宝塚で話題作連発の演出家・上田久美子が生み出す物語のオリジナリティ
子どもの頃は古臭いと思っていましたが、名曲喫茶でアルバイトをした時、1日中クラシックを聴いていて、白いご飯のようにいくら聴いても飽きない曲があると気づいたんです。その作曲家のひとりがベートーヴェンで、これほど普遍性があるのは、何か調和のとれたシンプルで確固とした美があって、それがあるから飽きないんだと思い、彼が曲を生み出すに至った経緯を知りたくて、伝記や資料を読んでみたら、これが壮絶な人生で。耳が聞こえなくなって絶望し、一度は死ぬことも考えたけれど、神から与えられた才能は自分だけの物ではないから、身体の中の音を外に出すまでは死ねない、どんなに不幸でも生きていようと思ったそうなんです。すごいですよね。そうやって作った最後の交響曲が第九で、その合唱部分の『歓喜の歌』は、今で言ったら異常に盛り上がるロックみたいな感じだったと思うんです。それを、音楽のために一切の個人的幸福を諦めた人がどうして作れたのか、ぜひその物語を書きたいと思いました」
主演のベートーヴェンを演じるのはもちろん望海風斗、望海と同時退団するトップ娘役の真彩希帆は、彼と共に歩んで互いに影響を与え合う女性の役だ。劇団屈指の歌唱力を誇るトップコンビの歌も堪能できるだろう。