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緑と建築の融合最寄りの駅から、高木のユリノキが彩る並木道を歩くこと10分。一本裏に入った住宅街に、建築家の新井崇文さんの自宅兼アトリエがある。建てたのは10年前。建物正面に施した木製ルーバーには程よくツタがからまり、エクステリアの植栽とともに涼しげな空気を放っている。「建てた当初は板塀だけでかたい感じでしたが、10年経ってツタや植栽が育ち、いい具合に緑と建築が融合してきました」高低差があり、東西には隣家が迫っている敷地。プライバシーの確保と開放的な空間を両立させるために、建物はL字型にし、西側には独立壁を設けた。南側の道路からの視線は木製ルーバーでカット。周囲からの視線を気にすることなく、ゆっくり過ごせる中庭が生まれた。道路側からの視線をカットするために設けた木製ルーバーは、縦、横に変化をつけた。程よくからまったツタが涼やかな印象。左側の独立壁は、西側の隣家からの視線をカット。中庭からリビング・ダイニングを見る。建物に沿ったL字の軒天はベランダ下で、スギを採用。壁の一部にボリュームをもたせ、戸棚状の収納を設置。キャンプグッズや園芸グッズを収納。自然を感じる“外の部屋”「中庭を“外の部屋”みたいに使いたかった」と話す新井さん。中庭に面するリビング・ダイニングには大きな開口を設け、建具も引き込み式にし、床レベルもデッキスペースとほぼフラットにした。カーテンやブラインドは使用せず、フルオープンにしているため、ふらっと中庭に出ることができ、気軽に楽しめる外空間となった。デッキスペースが4畳、周辺含めて12畳ほどという中庭。「これを部屋のように使うと、30坪ほどの家がそれ以上の広がりを感じられますよね。花が咲き、実がなれば鳥がくるし、風が吹けば草木の音がし、木洩れ日も揺れる……。自然のいろいろな変化が感じられる贅沢な部屋です。自然に癒されて、全く疲れないため、何時間でも本を読んでいられますね」中庭に面する建具は全て木材を使用。右側の壁は耐震壁で、建具がすっぽり収まるサイズにした。リビング・ダイニングからフラットに続く中庭。気軽に出られるため、仕事の合間のコーヒーブレイクも外で過ごすことが多いという。直径140cmの大きめな円卓は家具屋にオーダーしたもの。椅子はYチェアをはじめハンス・J・ウェグナーの作品をデザイン違いで揃えた。通風を考えて設えた南側の窓。視線をカットしながら風を通す、スダレを入れた扉窓を採用。中庭までのアプローチの途中に小窓を設けた。植物などを飾り、ゲストを迎える。リビング・ダイニングは和モダンな雰囲気。障子から差し込む光もまた美しい。非日常を呼び込むアプローチ住宅街でありながら避暑地にでも来たかのような錯覚をしてしまう新井邸。リビング・ダイニングから眺める豊富なグリーンの視覚効果はもちろんだが、道路から中庭、玄関までのアプローチにもその秘密がありそうだ。駐車場脇の青々と美しい植栽に沿って進むと、階段があり、数段昇ると左に折れ、絞られた空間のゲートが現れる。そこを抜けると中庭が広がり、右へ折れて数段昇るとデッキスペースへ……。左右に曲がり、段差や空間にメリハリをつけたアプローチにより、先のよめないワクワク感が非日常を呼び込んでいるようだ。植栽に沿っておかれた枕木が入り口へと導く。大谷石を敷いた通路の先にゲートが。宅配便などの受け渡しはここで行う。ゲートを入り、右に折れるとデッキスペースへ。天気の良い日は家族で食事をすることも。「グリーンが育ち、木陰が増え、以前よりも過ごしやすくなりました」菜園デッキで育てた野菜を食卓へ1階はリビング・ダイニングに加え、キッチンや新井さんの仕事スペースであるアトリエまでつながったワンルーム。カラマツの無垢の床や砂漆喰の壁・天井など、自然素材を生かした仕上げが心地よい。また、新井邸には独立した玄関がない。「かつて親しいお宅に行くときに縁側から入っていましたよね。そんなフランクな感じにしたかったので、中庭経由でリビング・ダイニングに入れるようにしました」玄関もLDKの一部として使用することで、ワンルームがさらに広がりを感じ、中庭との一体感も高めた。中庭に隣接した菜園デッキは、安全な食材へのこだわりから設けられた。「料理に使うもの」を中心に季節の野菜や果物をご夫妻で育て、収穫し、旬の味を楽しんでいる。「中庭や菜園デッキには、日本の気候で無理なく育つ植物を4、50種類植えています。四季を身近に感じ、緑や光、風など自然の恵みを取り入れた豊かな暮らしを大切にしていきたいですね」独立した玄関は設けず、中庭からそのままリビング・ダイニングへ入ることも。右奥には対面キッチン、左奥は新井さんの仕事スペースがある。新井さんも立つことが多いというキッチン。サンワカンパニーの白い換気扇が可愛らしい。新井さんが最も気に入っているというキッチンからの眺め。「キッチンは中庭を眺める特等席ですね。気持ちよく料理ができます」(写真/ご本人提供)段差を設けておこもり感を加えた新井さんのアトリエ。段差を利用し、デスク下の奥まで続く収納を設置。クラシックのCDがズラリ。玄関をLDKと一体とするために、収納をしっかり設け、靴や傘など全て納めた。駐車スペースの上に位置し、中庭に隣接した菜園デッキ。しそやきゅうり、カボチャ、トマトなど季節の野菜や果物を育てている。「植えるのは妻で、使うのは私です(笑)」。2階のバスルームからも中庭が楽しめる。内装は水に強いサワラの木を採用したハーフユニットバス。5,6年前からご夫妻で作っているという自家製みそ。2年、3年と熟成しているみそもある。4歳から習っていたというヴァイオリン。現在は月に数回しか弾かないそうだが、眺めのよいこの部屋で弾くのは格別。新井邸設計新井アトリエ一級建築士事務所所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積99.28㎡
2020年07月20日買い替えを考えていたMさん一家が11年前に購入した建売住宅をリノベーションして住み直してから1年ほど。Mさんは全面的に刷新された室内空間にとても満足しており「言うことなし」というが、当初は買い替えて別の場所に引っ越しをすることも考えていたという。しかし、映像系の仕事をされているMさんの友人たちがそれぞれ好みに合った家を建て始めたのを見て、自分たちにも同じことができるのではと考え直すことに。さらに、都心で生活がしやすいことに加え、ゆくゆくは夫婦2人だけで住むことを考えたら現状のサイズ感がちょうどいいと判断。また、奥さんが素敵にリノベーションされている家をネットで見つけたこともあり、買い替えでも建て替えでもなくリノベーションすることを決めたという。Mさんは「リノベーションでわれわれの気に入るようなものにできるとは思っていなかったんですが、妻が見つけた家がとても良い感じで仕上がっていたのでこれは可能性があるかも」と思ったという。設計は奥さんがネットで見つけた家を手がけた建築家の比護さんに依頼。そして、まず最初に現状でぜひとも改善したい点を伝えた―――「生活動線が良くない」「1階が暗くて洗面所とお風呂が必要のあるとき以外は行きたくない場所になっている」「バルコニーの床が腐ってきている」等々。壁は時間が経って味わいが出るよう漆喰仕上げに。天井も同じ意図から濃いめの色に塗った。3つのハイサイドライトデザインのテイストに関しては他の作品も含めて気に入っていたので比護さんに多くをお任せするかたちになったが、上述の改善点のほかに「居心地が良くて生活がしやすい」、さらに「時間が経って“くたびれ感ではなく味わいが出るような家”にしたい」(Mさん)と伝えた。どのように変えたのか2階部分を順に見ていこう。「もっとダイナミックに開く予定だった」と比護さんが話すのは南側につくられたハイサイドライトだ。予算の関係と暑さを心配して大きめの窓を3つつくることに落ち着いた。以前は同じ南側上部にロフトが設けられていて部屋に圧迫感を与えていたが、今はその部分に木の骨組みだけが残り、新たに開けられた窓から差し込む光が室内に十分な光を供給している。ロフトのあった部分に木の骨組みが残る。南側の上部には3つのハイサイドライトがつくられた。キッチンの奥に立つ壁の家型がとても印象的。キッチンのカウンターは映像系の仕事をされている奥さんの仕事机、子どもたちの勉強机としても使用される。右奥の洗濯スペースと浴室とキッチンがこのカウンターを中心に回遊できる。2階を特徴づける2つの壁と浴室2階で特に目を引くのが家型の壁だ。開口の上部がアール状になっていて柔らかな印象を与える。構造上必要なこの壁が家型のデザインに落ち着いたのは設計の途中段階だったという。「思っていた以上に家型のイメージが強くなりましたが、ハイサイドライトを設けた南側を空が見えるエリアにしてそれを隅のほうにまで通したかった。それで北側の天井と同じ勾配にして東側まで抜けるようにしたら結果的に家型になったということで、アイコンとして強く見せるという意図はありませんでした」(比護さん)この家型の壁の背後に鮮やかな青色の壁が見えてこれもまた2階の空間を大きく特徴づけている。この東端の壁は1階でも青色に塗られているが、これには同じ色に塗ることで1・2階の壁がつながっているかのように感じさせたいという意図があった。さらに2階に比べ1階が暗めだったので奥に鮮やかな色を見せることで楽しい雰囲気に変えることも狙ったという。1階にあった浴室は2階の東端にすえた。以前は浴室が使用時以外は誰も行かない無駄な場所のようになっていたため、使っていないときは空間の一部として中庭のような存在にできたらと、ガラス張りの部分をつくって南側のハイサイドライトから入る光によって光庭のようにも感じられるものとした。洗い場部分が広くとられた浴室。昼間はハイサイドライトから入る光で光庭的な役割も果たす。南側のハイサイドライトから浴室へと光が差し込む。浴室前から奥にリビングを見る。キッチンから見る。奥の右側に洗濯機が置かれている。キッチンと本棚家型の壁の手前にあるのがキッチンスペースだ。最初につくられた家の模型を見て「お母さん、これなら大丈夫だよ」と娘さんが家事動線に太鼓判を押したというが、浴室、洗濯スペースとキッチンが回遊できるつくりにしたのは奥さんが仕事をしながらこなす家事の大変さを考えてのことだった。子どもたちの様子を見ながら仕事ができるように、キッチン周りのプランも検討が重ねられたという。そのキッチン近くから反対の端にかけて北側の壁に棚がつくられているほかこの家の各所に棚がつくられている。これらの棚は「おしゃれなモノをたくさんお持ちだったので、モノを楽しめるベースをつくる目的で考えられたもの」という。本棚に関しては「本もたくさんお持ちだったので本が楽しめてかつそれが生活とちゃんと重ねていけるように家の中のいろんなところにたくさんつくりました」(比護さん)。北側の壁の横幅いっぱいにつくられた棚。既存の窓と同じ高さに揃えるなどの工夫がなされている。奥さんの友だちに大好評というキッチン。作業をしながらお喋りと飲食を楽しむことができる。以前よりも生活のクオリティが上がったというMさん。「住みやすくて愛すべき家にしていただいた」とも。奥さんは「寝室も気持ちいいし1階にいる時間が増えて以前のように下に降りるのがいやではなくなった」という。ともに映像関係の仕事に携わるMさん夫妻。家から生じるストレスが解消され、「言うことなし」の状態になった現在、クリエイティブな仕事には「心を良い状態にしておくことが大事」というMさんは、奥さんとともに日々の生活の充実にとどまらず仕事への好影響を感じ取っているようにうかがえた。2階の床に開けられたネコ用の穴。青い壁が1・2階とつながっているのがわかる。グリーンの架けられたバルコニーの壁は外からの視線の遮りと内部からの抜けの両方を考慮してこの形になった。東側奥の青い壁にネコ用の階段がつくられている。玄関近くから奥(東側)を見る。床にはコルクが貼られている。映像系の仕事をされている奥さんのワークペース。壁のコーナー部のアールが左右の空間を柔らかにつなげて広がり感を出している。手前が子ども部屋で奥が主寝室。ガラス戸にしたため暗かった玄関が明るくなりまた街とのつながりも感じられるようになった。以前は階段を上がってすぐ玄関だったが、階段を道路側に少し延ばしてつくり直した。階段室が壁で囲われて扉がありまたキッチンスペースが囲われていた以前の状態と比べると、見違えるほど開放的で明るくなった。奥さんはソファに座ってハイサイドライトから見える雲の動きなどを眺めてぼーっとして過ごすのが好きだという。M邸設計一級建築士事務所ikmo所在地東京都目黒区構造木造規模地上2階延床面積86.21㎡
2020年07月15日鮮やかな緑に覆われた住まい多摩川からほど近く、自然の趣きが残る東京・世田谷区の住宅地。鮮やかな緑のツタに覆われた外観が印象的なこの家に暮らしているのは、デザイン会社「nakanaka graphic」を営むグラフィックデザイナーの中川寛博さんと同じくグラフィックデザイナーの岸恭子さん、そして小学6年生のご長男。この家が完成したのは2015年。設計は、中川さんが学生時代に知人の紹介により知り合ったというキューボデザイン建築計画設計事務所の猿田仁視さんに依頼した。「シンプルなデザインを求めていたので、当初は外壁も単純に真っ白のイメージをしていました。ですが、白い壁だと雨だれで汚れてしまう、と猿田さんからアドバイスをいただいたので、それならば、と以前から憧れを持っていたツタのある家にしたいと思いました」(中川さん)。中川さんの要望により、家とコンクリートの間にはツタを植えるための土のスペースをつくった。完成当初は真っ白だった壁も、4年後には屋根まで届くほど成長したツルが壁面を這い上がったという。5年がたった今では白い壁が見えなくなるほどに緑で覆われている。「ツタの種類はオオイタビという常緑の植物です。最初は、うまく成長するか不安だったのですが、思い描いていた形となって嬉しいです」(中川さん)。建築家・猿田さんより「GREEN WALL」と名付けられた中川邸の外観。もともとは真っ白い壁だったが、竣工から5年が経ち、緑に覆われた完成形となった。玄関を入って、左を向くとホールとなっている。突き当たりには水回り、左には寝室がある。北側にあたる右の階段の側壁には大小さまざまな窓が設けられ、外壁に挟まれた中庭からの光が取り込める。階段下にある作り付けの本棚と机。仕事や勉強、あるいは趣味の場として使用している。階段を上がった先にある個室は、現在在宅ワークをしている岸さんの仕事場となっている。将来的にはご長男の勉強部屋として活用する予定。柔らかな光で満ちた心地よい空間以前は、今の住まいの近くのマンションで暮らしていたという中川さんご一家。ご長男が小学校入学のタイミングで家を建てようと考えていたという。「まずは土地を探し始めたのですが、なかなか良い土地と出会えず、一度は探すのをやめていた時期もありました。そんなときに近所の土地を散歩がてら探していたら、ちょうど良いこの土地が見つかりました」と中川さん・岸さんご夫妻。家づくりにあたり、建売の物件やハウスメーカーも訪ねたというご夫妻だが、自分たちの理想の住まいを追求するべく、建築家の猿田さんに依頼することになったという。「風致地区ということもあり、さまざまな制約があるなかで猿田さんが最初に提案してくださったのが、北側に外壁と挟んだ中庭のあるプランでした。制約や狭小という性質の中で、最大限に光を取り込む配慮をしていただいたので、この最初のプランから、ほとんど変更せずに現在の形となりました。北側採光なので部屋に入ってくる光が柔らかくて、すごく心地が良いです」(中川さん)。内観については、白を基調としたシンプルな空間を希望していたご夫妻。色味のバランスや窓の位置など細部まで打ち合わせを重ねて、コンパクトながらも必要な要素をしっかりと詰め込んだ理想的な住まいを実現させた。「窓からはあんまり外の家が見えないので、目線が気にならないところがすごく落ち着きます。中庭があることによって、閉じつつも開放感があるのが、この家の特に気に入っているポイントです」(岸さん)。中2階ともいえるL字型のロフト。ご長男の寝室から、ご夫妻の趣味のスペースへとつながっていく。作り付けの棚には本がずらり。同じく作り付けの机は、主に岸さんの裁縫スペース。正面からは1階全体を望むことができる。反対側には、中川さんのレコードコレクションが並ぶ。2階のリビング。北側の窓から入る光と、奥に見える天窓からのたっぷりの光によって、居心地の良い自然な明るさで満たされている。右手前にある階段を降りるとロフトへ通じる。キッチンの配置やカラーリングは、岸さんと猿田さんが相談して決めた。手前の作業台は、窓を出窓にすることで生まれた。中庭へ出るベランダは、中川さんのお気に入りの場所。変化を楽しむ暮らし主に本や雑誌の装幀のデザインをしている中川さん・岸さんご夫妻。昨今の新型コロナウィルスの影響により、現在は在宅で仕事を行なっているという。「もともと外で仕事をしていたのですが、子どもを見ることもできるので結果的に良かったと思っています。在宅ワークでも、気持ちの良い光が入ってくるので、1日中ストレスなく過ごすことができています」と話す中川さん。岸さんも「最初はくつろぐためだけの家でしたが、今は仕事場という面も持つようになりました。この先も、家がどう変化していくか楽しみです」と笑顔で語る。はじめは真っ白だった外壁が、時間をかけて緑に覆われたように、経年変化を楽しんでいく住宅として設計された中川さんご一家の住まい。「これからはツタに花を加えて、表情を変えられればなと考えています」と中川さん。変化を楽しむご一家の豊かな日々がこれからもこの住まいで紡がれていくことだろう。手がけた仕事には、ワインカタログやワインラベルのデザインも。額縁に飾られているポスターは、ワインの産地が描かれており、デザインは中川さん、イラストは岸さんが担当した。一時期、石集めがマイブームだったというご長男の石コレクションが飾られている。ご長男がお小遣いで購入したという“ニュートンのゆりかご”。1階の水回り。浴室と洗面を仕切るガラス窓によって、視線が抜ける開放的な空間に。1階にあるご夫妻の寝室。壁には小物を置くのに適した作り付けの棚が設置されている。バスルームのモザイクタイルは、建築家の猿田さんより提案されたという。「最初は真っ白のタイルを考えていましたが、このモザイクタイルはデザインも良くて、何より汚れも目立たないので、今はこのタイルを選んで良かったと思っています」(中川さん)。浴槽からは中庭を望むことができる。「窓からの景色は緑のトンネルみたいでとても綺麗です。夜には月を眺めることもできるんです」(中川さん)。週に1回は、高枝切りばさみを使い、緑の手入れをしているそう。「油断すると、すぐボウボウになってしまうので手入れが大変です」と中川さん。
2020年07月13日曜日と時間で使い方が変わる1階井の頭線池ノ上駅からほど近い、線路の土手に面して建つ建築家の江頭 豊さんの自邸は、フレキシブルに人と人をつなぐ装置として設計されている。一家4人で夕食を囲む自邸の1階『DOTEMA』は、平日の昼間はコワーキングスペース、週末はワークショップやキッチンスタジオ等のイベントスペースにもなる。そして同じ敷地内に、4戸の賃貸ワンルームも併設している。豊さんは朝食を1階のカウンターでゆっくりと摂るのが日課なのだそう。「子どもたちがバタバタと2階で朝ごはんを食べている間に、僕は1階で優雅にコーヒーなど楽しんでいます(笑)。家族で1階で夕食をとったあとは、そのままここでお酒を飲んで、プロジェクターで映画を楽しむことも多いですね」平日はノートパソコンを広げて仕事もする。まさにひとつの空間の使い方を臨機応変に変えているのだ。外のデッキスペースは、1階の土間からシームレスにつながっており、イベント時の交流の場となったり、賃貸の住人達との交流の場になったり、近くの子どもがやって来てブランコで遊ぶ。自在な使い方ができる“間”が、人と人との関係を紡ぎ、豊かなコミュニティを創造している。カフェのようなお洒落な空間だけれど、自宅のリビングでもある。棚いっぱいのCDとレコードは豊さんのコレクション。キッチンのカウンターの並びにはターンテーブルも。ブルーのタイルが空間に色を添えている。カウンター下のガラスタイルも美しい。照明器具は、ひとつひとつ違う場所で買い集めたものだそう。天井の6面体のスピーカーが空間全体に良い音を響かせる。天井の照明用レールに渡した小さな粒つぶのLEDライトが可愛い。オールステンレスの本格的なキッチン。将来、飲食店としても活用できるように、ダブルシンク、大型食洗機の設備を整えた。カウンターはグルリと回遊できるので、子どもたちはキックボードや自転車でグルグル回って遊ぶのがブーム。書籍は自由に手にとって閲覧できる。1階には小上がりも(手前)。「1段高い場所はイベントの際にステージとしても使えます」。プロジェクターも設置。トイレの鏡には女優ライトが。「既存の照明器具を6つ配置しています」。2階の洗面所の鏡も同様の仕様。4戸の賃貸住宅を併設自邸の隣は4戸の賃貸住宅になっている。江頭さんの以前のお宅は、賃貸住宅があった場所にあったのだそう。「家の隣に空いていたスペースを買い受けて敷地を広げ、現在の家を作りました」ウッドデッキは、江頭さん家族、賃貸の住人、そして『DOTEMA』を利用する方の共通の庭。賃貸の住人たちとここでバーベキューを楽しむこともあるのだそう。ガルバリウムを平葺きした外観。手前の4戸がワンルームの賃貸住宅。現在は満室。敷地の奥が自邸と『DOTEMA』。ウッドデッキではバーベキューを楽しむ。コンクリートの擁壁はコの字に曲げてベンチとして使えるようにしている。賃貸の4部屋は、それぞれ壁の色が違う。1階はモルタルの土間があり、2階の部屋はロフトが付く。1階は、週末や夜間、ガラリと雰囲気を変える。1階には豊さんの仕事部屋も。ステンシルを使い番号をDIYしたロッカーは、コワーキングスペースを利用する方に貸し出している。2階の自宅部分はくつろげる雰囲気に2階は家族のプライベート空間。針葉樹合板の木目を活かした、ナチュラルでリラックスできる雰囲気の第2のリビング。交流の場である1階の『DOTEMA』とは違った魅力を楽しめる。窓からの眺めも、1階は線路の緑の土手を、2階からは風景の広がりを堪能できる。天井高を活かし、ロフトを造っている。普段使わないモノや、季節の衣類を収納している。右側の引き戸を開けると、2階への階段が現れる。1階をパブリックな使い方をする場合に、この引き戸でプライベートな住居と分けている。2階のリビングはたっぷりとした天井高。針葉樹合板の壁がくつろげる雰囲気。2階の窓の外は大きく開けていて眺めがいい。「遮る高い建物もないので、遠く三軒茶屋のキャロットタワーも見えます」下駄箱は2階に。靴を横向きに並べてディスプレイするように収納するスタイルは、靴のデザインを楽しめる。靴好きなら真似したい方法だ。2階にはロフトも。ロフトは白に塗装。収納として利用している。晴くんと優ちゃんの勉強はリビングで。愛想のいい猫のララちゃんが乗っているカウンターテーブルは、子どもたちと一緒にDIYしたのだそう。扉のないシームレスなリビング寝室とリビングの間は扉をつけず、シームレスな空間に。寝室の傾斜のある天井は巣ごもり感たっぷり。ゆっくりと朝まで熟睡できる。「今はベッド2つ並べて4人川の字に寝ています」子どもたちの成長に合わせて2階の空間も、そして1階で育む人々との絆も、変化しながら豊かに成長していくに違いない。右側がリビング、左側が寝室。扉はつけず、壁でゆるやかに仕切っている。水道管で作ったラックに家族の服を収納。この家と広場の模型は7歳の晴くんの作品!「建物が好きなようで、ゲームの『マインクラフト』でもカッコいい建築を作ってますね」と建築家のお父さんは目を細める。視線が抜ける柱の向こうが2階のミニキッチン。主に葉月さんが使っている部屋。将来は子ども部屋にすることも可能。「バスルームは換気を良くしたかったので、ベランダに面した場所に作りました。目隠しのために柵を高くしています」洗濯機が一段高い位置にあるのは、この下が2階に上がる階段になっているため。「洗濯物を出し入れする際、腰をかがめなくて良いので楽です」江頭邸設計江頭 豊(DOTEMA)+越浦太朗建築設計事務所所在地東京都世田谷区 構造木造規模地上2階 延床面積195㎡
2020年07月06日絶好のロケーションに立地「家まで続く石畳の階段を上がるところから、ワクワクしてくるのを感じました。玄関を入った瞬間、“もう、ここに決めた!”と思いましたね」と笑う、小物デザイナーの溝江里映さん。葉山の賃貸の戸建てから、同じく葉山の山の中腹に建つ一軒家へ。1〜2年かけて探し、理想の中古物件に出会った。「窓の向こうに広がる街や山の景色に、毎日癒されています」。山の傾斜に沿って建つ家は、玄関レベルからスキップフロアで上がったところにLDK、降りたフロアに溝江さんの作品を展示したギャラリーや、ベッドルームなどが。光を取り込むかのように、どの方角にも開口が設けられ、その向こうに広がる景色は、自然と一体になれる感覚を与えてくれる。吹き抜けのあるリビング。別荘風の開放感のある造り。キッチン台に腰壁が設けられた、アイランドキッチン。無垢のメープル材を使ったダイニングテーブルは、岐阜の「RITON」に出向いてオーダーしたもの。LDKの洗面からバルコニー側を眺める。開口がたくさん設けられ、どこにいても外とのつながりが感じられる。玄関を入ると現れる風景。向かいの山へと抜けるよう。家の前の小径。緑いっぱいの階段を登って辿り着く。住み継がれた家をDIYで「これまでに何組か家主が代わり、少しずつ手が加えられてきたようなんです」。ロフトのある別荘のような雰囲気の築40年程の家。住み継がれた家に、さらにDIYでアレンジを施した。「白い家にしたかったので、床や壁を塗装しました。白は作品が映える色なんです。でも、ただまっ白にするだけではなくて、オフホワイトやベージュなど、グラデーションをつけています」。キッチンカウンターも白く塗装。シンプルな空間に、窓の外の庭の緑や、溝江さんが選んだ器や雑貨が映える。「リビングでは家族がいつもゆったりと寛いでいます。夜、バルコニーに出ると星空がきれいで、天体観測も楽しめますよ」。正面には緑の深い山。その上には抜けるような空が広がっている。キッチンに立つ溝江さん。器などは「アンティークの雰囲気のある作家もの」を集めている。インスタグラムで自然に寄り添う葉山での暮らしを紹介。仕切りのない空間が開放的。白のグラデーションが陰影を与える。ロフト部分は吹き抜けに。光が四方から取り込まれ、どこにいても明るい。お気に入りのコーナー。Yチェアにゆっくり腰かける時間も楽しみ。チャーチチェアなど、1脚1脚違うイスが味わいを出している。光が差し込むギャラリーリビングに隣接した部屋は、床の一部が抜かれており、下のギャラリーまで吹き抜けになっている。「もともとこうなっていたのですが、ギャラリーに光が届けられるのが良かったです。お茶を嗜んでいるので、いずれは床を設けて畳を敷き、茶室にするのもいいかなと思っています」。はしごを上がるとロフトへ。そこには眺めのいい小さな空間が用意されている。「ロフトでは本を読んだりお昼寝をしたり。下にいる家族の様子を感じながら、ひとりの時間をゆっくり楽しむことができますね」。床板がはずされているリビング横の部屋。アンティーク雑貨やアーティストの作品をあしらって。上からもギャラリーを楽しむことができる。はしごを上がって秘密基地のようなロフトへ。ひとりの時間を過ごせるロフト。好きな作家の本などを。ロフトからの眺め。色々な居場所が用意されている。自分の表現をカタチに溝江さんの作品を集めたギャラリーは、白い空間にアンティークの家具や雑貨が彩りを添えている。「リビングなどがリラックスする場なのに対して、ここは自分の頭の中を表現する場なんです。空間のアレンジにもこだわりました」。枯れ木を使ったオブジェなど、ひとつひとつが絵になる美しさ。「どの部屋もDIYで塗装したりして、自分たちで手を加えましたが、洗面所だけはリフォームをお願いしました。いちばん自分をリセットしたい場所なので、特にこだわりたかったんです」。白を基調にしたシンプルな空間の中で、照明やドアの取っ手などには真鍮をアレンジ。さり気ないこだわりが隠されている。「ステイホームになる以前から家にいる時間は長いのですが(笑)、旅行に行くよりリラックスすることができます。好きなものに囲まれて、仕事もプライベートも満たされていますね」。パリのエスプリを感じさせる溝江さんのギャラリー。オリジナルベアの制作の他、雑貨プロデュース、セミ量産型のプロダクト品などの開発を行う。2001年Ananö設立。大切な小物をディスプレイ。繊細で美しい作品の世界観を表現。手作りのオリジナルベアは、年1回程、個展などで新作を発表。フランスでも展示会を行っていた。隣家の庭が借景になるベッドルーム。壁はすべて白く塗装した。取っ手やタオルかけに真鍮を使用。イタリアのエスプリを感じさせる洗面台はサンワカンパニー。古い洋館にあるような洗面所のキャビネット。日常的に使用するグッズを収めている。真鍮にこだわり、「TAiGA Lamp」でオーダーして作ってもらったブラケット。庭で育てたレモングラスで冷たいお茶を。ガーデニングも楽しんでいる。木漏れ日のさす庭で長男・樹輝くんと。爽やかな空気が流れる。表札も真鍮で。字体にこだわり作成。
2020年06月29日辿り着いたのは「箱の家」15年程前、表参道の裏通りに初めて建てたコンクリート打ち放しの住居から、2年前に現在の住まいへ。写真家・柳原久子さんにとってここは2軒目の家だ。「前の家は断熱がなく夏は暑くて冬は寒くて。まわりも段々と開発が進み、落ち着いた街じゃなくなってきて、ふと“何でここに住んでるの?”という気持ちになったんです(笑)」。土地探しから始めた今の住居は、インテリアショップも多い都心の高感度なエリアにあって、緑豊かな公園が間近に迫る立地。「2軒目なので夫は家を建てられるくらい詳しくなっていて、模型を造ったりしたほどなんです。だからプランは自分たちで構成できると思っていたのですが、たまたま縁のあった建築家の難波和彦さんに工法について尋ねてみたところ、さすがプロだなと感心してしまい…」。シンプルなデザインと高性能でサスティナブルな都市住宅。建築家・難波和彦さんの「箱の家」は、柳原さん夫妻の理想にぴったりだった。白い空間に自然光が差し込む3階の撮影スタジオ。連窓の向こうには公園の緑が広がる。オンオフの動線を分けて「南面から採光を取り、スタジオに最大限の広さを確保することが希望でした。後は住居、夫と私のワークスペースといったスペックをうまくはめ込んでいければいいと」。3階建ての白い箱は、1、2階が吹き抜けでつながった住居、3階のワンフロアが大きな開口のあるスタジオ。玄関からスタジオにつながる階段とは別に、住居部分にはプライベート専用の階段があり、オンとオフの動線を分けている。1階にデザイナーの夫、2階に柳原さんのワークスペースも。「どこかにガーデンが欲しいと思っていて、屋上には菜園を設けました。土は家が完成してから夫とふたりで入れたんですよ。前の家からガーデニングは行っていて、環境に合う植物なども分かってきたんです」。眼前には都心のビル群と広大な公園の緑が広がっている。グレーチングの階段が3階まで連なる。シューズラックはキャスターをつけて動かしやすく。階段の踊り場などにもグリーンを欠かさない。白い空間に木箱とグリーンが彩りを与えている。グラフィックデザイナーである夫のワークスペースは1階の玄関脇に。柳原さんのワークスペースは2階に。アンティークのテーブルに布のカーテンが温かみを添える。屋上のガーデンで。「ウォーター・フィッシュ」柳原久子さん。観賞用のネイティブプランツやハーブ、野菜など多種類を育てている。熱効率を考えた居住性「1カ所吹き抜けがあると気持ちいいことを知っていたんです」。1階のLDKと2階の寝室は、大きな吹き抜けでつながっている。リビングにはダイニングより1段高く、小上がりを設置。「夫はソファーが嫌いで(笑)。小上がりにすればキッチンに立つ人と目線を合わせることができるし、居場所を限定されず自由にゴロゴロできるのがいいと思うんです」。高さのある開口からは光が差し込み、外構の緑が目にまばゆい。「難波さんの建築物の特徴なのですが、庇が絶妙に計算されているんです。夏はほとんど日が入らないので涼しく、冬は逆に部屋の奥の方まで入って暖かいですね」。ダイニングフロアに敷かれたフレキシブルボードの下には、外断熱で囲んで蓄熱量の多いコンクリートの基礎があり、エアコンをその床下に向けて設置。壁近くのスリットから吹き出す涼風、温風と輻射熱で2フロア分の空間を心地よくする。「構造には鉄骨を用い、他はシナ材などを使っていますが、木の素材には白っぽい空間に合わせて、後からふたりで“バトン”という塗料を塗りました。無垢の風合いを活かしながら白っぽく仕上げてくれるので、全体になじんでいると思います」。階段下の収納ボックスなどもDIYで。収納は小上がり下のほか、床下のスペースも利用できるようハッチを数カ所につけ、スーツケースなど大きなものをたっぷり収められるようにした。鉄板の天井からマグネットで吊り下げたイサム・ノグチの和紙の照明など、工業的ソリッドの中に和モダンな雰囲気がミックスされて居心地がいい。小上がりの上が開放的な吹き抜けになっている。計算された庇を介して光が差し込む。当初、階段下は仕切り板のみが設置されていた。収納ボックスをDIYで後から作成。小上がりには畳ではなく、クッション性の高いジョイントマットを敷き、その上にラグをかけている。「ラグなら洗濯もできるし、気分に合わせて変えられるのが便利です」。両側に収納のあるペニンシュラキッチンはサンワカンパニーで。夫が料理を担当して柳原さんがサポート。2人で作業するので、両側から使えて便利なのだそう。床上の収納はリンゴ箱でDIYしたもの。壁にかけたスパイスなどの収納棚は、海産物を入れるトロ箱を活かしてDIY。床下に設置されたエアコン。夏は床のフレキシブルボードが素足に冷んやりと感じられる。小上がり下には食材なども収納。柳原さんが結婚時に持参した和ダンス。上のガラス鉢ではメダカを飼育。無垢の素材がシンプルな空間になじむ洗面台。壁づけの棚はワイン箱で。仕事もはかどる開放的な住まい「前は地下にスタジオを設けていたので、自然光が欲しくて。日当たりがいいのは本当に嬉しいですね」。南側に窓が連なった3階のスタジオでそう語る柳原さん。白い空間に、モールテックスの天板で造作した移動式キッチンや木製の雑貨、グリーンが調和する。今は休止中だが、ここにヨガの先生を呼んでグループレッスンを行う日も楽しみにしているそう。「スタジオありきで土地を探しプランニングしましたが、ガーデニングなどプライベートも楽しめて充実しています」。屋上や外構の緑も成育中。快適に過ごすためのスペックをはめ込んだ「箱」が、緑豊かな街に向けて開かれている。3階のスタジオの床下には水袋を温める床暖房が設置されていて蓄熱効果を保つ。「3階の床下は2階の天井でもあるので、2階まで暖かいんです。熱効率の高さを、住んでみて実感しました」。モールテックス、タイル、木の素材の組み合わせが絵になる移動式キッチン。玄関も屋上ガーデンで育てたグリーンがお出迎え。窓枠の木も“バトン”で仕上げている。Y邸設計難波和彦+界工作舎所在地東京都目黒区構造鉄骨造規模地上3階延床面積146.50㎡
2020年06月24日大らかな家族写真家の鈴木竜馬さんは自宅の設計を依頼する際に具体的なリクエストはあまり出さず、建築家に大部分をまかせるかたちで臨んだという。「趣味のために使える空間はひとつほしいという話はお伝えしました。あとはこちらからいろいろと希望を出すよりもプロにお任せしてヒアリングしていただいことを設計に生かしていただこうと」設計を行った土田さんは鈴木さん一家の趣味や、好きな洋服、食事等々を聞き出したほか、家族それぞれの人柄にも接した結果「皆さんとてもおおらかなので、いろんなことを決めつけてしまうというか使い方を限定するような家にしてしまうと鈴木さんの家族にはフィットしないだろうなと」判断した。鈴木邸のアプローチ。外装材は窯業系サイディングを裏返しにしたものに撥水材を塗って使用している。玄関部分にかけられた庇がわりのオーニング。この下で食事をすることもあるという。奥に見えるのが裏山。家の中にあるもうひとつの家鈴木邸の玄関を入るとすぐ目の前に広がるのが家の中に施工途中の家が入っているような一見不思議な光景だ。これから壁をつくって窓をはめ込むところだろう――そんな印象を受けるこのつくりには「鈴木さんたちのおおらかさにフィットするように」という思いのほかに、また別の設計側の意図が込められている。「土間部分とLDKとを壁できちっと仕切るととたんにLDKの空間が限定されてしまう。それで土間自体もリビングのように感じられるようにしながらも、一方で人はある程度の縛りがないと落ち着かないところもあるので、少し囲まれている感覚をつくり出すためにケージのような空間を家のなかに設けました。このことで広がりがつねに感じ取れる空間になったのではと思います」(土田さん)玄関を入ったところから見る。家の中に入れ子状にもうひとつ家が入っているように見えるが、この内側にはLDKがつくられている。右の土間になった廊下を進むと突き当りの左手に奥さんのアトリエがある。キッチン側からリビングを見る。後ろの柱が廊下の土間スペースとリビングをゆるく仕切っている。さらに土田さんは「ケージのようにゆるく仕切られた空間の周りに土間があって、そこから建物を出ると庭がある。さらにその外側には裏山があって、リビングからいくつものレイヤーが裏山のほうまで広がっていくような感じで家族の居場所をイメージしていきました。リビングから裏山までどこでも居場所になるようにすれば鈴木さんの家族が伸びやかに生活できるのではないかと考えました」と続ける。キッチンには「ざっくりとつくられた雰囲気のなかに完成度が高くクールに感じられる場所をつくろう」(土田さん)ということで、通常は下地材として使われるフレキシブルボードが採用された。キッチンの壁に張られたのはモザイクタイル。「フレンチな雰囲気がほしい」という奥さんの希望から選ばれたもの。1階につくられたトイレと浴室。壁を隔ててこの左手にLDK、右手にアトリエがある。最小限の間仕切りゆるく仕切られているのはLDK部分だけではない。内部を仕切る壁の量が最小限に抑えられ家全体が1室空間に近いかたちになっている。1階はトイレと浴室を囲む壁を取ってしまえばまったく壁の無い空間になるし、2階の寝室には間仕切り兼用の収納が中央に置かれているのみだ。しかもこの間仕切り兼収納は移動することができる。これは鈴木さんたちが大らかに暮らせるための装置であるだけでなく、さらにまた別のファクターを考慮したうえでのアイデアだった。「これからも鈴木さんの趣味が増えていくだろうなと想定できたので、そうしたことにも対応し、かつ、将来お子さんが家を出ていくとかで家族の構成が変わっても対応できるように、家じゅうをフルに使い切れるようにしつつ、収納部分を移動できるようにして可変性のある空間のつくりを考えました」はじめは鈴木さんの趣味の部屋であったが、設計途中で彫金でアクセサリーを製作する奥さんのアトリエに変更された。廊下から裏山の方向を見る。設計途中で鈴木さんの部屋になったスペース。カメラ機材やキャンプ用品、自転車の部品、DIY用の道具などが置かれている。2階の寝室側からトイレを見る。トイレの並びは収納で衣類が収められている。左の収納には衣類が、右の収納には季節ものの家電やクリスマスツリーなどが収められている。どちらも可動で、家族構成の変化などに合わせて自由に空間を仕切ることができる。どこにいても気持ちよく過ごせる越してきてから2年半ほど。家ではリビングで過ごす時間が長いという鈴木さん。「仕切りがないので、リビングにいても2階や庭で遊んでいる子どもたちの声が聴こえてきて気配が感じられるのはすごくいいですね」と話す。さらに「1室空間のような感覚のこの家では、どこがいちばんいいということもなくどこにいても気持ちよく過ごせるし、椅子さえあればどこにいてもくつろぐことができる」という。裏山の草を刈り竹や木を切ってマウンテンバイクで走り回れるようにしたという鈴木さん。「きれいになった山で子どもと遊んだりできるのですごく楽しい」という。また「ある意味贅沢させてもらっているなと思います」とも。自宅の敷地内で自然を楽しみ満喫できる。鈴木さんの言葉通り、都内でこれほど「贅沢」なことができるのも珍しい。本当にうらやましいことだ、そう強く思った。このケージのようにゆるく仕切られたリビングから、土間、庭、裏山へと居場所が途切れなくつながりつつ広がっていく。鈴木邸設計no.555一級建築士事務所撮影鈴木竜馬所在地東京都八王子市構造木造規模地上2階延床面積103.85㎡
2020年06月22日楽しみが広がるインナーテラス自然豊かな住宅街の一角に、自宅兼アトリエを構えた建築家の加藤景さん・雪乃さん夫妻。住宅を設計するときに常に心掛けているのは、長い目で見て“暮らしやすい家”というお2人。そのコンセプトを明確に表現する家が完成した。現在、4歳の陽くん、1歳11か月の直ちゃんの子育て真っただ中のご夫妻。景さんが強く希望したのは、2階に広めのインナーテラスを設けること。屋内のリビングとほぼ同じ広さで、屋根もしっかり深めに付けた。「大きなリビングを造っても長年住んでいると慣れてしまいますが、屋外にもリビングがあるとできることが広がりますよね。今は子どもが小さいのでプールを置いたり、シャボン玉で遊んだりと、主に子どもの遊び場になっています。屋根もあるので、雨の日でも外で遊ぶことができ、子どもたちものびのび楽しんでいますね」(景さん)また、雪乃さんは、「家事をしていても、目の届くところで子どもたちが遊んでいるので安心です。道路に出る心配もないですから」と。「体のいい檻ですね」と景さんが大らかに笑う。「子どもが大きくなれば、また違った使い方ができると思いますね。イメージは東南アジアのリゾートホテル。多様な使い方ができ、贅沢に寛げる時間が過ごせるのではないでしょうか」(景さん)2階のリビングから一続きになったインナーテラス。ハンモックは子どもたちがブランコのようにして遊んでいるそう。陽くんと直ちゃんがどこからか乗り物を出して遊び始めた。ウッドデッキが気持ちよさそう。来客人数や用途で変幻自在2階リビングは、設計の打ち合わせやワークショップなどにも使用。ナラ材で造作した棚には、オモチャや絵本が楽しくディスプレイされている。これらは、陽くんと直ちゃんが遊ぶためだけのものではない。小さな子ども連れの来客も多いため、その子どもたちも自由に手に取り、遊べるようにと加藤さん夫妻の心遣いである。オーク材のテーブルは、210cm×90cmの細長いタイプと、90cm×90cmの正方形タイプの2卓を造作。2つ並べると3mの長いテーブルになり、10人以上の来客にも対応可能にした。また、脚の長さも2タイプ用意し、人数や用途に合わせてダイニングテーブルあるいはローテーブルと使い分けている。「外で使用できるちょうどよいソファがなかったので自分たちで造りました」というのが、テラスのベンチ。玄関まわりに使用して余っていた杉板で製作し、雨に強い屋外用クッションを置いた。アウトドアリビングとして活用することで、さらに多くの人数にも対応できる。打ち合わせスペースとしても使用している2階のLDK。棚の高さは自由に変更可能。左側の50音は、陽くんが最近文字に興味を持ち始めたことで登場。右側に陳列されたラジコンカーは景さんのもの。「子どもたちにはミニカー同様に扱われています」と苦笑い。ミニカーが整然と並べられた棚は、雪乃さんのお父様が作製したもの。ミニチュアのグランドピアノは本格的な演奏も可能。ピアノの先生である雪乃さんのお母様からのプレゼント。ナラ材を使用した勾配天井が高くて気持ちいい。奥の階段を昇るとロフトへと続く。ダイニング側にシナ材を貼り付けたキッチンは回遊性をもたせ、来客への対応もスムーズに。ロフトは、多彩な趣味をもつ景さんの部屋として設けた。パワーソースを抜いた安全なエアガンやギターが置かれ、乱入してきた子どもたちも自由に遊ぶ。オモチャなどを修理する作業台もある。ロフトから2階リビングを見下ろす。テーブルを2つ並べると3mの長さになり、ワークショップのときなどに重宝。キッチンやバスルームは低コストに雪乃さんがこだわったのは、「2階で家事を完結できること」。キッチンに隣接する位置に洗面所、洗濯機置き場、浴室を配置し、そのまま洗濯物を干すバルコニーへと出入りできるよう、リビングの開口とは別にドアを設けた。また、家族4人分のファミリークローゼットも2階に配置した。「クローゼットは全てハンガー収納にしました。洗濯したらハンガーにかけて干し、取り込むときはそのままクローゼットにかけるだけ。たたむ手間が省けて、とてもラクです。ハンガー収納にして、子どもたちが自分で洋服を選ぶようになりました」(雪乃さん)キッチンは、『TOTO』のリーズナブルなシステムキッチンをチョイス。ダイニング側にはシナ材を貼り付け、キッチン背面の棚の扉も同素材で造作した。LD側に座る来客からは、自然素材を使ったオリジナル感のあるキッチンに印象づける。「キッチンやバスルームというのは、どんなに手入れをしても年月とともに傷んでいくものです。10年くらい経ったら思い切って入れ替えることを前提に考え、どのメーカーにもある定番サイズのシステムキッチンを入れています。そのときのお好みでイメージチェンジもでき、コストダウンにもつながりますよ」(景さん)長く新鮮に住まう、ひとつの知恵といえそうだ。定番サイズのシステムキッチンは、傷みが出てきたらすっぽり入れ替える予定。背面のキッチンカウンターは、床と同じナラ材で統一。上部の棚には食器類を、下部の引き出しには食品のストック類までたっぷり収納可能。そのためパントリーは造らず、奥のスペースには冷蔵庫と、電子レンジや炊飯器などのゴチャゴチャしがちな家電をまとめた。キッチンの隣には、トイレや洗面台、洗濯機、ユニットバスが一列に並び、家事動線もスムーズ。奥のバスルームの手前(左側)からテラスへ出入りできる。家族4人分のファミリークローゼット。衣類は、全てハンガー収納に。「友人たちからの“おさがり”で、ほとんどいただきものです」という子ども服がズラリと並ぶ。1階の和室。押し入れ(奥)の襖は付けず、和紙のブラインドを採用。全開にすることができ、通気性もアップ。コストダウンにもつながっている。家族の成長により変化する“飽きない家”景さんと雪乃さんのアトリエは1階に配置。ひのきの玄関を開けると仕事の打ち合わせスペースがあり、左側は居住スペースとなる。仕事スペースは床にコンクリートを採用し、土足で行き来できるようにした。アトリエに続くスペースは20cm床を下げ、居住スペースと趣を変えて、気持ちの切り替えを促す工夫をしている。コンクリートの下には温水式の床暖房が入っていて、冬場はその場だけでなく、家全体をもほんのり暖めてくれる。穏やかな環境に馴染んで建つ加藤邸。真っ白い外観に、玄関ポーチと屋根の軒天に用いた明るい色の杉板があたたかな個性を放っている。玄関へと続くアプローチには3か所の植栽スペースを設け、訪れる人を出迎える。「最初はガーデンデザイナーの方に造っていただき、それから自分たちでプラスしています。子どもたちの“丸いのがいい”“ピンクが可愛い”という意見も取り入れながら植えていますが、こんなにハマると思いませんでした」(雪乃さん)屋内外にあるグリーンが目に優しく、手足に直接触れて感じる自然素材が心地良い。家づくりのヒントも満載で、訪れた人に惜しみなく開放している。「何十年も住み続ける家ですから、奇をてらったものよりも飽きの来ない家が重要だと考えます。自然素材だから生まれる経年美の趣を感じながら、家族の成長に合わせてこれからどのように変化していくのか、自分たちでもわからないだけに楽しみですね」(景さん)ゆるやかな角度の三角屋根とオレンジがかった明るい杉板がアクセントになった外観。手前右側のシンボルツリーはシマトネリコ。ひのきの玄関ドアは実は既製品。ドアの色に合わせて杉板を塗り、玄関を囲むように貼り付けた。駐車スペースとしても活用。雨の日には濡れずに荷物を出し入れできる。植栽スペースのひとつ。ユーカリやあじさいなど自ら加えていった。種から植えたオルラヤ(白い花)がきれいに咲いている。玄関を開けると、可愛らしい打ち合わせスペースがある。ウンベラータの緑が心地よい。左側は居住スペース、右側がアトリエへ。「ここに手すりがあったらな」と住み始めて気づき、取り付けた。カギやハンコなどが置けたら便利と浅い引き出しにした。階段下の収納。頻繁に使う靴やスリッパ、コートなどを収納。靴を干すときは什器ごと外に出すことができる。24時間換気をしているため、臭いもこもらない。景さんと雪乃さんのアトリエ。深夜に仕事をすることもあるため、床には足音がしないコンクリートを採用。デスク前の窓は玄関前につながっていて、子どもが外から開けてのぞくことも。一段下がった奥がアトリエへと続く。緑色の壁は加藤さん夫妻で塗った。ディスプレイされた帽子とバッグは景さんが日常的に使用するもの。会社のロゴ「けい」は、看板などの筆文字を書いて彫る仕事をしている雪乃さんのお父様が作製したもの。加藤邸設計一級建築士事務所 アトリエけい所在地神奈川県逗子市構造木造規模地上2階延床面積111.38㎡(ロフト含まず)
2020年06月15日丘の途中の敷地小長谷邸は住宅に建築家である小長谷さん、奥さんで照明デザイナーの真理子さんの仕事場が併設されている。敷地はそのためのスペースが取れるような場所を5年ほど探して見つけた。丘の途中にある敷地は370㎡と広かったものの、旗竿敷地で、かつ、旗部分の端には古い擁壁がありその擁壁が高いところで6m、低いところで2.5mと南から北に向けて高さにかなりの差があった。擁壁に沿って走る道路から見下ろした印象は敷地いっぱいに立った古家の印象も相まって暗く少しじめっとして決して良いものではなかったらしい。建築家の小長谷さんはしかし問題なく家を建てられる土地だと判断したという。「庭をゆったりとつくりながら建てるとまったく違う環境になるだろうと思いました。と同時に古いコンクリートブロックの擁壁も亀裂や歪みがなかったのでよほどのことがない限り崩れることはないだろうと」。敷地を見てピンときたという真理子さんは「道路から下がった場所でちょっと暗い感じはしたんですが、敷地の上の土地の高さが2段階あって、1段上が公園になっている。それですごく面白くて個性的な土地だなと。反対側は下への眺めが開けているので2階はすごく景色が良さそうだし、いい案を考えてくれるんじゃないかと思った」と話す。西側の道路から2階の事務所部分を見る。真鍮製の扉が玄関。道路からは小さな家のように見えるがこの下に1階の住居部分がつくられている。右に緑のある部分が公園になっていて、その一段上に道路が走る。南側の庭を見る。中央部分に見えるのが古い擁壁。その左の1段高くなった部分に公園がある。反対の北側は下へと傾斜していて開口からは遠くまで視線が抜ける。本棚の右側に主寝室への入口がある。1階をコンクリート造に家のつくりの大枠はこの敷地条件から導かれたといっていいだろう。万が一、擁壁が崩れても問題の無いようにまず1階部分をコンクリートにする。そうすることで擁壁の近くまで建物を建てることができるし、古い擁壁をつくり直さずに浮いたコストを建物のほうにかけることができる。そしてさらにそれによって思い切った建築ができるだろう。敷地を見てすぐに浮かんだというこの小長谷さんのアイデアが実現されることになる。そして「1階をコンクリートにしたうえで、2階部分の床に車が駐車できるようにすること」を大前提にどのような住空間にするかを考えていった。しかし「コンクリートはどうしても閉じているとか重たいなどの印象があった。自分たちの家は木造で建てるものだと思っていた僕らにとってそれが感覚的にどうなんだろうと思った」という。「それで南北両側の開口を思いきり開けて視線が抜けるようにして景色と庭の両方を楽しめるようなつくりに」したという。南側の庭を見る。庭は夫妻で木を植えている。「“キャンプ場のような感じで日本の雑木林のような雰囲気にしたいね”って言っています」(真理子さん)。公園の木と90cmほど出た庇があるため夏でも日差しの強い時間帯は直射光がほとんど入らないという。キッチンは当初正面の本棚の位置であったが、真理子さんの「庭を見ながら料理をしたい」との要望から位置が変更された。壁式に見えるが実はラーメン構造。壁の両端部分に柱状の鉄筋が隠れている。開口から向こう側の丘まで視線が抜ける。真理子さんが照明計画でいちばん悩んだのがキッチン部分だった。階段が斜めに走り吊り戸棚もないこの場所で考えたのがバー状の照明で、真鍮をカットした材の表面を小長谷さんが研磨して仕上げた。フードも同様にして製作された。“高架下”の住空間「コンクリートの堅牢な壁に囲まれた家というより、敷地にコンクリートの下駄を置いたぐらいの感じで、コンクリートの壁2枚とその上に屋根があって、あとはぜんぶ1階は公園というか庭の一部みたいな感じ」とイメージを共有していたお2人。さらに「家族では“高架下”って呼んでいましたね。そのくらいざっくばらんで楽しさがあるというか。家のスケールを超えた工場とか、家らしくない空間に住んでみたいという変な願望があったので、これは“高架下”だと思ったとき、すごく興奮しました」と続ける。その“高架下”の両サイドの開口のサッシには木を採用したが、このガラス面のレイアウトが面白い。「1階は3.46mという天井高なのでアルミサッシなどの既製品が使えない。スチールなどで特注でつくるとコストが高くなるというのと、この地域は防火制限がゆるくて網ガラスや防火サッシにする必要がないので、木を使って自由な窓面をつくってみようと思いました。ガラスの配置を均一とすると庭との境界を強く感じてしまったので、ランダムな配置として外の風景とインテリアが親和するようにしました」(小長谷さん)リビングの窓際にはハンモックがぶら下がる。家族全員で使っているという。同じく窓際に置かれているのは古いミシンの脚部分を使ってつくられたテーブル。素材とディテールレスコンクリートの躯体と木サッシの質感のコンビネーションが目に心地良いが、素材選びにはいたるところでこだわった。2階の玄関扉とインターフォン、その脇の窓枠、そしてキッチンのフードと照明部分には真鍮、2階では玄関の土間と壁面に黒皮鉄板を採用、2階の床はコンクリートの地肌をそのまま残して黒い薄い塗料を塗った。キッチンや扉にはアフリカのブビンガという個性的な木目の木を使っている。躯体は防水コンクリートでつくったため仕上がりと防水も兼ねたものになったが、そのほか全体的に素材をそのままを使うようにしたのは経年変化を楽しみながらイニシャル、ランニングも含めコストを抑えるという意図から。コストを抑えるためにはテーブルやキッチンのフード、照明器具などを自ら製作するなどのほかディテールレスも目指した。「建築家はよく手間のかかるディテールを考えますが、カッコ良くはなるけれどもコストがかかる。この家ではディテールレスをどこまでできるかを試してみました」1階の木サッシまわりでは、嵌め殺しの窓の部分を見ると上に木の枠がない。「コンクリートを打つときに溝/目地を取ってそのへこんだところにガラスを差し込んでいます。そうすると材料も減るしコンクリートとガラスのみのミニマムな納まりとなり、とてもすっきりとした見映えになるのです」壁に架かる絵はこの敷地の元住人であった画家の遺族から譲り受けたもの。照明器具はアンティーク。家具屋さんに製作してもらった棚の間に大谷石を挟んで組み立てたのは小長谷さん。半地下の納戸兼パントリーから南側の庭を見る。この場所は息子さんの読書スペースになっているという。階段は手動で上下の位置を変えられる。リビングより半階上が子ども部屋で下の半地下部分が納戸兼パントリー。洗面上の額縁に入ったガラスを右にずらすと収納棚が現れる。南側に設けたこの浴室/洗面所では洗濯物も干す。浴室/洗面所からリビングを見る。浴室には珍しいペンダント照明は真理子さん設計のオリジナル。階段脇の壁がガラスのため事務所からも景色を存分に楽しむことができる。階段近くに北側の庭への出入り口がある。その右側を進むと子ども部屋/納戸がある。玄関を入ってすぐの場所から2階部分を見る。両サイドとも開口から視線が抜けて気持ちの良い事務所スペース。オフィスっぽさを避けるために天井の照明のほかに必要な場所にペンダント照明を下げている。子どもたちの勉強、工作、お絵描きスペースにもなっている。真理子さんの事務所と打ち合わせスペース。窓際のペンダント照明は「カフェなどのお店」のようにも見えるようこの場所に下げた。子どもたちの勉強・工作・お絵描きのスペースにもなっている。ケースの中には小長谷さんが集めた鉱石が入っている。手前の黄鉄鉱はきれいな立方体だが自然そのままの形という。鉱石のガラスケースの横には世界の珍しい草木の実。道路側から建築事務所のスペースを見る。梁の間には全般照明用のLEDのライン照明が入る。正面の黒皮鉄板には磁石で図面を貼ったりしているという。最近はひたすら庭の木々と格闘しているという小長谷夫妻。「木を買ってきては自分たちで植えて少しずつ増やしてます。芝も含めてキャンプ場みたいな感じでちょっとワイルドな雰囲気にしようかと思っています」(小長谷さん)。真理子さんが「1階のソファで横になったりハンモックに乗っていると気持ちがいい」というのにはおそらく2人で植えて育てたこの庭の緑の存在もあるのだろう。コストの関係でとりあえず入れずにすましたが、小長谷さんが「冬はそれがあれば完璧」と話すのは薪ストーブ。「デザインしたものをつくってくれるところがあるのでリビングにいつか付けたいなと」。いつでも入れられるようにコンクリートスラブと木造の屋根には穴をあけてあるという。「それは楽しみでしょう?」と聞くと即座に「そうですね」との答えが笑顔で返ってきた。奥の照明はこの空間が大きく天井も高いので1、2個では少し寂しい印象になる。そこで高さをランダムに変えて8個の裸電球をぶら下げた。はじめ、壁の間は現状より90㎝狭く設計したが、「家族みんなが集まる場所」を検討した結果幅を広げることに。南側の庭/公園側から見る。大きな開口が両サイドにあるため建物を通して向こう側の景色が見える。小長谷邸設計小長谷亘建築設計事務所照明設計内藤真理子/コモレビデザイン所在地東京都町田市構造RC造+木造規模地上2階地下1階延床面積148.64㎡
2020年06月10日大人二人が暮らすためのミニマムな空間ファッション関係の仕事をするSさん(50代・女性)と、写真家・山岳ガイドとして活動するKさん(60代・男性)。パートナーの二人が暮らすのは、品川区の住宅街にこの春完成したばかりの住まい。家を建てるきっかけは、Sさんが築50年の実家を受け継いだことだったという。「当時としてはモダンなRC造の建物でしたが、古さゆえ快適とは言い難い住環境でした。そこで、取り壊して新たに家を建てようと思いました」(Sさん)。家づくりにあたっての二人のコンセプトは「都会の隠れ家」。「50〜60代の大人が、必要最小限のモノで暮らしていくためのシンプルな家を建てたいと思いました。私は写真家・山岳ガイドという仕事柄、東京を離れ自然の中にいることが多く、彼女も山登りを一番の趣味としているので、逆に住まいはアーティフィシャルな空間を楽しみたいと思いました。」(Kさん)。間取りの面では、住宅密集地のため閉じたつくりとし、北側と北西側が道路に隣接するためベッドルームを南東角に配置した。さらに空間を有効活用するために廊下を設けず、リビングやダイニング、寝室など暮らしの中心となるスペースは2階にまとめた。2階は間仕切り壁を設けず、建具やカーテンで仕切っている。「限られた空間を有効に使うために、2階は部屋と部屋が直接つながるレイアウトに落ち着きました」(Kさん)。キッチンの奥から二階全体を見渡す。2階はワンルーム的な設計。ダイニング・リビング・寝室を、アイアンのガラス吊り戸とカーテンで仕切っている。2階やロフトへ上がる階段の手すりもアイアンで統一。北西側にスリット状の明かりとりの窓を設けている。ロフトへの階段下にはピアノを置いた。ロフトからリビングを見下ろす。照明は、ルイスポールセンの「パテラ」。点灯していない時でも美しく光を演出する照明は、二人のお気に入りだ。NYのロフトをイメージしたインテリアインテリアについては、主にSさんの好みが反映されているという。「ピンタレストなどでいいなと思う画像を集めていたのですが、その中で見つけたNYのロフトがイメージの源になりました」(Sさん)。アイアンを使ったモノトーンの空間に惹かれ、自宅にもアイアンのガラス建具を採用した。「アイアンの建具、階段、手すりをキーにして内装を組み立て、壁紙や床はグレイッシュな色調を選びました」(Sさん)。「モノトーンの壁は、陰影を楽しむことができて、また飾った写真がよく映えます」(Kさん)。ほとんど外食をしないという二人にとって、キッチンは大切な場所。設計段階から悩み、こだわり続けた結果「使わない時には家具のように見え、それでいて機能的なキッチン」を目指したという。「フラットな棚板面、カウンタートップの質感や色合いなどが気に入って、クッチーナでオーダーしました」(Sさん)。使わない時には家具のように見えるキッチン。キッチンのデザインは、天板をセンターにして、左右対称シンメトリーにした。ダイニングの照明は、ルイスポールセンの「アバーブ」をチョイス。コーヒーをいれるKさんと、ダイニングでくつろぐSさん。テーブルは、ウォルナットの挽き板を巾接ぎした天板と特注のアイアンの脚の組み合わせ。キッチンの収納。扉を開けると広い収納スペースが現れる。引き出しと扉は把手がないタイプを選び、スッキリと見えるように。充実した収納や全館空調もテーマに必要最小限のモノでの暮らしを目指しつつも、洋服やアウトドア用品など、仕事柄持ち物の多い二人。家を建てる際には、「狭い家を広く使う」ことを重視し、収納スペースを十分に設けた。2階の寝室に続く3.5畳のウォークインクロゼットのほか、1階の多目的スペース奥にも3.3畳のウォークインクロゼット、階段下に2.4畳の納戸、さらに玄関にシューズクロゼットを設けている。また、設計段階の当初から、全館空調を希望したという。「ワンルーム的なレイアウトにすると個別のエアコンでは効率が悪いこと、より高齢になった時にヒートショックなどを起こさないために、24時間全館空調を選びました。太陽光パネルも設置したので、晴れた日ならかなりの電力を賄えています」(Kさん)。この家で暮らし始めて約2カ月が経つが、「以前のRCの家は部屋によっては極端に夏暑く冬寒かったのですが、全館空調のおかげで快適です」とSさんが微笑む。始まったばかりの「都会の隠れ家」での暮らし。これからこの空間で、シンプルかつ豊かな日々が紡がれていくのだろう。寝室はシックな柄の壁紙を選んだ。ダウンライトを仕込んだ壁の向こうはウォークインクロゼットになっている。寝室からからウォークインクロゼットに入るところに、造作のベンチと明かりとりの窓を設けた。ウォークインクロゼットには、二人の衣類などを収納している。リビングから階段を上がったところにあるロフト。Kさんの山用のシュラフや書籍を置いているが、気分転換に読書や昼寝をすることも。1階のバスルームは、洗面、トイレにランドリーコーナーを合わせて水回りを一箇所に。ガラス張りにして広さを演出。一階のフリースペースは、山に行く支度をしたり、ゲスト用のベッドルームに使う予定。奥にはウォークインクロゼットがある。気に入った写真を額装して飾るためにもシンプルな内装に。「内装をグレーで統一した理由の一つは、写真が引き立つからです」(Kさん)。2階へ上がる階段にもアイアンの手すり。北西側にスリット状の明かりとりの窓。ジムトンプソンのテキスタイルでシェードを。一階玄関ホールの照明は、FLOSの「IC LIGHT」。ショールームでひと目見て気に入り、モノトーンの玄関のアクセントにした。外観。通りに面した玄関は、外扉と内扉を設け、ともに引き戸を採用した。
2020年06月08日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年の7月にスタート、8周年を迎えます。そこで、今回、特別企画として、これまで取材した家の中で『100%LiFE』に集う読者の方々に人気のあった家を、テーマごと振り返ってみました。読者の皆さんが興味をもった家とは?第3回は、「グリーンを楽しむ家」、人気の10軒を紹介します。type1グリーンと暮らすとらわれない発想で、自分なりの味出しを愉しむ数々の店舗のガーデンデザインを手がけ、都内に4店舗のショップも展開するガーデンスタイリスト川本諭さん。独自のスタイルの秘訣とは。type2木への思いとこだわり自然に包まれた森の中のモダン建築芝生の向こうに別荘のような瀟洒な建物。煙突があって、平屋っぽくて。子供が絵に描くような、本当にシンプルな家がイメージでした。type3離れと庭のある暮らし豊かな緑に囲まれた世田谷モダンライフ「私はどちらかと言うと、金属とかガラスとか、ひんやりした素材が好きなんですが、家内はそれが嫌いで」と語るのはこの家のご主人。type4内と外を繋ぐグリーンルーム心地良さを求めてボタニカル・ライフ奥さまの念願であった「植物を取り入れた暮らし」。家づくりへの思いを詰め込んだ『フェイバリット』ファイルを作成し、建築家へ伝えた。type5葉山の自然を愉しむ屋根より高い樹々とともに暮らす家多忙な日々を送っている小林夫妻が造りたかったのは、しっかりと気分転換ができる海の近くの家。緑が豊かなこの場所に家を建てることに決めた。type6緑が生活の中心にある暮らし自然に包まれた鎌倉山の庭には念願のアトリエも緑豊かな鎌倉山の一軒家をリノベーションした塙 麻衣子さんのお宅。広々とした庭の一角には、念願のアトリエも完成させた。type7曲線が優しい建築家の自邸テラスの楽しみを広げる瑞々しい緑のカーテングリーンカーテンが印象的な家。イギリスの未来派モダン建築事務所で仕事をした経験を持つ、建築家の熊木秀雄さんの自邸に伺った。type8花と緑に囲まれてオリジナルの感性を家族で表現する家坂の上の陽だまりに佇む家。花生師として活動する岡本典子さんが家族と暮らす家は、いつもグリーンや花で満たされている。type9植物とアンティークを暮らしに多肉植物と共生するボタニカルガーデン真っ白な一軒家は、妻が育った家を建て替えて完成。多肉植物のアレンジを行う近藤夫妻の家は、白い器にふたりの感性が盛り込まれた作品のよう。type10自然との共生の中で庭づくりに、サックス吹き…楽しみと挑戦へと触発する家右左ずれながら仕切りのない1室空間が裏庭まで25mも続く山﨑邸。庭の緑との関係に思わず見とれてしまうこの家は、退職を機に新築したもの。
2020年06月01日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年の7月にスタート、8周年を迎えます。そこで、今回、特別企画として、これまで取材した家の中で『100%LiFE』に集う読者の方々に人気のあった家を、テーマごと振り返ってみました。読者の皆さんが興味をもった家とは?第2回は、憧れの「湘南スタイル」、人気の10軒を紹介します。type1湘南のサーファーズハウス海を気持ちよく楽しめるカリフォルニアスタイルの家ハワイで挙式した時に借りたバケーションレンタルが理想の家。海岸まで歩いて5分。サーフィン好きの真崎さんにとってこの上ない家が誕生した。type2葉山の海を一望お菓子も作れるカフェになる工夫を凝らしたキッチン葉山の人気カフェ「cafe manimani」の土屋由美さん。その自宅には優しい空気感が漂い、海を一望できるダイニングはアジアのリゾートのよう。type3カリフォルニアの風が吹く愛する海と暮らすサーファーズハウス湘南の海をこよなく愛する山崎さん。七里ケ浜の高台に、海の近くにふさわしいカリフォルニアテイストの家を完成させた。type4平屋の民家をリフォーム家族や自然と調和するゆるやかな生活夫婦でケータリングやレシピ開発の仕事に携わる堀出隼さん。築約50年の平屋の物件をリフォームし、住居兼アトリエを誕生させた。type5理想をカタチにするアメリカの古材を使った、CAPE COD STYLEの家。結婚を機に、家を建てることにした工藤さん夫妻。趣のあるアメリカの古材や建築廃材をふんだんに使って、理想の住まいを実現した。type6葉山の景観に溶け込む広大な庭とともに暮らす真っ白な平屋の家葉山の景観に寄り添うように建つ白亜の平屋。小川さんは、庭の緑を育てながら、自然の中での家族との暮らしを楽しんでいる。type7愛犬との湘南ライフ非日常性を求めて暮らしを楽しみ尽くす海の近くで暮らすこと、犬を飼うことを目的に湘南へ。漫画家・小説家の折原みとさんは自然に寄り添う暮らしを楽しんでいる。type8家造りは自分の手で葉山への移住を決意したのは波乗りと愛犬のため葉山への引っ越しを決意したのは、毎日愛犬とビーチを散歩したい、存分にサーフィンを楽しみたい…という願いから。type9海辺の暮らしを満喫海辺の古い一軒家を自分らしく再生潮騒の音が聞こえる海辺の1軒家。築40年の古いコンクリート住宅を、アメリカの匂いを感じさせる快適な住まいへと変身させた梅本さん夫妻。type10湘南の海を望む天空の家地上から高く離れて海と山と空を満喫する家東海道線の大磯の駅から歩いて10分ほど。ゆるやかな傾斜の続く住宅地の先に、巨大な擁壁の姿が現れる。その上に立つのが藤田邸だ。
2020年05月27日10年近く探した「古い家」「古い家を購入してリノベーションしたいと思っていた」という田中さん。10年近くの間物件を探していたが、しかし漠然と「古い家」というわけではなく、「80年代から90年代前半くらいまでの家がいいなと思っていた」という。田中さんはフォルクスワーゲンのゴルフⅡを専門に扱う会社を経営しているが、家もちょうどそのゴルフⅡと同程度の年代のものを探されたということらしい。田中邸は築30年ほどの家のリノベーション。階段のあたりを境に1階は土間的な扱いの部分と通常の床の部分とにわかれる。右奥にゲストルーム、その手前に玄関がある。左の木の床の部分がリビング。購入した家をどのようにリノベーションするかは夫妻ともに「漠然としか考えてなくて当初は具体的なイメージがなく」建築家の土田さんと打ち合わせをしながら決めていければと考えていたという。しかし最初から伝えていたことがあった。家にサーバーを置いてビールを飲みたい、家に人を呼びたい、そして人が来たときに泊められるスペースがあったらいい・・・こうした話をベースとしつつ具体的な空間の話へと移行していった。土地が少し高くなっているため大きく開いた開口から遠方までの景色を楽しむことができる。1階の土間と柱1階はリビング以外の場所を土間的な扱いにして玄関の左側のダイニングキッチンのスペースと右側にあるゲストルームなどの床にフレキシブルボードが張られている。これは田中さんの趣味のひとつである自転車が生活の一部のようになっていることを考慮した結果。現在所有している8台のうちの1、2台を室内に入れているが、きれいにつくられた床では扱いに神経を使ってしまいストレスにもなることから選択されたものという。リビングには途中でリクエストして仕事のスペースを確保した。梁と柱の納まりの関係が通常とは異なるところがあり現場で工事監督と打ち合わせをしながら検討・対応していったという。「もともとある柱がけっこういい柱だからそれを残して見せていこうという話をされたときに “おお、それはいいね”と」。こう田中さんが話すのはリビングとダイニングの境付近に立つ7本の柱だ。ふつうであれば狭いスペースに不自然に残ってしまったふうに見えかねないこの7本の木柱には「家の周囲にある雑木林みたいな雰囲気で残せたら」との設計の思いが込められているが、意図通り、これが田中邸の1階の空間のデザインポイントのひとつとなっている。リビングから奥にダイニングキッチンを見る。間にある7本の柱が通常の住宅にはない空気感をつくり出している。ダイニングにはバー用のスツールが置かれている。長く延びるカウンターもうひとつのポイントは、この7本の柱に隣接してつくられたダイニングキッチンのスペース。田中さんはビールサーバーを置きたいという気持ちを伝えていたが、そのほかは奥さん任せ。広さと動線のほか、「対面式にカウンターをつくってキッチンとは高さの差を出したい」とのリクエストも奥さんから出されたものだった。すぐ背後にある柱との距離やカウンターの幅や高さなどの調整に苦労した末にできたのが、業務用のキッチンと平行してダイニング部分が窓まで延びた現状のスタイルだ。2段ベッドの置かれたゲストルーム。無駄なモノのまったくないシンプルなつくり。左がトイレ。バーのようなカウンターと業務用のキッチンが平行して配置されている。現しになった梁の向きが途中で切り替わる。場所により気分が変わる住み始めてから1年半とちょっと。1階を広くぶち抜いて一室空間のようにしているわりには床の素材が違ったり、梁の並び方が違う部分があったりなどして場所によって受ける印象がかなり違う。田中さんはそれが気に入っているという。「人が来たときにまずリビングのほうのテーブルで飲んで、それからバーカウンターの方に移ると“気分が変わるからこれだけで2次会っぽい感じになるね”って」それからこんなことも話してくれた。「ふつうの家を買ってふつうに住むわけではないので住み始めたら想定外のことがいろいろと出てくるのではないかと思っていたんですが、これが意外とないんです」。続けて「それは土田さんがこういう感じが好みだろうと予想しつつ、わたしと話をしていく中でやはりそうかと確認された部分がかなりあったのでは」と推測する。1階の階段下につくられたトイレ。扉に貼られたサインの文字が一昔前のスタイルで空間にマッチしている。2階の浴室などの水回りスペースも余計なモノのないシンプルなデザイン。2階の天井と壁は既存のものを白く塗装したのみ。床は張り替えている。左は階段。このあたりを土田さんに確認すると、田中さんの推測通りで要望を聞き出すとともに田中さんの話や生活ぶりから好きなそうなテイストをくみ取っていったという。さらに「田中さんから依頼をいただいてこちらで当たり前のようにしていった部分がひとつありました。田中さんはゴルフⅡを仕事で扱われていますが、ゴルフⅡの時代は車がすごく良かった時代で、これはイコール工業が良かった時代でもあった。そこで素材は工業製品的なものをセレクトしてそのまま使うようにしていきました」とも。テーブルの脚にスチールを使い外壁材に使われるものを棚板にしたり合板をそのまま仕上げに使っているのがそうだし、既存の柱や梁をそのまま現しで見せるというのも材を工業製品としてとらえているからだそうだ。田中さんが「想定外のことがない」と感じた理由のひとつはそのあたりにあるのだろう。つまり、好きな時代・テイストのものに囲まれてしっくりと落ち着けるからではないだろうか。スイッチは“工業製品っぽさ”が前面に出るように既製品と製作品を組み合わせた。テーブルの脚にはスチールを使用。アルミでもステンレスでもなくスチールにしたのは“重み”を出したかったため。ゴルフⅡのミニカーが載るのはリビングのセメント板でつくられた棚板。カウンターには合板をそのまま仕上げに使った。ゲストルームの2段ベッドに立てかけられた梯子。これ以上ないシンプルなデザイン。セメント板を鉢植えにした植物を置く台としても使っている。田中邸設計no.555一級建築士事務所撮影小山俊一所在地東京都町田市構造木造規模地上2階
2020年05月25日景観に魅かれた高台の小さな土地「都心にある職場まで自転車で25分くらいです」。利便性に富み、歴史と文化に培われた住宅街で暮らすMさん。「一度はあきらめた」というこの土地は、約7mの石積みの擁壁の上にある。「小さい土地の場合、四方を住宅で囲まれていることが多く、高台で目の前が抜けている物件はなかなかないのです。ほかにも20件近く見て回りましたが、やはりこの景観や開放感が忘れられず、基礎工事費用が高くなるリスクを考えてもあきらめきれませんでした」Mさんがこの土地を購入し、小さな一軒家を建てたのは10年前。愛車とバイクを近くに置き、好きなものに囲まれてペットと共に暮らしたいと考えたのがきっかけだった。「最初は中古マンションをリノベーションすることを考えていたのですが、ペット不可や駐車場が不十分なところが多くて。一人暮らし用の小さな戸建てなら予算的にも大差ないし、思い描いていた暮らしができるのではないかと思い至ったのです」「自分の好きなように造り上げていくことが前提だった」と話すMさん。シンプルな倉庫みたいな家で検索し、志田茂建築設計事務所が提案するセミオーダーハウス『LWH(ライト・ウエイト・ハウス)』に出会った。“小さな家で好きなものと自分らしく暮らす”というコンセプトは、まさにMさんの考えと合致した。黒いガルバリウム鋼板の外観を引き立てる、2代目のシンボルツリー、アオダモ。小さな前庭の1本の木が道行く人を楽しませてくれる。「20年愛用している」というルノーは特注のカーシェルターにしっかり守られていた。ここで暮らし始めて“大切なもの”に加わった自転車は通勤でも使用。84ccのバイクは買い物など都内移動用。実はもう1台、遠出用に850ccのバイクも所有。約7mの擁壁の上に建つ。崖地という難条件を除いてはベストな場所だった。M邸のモチノキが元気に伸びている。1階のダイニングから一続きになっているウッドデッキは4年ほど前に設置。1階でも3階ほどの高さがあり、浮遊感も味わえる。鉄骨の手すりはMさんが塗装。シンプルな造りにすることで、視界が通り、眺望がさらに楽しめるようになった。ウッドデッキは半年に1度オイルを塗り、美しい状態を維持。シンプルな箱を自分好みにDIY「なるべく何もしないで、シンプルな箱のような形で引き渡しました」と話すのは設計を担当した志田茂さん。自分で造り上げていきたいというMさんの考えを「面白い」と捉え、大らかに寄り添っている。Mさんが早速手掛けたことは、1階、2階の壁に漆喰を塗ること。引き渡し前の週末2回を要し、一人でやり遂げた。入居後すぐには、キッチンの壁に着手。『サンワカンパニー』で見つけたイタリア製のタイルを自ら貼り付けた。その後も、階段の手すりを明るい色のタモ集成材とステンレス金具から濃いめのウォールナットと黒いアイアン金具の組み合わせに変更したり、階段脇のラワンベニヤの上にオーク材を重ねて貼ったりなど、自分のペースでカスタマイズしている。「イメージに合うものがなかったのでずっと付けていなかった」というロフトにつながるハシゴは、デザイン性に富んだハシゴとやっと出会い、住み始めて数年後に取り付けた。気に入るものがなければ妥協せずに探し続けるのがMさん流である。2階の壁は、「より落ちついた雰囲気にしたかった」と当初の白い漆喰からグレーに塗り替えられている。また、“居候”とMさんが呼ぶ、猫のニビちゃんが置物を落として割ってしまったという玄関タイルも、昨年新たに貼り替えた。すでに2回目のマイナーチェンジが始まっている。住まわれて10年。「引き渡した時の仕上げはほぼないです」と志田さん。「使い込まれたウォールナットの床がいい感じになってきました」と目を細めるMさん。自ら選んで発注した床材のメンテナンスも欠かさず、手を加えながら丁寧に家を育て、時の流れを愉しんでいる。1階のダイニングキッチン。窓の外の新緑が心地よく、都心とは思えない時間が過ごせる。Mさんが自ら貼り付けたキッチンの壁のタイル。一部に用いた柄入りタイルがセンスの良さを物語る。スイッチプレートもすべて持ち込んだ。トグルスイッチがインダストリアルな雰囲気。階段の手すり(左側)を変更し、階段右脇にオーク材を重ねて貼り付けたことで、統一感が生まれた。階段上のジグザグのハシゴは、佐賀県の『中島鉄工建設』から取り寄せたもの。ロフトへと続いている。貼り替えを行った玄関のタイル。今回は少し古びた感じをセレクトし、小口には真鍮を合わせた。最初のタイルは猫のニビちゃんがガーゴイル(左上に鎮座)を落として割ってしまったそう。人懐っこいシャルトリューのニビちゃん(メス、3歳)。グレーの毛並みが美しく、濃い灰色を表す“鈍色(にびいろ)”から命名。最近の在宅ワークにより、「猫の1日の生活パターンがわかりました」。こだわりのアイテムをひとつずつ加えてスチールの玄関ドアを開けると、緑豊かなウッドデッキへと続くダイニングキッチンがある。必要最低限の機能のみを付けたステンレスのフレームキッチンや『イームズ』のワイヤーチェアが、無機質で男前の空間を盛り上げる。キッチンの裏側には水回りをまとめた。「バスタブの形とガラスの扉が気に入った」というバスルームは、ユニットとは思えないデザインに驚く。仕切りのない広々としたサニタリールームは、レトロな照明やヴィンテージのトイレットペーパーホルダーなど、Mさんがひとつずつ加えてきたこだわりのアイテムたちに彩られている。2階はリビングと寝室。大きな開口からはたっぷりの光と緑が降り注ぐ。「この眺めをどれだけ生かせるかを最も考えました。窓をできるだけ大きく取るために、ベランダがないのに掃き出し窓を採用しました。もちろん大人の男性の一人住まいだからできたことなのですが」と志田さん。景色が映えるように木製枠にもこだわった。光の移ろいにより表情が変わり、陰影に富む空間は静謐な空気が漂う。自らの感性に響く好きなものたちに囲まれ、ペットと共に暮らすMさんの穏やかな時間が流れている。「次は、洗面台の壁にタイルを貼ることを考案中」とのこと。これからも自分らしい生き方、住まい方を追い求めてカスタマイズは続いていく。1階の窓側から玄関を見る。木の床や現しの天井に、無機質なものが映える。壁にかけた時計は60年代のアメリカ製。「最初からイメージしていた」という、無駄なものをそぎ落としたフレームキッチン。コンパクトな収納棚に一人用の食器類を収めた。ユニットとは思えないお洒落なバスルームは『日ポリ化工』。ユニットには珍しいタイル使いも決め手に。ウェブサイトで見つけたという無骨な照明は、イギリスのバースの創作照明店から取り寄せた。真鍮のトイレットペーパーホルダーは20年代フランスのヴィンテージ。真鍮のマイナスネジで取り付けた。スチールシェルフは50年代アメリカのヴィンテージ。隣のシューズボックスはスチールで雰囲気を合わせ、大阪の『H.I.D』にオーダー。2階リビング。上部は収納として使用しているロフト。「可能な限り大きくした」(志田さん)という窓には木製の枠を付け、さらに十字に木を加えた。「崖側なので、掃除のときの安全のために手すりをつけました」と。木枠が美しいレザーのソファ(左側)は『マスターウォール』。スチールと古材を組み合わせた左側の本棚も『H.I.D』でオーダー。『BISLAY』のスチールキャビネットとも相性がよい。保温電球で照らされているのは、共に暮らして15年になるというグリーンパイソン。「最初は箸くらい小さかったのが今は170cmほどに。ヘビは手がかからないので、忙しい人にも飼いやすいですよ」階段の上はスノコ状になっている。スノコの上に伸ばしたアームから隙間を通して照明を吊り下げた。Mさんのアイディア作。コテでグレーに塗り直した2階の漆喰壁。表面のザワザワ感がいい味を出している。窓からは隣家の反射光を取り入れた。M邸設計志田茂建築設計事務所所在地東京都文京区構造木造規模地上2階延床面積50.5㎡
2020年05月18日高台がいい土地は「高台でいいところがないか探していた」という髙橋さん。見晴らしの良いところに住みたいと思っていたという。購入したのは小田急線沿線の高台で、駅から徒歩で7、8分の敷地。「見晴らしのほかにも土地の形や値段的にも見た中ではいちばん条件が良かった」と話す。南側に向けて大きな開口をつくった髙橋邸。高台にあるため遠くまで視線が気持ちよく抜ける。設計は建築家の小長谷亘さんに依頼。作品を見てデザインのテイストが気に入っていたので基本的にはあまり要望は出さずにお任せして最初の案を出してもらうことに。小長谷さんに伝えた数少ない要望のなかには「ドカンとシンプルに大きな空間があったほうがいい」そして「家の中にカーブしているところがほしい」というのがあったという。「建築のプロが考えたベストプランをまず見てみたいというがありました」と話す髙橋さん。「大空間やカーブのことだけ伝えればあとの細かいところは設計を進めていく間に話し合って決めていけばいい」と思ったという。奥さんは「小長谷さんの施工例を見させてもらって、実際にお話もしてみて、こちらの希望通りに叶えてくれるだろう、希望をくみ取ってくれそうだよねって話を2人でしていました」と話す。大きな開口側(南側)から1階の室内を見る。大きな一室空間のなかに3つのレベルのフロアがつくられている。建具や家具はすべてラワン材で製作されている。大きな空間に大きな白い壁がつくられている1階は美術館のような空気感も。壁に掛けられた作品が映える。グラフィックデザイナーの髙橋さんの師匠にあたる方の作品という。カーブと大空間とスキップ建築家のほうではカーブに関しては「壁に少しカーブがあるとかいいなあというような感じで絶対条件ではない」と受け取ったという。「デザインのヒントのようなものとしてとらえました」。髙橋邸は見晴らしのいい南側に向けて大空間をカーブさせて、その中の3つのレベルをスキップでつなぐという構成になっているが、小長谷さんには次のような建築的な判断があったという。「これからお子さんが大きくなると家族も変化していくのであまりつくりこむよりも空間にお金を使うほうがいいだろうと。景色の良いほうに大きな窓をつくりそれを最大限に生かすためにトンネル状の空間をカーブさせる案を提案しました」。さらに「部屋を大人と子どもで大きく分けるというぐらいのおおらかさのある設計にしました。あとお子さんが小さいので家族が上下にわかれていても気配を感じられるほうがいいいかなと」階段から見下ろす。右側の壁面と左の開口部近くを見るとわかるように壁が一部カーブを描いている。ダイニングから見上げる。右のキッチン上の天井の高さが2.7m、左が3.3m、吹き抜けた部分が6.0mある。左側が子ども3人のための空間で右が大人の空間。3段の階段でつながっている。子どものための空間から見る。大人2人のための空間は壁のカーブに合わせて角度が振られている。時間をかけて何案も検討したのが1階のキッチン。「道路側にも景色が抜けるので対面型にするともったいない。側面に寄せると、流れはあるけれどもダイニング側にキッチンが入り過ぎてしまうとかいろいろとあって、現在の半分囲うような形にしました。収納は冷蔵庫などの大きなボリュームを背の高い収納にまとめてキッチン側は食器棚、反対側を生活のためのものなどを仕舞う収納にしました」(小長谷さん)キッチンの開口からも視線が抜ける。ダイニング側に向けた対面側だとそちらに背を向けるかたちになりもったいないため、検討した末にこの形に。右の食器棚の裏側は生活のための細々としたものや子どもたちの服などが収められている。玄関とトイレの扉を開けたところ。浴室は天井が高いうえに南側の開口から視線が遠くまで抜ける。シンプル空間をカスタマイズこの家に髙橋一家が越してきたのが昨年の6月。もう少しで1年経つがこれまでに自ら表札をつくったり外構を手掛けたりといろいろと手を加えてきた髙橋さんは、今は階段の下のスペースに棚をつくろうと計画しているという。「階段の踏み板に面合わせで同じ集成材で厚さも同じくらいでできればいいんですけど」。壁側から出っ張るようにカーブを付けようかと考えているという。「空間にまだいろいろと設置する余地があるのでそこはとても楽しいですね、自分でつくり上げていく楽しみというか」大きくてシンプルな空間は自分の手で「カスタマイズ」のしがいがあるだろう。大空間のシンプルなつくりは髙橋さんが自分で手を加えるための素材のような気もしてくる。奥さんは「そういう作業を見ているのが楽しい」という。「この前とはなんか違う音がしている、またなんかやってると思って何をしているか見に行くんです」2階の子ども部屋はクローゼット兼納戸につながっている。クローゼット近くから見る。奥にはパソコンが置かれ髙橋さんの仕事スペースになっている。洗濯物を干すことがあるという2階テラスも見晴らし抜群。2階からダイニング部分を見下ろす。吊り下がっている真鍮製の照明はflameの商品。左の浴室の扉は高さ2.7mで合板の最大サイズでつくられている。その上の扉の中には空調機が仕込まれている。外の緑は芝も含め髙橋さんが植えたもの。照明の計画・デザインは小長谷さんの奥さんで、照明デザイナーの内藤真理子さんが手がけた。道路側外観大きな開口の近くは奥さんのお気に入りの場所。髙橋邸(月見坂の家)設計小長谷亘建築設計事務所所在地東京都町田市構造木造規模地上2階延床面積98.53㎡プロデュースザ・ハウス
2020年05月13日2階をリビングにするアイデアからスタート川崎市の高台の住宅地に建つ南原さん邸。今年の3月に竣工したこの家に、貴宏さん、友香さん、萌々香(ももか)ちゃん、壮佑(そうすけ)くんの4人家族が暮らしている。「以前は2LDKのマンション住まいでしたが、30歳を節目に周りも家の話が増えてきていたので、自然と自分たちの家を持とうと考えるようになりました。一生に一度の大きな買い物なので、理想を叶えられる注文住宅にしようと夫婦で話していました」(貴宏さん)。家づくりにあたり、まずは土地を探そうとご夫妻が不動産屋さんに相談したところ、紹介されたのが、設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんだった。「井上さんが、土地とともに提案してくださったのは、リビングを2階にするというアイデアでした。それを見て、こんなこともできるのか、とイメージが広がりました。他の土地も紹介していただいていたのですが、もうここしかない!という気持ちになりました」とご夫妻は振り返る。「周囲が密集地だったため、1階をリビングにすると窓の外にあまり良い環境をつくることができないので、開放感のある2階をリビングにする案を勧めました」という井上さん。この提案が決定打となり、ご夫妻はIYs inc.に設計を依頼。本格的な家づくりが始まった。「温かさだけではない、バリエーションのある空間を意識しました」という井上さん。特に1階と2階の雰囲気の切り替わりのバランスにこだわったという。1階は、中国の伝統的な洞穴式住居「ヤオトン」をイメージして、地下のような雰囲気を木材の温もりで表現した。1階の個室から玄関ホールを見る。こちらも、白いクロスのシンプルな個室から温かみのある玄関ホールへの切り替わりで、自然と気持ちも切り替わるようにした。玄関に入るとすぐに広がるのは、吹き抜けの開放的なホール。フリースペースのような使い方もできるように考えたという。玄関の左側に設けたウォークインシューズクローク。使い勝手も良く、玄関周りもスッキリとした印象に。家のつながりと快適な居心地南原さんご夫妻が家づくりにおいて、何よりも希望したのは、リビングを経由して子どもの部屋にアクセスできること、家族のつながりを感じられることだった。また、友人の多い南原さんご夫妻は「いろんな人が集まれる家にしたい」という想いもあった。これを受けた井上さんは、いくつかのプランを考案。「2階をリビングとしながらも、いかに下の階と断絶せずに、家族の一体感を高められるか」という課題に対し、井上さんが導き出したプランは「家の中央に大きな吹き抜けを設けることによって、リビングと下階の個室群をつなげる」というもの。1階部分に広さをつくるために設ける一般的な「吹き抜け」とは違い、この場合の「吹き抜け」は2階に設けるため、吹き抜けというよりも「大きな穴」というニュアンスに近い。この「大きな穴」を設けることで、玄関から広がる開放的なホールが生まれ、各空間をつなぎ、家族のつながりを損ねることのない居心地の良い空間を実現させた。当初、南原さんご夫婦が選んだのは、吹き抜けのホールがなく、2階はフラットなLDKとロフトというシンプルな構成のプランだったという。「部屋が分断されてしまうのでは、と思いLDKの中央に大きな穴があるイメージがつかなかったのですが、ワンルームの中でも、子どもが遊べるスペースと大人がゆっくりと話せるスペースを分けられるほうが良いと井上さんからご提案いただいて、最終的には現在のプランを選びました。今は井上さんがおっしゃっていた通り、吹き抜けのホールを境にして、リビングで子どもが遊んでいるときも、ダイニングでは子どもの様子を見ながら落ち着いて話すことができています」と声を揃える南原さんご夫妻。「個々の居場所をゆるやかに分けながらも、各空間、家族がつながる住まい」という快適な居場所感と家のつながり感の同居を追求した井上さん。こだわったポイントのひとつには、「回遊性」があるという。「見た目の美しさも大事ですが、いろんな場所に楽しさがあり、動きたくなるような家を最重視しています。今回は、大黒柱を中心とした同心円状の広がりをイメージした設計にしたことで、家の回遊性が生まれました」(井上さん)。吹き抜けのホールを挟んだリビングの反対側にあるダイニングスペース。外からの視線を考慮し、微調整を重ねて配置した窓。また壁や天井の辺に合わせて配置することで、壁に光が反射し、明かりがグラデーションに広がる。2階のリビング。3.4メートルの高い天井と4面に設けられた窓により、明るく開放感のある空間。友香さんの希望で、リビングまで見通せるオープンキッチンに。「調理スペースも広いので、この場所に椅子を持ってきて、子どもと一緒にクッキーやパン作りを楽しんでいます」(友香さん)。大黒柱一本で支える美しさを追求するため、あえて梁をかけず、力強く太い柱にこだわった。壁にはストライプ柄のLVL材を張った。「普通の壁紙ではためらってしまいますが、LVL材は画鋲を貼っても跡が気にならないので、これからは家族の写真や子どもの工作などを飾っていきたいなと考えています」(貴宏さん)。空間と日常風景の美しさが凝縮された家南原さんご一家がこの家に暮らし始めてから約1ヶ月。3歳になる萌々香ちゃんは、ホールの周りをぐるぐる回ったり、階段を昇り降りして、元気いっぱいに家中を走り回っているという。「コロナウィルスの影響で今は家にいなければなりませんが、開放感もあり居心地も良いので、大人も子どももストレスを感じずに楽しく過ごせています。人が集まりたくなるような家というのもテーマだったので、これからは家族や友人を定期的に呼べれば良いなと思っています」(貴宏さん)。「いまだに自分の家ではなく、ペンションに泊まりに来ているような気持ちで過ごしています」(友香さん)。笑顔で語るご夫妻の姿からも、この新たな住まいでの充実した暮らしぶりが伝わってくる。家の中央に大きな吹き抜けを設けるというアイデアによって、家族がつながる明るく開放的な住まいを実現したIYs inc.の井上さんは「LDKに吹き抜けのホールを作るという変わった案でしたが、自分としては理想の家に限りなく近いものだったので、提案を受け入れていただいて嬉しく思っています」と振り返る。「水面を挟んで地上や水中を覗くように1階から2階を、2階から1階を眺める感覚は普通の家にはありません。空間的な美しさとともに、日常風景の美しさや不思議な感覚が味わえ、今までにない魅力が凝縮された家が実現できました」(井上さん)。開放感のある住まいで心地良く家族団欒の時間を重ねる南原さんご一家。家族のつながりを感じられるこの家は、萌々香ちゃんと昨年生まれた壮佑くんの成長とともに、また新たな過ごし方や居場所を示してくれることだろう。家の中心にある天窓からは光がたっぷりと差し込む。「夜になると、月が見えることもあり子ども達が反応するんです。もともと天窓を設けるつもりはなかったのですが、今は天窓があって良かったと感じています」と貴宏さん。萌々香ちゃんもお気に入りのロフトは、現在はプレイルームとして活用している。ロフトの窓からは、富士山が望める。使い勝手や機能性を考えて「GRAFTEKT(グラフテクト)」のキッチン、「ミーレ」の食洗機を導入。「大幅に時短となって、子どもとの時間も長く持てるようになりました」と友香さん。青空に映えるシンプルな外観。窓には日光がたっぷりと差し込む。南原さん邸設計IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)施工株式会社坂牧工務店所在地神奈川県川崎市構造木造規模地上2階建延床面積101.73㎡(ロフト除く)
2020年05月11日広いピアノ室がほしい大谷さんが家をつくろうと思ったきっかけのひとつは「別に住んでいた高齢の母と一緒に住もうと思った」ことだった。そしてもうひとつは「ピアノのレッスン室がほしかったから」だったという。ほぼ一日中ピアノを弾いているという大谷さんは、以前と同じように自宅で練習ができかつピアノ教室を開くことができることにくわえ、クラシックのコンサートを行えるスペースをつくりたいと思ったという。「コンサートもできる広いピアノ室がほしいとお伝えしました。それと家にあるモノをぜんぶ見ていただいてこれがすべて収まる家にしてくださいと。あと1階のピアノ室と2階のプライべートスペースとで玄関をふたつにわけること、コンサートの出演者の控室が1階にほしいというのもお願いしました」コンサートを開けるピアノ室のためにつくられた玄関。前庭の植栽デザインも建築家の岸本さんが手がけた。ピアノ室のための玄関からアプローチを見る。家型のポストもacaaの設計。防音にこだわる大谷さんが一番気にしていたピアノ室の防音は住宅の設計を依頼した建築家の岸本さんが自ら手がけた。「大谷さんは人生をかけてピアノをやっていて、この住宅はそのためにつくったような家」だと話す岸本さん。「木造2階建てのコスト規模の中でいかに広い空間を確保しつつ、防音性能を上げていくかということが一番の要望でありまた一番の問題でもありました」と続ける。最初は防音部分については専門の業者に依頼することも検討したが、コストがまったく折り合わず岸本さんが考えたオリジナル仕様で対応することに。反響を起こさないようなプランを練るとともに「あらゆるところから情報を集めて、音を伝えない方法と材料を徹底的に調べあげて」つくりあげたピアノ室は「防音のプロがやったよりも性能が上がっている」と胸を張る。間接光が壁の下部にぐるりとめぐり、また開口のある壁側にはカーテンがかけられているため落ち着いた空気感のあるピアノ室。空気感をつくる照明出来上がったピアノ室には静かに音楽へと集中できる落ち着いた空気感が漂うが、これには間接照明を採用したことが大きく作用しているように見える。「岸本さんが間接照明にしましょうと。それで壁際にライトがぐるりと回っているんですが、それがすごくきいてます」と大谷さん。グランドピアノの置かれている壁側にはカーテンがかけられているが、これが法規上必要とされる上部の開口部から入る自然光を和らげるとともに下部からの間接照明によってふわっと和らいだ光を周囲に広げている。さらにまたこのカーテンは楽器の響きを調整するための装置でもあるという。「正面にある壁と正対しているため反響があります。そこで一方の壁にカーテンをかけることで音の響きを調整することができるようにしたんです」(岸本さん)。左奥の先にエントランスがありそのレベルからピアノ室は3段下がっている。奥の壁とピアノの上の天井は反響を避けるためにフラットにせず傾斜させている。24脚置かれたセブンチェア。大谷さんはこの椅子が気に入りプライベートスペースのほうでも使うことに。天井にはロックウール吸音板を張っている。コンパクトな中でつくる距離感と一体感2階の居住スペースは約55㎡(ロフト含まず)。大谷さんのお母様と2人の息子さんとの4人家族のためのものとしてはかなりコンパクトだが、大谷さんは「ほどよく居場所が離れている」という。「寝室に向かう途中に3段の階段があって、ワークスペースとは仕切りもないんですが、ダイニングキッチンとうまく距離が保てているのでいいですね」と話す。これは「とてもコンパクトな面積の中で狭さを感じさせないために」行った岸本さんの建築的工夫によるもの。「仕切りをできるだけ設けずに床の仕上げを変えてそこに丸柱を立てたり、スキップフロアをつくったり」しているのだ。しかしそれだけではなく、逆に、小さな場所が集合してできたこの2階スペースに一体感をつくり出すためにその上に大屋根を架けている。1階のプライベートスペース側につくられた演奏者の控室。2階のプライベートスペース。正面奥が階段。左がお母様の部屋で右に洗面所と浴室がある。動線も自然狭いスペースでは移動がしづらくなることがあるが、プライベートのほうの玄関から2階に上がってダイニングキッチンとワークスペースを通り奥の寝室までの「動きがとても自然で、動線がすごくよくできている」と大谷さんは話す。かつまた「どのスペースもまんべんなく使われていて無駄がない」という。左の女性が大谷さん。ダイニングキッチンの奥に息子さん2人の寝室と大谷さん用のロフト、3人が使うクローゼットがある。階段を上がって右手にワークスペースがあり、テレビとパソコンが置かれている。階段は3段で54㎝。床の仕上げを変え柱を立てることでダイニングと奥のスペースを分節。またキッチンとワークスペースとは階段によってゆるやかに分節されている。ダイニングテーブルは岸本さんにオイルと磨き方を教えてもらい大谷さん自身が塗装した。家型が反復する特徴的な造形が見られる天井部分。もうひとつの玄関からピアノ室への動線も気に入っているという。「わたしはピアノの部屋がいちばん気に入っているんですが、階段を3段下りてその下がホールになっているんですね。コンサートホールって階段を下りていくことが多いですが、それをイメージしてそうしてくださった」防音のほうも完璧だという。周りに気兼ねする必要のない環境かつ音楽に浸るのにうってつけの空気感のなかで、今まで以上に練習にも生徒さんのレッスンにも熱が入るのではないか。そしてたぶん、大好きだというベートーベンやショパンを弾く喜びも増しているにちがいない。プライベート用の玄関はガレージ側につくられている。大谷邸設計acaa撮影上田宏所在地神奈川県藤沢市構造木造規模地上2階延床面積109.09㎡
2020年05月06日どこにいても明るい暮らし「家中のどこにも、暗く、じめじめしたスペースがないんです。明るく開放的に暮らせるのが、何より家を建ててよかったと思うところですね」。そう語るのは、整理収納コンサルタントとして活動している須藤昌子さん。9年程前、家族3人で暮らす2階建の一戸建てを設けた。「3分割されて売っていた土地を見つけ、ネットで探した一級建築士事務所に相談しました。隣家に接した土地なので、ここにどんな家が建てられるのかと思いましたね」。須藤さんの希望は、光の入る細かい仕切りのない家、そして収納にも配慮した家にしたいということだった。「それ以外はあまりリクエストしませんでした。プロの先生にお任せしたほうが、いいものになるのではないかと思って」。光に満たされた家は、優秀建築物として「第20回千葉県建築文化賞」を受賞。リビングの吹き抜けを取り囲むように、仕切りをできるだけ排した空間がつながり、“ガラスのブリッジ”と名付けた2階のガラス床を通って、トップライトからの光が1階へと抜けている。2階の廊下から1階リビングを見下ろす。“ガラスのブリッジ”は、まるで空を渡るような感じからネーミング。トップライトやバルコニーからの光が1階まで届けられる。螺旋階段を採用して、階段を抜けのある空間に。開口の代わりにプロフィリットガラスで外からの視線を避けつつ、光を通している。ガラス張りの吹き抜けテラスでは、いずれガーデニングも行う予定。廊下突き当たりの扉の奥は、玄関からもつながっているシューズクローゼット。ガラスのブリッジを通って居室に。右手にバルコニーに上がる階段がある。吹き抜けを介して光が回遊。隣家から見える左手の一角にはルーバーを設置した。琉球畳を敷いた和室からリビング方向を見る。すっきりと暮らせる工夫を「正面にはアパートが建っているので、そちら側には窓など一切ないんです。左右に建つ隣家からの視線も避けながら、うまく開口を設けて、明かりをとっています」。玄関を入るとガラスに囲まれたウッドデッキのテラス。その向こうに大きな吹き抜けのあるリビングがある。「海外からお客さんがくることも多いし、いずれ両親を迎えることになるかもしれないので、畳の和室を設けました。今は引き戸を常に開放して、リビングの延長として使っています」。開放的な上にすっきりと美しいのは、「モノを出しっ放しにしない」という須藤さんのルールが生きているから。「家を建てる前に住んでいたところは、押し入れが狭くて。戸建てを建てたら何とかしたい、というのがありました。庭があって物置を置けるわけでもないので、掃除道具や工具、生活必需品などすべてを収められる“シューズクローゼット”をリクエストしました」。玄関からもリビングにつながった廊下からも入れるよう動線を考えたストレージが、特に役立っているそうだ。床材はサクラの無垢を採用。エアコンも見えないように目隠しされている。白い空間にインテリアでアクセントを。塗り壁に見えるよう極力薄い壁紙を選び、職人の技で施工。開口の位置に工夫が凝らされた和室。黒い壁紙が印象的。「モノを置かない」ことに徹したダイニング。テーブル上は常に最低限のモノのみ。外からの視線を遮りながら、明るさで包んでくれるリビング。キッチン奥に家事ルームを希望「お料理をしながら、家族とコミュニケーションがとれるので、キッチンは対面式を希望しました」。キッチン台の前にはカウンターを造作。毎日帰宅の遅い夫が夕飯をとるのに、サーブしやすくて便利なのだそう。また、キッチンまわりでの作業が多い須藤さんにとって、大事なのがキッチンの奥にある“家事ルーム”。「パントリーでもあるのですが、私の仕事部屋でもあるんです。棚だけでなく机も造作してもらって、ここで毎朝ブログを書くなど、仕事をしています」。仕切りの引き戸はツインカーボを使っていて、戸を閉めて中に籠っても、やはり光が抜けるようになっている。「お風呂はいろんなパターンを考える中で、ホテルっぽくすることに決めました。ガラス張りの真っ白な空間だけに、きれいにしておかないと汚れが目立ってしまいます。お掃除の手は抜けませんが、常に清潔に保てるので良かったと思っています」。対面式のキッチン。収納などは使いやすさを考えて造作した。掃除のしやすいステンレスのキッチン台。大きなシンクに付いているトレーの上では、パンをこねたりもでき、さらにそのまま洗えて便利。こだわりの家事ルーム。食材だけでなく、仕事や日常に必要な書類を保管。造り付けの机では執筆活動も行っている。清潔感いっぱいのバスルーム。床にはLIXILのサーモタイルを。築9年とは思えない美しさ。空とつながるトップライト2階の居室は、天空を渡るような“ガラスのブリッジ”がつなぐ。「娘の部屋は、真ん中に可動式のクローゼットを置いてシンメトリーに仕切っています。しっかり勉強してもらわないといけない時期なので(笑)、勉強するスペースと遊ぶスペースを分けているんです」。どちらのスペースも、上にはそれぞれロフトがつき、いずれはどちらかをベッドルームにする予定だそう。大きな開口の向こうには、青い空が抜けるように広がっている。「夜は星空が見られてきれいですよ。住宅地にあって明るく、自然も感じられる、開放感のある暮らしを楽しんでいます」。中央に可動式クローゼットを置くことで、シンメトリーになった子ども部屋。左右の階段からロフトにあがることができる。無駄なもののない主寝室。衣類などはウォークインクローゼットに一括に。子ども部屋のロフトの床にもガラスを採用。空からの光が降りてくる。ファサードに開口のない、白い箱のような潔い外観。ブログ「ROOM COZY」が大人気。整理収納コンサルタントの須藤昌子さん。著書に「死んでも床にモノを置かない」(すばる舎)なども。
2020年05月04日石と木の素材感が心地よい稲村ヶ崎の海のすぐそばに建つアメリカ西海岸風のスクエアな建物が、照明器具や家電の輸入を手掛ける稲村ヶ崎の『HERMOSA』の代表、牛尾秀樹さんのお宅だ。「築8年の中古住宅を購入し、『デコデモデ』にお願いしてリノベーションしました。内外装をやり直しましたが、家のレイアウトが良かったので間取りは変えていません。ちなみに、ここはもともとショールームとして使われていた家だったようです」リビングの壁一面に施した石の壁が印象的だ。石の自然のままの凹凸を生かし、ナチュラルに仕上げられている。「ハワイのオアフ島のタンタラスの丘に行く途中に『リジェストランド・ハウス』というミッドセンチュリーの名建築があるのですが、その家をイメージしました。この1面で約1トンの石を使っています。バランス良く仕上げていただいた職人さんには感謝しています」リビング側は吹き抜けになっていて、ダイニング側の2階が個室になっている。吹き抜けに面した窓はリノベーションの際に設置。ダイニングテーブルの後の収納家具はミッドセンチュリーの家具をイメージして製作した。一昨年、リビングのソファをEMECOのものから、パシフィックファニチャーサービスでオーダーしたものにチェンジ。TV台も併せて製作。ランダムかつ立体感が感じられるように貼られた天然石がカッコいい。照明はフランスのジェルデライト。ローテーブルの脚に使っているのはスウェーデン軍のキャビネット。サイドから開閉できる。天板は床と同じ、教室の床のようなスクールパーケットと呼ばれる床材で製作ケーススタディハウスがお手本にイームズをはじめとするアメリカのミッドセンチュリー家具に惹かれ、インテリアを扱う仕事を始めたという牛尾さん。「カリフォルニアのイームズ邸には何度も訪れました。我が家のリノベーションのデザインは、ケーススタディハウスが手本になっています」中庭には屋根をかけ、シーリングファンを取り付けている。ケーススタディハウスの深い軒をイメージさせる。「薪ストーブはデンマーク製の大型のものに買い替えました。中でTボーンステーキを焼いたり、ダッジオーブンで料理したりと、楽しみが広がりました。この辺りは気候が穏やかなので、この薪ストーブと小型の石油ストーブで充分暖まります」「キッチンは扉を木目にし、把手を換えました」フルトハンザの機内で使われているカートをカスタムしたドイツ製のプロダクト。下部に冷蔵庫が収納されていて、照明のカラーがリモコンでコントロールできる。「『ハモサ』でも取り扱いがあります。人気の商品です」。隣の白い消化器は蔦屋家電で購入。「リオン社のスチールロッカーはパシフィックファニチャーサービスのものです。別注色のサンプルで、このオーシャンブルーが気に入って分けていただきました」玄関のドアには船舶用の窓を使用。ブロックは沖縄のもの。「壁はツヤのある、少しクリームがかった色にしました。このツヤ感がミッドセンチュリーのアメリカの住宅らしさを感じさせてくれます。汚れが落としやすいのも気に入っています」。2階へ上がる階段はカーペット敷に。海からバスルームに直行できるよう大改装「実はバスルームの改装に一番お金がかかっています」と牛尾さん。海からウエットスーツのままでバスルームに直行できるように、壁を抜いて新たに出入り口を作ったのだそう。「鍵を持たずに海に行けるように、鍵は暗証番号式のものにしました」そしてウエットスーツを干すためのバーも設置。スイッチプレートやドアノブなどのディティールや、ツヤ感のある壁のペイントのニュアンスなど、細かな部分にも気を配ることで、アメリカのミッドセンチュリーを感じさせる家を完成させている。バスルームと洗面所の仕切りは木製。「水に強い南洋材を使っています」。バスルームの裏口を出るとすぐにボード置き場がある。リノベーションの際、ドアもアメリカを感じさせるものに交換。「ドアノブはアメリカのものを使っています」洗面所周りの小物は、アメリカのキャンブロ社製のケースに収納。スイッチプレートにもこだわっている。
2020年04月29日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年の7月にスタート、8周年を迎えます。そこで、今回、特別企画として、これまで取材した家の中で『100%LiFE』に集う読者の方々に人気のあった家を、テーマごと振り返ってみました。読者の皆さんが興味をもった家とは?第1回は、最近話題の「アウトドアリビングの家」、人気の10軒を紹介します。type1家にいながらアウトドアライフをキャンプの楽しさを家でも家でくつろぐ感覚を外でも部屋で使う家具をそのままアウトドアに持ち出して使えることをコンセプトにしたショップ『INOUT』オーナーの小林卓さんのアウトドアな家。type2海を愛する建築家の自邸海まで3分。カリフォルニアスタイルのヴィンテージハウス数々のカリフォルニアスタイルの家を手がけてきた建築家・岩切剣一郎さん。満を持しての自邸は、茅ヶ崎の築約40年の平屋のヴィンテージハウス。type3100年経っても色あせない家西海岸の空気感を感じながら暮らす緑に囲まれたテラスが心地良いK邸にはどこか西海岸の空気感が漂う。夫妻の「ライフスタイルと両立する家にしたい」そんな思いが込められている。type4雨が降ると池が出現子どもの成長を見守りながら外を感じて過ごせる家池田岳郎さん・亜希子さん夫妻のお宅の前庭には、雨水を溜めると大きな水盤が現れるシカケがある。夏はここで子ども達が存分に水遊びを楽しめる。type5車庫をギャラリーに鎌倉の森の隣に人が集まる場所を作る稲村ヶ崎の海を望む丘の上。既存の半地下の駐車場をギャラリーに改造し、1階をカフェに。住まいと、地域の人が集まる場所の両方が完成した。type6漫画の世界にも通ずる住空間リビングが外にあって、直接空を望める家で暮らす高橋邸が立つのは中央線沿線の「安くて小さい土地」。そこに設計者で漫画家の高橋さんが建てたのはリビングが外部にある家だった。type7モノを即物的に扱い混在させた家おおらかな自由さの中で居心地よく暮らす山田邸でまず目を引くのは、その外構部分。家づくりでは「このスチールの骨組みと緑からなる外構をいかにつくるか、そして家のほうはそれに向かっていかに生活できるようにするか」が出発点となった。type8見たことないつくりのRC住宅都会の狭小地で街とつながって暮らす建築家が正方形の敷地にほれ込んで建てた家は、梁と床・天井のスラブを大胆にずらしてつくられた、今までにない体験のできるコンクリート住宅だ。type9縁側は“外にある居間”逗子の戸外感覚溢れる家で暮らす緑あふれる逗子の地での家づくりを決めた老子夫妻。建築家へのリクエストのひとつは「家にいるのに外にいるような感じで暮らしたい」だった。type10逗子の自然に溶け込む本物の素材に包まれる上質な暮らしの心地よさ世田谷から逗子へ。共にインテリアデザイナーの高城さんご夫婦が選んだのは、自然の中に溶け込む暮らし。素材にこだわった上質な空間が完成した。
2020年04月28日ピロティで駐車がスムーズに松村さんご夫妻と長男(14歳)、長女(9歳)の4人が暮らすのは、東京・世田谷の閑静な住宅街。複数駅・路線が利用できるアクセス良好な地である。ここにはご主人が学生時代まで過ごした実家があり、ご両親が移り住んだ後、8年ほど生活。2年半前に、自分たちの家族構成やライフスタイルに合わせて建て替えた。設計を担当したのは、向山建築設計事務所の向山博さん。奥さまが自宅の町名で検索した際、向山さんが手がけた同じ町名の作品に出会ったという。「奇をてらわず、シンプルで住みやすそうなところに魅かれました」と話す。松村邸の敷地は、四方を住宅に囲まれた私道の奥に位置し、接道はわずか2m。「間口が狭いため、以前の家では、S字カーブを描くようにして車を入れていました。おかげでずいぶん運転技術が上がりましたよ(笑)。建て替える際の最初の希望は、簡単に駐車できるようにしてほしいということでした」(ご主人)この問題を解決するために向山さんが提案したのは、玄関前をピロティにすること。南側の庭まで連続した広々としたスペースを取り、車をまっすぐ入れてそのまま駐車できるようにした。「駐車が楽になったので、以前乗っていた四駆車に買い替えたいと思っています」とご主人。自転車を利用している奥さまにとっても、「雨ざらしにならずによい」と好評である。周囲を住宅に囲まれた私道の奥に建つ。控えめな開口の外観が印象的。玄関前をピロティにすることで、駐車が楽に。荷物の出し入れも雨に濡れず便利。2階の廊下の足元に設けた小窓から、長女が手を振ってくれた。開口が少なめのファサードの中にも遊び心が。階段下は大容量の靴を収納できるスペースを確保。アパレル関係に勤務するご主人の靴が多いそう。階段はフローリングと同じ無垢材を使用。玄関を入り、階段の反対側には子ども部屋が2つ並ぶ。子ども部屋の壁には有孔ボートが貼られ、各自が自由に使用。長女はショップのディスプレイ風にオシャレに整理整頓。主寝室。部屋の前の廊下から続く濃紺の絨毯が落ち着いた雰囲気。光を取り入れながらプライバシーを確保松村邸は1階に個室をまとめ、2階はダイニングキッチンを中心とした共有スペースとなっている。「もともとここに住んでいたので、日差しの具合や近隣の生活の様子を把握していました。以前の家は日中でも照明をつけなくてはいけないほど暗かったため、LDKは2階にすることが必須でした」(奥さま)「周囲の建物が近いため、外周の開口を極力減らし、2階中央に“光庭”を設けることを考えました」とは向山さん。リビング、ダイニングキッチン、ワークスペースを取り囲むように配置することで、各部屋のすみずみまで自然光が届き、プライバシーを守りつつも明るく開放的な空間を実現した。同時に、「テレビを見ながら食事したり、勉強したりする、だらしない状況を避けたい」という奥さまの考えにも対応。テレビを置いたリビングから、ダイニングやワークスペースを離し、光庭によってスペースをゆるやかに区切った。ガラスにより視線が抜けるため、圧迫感はなく、実際以上に広がりを感じられる。また、光庭越しになんとなく家族の様子を感じ取ることもでき、広いワンルームとは異なった、この程よい距離感が心地良さを生んでいる。リビングから光庭を通して、右奥のダイニング、正面のワークスペースが見える。光庭に面した窓はFIX窓を採用し、採光と眺めを重視した。中央の光庭を囲むようにワークスペース(奥)、ダイニング、左側のリビングへ続く。光庭の床は屋内よりも20cm高くし、ステージのような造りに。光庭前の廊下を通って、奥のリビングへ。三角形のFIX窓により、光庭から階段へたっぷりの日差しが入り、1階まで光を届けている。ワークスペースの背面には水回りと収納を集め、家事動線を考えた造りに。大型のウォーキングクローゼットも設置し、上部には約7畳のロフトも。ワークスペースを奥まった位置に配したことで、仕事や勉強への集中力もアップ。空を眺めて気分転換も。2階を見渡せる対面キッチン2階全体の様子が見渡せる位置に配したキッチンは、オールステンレスの対面式。背面の造り付け棚はネイビーをチョイスした。「以前の家はキッチンが独立していて、扉を介してダイニングだったので、その行き来が不便で、キッチンとダイニングの距離を短くしたかったんです(笑)。また、白っぽいキッチンも避けたいと思いました」(奥さん)無機質なステンレスの光沢を木製のヴィンテージテーブルやさりげなく飾られた植物が引き立てる。スタイリッシュでありながらあたたかみのあるカフェのような雰囲気を放っている。北沢産業でフルオーダーしたオールステンレスのキッチン。左側のベンチは家事の合間に腰掛けたり、物を置いたりするのにも便利とのこと。ダイニングテーブルは北欧のヴィンテージ。エクステンション付きで来客人数によって変更できる。オランダのスクールチェアをコーディネート。「早く炊けて、ふっくら美味しいですよ」と、ご飯はガスで炊く奥さま。あらかじめガス栓を設置した。鍋やフライパンもすっぽり入る、『AEG』の大型食洗機。「家事の時短には絶対的なアイテムですね。1回まわすだけで全て洗えますよ」(奥さま)。働く主婦の味方である。光庭からつながる贅沢な屋上ご主人の念願だった“屋上”は、光庭に設置された階段でつながり、ダイニングキッチンの真上に位置する。スペースもダイニングキッチンと同じ13畳という贅沢な広さで、天気の良い日は富士山や東京タワー、東京スカイツリーをひとり占めできる。夏場は大きなプールを置き、日焼けを楽しんでいるというご主人。「ぼくの部屋です(笑)」というほど、屋上で過ごす時間が長いと話す。「夏場でも水だと冷たいのでは、という話になり、工事中に突然、お湯が出る仕様に変更してもらいました。大正解でしたね」と嬉しそうに話すご主人。その居心地の良さがますます屋上での滞在時間を延ばしているようだ。夏休みには、奥さまの中学時代からの友人たちが子ども連れで泊まりに来るのが恒例行事に。ご主人が子どもたちのプールの監視員(?)と化し、奥さまたちは安心して光庭やキッチンまわりで話に花を咲かせているという。光庭を介して程よくつながり、さまざまな居場所がある松村邸。外観からは想像がつかない、閉じつつも開放感のある空間で、家族それぞれの時間を楽しんでいる。人工芝を敷いた屋上。サッカーボールを蹴ったり、バーベキューをしたり。夏場は大きなプールを設置する。夏場に登場するビッグサイズのプール。奥さまの友人のお子さんたちがみんなで入っても余裕の大きさ。(写真/ご家族提供)光庭からダイニングを見る。階段を上がれば屋上に。中学2年の長男はすでに180cmを超え、学年で1番の長身に。決して小柄ではないご主人よりも大きい。松村邸設計向山建築設計事務所所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階延床面積127.51㎡
2020年04月20日土地の記憶とつながる以前から近くに住んでいて街が気に入っていたという映画作家の北川さん。設計を依頼した吉田州一郎・あい夫妻と敷地の周辺を歩いて、街の良さ、気に入っている部分を紹介して回ったという。「いっしょに歩きながら、北川さんが “この踏切のこういった風景が面白いんです”と。それが街の風景を映画のシーンのように見ていて新鮮だった。わたしたちも路地に街の面白さが詰まっているのを感じました」と話すのはあいさん。周辺の路地ではブロック塀が入り組んで立ちそれぞれの家が好みで貼ったタイルが見え隠れするという。「ブロック塀のように構築的なものが密にある一方で、突然パンと空が抜ける場所があったりして心地がいいんです」(あいさん)。そこで「デザインでこの土地の記憶をつなぎとめこの街ならではの雰囲気を引き継ぐことができないかと考えた」(州一郎さん)という。3階のダイニング。正面の波板はあえて外部に使う素材を使った。素材のグレーが周囲の色とマッチしている。キッチンを階段近くから見る。天井の最高高さは3.6mある。継承しつつ開く建築家のお2人との打ち合わせのなかで北川さんは「道路とルーズにつながって暮らしたい」「街とシームレスにならないか」と伝えた。これがまたこの家の設計コンセプトに大きく反映して、街の風景を継承しつつ街に対してプライバシーを保ちながら開いたつくりになった。「街の塀の間を歩いてきてそのまま1階に滑り込むと、2階は対照的に閉じて囲まれたつくりになっていて、上に光を感じながらさらにのぼって行くと3階は周囲に視線が抜けて空が気持ちよく見える」(州一郎さん)という構成だ。ダイニング側から見る。壁を隔てて右にリビングがある。ダイニングとリビングの間に段差があり、1段20㎝×2で40㎝の高低差がある。開口からは視線が遠くまで抜ける。3階のテラスの一部は2階から吹き抜けている。キッチンから見る。ダイニングの奥は1階から吹き抜けていてそこに本棚がつくられている。ダイニングとキッチンの天井には登り梁が並ぶ。北川さんから「どこかに木がほしい」というリクエストが出ていた。家族とつながる街の記憶は壁の立て方や段差、タイルなどの組み合わせによって継承することを考えたという。そして「行き止まりがなくぐるぐると回れる」と北川さんが表現する回遊できるこの家のつくりは、家族の暮らし方から導かれたものでもあった。「家族の皆さんが家にいる時間が長いんです。そこで家族同士がつながりつつも距離を保つにはどうすればいいのか工夫しました。3階のダイニングとリビングは空間的には近いけれども間に壁があって気配は遠かったり、あるいは段差を介して居場所を少しずらすなどして回遊空間に変化を与え、滞在時間が長い家族がいかに距離感を保ちながら心地良く暮らせるのかを考えました」(あいさん)2階の子ども部屋から見る。戸を開けると2階全体が開放的に。右が主寝室。階段の向こう側に木の踏み板が延びていて北川さんの使う机になっている。2階の中庭から見上げる。浴室はリクエストで大き目のものにした。左のタイルはトイレ、キッチンに貼ったものと同様、奥さんがあいさんと話をしながら決めた。北川邸ではさらにリビングが1階・3階と2つあることも特徴になっている。これも「距離を保つ」ためのもうひとつの居場所として、北川夫妻のリクエストでもあった。「1階に近所の人を呼んでちょっと集まれる場所がほしい。子どもだけでなくパパも野球をやっているので、おやじの会みたいな、みんなで集まれる場所があったらいいなと。また大きなテレビを壁にかけて家族で甲子園大会とか観たいというのもお話しました」(奥さん)。2階から1階の玄関部分を見下ろす。本棚は3階まで続く。奥の扉は納戸のもの。路地がそのまま入り込んできたような空気感もある1階リビング。右のガレージの間のガラス戸を開けてキャッチボールをしたいというリクエストもあったという。「玄関までアプローチがほしかったけれども伝えてなかった」。しかし最初の案ですでにこのようにアプローチが取られていた。深さのある手洗い器がこの空間のなかでデザイン的にもおさまりがいい。開放的な1階リビング。外から来た人も気兼ねせずに入りやすいつくりだ。段差は統一されていてここの高低差も20cm。ワンシーン=ワンショットの家?奥さんは吉田夫妻から「設計のアイデアを聞くたびにいつもワクワクしていました」と話す。北川さんも「できるのが怖いくらいで、ずーっと設計してたらいいんじゃないかみたいな感じで」ワクワクし通しだったという。竣工して住んだ感想をうかがうと「どこにいても声が聞こえるというのがとてもいいなと思います」と奥さん。北川さんからは「僕の机が2階にあるんですが、2階にいても1階・3階にいる人を感じられるのがすごくいい。気配がつながっているので家族みんなで暮らすのにとてもいい家だと思っています」という答えが返ってきた。街や家族とのつながり感は北川さんがこの家にぜひほしかったものだが、これは空間のつながりと一体になって生まれた。「行き止まりがなくぐるぐると回れる」この家のつくりを映画的に表現すると、それぞれのシーンをうまくつなげてひとつのシークエンス(家)がつくられている、ということになろうか。あるいはワンシーン=ワンショットでつくられていると・・・。ダイニングに置かれたテーブルが波板の色とうまくマッチしている。鮮やかな赤色が特徴のライト。カンパリソーダの瓶を使ったもので既製品という。この羽のついたライトも既製品で、北川さんとあいさんとで選んだもの。タイルの色、形、レイアウトは奥さんとあいさんの2人で密に話し合いをして決めていったという。「路地感みたいなものを感じさせる」「圧迫感がでないようにボリューム感を崩す」などしてできた外観デザイン。1・3階に対して2階が閉じたつくりになっているのがわかる。北川邸設計アキチアーキテクツ所在地東京都目黒区構造木造規模地上3階延床面積118.83㎡
2020年04月15日横浜市にある3階建の新築住宅。自宅で料理教室「ハレとケ」を主宰している料理家の五味幹子さんが、チャータークルーズ運行の仕事をする夫の岳さん、愛犬のエアー君とともに暮らすこの家は、横浜駅からひと駅の最寄り駅より徒歩3分という便利な立地に建つ。以前は賃貸の戸建に住んでおり、その頃より自宅で料理教室を開いていた幹子さん。新たな住まいでも料理教室を開くことを考慮し、物件選びは、LDKの広さと生徒さんが引き続き通いやすい場所であることを重視した。「駅近でここまで広いLDKのある物件はありませんでした。中古のリノベーションも考えましたが、充実した設備や耐震性など、さまざまな面で新築のメリットを感じて、購入を決めました。また、アクセスにおいては、以前の住まいの最寄り駅から徒歩15分、横浜駅からも近道を使えば徒歩13分ほどと、交通の選択肢が多かったことも決め手のひとつです」(幹子さん)。求めていた条件にぴったりと当てはまり、施工済みの新築住宅を購入した五味さん夫妻。しかし、キッチンには、どうしても手を加えたい場所があったという。「元々、キッチンカウンターの上に造作の吊り戸棚があったのですが、そのせいでキッチンとリビング・ダイニングが仕切られてしまっていたのが、すごく嫌だったんです」と話す幹子さん。そこで、引き渡し後、知り合いの大工さんに依頼。吊り戸棚を取り外したことによって、キッチンからリビング・ダイニングまで視線が抜ける心地よい開放感のある空間が生まれた。L字型のペニンシュラキッチン。元々、吊り戸棚があった場所にはオーダーしたペンダントライトを設置。シンクの後ろには、葉山ガーデンでオーダーしたストッカーと引き出し収納を設置。五味さん夫妻がDIYしたという上部の棚には、教室で使うセイロやおひつが並んでいる。キッチンのコーナーには愛用の調理器具が並ぶ。右上の棚も五味夫妻によるDIY。幹子さんの希望で、料理家パトリス・ジュリアンプロデュースのビルトインコンロ「+do」とガスオーブンを導入。高火力かつ使い勝手の良い五徳で料理も抜群に捗るという。3階へ続く階段。壁には雑貨屋で一目惚れしたというお花のタペストリー。階段に置いてあるのは、今治産の無農薬のレモンを塩漬けにしたもの。ル・クルーゼの専任アドバイザーも務めていたという幹子さん。しっかりとした作りの棚には、愛用のル・クルーゼの鍋が並ぶ。四季を大切にした家庭料理キッチンとリビング・ダイニングで構成された2階は、暮らしの中心地であると同時に幹子さんの料理教室の場でもある。こだわりの家具とともに、中心に置かれているのは、前の住まいより引き継いだレッスン用の大きな作業台だ。教室は月ごとに設定したテーマに沿って、1ヶ月単位でレッスンを行っている。1回完結型で気軽に参加できるため、遠方からの生徒さんも多い。また、独身時代から通い始め、現在は子育て中という生徒さんも少なくないという。そのため、月10日程度のレッスンのなかには、親子で一緒に参加できる日を設けている。「味噌づくりがテーマの時は、お子さんと一緒に作ってもらって、ちょっと遊ぶ感じで楽しく日本の食文化を知ってもらいたいなと思っているので、ぜひ一緒に来てもらいたいです!」と笑顔で話す幹子さん。そんな幹子さんの生み出す料理のテーマは、日本の四季を大切にし、昔ながらの日本の食材を使った家庭料理。自然素材にこだわった調味料や発酵食品を使いながらも、難しいことはせず毎日作れるような料理だ。「できるだけレシピを見ないでも作れるように基礎を覚えてもらって、みなさんそれぞれの家庭の味を作ってもらいたいという思いでお伝えしています」(幹子さん)。レッスンの際、以前の住まいと比べて、大きく変わったのは、「動きやすさ」だという。「前の住まいでは、椅子を引くと人が通るスペースがなくなってしまったのですが、今は二人でも行き来ができるくらいスペースにゆとりが生まれて、教室進行もスムーズになりました」(幹子さん)。広々としたリビング・ダイニング。中心にあるのは、収納を兼ねた作業台。レッスンの際は生徒さんはここで作業をする。アンティーク調のペンダントライトは葉山ガーデンで購入。テーブルに光が当たるように、ソケットの位置を改修し移動させた。素材や色、サイズ感など、五味さん夫妻のこだわりを追求した革張りのオーダーソファー。「手すりも自在に取り外しができるセパレートタイプで、とても軽いんです。足も抜けているので掃除がしやすいという点も気に入っています」(幹子さん)。吹き抜けの窓から差し込む光がリビングを自然な明るさに。「北向きなので、夕方までずっと心地良い明るさなんです」と幹子さん。ガラス食器などが収められているのは、100年前のイギリス製のアンティーク棚。目黒の家具屋さんで一目惚れしたという。リペアされているので、作りもしっかりとしている。取材時につくっていただいたランチは、教室の3月のテーマだった「ハンバーグ」。弾力があり、肉の旨味たっぷり。ふっくらとした炊き上がりの土鍋のご飯も美味しい。ジャックラッセルテリアのエアー君(13歳)。来客があると嬉しくなり、元気いっぱいにはしゃぐそう。ゆっくりと自分たちの好きなものを集めていく「以前は賃貸だったこともあり、いずれはこの家を出るという考え方をしていたので、家に合わせたものを買うことはありませんでした。今は、ゆっくりと自分たちの好きなもの、ずっと大事にできるものを集めていきたいと思っています。家自体もまだまだ手を加えたい場所がありますが、焦らず少しずつやっていこうと思います。夫は綺麗好きなので、少し乱れると、すぐ手を入れています(笑)。でも、すごく家を大事にしているんだなと伝わってきます」(幹子さん)。施工済みの物件を、少しずつ自分たちの理想の住まいへと近づけている五味さん夫妻。これからも変化を続けるこの住まいで、料理や趣味を楽しむ、五味さん夫妻らしい暮らしが紡がれていくことだろう。玄関を正面に見る。1階には料理道具などを保管する多目的な洋室とトイレ、バスルームがある。昔から通っている生徒さんから、引っ越し祝いのプレゼントでもらったという手作りの刺繍のウェルカムボード 。音楽が趣味のご主人・岳さんの書斎。この住まいに合うような木を選び自作したラックには、CDがずらり。コーナーとしてCDを統一して揃えるのが念願だったという。「コレクションを眺めながら、お酒を飲む時間は格別です」と岳さん。特にお気に入りのローリング・ストーンズは面出しで。料理教室ハレとケRESERVED CRUISE
2020年04月13日庭に佇む納屋のように多摩御陵へと続くケヤキ並木の参道沿い。自然に恵まれた、神聖な空気感の漂うこの場所に、ランドスケープデザイナーの石川洋一郎さんは4年前に自邸を構えた。「この辺りは風致地区なんです。まわりの景観にふさわしい家を建てることが求められる中で、風景をつくる人間として何ができるかを考えました」。ニオイシュロランをはじめ、世界各地からのグリーンが生い茂る庭に囲まれて、焼杉の外壁の家が佇んでいる。「庭と家をセットで考えました。リビングからインとアウトをどのように形づくるかを大事にしましたね」。ベタ基礎のレベルにコンクリートを敷いた土間のようなLDKから、そのまま地続きにつながる庭は、石川さんと、ガーデンデザイナーである妻・メアリーさんがデザイン。建物の設計は「shushi architects」の吉田周一郎さんに依頼した。「イメージしたのはBURN(農家の納屋)です。作物を育てて保存するための簡素で無駄のないデザインを、石川さん家族の暮らしにどうフィットさせるか試行錯誤しました」と吉田さんは言う。コンクリート敷きの土間のような大空間のLDK。南面に大開口が設けられ、庭との一体感が感じられる。モンステラやサンスベリアなどインドアグリーンが、庭との境界を曖昧にする。玄関は左手のシューズクローゼットの奥に。正面のソファーはハンス・J・ウェグナー。外壁の焼杉をDIYで納屋のようなシンプルな箱型の家を包む焼杉の外壁は、石川さんがセレクトした。「風景に溶け込む家にすることを考えたときに、自然素材は必須でした。焼杉なら焼いて炭化させることで経年変化のデメリットを防いでくれるし、メンテナンス性もいいんです」。驚くのは、その杉の木をDIYで焼いたということ。「山梨の知り合いに間伐材を製材してもらい、自ら実加工をし、現地で焼いて乾燥させて持ってきました。コストの面もありますが、自分がやりたいことを少しずつ、手をかけて形にしていきたい。だから箱だけを建ててもらって、未完の状態で引き渡してもらいました。今も進行中なので、この家はまだ竣工していないと思っています(笑)」。住み始めた時は、仕切りもドアもない状態だったという。石膏ボードのままの壁に漆喰を塗ったり、本棚を作って空間を仕切ったり、暮らしながら少しずつつくりあげてきた。「工事中も現場に入ってDIYをしていました。建築家、工務店の理解ができないとなかなかできないことですが」。庭とダイレクトにつながるリビング。コンクリートが蓄熱して冬も暖かい。セルジュ・ムーユのウォールランプの下は、Bang&Olufsenのスピーカー。地域に向けて開かれるファサード。南面のみ杉材で、他の3面に焼杉を使った。腐食しにくく約50年の耐久性があるという焼杉の外壁は、断熱性、清浄効果も高い。光と緑に包まれる家「動物の巣のように、住まいは主(あるじ)自身でつくられるのが本来の姿です。石川さんはデザインも施工もできる本来の住まいの作り手だと感じているので、こちらは空間構成、構造、工法、断熱など性能の設計に専念して、石川さんが自ら造りあげる“ハーフビルド”にお任せしました」(吉田さん)建築家・吉田さんは、隣家を避けて明るい日差しがリビングに届くよう、南面の西側に階段の吹き抜けと2階までの開口を設けることを提案。「庭に面した南向きの大開口は、太陽が高い位置を通る夏は日が中まで差し込まず、逆に冬はリビングの奥まで差し込んでくれて、効率的です。冬はペレットストーブ1台で、蓄熱も長く続き暖かく過ごせます」。リビングの奥にあるキッチンは、石川さんがデザインし、家具職人がモルタルの天板にクルミの木の面材で造作。壁にはイタリアから輸入した大理石をDIYであしらった。「キッチンの窓から庭の景色を眺めるのが好きなんです」。というのはアメリカ出身のメアリーさん。フランス、ニースで活動していた石川さんと出会い、結婚。南仏のアトリエのように光と緑に包まれたこの家で、双子の長女サフラン(蒼)ちゃん、次女インディゴ(藍)ちゃんとともに、ここでの暮らしを楽しんでいる。階段下の空間を利用してペレットストーブを設置。木質ペレットを燃料とするため、エコ暖房として注目されている。ソーラーパネルの設備も備え、エコロジーな暮らしを追求。ダイニングキッチンも庭続きの土間に。テーブルは天板にカットした脚を組み合わせて作ったもので、今後はより大きいものに作り変える予定。大理石、モルタル、クルミの木の異素材がミックスされたキッチン。右手の食器棚もDIYで。窓越しのグリーンが美しいキッチンで。ガラスの床を介して、2階の気配も感じられる。1階の奥にあるアトリエでは、メアリーさんが教室を開いたり、子供たちが遊んだり。1階のバスルームは、モルタルを使ったシンプルで清潔感のある空間。洗面台も造作。ハリー・ベルトイアのワイヤーチェアーは、メアリーさんがかつてアメリカで使っていたもの。吹き抜けに設けた開口から、光が差し込む。ペレットストーブの温かな空気も2階へ届けられる。廊下は自由に過ごせる共用部ベッドルームのある2階もまた、未完の状態からつくっていった。主寝室に子供部屋、ゲストルーム、シャワールームがあるが、それらをつなぐのは、廊下ではなく共用部。「余白を残しておきたいし、閉じこもる空間をなるべく減らしたい。だから廊下は要らないと思いました。廊下にあたるスペースにはソファーと本棚を置き、子供たちが読書などをして楽しんでいます」。床の一部には強化ガラスをはめ込んで、1階を見下ろせるように。ガラスを通して家族のコミュンケーションが図れるほか、屋根のトップライトからの光を、1階にまで届けることができる。「2階の床は、入居してからクルミの木をDIYで張ったんです。寝室のクローゼットもクルミの木を使い、後からつくりました」。天井まで届く高さの主寝室のクローゼットは、石川さんがデザインして家具職人が造作。ベッドフレームもDIYで作成した。読書スペースの窓の先には、これからデッキもつくる予定だという。ハーフビルドは続いている。廊下の概念を覆す共用部。DIYで設けた本棚は、奥のゲストルームの仕切り代わりにもなっている。共用部に置いたソファーで読書をするインディゴちゃん。シャワールームの扉はベニヤで仮につけたもの。階段を登ると現れる一角。集成材に色を塗りDIYで作った棚を本棚に。壁にはお子さんの作品を飾る。海外のファームハウスのような主寝室。ベッドはベニヤにベンガラ塗料を塗ってDIY。クルミの木のクローゼットも石川さんがデザイン。取っ手の代わりに手をかけられる凹みをつけた。ゲストルームには小上がりを設け、琉球畳を敷いた。クローゼットと棚の裏側は共用部の本棚になっており、壁代わりでもある。ロフトのある子供部屋。柵はテーブルの代わりにも。当初なかった階段はクルミの木でデザインし、後から大工さんと施工した。いつまでも完成はない1階のキッチンの奥には、メアリーさんが開く英語教室やワークショップのためのアトリエも設けた。「近所の子供たちがやってきて、いつも賑やかなんです。2階のゲストルームにはホームステイの学生も招いています。家という垣根なく、みんなが集える場所にするのが理想ですね」。リビングから続く庭にもいずれウッドデッキをつくる予定だが、今はタープを張り、近所の人を招いてバーベキューなどを楽しんでいるそうだ。「いつ竣工するんですかって聞かれるんですけど(笑)、住んでいるとどんどん新しくやりたいことが増えてきて、いつまでも完成はないんです。庭と同じように試行錯誤していくことが、こういうところに暮らすライフスタイルだと思っています」。TREEFORTE inc.代表・ランドスケープデザイナー、石川洋一郎さん。メキシコ原産のユッカなど、庭には立派なグリーンが多数。開け放った開口から、心地よい空気が流れる。人間は潜在的に植物に癒されるという、“バイオフィリア”の仮説に納得。近所の人も気軽に訪れるアウトドアリビング。ここで過ごす時間が長いそう。石川邸設計shushi architects所在地東京都八王子市構造木造規模地上2階延床面積150㎡
2020年04月06日コンセプトは台湾に住むアメリカ人『toolbox』で住宅やオフィスの内装設計施工を担当している渋谷南人さんと、きもののスタイリング/着付けの『kifkif』の大川枝里子さんのお宅は、築60年ほどの約90㎡の一軒家。「この家は、基本自由に改装してもよいという、願ってもない条件でした。まず天井、壁を全て白くペイント、リビングの床をフローリングに、ダイニングキッチンはコルクの床を貼りました。間取りは特に変えていません。改装費用は出来る限りかけたくなかったので、会社や職人さんから捨ててしまうような端材をもらい、仕事に行く前や土日の合間の時間を使ってDIYでコツコツ進めました」この家のコンセプトは、”台湾に住むアメリカ人の部屋”なのだとか。「もともと二人とも手持ちの家具や雑貨が多く、私はアメリカやヨーロッパの古いものが好きなのですが、妻は昭和を中心とした和の雰囲気のものを集めていて、かつリビングのすぐ隣には和室もある。全てを強引にMIXさせようとした結果、そうだ、台湾に住んでるアメリカ人風というコンセプトで行こうと(笑)。和室の入り口の枠全体を朱色に塗ってバランスを取ったり、古い紹興酒の壺を置いてみたり、全体的に改装費用はかけられなかったのですが、せめて空間にしっかりテーマ性は持たせたいと思いました」壁と天井は白にペイント。梁はそのまま残した。渋谷さんが指を指している部分の棚受けは、なんと、macの梱包材(段ボールの中でモニターが動かないように支えている部分)なのだとか!「とても頑丈ですし、おもしろい形なのでなにかに使えないかなと考えていて、ひらめいたのが奥行きの浅い棚受けでした(笑)」この家の唯一のキーカラーは濃いめのグリーン。棚の中に渋谷さん好みのキッチュな小物が並ぶ。引き戸の木口を、キーカラーのグリーンに塗装する遊び心に注目!古道具屋で買ったスピーカーを縦積み。キッチンでは肉を一週間かけて仕込むことも渋谷宅には来客も多いのだとか。お客様へのおもてなしが、目下ハマりにハマっているのスモークバーベキュー。「ときには仕込みに1週間、そして12時間かけて燻製器でじっくりと焼くこともあります。庭でスモークができるのも、一軒家ならではですね。今も仕込み中の肉が小さな冷蔵庫を占領しています」ダイニングテーブルの天板は、なんとドア!脚は『toolbox』。イスはお気に入りのものをバラバラにセット。キッチンの扉にはメラミン材の裏を表にして貼った。キッチンのペンダントライトは、電球にレフ球を使うことで傘がなくてもダウンライト的に手元を明るくできる優れもの。キッチンのタイルは枝里子さんが貼ったのだそう。すごい! 「夫が外でタイルをカットしている間、私がせっせと貼っていきました。目地の幅を均一にするのがとても難しかったです」なるほど”台湾のアメリカ人”っぽい、無国籍感がキュートなキッチン。下駄箱の上は『toolbox』のフローリング材の端材を載せている。広い和室はきもののコーディネイト空間2階の2間続きの和室はあえて手を入れずにそのまま残した。水屋のある本格的な和室だ。畳の部屋は、枝里子さんがきものを広げてコーディネイトをするのにとても重宝している。「1階と2階の雰囲気をあえて変えて、違いを楽しんでいます」。きもののコーディネイトを考える際、広い和室はとてもありがたい存在なのだとか。「箪笥はたぶん中国のものだと思います。宇都宮の古道具店で買いました」床の間には、ダルマや歌舞伎のはりこ人形を並べて。2階の奥の洋室をベッドルームに。木製のカーテンレールは『toolbox』のもの。
2020年04月03日「100%LiFE magazine」プレゼントメルマガ登録いただいたみなさまに、住まいづくりのノウハウ満載のスペシャルコンテンツ「100%LiFE magazine」をお届けします。お届け方法は、ご登録後に届くサンクスメールをご覧ください。100%LiFE Magazine Vol. 1都市部の住宅は、敷地面積やコストの関係などから、どうしても小さくなりがち。では、その限られたスペースの中でどうすれば、住み心地を向上させられるのか。都市に多い「狭小住宅」の建築的なアイデアを集めました。会員登録・応募はコチラから
2020年04月03日人生をフルに楽しみたい人たちへ。100%LiFEより、家づくりに関する特別なレポートをお届けします。名付けて「100%LiFE magazine」。数多くの住宅事例を知る100%LiFE編集部が、様々なテーマにあわせて厳選した、快適な家づくりのアイデア集です。きっと読者の皆さんの参考になるはずです。「100%LiFE magazine」は、月2回配信するメールマガジン会員の方だけのSpecial Contentsとしてお届けします。データは、PC用A4サイズとスマートフォン用の2種のPDFをご用意しました。下記より、ダウンロードしてご覧下さい。100%LiFE Magazine Vol. 1住空間の可能性を広げる狭小住宅のアイデア都市部の住宅は、敷地面積やコストの関係などから、どうしても小さくなりがち。では、その限られたスペースの中でどうすれば、住み心地を向上させられるのか。都市に多い「狭小住宅」の建築的なアイデアを集めました。ダウンロードはこちらから Vol. 1 for PC PC用A4サイズPDF Vol. 1 for SP スマートフォン用PDF
2020年03月30日この面積で暮らせるのか保坂邸は約19㎡。建築面積ではなく延床でだ。これはさすがにとてつもなく狭いのではないか、そう思って訪れたが、室内を拝見してまず最初に「意外と大きい」と感じた。たぶん、この印象は上に大きく抜けた吹き抜けから受けたものだろう。この吹き抜けがなかったら「大きい」という印象はなかったに違いない。建築家である保坂さんでさえ、この床面積ではたして住むことができるのかとの思いをずっと抱きつつ設計を進めていたくらいなのだ。「この大きさのものは設計したことがないので実績がない。不安でしょうがなかった」という保坂さん。実は当初、2階建てでの設計を考えていたという。通勤を考えて購入した土地は横浜に建てた前の家と敷地の大きさもプロポーションも似ていた。当然ながら同じ2階建てで考えていたが、ある日、要望を出してほしいと伝えていた妻のめぐみさんからの話で変更することに。グリーンが狭い空間に潤いをもたらす。椅子の下も収納スペースに使っている。道路から室内を見る。窓の部分も収納に活用。棚はコンクリートに付けた凹みに載せているだけ。平屋でつくる「そのときちょうど読んでいた江戸時代の生活の本の話をしたんです。当時は家族4人で4畳半でも決して狭くないという生活をしていて、それがここでは2部屋以上取れる。それくらいの広さだと考えたらまったく狭くないと思ったのでその話だけをしました。そしたら保坂に“わかった”って言われて、“えーっ、わかったの?”って思ったんですけれど、そのあとは何を聞かれるわけでもなく、しばらくして出てきたが平屋の案でした」平屋案に至ったのには横浜の家とは異なる敷地条件もかかわっていた。「決定的に違うのは南北に7階建てのマンションが立っている点で、2階建てにすると床と天井の高さが近くてトップライトを開けると空よりもマンションが見えている印象が強くなってしまうんです」(保坂さん)奥にベッドが置いてありそのまた奥の外部にバスタブがある。間にキッチンがあるため、手前のテーブルのところで夜遅くまで起きていても奥で寝ている人には気にならないという。左右の壁の間の寸法はいちばん広いところで2425mm。キッチン側から道路側を見る。キッチンと奥のスペースの間には段差が設けられている。キッチンに並ぶものには料理好きのめぐみさんのこだわりが感じられる。オーディオ関係は前の家の時よりも大きなものに取り替えた。レコードはちょうどその幅の分凹ませたコンクリートの壁に立てかけられている。ポジティブに考えるとはいえ床面積は横浜の家と比べほぼ半分。「前の家でもすごくコンパクトな生活だなと思っていたのにその半分になる。ふとんのサイズは半分にならないし椅子だって半分の大きさにはならない」。しかもめぐみさんからは大きなベッドがほしい、冷蔵庫を大きくしたいという要望も出ていた。自身もオーディオ関係を大きなものに取り替えたいと思っていた。いずれの要望も厳しい敷地条件とは逆方向を向くもの。さらに、トップライトからの採光のシミュレーションをしてみると11月から2月の半ばくらいまでまったく直射光が入らないことが分かったという。しかし狭さに関しては読んでいた本から、「“やってみればできるかもね”ってポジティブになれた」し、光に関しても「北欧でも直射日光がまったく当たらない季節があるので、ある意味冬は北欧のような生活ができる」というふうにポジティブな方向に頭を切り替えた。「冬は直射光が入らないんですが、トップライトから天空光が柔らかく入るのでそれを楽しむ空間にしようと。夏は燦燦と光が入るので北欧から南国までの光の変化を楽しめるというコンセプトで行こうということになりました」天井を見上げる。トップライトは2つの円弧からできている。ぶら下がっているコンクリートの壁は南からの光を反射させてベッド上の天井を照らす。トップライトからの光が時間ごとに違う場所に光の筋をつくり出す。ベッド側から天井を見る。狭くてもなんでもある内部の設計コンセプトも狭さゆえに向かう方向とは逆の方向で基本方針を立てた。「面積からするとヴィジュアル的にも生活的にもいろいろとそぎ落とす方向に行きかねないところで古代ローマのハドリアヌス帝などが大事にしていた〈学問、入浴、演劇、音楽、美食」という5つの要素を、こういう小さな家でも大事にできるようにしよう」と。こうして露天風呂も加わった保坂邸。保坂さんは冒頭にも書いたように実際に住み始めるまで不安でしょうがなかったというが、すべて杞憂に終わりお2人とも充実した日々を過ごしているようだ。「すべてがここにあるという感じがしています。前の家ではモノをなるべくもたない生活を楽しんでいたんですが、ここではほしいものはなんでもあってそれを楽しむ生活をしている感じがします」とめぐみさん。めぐみさんは「都会で露天風呂をつくっても入らないのでは」と思ったがとても快適で2人とも毎日入っているという。大きめのシャワールームが風呂の隣のスペースにつくられている。キッチン側から奥を見る。狭いためトイレとシャワールーム以外は扉をつくらないという方針のもと、コンクリートの仕切りの間のスペースをクローゼットとしている。保坂さんもこう話す。「日本でも戦前までは多くの人が狭くても豊かに住んでいましたが、現代はそうした生活とは完全に一回切れて住宅事情というのができていて脈々と受け継がれてきたものが途絶えている気がします。でも実際にこの狭いスペースで自分が生活をしてみると、このぐらいでも住めるというかむしろ楽しく暮らせる。そして、生活で大事にしているものをすべて入れ込んでいるから密度も濃い感じがしますね」住み始めて、狭くても楽しく豊かに過ごせるだけでなく、さらにまったく予想だにしなかった楽しみも生まれているという。「引っ越してガラス戸のすぐ向こうを人が通るなんてまったくイメージもできなかったし、想像すると少し怖い感覚すらあって窓を開けられないんじゃないかとも思っていました。でも今はふつうに窓も開けていて、そうすると話しかけてくる人がいたり中には“家の中を見せて”っていう人もいるんです」(めぐみさん)。そうしたコミュニケーションが楽しく近所の方ともつながりができたという。前の家とはまた異なる楽しみを何重にも感じながら暮らしているお2人の話の端々から暮らしの充実ぶりがうかがえた。窓の上には旅行先で購入した小物などが置かれていた。コーナー部分も本の収納スペースに。反対側のコーナーにも同様に本が置かれている。コンクリート壁にいくつかニッチをつくって収納スペースにしている。奥は保坂さんがよく使うペンのペン挿し。左のコンクリートの段差はハンコや付箋などの小物を置くためにつくられたもの。家の前の道路も保坂邸の敷地。ここを近所の人たちが通勤や買い物などで通り、室内のお2人に声をかけてくる人もいるという。玄関は右の側面につくられている。保坂邸設計保坂猛建築都市設計事務所所在地東京都文京区構造RC造規模地上1階延床面積18.84㎡
2020年03月23日動物園を間近に感じて暮らす共働きの野添聡司さん、真由美さん夫妻は、お互いの通勤の利便性を考え、土地探しをスタート。2年近く経ったときに探し当てた土地は、横浜屈指の人気エリアで、駅からも程近い南向きの傾斜地。住宅密集地でありながら素晴らしい眺望が魅力だった。「一目惚れでした」とは真由美さん。南側には、動物園のある小高い丘があり、四季折々に変化する樹木が臨める。時折、動物の鳴き声が聞こえてきたり、キリンの頭がのぞいたりと、ワクワクする風景が広がっている。「住んでみて、これほど動物園を近くに感じるとは思いませんでした(笑)。ほかにも船の汽笛や野球場の歓声なども聞こえてきます」土地探しから相談し、設計を依頼したのはイマジョウデザイン一級建築士事務所。素材の良さを生かしたシンプルで端正な作品に魅かれたという。「今城さんが最初に描いてくださったざっくりとした図面から、自分たちで模型を造って立体に起こし、ミニチュアで造った家具を置いてみたり、あるアングルから写真を撮っては“こういう風に見えるのか”と確認したりして、イメージをふくらませていきました。自分たちで造ることが好きなので、そういう作業が楽しかったですね」(真由美さん)職場は異なるもののデザインの仕事をしているお2人。すでに解体してしまったという模型の写真を見せていただいたが、それは現在の住まいにかなり近い完成度の高いものであった。南向きの傾斜地に建つ。眼下には住宅街が広がり、その先の小高い丘に動物園を有する公園がある。「あ、キリンの頭が見えた!」と薫ちゃん(6歳)が教えてくれた。ダイニングに座りながらも景色が楽しめる。「動物園の“サルの餌やりタイム”には、にぎやかなサルの声が響き渡ります(笑)」と聡司さん。気持ちのよい眺めを得たキッチン「フロアごとに役割を明確にしたかった」という真由美さん。1階は収納や水回りなどの機能面を詰め込み、2階は家族で豊かな時間を過ごす場に。そして、基礎を兼ねた地階は完全プライベートなスペースとし、生活と空間にメリハリをつけた構成にした。テラスと一続きの2階リビングは、内と外が一体化した広がりのある空間。眺めの良さを最大限に活かした造りになっている。フルオーダーのアイランドキッチンを家の中央に配し、ダイニング中心の生活を選択した。「家に居る時間はキッチンに立っていることが最も長いので、ここから眺望を楽しみたいとリクエストしました。ここからのビューは最高ですよ!思い思いのことをしている子どもたちを近くに感じ、安心して家事ができますね」特注の大きな窓のサッシは引き込み式で、レールも落とし込んでいる。フルオープンする窓を通して見る景色は、まるで1枚の絵のよう。季節や空の移ろいなど美しい風景がもたらす非日常感を堪能できる。また、野添邸ではテレビの代わりにプロジェクターを導入。真っ白な壁に移し出された映像を、ソファ代わりとなる小上がりから鑑賞している。多彩な楽しみを届けてくれる2階リビングは、心を豊かにする寛ぎの場となっている。キッチンからの眺めを重視し、家の中央に配置。テラスへと視線が抜け、のびやかな気持ちで料理ができる。ダイニングセットは友人の家具職人にオーダー。「ウォールナットの細かい材を組み合わせたモザイクっぽい感じが気に入っています」(真由美さん)。最後まで悩まれたという照明は、景色やプロジェクターで映し出す映像を邪魔しないようにスポットライトを採用。手元までしっかり明るく照らすプロ仕様のもの。キッチンは建築家の今城さんがデザインした造作。ステンレスの天板と真っ白なキッチン台を濃いめの床材が引き立てる。壁のタイルは野添さん夫妻で貼り付けた。夫婦でキッチンに立つことも多いため、作業場所を分担しやすく動きやすいよう回遊性のあるアイランドタイプを採用。冷蔵庫は奥のパントリーに収納。食洗機から取り出した食器は最短距離で仕舞えるようにと、収納場所を考え尽くしている。ゴロゴロできる小上がりを希望。対面の壁に映し出された映像は、ここから鑑賞する。薫ちゃんがオモチャを広げたり、客人の宿泊スペースとしても活用。床材と同じアピトン材のローボードは聡司さんが造作したもの。ベンチとしても使用可能。撮影時は、組み木のひな人形が可愛らしい空間のアクセントになっていた。キッチンと階段の間の壁に設けた小窓は今城さんのアイディア。「繊細な造り込みが素敵ですよね」と真由美さん。1階に機能面を集中させる中間階である1階に、家族4人の衣類や小物を全て収納するクロークルームと、バスルームや洗濯室、洗濯物を干すテラスなど、機能面を集中させた。動線を考え尽くし、毎日の家事を楽しめるように演出されている。また、野添邸の特徴のひとつであり、センスの良さが光るのがエントランス。引き戸を採用し、大きく開放することで、雨がかりのないポーチから玄関ホール、サニタリールーム、階段室などがつながり、趣のあるスペースが生まれた。「それほど面積のある家ではないので、玄関だけとか洗面所だけといった空間を仕切るより、スペースを兼ねて有効活用してもらいました」(聡司さん)外と室内の境界をあいまいにしたことで、聡司さんが趣味の日曜大工をしたり、植物好きの真由美さんが土いじりをしたりするのに便利と話す。「洗濯物を干しながら、玄関ホールを通して階段の方をふと見ると、ああ、いい家だなぁって思いますね(笑)。超特急で家事をしている中でも癒される瞬間です」(真由美さん)開放的な玄関ホール。引き戸により開口部が広く取れるため、作業するにも便利。洗面台脇のカーテンで仕切ることも可能。玄関脇の外収納。聡司さんが作製した棚により、長男の野球道具やキャンプグッズがぴったり収まっていた。土間ではなく外のポーチにしたことで掃除も楽とのこと。「手入れの楽なものを植えている」という玄関前の植栽。程よく伸びたハイノキ(右側)が、目隠しの役割も。温かみのある木製の引が戸が印象的なエントランス。引き戸を開け放つと、玄関前のアプローチから、玄関奥の物干しテラスまで視線が抜ける。1階には、洗濯の動線を考えて配置したサニタリールームや物干しテラスがある。左側に設けた壁が、玄関からの程よい目隠しになっている。フレキシブルに住まうコンクリート造の地階は広々としたワンルーム。急勾配の敷地を活かして設えた窓からは、地下とは思えないたっぷりの光が入る。現在は、ベッドルームと子どもたちの勉強スペースとして使用している。「地下はいかようにもできるように、がらんどうの状態にしてもらいました。子どもたちの成長や生活スタイルによって変化していくと思うので、住みながら考え、変えていければいいかなと思っています」(聡司さん)この部屋の大きな収納は聡司さんが造ったもの。大作と思いきや「作製期間は1週間くらい」とのこと。「市販のベニヤ板の長さがちょうど収まったので、それを組み合わせて造っただけ。解体するのも簡単です」と。そのときどきの家族のニーズに合わせて変化できる自由度の高いスペースとしている。共働きの野添さん夫妻は、家事は明確に分担するわけではなく、それぞれの仕事の忙しさによって「できるほうがする」というスタンス。家づくりも対等で、お互いが納得するまで話し合いを重ねて形にしていったという。今後も対話を大事にしながらお2人らしいエッセンスを加え、時が経つほどに愛着が深まる住まいとなっていくことだろう。地階とは思えないほど、大きな窓から日差しが入る。カーテンで目隠しした大型収納は聡司さんが作製したもの。撮影時には会えなかった長男の晃(ひかる)くん(13歳)は、リトルシニアリーグ(硬式野球)で活躍中。最近、勉強に集中できるようにと、ロフトベットを入れた。収納の階段側は本棚を造作。壁にぴったりくっつけず、回遊性をもたせた。野添邸設計イマジョウデザイン一級建築士事務所プロデュースザ・ハウス所在地神奈川県横浜市構造木造(1階、2階)+RC造(地階)延床面積103㎡
2020年03月16日森の景色を楽しむ「緑の多いところ」に的を絞って土地探しを始めたAさん夫妻。Google Earth(グーグルアース)で奥さんが緑をたよりに見つけた敷地は、Aさんの実家に近くAさんがもともと気に入っていたエリアだった。実際に見てみて購入を即決したのは裏側が森のような豊かな緑に面する敷地だった。「窓を開け放ってこの景色が楽しめそうだというのがいちばんの決め手」になったという。正面に見える森はAさんが子どものころに遊んだことのある場所で、そのころとまったく変わってないという。ふたりに大事なことから家づくりではまず設計を依頼した保坂猛建築都市設計事務所との打ち合わせからスタート。奥さんは「“このような家にしたい”みたいな具体的なことはまったく言わなかった」という。Aさんは「安全で居心地が良くてこの家にいることで人間関係が充実する。そして空間に触発されて自分の発想や考え、行動とか雰囲気の幅が広がるような家をもちたい」と希望を伝えたという。これに加え、自分たちの現在の暮らし、今までどう生きてきたのかこれからどう生きていきたいのか、そして自分たちの好きなこと、大事なことについてじっくりと話をして伝えていったという。ダイニングの上にはトップライトがある。木漏れ日のような光が時間が経つにつれて変化していく。キッチン側からカフェコーナーでくつろぐ夫妻を見る。ふたりの時間への投資「よくよく考えてみて、結婚してからふたりで一緒に過した時間が人生の中でいちばん大事だったねっていう話になった」と話すのは奥さん。「家を建てること自体がそのふたりで過ごす時間への投資だというような考え方で始まっているんですね。そしてそこからふたりだけで閉じずに人間関係を構築していって物事に対する感じ方、感覚も含めて広げていけるようにしたい。保坂さんのクリエイティビティ、創造性に触発されて自分たちの人生が変わっていく。そこにものすごく期待しました」夫の保坂猛さんとこの家の設計にかかわった恵(めぐみ)さんは「おふたりが大切にしているもののひとつに“食べること”があるんですが、そうした大事にしていることから2人の関係と時間を築き上げていく。それを何よりいとおしく思っている人たちなんだというのが話をしていてわかったので、ふたりの距離感をうまく建築の中に取り入れていければと思いました」と話す。さらに「料理をつくったりおしゃべりをするスペースのほかに、ふたりで茶を飲むスペースがあり、また自分たちが大事にしている本を読む空間もある。そうした中で、ふたりの距離感がつねに自分たちでつくることができる。そして、同じ方向を見ているときだけではなく、別々の方向を見ているのにふたりの距離感がとても近かったりするような空間をつくることができればと思いました」とも。玄関側の廊下から見る。突き当りの右側に階段、すぐ右手にはテレビのあるスペース、さらにその奥にはウォークンインクローゼットがある。キッチンの上にもトップライトがつくられている。キッチンのシンクはL型でこれが使いやすいという。奥さんが自身のお父様にすすめられて始めた土鍋料理。料理が楽なうえに不思議なほど味がおいしくなるという。ふたりが多くの時間を過ごすというカフェコーナー。2人にちょうどいいサイズにテーブルがつくられている。専用につくられた棚に収まった土鍋。いろいろな種類のものを教えられてどんどん増えてしまったという。壁のような大きな引き戸を開けると料理に使う調味料や缶詰、お酒などを収納した棚が現れる。奥が玄関。この廊下ですでに洞窟の中にいるような感覚がある。森との関係をつくる設計では、室内をそうした方向でつくり上げるとともに、この室内が目の前に広がる森のような景色とどのような関係をつくっていくかも大きなポイントになった。「プライバシーを確保しつつ、緑とか光や陰、風を感じられる家。あと季節の移ろい、時間の移ろいによって、同じ場所なのにいろんな顔をもつ家に住みたいということを最初にお伝えしました」とAさん。「箱根のポーラ美術館の雰囲気が好きで、あのような静かなたたずまい、森の中にあるみたいな雰囲気が好き」なことも伝えたという。保坂さんはこの森のような場所の、人工的につくられた公園にはない「(自然の)原初的な感じ」に着目した。その原初的なものを全面ガラスにしてすべてが見えるようにするのではなくて、あたかも洞窟の中からその原初的で美しい自然をうかがうようにできないかと考えたという。美しい場所に出ていく楽しみ、見る楽しみが生まれるような空間をつくる。そこで軒を延ばしてあえて室内から見える景色を絞り込んだ。その軒はまたそのような眺めをつくるだけでなく、斜めにつくられていて雨の日には片方の端から雨が流れ落ちるようになっている。そうすることでその端の部分以外では軒からはほとんど雨が落ちてこないという。「自分の目の前には雨が落ちないでその先に雨がさーっと降っている。これがとても幻想的で、自分のいる場所と向こうの世界はつながっているのに違う世界のような感じがするんです」と奥さん。さらに、夜の「月の光を受けた景色も幻想的で、窓の外が全面青白く光る」のだという。「窓があって、緑が見えるオープンなお風呂に入りたい」とリクエストした浴室は、奥さん曰く「露天風呂のよう」。浴室とベランダを見る。2階の奥さんの部屋も開口の部分で風景が絞り込まれている。階段を上がると奥さんの部屋、手前右側に浴室がある。幸せの意味が分かるようになった引っ越しをされてから1年半ほど。Aさんはこう話す。「思い描いていた、暮らしたかった生活がほんとに目の前にあるという感じですね。自分でも想像できてなかった、あっこういうものを求めていたんだという空間が目の前に広がっている感じがして毎日まったく飽きないです。いつも新たな発見があり新たな感動があって、2人の大事にしていたお茶の時間だとか食の時間だとか自然を眺める時間だとかがすべて楽しめる空間になっていて大満足です」奥さんは「幸せということの意味が分かるようになりました」と話す。「小さなことを積み重ねていく。それがほんとに幸せということなんだって。この家から得た幸せを考えるとものすごく良い投資だったなと思います」「小さな幸せがいっぱいある」というこの家での暮らし。この幸せの感覚は室内空間のつくりに加え、森のような場所に対面することで人間のもつ原初的な感覚が解き放たれるなかでも深まっているのではないか、そのように思われた。お気に入りの場所でお茶をしながら森を見るAさん夫妻。月夜の晩にはあたり一面が青白く光って幻想的な風景になるという。ピクチャーウインドウでもある開口にダークな色合いのフレームがフィットしている。屋根の中央部分に開けられているのは浴室の開口。屋根が斜めに切られているため、雨が降ると右の端の部分に雨水が集まって落ちるという。道路側から見る。建物の左側に既存の地下駐車場があり、そこに荷重をかけられなかったため、これを避けて配置計画を行った。A邸プロデュースザ・ハウス設計保坂猛建築都市設計事務所所在地千葉県市川市構造木造規模地上2階延床面積61.83㎡
2020年03月11日