理性を失うほどの怒りが込められたコン・フォーコの部分は、「野性的に感情をぶつけるようなところがあって、歌う表現がしにくい」と福間は言う。「24のプレリュード」ではそんな16番をピークに、独自の解釈で物語を展開するつもりだ。
「コン・フォーコに向かって音楽がどう進むのかに着目して聴くと、『雨だれ』や7番など有名曲の聴こえ方も変わってくると思います。作品の新たな魅力を見つけていただけたら」
実はこの夏、ショパンが「24のプレリュード」を書いたことで知られるマヨルカ島を訪ねた。
「ショパンは恋人のサンドや彼女の子供たちと一緒に、療養のためマヨルカ島に滞在しました。到着時の日記には、輝く太陽や、海、緑の生き生きとした美しさが書かれています。ここで回復して音楽を書こうという意欲を感じていたのでしょう。でも彼が滞在したのは雨季の冬で、その後体調を崩し結核と診断されてしまいます」
村人から疎まれ、ショパンたちはひと気の少ないバルデモサの修道院を宿にした。
「ショパンの部屋の前に立ってみると、夜だったこともあって少し恐怖を感じました。彼はここで、響く雨音と冷たい風の音を聴き、孤独や死への恐れも感じたのだろうと想像しましたね」