ヴェンダース監督・役所広司主演『PERFECT DAYS』。こんな人生もある──【おとなの映画ガイド】
毎日ある程度のルーティンワークをきちんとこなしている人なら、手を抜かず、自分に恥じるようなことはしない平山の仕事や生活ぶりに、共通点を多く見るかもしれない。
朝の光、木漏れ日、夕暮、川面をわたる風…好きなものだけに囲まれたミニマルな暮らし。こんな風に生きていくのも悪くないな、と思う人もいるだろう。
それにしても、TTTのトイレは斬新だ。槇文彦、隈研吾、安藤忠雄、伊東豊雄といった超有名建築家などの設計。なかでも坂茂のデザインは変わっている。それらの未来的な建造物(といってもトイレだが)、渋谷の喧騒、緑に囲まれた神社、通勤途上で見る交錯した高速道路、平山の住む下町、すべてが東京の現代の風景だ。
ヴィム・ヴェンダースはカンヌ国際映画祭の記者会見で「東京で撮影して小津を感じないことはない。小津の死の60年後に東京で撮影するのは特別な体験だった。細部に目を向けて日本社会の変化を描いた小津を引き継いだ」と語っている。
小さなエピソードにこめられたユーモア、音楽の選曲の妙、こだわった小道具、意外な役者の登場、平山の読んでいる文庫本の書名とか、ディテールに映画的愉しみをみいだすことができる。