神様と約束した時間がどのくらいあるのか 私たちは常に『余命』を生きているのかもしれない
直木賞作家の山本文緒さんは、2021年に膵臓がんで亡くなられました。58歳、それが、山本さんが神様と約束した時間でした。
膵臓がんと診断され、余命4ヶ月を宣告されました。抗がん剤治療がうまくいって9ヶ月。
山本さんが余命を宣告されてから綴った日記『無人島のふたり』(新潮社)には、命を終える日へ向かう悲しさ、葛藤、焦燥、諦め、希望……そして、アップダウンを繰り返しながら弱っていく体調が記されています。
肩に力の入った文章ではなく、後世に何かメッセージを残さなければという気負いもなく、ただ余命を告げられた日常と、胸の中に吹き荒ぶ思いが綴られています。
書くことを手放さない作家の矜持も感じます。
1994年に亡くなった安井かずみさんも、最後の日々を綴った『ありがとう!愛』(大和書房)という詩集を残しました。出版されることを前提に書かれたのかどうか、それはわかりません。最期まで夫の加藤和彦さんを愛し、キリスト教の洗礼を受け、ただただ愛と感謝を綴った詩集です。
「金色のダンスシューズが散らばって私は人形のよう」この言葉が絶筆となりました。最後の言葉に、安井さんの無念さが閉じ込められているようで、胸が痛みます。