新国立劇場「巣ごもりシアター」5月最終週には、超話題作『紫苑物語』が満を持して登場!
私の人生を射抜くのは魔の矢か……石川淳の骨太の美学をオペラ化
『紫苑物語』(1956 年発表)は昭和を代表する作家・石川淳が平安王朝期に舞台をとって書いた小説で、歌の家に生まれた国司の宗頼が歌を捨て弓の道を見出し、己の鏡ともいうべき仏師・平太と出会い、その仏を射ると岩山もろとも崩落するという物語。簡潔な文体の象徴的な短編に、石川淳ならではのダイナミズム、壮大な世界観が満ちています。
迷いながら自己克服をしていく主人公・宗頼、裏切りの野心に燃える藤内、情欲と権力欲の象徴うつろ姫、実は狐の化身である謎の女・千草、父や叔父との確執、そして乗り越えざるを得ない自己の鏡である平太といったキャラクターの人物造形、さらに岩山の崩落という大スペクタクル、崩壊の後に残る“鬼の歌”、殺戮の後に咲く紫苑(“忘れな草”)と桃源郷に咲く“忘れ草”といった印象的なシーン――『紫苑物語』はいにしえの日本を舞台としながらも、世界へ発信するオペラの題材にうってつけの今日性と普遍性を持ちます。幻想的な異界と現実世界が交錯する物語は、オペラでこそ表現できるもの。スピーディーで求心力に満ちた音楽劇は、観客の心を捉え、一瞬の隙もなく終結まで導きます。