2021年9月7日 12:00
息遣いまでリアル。群像劇・四谷怪談をシネマ歌舞伎で。
(c)松竹
歌舞伎の怪談ものといえば何といっても『東海道四谷怪談』。夫・民谷伊右衛門に見捨てられ非業の死を遂げたお岩さんが夫やその周りの人々を祟るドラマを横軸に、『仮名手本忠臣蔵』を縦軸に織り上げた人気演目だ。これを新たに串田和美による演出で、時代や社会に取り残された市井の人々の群像劇ととらえなおしたのが、2016年に上演された第十五弾渋谷コクーン歌舞伎『四谷怪談』。歌舞伎座でおなじみの『東海道四谷怪談』とはまたひと味もふた味も違う作品となっており、9月24日から公開されるNEWシネマ歌舞伎として収録されているのもこの『四谷怪談』だ。
渋谷・コクーン歌舞伎といえば記念すべき第一弾の演目が『東海道四谷怪談』。十八世中村勘三郎が中心となり客席を大いに沸かせたのが思い出される。第七弾では、南番と北番それぞれ全く切り口の異なる演出で日替わり上演された。今回収録されている第十五弾は、観る側の深層心理にまで食い込んでくるインパクトを持った北番をさらに発展させた作品で、タイトルも『東海道』が取れて『四谷怪談』。
お岩さんの祟りのエピソードだけではなく、それぞれの登場人物を一人ひとり深く掘り下げ、彼ら/彼女らが江戸の町の辻々で息づいているのがリアルに伝わってくる、そんなドラマに仕立てられている。