そして、また数か月後、亮平は仕事でもなく、たった3日間の休暇を使ってパリに姿を見せた。
その時は、2人で、パリのレストランで食事をした。久しぶりに、日本の様子を聞いたりしながら、ゆっくりとした時間を過ごした。
相変わらず亮平に対する気持ちはもう残っていなかったけれど、何度も会いに訪れる情熱にほだされつつあった。
だけど、別れ際に、抱きすくめられ、キスをされそうになったときは、あわてて身をよじって逃れた。やはり、そういう気持ちにはなれなかった。
それでも亮平はめげることもなく、「次は日本で」と言い残し、笑顔で去って行った。
■バラの花とメール
1年の約束だったパリでの生活は、春の訪れとともに終わりを告げた。
最後の1週間は、現地で仲良くなった人々との別れの会で埋め尽くされ、引越しの支度やお土産の準備で、あわただしく過ごした。
「最後に、もう一度会えない?」と、マサシに送ったメールには、やはり返事はなかった。シャルル・ド・ゴール空港から日本へ発つ飛行機の時刻だけを、メールに送った。
あの夏の日は、もうずいぶん過去のことになりつつあった。だけど、忘れた日は1日たりともなかった。