宝塚で話題作連発の演出家・上田久美子が生み出す物語のオリジナリティ
は、郡上八幡を訪れた折に偶然知った、天文学好きの藩主と一揆の話に想を得て書き上げ、『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』(2017年)は、実在した主人公の姉の自叙伝と思いがけず出会ったのをきっかけに書かれた作品だ。
「いつもちょっとした時に見つかりますね。デビュー作の『月雲の皇子』も、家の近所の古墳をウロウロしていて、立て看板に“土蜘蛛”と書いてあるのを見つけ、そこから興味を持ちました。物語が好きなんですね。例えば祖父母が若い頃の話を聞いて、まるで物語のようで面白いと感じる能力は、子どもの頃にあまり刺激がない田舎で育ったので、普通の裏山だと思っていたら崩れかけた古墳だと気づいて、ワクワクしながら探検したり、“ここにお姫様がいたら”と想像したりすることで、養われたのだと思います」
他の人間なら見過ごしてしまうような何気ない物に興味を持ち、それを旺盛な好奇心で採り入れていく。上田久美子のポケットにはどれほどの情報が詰まっているのだろう。
「いえ、むしろ情報量は抑えて、何か来た時に、“わあ、楽しい”と思えるだけ飢えていたほうがいいんです。人間には本能的に、生存に有利だから1日これぐらい情報が欲しいという量があって、摂取できる情報量はカロリーなどと一緒で決まっているので、例えばザッピング的にインターネットでいろいろなニュースを見て、ジャンキーな情報で1日当たりの摂取量がいっぱいになると、家に帰って新聞や本を読む気になれないんですよ。