2020年5月12日 18:40
ケイスケヨシダ 2020年秋冬コレクション - 不確かな身体、“わたし”の存在を確かめる
また、スリーブの上部にはスリットを開けている。ルネサンス期には、スリットから下に身につけたシャツの布地を引き出すことで豊かな装飾性を楽しんだことだろうが、ここではタトゥーのようなボディスーツや素肌を覗かせ、身体の不確かさをなおも仄めかしている。
礼服を基調に
ピークドラペルのジャケットに見るように、基調となったのは礼服である。ダブルブレストのチェスターコートには、フロントに大胆なカッティングを施すとともにスリットを開け、後ろに隠れる身頃を覗かせた。また、ピンストライプのジレやスラックスには多数のボタンを並べて、アグレッシヴな表情に仕上げている。ある種の不変性を有する礼服が、身体の脆さ、そしてモードの移ろいに抗する要石となっている。
網、リボン......
フーディにシャツ、厚みのある生地で仕立てたステンカラーコートを重ねて、全身に鮮やかな赤を纏っても、まだ自分の存在が不安でならない。だからこそ、ダッフルコートのトグルで結びつけた網で、自分のこの身体をしっかり捕まえておく。
あるいは、上品な生地感のシャツには、フロント、ネック、そしてスリーブまで、至るところにリボンを結びつけて。リボンというとかわいらしいイメージだが、ここでは装飾である以上に、身体をぎゅっと締め付けて、自分の存在を確かめるための要素として作用している。