唯香は、目をそらした。なんだか、急に現実に引き戻され、1枚1枚、虚飾をはぎ取られていくような気がする。
「そうだったっけ?あんまり、覚えてないな」「あー、そうだな。俺もなんか覚えてないんだよ」将は、考え込む仕草をした。
「そもそもさ、俺たち、なんで別れたんだっけ?」「え・・・・・・?」「ぶっちゃけ、いつ別れたのかも、よく分からないっていうか。なんか気づいたらフェードアウトだったじゃん?」
唯香は、指先が冷たくなるのを感じた。急激に、頭の中が冷めてくる。
別れたのは、3年前の6月だ。
忘れもしない、会社の創立記念日の翌日。将が黙って合コンに行った次の日の夜だ。将の部屋で、唯香は大声で泣き叫んだ。そのままぷっつり将から連絡はなかったし、唯香も、連絡をしなかった。それが決定的な別れの日になった。
フェードアウトなんかでは断じてない。将は、ふっつり黙り込んだ唯香に気づくこともなく、悪気のない笑顔で、スマホをいじっている。
「あ、ごめん。
ちょっと未読溜まってたわ。いっしゅん返していい?」
唯香にとっては、3年間忘れられなかった、別れの日。あんなに鮮明に覚えているのに、将にとっては、記憶の片隅にも残っていないのだ。