あらゆる困難を鎮めるために演劇はある 『子午線の祀り』成河インタビュー【前編】
万作先生の語りを聴いていると、情景がすべてわかるんですよ。どこにいて、どんな季節で、暑いのか寒いのか。すべて音の運びで分からせるようになっていて、それは「暑いと信じ込むんだ!」と感情をコントロールして演じるような、現代的な幼稚さからは生まれないものなんです。厳密なレシピ通りに作ってみることで、初めて見えてくる世界なんですね。さらに、以前義経役をやられた右團次さんは、万作先生とはまったく異なる華やかな語り口なので、それも折々でお借りして、いろいろブレンドしながらやっていくことで、自分の個性が徐々に出てきたようです。
本番中も舞台袖で泣いていた
――相対する知盛役で演出も担う野村萬斎さんは、成河さんの声を重視したそうですね。
甲(かん:高音域)の声とおっしゃいましたね 。萬斎さんのは呂(ろ:低音域)の声と言うそうで、知盛の呂の声に対して義経は甲の声というのが、木下先生の意図する構成とのことです。
義経は『平家物語』原文のモノローグ寄りのせりふが多いですが、それが義経の人物造形にも繋がっているので、入りやすかったです。家来たちの「ちょっと大将、こっちの話、聞いてます?あぁ、だめだわ、もう(自分の世界に)