2022年8月30日 17:30
自分の心を満たす、その答えとは? ブロードウェイミュージカル『ピピン』ゲネプロレポート
ステージ上のリーディングプレイヤーの存在感は圧倒的だ。時には優しく微笑み、時には強い言葉も口にする。それ以上に、佇まいがただ者ではない、ということが空気で伝わってくる。
リーディングプレイヤーに支配されてしまいそうなステージに、柔らかな風を吹き込むピピン。ピピンの複雑な大人へのステップアップのさまを演じる森崎ウィンがとても魅力的だ。故郷に帰ってきたときのピピンはとても無邪気で愛らしい。「戦争ってもっと名誉なことだと思っていた」し、父親の役に立ちたいと思っていた。キラキラと表情を輝かせ、心のまま、自由に行動しているようにも見える。
しかし、現実を目の当たりにし、少しずつその表情が曇る。笑顔を見せても、その視線はまっすぐ正面を向いていない。どこか、曲がりくねった道に迷い込み、先が見えず、不安を垣間見せているようにも感じられる。
純粋で無邪気だったからころの笑顔を、ピピンに取り戻してあげたい。そんなふうに思うが、こちらの想いをよそに、ピピンは大人になり、知らなくてもよかったことを知り、無邪気なだけでは生きていけないことを知る。その姿がなんとももの悲しく、心を揺さぶられる。同時に、大人にならないで、とも思ってしまう。