんし、メールアドレスの変更など煩雑な手続きも増えてしまいます。別姓なら問題ありません。
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■結婚・離婚というプライバシーを名前から知られずに済む
夫婦同姓の場合、結婚や離婚というプライバシーが名前から筒抜けです。たとえば離婚したとき、取引先の相手にまで「あれ、お名前変わりましたよね。
ご結婚ですか?」なんてきかれるのは不快でしょう。逆に周りが気をつかうこともありますよね。
■煩雑な手続きをしなくて済む(法的に認められれば)
パスポート、免許証、クレジットカード、銀行やネットの名義……結婚して名前を変えると、膨大な事務手続きが発生します。
平日の日中しか窓口が開いていないことも多いので、とくに働いている人にはかなりの負担。法的に別姓が認められれば、こうした負担がなくなります。
■ウーマンエキサイトでの旧姓問題(編集部談)
エキサイトにも結婚後、旧姓を通称としてそのまま使っている女性社員が多数います。そこで、困るのが保育園からの急な連絡。子供の発熱などで実の姓で会社に電話がかかってきます。あれ、〇〇さんって誰でしたでしょうか!? ということが毎年起きております。
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夫婦別姓のデメリットは?
夫婦別姓のデメリットについては、おもに事実婚タイプが直面する「制度」問題と、通称タイプも関係する「日常生活」という2つの角度からご紹介します。
■制度の問題
・社会保険が
「扶養」扱いにならない
・遺産相続で
「配偶者」として認められない
事実婚だと、通常の手続きでは保険や遺産相続で配偶者として扱われません。後でご紹介する、プラスアルファの手続きが必要になります。
■子どもの問題
法的夫婦の子どもは自動的に夫婦の子として戸籍に入りますが、事実婚の場合は父親不明としてママの戸籍に入ります。認知届を出せばパパの子になりますが、非摘出子>であることには変わりありません。
ただし2013年の法改正で相続などについて摘出子/非摘出子を区別することはなくなったため、今では言葉だけのちがいです。
また、選択的夫婦別姓が成立した場合でも、子どもはどちらかの姓を選ばなくてはなりません。そのため、親と姓がちがうことについて世間に説明が必要……といったデメリットも。
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■日常生活
・世間から「変わってる」と見られる
とくに年配層は夫婦別姓に対してネガティブな方も多いため、「変わった夫婦」「家族がバラバラになる」といった見方をされることもあるようです。
・宅配便や郵便の受取で手こずることがある
表札に両方の名字を出していないと、配達スタッフからいちいち確認されることもあるようです。ただし郵便は転居届を出していれば問題ありませんし、宅配便も「届かない」といったことはめったにありません。
遺産相続、保険、子どもの姓、戸籍…問題点はどうクリアする?
制度の問題については、ちょっと面倒ですが手続きをきちんとすれば、おおよそクリアできます。
■社会保険
事実婚でもパートナーを「扶養」に入れたい場合、住民票を同一世帯にして、相手の続柄を「夫(未届け)」または「妻(未届け)」にすればOKです。加入している保険によっては申立書や理由を記入する必要のあるケースもありますが、窓口や会社できちんと説明すれば大丈夫です。
■遺産相続
事実婚の場合、法的な「配偶者」ではないのでパートナーが亡くなっても基本的には遺産をもらえません。その場合、パートナーに遺言書を残してもらいましょう。ただし遺言が法的に有効となるには複雑な条件があるので、専門家に相談したほうがいいでしょう。
■子どもの姓と戸籍
事実婚の場合は、子どもは放っておくと母親の戸籍に入る=母親の姓になります。子どもを父親の姓にしたい場合は、父親が認知して「養子」にしましょう。実の子を養子というのもちょっとヘンな感じですが、そうすると父親の戸籍に入る=父親の姓に変えることができます。
「夫婦」の考えは千差万別!
夫婦別姓にはいろいろなメリットがありますが、法的に認められていないこともあり、手続きが面倒だったり、世間の理解が得にくい面も。別姓を選ぶなら、今回ご紹介したような「デメリットを回避する手続き」をきちんととりましょう。
同姓も別姓も、どちらを選択するかはご夫婦しだいです。もし自分たちとちがう考えのご夫婦と出会っても、それぞれの考えを尊重できるようにしたいものですね。