具体的な美術に頼らず、限られた人とアイテムで多彩なシーンを想起させる。小劇場ならではの演出が楽しい。また大筋とは別にカラオケ、コンビニ、実家まで。場所を変えて描かれる音の日常は、“シチュエーションあるある”の連続で。デフォルメされたキャラクターもツッコミどころ満載。さらに場面転換ではメロウにもハードにも変化するバンドの生演奏が加わり、その都度、照明が効果的に明滅する……。とにかく、あれもこれもと早口でまくし立てたくなるほどの濃密さ。瞬きの度に景色を変える、万華鏡のような舞台なのだ。
主人公を演じる中山義紘は、持ち前の思慮深い眼差しからモラトリアムな役柄がよく似合う。悶々とした前半とは打って変わり、後半は振り切った演技で惹きつけた。終盤、本音を吐露する音の姿は、恥ずかしいくらいに純粋な愛の告白にも思えたが、あなたの目にはどう映っただろう。答えは観た人の数だけ存在する。そんな演劇の醍醐味に触れられた、忘れがたい時間となった。
公演初日には早くも次回本公演『SPECTER』の上演が告知された。作・演出の末満健一がライフワークに掲げる人気ヴァンパイア・シリーズ「TRUMP」の最新作とあって、今まで以上に期待と注目度が高まることは間違いない。