■嫌な予感が的中! しかし思いもかけない事態に…
――数日後。
悠斗を園に送っていくと、衣装を作るためにクラスで借りた会議室からカオルさんの声が聞こえてきた。
「わ~。こんなキレイなチュール生地、あそこのショッピングセンターに売ってたんだ。よーし、これでティンカーベルの衣装を作るぞー!」
(チュール生地? うまくいきますように!)
私は静かに壁側に立ち耳をそばだてる。そこに上田さんも通りかかったので、会議室の様子を説明した。
「例の断ちにくいし縫いにくい生地ね。今日は私も時間があるから、ちょっと見守りましょうか」
しかし会議室から聞こえてきたのは、怒りと困惑の声だった…
「あー、もう! なによこの切りにくい生地!! 誰よ、こんなの買ってきたのは!!」
「あの……それはカオルさんがきれいでかわいいのをって……」
「うるさい! もうこれ捨てる!! ねえ、あと他に何かないの?」
「そこにツヤツヤしたサテン生地ならありますけど……」
「サテンね、よし!」
思わず上田さんと顔を見合わせる。
決意した表情の上田さんがドアに手をかける。焦る私に、上田さんは、
「布地のお金は園からも出てるけど、保護者会費からも出てるの。縫えないという理由で、費用がかさんでしまうと困るのは私たちということ。だからちょっと強引だけどおしかけサポーターに立候補しちゃいましょう」
勢いよく会議室の扉を上田さんが開けると、カオルさんたちが一斉にこちらを見つめた。
「江田さん、そこ立花さんが代わりますね」
「何よ? 私が衣装係のリーダーなのに口出ししないでよ!」
「いえ、クラス役員の立場から、予算は大切に使っていただきたいんです」
「でも……この子にできるの?」
そんな押し問答を横目に、私はゴミのようにぐしゃぐしゃにされたチュールを見て何かが弾けたような気がした。生地を拾いあげてていねいに伸ばすと、型紙に沿って切り、待ち針を刺す。
「……あ、ありがたいけど、あんたこれ縫えるの?」
「はい。あの、薄紙あります?」
みんなきょとんとしているところに、上田さんがこれならあるとわら半紙を差し出した。
「これなら大丈夫です、縫います」
と、縫い合わせるチュールの合間にわら半紙を差し込んで私は一気に縫い始めた。
「ちょっと! わら半紙と一緒に縫ってどうするのよ!!」
「ものにもよるんですが、このチュールは薄紙と一緒に縫わないと縫い目がガタガタになってしまうんです」
「あ……え……そうなの?」
私は、縫い上がった生地をカオルさんに差し出し、「わら半紙を引き抜いてみてください」と言った。
「……すご。ちゃんときれいに縫えてる」
カオルさんは、気の抜けた声で呟いた。
*
そんなことがあって以降、うさぎ組は一丸となって衣装づくりに取り組み、おゆうぎ会本番は無事に終了。
悠斗も、他の子どもたちも本当にのびのびと演じていて親として子どもの成長を感じていた。亮くんも、なんとか時間をやりくりして来てくれたけど、悠斗の出番が終わったらすっとどこかに行ってしまった。
(まあ、いいか……)
おゆうぎ会が終わって数日後、クラスのママからLINEのメッセージが届いた。
「あの、衣装作ってるところ見て、ぜひお願いしたいことがあるんですが、子どもの服、作ってもらえませんか? もちろん、お礼はお支払いします」
思いがけない依頼だったが、私はそれを受けることにした。
そして……この出来事こそが私の人生の大きな転機となったのだ。
次回はいよいよ最終回! 更新は3月24日(火)を予定しています。
イラスト・
ぺぷり
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