「物言えぬ人の代わりに物を言う」弁護士・鴨志田裕美さん 父が経験していた“ハンセン病差別”【令和の寅子たち(3)】
主犯とされ、懲役10年の実刑となったのが、原口アヤ子さん(96)。
彼女は事件発覚当時から、そして出所した後も、一貫して無実を主張している。
そのアヤ子さんをずっと支え続けているのが鴨志田弁護士だ。
「『大崎事件』は、これまで地裁で2回、高裁で1回、再審開始決定が出されています。ひとつの事件で、3回再審開始決定が下されたのは、日本ではこの事件だけです」
だが、いずれも検察官の不服申し立てにより、再審開始決定が覆されている。
「この事件は、“有罪か無罪か”ではなく、“再審を行うか、否か”で、1995年の第一次再審請求から29年間も闘い続けているのです。
私たちはこれを“再審妨害”と呼んでいます。日本の再審制度そのものを改正しなければ、冤罪被害者を救うことはできません」
物的証拠もなく、知的障がいのある3人の人物の供述によって、アヤ子さんは逮捕された。
「3人は言葉をうまく伝えることができない“供述弱者”なんです。私の弟に知的障がいがあったので、その縁でたくさんの人と接してきました。知的障がいのある人は、争いごとが苦手で、ましてや取り調べで、強い口調で攻め立てられると固まってしまい、抗うことなどできなかったはずです」