連載記事:わたしの糸をたぐりよせて
夫とは口喧嘩ばかり…幸せな家庭が壊れかけていく【わたしの糸をたぐりよせて 第1話】
■私がこれまで紡いできたもの
――201×年、三月。もう少しで桜が咲きそうな暖かい日の夜。
私は、もうすぐ幼稚園に入園する息子、悠斗の園グッズを手作りしていた。
「うわぁ~、ママってホントにすごいすごい~」
「すごいでしょ。ママ、こういうの得意なんだ」
悠斗は、目をキラキラさせながらできたての登園バッグを肩にかける。
そこへ、ピンポーンとオートロックのチャイムが鳴る。
「あ、パパだ! おかえり~」
いつの間にか、オートロックの開け方を覚えた悠斗がパパを迎え入れていた。
(もう、鍵持ってるんだから自分で開けたっていいじゃない)
私は心のなかでパパへの小さな不満をつぶやいた。
「友里、悠斗、ただいま」
「おかえりなさい。今、ちょっと手が離せないからテーブルの上のごはん、レンジであっためて食べてくれる?」
私はソーイングセットを片付けながらパパに呼びかける。
「えー、稼いできてくれる感謝はないわけ~」
着替えに寝室に引っ込んだ夫を悠斗が作ったばかりのバッグを見せたくて追いかける。
寝室から、父と子の会話がうっすら聞こえてくるけど、一向に出てこない。使ったばかりの糸をしまおうと、色とりどりの糸が詰まったボックスに手を伸ばすと、そこに鮮やかな
セルリアンブルーの手織り糸が目に入った。胸の奥でチクンと音が鳴った気がしたが、気が付かないふりをして、夫のために夕食を温めだした。
「あれ? 用意してくれたんだ。少しは気が利くじゃん」
「なにそれ亮くん」
私は反射的にそんな返事をしてしまう。
「バッグ見たよ。なかなかの力作じゃない。でもさぁ、もう手作りじゃなくてもいいんじゃないの? コストとか考えると既製品のほうが安いでしょ?? 」
「そうでもないよ。悠斗の好きな刺繍入れられるし、マチの大きさとか扱いやすさを考えると作ったほうが……」
「だいたい、女はいいよなぁ。家のことさえやってれば済まされるってフシがある上にここは友里の地元じゃん。うらやましいよ」
「えっ……!?」
「ごちそうさま、風呂入ってくる」
そういうと、パパ……もとい、亮くんはリビングを出てしまった。
何言ってるんだろ……私が仕事を辞めたの、元はと言えば亮のせいじゃない!
私は、そう言いたかったけど、言葉を飲み込んだ。
*