雨の季節にふさわしい、しっとりと優しい人間ドラマ 「六月大歌舞伎」第三部『ふるあめりかに袖はぬらさじ』観劇レポート
だった。しかし……。
何といっても玉三郎のお園の一挙手一投足から目が離せない。姉御肌でちょっとおせっかい、元吉原芸者の気風の良さをたっぷりと見せてくれる。亀遊を励ます元気のよい明るく張った高い声、座敷のお客の気を逸らさない粋で軽い語り口、そして亀遊の「伝説」を語る力強く太い声まで融通無碍だ。お園とて偽伝説を語り始めた頃はどこか力んでいたのに、攘夷党の志士たちの前で語る頃にはもはや立て板に水。そのギャップにも、時代や人の目、人の思いに流されてしまう人間の弱さはかなさがにじみ出る。
さて、話題に上りながら実際には一度も登場しないのが大橋先生だ。
攘夷論者といっても薩長の田舎侍たちではない。江戸っ子らしくて粋で吉原でもモテて、一方で熱く攘夷論を語り若者たちを鼓舞できる人物。草葉の陰から、三味線でも爪弾きながら後輩たちの右往左往ぶりにニヤリとしていそうな人……。ちなみに筆者の頭の中には、ずーっと『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助を当り役とした初代松本白鸚が浮かんでいたのだがいかがだろう。
取材・文:五十川晶子
「六月大歌舞伎」チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2214032
第三部『ふるあめりかに袖はぬらさじ』で花魁の亀遊を演じる河合雪之丞さん直撃取材した、連載「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」