2021年9月4日 04:00
田中哲司×笹本玲奈、松田龍平×石橋静河 “格差”がもたらす恋の悲劇『近松心中物語』
そんな中、幼なじみである忠兵衛が、梅川の身請けの手付金のため、与兵衛に金を貸してくれと頼みに来る。
そこで鍵付きのたんすにしまってあった50両を忠兵衛へ惜しげもなく差し出す与兵衛。そのことで姑の怒りを買い、自身は家を出ることになり、忠兵衛もさらに追い詰められていくことになるのだが…...。先のことを考えないのか? いや、考えた挙句に「まあいいか」と思ってしまうのか?常にのらりくらりとした様子で、他人の頼みに“NO”と言わず、ダメな男なのに目が離せない――そんな与兵衛を松田が魅力的に演じている。
もうひとり、なんとも不思議な強い存在感を放っているのが、石橋が演じる与兵衛の妻・お亀である。与兵衛への愛情に一切の迷いも混じりっ気もなく、常に与兵衛にとっての“オンリーワン”であることを望む。古物商の娘という裕福な境遇にありながら、与兵衛が家を追い出され、さらには番所に追われる身になっても、愛は揺るがず、家を捨てても与兵衛と生死を共にしようとする凄まじいまでの“覚悟”を持っている。そんなふたりのやりとりは、いつもどこか噛み合わず、コミカルですらある。
2組の男女の間に共通して横たわるのは、善意とけがれなき愛情、そして生まれ育った境遇の違い――“格差”である。