「川瀬賢太郎が神奈川フィルと奏でる『レクイエム』」
役者は揃った。
イタリア・オペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901)は、ミラノ・スカラ座での「アイーダ」イタリア初演やパルマでの再演(1872年)を成功させた後、音楽史に燦然と輝くレクイエムを書く。生涯を通じて敬愛しイタリア統一運動にも関わった文豪アレッサンドロ・マンゾーニ(1785~1873)の死がきっかけだった。
ヴェルディは、歌劇『ドン・カルロ』のパリ初演(1867年)の直前に上演時間の都合でカットせざるを得なかった調べ、それにロッシーニ追悼の際に手がけた「リベラ・メ」(我を解き放ち給え)を甦らせつつ、創作に勤しむ。オペラ『ドン・カルロ」ゆかりの調べは、このレクイエムの主軸を成す『ディエス・イレ、怒りの日』の最後“涙の日”となった。曲はマンゾーニの一周忌を迎えた1874年5月22日に、ミラノ・スカラ座近くのサン・マルコ教会でヴェルディ自身の指揮により初演され、ほどなくスカラ座にも響く。パリ・オペラ・コミーク座、ウィーン宮廷歌劇場でも賞賛を博す。その間改訂も施された。
この上なく劇的な『ディエス・イレ』のモティーフは、もちろん聴きどころだ。オーケストラとコーラスによる、究極のドラマがそこにある。