2023年2月5日 06:00
『夢芝居』はいいかげんに作ったら大ヒットしてびっくり 異色のシンガーソングライター小椋佳
ディレクターは若手歌手を探してくれたが、ついぞ美声の美少年に出会うことはできなかった。
「ボクのほうは、銀行に入って3〜4年たったところで、シカゴの大学院で経営学を勉強してこいっていう指令が下りちゃって。それでアメリカに行く前に『小椋君が仮歌を歌ってくれないか』と言われ、8曲ほど録音したんです」
そのテスト版は、重役会議ではお蔵入りとの判断だったが、代表作に『八甲田山』がある映画監督・森谷司郎さんが気に入り、正月映画に使ってくれるという。
「宣伝費がかからないならいいかと、ゴーサインが出て、デビューが決まったんです」
■ピアノもギターも弾けないし、楽譜も読めない。詞を書いて、テープレコーダーを回して歌っちゃうだけ
「レコード会社もたいして期待してなかったんだけど、出してみたらじわじわじわじわと評判になった」
だが、お堅い銀行では、なかなか兼業は認められないもの。
「先輩が人事部長に掛け合ってくれたの。おおらかな人で、いいともダメとも言わず、なんとなくオッケーになっちゃった」
仕事中でも、音楽のことは頭から離れなかった。赤坂支店に配属され、新規顧客を開拓するためにオランダ航空の事務所へ営業に行ったときのことだ。