懸命に生きる戦後の長崎の人々、小川絵梨子が挑む『マリアの首』
昨年の秋に、小川が長崎を訪れて撮った写真も貼られている。現存する被爆のマリアの写真もあった。長崎の方言の表や、当時のキリスト教者の習慣を書いた紙など、稽古場を挙げて全員が歴史や宗教の勉強に取り組みながら作品づくりをしていることがわかる。
演技の方向付けを俳優とともに探りながら、戯曲の解釈についての俳優からの質問に丁寧に答える小川。「今この場で起こってることを重視してほしい。想像と体感の両方に演技の軸を置くことが大事」と忍役の伊勢にかけていた言葉が印象的だった。
小川は自らも舞台上にあがり、近い距離感で俳優に動きの指示を与える。舞台に寝転がってみせたり、表情ゆたかにくるくると立ち回る様子を見て俳優陣からは時に笑いもこぼれる。
鹿の台詞がキッカケで、舞台美術が回り、転換する場面があるのだが、これまで数々の舞台で磨かれてきた鈴木の声は深く重く響き、本作を支える大きな柱としての存在感を感じた。
筆者が訪れた稽古時間には、三人の女性のひとり、峯村リエの出番はなかったが、献身的で寡黙な中にも深い情熱を持つ役どころを彼女がどう演じるのか、他の出演者を見ながら想像と期待が膨らんだ。小川に、本作のテーマのひとつである「母性」