くらし情報『“痛みの記憶”を共有する、緊迫の75分 ―NODA・MAP番外公演『THE BEE』』

2021年11月12日 20:00

“痛みの記憶”を共有する、緊迫の75分 ―NODA・MAP番外公演『THE BEE』

実直であるほどにユニークかつ不気味、そんな味わい深い巧さが光る。さらに今回の発見はこの人、影が怖い。シルエットで恐怖を与える稀有な俳優だ。川平は、縦横無尽に様変わりする痛快さは彼の真骨頂だが、これまでの舞台では見たことのない悪の表情に驚かされた。それも、安直の狡猾から小古呂の自棄へ、違うタイプへの悪の転換が強く印象に残った。

“痛みの記憶”を共有する、緊迫の75分 ―NODA・MAP番外公演『THE BEE』


劇中で井戸を怯えさせる、タイトルでもある蜂は一体何なのか。野田曰く「ただの思いつき」だそうだが、井戸の中のわずかな正義か、倫理観か……恐怖に震える阿部の表情を見てそんなことを思う。そして蜂が封じ込められたことに安堵し、さらに激情をスパークさせる井戸の姿にゾッとする。
なのに、笑いがこぼれる。暴力シーンに嫌悪感を抱きながら、微笑んでいたりする。自分が揺らぐ、とてつもなく恐ろしい75分である。2007年、2012年に上演された『THE BEE』日本版を観劇した人が、口を揃えて「あれは怖かった、ドキドキした」と目を輝かせるのは、自身を疑った痛みの記憶が、今も鮮明にあるから。消えない痛みを与える演劇、そう考えると、やはり傑作としか言いようがないのである。

取材・文:上野紀子

『THE BEE』大阪公演 ぴあアプリ先行抽選受付中!
対象公演:12月16日(木)

関連記事
新着くらしまとめ
もっと見る
記事配信社一覧
facebook
Facebook
Instagram
Instagram
X
X
YouTube
YouTube
上へ戻る
エキサイトのおすすめサービス

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.