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山林付きの土地を購入神奈川県鎌倉市の眺めの良い高台で暮らす黒沢征佑喜(まさゆき)さん一家。以前住んでいた東京都三鷹市周辺から土地探しを始め、予算の都合と自然豊かなのびのびと暮らせる環境を求めて徐々に南下していった。探し始めて2年近くが経ち、ようやく出会ったのが、この山林付きの住宅地。「この土地を見たとき、ここだ!と思いましたね。裏に山林があって、眺望も素晴らしくて。裏山っていろいろなことができそうじゃないですか。ツリーハウスを建てたり、ジップラインやスラックラインを設置したり。自宅でキャンプが楽しめるような、アウトドアライフを満喫できる家が夢だったんです」と目を輝かせる征佑喜さん。庭の手入れや山林の造成を徐々に始め、裏山に何を設けるか、目下構想中である。自然環境豊かな高台に建つ。西側に開けた大きな窓が気持ちいい。裏の山林。「まずは、石段を造り、その上に小屋を建てたい」と征佑喜さん。2階部分に設置した回廊と帯状に張った杉板で個性的な外観に。斜面に建つため、高い土台が必要だった。屋上をアウトドアリビングに「屋上がなければ家を建てる意味がない、というくらい屋上は必須でした(笑)」と征佑喜さん。念願の屋上にはルーフテラスを設け、2階のLDKからそのまま階段でつなげたことで気軽に出られる空間となった。リビングとほぼ同じ広さで約20畳のルーフテラスは、アウトドアリビングとして大活躍。ゲストを招いてバーベキューをしたり、テントを張ってキャンプをしたりと、まさに家にいながらにしてアウトドアライフを楽しんでいる。丹沢山系から富士山までが一望でき、自然環境に恵まれたこの地では、季節や天気の移ろいにも敏感になるという。広々としたルーフテラス。テントを張ってキャンプ気分を味わったり、日差しの強い日はタープを張って寛いだり。周囲の住宅よりも一際高い位置にあるため、近所の視線も気にならない。右側の階段を昇ると屋上へ。視線が抜けて開放的なスケルトン階段は、1階まで光を届け、排熱効果にも一役。腰掛けるのにもちょうどよい和室。ゲストを泊めるために設けたが、現在は征佑喜さんの部屋!?プラモデルなどの塗装を行う道具が揃う。「窓もあり、換気にも好都合だった」と征佑喜さんのお気に入りの場所。自ら一部(左側)に床材を敷き、塗装をする趣味の部屋にしてしまった征佑喜さん。朔くん(6歳)の好きな「ゾイドシリーズ」も征佑喜さんが塗った。自然の恵みを活かした設計土地探しから手伝ってもらったという「HAN環境・建築設計事務所」は、太陽や風、緑、土など自然の恵みを取り入れる“パッシブデザイン”に基づく設計を行っている。その考え方に、黒沢さん夫妻が興味を持たれたことがきっかけで設計を依頼した。黒沢邸の特徴ともいえる2階のリビングをぐるりと囲むように設けた回廊は、パッシブデザインの工夫のひとつ。強い西日をやわらげ、すだれをかけることでさらに日差しを遮断することができる。また、1階から屋上に続く階段の吹き抜けにより、排熱効果も抜群。季節によって異なる日差しの角度を計算して窓を配置し、採光や通風も考え抜かれているため、エアコンに頼らず、四季を通して快適に過ごせる。さらに、裏の山林の緑も生活にさりげなく取り入れている。2階のLDKにつながる階段脇に大きな窓を配すことで、階段を昇りながら、またキッチンやリビングからいつでも裏山の緑が目が入ってくる。「この土地の特徴を最大限に活かしてもらいました」とご夫妻も満足気である。リビング側からDKを見る。天井はあらわしにし、化粧材を加えてデザイン性を高めた。裏の山林が見える階段脇の窓。建築家・伊東豊雄デザインの照明が、リビングから見たときにちょうど中央にくるよう考えられている。2階のLDKを囲むように設置した回廊。ぐるぐる回遊でき、子どもたちも楽しそう。自分流の家事動線で「生活感が出すぎないように隠す収納にしています」とは妻の香織さん。キッチンまわりは、食器や調理器具、冷蔵庫に至るまですべて扉内に収納。急な来客でも苦労せず片付けられるという。また、アイランド型のキッチンとダイニングテーブルを横並びにしたのも香織さんの案。「テーブルに料理を並べるときなど、いちいち回り込まなくてよく、最短距離で動けて便利です」。また、香織さんの希望でキッチンの奥に洗濯室を設けた。洗濯機を1階のバスルーム脇ではなく、2階の洗濯室に置くことで、物干しスペースやキッチンにも近く、効率的に家事ができる。「洗濯物を持って2階に上がるのも、衣類が乾いているため軽く、苦ではありません」とのこと。香織さん自身が動きやすい家事動線を徹底的に考えた造りになっている。また、空間の有効活用にもこだわった。斜面に建つ黒沢邸は土台を高くしたため、その空間を利用して床下収納を設置。壁の一部をくり抜き、本棚も3つ取り付けた。「今年の正月から春にかけて、床下収納部分にフローリングを貼り、“隠れ部屋”を造りました。子どもたちとよく籠って、本を読んでいます」と征佑喜さん。自分たちらしく心地よい生活を求めて、コツコツと手を加え、楽しんで暮らしている黒沢さんご一家。自然の恵みをたっぷり受けた健康的な笑顔であふれていた。アイランドキッチンとダイニングテーブルは横並びに配置。北欧ビンテージ家具屋で購入したダイニングチェアは形は異なるが座面の生地を統一した。キッチンまわりの物は扉内にすべて収納。「すぐに片付けられて便利」と香織さん。キッチン奥の洗濯室。空ちゃん(9歳)はよくお手伝いしてくれるそう。洗濯室から続く回廊の南側は洗濯干しスペース。LDKからは、干した洗濯物が見えないようになっている。1階のサニタリールーム。洗濯機がないため、すっきり。間取り図に要望や疑問を付箋に書いて貼り、設計事務所と何度もやりとりした。2階から見下ろす。階段の真ん中で、朔くんがよく本を読んでいるという。壁をくり抜いて造作した本棚。本棚の右奥が子供部屋。奥の寝室の下が地下収納で、階段をずらして入る。地下収納をDIYした“隠れ部屋”。読書に心地よいスペース。黒沢邸設計HAN環境・建築設計事務所所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上2階延床面積88.38㎡
2019年10月21日独り占めしない建築「もともとは祖父のものだったものを父が引き継いで、今はわたしが預かっているんです」とOさんが話すのはO邸の立つ敷地のこと。自分で手に入れたものではなくたまたま預ったものであり、いずれ息子さんに受け渡していくものなので独り占めをするような建築をつくりたくなかったという。「独り占めをしない」ということには、敷地の奥側につくった賃貸スペースで暮らす人たちも合わせて「皆で共有する」という気持ちも込められていた。さらに「身の丈に合った建築をつくろう」とも思ったという。「サイズ的にもそうですし、さらに金銭的にも、価値観の面でも自分の身の丈に合った、実感のもてる範囲でつくろうと」隠れて見えない奥の部分に賃貸スペースがつくられている。手前の1階が賃貸でその上がO邸の2階のテラス。通路に沿って緑が植えられている。生きる力が高まる家こうした気持ちをベースにしつつ、この家のコンセプトとしてOさんが意識していたのは「皆が穏やかに気持ちよく暮らせる」ということだった。さらに加えて「生きる力が高まる家にしたかった」とも話すOさん。こうした考えがたとえば無垢材を使用するという具体的なリクエストへとつながった。「建築家の浅利さんには、自然の物をできる限りそのまま使いたいんですとお伝えしました。自然物なので歪んだりあばれたりということがありますが、そうした中で、自然の力というのも感じることができますし」2階の造り付けの家具はすべてチークの無垢材で製作された。落ち着いた色合いとデザインで室内にシックな雰囲気が漂う。リビング側からダイニングとキッチンを見る。ダイニングからリビングを斜めに見る。奥にテラスが見える。無垢材にこだわる造り付けの家具の材として2階ではチークが、そのほかの階ではオーク材などが使用された。床はすべてオーク材だ。「こまやかすぎるものとは違って削れば何とでもなるような面もあるし、無垢材ゆえの、材そのものの美しさであるとかパワーが感じられるようにしたかった」。その結果、浅利さんはいつもの自分のデザインより多少ごつい感じのものになったというが、そこはやはり熟練の技で、ごつさよりも落ち着いたシックな空気感の漂うデザインに仕上げられている。Oさんの自然物への強いこだわりから外壁にはタイルを使用した。「要はマテリアルをずっと愛でていく感じですね。経年変化を楽しむことができて汚れてもOK。外壁に木を使うという選択肢もあったとは思いますが、木は基本的にすごく長くもつというものではない。そういう意味では土(タイル)にするというアイデアは自然に出てきましたね」(浅利さん)2階ダイニングから見る。食器棚の右に1階への階段、左に3階へと昇る階段がある。空間に落ち着きをもたらすためにシンメトリックにデザインされた2つの引き戸には墨汁が塗られている。キッチンから見る。左の開口からは賃貸スペースにいたる通路に沿って植えられた緑が見える。奥の左手に玄関扉がある。外部と同じせっ器質タイルが内部にも使われている。張るパターンのスタディが何度も重ねられたタイルは内外で2万3千枚を使用。施工に2カ月かかったという。レイヤーをつくる当初の案は賃貸を1階に配して2階以上をO邸にするというものだった。しかし、Oさんの強い希望から手前にO邸、奥に賃貸という配置に。「お互いの生活音などを意識することなく機嫌よく穏やかに過ごせるように」との思いからだったが、浅利さんは「最初は奥行き方向で豊かに長く暮らすというイメージをもっていた」という。そして身体感覚としては長過ぎるので、ちょうど居心地が良くなるくらいの空間にレイヤー状に刻んでいくプランを考えていたが、敷地の前後で賃貸とスペースを分けて奥行き方向の長さが短くなってからもその考えはそのまま踏襲した。「やはり人間にとって居心地のいいスケール感というものがあるので、そこに落とし込んであげるということですね。間に袖壁を入れていますがこれも居心地をつくるときにすごく大事だと思っていて、要は守られている感覚が生まれる。開放されているだけだと落ち着かないんですね」(浅利さん)「小さめの空間だからこそあえて区切ってレイヤーをつくって奥行きを感じるような工夫をしていろんなところに居場所をつくりましょうと提案をいただいて。そのなかで最大限豊かに暮らせるように、たとえば端の部分に開口を設けるとかいろんな工夫をしてくださいました」(Oさん)あえてダイニングとリビングの間に壁をつくっている。奥の壁もあってレイヤーが3つ重ねられ奥行き感が生まれている。窓際に立つのはOさんと建築家の浅利さん(右)。奥の壁は葉薫館と名付けられた賃貸スペースのもの。葉薫館には2世帯が入る。長いスパンで考える打ち合わせの中で浅利さんは「建築は極力シンプルなほうがいい、余計なことをしないほうがいい」とOさんに言い続けたという。「浅利さんが“何かしたいことがあっても、それはOさんが人生を歩む中で必ず変わっていくので、いまやりたいことは家具とか置き物でしておいたほうがいい。いまの感覚だけじゃなくて、自分の根幹にあるものを大事にしたほうがいいと思いますよ”とおっしゃって。これはその通りだなっていま思いますね」。こうしたやり取りからも、室内にシックな印象のある落ち着き感が生み出されたのだろう。さらにOさんは「浅利さんに描いていただいたスケッチからでは自分が感じ取れなかったものをいま日々の生活の中で少しずつ見つけているところです。これからもっともっとそうしたものがいろんなところで見つかってくると思うので、また自分が成長したときにそれまで見えていなかったものが見えてくるのかなと。それがいまから楽しみですね」と加える。テラスから見る。2階がリビングで3階が水回りスペース。3階の寝室前から左に子ども部屋と奥に水回りスペースを見る。3階の寝室。左の収納もオークの無垢材でつくられたもの。水回りスペースからテラス側を見る。シンメトリックにデザインされた子ども部屋。これも空間に落ち着きをもたらすための工夫。1階のOさんの書斎には靴を収納する棚がある。「革靴は働く父の姿に対する憧憬の象徴であり、同時に自らが歩んだ人生の足跡といえるもの」と話すOさん。革靴の手入れもここで行うという。この1階スペースは隣の賃貸スペースとつなげることもできる。昨年末に越したOさん一家。Oさんは2階奥に設けたテラスが気に入っているという。「毎朝コーヒーを淹れてテラスで飲んでいるんですが、晴れていればハンモックかけたり天幕をつけたりして」この空間を楽しんでいるという。「キッチンも素敵なものをつくっていただいたので自分でも料理をするようになって、そういうところでも生きる力が高まったなと思いますね」「居心地がいい」という感想はよく聞くが、「家によって生きる力が高まる」と聞くのは初めて。住宅に対してこれ以上の賛辞はないのではないか、と思った。戸外ながら緑と壁に囲まれて外からの視線も気にならない。息子さんがテラスで食事をしたいとよく言うので、朝もこの場所で一緒に食べてから会社に出かけることがあるという。右は目隠しのための壁。通路に沿って植えられた緑には、この敷地の住人だけでなく近隣の人たちも「気持ちよく暮らせるように」との思いが込められている。O邸/阿佐ヶ谷北の家設計ラブアーキテクチャー/浅利幸男所在地東京都杉並区構造木造規模地上3階延床面積139.03㎡(賃貸スペース除く)
2019年10月16日“感覚が似ている”中古物件との出会い中央線の荻窪駅から歩いて10数分ほどのところに、小林大介さんと菜穂子さんご夫妻が暮らす住まいがある。元々、高円寺の戸建ての賃貸物件に暮らしていた二人。その頃から中央線沿線に絞って物件を探していたという。「中央線の気どっていない雰囲気が好きなんです。夫婦そろって戸建で育ってきたので、マンションという選択肢はありませんでした」と大介さん。しかし、なかなか理想の物件と出会うことがなく、探しはじめて3年後、ようやく出会った物件は築約40年のリノベーション済みの住宅だった。元々の住人であるイギリス人のご夫妻とレトロな趣きが好きという感覚が似ていると感じたご夫妻。「それまでに10軒以上を見ていましたが、内見したときに、実家に帰ったような落ち着きをおぼえました」と振り返る。そして内見当日に、購入を決めたという。「旗竿地は住んでみたら、周りの目線が気にならないし、明るすぎないので、かえって良かった」と菜穂子さん。その言葉通り、カーテンをつけずに風通しの良い開放的なリビング。菜穂子さんが目指すリビングのイメージは「昭和の応接間」。ベロア生地のソファーがアクセント。前の住人による手作りの照明。ホームセンターで部品を集めて作ったという。庭には梅や金木犀、椿が植えられている。生活に庭仕事が加わったことで、以前より季節の移ろいを感じられるようになった。お気に入りの家具とともにこの家の築年数は40年以上だが、前の住人によって床は張り替えられており、ほとんどの窓が二重サッシになっている。照明や冷蔵庫、エアコン等も残していってくれたため、住むにあたって、改修をしたのはトイレのみ。「元々、住みやすくリノベーションされていたから、ほとんど自分たちはいじっていないんです。手を入れたのは、階段や2階廊下の壁をDIYで漆喰にしたくらい」と大介さん。すでに自分たちの好みに近く、ベースがある程度出来上がっていたことも購入の決めてのひとつだった。「持っていたアンティークの家具や民芸品の雰囲気がこの家にしっくりきた」と話すのは菜穂子さん。「家具を、これはここかな?と配置するのが楽しかったです」と笑う。お気に入りの家具や民芸品が飾られるダイニングルームは、小林ご夫妻にとって特にお気に入りの場所となっている。和室の名残を残してリノベーションされたダイニング。ちょうど良いほの暗さと、窓越しに見える庭の緑がお気に入り。骨董屋で見つけたというアンティークのテーブルの脚に、後日福生の古道具屋で購入した天板を載せた。椅子はあえて揃えずにそれぞれ形の違うものを選んだ。この部屋で金魚を眺めながら作業をするのがお気に入りという大介さん。特に夜は、かすかな水音がとても落ち着くそうだ。カメラマンという仕事柄、地方や海外へ行くことの多い大介さんが各地で買ってきた民芸品、菜穂子さんが趣味で集めた鉱物などが飾られている。たっぷりとした作業スペースが特徴的なキッチン。冷蔵庫にも、大介さんが各地から買ってきたご当地マグネットがぎっしり。心地良い風と光が入る家小林さん邸は、玄関からリビング、ダイニング、キッチン、洗面所まで、どの部屋も窓から入る光で自然な明るさに満ちている。また、窓を開けはなつと、心地良い風が家中をかけめぐる。「緑が見えて、風が入ってくる感じが前の家にはなかったですね。一日のうちに光の入り方がどんどん変わって家のあちこちに陰影ができるのも、風情があって気に入っています」。風や緑、光のある暮らしがこれまでの生活との大きな違いと大介さんは語る。内見の際、実家の玄関を連想し好印象を持ったというゆとりのあるエントランス。玄関からリビングを見る。すりガラスに差し込む光が玄関スペースを自然な明るさに。右手に見える階段の木の格子が和モダンな雰囲気を作る。夫妻が洗面所に取り付けたのは、益子の骨董屋で見つけたという大きな鏡。鏡面に印刷された三桁の電話番号が歴史を感じさせる。心からくつろげる家この家に暮らし始めて約5カ月。落ち着きを感じるレトロな佇まいは二人の生活にぴったりと寄り添い、菜穂子さんは「仕事で忙しい日々が続いても家に帰ってくると心からくつろげます」と頷く。「以前住まれていたイギリス人のご夫妻も、この家を気に入り、愛情を持って手をかけていたからこそ、この味わいが生まれたのだと思います」と話す大介さん。今後は、庭に縁側をつくったり、リビングの扉をオーダーしたりしてさらに手をかけ、大切に住みついでいくつもりだと、楽しみな計画を教えてくれた。2階の廊下は屋根の形状を活かした勾配天井となっている。元々は砂壁だったが、大介さんが漆喰で白く塗り替えたことで雰囲気が大きく変わったという。奥に見えるのは、シンバルを加工したというユニークな照明。前の住人によりリノベーションされた2階の洗面台スペース。柱を現しにした真壁づくりの寝室。「かわいらしいシャンデリアと天井の杉板がお気に入り」と菜穂子さん。ご夫妻共通の趣味である麻雀の卓を中心に据えたプレイルーム。周りを大介さんの趣味の漫画がずらりと囲む。
2019年10月14日和にモダンを融合させて祖父、叔母が暮らした土地に新居を建てることになったSさんご一家。建築家を探す中で、デザインライフ設計室の青木律典さんに出会う。「作品集を見て、感性が合うなとピンときたんです。素材の使い方、線の収め方、そういうものがぴたりとはまりました」。夫はIT関係のデザイナー。もともと建築やインテリアが好きで、こんな家にしたいというイメージはある程度固まっていた。「日本住宅の良さも残しつつモダンな感じのある家、それまでに買い集めていた北欧の家具がなじむような家にしたい、とリクエストしました」。「家づくりノート」を作成し、青木さんとイメージを共有しながらプランニング。やや赤みがかったグレーの外壁に包まれた、控えめな開口の一軒家は2年程前に完成した。屋根に高低差をつけることで斜線規制をクリア。2階のフィックス窓、半室内のベランダ横の開口が、外に向かって開いている。ジョリパット仕上げの外壁は、たくさんのサンプルの中から色味を選び、ざらつき具合も確認しながら塗装してもらったそう。天気によって色味の変化も感じられる。清々しい雰囲気の玄関アプローチ。ドアはピーラーで。玄関から、スキップフロアで1階へとつながる。閉じながら外とつながる室内「外に対しては閉じたいけれど、中は明るく開放的にしたい、という矛盾したリクエストを頂きました(笑)」というのは、青木さん。駐車場を挟むものの、敷地の前には集合住宅がありベランダと向かい合わせに。この問題をどう解決するかが設計のテーマだった。「外からの視線を避けるために、リビングとつながる屋根のかかったテラスを設けました。正面は塞ぎながらもサイドに開口を設けることで、光と風が家の中を通り抜けます」。リビングからフラットにつながったこのテラスは、ガラス、簾、障子の3段階の引き戸で仕切ることができ、開け放つとリビングの一部に。集合住宅に面した正面は塞がれているので、プライバシーは守りながらサイドの開口の先から隣地の借景が楽しめる。「家の中は、1階から階段を通って2階まで吹き抜けになっていて、2階北側の窓から、対角線を通って南のスリット窓に光が抜けます。つながった空間にすることで開放感が生まれます」。仕切りには全て引き戸が使われていて、開ければ家全体がひとつの空間に。角を丸く仕上げた漆喰の白い壁と天井が流れるように連続して、光とともに包み込まれるよう。リビングからつながった半室内的なテラスは、日本家屋の広縁のようでもあり、色々な使い方ができる。テラスにはサイドと屋根に開口があり、光と風が通り抜ける。仕切りには造作した木枠のガラス窓、簾、障子の引き戸を。持っていたテーブルに合わせて設計してもらった書斎コーナー。階段上の開口から、光が降りてくる。ナラの床材が気持ちいいリビングダイニング。漆喰の壁が光の反射を受けて陰影を出す。ジャスパー・モリソンのソファーの置き場所も考えて設計。トップライトから光が入るダイニング。アルネ・ヤコブセンのセブンチェア&楕円テーブルに、ルイス・ポールセンのペンダントライトを。北欧家具が活きる空間に「もともと北欧が好きで、家具や照明、雑貨などたくさん買い集めていたんです。それに合うように設計してもらいました」。1階の玄関からスキップフロアで上がった空間は、持っていたテーブルがちょうど収まるように設計。家族全員でそれぞれの時間を過ごせる書斎のようなスペースを確保した。「主人が仕事をしたり、子どもたちが勉強したり。ダイニング以外にみんなが集える場所があるのは重宝していますね」。という妻は、一方でキッチンだけは独立した空間を希望。「永田昌民さんが設計した大橋歩さんの家のキッチンに憧れていて、一直線の独立したキッチンにしてほしいと、青木さんにお伝えしました。来客時には引き戸を閉めれば作業しているところが見えないし、匂いも遮断できます」。収納棚は、集めていた北欧の食器などがすっきり収まるように造作。愛読書や雑貨も並んだ、趣味の空間のようなキッチン&パントリーには、やはり外からの視線を遮るため、窓の外側に木製のルーバーを設置した。仕切りを設けてあえて独立させたキッチン。キッチン台やオープンシェルフはアッシュで造作。手前にはパントリーがあり、収納もたっぷり。もともと北欧好きで、「かもめ食堂」を観てさらにはまったという妻。北欧の食器などがずらりと並ぶ。隣家の視線を避けるため、窓の外にルーバーを設置。吊り棚の底面は、洗いものをそのまま置くことができるよう工夫されている。パントリーには、これまでに買い集めた北欧雑貨、本、テレビもあり、趣味の部屋として籠って過ごすこともできるスペースとなっている。玄関を開けると現れる扉は、夫の仕事場への入り口。目立たない取っ手を選んであえてプレーンに。天井高と開口からの光で狭さを解消した仕事部屋。無印良品のファイルケースに合わせて棚を造作。1階の主寝室は天井を2フロア分の高さにして、ハシゴであがるロフトを設けた。2階リビングと接する壁には、障子の窓も設けている。2部屋並んで設計されている子ども部屋は、造作の机の間をあえてオープンに。いずれ仕切って使うことも可能。主張のない意匠が心地いい「住み心地がいいのは、やはり建築家さんと感覚が合うからでしょうね。気づかないけれど縦の線、横の線が何気なく同じラインに揃えられていて、すっきりと収まっているところなどに居心地の良さを感じます」。例えばリビングと吹き抜けのホールの間の仕切りは、階段の90cmの高さの手すりから連続。さらに、それに連なるように障子の桟やスリット窓の高さも設定されている。細かなところのこだわりが、無駄のない空間を生んでいる。「夫婦ともすっきりとした空間が好きなんです。北欧デザインが好きなのも、主張のない普遍的なデザインに惹かれるから。この家にも普遍的な魅力を感じます」。隣家との距離が近い南側は、あえてスリット状の開口に。右側の開口部は、1階の主寝室とつながっている。閉めると障子に。壁はすべて床から少し浮かせることで劣化を防ぎつつ、デザイン性を高めている。フィンランドの蚤の市で購入したアラビアのプレートなどを飾る。リビングで寛ぐことも多いご一家。スピーカーは埋め込みに、テレビは壁付けにしてすっきりと。テレビ下の収納は、壁の向こう側のパントリーの空間を活用して奥行きを取り、リビング側はすっきりと薄いデザインに。S邸設計デザインライフ設計室所在地横浜市構造木造規模地上2階延床面積111.05㎡
2019年10月07日素材の経年変化を楽しむ表参道のヘアサロンのオーナー藩 賢毅さんの住まいは、鉄、木、コンクリートと、建材のマテリアルが生きる家。髪質が生きるようにカットする”ノンブローカット”を生み出した藩さんらしいお宅だ。「鉄板が錆びたり、石に苔が生えたり、木材が飴色に変わっていったりと、朽ちて行く姿が美しい、経年変化が楽しめるマテリアルで家を作りました」設計は、海建築家工房の海野健三さん。「設計士を探していた時、インテリア雑誌の編集者に海野さんをご紹介いただきました。きっと気が合うわよ、と(笑)」果たしてその読みは大正解だったそう。「既成概念にとらわれず、あっと驚くような柔軟な発想で設計してくださり、想像以上の理想の家ができました。いわゆる豪邸みたいにはしたくないという僕の希望も汲んでくださいました」藩 賢毅さん、弓恵さん夫妻。お子さんは柚葉さん、勘太くん、凰太くんの3人。ダイニングテーブルはイサム・ノグチ。チェアはチャールズ・イームズ。壁の時計はジョージ・ネルソン、その下に柳宗理のバタフライチェア。ミッドセンチュリーのものを始め、家具は以前の家で使っていたものがほとんどだとか。そして大きなアイランドキッチン。収納もたっぷり。「海野さんの設計の素晴らしさは、竣工時が完成ではなく、自分たちの手で育てる部分をふんだんに残していただいているところだと思います」鉄を錆びさせ、モルタルを塗装し、植栽も楽しむ。天井に渡してあるグレーチングの網目を使い、照明の位置も好きに変えられる。「家を作る順序としては、外壁を作ってから内装にとりかかるのが一般的だと思うのですが、うちの階段は屋根を作る前にとりつけました。階段が雨ざらしになる期間をあえて作ることで、いい感じに階段の鉄板に錆が出ています」ギャラリーのような設えの階段。「階段下の右の鉄板はサンポールで錆びさせました。いい感じに錆びたところで錆止めを塗りました」これは弓恵さんのDIYだそう。「妻はこの家に住んでからDIYをするようになりました」「2ndリビングと呼んでる場所です。長男は遊びに来た友だちとここで遊んでいることが多いですね。もう一部屋子供部屋を作りたいとなった時に、このスペースに作ることも可能です」ダイニングと2ndリビング、そして3階からも眺められるテラス。「夏はここでプール遊びをします」緩やかな傾斜の階段。最後の段を床面から浮かせている。左側に子供部屋が2部屋並んでいる。「あえて子供部屋はベッドと学習机だけの小さな空間にしました。遊ぶ時は部屋の外で遊んでいますし、巣ごもり感もあって楽しいようです」家に拡張の余地を残す「RC造にすることも考えましたが、建築費を抑えるために鉄骨造にしました。現しになっている鉄骨や天井の構造が気に入っています」鉄骨造の3階建て。2階をターミナルにしたいと考えていたそう。「家から帰ってきて手を洗い、着替えも2階で済ませます」頭を悩ませたのが1階の使い方。「海野さんに1階は貸駐車場にしましょうという割り切った提案をしていただきました。この場所はハザードマップに大雨のときの浸水予想が1〜3mとあったので、居住スペースにせずにピロティにしたほうがよいと考えたそうです。スペースを貸し出せばローンの足しになりますし、将来、駐車場のスペースを改装してここで髪を切ることもできるかな、という思いもあります」エントランスの鉄板はわざと錆びさせ、いい感じの錆び具合になった時に藩さんが錆止めを塗り、錆の進行を止めた。植栽も自分たちで。ガラス張りの、開放感が気持ちいいエントランス。外壁はステンレスのメッシュの中に軽石が入る海野さんオリジナルの『Uウォール』。屋根に降った雨が石の層に落ちるようになっている。軽石の遮熱効果も高い。「そのうち自然にコケが生えてくると思います。どこからか飛んできた草が根を下ろし始めました」一階は一部を貸駐車場にしている。「一般的なコンクリートの壁はコンパネで平らに作りますが、この有機的な壁は麻袋にコンクリートを流し入れて作る海野さんオリジナルの『URC』です。コンパネを使うより安価で、造形がおもしろく、強度も高いです」脱衣所を広々とした畳敷きに藩さんのお宅は、余裕のある広々としたスペースと、必要にして充分なコンパクトなスペースの緩急が見事だ。なんと、脱衣所は広い畳敷き。トイレもひとつの部屋のような広々とした設えだ。対して、子供部屋はベッドと机だけの、秘密基地のような作りになっている。そして、快適に住まう機能はしっかりと確保されている。「きちんと断熱されているので、夏涼しく冬暖かい家になりました。冬の暖房は、2階の床暖房をごく弱くつけるだけで暖かいです」収納スペースもたっぷりと。「壁面はほぼ収納になっています。布団とかも仕舞える奥行きのある収納スペースも作りました」海野さんはカラダが住まいに合ってくるとおっしゃっていたそう。「たとえばバタンと大きな音を立てて閉まるドアを、音を立てないように仕様変更する必要はなくて、自然と音を立てない所作が身についてくると。ほんとうにその通りで、今では意識しなくても後ろ手にドアを押さえながら閉めるようになりました。人が家に馴染むものなのだなと感慨深いです」家は作って終わりではない。竣工時がピークな建物はつまらない。藩さん一家がこの家にかかわって育て、育てられることで、唯一無二の素晴らしい住まいに成長していく。広々とした開放感のあるバスルーム。脱衣所は広々とした防水の畳敷き! 旅館でゆっくり過ごしているような気分を味わえる。「長女はここでストレッチを楽しんでいるようです」トイレには扉がない。必要に応じてカーテンを使う。「僕はトイレで考え事がはかどるので、トイレもひとつの部屋のように作りました。"気"が他の空間と繋がるように完全に仕切らず、風通しの良い空間にしています」2階のトイレも部屋仕様。リビングと壁の間のスリットを通して繋がっている。「来客が使うことを考えて、2階にはちゃんと扉があります」(建築家クレジット)藩邸設計海野健三/海建築家工房所在地東京都渋谷区構造鉄骨造規模地上3階延床面積199.57㎡
2019年09月30日湘南ライフ、湘南スタイル、サーファーズハウス、サーファーの家、鎌倉の家、葉山の家、海浜の暮らし、海辺の家、実例、ランキング、インテリア、デザイン
2019年09月29日見事な眺望に一目惚れ横浜市の見晴らしの良い住宅街に建つKさん邸。今年の7月に竣工した家では、ご主人、奥さま、奏(かなで)ちゃん、季(みのり)ちゃんの4人家族が、新しい生活を楽しんでいる。「以前はマンション住まいだったのですが、僕も妻も戸建で育ってきたので、いつかは自分の家が欲しいよね、と話していました。子どもたちにとって思い出に残るような“実家”をつくってあげたいという想いもありましたね」(ご主人)。そして、土地探しを始めたご夫妻。すぐに良さそうな土地が見つかったが、いまいちピンと来なくて、しばらく保留にしていたと振り返る。「当初の候補になったのは、落ち着いた住宅地にあって、真四角で平坦で全面道路が広いところ。なんの不足もなかったけれど、なんだか面白味を感じなかったんです」(奥さま)。そんなある日、不動産屋さんに紹介されたのがこの土地だった。「旗竿地なのですが、突き当りの南東側が見事に開けていて、眺望が素晴らしいんです。すぐに気に入って、即決しました」と、ご主人は振り返る。家を建てるなら、「自由度の高い注文住宅に」と考えていたKさんご夫妻。設計は、IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)の井上亮さんと吉村明さんに依頼した。「不動産屋さんに紹介していただいたのですが、スタイリッシュでユニークなデザインの事例が多くて、この方たちにお願いしたら、楽しい暮らしになりそうだなと思いました」(ご主人)。Kさん邸エントランス。旗竿地だが、奥は段差になっていて、南東に視線が抜ける。オリジナルの表札。長方形を対角線でくぎったデザインは、この家のプランとリンクしている。斜めの線が生み出すもの家づくりにあたってKさん夫妻が希望したのは、眺望を生かすこと、こもり感も併せ持つこと、そして床座でくつろげることだった。それを受けた井上さんと吉村さんは、実に50余りのプランを考案。Kさんご夫妻と話し合いを進める中でたどり着いたのが、「長方形の建物形状に対角線を引いて、そこでフロアを上下にずらず」というシンプルだがユニークな案だった。井上さん、吉村さんは、「対角線でできる段差が舞台のようになり、舞台の上に立つと一番良い方向の眺望が楽しめるようにしました」「丘陵地という周辺風景に合わせ、家の中にもリズムのある高低差をつくりました」と、その狙いを語る。さらに、斜線制限に応じて斜めにした屋根の形状も相まって、家の中は「低いところで1.3メートル、高いところで3.4メートル」という幅広い天井高に。大きく開いた南東の反対側は開口を控えめにしているので、開放感とこもり感がうまいこと両立している。一般的な四角い間取りとはかけ離れたこのアイデア。提案を受けたKさんご夫妻は、「どんな家になるんだろう」とワクワクドキドキしたという。「せっかく建築家さんに頼むなら、自分たちでは思いつかない発想を取り入れたいと思いました。あと、本当にたくさんのプランを提案していただく中で、だんだん普通じゃ物足りなくなってきたんです(笑)。訪れる人が『わあ!』って驚いて笑顔になってくれる家にしたいと思うようになりました」(奥さま)Kさん邸の初期のラフ模型。床と天井の斜めの線が生み出すオリジナルの空間がよくわかる。2階のリビング・ダイニングに上がったところ。低い方のフロアがダイニング、階段を3段上がった上がリビングになっている。さらに上がったところにはロフトを設けていて、家の中は4層に分かれる。南東側は一面に窓を設け、見事な眺望を楽しめるように。窓の下にはつくりつけた棚は、ベンチとして腰掛けることもできる。ダイニング側は白いクロス、リビング側はシナベニヤの天井とし、気分が自然と切り替わるようにした。リビングからロフトに上がる階段は、幅広でゆったりした雰囲気に。透かし階段にしたことで、視線の抜けを確保した。中央の壁は、「あった方が落ち着く」というご主人の要望で設けた。ダイニングの床はシカモアのフローリング、リビングの床は絨毯。リビングで床座でくつろぐのが、Kさん一家の団らんスタイル。ダイニングからリビングに上がる階段は可動式で、気分によって置き場所を変えられる。ロフトに上がる階段の奥には食材を保管する棚をつくり、空間を有効活用。ダイニングとリビングの段差によって1階からロフトまでがひとつながりの空間となっているが、全館の空気を循環させる換気システムを取り入れているので、高低差による温度差は解消されている。「眺望を楽しめる土地を選んで本当に良かった」とご主人。三角形のダイニングテーブルは、斜めを基調としたこの家の間取りに合わせて購入したもの。感性を刺激する空間一方の1階は、空間を対角線上で区切って壁を設置。できた三角形の片方はコンクリート打ちっ放しのギャラリーのようなスペースにして、家族4人が使える衣類の収納棚を造りつけた。もう片方は閉じた空間とし、寝室、洗面、風呂、トイレを納めてある。奥さまは、「一見奇抜ですが、着替えやタオルを用意してお風呂に入る、帰ってきて上着をハンガーにかけて手を洗う、と入った流れがとてもスムーズで、考え抜かれた動線だなあと感じます」と頷く。Kさん一家がこの家に暮らし始めて数ヶ月。「この家はとにかく移動が楽しい。空間にメリハリがあるので、ちょっと歩くたびに気分が変わるんです」と話すご主人に「対角線って長辺よりも長いので、広く伸びやかに感じるんです。『斜め』をぜひ皆さんに進めたいです!」と続ける奥さま。4歳の奏ちゃんは元気いっぱいに家中を歩きまわり、一番高いロフトスペースと、1階の三角形の端の鋭角な部分がお気に入りだという。「子どもたちは高低差が楽しいらしくて、1歳の季もロフトに上がるとニコニコしています。この家が子どもたちの好奇心をどう育んで行くのか、かなり楽しみですね」と微笑むご夫妻に、IYs inc.のお二人は、「自然の中のようにいろいろな角度や高さがあると、普通の四角いお家とは体感の幅が違うので、感性は刺激されると思いますよ」と頷く。玄関を入ると、コンクリート打ちっ放しの空間。右のカーテンの中はたっぷりの収納、左の壁の向こうは寝室や水回りになっている。「1階はあえて家っぽくないギャラリーのような空間にしました」と井上さん。2階に上がる階段。階段から上は1階とは雰囲気が一転し、木の温もりを感じる空間になっている。玄関の脇にはシューズインクロークをつくったので、玄関周りはいつもスッキリ。造りつけの収納は棚の高さを自由に変えられるので、しまいたいものやお子さんの成長によってフレキシブルに使える。広々とした洗面スペース。洗濯機の周りは囲って、スッキリした印象に。メンテナンス時などは囲いを外すこともできる。お気に入りの「鋭角」にはまる奏ちゃん。「お風呂上がりに姿が見えないなあと思ったら、よくはまっています。もうおかしくて(笑)」と奥さま。階段下はトイレにして、スペースを有効活用。新しい挑戦がつくった家普通の「四角い家」の概念を打ち破り、ユニークなだけではなく住み心地も抜群な家をつくりあげたIYs inc.のお二人。「Kさん邸を手がけられたことは、僕らにとっても発見の連続でした」と振り返る。しかし、施工面では苦労も多く、複雑な形状の施工を狂いなくおさめられたのは、熟練の大工さんの腕に頼る部分が大きかったという。「普段からお世話になっている大工さんに頼んだのですが、『こんなに難しいのは初めて。勉強になったよ!』」と言われました。設計者にとっても施工者にとっても、新たな挑戦となるお家だったので、今のKさん一家の楽しそうな暮らしぶりを拝見すると、とてもうれしく思いますね」(井上さん)。この家とともに、家族の時間を重ねていくKさん一家。お子さんの成長とともに、この家は新たな過ごし方やお気に入りの居場所を与えてくれそうだ。モールテックスというモルタルで造作したキッチンカウンター。奥さまが選んだ明るいベージュが、温かみのある雰囲気をつくっている。ロフトの壁と天井の収まりは「職人技の結晶」と吉村さん。飾られていたのは、奏ちゃんが生まれたときの大きさを記録したスケッチ。南東側から見たKさん邸。バルコニーの手すりはよく見ると上に行くほどピッチが広くなっていて、デザインへのこだわりが感じられる。Kさん邸設計IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)施工坂牧工務店所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階建延床面積約110㎡
2019年09月25日平屋にしたいこの周辺は一区画がゆったりと大きく、いわゆる住宅密集地とは違う雰囲気があったので気に入って購入したという伊藤邸の敷地は73坪。前面道路が広いのもポイントだったそうだ。広めの敷地が購入できたので平屋にしたいと思ったという伊藤さん。「今までずっとマンション暮らしだったこともあって、家族がいるかいないかがわかる空間で生活をしたいという気持ちがありました。たまたま広い土地を買うことができたので平屋にしたいという要望を出しました」道路側から見る。玄関部分以外はすべて壁柱によって2階に持ち上げられている。道路側より見る。敷地の東西の2辺には隣家の擁壁が迫る。敷地奥から見る。右端に道路が見える。壁柱で持ち上げるゼネコンに勤務する伊藤さんが設計を依頼したのはかつて会社の後輩だった齋藤隆太郎さん。「この実現した案は3つめのもので、2つめのものから高床式のような感じになって、丸柱だったのが最後にこのような壁柱になりました」と伊藤さんは説明する。壁柱というのは、2階レベルへと持ち上げた平屋を支えている1階部分の構造体のこと。丸柱だと前面道路から奥まで丸見えに近い状態になるため、防犯上の懸念から変更してもらったものという。手前のリビングからは光庭を介して向かいのダイニングが見える。リビングには南側の開口からもふんだんに光が入る。中央につくられた光庭伊藤邸は高床式ともいえるつくりのほかに、視線が多方向によく抜けるのも大きな特徴だ。これは伊藤さんからの家族の在・不在を確認できる「視線の抜け」についてのリクエストと、齋藤さんの「端から端まで抜けているような開放感へのこだわり」(伊藤さん)とがあいまって実現したもののようだ。中央の光庭を介して、リビングとダイニングとの間だけでなく、1・2階の間でも視線が抜けるが、この光庭を設けたのは齋藤さんからの提案だった。キッチンはリクエストでアイランド型に。洗い物をしながら空と緑が見える。リビングから見る。光庭が周囲の空間に十分な光をもたらす。左側にキッチンがある。伊藤さんはこの光庭を家の中心近くに配したつくりでは「誰がどこにいて何をやっているかがとてもわかりやすくて、リビングにいれば子どもが帰宅したときに階段のところで“ただいま” “お帰り”と声をかけ合って、それから自分たちの部屋のほうに移動してもずっとシースルーで見えますし、あるいはわたしがこちらでテレビを見ていても、むこうで家内と子どもが談笑しながらテレビを見ているとかというのも見ることがきるのでとても満足しています」と話す。さらに光庭の利点を続ける。「台所が北側にありますが、光庭からしっかり光が入るので明るいんですね。あとわたしが下でゴルフの練習しているときなどに飲み物がほしくなったらそこから声を出してドリンクを窓から落としてもらったり、あるいは玄関が回り込んだかたちになっていますが、上から見ると玄関前も丸見えですから防犯上もなかなか具合がいいなと」収納家具は造り付け。天井も木を使っているため全体的に柔らかな雰囲気にまとめられている。左奥は伊藤さんの書斎コーナー。切妻、片流れと異なる屋根の形の集合で伊藤邸はつくられている。リビングから光庭を正対して見る。ダイニング側から見る。ダイニングの背後には兄妹の部屋が並ぶ。1階の予想外の気持ちよさ壁柱で居住部分を2階に持ち上げたことでできた1階スペース。壁柱をうまく配置することで移動するごとに景色の変化が楽しめるのも魅力だ。伊藤さんはこの1階スペースが予想外に気持ちが良くて気に入っているという。「夏場でも風があちこちから吹いてくるので部屋の中にいるよりも涼しいんですね。だからわたしは下で本を読んだり、昼寝するのも気持ちが良くてとても気に入っています」2階の浴室。正面の窓からは道路が見える。造り付けの家具が階段部分の壁も兼ねる。1階部分には植栽が計7カ所配されている。この家では玄関部分だけが1階にある。存在感のある木の階段も印象的。1階の眺め。壁柱の向きや壁のくりぬき具合など、建築家がスタディを重ねたことがうかがえる。さらにまた予想外だったのは、玄関部分以外はすべて2階にあるので犬走りのような場所も含めて敷地がほぼ全面に近いかたちで有効活用できることだったという。こうして通常はその大半が建物で占められてしまう地上部分が大きく開放されて、ゴルフの練習をするときでも昼寝や読書をするときでも予想外の気持ちの良さをもたらすことに大きく寄与していることは間違いないだろう。敷地の奥側から見る。移動するごとに見える景色が変わるのが目に心地良い。手前が伊藤さんのゴルフの練習スペース。音が響くため、緑の網を2重にしている。通常は使われないことが多い敷地の奥の部分も活用されている。擁壁が心地の良い「囲われ感」を生んでいる。夏場でも涼しく、ベンチや椅子での読書が気持ちいいという。リビングから道路側を見る。主寝室はリビングの奥にある。伊藤邸設計齋藤隆太郎/DOG所在地千葉県松戸市構造RC造+木造規模地上2階延床面積144.00㎡
2019年09月23日雑誌で見つけた家に一目惚れ広告代理店勤務のご主人とレコード会社勤務の奥さま。共働きのご夫妻は、最初のお子さんが誕生してまもなく、奥さまの実家の近くに家を持つことを考えた。「2人とも働いているので、子どもが突然熱を出したときなど、頼れる人が近くにいたほうが心強いと思って」(奥さま)。土地を探すこと2年。ようやく出会った土地が、奥さまの実家からなんと徒歩1分。近くには昔ながらの商店街や大きな公園もあり、子育て環境にもベストな場所だった。土地を購入後、「自分たちでゼロから造れるチャンス」と、家づくりの研究を始めたご夫妻。雑誌で見つけたある住宅に一目惚れし、その住宅を手掛けた直井建築設計事務所に設計を依頼した。「実際にその家にうかがって、ご主人にこだわりなどを聞かせてもらいました。洗練された雰囲気や内と外がつながる感じなどいろいろ参考にさせてもらいましたね」(ご主人)。また、お2人の好きな雰囲気の写真をPinterestやインスタグラムからピックアップし、言葉で表現しづらいイメージを写真で建築家へ伝えていったという。床のタイルや黒いフレームがスタイリッシュな印象。一目惚れした住宅からヒントを得たもの。東京・世田谷の閑静な住宅街に建つ。モダンで落ち着いた佇まいが地域に馴染んでいる。奥さまの希望で玄関前にベンチを設置。お嬢さんが靴を履くとき、置き配のときなどに重宝。ウォールナット材の床が気持ちいい玄関ホール。写真は、現在4歳になるお嬢さんが生まれて100日目(右)と初めて立ったとき。玄関脇のシューズクローゼット。上部も収納スペースになっていて、2階のパントリーからも収納可能。1階の寝室。たっぷり収納できるクローゼットを併設。M邸のエアコンはすべて隠して設置(上部)。家族がつながるワンルームMさん夫妻がこだわったのは、2階はドアのないワンルームにすること。リビングもダイニングもキッチンも、そして書斎も一続きにした。「寝るとき以外はリビングで過ごすというのが、家族の在り方だと思っています。僕もそうでしたから。勉強もリビングでしていましたね」とご主人。奥さまも、「どこにいても家族が感じられるようにしたかったんです」という。インテリアのアクセントであり、クールでモダンな雰囲気を盛り上げているのが、黒い木枠のパーテーション。「どうしても子どものものはゴチャゴチャしがちなので、部屋を分けて、隠したかったんです」(奥さま)。物が置かれて雑多になりがちな下部は隠すことができ、上部は空いていて空間のつながりを感じられるパーテーションは理想的な形であった。現在は、仕事を持ち帰ったご主人の書斎として使われることが多いデスクスペース。「仕切りがあることで落ち着いて仕事に集中できる」という。ゆくゆくは子どもたちの勉強スペースとしても活躍しそうだ。また、お子さんが大きくなったときには、現在のおもちゃスペースには本棚やソファを置くことを構想中。子どもの成長に合わせて変化する余白スペースとなっている。パーテーションの奥が書斎スペース。程よく目隠しができ、LDKはいつもすっきりした印象に。書斎は、ゆくゆくは子どもたちの勉強スペースに。パーテーションにより集中力もアップ!書斎の奥には、お嬢さんのおもちゃスペースが。「私たちが近くにいるため、安心して遊んでいます」。天井高の変化でゾーニング「ここは3階建てにすることも可能でしたが、天井はマックス高くしたいとリクエストしました」(ご主人)。テラスに続く開口は高さ3.5m。カーテンを取り付けず、グリーンを上手に目隠しとして使い、大きな窓から降り注ぐあたたかな自然光を楽しんでいる。床は無機質な雰囲気にするためにタイルをセレクト。外でも使用できるタイルをチョイスし、LDKからテラスへと同一のものを敷き詰め、統一感を意識した。建築基準法の高さ制限で、低くするしかなかったというキッチンや書斎部分の天井は、リビングよりもやや低めに設定。異なる高さによる空間の変化がさらなる居心地の良さをもたらしている。テラスまでフラットにつながり開放的。『IKEA』で購入したという一点もののペルシャ絨毯は奥さまの希望。テラスからリビングを見る。手前のアカプルコチェアはご主人のお気に入り。「夜、ワイン片手にここで過ごす時間が至福のときです」。ダイニングテーブルに合わせて設計「家族と会話をしながら、また子どもの様子を見ながら料理や作業ができるようにしたかった」と対面式のキッチンを希望した奥さま。「片付けが苦手」とのことで、収納は多めにリクエストし、手元は見えないように立ち上がりを高く設定してもらった。ダイニング側からはシンクや作業台が見えないため、たとえ散らかっていても安心である。キッチン前のダイニングスペースは、『マルニ木工』であらかじめ購入していたダイニングテーブルのサイズに合わせて設計。「ミーハーなので(笑)、『スターバックス』や『アップル』が『マルニ木工』の椅子を使用しているという記事を読んで、この2社が認めているなら間違いない(笑)と欲しくなったんです。椅子に合わせてテーブルも衝動買いしちゃいました」(ご主人)。『マルニ木工』で購入した椅子とダイニングテーブル。テーブルのサイズに合わせて、このダイニングスペースは設計された。シンプルで厨房感のある『サンワカンパニー』のステンレスキッチン。「好みに合わせてカスタマイズできたのがよかった」とのこと。カウンターキッチンのダイニング側は収納になっている。パーティ時などコップがすぐに取り出せ、便利。パパ友、ママ友も集う家「人が集える家」もM邸のテーマのひとつ。ワンルームでつながり、居場所もたくさんあるM邸には、すでに、ご両親やごきょうだいの家族、ママ友・パパ友たちがよく集まっているそう。ワンルームのため子どもたちの様子を常に見渡すことができ、大人たちも安心して会話が楽しめるという。「独身時代は、キッチンは書類置き場でした」というご主人。結婚して子どもができ、家事を手伝うようになって初めて料理を覚えたという。そして、新しい家ではパーティでもふるまうようになった。「みんなに褒めてもらうと嬉しいようで、どんどん腕をあげています」と目を細める奥さま。集まったパパ友たちと食材や調理道具の話に花を咲かせているという。「以前は、僕も妻もとても忙しくて寝るだけの家だったのが、子どもができ、働き方改革もあって、家で過ごす時間が増えました。良いタイミングで家を建てたと思います。これからますます家で楽しむことを見つけていきたいですね」(ご主人)。ご夫妻とお嬢さん、生後2か月の息子さんの4人暮らし。「子どもたちがソファの上で暴れても汚しても大らかに見ていられるよう、今は『IKEA』のものにしています」。いずれは『アルフレックス』にしたいそう。渋谷の『トランクホテル』をイメージしたサニタリールーム。天窓からたっぷりの光が入る。キッチンとパントリーの横に配されており、家事動線は抜群。M邸設計株式会社直井建築設計事務所所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階延床面積127.06㎡
2019年09月16日開放感と抜けのある空間この近くの団地に10数年住んでいて、土地勘があり、また地域のコミュニティとのかかわりができていたことから同じ市内で探してH夫妻がみつけたのが公園に面した敷地だった。「住宅密集地ではなく開放感と視線の抜けのある敷地を望んでいました。ここは南側に公園があってわれわれにとっては理想的でした」とHさん。大きな片流れの屋根とずらして配置された開口が特徴的。外壁は家の周りにサンプルを並べて黒のガルバリウムに決めた。手前(南)側に公園がある。設計でのリクエストもまずは「開放的で抜けのある空間」。そして「奇をてらわずおおらかで品の感じられる空間」だったという。奥さんは打ち合わせ時に、スペイン旅行の際に泊ったホテルでの体験を建築家の角倉さんに話したという。「そのホテルは修道院を改装した建物で崖っぷちに立っていたんですが、視線が遠くまで抜けて窓際からの景色が素晴らしかったんです」キッチンから2階のダイニングとリビングを見る。正面の窓から南側の公園の緑まで視線が気持ちよく抜けていく。H邸は南側の壁面に同程度の大きさの3つの窓と玄関扉の脇につくられたフィックスのガラスの開口などによって公園への抜けを確保してH夫妻のリクエストに応えているが、さらに内部においてもスペース間の視線の抜けを確保している。「どのスペースにいても開けた感じを望まれているのが最初からわかっていたので、それが設計する際の大きな核になりました」と角倉さん。さらに「基本的にはワンルームのようなつくりで吹き抜けで全体がつながっている。そういうものを望まれているのではないかと思った」と話す。リビング側からダイニングとキッチンを見る。左上が趣味室でその下が玄関ホール。素材感にこだわったH夫妻はこの空間の壁天井に砂漆喰、フローリングには「木を感じられる」材を選択した。家族がそれぞれの趣味を楽しむスペース。ドラムは上の娘さんのもの。半階分レベルがずれた趣味のスペースからLDKを見る。ベランダから内部空間を見下ろすような不思議な感覚も。階段途中から趣味のスペースを見下ろす。このスペースの真下は玄関ホールになっている。趣味のスペースの窓から向かいの公園の緑が見える。大きな玄関ホールを介してつながるH邸は玄関を入ると広めのホールになっているが、この土間のスペースはH邸のすべての部屋とつながっていて、まさに「ワンルームのようなつくり」にも感じられる。このつくりはH夫妻からの「人が集まれる家にしたい」というリクエストにも応えたものであった。外部から気軽に入れるこのスペースは「公園の集まりをそのまま引き込むようにしてつくったもの」と角倉さんは話すが「最初はお子さんが知らない間に外出したりしないように1階をリビングにしてほしいという話があって、これにずっと引っ張られてなかなかうまくいかなかった」という。1階奥から玄関ホールを見る。玄関脇の開口から公園が見える。この開口を曇りガラスにするか迷ったが結局透明ガラスを選択。玄関ホールから見る。1階奥には浴室がある。1階にはホールに面して子ども部屋が2つ並ぶ。上に見えるのはリビング。2階和室から見る。玄関上の開口のブラインドが開いているときにここで横になると公園まで視線が抜けて気持ちがいいという。「しかしあるとき、目の前に公園があるわけだからリビングを2階にもっていったほうがいいんじゃないかと思ったときに同時に土間の発想が出てきた。リビングと土間とつなげることでお子さんの出入りもわかり、土間にすることで近所の方も集まってくる。このアイデアが出てからは計画がスムーズに進みましたね」角倉さんからのこの提案に「直感的にいいな」と思ったというHさん。「土間になったホールが単なる玄関ではなくて部屋の延長でもあり、またそこでいろんなことができる可能性を感じました」左が「旅館の大きな玄関」のようなイメージでつくられた廊下。モノを置いたり座ったりと使い勝手がいいという。戸を開けておくと手前のホールと子ども部屋、リビングがつながりワンルームのようにも感じられる。昨年末に餅つきをしたときは、5家族が参加。この場所に作業台を設置し外でついた餅であんころ餅や黄な粉餅などをつくった。2階のリビングにいても人の出入りが容易に確認できる。階段途中から玄関ホールを見下ろす。おおらかさも実現竣工して2年が過ぎたH邸。「以前団地に住んでいたときも人を呼びたいとは思っていたんですが狭くてできなかった。2年経って、思った以上に人が集まってくれる家になっていますね」とHさん。奥さんは「友だちとの仲間づくりにおいてもとてもいいなと思っていて、今ならランチも外に食べに行くのではなくて“家においでよ”って言える。人とのつながりが以前とは違ったものになったのはこの家のおかげだと思います」奥さんはまた「好きな場所が家の中にたくさんあるのですが、ソファに座って眺める内部の景色が好きで、季節や時間によって光の反射の具合がちょっとずつ違うのが家の中にいて感じられるのもうれしい」と話す。Hさんはこの大きな傾斜天井が落ち着けて気に入っている。奥さんもこの天井も含めソファのところから見える景色が好きという。ソファのファブリックは皆川明さんデザインのものをオプションで張ったもの。Hさんのお気に入りは1階のホール。「機能面などからすると“遊びの空間”的なスペースともいえますが、これがこの家にある種の余裕のようなものをもたらしてくれていると思います」。そして「窓から入る光と公園の植栽の緑に心が落ち着きますね」とも。Hさんの言葉から、開放感と視線の抜けとともにリクエストした「おおらかさ」も十分に実現されている、そのように感じられた。H邸設計角倉剛建築設計事務所所在地千葉県松戸市構造木造規模地上2階延床面積114.23㎡
2019年09月09日写真スタジオからヒントを得てフードスタイリストとして活躍するつがねゆきこさん。4年前に建てた新築の一軒家は、仕事関係の人も多く訪れるため、1階のLDKをパブリックにも使えるようにと考えた。「注文住宅なのですが、こちらのリクエストをたくさん聞いてもらい、わがままを叶えました」。仕切りは設けずワンフロアのLDKに。水まわりも2階に配置して広々と取った空間は、ダイニングとリビングの間をレースのカーテンで仕切れるように。「引き戸をつけようか悩んでいたとき、仕事で伺った写真スタジオで見かけたアイデアなんです。スタジオの白くて広い空間が好きで。どこかイメージソースになっていますね」。ステンレスのアイランドキッチンに古材やアンティーク。古いものと新しいものがうまく調和したLDK。ダイニングとリビングの間はレースのカーテンで仕切った。普段は開け放しているが、子どものお昼寝の時などに便利。「引き戸にしなくて正解でした」。古いものと新しいものをMIX大きなステンレスのアイランドは、どうしても使いたかった食洗機を入れるために、業務用のメーカーにオーダーしたものだそう。「お鍋もフライパンも全部入るし、乾燥も強力なんですよ」。建築当初はキッチンの背面には、吊り戸棚を取り付けていた。「重たい感じがしたので取り外してオープンシェルフに代えました。後から色々と手を加えるつもりだったので、キッチンまわりの壁には下地材を入れてもらっているんです」。オープンシェルフの棚板には錆びた金具の取っ手がついていて、どうやら古材のよう。「お気に入りのアンティーク家具屋さんがあって、そこの修復士さんに背面側のリノベーションをお願いしました。壁ももともとブルーに塗っていたのをグリーンに塗り替えてもらいました」。壁の一部分だけにあしらったヘリンボーンの板は、修復士さんからすすめられたものなのだそう。「私の好みをよく知ってくださっていて、ヘリンボーン張りのアンティークの板がある、と教えてくれたんです。珍しいのですぐに購入して、余った材でTV台をつくりました」。「古い味のあるものが好き」というつがねさん。新築の新しくてきれいな雰囲気とどうなじませるかで頭を悩ませた。「建具や床材、壁材などは用意された何パターンかの中から選んだのですが、ベースは主張のないシンプルなものにしました。そうしておくと、古材などを合わせたときになじんでくれると思うんです」。アイランドキッチンは業務用厨房機器メーカーの北沢産業にオーダー。使い込むうちに味の出る、ツヤ消しのヘアライン仕上げに。キッチンは、つがねさんの身長に合わせて高さを設定。側面にはお子さんの“やること”、”やったこと”マグネットが。ドイツのASKOの食洗機がどうしても使いたかったもの。「お鍋、五徳、まな板、全部一度に入れられて大容量なんです」。アンティーク家具の修復士さんに依頼した背面側。オープンシェルフにはアンティークの扉を棚板として渡している。IKEAのキャビネットは施工時からのもので、右側の引出し式ゴミ箱は、つがねさん考案で夫が初めてDIYで作ったもの。ヘリンボーン状に張られていた古材の板を購入し、部屋のアクセントとして再生。つがねさんのお仕事グッズ。器やキッチンツールをRIMOWAのスーツケースに詰めて出動。作家ものやアンティークなど、自宅で使う食器類もたくさん保有している。家族の理想のライフスタイル「玄関を入ってすぐのところに手洗いが欲しい、というのと、リビングに造り付けのカウンターテーブルを設けることもリクエストしました。後から変えられないところは、ゆずれませんでしたね」。シンクは海外からの輸入ものをセレクト。リビングのテーブルに古材を渡し、古さをほどよくミックスした空間は、現在の使い勝手や、将来の住まい方も考えている。「子どもたちが小さいうちは家族みんなでほとんどの時間を1階で過ごし、2階は寝るだけ。大きくなっても帰ってすぐ自分の部屋にこもるのではなく、必ずリビングを通って少しでも一緒の時間を過ごすというのが理想です。今は私のワークスペースにしているカウンターテーブルも、いずれは子どもたちが勉強する場所にしたいと思っているんです」。リビングの一角に設けたワークスペース。いずれは子どもの勉強スペースにも。玄関を入ったところもディスプレイスペースに。ドアも1枚1枚場所に合わせて選んだ。家に帰ってすぐ手洗いができるよう玄関の近くに。TOTOの輸入もののシンクをセレクト。階段下の収納スペースは扉を設けず、オープンに。濃いブルーをDIYで塗り、外出時に必要なものを置いている。古材+アイアンのテーブルに一脚一脚違うアンティークのイス、手づくりのドライフラワーがシックな雰囲気。家族の成長に合わせてつがねさんは5歳の長男と2歳の長女、夫の4人暮らし(+猫2匹)。2階は寝るだけと割りきってシンプルに。「1階はやり尽くしてしまったので、最近は2階の子ども部屋を改装したくなってきて。長男側のスペースはブルーに、長女側はピンクにDIYで壁を塗ったところなんです。子どもの成長に合わせて、色々と変えていくつもりです」。壁を塗ったり、小さな棚板を取り付けたり、家族の写真を飾ったり。家にいるほとんどの時間をキッチンで過ごしながら、少しずつ手を加えているというつがねさん。「竣工時には最低限やりたいことはやらせてもらえました。これからはちょこちょこと変えていくのが楽しみですね」。階段には家族の思い出の写真をディスプレイ。長男側の子ども部屋は、夫と長男のふたりで塗装。長女・なつめちゃんと猫の小麦。なつめちゃん側のスペースはロマンチックに。見晴らしのよい屋上にはウッドデッキ、人工芝を敷き、子どもたちが遊べるように。BBQをすることも。1階のテラスにもDIYでウッドデッキと目隠しの壁を設けた。ガーデニングも進行中。外壁は2種類の素材を組み合わせて。ひとつひとつ考え抜いて完成。フードスタイリストつがねゆきこさんとなつめちゃん。
2019年09月02日妻が育った場所に住む富安朝海さんが生まれ育った土地に建てた一戸建て。「キッチンの場所が、私の以前の部屋と同じ場所なんです。キッチンに立っていると不思議な感じがします」旗竿敷地なので以前の建物は日当たりが悪かった。なので、新しく建てる家は、光をたっぷり差し込む明るい家にしたい、というのが希望だったそうだ。キッチンには大きな天窓を設け、3階までの吹き抜けの階段室は、1階まで光が届く。ここが旗竿敷地だとは思えない気持ちのよい光と風が満ちている。設計はHOUSE TRADにお願いした。「打ち合わせにお伺いしたら、以前の勤務先で店舗の内装をお願いしたことがあったとわかりました。大まかな希望を伝えると、イメージ通りのものを作っていただいたので、お願いして良かったです」と良明さん。「キッチンの天窓はこんな感じのものにしたいねと夫と話していたら、ズバリなイメージのものを提案していただいたのには驚きました」と朝海さん。白の壁と木目に、1階はグレー、2階は淡いブルーをアクセントカラーに加え、モダンでシックなウェストコーストの家が完成した。リビングはツヤ感のあるフローリング、キッチンはPタイルを採用。良明さん、朝海さん、3歳の凛ちゃん、1歳の紗々ちゃんの4人家族。ソファはHOUSE TRADのオリジナル。生地を外して洗えるので、小さい子どもがいる家庭でも安心。アメリカンダイナーのようなダイニングテーブル。フィフティーズっぽいベンチシートが、コンパネにペイントした壁の味わいにしっくりとハマる。「時間が経つにつれてコンパネの地色が浮いてきて、どんどんいい味になってきました」階段の手すりはエキスパンドメタル。「子どもが小さいので手すりにはネットが必要だと思っていたのですが、いっそのこと、最初からエキスパンドメタルにすればいいのでは?と考えを変えました」ウッドのキャビネットの中にダイニングスペースがある。ソファのブルーとキッチンのタイルのブルーが、白とウッドの空間に映える。大きな吹き抜けの天窓から明るい光が差し込むキッチン。カウンターは防水効果の高いモールテックスで仕上げている。釉薬のかかった淡いターコイズ・ブルーのタイルが美しい。段差とキャビネットで空間を分ける「階段に座るのが好き、と伝えると、キッチンとダイニングを2段の階段でゆるやかに空間をわけてくれました」キャビネットの向こうには、ベンチシートのダイニングが隠れている。「ベンチシートのダイニングも希望したもののひとつです。アメリカンな感じになりすぎない、イメージしていたものよりはるかにいい感じのものになりました」ダイニングがキャビネットでゆるやかに目隠しされることで、ソファスペースがよりくつろげる空間になる。「子どもがもう少し大きくなったら、ダイニングで宿題などをするようになるのかなと想像しています。なので、なるべく広いベンチシートにしてもらいました」エキスパンドメタルを使い、アパレルショップのようなウォークインクローゼットを作った。「服が多いので、大きな収納はマストでした」3階はメインベッドルーム。パシフィックファニチャーサービスのベッドを2台合わせてゆったりと。「ここを子供部屋にすることも考えて、将来的に壁で仕切ることができるようにしてもらいました」1階のベッドルームには、ベンチシートとデスクを造作してもらった。子どもと共に成長する家富安邸は、エキスパンドメタルを効果的に使っているのも特徴のひとつ。子どもが小さなうちは階段からの落下を防ぐためにネットをはることが多いが、それならば最初からエキスパンドメタルにしようという発想の転換で、階段の手すりにエキスパンドメタルを採用。そして、アパレル会社に勤めていた良明さんは服の量もかなり多い。ウォークインクローゼットは、扉にエキスパンドメタルを使ってショップ風にアレンジした。1階のバスルームは白のメトロタイル、白のルーバーの扉を使い、大きな窓から差し込む光が白い空間に満ちてとても明るい。1階のベッドルームを夫婦の寝室にして、3階を子供部屋にする計画もあるそうだ。2階のベンチシートのダイニングスペースで子どもたちが勉強するようになると、リビングとキッチンの関係性も変わっていきそうだ。子どもの成長とともに家がどんなふうに変わっていくのか、これから先が楽しみだ。洗面所はメトロタイルを採用。ベッドルームへと回遊できる動線になっている。1階のバスルームも気持ちの良い光がたっぷりと差し込む。洗面台はモールテックス。ルーバーの収納扉とドアには真鍮の把手を。階段室は2階まで吹き抜けになっている。エキスパンドメタル越しに光が1階まで差し込む。1階から2階の階段はカーペット敷き。白と木目+グレーの組み合わせが西海岸を感じさせる家にシックな落ち着きをプラス。ガラスブロックから明るい光が差し込む広々とした1階エントランス。グレーのカーペットと、大判のグレーのタイルの組み合わせ。(建築家クレジット)富安邸設計HOUSETRAD所在地神奈川県川崎市構造木造規模地上3階
2019年08月28日2世帯を左右にわける芳賀邸は2世帯住宅。芳賀さん夫妻から出された要望は「子世帯の建物とは離してほしいけれども、どこかでつなげてください」というものだった。「よくある世帯が上下で分かれるつくりには音の問題とかあるのでしないでくださいって言ったんですね」と話すのは奥さん。「あと目線が合わないようにしてくださいとお願いしました」その要望通り、芳賀邸は左右に分かれて2階部分に設けたブリッジによって連結されている。2つの棟がずれて配置され、かつレベルの違いもあって目線が合いにくくなっているが、このレベル差は最初のプランではなかったものという。2世帯を連結するブリッジ下に庭へのアプローチがつくられている。地形をつくる「最初のプランでは直接目線が合わないようにしたいということで子世帯のリビングは2階にしていたんですが、途中でリビングは庭に面してほしいという要望が出てきた。1階にしたら当然目線が合ってしまうので、それで丘をつくって子世帯の建物自体の高さを上げることを思いつきました」(建築家の岸本さん)そこで、2棟をつなぐブリッジの下の部分まで傾斜を上りそこから今度は庭に向かって下がるようなかたちで新たに小さな丘のような地形がつくられ、この地形と2つの建物とが一体化するように計画が練り直された。小さな丘状になった部分を上っていくと徐々に風景が変わりもう少し進むと庭が現れる。左が子世帯のリビング。丘の最高地点から子世帯前に広がる庭を見る。親世帯と同様に開口部分に巡らされた縁側。「縁側に出て食事をしたりしたい」との希望から途中で付加された。親世帯の建物前からアプローチ方向を見る。右上が子世帯の建物。親世帯の開口外部には縁側がつくられている。この新たにつくられた起伏によって、庭は道路側からは直接見ることができなくなったが、敷地に奥行きをつくり出し、さらにはその奥に何かあるという雰囲気をつくり出すことになった。庭の奥側の緑には手を入れていないが、建物に近い側の緑は配色にも気を遣って新たに配置されたもの。奥へと人を誘うように、また奥行き感が増すように、アプローチ部分からの流れが巧みにデザインされた。子世帯の建物前から親世帯と庭を見る。親世帯1階のコーナーにつくられたベンチ付近から庭を見る。玄関からこのコーナー部分までタイルの床と簾天井が続く。手前の柱は構造的な役割およびDK部分とベンチ付近のスペースを分節する役割をもたせられている。親世帯の開口部分に縁側が巡らされている。平屋の屋根部分にはウッドデッキが張られて大きめのテラスとなっている。対照的な2つの建物建物の方の設計コンセプトはまず2つの建物の性格を変えることだった。岸本さんは「親世帯はどちらかというと暗がりのある空間、そして子世帯のほうは対照的にオープンで明るい空間としました」と説明する。奥さんは当初、親世帯の空間の暗さに少し抵抗があったようだが、いまは「まったくOK」どころか「帰宅のときはウキウキしながら家に入ってくる」ほど気に入っているという。親世帯の玄関は庭に面した空間と比べかなり暗めだが、入って左右に長い空間になっていて、右へ行くと2階上る階段とともにDK、和室へとつながる。そして左手はそのままダイレクトにDKへ。この部分は床にタイルを張り、天井に簾を使用していて玄関からずっと外部的な空間が回り込む仕掛けになっている。そしてその終点となるコーナー地点には大きめの開口に接してL字形のベンチが設けられている。芳賀さん夫妻がともにお気に入りの場所は開口近くに設けられたベンチ付近という。壁には和紙が貼られている。DKと和室を見る。和室が小上がりになっているためちょっと腰かけることもできて便利という。右が親世帯の玄関扉。入って右に進むと階段やDK、和室に、左へ行くとDKに至る。壁に沿ってベンチが設けられている。子世帯の玄関ホール。右上の窓の建具は以前の家のものを活用している。いっぽうの子世帯のほうも玄関のつくりが特徴的だ。広い土間的空間は天井が高くつくられていてギャラリー的な空間でもある。玄関入って右手には幅広の階段が設けられていてそれを上ると庭に面したLDKへと到る。LDKは親世帯以上に庭に面した開口が大きく取られていて、そこから下部に位置する庭への眺めは緑を十二分に満喫できる格別のものだ。明るい空間にアイランドキッチンをうまく配したつくりもこの空間の心地良さを増幅させている。子世帯のリビングから玄関を見る。家形の空間の部分に幅広の階段がつくられている。キッチンの近くにウェブデザイナーをされている奥さんの仕事場が確保されている。コーナー部分に大きく開けられた開口に沿って木のベンチがつくられている。ここからの庭を見下ろす眺めは格別だ。壁・天井には珪藻土が塗られている。大きめにつくられたアイランドキッチンがこの空間の中心的存在となっている。丸鋼(断面が丸い棒状の鉄筋)を使ったデザインがこの明るくてオープンな空間に軽快感をもたらしている。住み始めてから1年と数カ月。奥さんは庭へと向かって丘状にせり上がる庭へのアプローチ部分を見るのがお気に入りという。「住めば住むほど気に入ってきました」という内部空間ではコーナー部分に設けられたベンチのあたりが「この家でいちばん気持ちが良くて気に入っている」と話す。芳賀さんが「ここから庭を見るのはすごく気持ちがいい」というのも奥さんと同じベンチのあたり。ベンチに座って庭を眺めることが多いという。起伏のある庭に緑が巧みに配置された景色はめったにあるものではない。この家の心地良さは家のつくりと庭への眺めがセットになっているのである。子世帯の軒下にはビカクシダが付けられた流木が吊り下がる。植物は息子さんが趣味で育てている。子世帯の縁側に鉢に植えられたディッキアが並ぶ。温室から親世帯部分につくられたテラスを見る。親世帯の2階の壁にも息子さんが育てる植物が掛けられている。右が温室で外壁にはガルバリウム鋼板が張られている。2世帯をつなぐ温室内には息子さんが育てる植物が並ぶ。道路側から芳賀邸を見る。左に子世帯、右に親世帯の建物が配置されている。芳賀邸設計acaa所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積211.65㎡
2019年08月26日自分たちの世界観にこだわる「田舎に住みたかったんです」と、神奈川県を走る相模線沿線に家を建てた菊地幸太郎さんと麻未さん夫妻。相模線は、茅ヶ崎駅と橋本駅を結ぶローカル線で、全線単線。車窓からはのどかな田園風景が楽しめる。「最寄りの駅は小さな無人駅で、ボタンを押さないと電車のドアが開かない……そんな雰囲気にわくわくしたんです」と笑う幸太郎さん。麻未さんも、「駅を出ると相模川が見えて、遠くには丹沢山系が望める。そういうところを歩いて家に帰ることができたら気持ちいいだろうなぁって思って」と話す。以前勤務していた古着屋で出会ったというお2人。「使い込んだ感じに惹かれる」(幸太郎さん)、「ボロボロのほうがかわいい」(麻未さん)と、ユーズド感のある雑貨や家具が好きで、インテリアの好みも似ているという。そんなお2人が「自分たちの世界観とマッチした」というのが『ライフ・ステージ』が手掛けた家。自然素材にこだわった、ヴィンテージ感あふれる住宅に興味を持たれたそうだ。「床は無垢材、壁は漆喰にしたかったんです。手や足に触れると心地いいし、経年変化も楽しめますからね」と幸太郎さん。リビングの天井にはエイジング加工をした梁を取り付け、壁の一面には特殊加工を施した杉板を設置。ヴィンテージ感をさらに高めている。天井の梁と杉板のウォールポイントがヴィンテージ感を盛り上げる。「杉板の壁部分には洋服やブーツのディスプレイを考え中」(幸太郎さん)。古材を使用したダイニングテーブルとベンチのセット、ソファは新居で購入。リビングの武骨なテーブルは以前から持っていたもの。すべて『クラッシュゲート』。玄関ホール。アンティークガラスがレトロな印象の小窓はリビングに通じる。ウエスタン扉の奥はシューズクローゼット。アウトドアグッズなども収納。「彼が脱ぎ散らかした洋服を片付けるためにリビングに置いています」(麻未さん)。古着屋時代に培った収納術が活かされている。大人可愛い理想のキッチン麻未さんが『ライフ・ステージ』を選んだ決め手と話すのは、オーダーメイドのキッチン。「形から入るタイプなので、可愛くないと料理はしない!と言い、私に任せてもらいました」(笑)。麻未さんの大好きな淡いグリーンと白のタイルを組み合わせたカウンターに白い木製のキャビネット、取っ手は真鍮にするなど、麻未さんの理想どおりのキッチンが完成した。背面にはオープンラックを造作し、見せる収納にチャレンジ。「食器類は、可愛くないものは買い替えました(笑)。飾り棚も設えてもらい、ディスプレイも楽しんでいます」。リビング側には、キッチンカウンターの上に屋根を取り付けた。「“居酒屋マミちゃん”と名付けて、“はーい、いらっしゃい!”とか言いながら、カウンター越しに料理やドリンクを手渡ししたりして2人で遊んでいます(笑)」(麻未さん)。麻未さんのリクエストに沿って完成したキッチン。使い勝手もよく、料理も楽しいそう。奥のアール型の開口からパントリーに続く。造作のオープンラック。棚の高さは変更可能。「扉の開け閉めがなく楽です」(麻未さん)。ディスプレイはいろいろなお店をチェックして研究中。買い溜めした食料品等をお洒落にストック。収納グッズにもこだわりがみられる。キッチンカウンターの上に屋根をつけて、居酒屋風に。菊地邸にはぬくもり感のあるホウキ&チリトリ(左側)が所々に置かれ、インテリアの一部になっている。カウンター越しに会話も弾むお2人。夜にはテーブルの上のランタンに火を灯し、ほかの照明を消すと、また違った雰囲気に。手を加えてアンティーク風に菊地さん夫妻のオシャレな暮らしを彩っているのが、使い込まれた感のある味わい深い家具や建具、レトロな雑貨たちである。どこか懐かしい照明がそこここにあり、アンティークガラスを用いた建具もアクセントに使われている。「以前は車を持っていなかったので、古着屋や古道具屋などで気に入ったものを見つけると担いで持ち帰っていました。ずいぶん電車の中で注目されましたね(笑)」と幸太郎さん。麻未さんは自転車で持ち帰ることが多かったと話し、「自転車のかごにのるくらいの小さな家具類が多いんです」という。また、この家のテイストに合わせて麻未さんがリメイクすることも多いそう。親しみやすく素朴で愛らしいグッズたちは、お2人の雰囲気にぴったりである。今、気になっているところは“庭”というお2人。木の柵を立て、プランターをかけ、アンティーク風な庭にしようといろいろ計画をしていたそうだが、問題が勃発。「入居してすぐにレンガの道を自分たちで造ったのですが、翌朝起きたら、モグラにボコボコにされていたんです。僕たちより先にモグラが住んでいたわけだから、かわいそうなのでそのままにしているんです」と幸太郎さん。「まだモグラに会ったことはないですが、共生しようと思っています」と麻未さんも賛成のようだ。住み始めて1年半。自分たちの好みに合わせて、自分たちらしくアレンジして暮らしている菊地さん夫妻。さらなる進化に期待が膨らむが、庭づくりについてはしばらく先になりそうだ。趣味でイラストを描くという麻未さんのアトリエ。家具のリメイクはここでシートを敷いて行う。このハシゴは幸太郎さんが担いで持ち帰ったものの1つ。電車内ではかなり目立っていたそう。麻未さんがリペイントした。アトリエに置かれた小さなテーブルは麻未さんが自転車で運んだもの。ボロボロだったものを塗り直した。腰壁上の漆喰壁は夫妻で塗った。2階の寝室。棚類はヴィンテージ感を出すために麻未さんがリペイント。リビング脇のサニタリールーム。タイルの配色は幸太郎さんが考えた。「とても気に入っているため、普段は入り口のドアを開け放し、リビングから見えるようにしています」。菊地邸には個性あふれるお洒落な照明が多い。階段に設置されたステンドグラスのライトは麻未さんのお気に入り。「三角屋根の家がよかった」と麻未さんの意見が採用。赤いポストは、ネイビー好きの幸太郎さんとグリーン好きの麻未さんとの折衷(?)案。モグラが住んでいる庭。ブロック塀が建てられるように、すでに穴も開けてあり、準備は万端なのだが……。設計株式会社 ライフ・ステージ所在地神奈川県相模原市構造木造規模地上2階延床面積92.73㎡
2019年08月19日リビングを外につくる中央線文化がいいと思って沿線で土地を探したという高橋さん。ゼネコンに勤務しながら“座二郎”というペンネームで漫画家としても活動している。高橋さんが「中央線の北側で西武線との間」で見つけたのは「安くて小さい土地」だった。「最初は既存の古家をリニューアルしようと思っていたんですが、容積率が6割くらいオーバーしていてローンが下りなかった。では新築しようとなったんですが、容積率・建ぺい率通りに建てるとあまりにも狭くなってしまう。それで、半分冗談でリビングを外にして“こんなふうにすればつくれるけど”って絵を描いたら、奥さんが乗り気になってしまって」コンパクトな敷地に立つ高橋邸。2階の窓を通して中を覗いてみない限り、内部のつくりはうかがいしれない。その案は中庭部分をリビングにして大きく取り、かつ豊かな空間にして、残りはなるべくコンパクトに収めるというものだった。「その一番最初の絵には、道路側に奥行きの浅い収納をつくってその中にテレビとかを収めている様がすでに描きこまれていました。リビングの機能はとにかくこの中庭側にぜんぶ収めるという考え方で、ピアノとかテレビや本棚といった、リビングをリビングたらしめるものはこの収納に入れていましたね。これでたぶんこの家は面白くなると思いました」2階から外部につくられたリビングを見る。左にダイニングキッチン。2階からリビングを見る。左手が道路側で、1階の左手奥の部分が玄関。外部にも収納がつくられている。玄関近くからリビングを見る。床は予算の関係で土間にしたができればタイルを敷きたかったという。1年を通してリビングとして使用するため床下暖房にすることにはこだわった。ダイニングキッチン側からリビングを見る。正面と右手に収納がつくられている。奥行きの浅い収納はガラス戸になっているためどこかウインドウディスプレイの趣も。この時代の暮らしの“標本”の陳列ケースのようにも見える。天井代わりに布をかけるこの中庭=リビングに立って見上げると白い布が天井代わりにかけられているが、これをたたんでしまえば空が直接目に入ってくる。この気持ち良さは格別のもので、天窓レベルでは味わえないインパクトがある。天井代わりに布を張るというこのアイデアは高橋さん一家がキャンプ好きであることも関係があるようだ。「家族でキャンプによく行くんですが、タープを張るのがすごく好きなんです。それで家でタープを張ったら面白いだろうなとずっと思っていました」。とても原始的・簡易なつくりで、日除けになりかつ風通しもあるという点が好きなのだとも。リビングから上を見上げると屋根がなく空を直接望むことができる。キャンプのタープのように日差しと雨を防ぐための布を梁の後ろに収納。屋根代わりの布を張るロープや金具などの道具は高橋さんが購入して据え付けた。屋根代わりの布を収納するとリビングの空気感が一変する。リビングにいながらにして空を直接眺められる気持ちの良さはキャンプで味わう戸外の気持ちの良さと通ずる。「これだけ開口が広く取れると戸外の気持ち良さを満喫できるので、この家ができてからキャンプに行く気が起きないんですよ。なぜわざわざそんな過酷な環境のところにまで出掛けて行かないといけないのかと(笑)」「外部につくられたリビング」ということでは暑さ、寒さが大丈夫なのか気になるところだが、「真冬は夜風が吹いたりするとちょっときついですが、陽が射している昼間は結構過ごしやすい」という。また「夏は上に布を張ってエアコンをかければリビングでもまったく暑くない」とのこと。リビングとダイニングキッチンが違和感なく連続・一体化しているが、片方が屋外でもう片方が屋内であることから他では味わえない不思議な感覚をおぼえる。階段からダイニングキッチンを見る。インテリアの色は奥さんのみのりさんが担当。徐々に高橋さん/座二郎の漫画の世界の色に近づいていったという。ダイニングキッチン(左)とリビング。浴室からリビング空間のほうを見る。漫画の世界と通ずる空間高橋さんが日頃の設計業務で扱う建物はRCと鉄骨ばかりで木造の経験がなかったため、この家の設計では学生時代からの友人で建築家の鈴木理考さんに相談に乗ってもらうことに。「木造については予算の組み方からまったくわからなかったので相談させてもらって、実施設計と確認申請をお願いしました」その鈴木さんが言うにはこの住宅自体が高橋さん/座二郎の漫画の世界に通ずるものがあるという。予算の都合で実現はできなかったが、初期案での中庭=リビングの周りを収納がめぐるつくりはまさしくモノが充満した座二郎の漫画の世界をほうふつとさせる。高橋さん自身も「モノがたくさん陳列されている感じがとても好きでそこにはけっこうこだわりましたね。色をたくさん使おうというのも決めていて、インテリアデザインをしている奥さんに色をたくさん使ってくれと頼みました」2階のコーナー部分は高橋さんがアクリル絵の具を使った作業の際に使う。収納部分にはライン照明が仕込まれていて、夜には奥の壁の色がボワーっと浮かび上がる。地下鉄の東西線をイメージしてつくった作品。タバコのハイライトの包み紙を使っている。高橋さんがつくった年賀状。2017年と2018年のもの。2018年のほうにはすでにこの家の初期のイメージが描かれている1畳程度の高橋さんの仕事部屋。中の棚は自分で製作した。ピンクの扉は紙をコラージュした上に色を塗っている。コンパクトな住宅ならではの工夫。トイレの扉を手前側まで引くと階段部分と仕切る間仕切りになる。扉の表側は黒く塗られた上に紙がコラージュされている。美しくデザインされた階段。鈴木さんの腕が振るわれた部分のひとつ。空は直接見えるが家具をガラスを通して見るという逆転現象が不思議な感覚を生んでいる。玄関近くの収納前につるされた緑。緑はこれから増やしていきたいという。非日常が家の中にこの家に住み始めてから5カ月ほど。屋根代わりの布を固定するロープや金具もいろいろ試して工夫をしているという。「ロープを止めておく道具はヨット用品です。ロープをぎゅっと押し込むとそれ以上引っ張っても動かないというもので、キャンプ用品と組み合わせて使っています」お子さんは最初屋根のない家には大反対だったが、今ではそれが嘘のように楽しみながら暮らしているようだ。「この家は子どもは楽しいところが一杯あるので。走っても楽しいし、なんでそんなに取り合うんだろうと思うくらいハンモックでよく遊んでいますね」。日差しが直接入り込む環境でのハンモックはまた楽しさ倍増だろう。奥さんは「外でくつろぐことは他の人にとっては非日常ですが、それが家の中でできるから楽しい」と話す。天気予報をいつも確認していないといけないし、布が帆のようにバタバタ揺れるから船のようでもあると話す高橋さん。「もう普通のマンションには暮らせないですね」と問いかけると笑いととともに「暮らせないですよ!」という返事が返ってきた。高橋邸設計鈴木理考建築都市事務所+座二郎所在地東京都杉並区構造木造規模地上2階延床面積57㎡
2019年08月14日自分たちの感性で見つけた家場所は都心の喧騒から離れた、坂のある静かな街。写真家の松村隆史さんと絵本作家の真依子さん、そして二人のお子さんの4人家族が暮らす家を訪ねた。以前は古いマンションに住んでいたが、子供が小学校にあがるタイミングを目標に家探しを始めた。「1年半ぐらいは場所にもこだわらず、いろいろなところを見に行って探しました。でもなかなかいい物件もないし、ここだ!と思ったところがタイミング悪く買えなかったり。この家は住宅情報サイトで見つけました。冴えない写真が掲載されていたのですが、間取りが気になったから見に来て見たらすごく気に入って絶対ここだ!と」。築年数はおよそ35年ほどと古すぎず、住み始めるには現実的だった。さらに、設計者が吉村順三の所員だったことも判明した。目の前には緑地に植えられたもみの木や桜の木が借景に。キッチンはPacific furniture serviceに設計してもらった。木目もこの家に合うものを。レンジの向かいには実用的にも装飾にも使える穴あきボードで壁を。三層で構成する空間「普通は斜面の土地を平らにして建てると思うんですが、土地の形に合わせて設計されているところが良かったです」と話す隆史さん。丘陵地帯に建つこの家は、その地形を活かした三層構造で設計されているので、まさに地に足が着いているというような安心感が漂う。一層目の小さな仕事部屋脇を通って階段を上がったところが二層目で玄関ポーチがある。中に入ると正面の水周りスペースを挟んでLDK側と寝室側に分かれる。LDKは正面に大きな開口がスクリーンのように設けられ、外の景色を切り取っている。さらに三層目の2階の部屋の広さもそこそこに吹き抜けで天井高をとっているので、自然の明るさと実際の面積以上の開放感を感じられる。入居するにあたり、大きくはキッチンをつくり変えた。「前に住まわれていた方用にとても低いキッチンだったので思い切ってつくりました。壁の白いタイルも普通のなんでもない壁にしたくて、貼り方もなんでもない感じを模索して」。つくり付けのダイニングテーブルも、設計されていたかのような馴染み具合。真依子さんは使い勝手がとてもいいという。壁面のユニットシェルフはドイツのインダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスが1960年にデザインした「ヴィツゥ」のもの。子ども机は松村さんお手製。友人でもあるMOBLEY WORKSでつくらせてもらったという。LDKに真依子さんの絵を描くためのスペースがある。こちら側にも大きな開口があり気持ちがいい。真依子さんがつくった絵本たち。しっとりと落ち着く空間外観からは見えないが、庭はもちろん植栽スペースがところどころにあり住まいに潤いを添えている。寝室は低い位置に配されたL字方の開口が庭木の景色を切り取り、しっとりと落ち着く空間になっている。開口の位置が低いので、隣家との距離が近くても視線が気にならず、地面に近い高さで過ごせる。鉢植えも枯らすようなタイプだった、と話す真依子さん。「広くないとはいえ、庭の手入れはすごく大変です。こまめにやらないとあっという間にジャングルになっちゃう。洗濯物干したついでにここだけ、という感じでちょこちょこ草むしりしています。でも無心になれるから気持ちがいいですよ」。「ここは川も近いし環境はいいですね。たぬきが出たりもするし、ふくろうもたまにいるんですよ」と話す隆史さんは、庭に小さな畑コーナーをつくり、ミニトマトや紫蘇、パクチーなど、摘んですぐ食卓に添えられるものをつくり始めたそうだ。この家で少しずつ、自分たちの暮らしをつくりはじめている。寝室の壁のシックな色合いとイサム・ノグチの和紙の照明がマッチしている。玄関建具は腐食していたので、元の扉に忠実に作り直してもらい、下部には補強も兼ねてコッパーを廻した。エントランスまでのアプローチ脇にも植栽スペースがある。右手には仕事部屋がある。すっきりと無駄がなく、さりげない佇まいの外観。
2019年08月12日目の前の借景を活かして都心の人気の住宅街。緑豊かな公園の目の前という立地に、夫の父親の代から一戸建てを構えていた渡辺さんご家族。「前の家に10年程住んで、建て替えることを決めました。父から譲り受けるにあたっては、“明るい家にする”ということが条件でした」と、夫の耕治さん。とはいえ、単に明るいだけではなく、陰影がしっかり表現された落ち着きのある家が、夫婦揃っての希望だった。「ふたりともアメリカに暮らしたことがあり、映画の『グリーンカード』に出てくるような家がいいね、と言っていたんです」。特に映画に出てくるサンルームに憧れたそう。妻のあきとさんは、「キッチンに立つと、広々としたリビングの向こうにフラットにサンルームがつながる、そんな空間を希望しました」。おふたりの考えを具現化したのはssideの杉山純一さん。公園とつながるかのような広々としたLDKを2階に、コンパクトな寝室を1階に。斜線制限のある17坪の5角形の角地を最大限に活用して、プランニングを行った。天井高も確保した開放感のあるLDK。キッチンから全体が見渡せる。外壁にはフレキシブルボードを使用。ワイルドで荒々しい雰囲気を出した。バルコニーを部屋の一部に「プランの打ち合わせのほとんどは、サンルームのデザインに費やされました」。色々なやりとりの中で、憧れのサンルームは“インナーバルコニー”というカタチになった。「サンルームを部屋っぽく使いたい、というご希望で、それなら家の中にバルコニーがあるようにしてしまおうと。共に相談を重ねる中で生まれたアイデアです」と杉山さん。5角形の先端を舟の舳先に見立て、インナーバルコニーの中央に。そこを軸に左右対称にLDKにつながっていく。バルコニーは室内側にペアガラスの引き戸、道路側に型板ガラスの大きな開口を設け、天候によって自由に開け閉めできるようにした。「夏はほとんど開けっ放しにしていますね。バルコニーには防水をかけているのでビニールプールを出したり、秋にはお月見をしたり。ここがあるだけで生活が全く変わりました」。東南の角地だが、道路を挟んで隣家が建つ南側にはあえて開口を設けなかった。そのため、トップライトから降りる光や、東の公園側から西側の開口に抜ける光が強調され、陰影のある空間となった。無垢のオークの床が心地いいリビングダイニング。照明はあまりつけず、自然光で暮らすのが好きだとか。インナーバルコニーにはレッドシダーのデッキを。「緑は公園に委託し、サンルーム的には使っていないんです(笑)」。窓を閉めれば、バルコニーがリビングの一部に。アンティークな型板ガラスが、レトロな雰囲気も添える。公園の緑をフレームのように切り取る。リビング側の引き戸を閉めれば寒暖の調整も。家族の気配を感じるLDKリビングダイニングを見渡すことができるアイランドキッチンは、ステンレスでオーダー。「私たちの身長に合わせて造ってもらったので、使いやすいですね。家具はあまり置きたくなかったので、収納の棚も造作してもらいました。作業台としても便利なので、建て替えてからお料理を作ることも多くなりました」。色ムラのあるダイニングテーブルは、ssideがこの家のイメージに合わせて見つけてきたものだそう。「ピカピカの新品ではなく、荒々しさ、素材感がこの家の特徴だと思っています。外観もダーク色で“固まり”を感じさせるので、ロフトへの階段はあえて強い色を選びました」(杉山さん)。リビング中央の存在感のある階段を上がると、耕治さんの趣味のレコードなどを収めたロフトがある。仕切りのないひとつの空間が、家族それぞれの大事な時間をつないでいる。中央に階段を。キッチンからはリビングで遊ぶ長女はるねちゃんを見守ることもできる。キッチンは掃除のしやすいステンレスで造作。高さを揃えて収納棚も造り付けに。奥にはパントリーを設けた。キッチンからつながった収納棚のダイニング側には、アルバムなどを収めている。木と鉄骨の脚の組み合わせが、武骨な雰囲気のダイニングテーブル。ロフトへ上がる階段は木製。アイアンの手すりが荒々しさを添える。たくさんのレコードを所蔵するロフトは、秘密基地の雰囲気。機能性を追求した1階広々とした2階と対照的に、1階はベッドルーム、ウォークインクローゼット、バスルームと、必要なスペースを機能的にまとめた。「前の家の住みにくさを検証し、動線を考えました。仕事で夜遅く帰った日は、2階にあがらず1階だけで済んでしまうこともありますよ」。アメリカ生活の影響がいちばん反映されたというバスルームは、お風呂、洗面、トイレを一体に。洗濯からアイロンかけまで同じスペースでできるなど、ランドリールームとしても活躍する。冬は冷え込みがちな1階だが、蓄熱暖房機を玄関に置いたことで、1階はもちろん家全体が暖かいのだそう。「寒いのが嫌いで、アメリカのセントラルヒーティングに憧れていたんです(笑)。蓄熱暖房機はssideさんの提案なのですが、おかげで冬も半袖で過ごすことができ、1年中快適に暮らせています。設計前はこんな狭い土地で何ができるの?と思いましたが、時間をかけて考えただけのことはあったなと思っていますね」。ベッドルームと子ども部屋の間は、いずれカーテンで仕切れるようレールを設置。リフォームで壁をつくることもできるレイアウトに。ベッドルームは横すべり出し窓に。明るくなりすぎずゆっくり眠れる。夜中に蓄熱する蓄熱暖房機を、玄関に設置。これ1台で冬も家中暖かい。ランドリールームとしても有効な、広々したバスルーム。洗濯ものはアイロンをかけて隣のWICへ、と動線がよい。3畳の広さのあるウォークインクローゼット。家族3人の衣類をここに収納。インナーバルコニーは家族の団欒の場に。毎日、緑に癒される。渡辺邸設計sside建築設計事務所狭小住宅プロジェクトCOHACO所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階+ロフト延床面積78.78㎡
2019年08月05日動線を考えた家づくり中野駅至近の便利な場所に建つ鉄骨3階建ての戸建てを購入したYさんご夫妻。リノベーションはランドスケーププロダクツに依頼した。「ランドスケーププロダクツが運営するインテリアショップ『プレイマウンテン』が大好きで、よく通っていました。そのランドスケーププロダクツが個人宅のリノベーションを手掛けていると知り、すぐにコンタクトをとりました。デザイナーの片山貴之さんは、ざっくばらんに会話をする中で、好きなものややりたいことを的確に拾って形にしてくださいます。インテリアを含め、思い描いていたイメージ以上の家になりました」なかでも、Yさんが大切にしたことのひとつに、“動線”があったそう。「たとえば、波乗りから帰ってウエットスーツをどこで洗って、サーフボードをどこに置くか。脱いだ洋服はどこに仕舞うか。家に帰って鍵をどこに置くか。そんなふうに動きを考えながら間取りを決めていく過程がとても楽しかったです」もともとは外階段で上がった2階に玄関がある家だったが、動線を考え、外階段を外して1階に玄関を作り直したのだそうだ。「とても暮らしやすい家になりました」1階はもともと倉庫として使われていたのだそう。玄関のモルタルを奥まで伸ばし、土間のように使えるスペースに。オーク材を貼った壁面に自転車ラックを設置。階段は新設した。1階に、サーフィンから帰ってきてすぐにウエットスーツやボードを洗えるシャワーブースを作った。「砂をここでしっかりと落とします」玄関脇に鍵などを収納できるBOXを作った。「家に帰ってきてここに鍵をしまう。出かけるときはここから持ち出す。動線を考えて、必要なものを考えました」木+鉄の経年変化を楽しむ広い空間を作ることができる鉄骨造の建物の良さを生かし、2階に広々としたリビングとキッチンを作った。「天井の内装材をはがしてみたら、鉄骨が見えたので天井は現しにしてもらいました」階段も鉄骨造の質感を生かしたデザインにして、インテリアにアイアン+ウッドの統一感をもたせている。「鉄や木など、時間とともに自分たちと一緒に育ち、味わいを楽しめる素材が好きです。キッチンの白ラワン材の面材は、かなり赤っぽく変化してきました」床は無垢のオーク材を使っている。ヘリンボーンやパーケット、乱尺張りなど、リビングや寝室、廊下で張り方を変えて楽しんでいる。ソファやローテーブルはランドスケーププロダクツが制作。床材は無垢のオーク材のオイル仕上げ。ブラインドはハンターダグラスのものをチョイス。柔らかな光を室内に取り入れながら、外の建物からの視線は遮ることができる。窓枠の下にはナラ材を張った。アアルト、タピオ・ウィルカラ、フリッツ・ハンセン……お気に入りのイスを一脚づつ並べている。ダイニングテーブルもランドスケーププロダクツのオリジナル。天板は3階の書斎の床材に使ったヘリンボーンのオーク材。キッチンの吊り戸棚やアイランドキッチンの腰板は、白ラワン材の突板を使っている。キッチンの天板は熱い鍋などもそのまま置けるステンレスに。「ヒースタイルを使ってみたいとも思いましたが、そこは敢えて引き算のデザインにして、シンプルな白のタイルにしました」お気に入りのものを飾っている棚とたっぷりの緑の組み合わせが美しい。「ここに越す前は植物には興味がなかったのですが、いまはすっかりハマっています(笑)」「普段なかなかTVを見る時間がとれないので、風呂に入りながらTVを見たいという希望がありました。ならばユニットバスのほうがいいだろうということになり、片山さんにメーカーのショールームまでお付き合いいただきました」水槽の中にはペットのナマズくん。「空腹の時に餌をねだる姿が可愛いです」居心地が良すぎて外出したくない!?3階には、寝室、書斎、ゲストルームの3部屋がある。「寝室の壁の一部にオーク材を張りました。ベッドのヘッドボードとしての役割も兼ねています」使い勝手や素材感など、細かな部分までこだわって作ったYさんの居心地のいい住まい。「居心地が良すぎて家から出たくなくなります。3階に冷蔵庫を置きたいとも思ったのですが、これ以上便利すぎるのは良くないと思いやめました(笑)。ゆっくり家に居たいと思える住まいを作ることができて、これ以上の幸せはないです」北側斜線制限のため斜めになっている壁が、巣ごもり感のある寝室になっている。テラスにはたくさんのグリーンが。2階から3階への階段は既存のものを使った。美しいデザインのアイアンの手摺り。玄関を1階に移動したので、1階から2階への階段は新設した。3階のゲストルームは、いつでも友人が泊まれるように、美しく整えられている。(建築家クレジット)ランドスケーププロダクツ所在地東京都中野区構造鉄骨造+RC造規模地上3階
2019年07月29日可変性を仕込むK邸の敷地は恵比寿の住宅地にある。Kさんの仕事場との距離を考慮してこの土地を購入したが、その際にはご両親が利用することも想定されていたという。「当時は一人暮らしでしたが、これから家族が増える可能性もあるし、何年後かに事務所にするパターンもあるかもしれない。将来いかようにもできるようなつくりにしてほしいと建築家にお伝えしました」鉄骨3階建てのK邸。この写真では見えないが奥にはペントハウスが載っている。玄関入って数段階段を上がると1階スペース。加えて、Kさんが共同でこの家の設計にあたった山路さんと釜萢さんのお2人に伝えたのは「スキップフロアにしたい」、そして「ツルツルピカピカの空間にはしたくない」ということだった。さらに、ネットで見つけた好みのインテリア写真を見てもらったという。山路さんは「スキップフロアにしたいというお話があった時に、部屋をつくっていくというよりずるずるとスペースがつながっているような構成をイメージされているように感じた」という。「それで、斜線制限をかわした最大ボリュームをシンプルに立ち上げてできた空間を伸びやかに使い切るようにしようと。そしてその縦の空間にどのように床を取っていくか、断面的な構成をどうするかが最初から設計のテーマになりました」玄関入ってすぐのソファの置かれたスペース。階高は2.2mで鉄骨造の部分はペントハウスを含めて4層ある。寝室と同じ2階レベルにある踊り場スペース。チャーミングな場所をつくるKさんが揃えたインテリアの写真には、「シンプルだが設えがかわいらしい感じのもの」が多かったという。そこで空間としてはシンプルな構成につつ、ところどころにチャーミングな場所をつくる方向で設計を進めることに。空間を広く感じまた使えるように、木造よりも小ぶりで薄い部材ですむ鉄骨造が選択されたが、鉄骨造でありがちな、人を少し突き放すような冷たさを感じさせないように、建築家のお2人は、このチャーミングな場所をつくることを意識しつつも、温もりのようなものも感じさせることも考慮して素材や色の選択を行っていったという。2階レベルにある踊り場を見下ろす。「チャーミングな場所」は家具や緑とのセットでつくられる。踊り場から同じ2階レベルにある寝室を見る。庭のような空間設計が進む中で、お風呂を眺めのいいペントハウスにつくり、寝室を2階に、ダイニングキッチンを地下にすることなどが決まっていったが、K邸の玄関を入ってすぐ目の前に現れるスペースは用途が決まらないままだった。今はソファが置かれリビング然としたこの空間、Kさんは「何にでも使える庭のようなものにしたらどうだろう」と思っていた。これに対して設計側は「ふつうに考えた場合、いちばんいいと思える場所に生活の中での機能的な役割をあまりもたせずに、Kさんの言われるように中庭的なものとすることで家の広がりをつくるというふうにとらえてみると面白いのでは」と考えたという。山路さんがまたさらにKさんとの打ち合わせの中で面白いと感じたことがある。「行為の順番で空間に対する要望を話されるんですね。お風呂を出た後にこうしたいからこのへんにそうできるスペースがあったらいい、というようなシーンで伝えてくる。こういう要望の出され方ってほんとに珍しいんですね」踊り場から1階を見下ろす。寝室に行くにはここから1階上がってから階段を下る。トイレ以外は閉じた空間がなく1階のスペースを中心に広がりの感じられるつくりになっている。寝室の1層上は服や小物が置かれ洗面所もある多目的のスペース。寝室を見下ろす。壁の明るいシナ合板は、鉄骨部分のグレーを考慮し、かつ空間に温もり感を与えるための選択。「そういう話からあの部屋が生まれたんです」と山路さんが話すのは寝室の1層上につくられた多目的のスペースだ。「ふつうは水回りは水回りで固めるとつくりやすいんですが、シーンで考えていくと、お風呂をあがった後に顔を洗わないし、服を着替える近くに洗面所があったほうが自然じゃないかという話からあの場所にできたんです」Kさんは「帰ってきて、あそこで服を脱いでお風呂に入って着替えて寝るという流れを考えたのと、あの部屋はぐちゃぐちゃしていていいという考えだったので、あそこにものをたくさん置いて、ほかのスペースをすっきりさせようという考えもありました」階段の踊り場に置かれた古い机とテーブルがチャーミングな雰囲気をつくり出している。1階の柱にかけられたマーク・ロスコのレプリカ。1階の壁際に置かれた家具や緑などもチャーミングな場所をつくり出している。背景のシナ合板の色合いとの相性もいい。「お風呂だろ、この家は」というKさんのお父様の“鶴の一声”でお風呂を最上階のペントハウスにつくることが決まったという。お風呂だけのシンプルなつくりが気持ちの良さをさらに増幅する。大開口からの眺望がすばらしい。近くの住宅とはレベル差があるためプライバシー的にも大きな問題はないという。今も攻略中引っ越しから1年近く経ったK邸。最初は慣れない感じもあったが、Kさんの中では気持ちのいい“流れ”ができてきたという。「帰ってきて、窓を開けて、上に上がって、お風呂にお湯を貯めてとか、だいぶ自分のなかで流れ、リズムのようなものができてきて、今はそれが気持ちがいいし楽しいですね」窓を開けるといった単純な所作も意外と楽しいというKさん。「そういう普通なら“余白みたいなところ”に面白さを見出すとは自分でも思ってもみなかった」という。「帰ってきてからあの洗面のあるスペースから子どもが寝ているのが見えるのもいいし、また同じ場所で、一拍おくようにして何かを考えるリズムのようなものができて、それも面白い」と話すKさん。さらなる面白さを見出すために、この家を「今も攻略している感じ」だという。「もうちょっとこの家の可能性を住みながら探していく感じはあります」とも話すKさんは、この家を身体にとても近い感覚でとらえ、楽しんでいるのではと感じられた。Kさんが一人の時はよくキッチンの換気扇の下あたりで、タバコを吸いながら晩酌をしているという話から、地下のキッチンを居心地の良いものにしようと心がけたという。キッチンの上は吹き抜けになっている。Kさんは現在、パートナーと娘さんの3人で暮らす。3人でいる時間はダイニングスペースがいちばん長いという。テーブル上のライトは、「真っすぐに並べたらたぶんつまらないんじゃないか」と思い、試験的にばらばらに設置したもの。キッチン上の吹き抜け。ペントハウスの天井まで見える。玄関の下にあるボックスがトイレ。この家で唯一の閉じられたスペースだ。エントランス付近に置かれた緑もどこかチャーミングな雰囲気を醸し出している。K邸設計山路哲生建築設計事務所+釜萢誠司建築設計事務所所在地東京都渋谷区構造鉄骨造規模地上3階+地下1階延床面積103.84㎡
2019年07月22日ながれが感じられるようにスペイン料理のシェフを務める夫と、デザイナーの妻。昨年秋、のどかな東京郊外に建坪14坪ほどの角地を見つけ、松島さん夫妻は新居を建てた。「土地を見つけてから設計事務所を探し、その中でいちばん私が求めているものに近いミハデザインに依頼することにしたんです」。設計の仕事に携わってきた妻が、家づくりを主導した。「ほとんど私の希望で進めました。夫が口出しをしたのはキッチンだけなんですよ(笑)」。妻の理想は“仕切りが少なく、全部がつながっているような家”。1歳の長女が1階のリビングで遊んでいても、2階のワークスペースからその様子を感じ取ることができる。そんな見通しのいい家が希望だった。南側のテラスに面した大きな開口から光が差し込むリビング。2階の床の高さに差がつけられている。厨房のようなキッチンがリビングと一体に。正面上はワークスペースから子ども部屋に上がる階段。抜けが連続していく「松島さんが思い描く家は、生活をベースにしたフラットでナチュラルなものでした。大まかなことを伝えられた以外、細かい指示はなくスムーズでしたね」というのは、ミハデザインの光本さん。“全体がつながった家”を実現するために、光本さんが考えたのは、床のレベルを違えながら、2階の天井までつなげていくこと。吹き抜けになったリビングの上に生活スペースが積み上げられていくような構成だ。「まず1階のリビングから2階のワークスペースに空間が抜け、さらに2階の子ども部屋も少しレベルを上げることで、抜けが全体をぐるっとつなげていきます」。敷地に面した通りとの距離も、どうカバーするかを思考した。「車や人が通ったときの家との距離感が気になっていました。そこでプランターのあるテラスを1階の南側に設け、テラスに面して大きな開口を設置しました」。北側の2階にも開口が設けられ、光が南から北に、家の中を通り抜ける。「この光の通り道があることで、空間が外までつながっていきます。外まで含めた大きな空間の中に、レベルの違う床が載っかっているイメージです」。25坪ほどのコンパクトな一軒家ながら、つながりと外部との一体感が、開放感を感じさせる。2階ワークスペースからリビングを見る。ここから家族の様子を見守ることができる。2階のワークスペース。中央の机と本棚を挟み、左右対照に設計されている。リビングから上を見上げる。仕上げ材を使わないことで自然な風合いを感じさせながら、コストもカット。木の温もりを味わうミハデザインともうひとつ考え方を共有していたのは、空間を包む素材感。「均質でまっさらな感じには違和感があったんです。子どもが絵を描いたり、だんだん汚れていったりしても気にならない。そういう家にしておきたかったので、仕上げ材はあえて用いず、木を現しました」(松島さん)。無垢のオークの床に壁はラワン、天井も建材をむき出しに。「あとはリビングさえ広ければ、個室は小さくてもいいとお伝えしました」。2階のワークスペースとベッドルームのあるフロアから、階段を数段あがってアクセスする子ども部屋は、中央で区切ればもうひと部屋設けることもできる。その際には、現在ある階段と反対側にもうひとつ、左右対称に階段を設けて、入り口をつくることも計算されている。ここで図面をひいたり、パースを描いたりする間も、1階や2階子ども部屋の気配を感じることができる。ベッドルームもシンプルに。昔から持っている和家具を活用。玄関とリビングの間に階段を設置。空間を塞ぐことなく緩やかに分けている。階段下を利用して土間の収納に。キッチンにも通り抜けられて動線がいい。リビングの壁は、家族の思い出の写真を飾るコーナーに。これからどんどん増えて行く予定。いずれはテイクアウトのお店も「私のリクエストはキッチン台の高さとシンクの大きさ、コンロの火力などの設備です。調理のしやすさを優先しました」。夫のオーダーで造ったステンレスのキッチン台の下は、収納を設けずオープンに。こうすることで厨房のように調理器具などが取り出しやすくなる。毎週末、ここで食事の準備をするのは、夫の担当なのだそう。「いずれはテイクアウトの弁当屋などもできたらいいなと思っているんです。そのために、小窓を設けてもらいました」。キッチンの一角は将来のプランにも対応が可能。今は、1歳の長女が自然の風合いに包まれたリビングで自由に遊ぶ。光が通り抜ける開放的な一軒家は、これから変化を続けていく。使い勝手を考えたキッチン。子どものために、これまで観ることがなかったテレビを、キッチン台の下に置いた。スコーンなども、よく夫が焼いて家族で味わうそう。いずれお店にしたいと考えているコーナー。リビングで寛ぐ松島さん家族。外とつながるような開放感が心地よい。昔、古道具屋さんで買ったライト。設備鋼管や既成の金物をうまく組み合わせて設置してもらった。グレーに青を混ぜた色味の外壁は、粗めのタッチでムラを出した左官仕上げ。松島邸設計ミハデザイン所在地東京都小金井市構造木造規模地上2階延床面積78.35㎡
2019年07月15日縁側のすぐ先には裏山の緑「天気のいい日は縁側に子どもたちが集まってきて遊んでいます」と話すのは老子邸の奥さん。お子さんは「東京のマンションに住んでいるときよりも格段に元気に家の中を走り回ったりするようになった」という。奥さんの話に出た縁側は、アプローチから玄関へと至る前に現れる。中庭を囲むコの字形をしたその縁側のすぐ先には裏山の緑が間近に見える。老子邸はとても戸外感覚が溢れるつくりなのだ。老子邸のエントランス。玄関はいったん靴を脱いでウッドデッキの上に上がると左手に現れる。家づくりの考え方が変わっていった子育てを考えて逗子に越そうと考えた夫妻がこの土地を選んだのは、敷地のすぐ裏にまで迫る山に加え、前方にも緑が豊かに見えるというのがポイントだったという。しかし、現在のような家のつくりはまったく想像もしていなかったものだった。最初は「単純にちょっとおしゃれな家がいい」「無垢の木を使いたい」と漠然と考えていたという。その夫妻の考え方が「“住んでいて面白い家がいい”とうふうに変わっていった」という。そのきっかけになったのが建築家の岸本さんとのやり取りだった。「子どもには隠れる場所が必要」「子どもが外から自由に出入りするぐらいがちょうどいい」等々、子どもに対する目線の重要性などの話も聞きながら徐々に夫妻の家づくりの考え方がシフトしていったという。エントランスからウッドデッキにまで至ると視線は中庭越しにそのまま裏山へと抜ける。家にいるのに外にいるような「岸本さんと話をしていてもはじめはどんな家ができるのか想像がつかなかったんですが、お任せしてお願いをしたら楽しめる家になるんじゃないかなと思いました」と老子さん。設計に際しては岸本さんが「東京からわざわざ逗子に越してきて家を建てるというわけですから、お2人の要望を聞く前からこちらで何をするべきかはすでに半分ぐらいは決まっていた」と話す。それほど家づくりにおいては敷地環境の比重が大きかったが、夫妻の思いが大きく反映したものがひとつあった。それは「家にいるのに外にいるような感じで暮らしたい」というものだった。「どういう家がいいかというよりも、どういう生活がしたいかを箇条書きでもいいのでくださいと岸本さんに言われて」(奥さん)出したリクエストが戸外感覚溢れるつくりへとつながったのだ。中庭側からエントランス方向を見る。真ん中のドアが開いた部分が玄関。その右手に水回り関係が並ぶ。1階のこちらのサイドには奥から寝室、納戸、将来の子ども部屋が並ぶ。外にある居間第1案からほとんど変わっていないという設計案は「面白いというのが第一印象」だったが、奥さんは「びっくりして、もちろん抵抗もありました」と話す。そこで岸本さんにたくさんの質問を投げかけた。「玄関はどこ?」に始まり、いろんな「?」が奥さんの頭の中で渦巻いたという。「でも何回も何回も話をして、岸本さんが具体的な情景を例に出しながら説明してくれて。それで模型を見ながら、ああこういうことなのかなあとだんだんがわかるようになって納得していきました」(奥さん)「ふつうは玄関で内と外がはっきりと区切られていますが、そこを少しぼかしてだんだん内側に入っていくようにする。そうした中間ゾーンをできるだけ豊かにしようとしました。コの字の両端の部分は縁側の風情ですが、真ん中の部分も縁側であり玄関であり、また外にある居間でもあるというように」(岸本さん)水回り前の縁側でくつろぐ老子さん一家。老子さんは「自然の移り変わりをとても身近に感じ取れるようになった」という。「お風呂に入りながら外を見たいというのはリクエストしました」(老子さん)。下見板張りは陰をつくって壁の表情を出すためと家の内側だが外部という「ひっくり返った世界」をつくるため。多様な場所をつくる子どもたちが走り回るのには開放的で自然との距離が近く感じられる空気感も大きく作用しているが、老子邸ではそれに加えて多様な場所がつくられているというのも見逃せない。「場の差異をどうやってつくっていくかが重要だ」という岸本さんは、この家では凝縮された延床面積の中に小さな空間をつくってバリエーションを多様化させているという。階段途中に机の置かれたスペースや2階のロフトがそれで、ともに入口にアーチを設け壁を濃紺で仕上げている。さらに2階に畳の空間をつくったのも「空間が変わる体験を無意識のうちに感じてもらうため」の建築的仕掛けである。子どもに対する目線も意識してつくられたこの家では、実際に子どもたちが楽しそうに走り回るだけでなくいろんな場所で遊ぶという。「畳の間で遊んだり、友だちが来るとベンチ伝いに歩いたりロフトに大集合して遊だりしています。大きくなったらさらに遊ぶ場所が増えていくんだろうなと」(奥さん)玄関を入ったところから見る。階段途中に作業のできる小スペースが設けられている。ダイニングのほうとは対照的に「ちょっとふわっとしたウエットな感じ」(岸本さん)の空間。家の中心に位置するキッチン。食事をつくる際にも裏山の緑が眼に入る。左右の空間とは天井の仕上げを変えている。このキッチンで家族間のコミュニケ―ションが以前よりも活発になったという。キッチンの奥にロフトが設けられている。キッチン前から見る。ダイニングの奥に畳のスペースがつくられている。キッチンからも豊かな緑を眺めることができる。エントランスの上部、キッチンの外側につくられたベランダ。この場所でバーベキューをすることも。ダイニングからベンチがぐるりとめぐりベランダ近くまで続く。壁・天井には土佐和紙が貼られている。逗子という土地を選んで東京から越してきた老子一家。8月にこの家での暮らしが1年を迎えるという。「もともと外が好きでよく外に出るんですが、越してきてからさらにすぐに外に出るようになりました」という老子さん。夜はエントランスの上部につくられたベランダに出てコーヒーをよく飲むという。「ほんとうに想像以上の家に住めて楽しいし、楽しんでいます」との言葉からは、「この地での家づくりは大成功だった」との思いがにじみ出ているように感じられた。縁側であり、また“外にある居間”でもあるような空間。正面ファサード。白壁の部分にはガルバリウム鋼板が張られている。老子(おいご)邸設計acaa所在地神奈川県逗子市構造木造規模地上2階延床面積180.99㎡
2019年07月10日祖母の家を仕事の拠点に海も山も近く、別荘地としても名高い神奈川県三浦郡葉山町。高台の一角に、大きく育った庭の木々に隠れるように平屋建ての日本家屋が建っている。古いガラスの建具を開けて出迎えてくれたのは、書籍や雑誌などのデザインを手がけるトリゴニアデザイン事務所の高橋快さん。葉山で生まれ育ち、3年ほど前から葉山を仕事の拠点にしている。高橋さんが事務所として使っているのは、父方の祖母が生まれてから亡くなるまでずっと暮らしてきた築90年の家。「実家が同じ敷地内にあるので、小さい頃から四六時中祖母の家で過ごしていました。おばあちゃん子だったんです」と笑う。3年前、長年勤めていた会社から独立した高橋さん。事務所を構えるにあたり、愛着ある祖母の家の、亡くなった祖父が書斎にしていた部屋をリノベーションして使おうと思い立った。「ノートパソコンがあれば仕事はどこでもできるので。ここを拠点にすれば、おばあちゃんにも会いに来られるし、とにかく静かでいいなと思って」と振り返る。祖母やご両親に相談すると、喜んで了承してくれたそうだ。大きく育った庭の木々が、築90年の平屋を囲む。屋根の形に沿った勾配天井が印象的。開口部は全てアルミサッシから木製の古建具に入れ替えた。写真正面が最初に購入した“隅丸”の古建具。祖父が使っていた重厚な机はそのままに。机上には高橋さんが骨董店で買い求めたお気に入りのモノが並ぶ。書斎だった四畳半を事務所にリノベーションが始まる前、病床についた祖母は、高橋さんら家族に生まれ育った家の歴史を話して聞かせてくれたという。「この家は90年前に、広島生まれの祖祖母が広島から馴染みの職人さんを呼んで池子(逗子市)に建てたそうです。その後、池子の土地が米軍に接収されて、祖祖母の兄が住んでいた葉山に引っ越すことになって。気に入った家だったので、また広島から職人さんを呼んで解体して、この場所に移築したんだそうです」。解体・移築を経て長い歴史を刻んできたこの家には、高橋さんだけでなく家族みんながそれぞれ思い出と愛着を持っているという。そのためリノベーションにあたって「手を入れる部屋だけが別物のようにならず、古い部分と違和感なく馴染むようにしたい」というのが高橋さんの想いだった。骨董やアンティークが好きなこともあり、まず古材や古建具扱う葉山のお店「桜花園」を訪れた高橋さん。そこで、ガラス入りの古建具に一目惚れしたという。「“隅丸”という角が丸くなっている加工がとても気に入って、まだプランが何も決まっていないのに買ってしまいました」と話す。以前のリフォームでアルミサッシに替えられていた開口部に、この古建具を付けたいと考えたが、すぐにつまずいてしまったという。「数軒の住宅メーカーに問い合わせてみたら、できないと断られてしまったんです。アルミサッシから古い木製建具に変えるには、大工さんの技術がいるということを知りました」。写真正面は押入れだった空間。写真右手に外から直接出入りできる扉を新たに設けた。廊下との境界にも、“隅丸”の古建具を。ガラス越しに廊下の奥まで見通せる。暗くジメジメした部屋が生まれ変わるそこで高橋さんは、古家修繕を手掛ける知人の北川さんに相談。リノベーションのプランを提案してもらうとともに、湯河原の伝統構法を得意とする工務店「杢巧舎」を紹介してもらった。「杢巧舎の職人さんが暑い中すごく丁寧に仕事をしてくださって、ありがたかったです」と高橋さん。北川さんの提案で、壁には漆喰を塗り、天井材は剥がして梁をあらわしに。勾配天井によって、江戸間の四畳半という実際の面積以上に広く感じられる空間となった。また、押入れだった場所に本棚やカウンターを造作し、読書などを楽しめるスペースに変更。座った時の目線の高さに新たな開口部をつくり、風通しや視線の抜けにも配慮した。そうして出来上がったのは、家族が口を揃えて「暗くてジメジメした部屋だった」と話すかつての印象から一変した、明るく居心地のいい空間だ。また、印象が大きく変わったにもかかわらず、高橋さんが願った通り、手を入れていない部分と違和感なく調和していることも大きなポイントだろう。「大工さんが作業を急いでくれて、おばあちゃんが亡くなる前に仕上がりを見てもらうことができたんです。おばあちゃんが『まさかこんなになるとは思わなかった』と喜んでくれたことが嬉しかったです」(高橋さん)。ご両親も空間の変わりように驚きつつ、とても喜んでくれたそうだ。廊下側から事務所スペースを見る。床の色も手を加えていない廊下と調和している。事務所横のトイレもリノベーション。「行きつけの蕎麦屋さんのトイレを参考にしました」と高橋さん。手洗いカウンターは古材の一枚板。廊下にある手洗い場は既存のまま。水栓金具や金属製の流し台がレトロな雰囲気。庭に面した壁に不思議な扉が…?扉の正体は、雨戸を出し入れしやすいように大工さんが造作した開口部。新設した出入り口には、湯河原の旅館で部屋の扉として使われていた古建具を。部屋番号が残っているのがかわいらしい。都内と葉山を行き来する平日は主に都内のマンションで過ごし、週末に葉山の事務所に来ることが多いという高橋さん。「とにかく静かで鳥の声しかしないから、こっちに来ると集中できますね。2つ拠点があることが、プラスに働いています。緩急がついてリラックスしながら仕事ができるようになりました」と生活の変化を実感している様子だ。祖母が大切に住んできた家をこれからにつなげるためのリノベーション。90年もの長い間、家族の思い出が刻まれてきた家は、事務所というもう一つの役割を得て、新しい時を刻んでいく。客間は既存のまま。照明を取り替えた以外は手を入れていない。客間にはモダンなソファが鎮座。連結する洋館に置いてあったものだが、不思議なほど和室の雰囲気に合っている。縁側越しに庭を見る。「祖父と祖母が好きな植物を次々植えていったので、整っていない森みたいな庭です」。床の間には、高橋さんのお母さまがしつらえた紫陽花が飾られていた。この客間で祖父と祖母が結婚式をした当時の写真が残っている。客間の隣の洋間。こちらも既存のままで、床は絨毯敷き。
2019年07月08日大屋根が印象的な斬新な外観文教都市・浦和の閑静な住宅街。戸建てが建ち並ぶ中、ひときわ大きな屋根が目に飛び込んでくる。小さな家型の平屋と、白くシンプルな2階建ての家を大きな切妻屋根でつないだ斬新な外観である。Yさんご一家がこの家で暮らし始めて2年が過ぎた。「中古物件を購入したため、ここには古い家が建っていました。取り壊して建て替えるにあたり、建築家を探し、出会ったのが井上玄さんです。井上さんの作品は、シンプルで格好よく、奇抜すぎないところが気に入りました。年齢も近く、家族構成も似ていたので、生活のイメージが伝わりやすいかなと思い、設計を依頼しました」。自宅で仕事をするYさんがまず出したリクエストは、仕事場と居住空間を分けたいということ。また、敷地が三方道路に面しているため、庭から子どもが道路に飛び出す危険性を懸念し、子どもが安全に遊べる場所がほしいと伝えたという。その要望を受けて井上さんが提案したのは、仕事場と居住空間を離して配置しつつも大屋根でつなぎ、2階に半屋外空間を造るというもの。これは、子どもたちが自由に遊べる庭であり、ダイニングと一体となったアウトドアリビングでもある。この半屋外空間は地上から約2mの位置に設置し、壁は視線を遮る最低限の高さに設定。開口を3つ設け、風と視線が抜けるようにしたことで、街に対して開放的でありながらプライバシーも程よく守られた心地よい空間となった。「こういう家は全く想像していなかったので、専門家の発想力はすごいと思いました」と、井上さんのアイディアにYさんも脱帽だったようだ。ピンクのレンガタイルが美しい家型の部分はYさんのオフィス、奥の白い家がYさん夫妻と2人の息子さん(7歳、5歳)が暮らす住居スペース。大きな屋根の下に登場したアウトドアリビングは2階に位置する。隣家の緑も借景に一役。玄関を開けると、土足で上がれる階段がある。昇りきったところからアウトドアリビングに出ることができる。アウトドアリビングへの出入り口手前、階段脇にあるシューズクローゼット内に洗面台を設置。部屋に入る前に手が洗えて衛生的。譲り受けたレンガタイルピンクのレンガタイルが印象的な家型の平屋部分はYさんの仕事場。「雑誌を見ていて、このレンガタイルを使いたいと井上さんに相談したら、そのレンガタイル会社の社長と連絡を取ってくれて会わせてもらえたんです。交渉の末、“中途半端に余っているものなら売ってもいいよ”と譲ってもらえることになり、オフィス部分や住居スペースの一部に使っています。全部レンガにするよりも、ポイントに使うことで、かえってかわいい感じに仕上がりました」。2階のダイニング・キッチンとアウトドアリビングの床は、譲り受けた白化粧タイルで統一。大屋根裏の軒天と屋内の天井はロシアンバーチ材を使用し、床とともに一体感を演出している。グリーンで彩られたオフィスへのアプローチ。シンボルツリーのアオダモは、夜にはライトアップされ、美しい葉の影が軒天に映し出される。色関係の仕事をするYさん。仕事柄、照明は大事とのことで、オフィスをはじめすべての照明は専門家にお任せした。作業台として使用しているのは、カール・ハンセン&サンの「PK52」。オフィスの扉は井上さんのデザイン。ドアに取っ手や鍵穴がなく、まるで窓のよう。フレームに手をかけて開ければよいのだが、どうやって開ければいいか、迷う人がほとんどだそう。フィンランドのガラスアーティスト、オイバ・トイッカのロリーポップシリーズがズラリ。バードシリーズ(右)は、住居スペースにも大小の鳥たちが置かれていた。オフィスにはミニキッチンやトイレ(左)も完備。右奥の階段から住居スペースへ。ダイニングから一続きのアウトドアリビング。床は白化粧タイルで統一。ダイニングテーブルは自作、ダイニングチェアはカール・ハンセン&サンの「CH88」。子ども用の椅子は、最初茶色だったストッケの「トリップトラップ」をYさんがペインティングした。ホコリをためない部屋造り「ホコリがたまりにくく、掃除がしやすい家というのもテーマのひとつ」というYさん。各部屋、ホコリ対策も万全である。家具はなるべく造作にし、ファブリック類は極力使用していない。キッチンには、吊り戸棚を設けず、キッチンボックスを造作。収納する家電のサイズを全て図り、ぴったり収まるようにした。2階のダイニングから、存在感を究極まで抑えた極薄の鉄の階段を上がると、2.5階にあたるリビングフロアに。ホコリがたまりやすいソファを避け、フリッツ・ハンセンの「PK22」や柳宗理の「バタフライスツール」を置いた。ダイニング同様、レザーや木にこだわり、さりげなく名作たちを配置している。また、掃除機がかけやすいフローティングタイプの壁面収納には扉を付け、エアコンも収納の中に。ホコリ対策を徹底している。畳の小上がりは、子どもたちがゴロゴロできるスペース。「最初、和室のキッチン側の建具はなかったのですが、住み始めてから心臓が飛び出るくらい危険だと感じ(笑)、慌てて自身がデザインしたものを取り付けてもらいました」。真っ白でシンプルなキッチン。カーブを描いた入り口がかわいらしいキッチンボックスには、冷蔵庫をはじめとした家電から食材、食器、給湯器類のリモコンまで収納。天窓からの光がスツールを美しく照らしていた。ダイニングからリビングへ上がる階段は、「できるだけ薄くしたかった」と踏板に鉄を使用。蹴込み部分は強度のためにやむなく半分設置した。手すりは1本のラインでつながっているようなイメージに。2.5階のリビングから2階を見る。床の白化粧タイルと天井までの大きな開口が明るい空間を印象づける。Y邸の家具は木とレザーが中心。奥の窓からシンボルツリーがのぞく。腰掛けるのにもちょうどよい和室の小上がり。無印良品の家具の上に設置された建具は、Yさん自らデザインしたもの。収納は扉を付け、ホコリの侵入を防ぐ。エアコンも収納し、使用するときには扉を開けられるようになっている。動線を考え尽くしたスキップフロアキッチンから数段降りた1.5階には、サニタリールームと家事室がある。このフロアはテラスの物干しスペースと同じレベルでつながっているため、洗濯後、すぐに干すことができて便利。また、洗面台の下には、以前から使用していた衣装ケースのサイズに合わせた収納を設置。洗濯物を取り込んだら、作業台でたたみ、そのままケースに収納と、家事動線に無駄がない。また、「こういうのがあったらいいな、という妻の発想から生まれました」というのが、サニタリールームと家事室をしっかり仕切ることができるパネル。シーツなど大きな洗濯物を乾燥させるときには閉め切ったほうが効率もよい。また急な来客時などは家事室の目隠しとして重宝しているという。家事室の下には、約8畳の床下収納室がある。「仕事で使用する資材をたっぷり置けるスペースがほしい」というYさんのリクエストだったが、期待以上に広いスペースが確保でき、プライベートのものも充分に収納できるという。さらに、半階下の子ども部屋は将来2つに区切ることを想定。現在置かれたベッドには、転落防止のためにかわいらしいパネルが張られている。これはYさんがDIYしたもの。大きな板をホームセンターで購入し、カーブを描いたデザインに切断。淡い色を塗り、子供らしく楽しい雰囲気を盛り上げている。そして、奥の階段を上がるとYさんのオフィスにつながる。居住スペースとの程よい距離感がYさんも気に入っているという。洗面室から洗濯機などが見えないように置いた。右側のドアから大屋根の下に出ることができ、物干しスペースに。奥の下がったところが物干しスペース。壁により、道路から洗濯物が見えない設計に。夏は子供のプールスペースとしても活用。サニタリースペースと家事スペース。作業台を広くとっている。作業台の下には衣類を収納。衣装ケースのサイズに合わせて造作した。洗面室と家事室の間のパネルを閉めると、完全に仕切ることができる。約7畳の子ども部屋。将来は2部屋に区切れるようにしている。ベッドまわりはYさんがDIY。仕事で使う資材を中心に収納した、床下収納室。高さ140cmで約8畳のスペースは広々とした空間。子ども部屋がコンパクトなため、子ども部屋の前に約3畳のウォークインクローゼットを設置。遊び場がたくさんあり、子どもたちも大喜び。家まわりもオシャレに美観にこだわるYさんは、エクステリアも妥協しなかった。玄関前の駐車スペースには、直径を変えた円を描き、その隙間に芝や花を植えた。また、人通りの多い道路側には季節によって表情が変わる花木をセレクト。Yさんの街へ緑を提供する視点や遊び心が、道行く人の目を楽しませている。「近所の方に、いつも楽しませてもらっていますよ、と声をかけていただくと嬉しくなりますね。2階のテラスもそうですが、子どもと一緒に植物の名前を覚えたり、グリーンを植えて育てたりする時間は豊かな気持ちになれます。これからもそんな時間を大事にしていきたいですね」。Y邸のインターホンは最低限のボタンのみ表に出したデザイン。表札もシンプルにかっこよくと、Yさん自ら彫った。トイレにも木をさりげなく使い、アクセントに。照明が美しい。2階のテラスまわりにはプランターが置けるスペースを確保。水をあげると、下の植栽にもかかるようになっている。幼稚園や駅に向かう人が行き交う道路側の植栽。花などを話題に近所の方たちとのコミュニケーションの場でもある。三方道路に囲まれた敷地。駐車スペースに施した円が軽やかな気分にさせてくれる。「福島の田舎育ちなので自然が大好き」というYさん。グリーンに囲まれ、読書やティータイムを過ごしてリフレッシュ。Y邸設計株式会社 GEN INOUE所在地埼玉県さいたま市構造木造規模地上2階延床面積138.61㎡
2019年07月01日自然と人が集まるアイランドカウンター築年数不明のトタン貼りの建物が残る再建築不可の旗竿地。ここに住むためにはこの古家を生かさなければならない。それでも購入に踏み切ったのは、小学2年生のお嬢さんの学区を変えることなく、中目黒という便利な街に住み続けられることが理由だったそう。「『フィールドガレージ』の原 直樹さんに建物を見てもらったところ、大丈夫というお墨付きをいただいたので思い切ることができました。基礎から作り直さなければならないほど建物が傷んでいたので、実際の工事は想像以上に大変だったそうです」元々の家がとても暗かったので、リノベーションはなにより明るい家にするのが目標だったそう。開口部を大きく確保し、吹き抜けを作り、光を1階まで届けた。2階のリビングの中心は大きなアイランドカウンター。「料理好きな夫の身長が高いこともあり、アイランドカウンターを思い切った高さまで上げました。天板に肘をつきながら立ち話をするのにちょうどいい高さです。来客はなぜかソファに座らず、カウンターの周りに集まって話をします(笑)」キッチンは2階に。三角屋根がかわいい。アイランドカウンターの腰板の面材はヴィンテージオーク。古い柱を残しながら、新しい梁を入れて耐震補強している。山本貴緒さんは、ここでイギリス人の夫イアン・ギビンスさんと、小学2年生のあおちゃん、ダックスフントのマカロンと、シーズーのココと暮らす。キッチンの戸袋には古い家の建具をリメイクして使っている。調理道具や食器は、料理上手なイアンさんがセレクトしたものが多いそう。「不思議と植物がよく育ちます。前に住んでた家から持ってきた植物がすぐにボーボーになりました(笑)」右はあおちゃんが描いたアクリル画。「元気が出る色合いの花に、ミツバチがとまっています。とても気に入ってます」。左側はお母さまにもらったフジコ・ヘミングの作品。吹き抜けから明るい光が注ぐ1階玄関旗竿地の細い通路を通って玄関ドアの引き戸を開けると、広々とした土間が現れる。細い通路と広がりのある玄関。そのメリハリのある対比が、山本・ギビンス邸をより魅力的に見せている。以前の家はとても暗かったという一階の玄関は、吹き抜けから光が降り注ぐ、明るく広いスペースへと変わった。住まいのあちこちで使われている古い建具や板や箱などは、もとの家で使われていたものを救出し、新しくデザインし直して生き返らせたもの。年月を経たものならでの深みが、綺麗にリノベーションした住まいに温もりを与えている。広々とした玄関の土間。吹き抜けから明るい光が射し込む。左側の棚は、以前の家にあった木箱を積み上げて壁に固定して制作。L字の廊下の先に寝室がある。古い建具を生かし、温かさの感じられる明るい廊下。リノベーションする前はこの辺りが特に暗かったのだそう。2階のリビングと書斎の間の室内窓には、対で古いガラスを入れた。書斎の窓は、吹き抜けをはさんで眺めの良い通路側に面している。断熱材をしっかり入れて快適な住まいに古い戸建て住宅にありがちな悩みが、寒さ。その問題を解決すべく、断熱工事やペアガラスなどを積極的に採用し、とても暖かで快適な住まいに仕上がった。平屋の家を増改築した建物は構造的にも不安定だったが、しっかりと耐震補強も施した。「元のオーナーはここでクリーニング店を営んでいたようです。作業場があった形跡が残る土間をリノベーションして、1階奥の寝室にしました。きちんと床を張り、床下にはしっかり断熱材を入れていただいたので、気持ちよく過ごせます。再建築不可でなければ取り壊していただろう建物を、考えていた以上に快適で素敵な住まいにリノベーションしていただき、『フィールドガレージ』さんには感謝してもしきれない気持ちでいっぱいです」寝室の奥はウォーキングクローゼットに。引き戸には古いガラス戸を。天井の古い梁がとてもよい雰囲気。高窓から洗面所に明るい光が射し込む。ブルーのタイルをアクセントに。タオルもブルーでコーディネイト。旗竿地の築年数不明な建物をリノベーション。玄関は引き戸に。曇りガラスから光が室内に取り込まれる。通路脇に植えた植物がぐんぐん成長中。山本・ギビンス邸原 直樹(フィールドガレージ)所在地東京都目黒区構造木造規模地上2階延床面積111.37㎡
2019年06月26日ライフスタイルと両立する家「100年経っても色あせない家をつくりたいと最初にお伝えしました」。こう話すのはKさん。「シンプルで普遍的なものであり、かつ、家具なども含めた自分たちのライフスタイルと両立する家にしたい」。そんなことも最初の打ち合わせ時に建築家に話をしたという。奥さんが「それと“ガレージがほしい”“家族の気配が感じられるつくりにしたい”あと“開放的な間取りにして、できたら風の流れも意識してつくってほしい”というのもはじめにお話しをしました」と補足する。1階のリビング。テラスの右手にダイニング・キッチンがある。西海岸の空気感も感じられる室内の素材は素朴で素材感の感じられるものが選ばれ、また、さまざまな素材を使いながらも全体としての調和が図られた。設計者にとって施主のライフスタイルを考慮するのは家づくりにおいて必須だが、Kさんは自身、経営する会社でファッションを軸に食や住も含めたライススタイルの提案を行っていて人一倍ライススタイルへの思いは強い。そこで建築家の井上さんはこのKさんの「生活の中に入っていって」設計のための事前調査を行ったという。「井上さんは、僕がどんな本を読んでどんな曲を聴き、またどんな絵を飾っていてどんな食器で食事をしているのかをすべて調べた上で、それを彼の中で進化させたものを提案してくれて」1階リビング。左手にテラス、奥には階段室がある。ベイマツの梁とスチール梁との組み合わせ・対比がデザイン的にとてもうまくきいている。リビングの壁に設置された棚にはKさんがアメリカを中心に世界各地を旅して集めた種々さまざまな小物が置かれている。テラスに開かれたL形プラン「家もものづくりなので設計者と施主がセッションしていかないとダメだと思う」とも話すKさん。夫妻との“セッション”を重ね、徐々に現在のL字形の平面の周りに4枚のコンクリート壁を置く案が出来上がっていった。テラスに面した部分だけは全面開放に近いつくりとし壁は設けていない。コンクリート以外の部分で木造を多用し、木の梁にさらに鉄骨の梁を組み合わせた特徴的ともいえるつくりも、K夫妻とのセッションを経て井上さんが導き出したものだ。「西海岸のカジュアルなファッションを扱うところから仕事をスタートされていて、Kさんがそういう世界観がお好きだというのはわかっていました。ただその一方で以前うちの事務所でつくったコンクリート住宅のテイストもお好きということで、それにライススタイルも考えあわせたうえで提案をしました。Kさんから見せていただいた写真の中には西海岸の住宅のものも当然ありましたね」奥にこの部屋のために製作されたオリジナルスピーカーの置かれたリビング。天井をやや低めに抑え落ち着いた色合いのこのスペースはしっとりとした大人の空間。居心地の良い距離感「部屋の間の仕切りがなくて行き来がスムーズ」(奥さん)というのはオープンなスタイルが好まれる西海岸らしい部分かもしれない。リビングとダイニング・キッチンのある1階ではテレビボードの壁以外にはスペースを仕切る要素がない。この壁はダイニングとリビングをゆるく仕切っていて「なんとなくいることはわかるみたいな感じの居心地の良い距離感」(奥さん)をつくり出している。コンクリートでつくられた1階のテラスがまた「行き来がスムーズ」という感覚をつくり出すのに大きく寄与している。リビングとテラス、またダイニングとテラスの間で気軽に出入りすることができ、テラスを経由してのリビングとダイニングとの行き来もとてもスムーズなのだ。「とってもいいですね、あそこは」と奥さんが話すこのテラスは、もちろん、配置、スケール感、緑との関係などがしっかりとつくりこまれていて家族5人がのんびりとくつろげるスペースとなっている。ダイニング・キッチンから緑の美しいテラスを見る。緑はSOLSOのプランニングをもとに実際に畑で実物を見て選んだものが植えられている。ダイニングからリビングを見る。中からも行き来できるが、テラスを通っても気軽に移動できる。井上さん(左)とK夫妻。緑に囲まれたテラスでの集まりは自然と話が弾む。リビングからテラスを見る。ダイニング・キッチン部分の梁がそのまま外へと突き出して庇の下まで続く。手前はイームズのラウンジチェアとオットマン。Kさんはここで音楽を聴くことも多いという。左の収納には冷蔵庫が入っていて、テラスにいても気軽にビールを取り出せて便利という。ベンチ回りは数人で話をするのに小さくも大きくもなくちょうどいいスケール感。リビングの上は主寝室とウォークインクローゼット。右に置かれているのがアカプルコチェア。ダイニングからテラスを見る。リビングからテラスを見る。テラスのベンチの後ろには道路に下りる階段が設けられている。帰宅後のクールダウンにこの家に住み始めてから1年ほど。Kさんが「あそこが僕の指定席です」と指差したのはテラスに置かれたアカプルコチェア。「いつも夜の11~12時くらいに帰ってきてあのチェアに座って30分くらい音楽を聴きながらクールダウンするんですが、そのひと時がとてもいいですね」奥さんも「気に入ってるのはやはりテラスですね。夜は夜で、リビングのソファのところからテラスの緑を見ているとほっとする」と話す。また「緑も心地いいですけれど、光の変化というものもあって都心のわりには四季を感じ取ることができて気に入っています」とも。ダイニングからキッチンとテラスを見る。キッチンとテラスの間では食べ物、飲み物のやり取りが容易に行える。コンクリートの壁は出目地になっていて、光の当たり具合でさまざまに表情を変える。「壁そのものがアートになっているって素晴らしい」とKさん。1階の階段近くの壁にかけられているのはイームズがデザインした「レッグ・スプリント」。裏に照明が仕込まれている。階段途中からイームズのアームシェルチェアを見下ろす。開口を通して見える緑もSOLSOのプランニングによるもの。トイレもミニギャラリーとの思いで置くものすべてに気を配っている。2階の階段上はトップライトになっていて1階に下る階段を明るく照らす。2階。左手奥に主寝室。右に子ども部屋が3つ並ぶ。このうちは最高だよねKさんも「このテラスは都心にいながら鳥のさえずりも聴こえるし、太陽も空も見えるし、スノーインサマーの花が咲いたりと、そういった日々の変化も含めていいですよね」と話す。「3日にいっぺんは“このうちは最高だよね”って言っている」というKさん。建築好きの友人がたずねてきたときに「あーっ、アメリカの解釈ってこういうものもあったんだね」と言われたそうだ。アメリカのデザインやライフスタイルをそのまま移入するのではなく、井上さんとのセッションを経て、さらに家具や小物、さらに照明などで自らの世界観も表現してここにしかないオリジナルな空気感を創り出したKさんにとって、思わず膝を打った言葉だったのではないだろうか。地下1階の玄関側から奥のギャラリーを見る。正面が玄関、左にガレージがある。階段の厚みは「もう少しシャープにしたい」というKさんの希望で少し薄くした。夜にはネオン管を使ったアート作品で「すごく色気のある空間になる」という地下1階奥のギャラリースペース。「ここでお茶を飲みながら話をしてから1階に上がってまた違う空間を楽しんでもらう」というストーリーも考えられたという。玄関入ってすぐのギャラリースペース。ギャラリースペースの外部には大きなサボテンが置かれていて意外性の演出も。Kさんが「アメリカの普通の家のガレージみたいにモノをいっぱい突っ込んでおもちゃ箱にしてある」という地下1階のガレージ。地下2階の書斎。ゲストルームとしても使用できる。道路から見た外観。コンクリート、石、木の素材感の対比が生きている。右に白い花が咲いているのが見えるのがスノーインサマーの木。右の木の部分が地下1階のガレージ。テラスで話し込むKさん(右)と井上さん。K邸設計井上洋介建築研究所所在地東京都世田谷区構造RC造+S造+木造規模地上2階地下2階延床面積297.92㎡
2019年06月24日数十年後にかっこよく国産スギの外壁に包まれた、清々しい佇まい。たまプラーザで眼鏡店を営む矢田大輔さんは、それまで住んでいた築50年の家を、昨年秋にリノベーションした。「妻の祖母の家だったんです。かつてここで営んでいた町工場の名残りのある昭和の家が、全く違う雰囲気に生まれ変わりました」。経営する眼鏡店「Local」の店舗デザインを担当した「MOBLEY WORKS」の鰤岡力也さんに、この自宅も依頼。「学生時代からの付き合いでもあり、完全に信頼しているのでほとんどお任せでしたね。リノベーションするからには、鰤岡さん以外には頼みたくない、と思っていました」。矢田さんが唯一希望したのは、「10年、20年経ってもかっこいい家がいい」というもの。「“お前が死んだとき、オヤジいい家造ったな、と子どもが言ってくれるような家を造ってやる”。なんて、鰤岡さんは言っていましたね(笑)」。多摩のスギと張り方の構造にこだわった外壁は、湿度の高い日本の風土に適応。次第に色が変わっていく経年変化も楽しみのひとつ。施工はすわ製作所。リビングからダイニングを見る。ルーバーの衝立の左端は、リノベーションにあたって唯一残した柱。リビングからダイニング方向に向けて、床を斜め張りにしたことで、空間に奥行きが生まれた。床にはDIYでオイルを塗布。ソファーはジェルデのライトに合わせてデザインしてもらったもの。見通しのいいLDK無垢の床に漆喰の壁。シンプルだが細部の意匠にこだわった、広々とした1階のリビングダイニングを、心地よい風が吹き抜ける。「日本の風土にあう、理にかなった家だと思います」。例えば外壁は、防水シートを施した上にルーバーを縦横に張り巡らせ、すのこ状にしたもの。中に空間があくことで、風が通り抜け湿気を防いでくれる。「細かなところに何かと手間がかかり、大工さん泣かせだったと思います。玄関の籐を使った靴箱など、職人が減って行く今、あえて挑戦しているところもありますね」。1階は緩やかにつながったワンルーム。仕切りのない空間は、床の張り方で変化がつけられている。「玄関から入ってきたときに広がりを感じさせるように、リビングは斜めに張っています。ダイニングはまた雰囲気を変えて寄せ木張りに。すべて鰤岡さんのアイデアです」。そのリビングとダイニングの間には、あえて階段を設けている。「子どもが大きくなっても、必ず家族と顔を合わせて出入りしてほしい。そんな気持ちで階段の位置にはこだわりました」。リビングにいてもダイニングにいても、階段を通る家族と必ず目を合わせる。そのような意図で設けられた階段は、メモリーとして唯一残した柱とともに、家族の成長とつながりを見守り続けている。扉の枠の縁の加工や幅木の処理など、細かいところにこだわりが。照明は鰤岡さんからの結婚祝い。籐を用いた通気性のよいシューズボックス。奥にはアウトドアグッズなどを収めるクローゼットを設置。風と光が通り抜けるリビング。L字型のソファーは家族みんなで寛げる。キャビネットは米軍払い下げのもの。階段の上は吹き抜けになり、ここから家全体の気配がわかる。あえて設けた垂れ壁は、床の変化とともに空間を緩やかに分けるためのもの。アイアンの手すりは、グリップ感にこだわって加工した。キッチンをアクセントにキッチンは妻・康恵さんの希望でコの字型に。「眼鏡店の内装に合わせてモスグリーンを選びました。私の身長に合わせてオーダーしたので、使いやすいです」と康恵さん。大きなシンクや、火力の強いハーマンのコンロを使用することなどをリクエストして、鰤岡さんがデザインした。キッチンの奥にはパントリーが併設され、2方向から出入りできて動線もよい。「長い時間を過ごす1階にはお金をかけて、2階の寝室は素材だけにこだわりました」。蝋をつけて焼いたアイアンの手すりがついた階段をあがると、3部屋のベッドルーム。2階はもとの家の間取りを活かし、シンプルに設定した。「階段の上が吹き抜けなので、冬も1階でストーブをつけるだけで上まで暖かいんです。夏は夏で、風通しがよいので涼しいんです。真夏までエアコンはいらないくらいです」。モスグリーンのキッチンが、シンプルな内装のアクセントに。ダイニングの床は市松模様の寄せ木張りで変化をつけた。人造大理石の天板のキッチンには、収納もたっぷり設けた。白いサブウェイタイルに、目地はグレー系を選択。テラスとつながった明るいダイニング。テーブルは6〜7人でも囲めるサイズのものを鰤岡さんにオーダー。キッチン裏のパントリーは、洗面側からも入ることができる。子ども用に使っていたキャビネットを収納に。洗面にはクラシカルなシンクをセレクト。蛇口の経年変化も味を出す。バスルームはシンプルなグレーに統一。サブウェイタイルが雰囲気を出す。オクタゴン(八角形)がかっこいい取っ手。ドアの端にもベニヤを張りすっきりと見せている。細かなパーツも選び抜いたもの。カーキっぽいグレーは、お店のカラーとシンクロさせている。大切な思い出とともに「生活感のない感じにはしたくなかったですね。思い出のある大事なものが、さり気なく置かれている、そんな空間に味が出ると思うんです」。ともに50〜80年代のアメリカの、オーセンティックなものに惹かれるというご夫妻。ガラスのキャビネットには、子どもたちの思い出の品を大切に飾っている。「イームズのロッキングチェアは、長男がお腹にいるとき、妻のために買ってきたんです。1個1個のものに思い出がありますね」。家族で寛ぐ青いソファーは、バスケットボールをやっていたという、大輔さんの体格に合わせて、家族全員が腰かけられるよう造作した。「座り心地がいいので、夜、みんなでゆっくりTVを観る時間が増えました。昼間は部屋から素足でテラスに出ておやつを食べたり、ビニールプールで体を冷やしてはまた家に入ったり。子どもたちも家での思い出を増やしていってくれるといいですね」。メンテナンスしながら長く使い続けてほしいというメガネへの思いのように、この家も長く受け継がれいきそうだ。お子さんが初めてはいた靴や、生まれたときの時間でとめた時計など、思い出を大切に飾る。右の額は、康恵さんのお祖父さんが制作したシルクスクリーン。大輔さんの思いの詰まったシェルチェアで。ご夫婦のメガネがずらり。「Local」では、矢田さんがセレクトした輸入もののメガネを扱う。広々としたテラスで読書をする長男・夏奏君と長女・かのんちゃん。アウトドアでの読書タイムも楽しい。
2019年06月17日遊び心に感動「面白いし、楽しいです」と我が家について語るのは藤川家の奥さん。雑誌を見ていて納谷新さん設計の家に目がとまったという。「どこか不思議な感じがあって、どちらの方角にも空が見えて、リビングには大きな窓がある。さらに、地中にもぐっているスペースもあって、それで、ぜひ見てみたいと思って」その家は以前このサイトでも紹介した納谷さんの自邸だった(2014年09月22日の記事「すべての空間を居心地よく、楽しくしたかった」)。建築家への設計依頼を考えていた夫妻はさっそく見学にうかがうことに。「主人が気に入ったのは屋上緑化で、サッカーやフットサルが好きな人なので、屋上一面にはられた芝生を見て感動していました。わたしも“こんなことできるんだ”ってその遊び心に感動して。材料の選択とか、構造をそのまま見せているところも良くて、 “ここはこうしてほしい”とか細かいことを言わなくてもわたしが好きなテイストでつくっていただけるだろうと思って設計をお願いしました」ダイニングとキッチンのあるレベルから見る。右手の吹き抜け部分にリビングがある。居場所をたくさんつくる設計に際しては、「楽しい家にしたい」という希望とともに、納谷邸のようにいろいろな居場所をつくってほしいとも伝えた。「納谷邸で階段の途中に中2階のような場所があって、一方にはキャンプの道具が置いてありもう一方は畳になっているんですね。その畳のスペースで奥さんが洗濯物をたたんだりしているそうなんですが、“気分転換にその端に腰かけて脚をぶらんと下げて外の景色を見たりもしています”って聞いて、“あ、すごくいいな”と思って」「わたしは以前山登りをしていたんですが、山だったらどこに腰かけてもいい。それに近い感じがあってどこに座ってもいいというのがいいと思ったし、面白い居場所がいろいろとあるのもいいなと」リビングから見る。奥さんの希望で大きな開口がつくられた。天井には奥さんが好きという木製の梁がリビングからキッチンまで整然と並ぶ。キッチンからデッキと中庭を見る。ダイニングからキッチンを見る。大きな開口を通して畳のスペースのある棟を見る。半地下+分棟式に納谷さんにはさらに具体的に納谷邸で気にいった点をいくつか伝えたが、設計では前提として特殊な敷地条件を考慮する必要があった。敷地は藤川さんの実家が購入したものだったが、長い間空き地の状態で、周囲の住宅の中庭のような存在になっていたという。そこで、高さにおいてもボリューム感においても周囲に対して圧迫感を与えない立ち方になるように、1層目を半分地下に埋めて2層目を分棟することに。さらに吹抜けもつくり、藤川邸の最大の特徴といえる屋根の部分も緑化する予定で設計がスタートした。斜めに張られたデッキの上から見る。正面の棟には上階にダイニングとキッチン、下階に寝室、その途中のレベルにリビングが設けられている。右のデッキの上に張られた人工芝の上で朝食やランチを食べることもあるという。ダイニングに設けられた扉の前から見る。右手の畳のあるスペースの前を通ってぐるりとデッキの上をめぐるとキッチン近くにまで達する。屋上にデッキを張る「うちの主人が納谷邸の屋上緑化をすごく気に入ったので、屋上は緑化する計画だったんですが、予算的にも難しいことからあきらめてデッキにしようと。デッキにすれば出てすぐその上で遊べるし、ダイニングともつながっているのもなんかちょっとうれしいなと」藤川さんと娘さんは日曜日などにデッキのいちばん高い部分に敷いた人工芝の上で朝ごはんやランチを食べて過ごすこともあるという。「キッチンから出てぱっと食事を渡すことができるし回収も楽なので、あそこはけっこう活用していますね。あの人工芝は緑化をやめたのでそれにかわる面白いものが何かほしいねって話をしていたときに納谷さんに勧められたんです」デッキには正面のダイニングとキッチン部分に設けられた扉からだけでなく、左手の畳のスペースからも出入りすることができる。巣穴と畳の部屋納谷邸と同様に下階は地面を掘り下げてつくった。「納谷さんの家よりももぐっている感があるので、巣穴みたいな感じがするんですね。よく寝室の窓からから中庭にウサギを出して遊ばせるんですが、そのときに動物の巣穴ってこんな感じなのかなあと」リビングから半地下のスペースを経て階段を上がるとデッキと同じレベルに畳のスペースが設けられている。「ふだんはそんなには行かないんですが、娘の友だちが来たら必ず開放しています。デッキから行ったりいったん下に降りてから階段で上がったりとすごく楽しそうに遊び回っています。大人の方が来たらぜひあそこに泊ってもらいたいとも思っていて、とても使い勝手のあるいい部屋だなと思っています」右側と正面のデッキの高さは庭から150㎝。寝室の窓を開けて中庭を見る。寝室から見る。この窓から飼っているウサギを中庭に出して遊ばせるという。子ども部屋から畳のスペースに上る階段を見る。畳のスペースの下にあるスタディルームと左に中庭。畳のスペースに上る階段近くからリビングの方向を見る。畳のあるスペースにはいったん半地下のスペースに下ってからまた上がる。畳のスペースからもデッキへと直接出ることができる。天井はぐっと低くしており、梁まで130~147cm。子どもたちは階段から上ったりデッキから入ってきたりとこのスペースを秘密基地のような感覚で楽しんでいるという。奥さんが一番気持ちがいいといってあげてくれたのはダイニングとリビングだった。「ダイニングの椅子に座っていることが多いんですが、庭の緑を目に入れながら生活できるのがすごくいいですね。疲れたときにリビングに大の字になって寝ることがあるんですが、見上げたときに天井の構造(梁)が目に気持ち良くて、その時もこの家に住んで良かったなって」娘さんに思いきりこの家を楽しんでもらいたいと話す奥さん、自身もこの家をとても楽しんでいるように見えた。外壁のエンジ色は緑と補色関係にあることと、いずれデッキが退色してグレーになることを見越して決められた。敷地は四方を住宅に囲まれた旗竿敷地。当初は右側のほうへと寄せて建てる予定だったが、それだと実家の窓をふさいでしまうため左側へと移動した。それによって、窓を通して実家とのやり取りが容易にできるようになったという。藤川邸設計納谷建築設計事務所所在地東京都杉並区構造木造規模地上2階延床面積125.55㎡
2019年06月12日運河沿いの物件を求めて東京の下町、門前仲町の運河沿いにひっそりと建つ5階建ての小さなビル。このビルを自宅兼事務所として住んでいるのが、アトリエハコ建築設計事務所を営む七島幸之さんと佐野友美さんご夫婦。二人で事務所を構えておよそ15年目。世田谷から門前仲町に自宅と事務所を移して2軒目の住処だ。「このあたりを散歩していて貸しに出ているのを見つけたんです。良かったのは、賃貸だけど改装してもいいという物件だったことです。ここはそもそも舟屋さんだったみたいです。その後いくつかの会社が入ったりしていたみたいですが。それまで住んでいたマンションが事務所を兼用するには使いにくかったこともあり、これはおもしろそうだね、と借りることにしました」。1階の入り口と、七島さんの仕事場。右側の天井高は2mほどと低い。左側は吹き抜け。吹き抜けからの見下ろし。2人分の仕事スペース建物は、1フロア20㎡に満たない広さの空間が5層になっている。入り口を入ると吹き抜けのある七島さんの仕事机と吹き抜けに目いっぱいの高さで備え付けられた本棚に圧倒される。「狭いけれど、この吹き抜けの高さがあるのが気に入って借りました。本棚は大工さんにつくってもらって。天井が全体的に少し低いのですが、吹き抜けもあるし窓も多くて光が入ってくるので圧迫感は少ないです」と佐野さん。2階は佐野さんの仕事場。ちょうど目線の高さに桜の木の葉と運河がみえる。「ここにいると気持ちよくて仕事がはかどらないんです」と笑う佐野さん。吹き抜けの開口で階下の七島さんの仕事場とゆるやかにつながる。「このぐらいの距離感がお互いにちょうどいいんです」。入り口から奥を見る。左側の天井高が低いため、高低差をさほど感じない。階段周りは白く塗装して明るく。フロアごとに使い方を決めて3階から上はプライベートのフロアになる。こちらも桜の木と運河が目の前に臨めるリビングダイニングスペース。舟底天井の和室だったこのスペースは天井をはがした。というのも、キッチンを窓側から奥に移動するのに配水管を通し一部床上げしたため。一段床が下がっているキッチンカウンター奥の作業スペースに立つと、自然とカウンター向かいに居る人や景色とちょうどよい高さ関係になる。「水が近くにあるので少し涼しいんですよね。桜もここだけ咲くのが遅いんです」。ベランダには景色を楽しめるようテーブルを置いている。「ここでごはんを食べたり、友人を呼んでお花見をするときに使ったりしています。お花見の時期、窓も開けて楽しんでいると、通りかかった人が飲食店と間違えて来ることもあるんです」。4階は寝室と浴室。大工に合板で洗面台をつくってもらい、自分たちでタイルを張った。障子は元々あったものを残して、やわらかく光を取り入れている。5階は納戸として使っているが、見晴らしのいいテラスで思い切り洗濯物を干せる。元は和室だった3階のリビング。ベランダにはテーブルを。キッチンカウンターのガスレンジは作業スペースをとるために設置方向を工夫した。もともと台所があった場所の壁のタイルはそのままに。4階寝室のトイレは古い建具をそのまま利用。布団の下を収納に。左はOSB合板で仕切ったウォークインクロゼット。障子を開ければ見晴らしのいい景色が広がる。自分たちでタイルを張った洗面台。4階で洗濯し、5階のテラスで干す。この建物に新たに設置した風呂場。コンパクトだが、浴槽は普通サイズを縦方向に入れているので、湯船にはゆったり浸かれる。数字にこだわらず、工夫する仕事でも狭小住宅を手がけることが多いという二人。「東京で家づくりを考えると、その後の暮らしが不安になるぐらい高い土地を買わなければいけないですよね。でも、何LDKだとか、何平米だとかっていう数字にこだわらなければ、いくらでもやりようはあると考えています。この家はその実験台。自分たちで日々の生活を工夫しながら実践しているんです。打ち合わせで施主の方がここに来られると、みなさん安心した表情で帰っていかれますね」。階段の上り下りの不便さや、断熱ができずに少し寒かったりするこの家と、バランスを取り合う二人。家の中を探検するような、発見する楽しみのある暮らしぶりが伺えた。運河と桜の木を見下ろせる、気持ちのいいテラス。外観。木々の緑がカーテン代わり。
2019年06月10日超狭小地での建て替え高級感と庶民性を併せ持った雰囲気と利便性の良さが魅力の東京・四谷。大きな通りから1本奥へ入ると、細かく区切られた昔ながらの住宅街がある。古河さん一家が暮らすのは、車は入ることができない狭い路地に面した敷地。「両親が新婚時代に購入したところで、築40年くらいの古家に住んでいました。子育てをはじめその住みやすさから、この先もずっと四谷に住み続けたいと思い、建て替えを決意しました」と話すのは、四谷育ちの奥さま。建築面積は、わずか6坪の超狭小地。「土地は狭いのに、リビングやキッチン、テラス、屋上など、いろいろなところの空間を“広く”とってほしいとリクエストしました(笑)」とご主人。「その難題をすべて叶えていただき、感動しています」とご満悦である。設計を依頼されたのは、建築家の岡本浩さん。明るく広がりのある家を目指し、プロならではの工夫を詰め込んだ。そして、地上3階、地下1階のコンパクトながらも開放感のある家が完成した。ダイニングとリビングはスキップフロアになっていて、バルコニーまで一続きに。長女(6歳)、長男(4歳)も自由に行き来し、のびやかに過ごしている。住宅密集地に建つ。マーブル模様の外壁は左官コテ塗仕上げで落ち着いた雰囲気。2階のバルコニーに設置した木製ルーバーの羽根の角度にこだわり、道路からの視線をカット。ダイニングの上は吹き抜けで、4.5mの天井高を確保。天井にはご主人が希望したアンティーク調のシーリングファンを設置。「ビールを飲みながら、ファンが回っているのを見ているのが好きです」。防火壁を最大限に活用する玄関奥の階段を昇ると、たっぷりの光が降り注ぐダイニングキッチンが現れる。「朝起きて、半地下の寝室からここに上がってきた瞬間がとても気持ちいいんです。まぶしいほどの光に包まれ、一気に目が覚めますね」とご主人。スキップフロアによって半階上のリビングを見通すことができ、さらにリビングからフルオープン窓でつながるバルコニーへと続く。バルコニーには周囲からの視線を遮りつつ、光と風を通す木製ルーバーが設置されているため、リビングの延長として安心して使用できる。内外一体の開放感が気持ちよく、子どもたちや愛犬も自由に行き来している。隣地の境界ギリギリの位置には、防火壁を設けた。これにより、法規制で必要とされていた階段室の設置を回避したうえに、隣からの視線も完全にカット。そのためカーテンいらずの大きな開口を実現し、日中は豊かな自然光が室内の隅々まで行きわたる。また夜間は、外部照明の光を反射させて室内に送り込み、防火壁が間接照明の役割も。自宅で仕事をしている奥さまは、「夕方くらいまで照明をつける必要がないですね」と話す。防火壁と建物との間には30cmほどの隙間があり、さらに奥行きを感じさせてくれる利点も。その隙間はドッグランとしても活用し、長年共に暮らす愛犬ピースちゃん(8歳・メス)が嬉しそうに駆け回っていた。ご夫妻で立てるよう作業台を広めにとったキッチン。衣服等が引っ掛からないようにフラットなデザインをチョイス。造作のテーブルにはカトラリーの収納を設けた。扉の奥には地下の寝室へと続く階段があり、まるで隠し部屋のよう。扉は階段のほうまで開くため、大きな荷物も搬入可能に。左の階段を昇るとダイニングキッチンへ。半地下にある寝室は、1年中安定した気温で快適。造作棚には間接照明を組み込み、演出効果を。大きな開口(右側〉の奥が防火壁。シャビーシックな床はご主人の希望。「あまり真新しい感じが好きではないので、少しレトロな感じにしたかったんです」。犬のハウスやオモチャを置くスペースをリクエスト。ピースちゃんのサイズに合わせて棚の高さを決定。ベンチとしても使用できるようにした。防火壁と建物の隙間によって生まれたドッグラン。大人はやっとすり抜けられる幅ではあるが、ピースちゃんにはちょうどよい。3階はキッズスペース。奥が長女の部屋、手前が長男の部屋。扉によって分けられるようになっている。螺旋階段を昇ってきた正面には、大きめの収納を確保。梁が必要だったところに板を置いてデスクにした。自宅で仕事をする奥さまのちょうどよい仕事スペースとなった。屋上は家族の憩いの場空間を広く見せるために、仕切りとなる壁は極力抑えたという岡本さんは、「必要な壁は、逆手にとってポジティブに利用しました」と話す。例えば、リビングとバルコニーを結ぶ開口部。家の四隅には壁が必要なため、ここにも壁を設置しなければならなかった。「ならば壁で窓のフレームを隠し、風景だけが見えるような空間にしたら面白いかなと思って」と岡本さん。さらに、壁をアーチ型にし、裏側には間接照明を設けるなど徹底的にこだわった。まるで額縁の中の1枚の絵のような美しい光景は、奥さまの最もお気に入りの場所という。「ダイニングから見上げたときに目に飛び込んでくる、窓際のその光景が好きです」。また、ほかの壁も収納や家具として利用している。スキップフロアの階段部分はベンチ兼収納になっていて、テレビ脇の壁も収納を兼ねている。さらにそこに間接照明を組み込むなど、一石二鳥、三鳥の発想が随所にあり、使い勝手のよい空間となっている。これからの季節は屋上テラスも活躍。都会の風景や空が360度見渡せ、風も心地よい。バーベキューや子どもたちのプールなど、屋外にいながら人目を気にせず寛ぐことができ、家族だけの時間が満喫できる。「先日、玄関前に子どもたちとひまわりを植えました。もっと緑を増やしていきたいので、屋上でのガーデニングも構想中です」とご主人。家族で植物にふれる豊かなひととき。まさに古河家のオアシスになりそうだ。フルオープンの窓は、壁でフレームを隠し、窓の存在を消した。スキップフロアの段差を利用し、ベンチを2つ設けた。ベンチの中は収納に。毎日使うものを即収納できて便利だそう。長男が顔を出しているのはトイレの窓。ダイニングとつながり、コミュニケーションの場にもなっている。360度眺望が楽しめる、気持ちのよい屋上テラス。ベンチは折りたたみ可能。古河邸設計OASis一級建築士事務所所在地東京都新宿区構造木造規模地上3階地下1階延床面積65.14㎡
2019年06月03日