幕切れ直前、旧弊にこだわる年寄りどもを蹴散らすような、「男気」あるふるまいもお見逃しなく。
ベックメッサーには、この役を最も多く歌っているというアドリアン・エレート。何をやらせても上手い人だ。歌自体が物語のキーとなるヴァルター役には新国立劇場初登場のヘルデンテノール、シュテファン・フィンケ。
ダーヴィットの伊藤達人、マグダレーネの山下牧子、そして豪華メンバーが揃ったマイスタージンガーの親方衆ら、日本勢の充実もうれしい。
イェンス=ダニエル・ヘルツォークの演出は、物語を現代のオペラ劇場に置き換えた。回り舞台を駆使して、劇場の客席や舞台裏、支配人室や靴工房が次々に入れ替わり、視覚的にも楽しい。ザックスは劇場の支配人。
履物係から叩き上げで支配人まで昇り詰めたのだろう。第2幕ではベックメッサーだけが中世の吟遊詩人のいでたちで現れる。意地の悪い守旧派の彼だが、それもまた演技ということか。
芸術監督・大野和士の音楽は終始ゆったりめのテンポながら常に推進力を失わない。巨匠の風格が漂った。管弦楽は東京都交響楽団。
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は12月1日(水)まで全5公演。新国立劇場オペラパレスで。
(取材・文:宮本明)