「それで考えたのが“その場走り”でした。しかも、足踏みではなくて、前へ進んでる走り方をしなくちゃいけない。実はこれがものすごく大変なんです」。
それほど過酷な舞台に、今あえて取り組む理由は何か。「年齢的に体力の面で、もう舞台はできないと思ってるので、その最後に、心残りのようにあったこの作品を全国に持っていきたいと思ったわけです」。そう話す倉本は今回、演出に中村龍史を招いた。「『マッスルミュージカル』を観て、面白いことを考える人がいるな、と。中村さんは、自分でダンスもなさるし振付師だから、筋肉の使い方とかフィジカルな面をよく知ってらっしゃる。
突拍子もないひらめきでどんどん冒険する人が一緒にいてくれて、刺激を受けます」。
2010年に富良野塾が閉塾して以来、富良野GROUPとして塾のOBを中心に公演を行ってきたが、今回はオーディションを実施し、全国から40名を厳選した。中村によると「個性と体力と持久力で選ばれた出演者は、単純にアスリートだったり、個性は豊かでも芝居ができなかったり。ワークショップに1年かけて、“その場走り”に耐えうる筋肉を作っています」。一方、昭和のサラリーマンが群衆で全力疾走する場面は、各公演地ごとに公募で集まった一般男性が演じる趣向だ。