北原佐和子語る「認知症専門病院で准看護士」として奮闘中。ケアマネジャー業も兼務《あの80年代アイドルの今》
ところが歌い出したら、その男性は目に涙をためて、それまで見たこともないような優しい表情をしているんです。仕事でドイツに駐在していた時期があったそうなので、当時のことを懐かしく思い出したんでしょうね。その方のこれまでの人生の歩みに触れたように思えて、何とも言えない喜びがありました」
女優業が介護に活きることも多いという。
「多くの先輩たちに教えていただいたことが、実は介護の仕事でも生きてることはいっぱいあります。以前、演出家の先生に舞台上で『ここは消えてくれる?』って言われたことがありました。当時は意味が全くわからなくて。一晩考えて、舞台に立っていながら、微動だにしない自分を演出してみたんです。そしたら、『消えてるよ。
OK』と言われて。
介護の現場では、その利用者さんとトイレに入る必要性がある時があります。排泄に必要なサポートをするわけなんですけど、トイレに他人が入るって恥ずかしくて、なかなか受け入れられることではないですよね。だけど、入らなきゃいけないってなった時にどうしたらいいかなって最初はすごく悩みました。自分だったらとっても嫌だったので。ここで、“あ、そうだ。舞台で演出家に『消えろ』って言われたな”という記憶を活用してみようと思って、トイレの中で気配が“消えた”んですね。