誰かと比べ合わなくていい。中村倫也に聞く、あるがままの自分を受け入れるということ
と打ち明けた。どうやって不毛な比べ合い競争から抜け出すことができたのだろうか。
「あきらめる、ことですね。この見てくれとか声質が変わらないのと同じように、自分の発想とか、できることもそう簡単には変えられない。今、空手黒帯と戦って勝てるわけないし。そんなもんだと思うんですよ。もちろん自分を向上させていくのは当たり前としてやるべきこと。でもそれ以外のことを比較したってしょうがない。
特に僕のような仕事は、オリジナルになる仕事なんで、比べる時点で違うんだろうなと思うようになりました」
そう言ってから、最後にまとめるようにこう付け加えた。
「どれだけ人と比べて足りなくても、死にやしないんで。だったら、僕は僕のままでいいかなって」
そうやってくすっと笑った顔は、私たちのよく知る中村倫也らしい柔らかさの中に、できない自分を受け入れられるようになるまで、必死に自らと向き合ってきた足跡のようなものが混じって見えた。
その声に、その演技力に、中村倫也への大衆の熱は高まる一方だ。でも、今、多くの人が中村倫也という存在に惹かれるいちばんの理由は、彼のこうした人間性の部分なのかもしれない。
撮影/奥田耕平、取材・文/横川良明、ヘアメイク/Emiy、スタイリスト/戸倉祥仁 (holy.)