“アジアで一番しつこい演出家”鄭義信の新作稽古場で、南果歩、松重豊らが大奮闘
餅をつき、須美と初美がリズミカルに丸めて振る舞うというシーンから始まり、本物のつきたての餅もスタッフから用意された。南と根岸が丁々発止のセリフのやりとりをしながらも、口の中にちぎった餅をポンポンと入れていく胸がすくような食べっぷりにそこかしこで笑いが起きる。台本自体が面白いため、演出をつけずに通しただけでも楽しく観られるのだが、ここからが“世界では2番目、アジアでは1番しつこい演出家”を自称する鄭義信の本領発揮。前述のシーンだけでも、餅をつく速度、炭鉱労働者・木下役の朴勝哲が餅をつく長さ、南が話す説明ゼリフの視線の置きどころや、根岸らしいアドリブのセリフの効果的な入れどころ、人の突き飛ばし方や突き飛ばす長さ、足の悪い成勲役の松重への歩き方指導と、細かい指摘は枚挙にいとまがない。自然な芝居の流れと間、そしてリアルな描写に徹底的にこだわり、俳優の無意識の動作をすべて生活に結びついた動作に変え、セリフと動作をしっかりと意味づける。そうした小さな指摘をひとつひとつ直すごとに、“アリラン峠”に暮らす人々の生活がビックリするほどの鮮やかさでより具体的に立ち上ってくるから不思議だ。大変なのはキャスト陣。