2023年3月29日 18:00
全公演ソールドアウトしたバンド最大規模のアリーナツアー クリープハイプが見せた“普通”の凄み――3月11日に行われた初日の模様をレポート
もしかしたらもっと前に実現できていたかもしれない。けれど、今じゃないとダメだったのだ。あふれんばかりに満員となったアリーナで、声を出せて、普通にライブを楽しめる環境が整ったこの時を置いて他に、あの時と接続するタイミングはなかった。
小川 幸慈(Gt.)
席につき開演を待っていると、ラベルの「ボレロ」が流れているのに気づく。ひとつのリズムとふたつのメロディが糸をより合わせるように太く大きくなっていき、オーディエンスのざわめきを飲み込み始めた時、音楽がぴたりと止み暗転した。そしてしばらく何も起きなかった。その闇の中でオーディエンスの歓声と拍手だけが響いていた。いつも通り特にSEのないクリープハイプのライブの始まり方と言えばそれまでだったが、拍手と歓声が埋め尽くしたその瞬間、それまで感じていた断絶が塞がっていくような気がした。
ギターのハウリングとザクザクしたリフが鳴り出せば、もうあとは音楽に身を任せるだけ――1曲目は「身も蓋もない水槽」だ。〈緊急事態宣言から約3年〉と冒頭の歌詞を変えてアジテーションしていく。
小泉 拓(Dr.)
コロナ禍の3年を経て、クリープハイプの存在感は増している。