堂本剛は「生まれ持って何かを持っている人」荻上直子監督が語る新作『まる』
その後、音楽を見つけたことで、自分を取り戻していった”と書いてあって、この映画では“自分というものがわからなくなってしまう人”の話を描こうと思ったんです」
本作で堂本が演じる男・沢田は、美大を卒業したあと、著名な現代美術家のアシスタントとして働いている。自分の作品や世界を追求することもなく、毎朝、同じ時間に起きて、自転車で職場に通い、他人のビジョンを実現させるために働き、時間になったら帰宅する。同じことの繰り返し。
しかし、ある日、沢田は通勤途中に事故に遭い腕を負傷し、職を失う。沢田は帰宅し、部屋にいたアリに導かれるように「︎〇(まる)」を描く。沢田が描いた「まる」はやがていつの間にか人手に渡り、社会に広がっていく。ギャラリーに展示され、SNSで拡散され、沢田は自分のまったく預かり知らないところで「まる」が広がっていくのを見守るしかない。やがて彼の生活のいたる場所に「まる」が侵食してくる。
本作は奇妙な寓話のように見える。偶然に描いたものが自分の手を離れてひとり歩きし、やがて自分がその存在に振り回されてしまう。これは本当に自分の描いたものなのか?自分とは一体、何なのか?沢田を演じた堂本は多くを語らず、明確に意思を表明することもしないが、その瞬間の感情がしっかりと伝わってくる見事な演技を見せる。