トロント映画祭:ヴェネチア金獅子賞『ノマドランド』がプレミア上映
ジャオは過去作品で、プロの俳優ではない、一般人を映画に起用してきたが、オスカー女優マクドーマンドが主演する今作でも、基本的にその方針を貫いている。その結果、映画は、時にドキュメンタリーを見ているような錯覚を起こす、とてもリアルなものに仕上がっている。
ファーンをはじめとするノマド(遊牧民)たちが見せつけるのは、現代社会で見逃されている、リタイアする経済的余裕のない高齢者たちの実態だ。60代かそれ以上の彼らは、働きたくても安定した雇用がなく、アマゾンの倉庫業務など、季節労働の職を求めて動き回るしかない。だが、彼らには威厳があるし、決して不幸ではないのだ。そんな彼らを、温かな目線で、敬意を持って見つめるのが、この映画なのである。
アメリカの話ではあるが、日本を含む多くの先進国では、多くの高齢者が同じような問題に直面している。それらの人々に共感を呼ぶであろう今作は、これからのアワードシーズンで健闘が期待されそうだ。
アメリカ公開は12月4日、日本公開は来年1月。
文=猿渡由紀