スカートを痛いほど握りしめていた。なんで、こんなところに来たんだろう。なんで、馬鹿みたいに浮かれて、自分から来てしまったのか。
将は、まだスマホから目を離さない。気楽な調子で、うるさげに、指で上へ上へと画面を追いやっている。涙が、盛り上がってきて、こぼれそうになった。
この男は、私の、失恋の記号。何度会っても、引き戻す。
私がどんなに遠くへ行こうとも、引きずり戻す。私が、みじめだった、あの頃へ。いっしゅんで、私の記憶を戻してしまうのだ。何度会っても、何度やり直しても。この男は、私の人生に落ちた、消すことのできない、黒いシミなのだ。
唯香は、苦い後悔の中で、ようやくそう悟ったのだった。
■決別、そして・・・・・・
「だから、言ったでしょ?自分を捨てた男に会うなんて、狂気の沙汰、よ」
相変わらず古臭い言い回しの好きな岬に、そう言われて、唯香は、こくりとうなずいた。
「わ!変わったかも!ってお互いが盛り上がるのは最初だけ。
ちょっと話しているうちに思い出してくるのよ。この男はこんな男だった。この女はこんなところが苦手だった、って。
そういう目で見られたらこっちだって、元の自分に戻っちゃう」