2023年5月28日 06:00
母は家出、父は夜逃げ 全盲のバイオリニスト・穴澤雄介さんの壮絶半生
『もう心臓も動いているのに、人殺しみたいで気が進まない』と。そのおかげで、私はこの世に生を受けることができました」
しかし生まれた子には、障害があった。「だから言ったじゃないの!」。母は父に激怒したのだと。
「母はなんでも完璧にできないと許せない性格でした。料理、掃除、裁縫とあらゆることをハイレベルにこなすだけに、産んだ子が障害児だったことが、許せなかったんだと思います」
■視力が落ちるたびに激怒した母穴澤さんは14歳のときから会っていない
母のことで、穴澤さんの口からいい言葉は出てこない。それでも産み育ててくれた母ではないか。
「確かに通院も世話も、母がしてくれました。
でもそれらが、私への愛情からだったのか疑問です。
母は私の視力が落ちるたび激怒しました。それも、わが子が具合が悪くなるのが許せないからだと私には思えた。暴力的なことさえ、されてきましたから」
しぜん母との時間が窮屈になり、叱られるのが怖くなった。逆に父のおおらかさに、救われたのだと振り返る。
「父はズボラな人です、寝たばこしていて焼け焦げを作ってしまうような。だからか、息子の私にも何もうるさく言わなかった」