祐二は、ちょっと苦笑した。彼女が別れをすんなり受け入れたのが、よほど肩透かしだったのだろう。残念そうに言っているのが、ほんの少しだけおもしろくない。
「でさ、最後にひとつだけって言って、お願いされたんだけど。」「何?」「1か月にいっぺんでいいから、会ってくれって。」「えーっ、何それ?」
夏花は、キレイな眉を寄せて思わず呆れた声を出した。
「いや、別に、向こうの気が済むまででいいからって言うんだよ。会ったからって、よりを戻そうとかも言わないしって。友達として会ってお茶するだけでいいからって」
祐二は夏花の機嫌を取るように言う。夏花は、なんだかモヤモヤとしたものを感じた。
今まで思いもはせたことのない、“向こう側の彼女”だったが、初めて姿を持って見えて来そうな気がして、必死で頭から振り払う。祐二は、夏花の手を握って、甘えるように言った。
「大丈夫だよ。俺の気持ちは、もう彼女にはないよ。わかってるだろ?約束通り、別れてきたんだから、ね。俺と付き合ってくれるよね?」
それを聞いて、夏花は、ふっと笑顔を浮かべた。
そうだ。この男は、自分のもの。
過去の女が、どんなに未練がましいことをしようが、彼の心は動くわけがないのだ。