一度発した言葉は取り戻すことはできない 言葉は投げるものではなく、手渡すように
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
言葉のちからを手渡すように
言葉には、その言葉通りの現実を起こす不思議な力、言霊があると信じられてきました。
言霊と聞くと、何やら呪術的なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、その言葉にちゃんと意味がこもっている……と捉えてみてください。
しきしまの大和の国は言霊の幸はふ国ぞ真幸くありこそ
(大和の国は言霊によって幸いがもたらされる国です。どうぞご無事で行ってらっしゃい)
これは柿本人麻呂が船出をする友人を見送ったときに詠んだ歌で、万葉集に収録されています。
「どうぞご無事で」という言葉に、その旅が無事であるよう言霊の力をこめたのです。このようにいにしえの人々は言葉の力というものを大切にしてきました。
その精神は、多くの美しい日本語の表現にもつながっているように思います。
「いただきます」「ごちそうさま」「行ってきます」「おかえりなさい」「ありがとう」「おかげさま」という挨拶や感謝の言葉には、祈りや感謝がこもっています。
ですから私たちがこのような言葉を日常的に交わすことによって、祈りや感謝のエネルギーが発せられているということなのです。
『挨拶』には礼儀だけではなく、もっと深い働きがあるのだと思います。そして心をこめて挨拶をする。挨拶の言葉にこめられた思いを感じると、言葉の力がさらに深まるのではないでしょうか。
「言葉はコミュニケーションツールだから、伝わればいい」
と、ある人から言われたことがあります。その人は単に言葉をツールだと思っているので、使い方を間違ったり、時に礼を逸した表現をするのです。
人から誤解されることも多かったようで、そのたびに「そういう意味じゃないんですよ。それはこうでああで……」と説明していました。
一度発した言葉を取り戻すことはできません。削除することもリセットすることもできない。「そんなつもりでなかった」にせよ、相手の印象にはその言葉が刻まれてしまうのです。
カジュアルな会話であっても、そこに『心』があればいいのです。言葉は投げるものではなく、手渡すように。
親しみがあり、相手を思いやる気持ちを持って、あたたかくつながっていきたいものです。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」
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