2023年5月28日 06:00
母は家出、父は夜逃げ 全盲のバイオリニスト・穴澤雄介さんの壮絶半生
「プロとして『やっていける』と思えた瞬間です。収入はわずかでしたが、これを営業ツールにして『食べていける』自信になった」
’06年、第25回浅草ジャズコンテストで金賞。そして’10年、障害のあるミュージシャンの国際音楽コンクール「第7回ゴールドコンサート」でグランプリを受賞。
夜逃げしていた父は、穴澤さんが29歳のころ消息がわかった。
「保健所から電話で父の名前を言われ『息子さんですね』と。結核にかかって身元引受人が必要となり、私に連絡が来たんです。『ああ、父は生きていたんだ』と」
父からも直接、電話を受けた。
「特に夜逃げしたことを謝るでもなく『大変なことになって参ったよ〜』と。
基本やさしくおおらかな人。怒る気もありませんでした」
その寛容さは、父への特別な思いがあったからだと打ち明ける。
「私に生を受けさせてくれたのは、父だという感謝があるからです」
父の結核は快方に向かい、穴澤さんはその後「付かず離れず」の距離にいた。
その父が71歳で亡くなったのは、’18年8月。穴澤さんは、その日、埼玉県でライブ中だった。
「当時、父は軽い脳梗塞を発症してリハビリ後、神奈川のグループホームに入所していました。