そういうものをつくることができて、ようやく一人前なのだと先生はおっしゃっていました。それってすごく地味なことだし、面白くないし、あんまりやりたくないと思われがちなことなんだけど、でもそれができないと一人前ではない。あのとき、先生は『昔の考えかもしれないけど』とおっしゃっていましたけど、芝居にも通じることだなと思ったんです」
そうして続けた次の言葉にこそ、二宮和也の役者の矜持が集約されていた。
「お芝居も、大見得切って、発狂して、泣いて、人を刺して殺してみたいなのは誰にもできる。僕はさっき誰もやったことのない表現を求めがちと言いましたけど、そういうものは逆に言うと誰にでもできるんです。それよりも、ただ普通に座って、飯食って、友達と話して、人の話を聞いて、泣いている人に寄り添って、そういうお芝居の方がずっと難しい。すごく地味だし、正直そういう平凡なシーンってやっていても日々の達成感はあまりないのかもしれないけど、そういうことがちゃんとできるようにならなきゃいけないんだって、今回やっていて改めて思いました」
『アナログ』の二宮和也は、まさに何気ない日常を、ささやかに、ひたむきに生きている人間としてそこにいる。