海に加えて、エリーダという女性の気質、物語全体に漂う空気を強く特徴づけているのが、この地に特有の“白夜”と“フィヨルド”の存在。演者の真上から放たれる強い照明により、白夜を思わせる明るいけれど、どこか暗い幻想的な空間が生み出されると共に、時に登場人物の顔にはハッキリと陰が差す。フィヨルドも北欧の絶景としていまでは観光名所のようになっているが、氷河によって鋭く削られた入り組んだ入江は、エリーダをはじめ、登場人物たちをこの小さな町に閉じ込める装置として機能している。
エリーダを取り巻く人々を演じる共演陣もそれぞれに迫真の演技を見せる。村田雄浩が演じる夫・ヴァンゲルは彼女を優しく包み込むが、そこにとどまらず、エリーダの心の叫びを真正面から受け止めることで“答え”を見出そうとする。一方、海からやって来て彼女を連れ去ろうとする眞島秀和演じるかつての恋人はエリーダの烈しさを上回る氷河のような冷たさを舞台上で醸し出す。彼女の義理の娘たちやその教師、胸を病んだ画家といった周囲の人物も単なるエリーダの引き立て役ではなく、ひとりひとりが実はエリーダと同じ問題を抱える存在であり、19世紀に描かれた人物たちは現代を生きる我々に鋭く“選択”を突きつける。