巨大な才能が再び輝き出す。ヴェンゲーロフの「無限」に驚愕した日。
とにかくすごいオーラなのだ。
ヴィエニャフスキの奇想曲は無伴奏で、静謐で優美な「歌」が次々と溢れ出す名曲。ヴェンゲーロフと田中晶子のヴァイオリンが描き出す、張り詰めた美しさにしばし言葉を失った。ショスタコーヴィチの小品は、作曲家の作品の中でも明るく快活な映画音楽とバレエ音楽(「馬あぶ」「司祭と下男バルドの物語」「明るい小川」)をL・アトフミヤンが編曲したもので、このレパートリーはヴェンゲーロフも大変気に入っているのだろうか。とても楽しそうな表情でクロイツェル(彼が使用する1727年製のストラディバリウス)を操っていたのが印象的だった。
超絶技巧のシークエンスが次から次へとやってくるラストのサラサーテ「スペイン舞曲」は奇跡か魔法のようだ。フラメンコを思い出す情熱的な曲で、体格の良いヴェンゲーロフが全身でリズムを感じながら、サラサーテの極彩色の魔術世界を脳裏に思い描いているのが伝わってきた。ピアノ伴奏との呼吸感も素晴らしい。
ヴァイオリン学習者であろう若いオーディエンスは、驚きの目でステージの巨匠を見つめていた。このあとに行われたマスタークラス(日本では初の試み)では、その秘密の片鱗が伝授された。