サカイクがお届けする新着記事一覧 (34/35)
サカイクに届く「うちの子は運動が苦手で、動きが鈍いように見えるんです......」という悩み。運動が苦手な子は、何から始めれば良いのでしょうか?いわきスポーツクラブのアカデミー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)のアドバイザーを務め、選手育成に長年携わる小俣よしのぶさんに聞く、運動能力向上のポイント。後編では、運動の基礎となる身体機能である姿勢維持と重心コントロール機能、運動が上手になるための能力である自己観察能力、運動好きを育てるために必要な「運動有能感」の重要性と大切さについて伺いました。(取材・文:鈴木智之写真:)裸足なのもポイント。DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは■猫背はイライラ、エネルギー不足の原因に小俣さんは運動が上手になる前提として「まずは姿勢ですね。猫背などが運動に必要な身体機能の低下を引き起こしたり、あるいはその現れと見ることができます。姿勢は運動が上手になるためには必要なんです。ここから改善する必要があると思います。」とアドバイスを送ります。「いまの子どもたちは携帯ゲームやスマートフォンなどの利用時間が多く、その間は長時間にわたり下を向いていることが多いです。このような姿勢が猫背につながると言われています。猫背は身体機能低下やケガ障害につながるとも考えられていますから猫背である場合は、改善が必要だと思います。まずは背筋を伸ばして骨盤を立てるイメージを作ること。これが運動の基本姿勢になります」人間は地球上で生活する限り重力の影響を受けています。立ったり、座っている、歩いたり、飛び跳ねたりする時にも身体を支える、言い換えると重力に抵抗しながら姿勢を維持しなければなりません。その姿勢を支える筋肉群(抗重力筋群)があるのですが、猫背などによってそれらの筋力や柔軟性が低下します。それによって身体を支えられなくなる、重心のコントロールが苦手になるということが現代の子どもに起きているそうです。「筋肉の中には姿勢を支えたり、重心をコントロールするために必要な身体の状態を感知するセンサーが入っています。運動不足などによる姿勢を支える筋群などの低下はこれらのセンサー機能の低下にもつながります。重力に抗って姿勢を維持できなくなってくると、それが猫背となって現れます。長時間、猫背でいると身体にさまざまな弊害が起こります。例えば、猫背になると前かがみ姿勢になるので胸が圧迫されます。これは言い換えると肺も圧迫されることになり、肺をしっかりと膨らませることが難しい姿勢です。酸素を体内に取り込む器官が肺で、それが圧迫されると呼吸が浅くなります。その結果、酸欠になったりしてイライラしたり、疲れやすくなるとも言われています。さらに人間は酸素を利用して活動のエネルギーを作ります。酸素を取り込む量が少なくなったり、その器官がうまく働かないと運動スポーツに必要なエネルギーも不足してしまいます。」また、腹圧を高めて踏ん張ることができないため、ボールを蹴るときやヘディングなどでジャンプ、あるいはコンタクトするときに力の発揮が弱くなるそうです。「良い姿勢を作ったり、維持することは、運動を行う上でとても大切です。いわきFCでは食事中の姿勢なども注意するようにしています。またDAHAAでは裸足で運動を行い姿勢維持機能の強化を図っています」■運動能力を高める3つのポイント、平衡、リズム、定位とは?姿勢維持が前提要件として整った上で、あるいはそれを改善するために様々な運動をすること。それが結果として、サッカーのパフォーマンス向上につながります。運動能力を高めるための3つのキーワードが「平衡」「リズム」「定位」です。平均台を渡る子どもたち。運動ではバランスが崩れながらもコントロールできることが大事まずは「平衡」とはどういう事を指すのかと伺うと、こんな回答をいただきました。「平衡(へいこう)」というのは、バランスと言えますが、バランスを安定させるだけはなく、バランスを崩したり、崩れたバランスを立て直したり、目まぐるしく変化する運動の中で姿勢を維持するなど、どのような体勢であっても姿勢と重心をコントロールする能力です。これはすべての運動の基礎となります。」と教えてくれました。さらに「器械体操のウルトラH難度やフィギュアスケートの4回転ジャンプ、サッカーのオーバヘッドキックやGKのダイビングキャッチなどは、この姿勢と重心コントロールが適切であるから成せる技なんです。バランスを鍛えるエクササイズというとバランスボードなどの不安定な物の上に乗ってバランスを崩さないようにするエクササイズや、身体の安定性をねらって体幹トレーニングなどをします。これらのエクササイズは、静止状態でのバランスの安定性を作るものであって運動やスポーツに必要なバランスとは異なります。本来、バランスは崩れないと運動できません。走ったり、跳んだり、投げたり、蹴ったりなどの運動はバランスの安定と不安定が目まぐるしく変化する中で行われるのです。したがってバランスを安定させるエクササイズや体幹を強化するだけではなく、バランスが崩れながらもコントロールできる能力が必要なのです」続いては「リズム」について。小俣さんは「運動が上手、運動の勘が優れた選手の特徴として、運動の変化の中における力を入れたり抜いたりする能力に優れています。熟達者のスキルなどが流れるような、あるいは力感を感じられないのはスキルの流れの中で適切に力の出し入れ、それに伴う動きの速度の抑揚とメリハリがスムーズであるからです。サッカーのドリブルで相手を抜くときは、動きの経過と力発揮の強弱が動きの速度の抑揚を生み出し、この動きがリズミカルに見えるので、メッシやネイマールのドリブルの中にリズムを感じ取るのです。力発揮の強弱がぎこちない、あるいはバラバラだと、スムーズに動くことができません。幼児の運動、例えば走ったり、投げたりなどの複雑な運動を見るとロボットのような動きをすることがありますが、あれは動きの中での力発揮の強弱ができていないために、あのようなぎこちない動きなるのです。リズムと言っても、これは音楽のリズムとは異なるものです。例えばダンスをやったところで養成できる能力ではありません。音楽のリズムは『二拍子』や『三拍子』などのビートという単位で構成され、アクセントを持つ音の強弱が連続するものです。音が基本となります。運動のリズムは身体の動きの中に現れる力の強弱と速度の緩急によるものですから、運動と音楽のリズムは根本的に異なります。最近では音楽に合わせてステップワークを行うエクササイズを見かけますが、あれが上達しても運動スポーツの上手さにはつながりません」最後に「定位」ですが、自分と自分の周辺の状況や状況の変化を把握する能力で、例えば自分がグラウンドのどのあたりいるのか、ボールと自分、相手との位置関係はどうかといったことを感覚的に捉えて運動や姿勢を変化させる能力のことを言うのだそうです。小俣さんはサッカーのスキルで例を示して「ドリブルでディフェンダーの間を突破する際に、この定位能力が必要となります。自分をカバーしているディフェンダーとの距離感(間合い)やディフェンダーの動きの変化、それに対して、どちらに切り返してカバーを外すのかを判断して自分の運動(ドリブル)とそれに伴う姿勢や体勢を適切に変化させます。あるいは相手ゴールを背にしてパスを受け、反転してゴールに向かってシュートを蹴る場合、自分とゴール、カバーしているディフェンダーとの位置関係を瞬発に判断してカバーのいない方向に反転します。その際にトラップから反転しながらキックへの運動の変化があり、それに伴い姿勢と重心が変化し、振り返ってゴールまでの距離を瞬時に読み取りながらシュートを打つために適切な力発揮度合いの変化が生じます。このような振り向きざまのシュートにも定位能力が関わっています」「これらの能力が整っていない、あるいは統合されていない、未発達であったりすることが、運動ができない=運動神経が悪いとみなされているのだと思います。これら3つの能力は、運動の基礎をなす要素ですから、これらの発達度合いや養成は非常に重要だと思います。その中でも特に平衡は運動のすべての根幹となります。姿勢の維持と重心のコントロールが適切でないとリズムや定位にも狂いが生じます。これらの能力を鍛えるには、前編で紹介した36の運動にある『姿勢の変化や安定性を伴う運動』と『重心の移動を伴う運動』が効果的であると言われています。サッカーがうまくなるためにドリブルやリフティングなどの練習だけをするのではなく、体育でやっているような器械体操、マット運動、鉄棒、さらに遊びの中に含まれるさまざまな運動など、一見サッカーと関連しない、あるいはサッカーから離れた運動が大事なのです。サッカーがうまくなりたいからといってサッカーばかりしすぎると、特定の能力は鍛えられますが、体力や運動能力が偏ったり、身体形態の健全な発育を阻害したり、それらがロコモティブシンドロームやケガ障害の要因になったりします。サッカーの基礎はスポーツ万能、言い換えると高い基礎体力運動能力です」■自己観察能力は、自分で体験しないと身に付かない小俣さんはスポーツが上達する上で欠かせないのは「運動の最中に、自分の身体や運動を常に感じ取る、自分自身を観察する能力」だと言います。動物の動きをする子どもたち。自分の身体をどう動かせばいいのか常に意識する能力は、子どもが体験の中で身につけていくしかない「このような行為を内省や自己観察と言うのですが、自分の体はどうなっているのか、どう動いたのか、どこに力が入ってるのか。そして、どうやったらうまく出来たのかということを常に意識したり感じ取る能力です。これは動画などの映像を使って自分の運動を見ることとは違います。動画もスキル習得にとって適切な方法ではありますが、そもそもこの自己観察能力がない、あるいは低い選手や、特に競技経験の浅い子どもには適していない指導です。自分の身体と運動の感覚が備わっていない選手に動画を見せて動きを指示したり、イメージを伝えても、それらを理解して指示やイメージ通りの運動に変えることは非常に難しいです。自己観察能力が備わるとスキル習得や運動学習の効率も高くなると言われています。こればかりは、大人が教えるものではなく、子どもが運動体験する中で身につけていくものです」「遊びやスポーツ活動の中で、自分の身体と運動に向き合い自己観察を行いながら感覚を研ぎ澄まし習得するものです。しばしば選手たちに、例えば、練習中にシュートを打った後などに、直ちに蹴った時の感覚を振り返れと言います。チームメートとおしゃべりしたり、ほかのことを考えていると感覚を忘れてしまいます。自己観察は感覚を通して行うものですから運動の最中や直後の感覚の振り返りが重要なのです。また指導者が1プレーごとに細かく指導したり、動きを指摘することも感覚を失わせる行為です。指導者は、選手の動きに変化が見られた時などに『今、どんな感じだった?』とか『今の動きと、さっきまでの動きは、どのように変わった?』などの質問をして選手が自己観察するきっかけを作ることが自己観察能力の養成には肝要です。ブリース・リーの有名なセリフに『Don’t think!Feel!』というのがありますが、正にあれです」「人間は本来、走ったり、投げたり、蹴るなどの複雑な運動を行う能力を持っています。運動ができない子、苦手な子は体験機会がないことが原因のひとつで、運動機会を与えるうちにできるようになるんです」そのときは、なるべく大人がやり方を教えず、自分でチャレンジすることで、自然と身につけていくと言います。「例えば、ボール投げ運動であれば、ボール投げが上手、あるいはフォームが整っている場合は野球のピッチャーの投げ方を指導することも可能で、その際には大人が介入して教えることはできると思います。しかし、元々ボール投げが苦手、あるいはその運動体験や運動感覚が乏しい子どもに高度な体力運動能力が要求されるボール投げ運を教えるのは難しいです。投げる運動が苦手な子どもには投げ方を教えるのではなく、先ずボール投げの楽しさに気づかせて、その後は自分の好きなように投げさせてみることが大事です。投げる運動を繰り返す中で投運動に必要な体力運動能力が鍛えられ、かつ運動の感覚が養われていきます。投運動の基本が備わってきたら、高度な投げ方を指導するというように段階的に取り組むほうが合理的です。これはサッカーのスキル習得も同じです」もともと運動体験が乏しいのに専門的な指導をしてもつまらないのでやる気も出ないし上達しません。まずは「楽しさ」に気づかせてあげましょうスポーツ教室などに行くと、子どもたちが取り組む姿を、近くで保護者が見守っています。微笑ましい光景ですが、小俣さんはその際「できたことを褒めるだけでなく、認めることがポイント」と言います。「子どもは何かの運動に取り組んで、上手にできると保護者の方をチラっと見ます。『いまできたよね、すごいでしょ』という感じで。これは、認めてもらいたいという要求があって、それを認めてもらうと自信ややる気につながります。運動を通して自信や動機が高まることを『運動有能感』と言います。自分はうまくできたんだ、やればできるんだ!という気持ちは心身の健全な成長にとって欠かせません。特に子どもは、運動を通してこれらの能力を身につけやすいと言われています。運動が、子どもの自信や性格を作るんです」■子どもを伸ばす褒め方のコツ登ったり、跳んだり、様々な遊びを通して運動能力を高めていくのです。そして、自信を持つことで積極的にチャレンジするようになりますそして保護者に向けて、次のようにアドバイスを送ります。「子どもの頃は自分に自信を持つことが大切で、この頃に形成された精神構造などは、それ以降の自身のあり方に影響するということも聞きます。うまくできたときに、子どもが『見て!見て!』と言うのは、自分の有能感を示して褒めてもらいたいからなんです。有能感が芽生えると、次はこういうことをやってみようという、チャレンジする気持ちが沸き上がってきます。それが積極性を生み、苦手な運動にも積極的に取り組むようになり、結果として体力運動能力の向上につながるのです」子どもを褒めるときにも、コツがあるようです。それは「他の子と比べずに、できたことを見つけて褒めること」です。「ただし褒めすぎると、子どもは褒められることが目的になり、褒められないと刺激になりません。つまらなく感じてしまいます。だからこそ、認めることが大事で、『いま、できたね。どうやったらできたの、ママに教えて?次はこれをやってみれば』というふうに持っていってください。それが、運動が好きになり、上達するためのひとつの方法です」いかがでしょうか。運動神経云々ではなく、運動機会が子どもたちの体力運動能力の向上につながるのです。前編でもお伝えした36の基本運動は、親子で海や山、川などの自然体験をしたりアスレチック体験など一緒に楽しみながらできるものです。遠出しなくてもご家族で近場の自然でアクティビティを楽しんだり、公園などで一緒に運動体験をしてみてはどうでしょうか。そして楽しみながら「褒めるポイント」を実践して、お子さんのチャレンジする力を引き出してあげましょう。<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとはドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月29日思考力、判断力、表現力といった問題解決能力やコミュニケーション能力などこれからを「生き抜く」力。小学生のお子さんがいらっしゃる保護者のみなさんは、2020年からの「教育改革」でもそれらが求められていることを実感されているのではないでしょうか。これまでのような知識偏重ではなく、知識をどう使うか、主体性を持って仲間と強調しながらやり遂げる力など、これまでの「頭の良い子」とは違った賢さが求められるようになるのです。中には「うちの子勉強好きじゃないんだよね」「なんか読解力が低い気が......」「スマホばっかりしているんですけど」とお悩みの保護者の皆さんもいるかと思います。ですが、そんな親が心配する行動や変化こそ子どもが伸びるサインなのだそう。サッカーでも勉強でも、子どもが伸びるためには親のかかわりが重要です。今回は、入塾テストなしで難関校に続々合格する塾の先生で、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる進学塾VAMOS代表・富永雄輔さんに、子どもの伸びしろを最大限伸ばすヒントが詰まった最新著書「それは子どもの学力が伸びるサイン!」(廣済堂出版)の中からいくつかのヒントをいただきました。数回に分けてお送りするのでお楽しみください。適切なフォローで学力や思考力など可能性が最大限に伸びるのです(写真は少年サッカーのイメージです)■親世代の「正解」が通用しない現代の子どもの伸ばし方こんにちは。私は東京・吉祥寺に本部を置く学習塾「VAMOS(バモス)」の経営者として、10年以上子どもたちの指導にあたってきた富永雄輔です。また、一方で日本サッカー協会登録仲介人として、サッカー選手のエージェント業務も行っています。私の塾では入塾テストを一切行っていませんが、ありがたいことに難関校と言われる学校に合格するお子さんたちが多くいらっしゃいます。そんなお子さんと親御さんのかかわりを見てきた経験から、子どもが気になる行動をしたときは、大人がそれを「サイン」とみなし、適切なタイミングでフォローしていけば、学力も思考力もぐっと伸びると実感しています。一方、長年塾を経営して、非常に強く感じるのは、子どもたちの様子がここ数年で急激に変わったことです。10年前の子どもと今の子どもは、まったく異質であると言っても過言ではありません。しかし、変わったのは子どもたちだけではなく、この10年の間に人々の生活や社会的な価値観や、学校教育そのものが激変しています。中でも、親御さんが特に感じるのは、インターネット社会、スマホ社会の到来ではないでしょうか?ネットの人口普及率は2005年末には70%を突破。その後、スマホの普及率は、2014年には全世代平均で60%台、2019年2月には80%台となりました。物心ついた頃には、まわりにスマホが当たり前にある――そんな世代こそ、私が近頃、塾で出会うようになった子どもたちです。変化の早いこの時代は、親と子の世代間ギャップが以前とはまるっきり次元が違うのです。このギャップこそが、今の親世代にさまざまな教育の悩みをもたらしています。なぜなら、自分たちが「これが正しい」「こうすべきだ」と教えられてきたことがまったく通用しないからです。また、共働きや、塾や習い事に毎日のように通う子も増えているため、親が子どもと接する時間は短くなってきています。そんな中、「うちの子は本当に大丈夫なのだろうか」と不安になることもあるでしょう。しかし、心配しないでください。親が心配になる子どもの行動や変化こそが、実は伸びる「サイン」です。このサインには、学力だけでなく、好奇心や自立心、思考力なども育まれるヒントが詰まっています。今の子どもたちが発するサインの本当の意味や、子どもを伸ばすための「チャンス」や「ピンチ」の生かし方、そしてスマホなどの「デジタルの生かし方」について解き明かしていきます。ピンチだと思っていたことが実はチャンスだったり、その逆だったりと意外な結果が見えてくるかもしれませんが、かつての常識は今や非常識、というくらいの変化が本当に起こっていることを受け入れていただきたいのです。■勉強は「よい会社に入るために」するものではないまず、お子さんが「勉強は何かになるためにするもの」と思っているのなら、それは違います。勉強する目的を、「自分の可能性を広げるため」とか「おもしろいことを言うためには最低限の知識がいるから」など、幅広い意味でとらえてほしいのです。そのためには、親が「何かになるために、勉強しなさい」とはあまり言わないほうがいいですね。たとえば、「よい会社に入るために」とか「医者になるために」などと言いすぎてはいけません。お子さんが「eスポーツのプレイヤーになりたい」「ユーチューバーになりたい」などと言い出した場合、親はどうしたらよいかわからないでしょう。しかし、それは、親世代がかつて抱いていた「サッカー選手になりたい」「歌手になりたい」という夢と同じようなイメージで捉えるほうがいいと思います。「スポーツ選手になりたい」という夢は健全で、「ユーチューバーやeスポーツのプレイヤーになりたい」という夢はバカバカしいというのは、子どもの価値観からすると納得できません。ユーチューバーやeスポーツのプレイヤーとして、億単位で稼ぐ人たちは大きな話題となりますが、当然ながらそのような人はほんのひと握りです。そういう意味でもスポーツ選手と状況は似ています。その域に達するためには、ある程度の生まれもった才能と、それこそ血のにじむような努力が必要なのです。そのような努力が必須だと、小学校高学年以上の子どもであれば知っていてもいいでしょう。結局、プロスポーツ選手にしろ、ユーチューバーにしろ、eスポーツプレイヤーにしろ、十分な稼ぎを得られるレベルにまで到達できる確率は低いのです。つまり、食べていけない確率のほうが明らかに高いわけですから、そのことだけに集中するリスクは計り知れないという事実も、小学校高学年くらいになったら、しっかり子どもに理解させるべきです。■スポーツや社会で必要な「賢さ」を身につけるための基礎学力は重要サッカーでも海外で活躍したいと思ったら語学の勉強が必要です(写真は少年サッカーのイメージです)もちろん、「スポーツ選手」や「ユーチューバー」「eスポーツプレイヤー」いう夢を描くこと自体を否定する必要はありません。低いとは言っても、それを実現させる可能性もあります。激動する時代を生き抜くために欠かせないのは、できるだけ多くの将来の選択肢です。さまざまな「勉強」をしていれば、選択肢は確実に増えます。だから今、何をめざしているとしても、子どもたちに基礎学力は身につけてほしいのです。スポーツ選手も、ユーチューバーも、eスポーツプレイヤーも、学歴が不要な職業だからと言って、これからの時代も「賢さ」は必須です。そのための基礎学力が重要であることも子どもに伝えましょう。ユーチューバーやスポーツ選手にあこがれる子が、勉強にやる気が出るちょっとしたワザとしては、高学歴のユーチューバー(ネット検索すると複数出てきます)、英語をしゃべれるサッカーの吉田麻也選手や野球の菊池雄星選手、大学受験の一般入試とサッカーを両立させた岩政大樹選手の存在を子どもに教えるとよいでしょう。また、eスポーツでは東大出身の選手がめざましい活躍をしています。学歴自体の価値が下がっている今、「いい大学、いい会社に行くために勉強しなさい」というだけでは、もう子どもには通じません。富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手かげ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)などがある。
2020年01月28日「うちの子は運動神経が悪くて......」「他の子と比べて、動きが鈍いのよね......」。そんな感想を持つ保護者の方から、サカイクに相談のメールがよく届きます。そこで今回は、子どもや成長期のスポーツ選手たちの育成について多くの知見を持つ、いわきスポーツクラブアカデミーアドバイザー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)アドバイザーの小俣よしのぶ氏に話を聞きました。(取材・文:鈴木智之写真:新井賢一)DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています■サッカーをするための基礎的な運動体験が大事スポーツの現場でよく使われる、運動神経が良い、悪いという表現。耳慣れた言葉ですが、小俣さんは「そもそも、運動神経に良いも悪いもありません」と穏やかな笑みを浮かべて言います。「運動は神経を介して筋肉、骨、関節などの運動器が脳と繋がって行うものなので、神経が良い、悪いというものではないんです。人間の基本構造に優劣はありません。」では、運動ができる子と苦手な子の違いはなんでしょうか?小俣さんは「一番の大きな違いは、運動体験です。運動の得意な子どもは遊びなどの運動を通して、運動に必要な体力と運動能力を身につけています」と教えてくれました。しかし、近年、子どもが外で遊ぶ機会や場所が減り、遊びを通した運動体験を得ることが難しくなっています。代わって、身体活動による遊びではなく、スマートフォンやTVゲームなど運動量の少ない静的な活動時間が多くなっていると言われています。昨年12月、スポーツ庁より平成31年(令和元年)の体力運動能力調査の結果が発表されましたが、それによるとスマホやゲーム機、パソコンの利用増加が体力運動能力低下要因の一つではないかと報告されています。「子どもたちをサッカースクールに入れると、サッカーも運動もできるようになると考える保護者の方もいると思いますが、そもそもいまの子どもたちはサッカーをするための基礎的な運動体験から得られる体力運動能力が低いため、サッカーのスキル習得を中心とした練習や運動をしても、サッカーの難しいスキルをなかなかうまくできないし、体力運動能力も向上しないんですね。その様子を見て、うちの子は運動神経が悪くて...と思う人が多いのではないでしょうか」そのような現状を踏まえて小俣さんがアドバイザーをしている、いわきスポーツクラブが運営する『いわきFC』の中高校生はボールを使ったサッカーの練習と並行して、基礎的な運動体験による体力運動能力の向上を図るトレーニングを行っており、サッカーのスキル練習よりも重要視しているそうです。さらにDAHAAでは、あらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています。■じっと立っていることすらできない子が増えている小俣さんによると、現代の子どもたちには、運動スポーツ活動や日常生活に影響を与える大きな3つの問題があるそうです。1つがエネルギー系体力不足、2つ目が子どもロコモティブシンドローム、3つ目がそれらに伴う運動に必要な身体機能の低下や未発達です。小俣さんは、それぞれどのようなことなのかを説明してくれました。「まず、エネルギー系体力とは、大きな力を発揮したり、力の発揮を維持する能力です。体力テストでは握力や立ち幅跳び、持久走などがそれらにあたります。エネルギー系体力不足とは筋力の不足とも言い換えられ、その現象が例えば、すぐに疲れたと言って運動を止めてしまったり、体がフニャフニャしていて運動に力強さを感じられない、あるいはサッカーに多く見られますが腕立て伏せなどの筋力発揮運動をしっかりとできない、ロングパスを蹴ることができない、ジャンプしてのヘディングが苦手というものです。エネルギー系体力不足による運動への影響は、身体活動の基礎となる姿勢維持にも及びます。これは言い換えると立っているときに身体を支える力が弱いんです。人間は重力の影響を受けているので、身体に力を入れないと倒れてしまいます。サッカーの基本である走る運動も身体を支える力が必要です。走運動は、片足ジャンプを交互に連続する運動で、50m走なら50mにわたって交互連続ジャンプをすることと言い換えられ、この間ずっと姿勢を維持し続けなければなりません。そう考えると一見単純に見える走る運動でも、かなりの体力が必要であることを理解できると思います。走るフォームを直してほしいという要望をよく聞きますが、走る運動は総合的な体力運動で、子どもにとっては高負荷の運動なんです。さらに昨今は学校体育のゆとり化の影響、外遊びから得られる運動体験による体力運動能力向上が見込めないため、運動の基本である姿勢さえも維持できない子どもが増えています」。続いては「子どもロコモティブシンドローム」です。以前、サカイクでも取り上げましたが、ロコモティブシンドロームとは、骨、筋肉、関節、靭帯などで構成されている運動器に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった日常生活を送るために欠かせない機能が低下している状態のことを言います。片足ジャンプをする子どもたち。一見単純に見える「走る」運動は、総合的な体力運動なのです小俣さんは「ロコモティブシンドロームは、本来高齢者の疾患として認知されていましたが現在では子どもにも蔓延している疾患なんです」と注意をうながします。ある報告によると中学生の約1割が目を開けて片足立ちを5秒以上できない、約4割は前屈して指先を地面につけることができない生徒がいたりするのだそうです。さらにはロコモティブシンドロームはスポーツを専門的に行っていても起こるそうです。そのような観点から幼少期から競技に専門特化することは危険なのです。3つ目が「運動に必要な、身体機能の低下や未発達」です。「いまの子どもたちは遊びの中で運動をする機会が少ないこともあり、運動が苦手な子が多く、運動をしたがりません。その結果、運動に必要な機能が低下するという悪循環に陥っているケースも少なくありません」小俣さんはいわきFCアカデミーやDAHAAのほかに、若年層向けフィジカルトレーニングの指導をしていますが、そこでは運動に必要な「運動動作スキル」の習得に役立つ、基礎運動をメインに取り組んでいるそうです。「運動をするためには筋力や持久力、スピードなどの体の力、いわゆる『体力』と、身長や体重、体型や体格などの『身体形態』が密接に関わってきます。これら体力と身体形態を総合したものが『フィジカル』となります。そして、このフィジカルをまとめて、難しい運動やスポーツを行う、あるいはスポーツの難しいスキルを習得したりする力を『運動能力』と定義されています。運動能力は、言い換えると『コオーディネーションや巧みさ』でもあり、走る、投げる、跳ぶ、蹴るといった運動を器用に行う能力です。この体力と運動能力を一体化させることで運動動作スキルが向上しますから、これらを総合的に養成することが大事になります。さらに、こう続けます。「体力と運動能力は、異なる要素です。よって保護者の方は、お子さんが運動が苦手なように見えたら、体力が低いのか、あるいは運動能力が低いのかという視点で見るといいと思います。例えば、体力や身体形態が同年代の子どもと比べても大きいほうであるが、速く走ることが苦手だったり器用さに欠ける場合は、体力は高いが運動能力が低いと判断できます。逆に身体は小さくて力も弱いが、すばしっこかったり器用だったりする場合は、体力は低いが運動能力は高いと見ることができます。」■家庭でできる身体機能を整える運動そう言って、運動が苦手なお子さんの運動機能を向上させるために、家庭でもできる「身体機能を整える運動」を教えてくれました。36の基本運動(出展:『あんふぁん』 フジサンケイ新聞社 2008年10月号より)36の基本運動で、次のような運動があります。【姿勢の変化や安定性を伴う運動】立つ/両手を相手と組む/乗る/逆立ち/渡る/起きる/ぶら下がる/浮く/回る【重心の移動を伴う運動】走る/登る/歩く/跳ねる/泳ぐ/垂直に跳ぶ/くぐる/滑る/這う【人や物を操作する運動】持つ/支える/運ぶ/押す/当てる/操る/蹴る/押さえる/捕る/振る/漕ぐ/渡す/投げる/倒す/引く/打つ/つかむ/積む※36の基本運動についてはNHKエデュケーショナルの「遊育(あそいく)」ページなどでもご確認いただけます上記の運動をどのように取り入れているかを伺うと、いわきFCやDAHAAで実践していることを明かしてくれました。「これらのアカデミーでは、姿勢の変化や安定性を伴う運動と、重心の移動を伴う運動が整ってきたら、人や物(ボールなど)を操作する運動へと移っていきます。サッカーをするためには、姿勢と重心のコントロールを無意識に行いながら、ボールなどを巧みに操作する能力が必要です。姿勢や重心のコントロールができずに、フラフラした状態でボールを扱っても上手くいきませんよね。運動経験の少ない現代の子どもたちにとっては、基礎的な運動ができるようになってから、サッカーなどの専門種目に取り組むのが良いと思います。算数の難しい問題、例えば四則計算や文章問題なども九九を暗記しているという基礎があるから解けます。運動スポーツも一緒で基礎体力運動能力が整っているから上手くなったり、楽しくなります。36の基礎運動を遊びを通して体験することで体力運動能力を向上させ、それがサッカーなどのスポーツに活かされるのです。現在、サッカー界で流行している例えば体幹トレーニング、ファンクショナルやムーブメントトレーニングは、そもそも基礎体力運動能力が備わっている大人がやるものです。運動体験が未熟だったり体力運動能力が低い子どもがやっても、ねらった通りの効果を得ることは難しいと思います。」次回は、サッカーがうまくなるために必要な姿勢と、子どもが運動が好きになるにはどうしたら良いかについて紹介します。ドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月21日サッカーも勉強もからっきしダメな息子。去年転校してサッカーチームに入ったけど、運動が得意じゃないから下手だしコーチの言っていることもしっかり理解しているんだか......。近々試合があるけど、親子ともども知り合いがいないから孤独な観戦になりそう。ダメ親かもしれないけれど「ぼっち」が嫌で観戦に行かないのはアリ?とご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、「ベンチにいるわが子を見ていられなくて試合中に帰宅した」というご自身の経験などをもとに、あなたに寄り添ったアドバイスを送りますので、参考にして心を軽くしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サンダル履きで態度も横柄な監督を"名誉棄損"で訴えたい問題<サッカーママからのご相談>二歳まで一緒に暮らしていましたが、離婚後、私の病気などの事情で6年間元夫の母が育ててきました。元夫は育児にかかわる人ではなく、元姑の育児の仕方が理由なのか、運動だけでなく勉強の方もからっきしです。色々な事情があったのですが、2019年の4月から転校して私と一緒に暮らしています。昨年7月からサッカーのチームに入りましたが、はっきり言って下手です。運動が得意でないうえに、勉強も全然ダメなのでそもそもサッカーの動きを理解してないように思います。コーチの指導内容もちゃんと理解できているのかどうか...。今度、試合があります。息子は出場しないと思いますが、親子共々知り合いがいないので、ポツンと孤独な観戦になるのは間違いありません。子どもっぽい考えかもしれませんが、「ぼっち」になりたくなくて試合観戦に行きたくない、息子にサッカーを辞めてもらいたいとまで思っています。こんなダメ母ですが、親が行きたくないから、で試合を観戦に行かなくていいと思いますか?島沢さんにもそんな時はあったのでしょうか。何かアドバイスをお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。わたくしめにも、そんな時があったのかって?もちろんです!いや、威張って言うことでもありませんが、そんな時もありました。■見に行かない自分はダメ母なのか、という苦しさまずは小学生時代。少年団で1学年上のチームに呼ばれるときがあったのですが、そのチームを指導していたコーチは、息子の学年の担当コーチであるわが夫と、少しばかり違う指導法の方でした。ともに何かしら齟齬があったかもしれないのですが、ストレートに言えばそのことで息子は試合に行っても起用されませんでした。一日に練習試合を3つほどやる遠征なのに出場時間ゼロ分。見ていて非常につらかったです。本人が「コーチ、(試合に)出して」と言うと、「おまえのお父さんに、どうしたら試合に出られるか聞いておいで」と言われていました。そんなことがあって、試合を観に行かないことが何度かあったと思いますし、試合途中でベンチにいる息子を見ていられなくて帰宅したこともあります。中学生になってジュニアユースに入ると、なかなか試合には出られませんでした。都大会など大きな大会やリーグ戦の佳境になると、ほかのお母さんたちからメールが来るわけです。「子どもたちのためにも、親も一丸にならなくてはいけないから観戦に来てください」「打ち上げは都合のつく方はぜひ参加してください」50人中試合に出られるのはせいぜい15人ほど。それでも20数人は行かれていたようです。聞けば「高校進学のためクラブ推薦をもらわなくてはいけないから、わが子がBチームでもユニホームを着ていなくてもコーチに応援来ていますよ、という姿を見せなくてはいけない」と言うのです。息子は、高校は受験して入る予定のグループ(50人中わずか3人でしたが)だったので、非常に驚かされました。なによりも、子どもたちのためという名目で強制されている感があり、ほとんど行きませんでした。ただし、自分の中では常に葛藤がありました。めげずにベンチにいる姿を見守ってやるべきではないか、チームの他の子たちを応援してあげるべきではないか......。お母さんと同じ「私はダメ母なのか」という苦しさですね。■子どものサッカーでそんなに悩むことはないそんな話を、仕事で取材したサッカーコーチに吐露したら「息子さんのチーム、面白いサッカーやってるの?」と尋ねられました。「いいえ、大きく蹴ってばかりで面白くないです」「じゃあ、見ても楽しくないね」会話はそれだけです。理屈では、いまだに何が正しいのかわかりません。ただ、私は楽になりました。そこから、時間や心に余裕があるときや、息子に「観に行こうか?」と尋ねたときに「来て。出番があるかもしれないよ」と本人が希望したときなどに行きました。今となれば、たかが子どものサッカーであんなに悩む必要もないのになあと思っています。ただし、下手だから見たくないと思ったことはありません。息子は走るのが苦手で地面ばかり見ている子でしたが、ダメダメでも、試合に負けても、サッカーをしている姿を見るのは楽しかったです。ダメダメを見ていたので、途中で行かないときがあっても、ジュニアユースで試合に出られたときは「すごいね!よく頑張ったねえ」と一緒に喜んであげることができました。■観戦に行くのがストレスなら行く必要なし。その代わり......そこで結論です。無理に見に行く必要はないでしょう。嫌なことをやれば、お母さんもストレスがたまります。その代わり、息子さんがサッカーに行きたいというのであれば、行かせてあげてください。こころのなかで「サッカーを辞めてもらいたい」と考えたとしても、それを口に出すのはアンフェアです。お母さんに嫌なことを回避する権利があるように、子どもにも人権があります。環境が許す限り、好きなことをする、学び、成長する権利です。親はその権利を行使することを、可能な限り支えなくてはいけません。サッカーを取り上げないでください。試合に行かないぶん、心を込めてお弁当をつくり、疲れて帰ってきた夜にお風呂を沸かしてあげて、おいしい夕ご飯を用意してあげればいいと思います。■あなたはダメママじゃない!息子さんにしてあげればいい、ただ一つのこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もうひとつ。見に行かなくていいので、話は聞いてあげましょう。様子は見られないのですから、報告は聞いてあげてください。試合に勝ったか、何点決めたかといったものではなく、ただひとこと「今日、楽しかった?」と聞いてあげましょう。楽しかったと言えば、そのことを一緒に喜んであげてください。悔しいことや悲しいことがあったのなら、そのことを一緒に悔しがり、悲しむこと。でも、お母さんは大人なので、次にどうしたらいいかな?と導くことはしてあげましょう。そのうち、子どもが「次の試合はねえ」と話したり、サッカーの話を始めたら、Jリーグを見に行ったり、テレビで日本代表の試合を一緒に見てもいい。少しずつ歩み寄れるといいですね。まだ小学年です。そして、お母さんのところに来てまだ1年経っていません。サッカーも始めたばかりです。少しずつ距離を縮められるといいですね。息子さんは勉強やスポーツの発達が少し遅れているだけです。ダメな子ではないし、お母さんもダメなママではありません。こうやって、私のところに相談に来てくれました。誰でもできることではありませんよ。それなのに、お母さんは自分と真剣に向き合っている。それだけで、息子さんは幸せなお子さんだと私は思います。焦らず、ゆっくり、ぼちぼちいきましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年01月08日京都サンガでは「サンガに関係する全ての人々と夢と感動を共有し、地域社会の発展に貢献する」を理念としています。この理念をもとに「子ども」に焦点を当て、「子どもまんなかプロジェクト」と題し、2012年から「サンガつながり隊」という活動を行っています。2012年の発足からこれまでに接した人の数は11万人以上。たくさんの小学生とその保護者らを見てきたよっしぃコーチの「みんながつながり隊っ!」。今シーズンは子どもたちからの質問に答える形でお送りします。第8回目の今回は、「どうして世の中にはたくさんのルールがあるの?」と子どもからの質問です。サッカーでも学校でもルールを守ることは大事ですが、「ルールを守る」ことだけを最優先にしているとおろそかになってしまうものがあるのです。果たしてそれは......?<<前回|連載一覧>>スポーツの中にはルールがありますが、ルールを守ることだけを最優先にしていると......【今月の子どもからのQuestion?】どうして世の中にはたくさんのルールがあるの?<よっしいコーチの回答>大きく言えば社会、身近なところでは学校やスポーツの中にはたくさんのルールがあります。ルールは多くの人が安全で快適に過ごすために必要なものとして、考えられてきました。しかし、無条件にルールを守ることを最優先にしていては、本来の安全や、楽しさがおろそかになってしまう場合もあります。■ルール上はOKだけど......。良心の呵責を感じない?先日、「サンガつながり隊」の最後に行った試合中にボールが高台に乗ってしまいました。そこで、ある子が手でボールを取ったところ、「ハンド!」という声が上がったのです。その高台は子どもが上るには少し危険な場所でした。それでもルールを守って、手を使わずに上るべきだったのでしょうか?他にも「ボールの上に座ってはいけない」や「他の教室に入ってはいけない」など、子どもたちの間にはルールがたくさんあるようです。しかし、理由を訪ねてみても、「わからない」「先生がそう言ったから」という答えしか返ってきません。逆にルールにはなくても守ってほしいこともあります。手つなぎ鬼ごっこで転んだお友達に「大丈夫?」と助けに行った子にタッチする子がたまにいます。確かにルール上はOKですが、みなさんはどう思われますか?スポーツには「ルールの前にフェアであれ」という考え方があります。子どもたちには自分の良心に照らして恥じない行動をスポーツから学んでほしいと思います。ルールにないからと言って人間としての一線を越えたことをしてしまった場合、それはフェアではなくスポーツや遊びの本質から外れていると言えるでしょう。■本質を理解しているかどうかで、練習の成果も大きく変わるスポーツや遊びに限らず、生きていく上で「本質」を理解することはとても大切です。例えば、サッカーで2対2や3対3のゲーム形式の練習をよくやりますが、目的はパスをすることでも味方を使うことでもなく、「ゴールすること」「ボールを奪うこと」が本質です。同じ時間練習しても、本質を理解しているのかしていないのかで、練習の成果も大きく変わるはず。ですから子どもたちにはルールや決まりごとを守る以前に、「なぜそうするのか?」「本当にこれでいいのか?」を考える習慣を身につけてほしいものです。そして、指導者や保護者など、大人はルールや禁止事項、約束事を子どもに伝える時は、できるだけ理由も添えてあげることによって、常に本質や目的を考え、理解し、行動できる人間への成長を促したいところです。<<前回|連載一覧>>福中善久(ふくなか・よしひさ)大阪体育大学卒業後、大阪YMCAで幼児~小学生を中心に様々なスポーツやキャンプ指導にあたった。また、大学生の指導者育成や高齢者スポーツなど幅広く活動。京都サンガでは未来を担う子どもたちに、スポーツを通じて「人と人がつながっていくことの大切さ」を伝える「サンガつながり隊」のコーチとして活動。地域の小学校を中心に年間2万人の子どもと関わっている。▼サンガつながり隊の詳細はこちら
2019年12月23日サカイクには、保護者の方からたくさんの相談メールが届きます。その中で多いのが「つい、自分の子どもとよその子を比べてしまう」というもの。比べても意味がないのはわかっているのに、「あの子に比べてうちの子は......」と考えて、暗い気持ちになってしまうことがあるそうです。そこで今回は一般社団法人フィールド・フロー代表で、メンタルコーチの柘植陽一郎さんと、しつもんメンタルトレーニングでおなじみ、藤代圭一さんに話をうかがいました。「心が軽くなるヒント」満載の対談を、2回に分けてお届けします。(取材・文:鈴木智之)無意識のうちに自分の子と他の子を比べ、イライラ、モヤモヤしていませんか?■子どもの出来=親の評価ではない藤代:自分の子どもを他の子と比べて「できないなぁ」と感じてイライラしたり、不安になってしまう。これは親なら誰しも、経験があると思います。勉強もサッカーも競争のシステムがあるので、無意識のうちに比べてしまうのはよくあることです。子どもの出来が、親としての自分の評価につながると感じる人も多いようです。でも、本来はお子さんの出来と自分の評価はイコールではありませんよね。柘植:そう思います。アドラー心理学に「課題の分離」という考え方があるのですが、目の前の問題が、自分の問題なのか、それとも子どもの問題なのかを整理するといいと思います。そこが整理ができていないので、モヤモヤして、焦ってしまうんです。藤代:多くの保護者は子どもにかける時間が増え、気になることも増えているかもしれません。けれど、ある程度は子どもに決断する機会を与えることも必要です。そして、「うちの子はサッカーがそれほど上手じゃないけど、この子なりに素晴らしい人生を歩むはずだから、心配する必要はないわ」という考え方ができれば、気持ちも楽になるのではないでしょうか。柘植:お子さんがあまりサッカーが上手ではないことに対して、自分が恥ずかしいのか、本当に子どものことを思って考えているのかを分けて、考えてみるのもいいかもしれません。一度、整理をするだけでも、受け取り方が違ってくると思うんです。お子さんの問題と自分の問題を一緒にしてしまうと、がんじがらめになってしまいます。藤代:その場合、保護者の方に「自分の問題なのか、子どもの問題なのか、どちらだと思いますか?」と、直接的な質問をするのですか?柘植:はい。まずは「課題の分離が大切ですよ」という話をして、自分の問題なのか、子どもの問題なのかを考えて、どうやって問題を整理しましょうか? と問いかけます。保護者の方は、目の前の問題に対して、どうしていいかわからないから止まってしまう、困ってしまうんです。問題を分けて考えることで、安心できることも増えてきます。藤代:僕の場合は、親御さんに「子どもと同じように、何でも叶えられるのであれば、何を叶えたいですか?」というしつもんをします。そうすると、質問者様のような方の多くは、「子どもにこうなってほしい」と答えるんですね。自分ではなくて、「子どもにサッカー選手になって欲しい」とか「かけっこで一番になってほしい」とか。保護者の夢を聞いているのに、お子さんの夢と統合されてしまって、分離されていないんです。それでは苦しくなってしまいますよね。■本来親が褒めるべきポイント柘植:その問いを投げると、気がつく方は多いですよね。「そっか、自分が恥ずかしい思いをしたくないんだ」「あの子と比較して、苦しんでいるのは自分なんだ」と気がついて、子どもにとって何が大切なんだろう?と考えた時に「他の子と比較することは、我が子のためになっているのかな?」と気がつきます。藤代:どうして、保護者は我が子を他の子と比較してしまうのだと思いますか?柘植:親自身が良く思われたい、自分の子育てが間違っていないことを証明したいといったことが理由だと思います。でも、子どもからすると、比較されるのは一番嫌なことですよね。スポーツにおいて、子ども自身が探求したいのは「昨日できていなかったことが、今日はちょっとでもできるようになること」です。跳び箱が3段跳べる子が、4段を跳べるようになると嬉しいわけです。それを5段跳べる子と比べてどうこう言われても、何も嬉しくないですよね。藤代:まさに、そのとおりです。柘植:基本的には、自分自身が跳び箱で4段跳べるようになったのが嬉しいわけで、そこに焦点を当ててあげないといけない。5段跳べる子と比較しても、その子にとって良いことは何もないわけです。その子が昨日は跳べなかったけど、今日は跳べそうだというのが、スポーツの楽しみだと思います。その子のちょっとした成長実感に対して、保護者も一緒に楽しめるような関わり方がいいと思います。■自分のタイムラインを書いてみることで、今自分がどうすればいいかわかる自分のタイムラインを描くことで、親としてどうありたいのかに気付くことができるのです(C)吉田孝光藤代:保護者自身は「子どもの成長を通じて、自分を認めて欲しい」という感情に気がついていると思いますか?「自分を認めてほしい、褒められたい」という感情に気がつくと、行動が変わるのでしょうか?柘植:気づいただけでも、一歩踏み出せると思います。僕は親御さんに、お子さんと一緒にタイムラインを歩いてもらうことがあります。自分が生まれたときの年齢から、イメージする臨終までの年齢を書いて、そこにお子さんの年齢を入れていきます。そこには、自分の親の年齢も書き入れるのですが、そうすると「父母って、自分がこのぐらいの年にはいなくなっちゃうんだ」といったことに気がつきます。藤代:自分の人生を客観的に見ることができるわけですね。柘植:そうなんです。その結果、自分はどういう人生を歩みたいのか。自分は親として、どうなりたいのかと考えが深まっていきます。タイムラインを書くと、子どもに関わってる時間は、それほど長くはないことがわかります。親が関われるのは、子どもが二十歳になる頃までで、その先はそれぞれの人生が待っています。タイムラインを見ながら「今の自分にアドバイスをして下さい」というワークをすると視点が変わって、いつもと違うアドバイスができるようになります。藤代:自分を客観視することは、とても大事なことですよね。保護者だけでなく、指導者もそうですけど、うまくいかないことや欠点は目につきやすいので、探しやすいんです。そこで「うまくいっていることはなんですか?」としつもんをすると、答えられない親御さんもいます。自分がうまくいっていることを見つけられないということは、他者に対しても同じことが起こりうると思うので、まずは自分自身のどんなところがうまくいっているかを探してみるのも良いと思います。柘植:それはすごく良いですね。藤代:この対談を読んでいる方は、「自分がいまうまくいっていることは、何があるだろう?」というしつもんを自分自身にしてみてください。うまくいっていることが実感できれば、それが自信につながり、自分を肯定することにもなります。その結果、「自分は自分なんだ」という当たり前のことに気がつくので、お子さんを誰かと比べるという考え方も、徐々になくなっていくのではないかと思います。対談の前半はいかがでしたか。親のこころが良い状態にあると、子どもも安心してサッカーに勉強に取り組めるもの。すぐには難しくても、少しずつ実践してみることであなたの心がスッと軽くなっていくはずですので、「うまくいっていること」を意識してみてください。柘植陽一郎(つげ・よういちろう)一般社団法人フィールド・フロー代表 コーチングディレクター専門はメンタル、コミュニケーション、チームビルディング。2006年より本格的にアスリートのサポートを開始。メンタルスキル指導とは一線を画す「メンタルコーチング」を用いて、2008年北京五輪・2012年ロンドン五輪で金メダリストや指導者をサポート。2011年~2014年までソチ五輪で3つのメダルを獲得したスノーボードナショナルチームを、2016年リオ五輪で48年ぶりの4位入賞の女子体操では、コーチと選手をサポート。その他ラグビートップリーグチームやサッカー日本代表選手、プロ野球など、プロ・オリンピック代表から部活動まで様々な世代・競技を幅広くサポートする。著書に「最強の選手・チームを育てるスポーツメンタルコーチング」(洋泉社)、「成長のための答えは、選手の中にある」(洋泉社)藤代圭一(ふじしろ・けいいち)スポーツメンタルコーチスポーツスクールのコーチとして活動後、教えるのではなく問いかけることで子どものやる気を引き出し、考える力を育む「しつもんメンタルトレーニング」を考案。全国優勝を目指す様々な年代のチームから地域で1勝を目指すチームまでスポーツジャンルを問わずメンタルコーチを務める。全国各地でワークショップを開催し、スポーツ指導者、保護者、教育関係者から「子どもたちが変わった」と高い評価を得ている。2016年からは「1人でも多くの子どもたち・選手が、その子らしく輝く世の中を目指して」というビジョンを掲げ、全国にインストラクターを養成している。著書に「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)などがある。
2019年12月17日京都サンガでは「サンガに関係する全ての人々と夢と感動を共有し、地域社会の発展に貢献する」を理念としています。この理念をもとに「子ども」に焦点を当て、「子どもまんなかプロジェクト」と題し、2012年から「サンガつながり隊」という活動を行っています。2012年の発足からこれまでに接した人の数は11万人以上。たくさんの小学生とその保護者らを見てきたよっしぃコーチの「みんながつながり隊っ!」。今シーズンは子どもたちからの質問に答える形でお送りします。第7回目の今回は、「自分の限界を超えるにはどうしたらいいの?」と子どもからの質問です。サッカーでもほかの事でも、「これ以上無理かも」と思うときがありますが、果たしてそれは本当に乗り越えられない壁?最近増えている、失敗する姿を見られるのを頑なに拒む子らにチャレンジ精神を植え付けるやり方とは......<<前回|連載一覧>>バウンドしたボールをキャッチするプログラムも、みんなで一緒にチャレンジすることで次々にできるようになる【今月の子どもからのQuestion?】自分の限界を超えるにはどうしたらいいの?<よっしいコーチの回答>スポーツに取り組んでいると、どうしてもうまくいかないことがあります。「自分の力はここまでなのかな?」と思ったり、諦めて辞めてしまう人も少なくありません。しかし、今、あなたが目の前にしている壁は、単なる思い込みかもしれないのです。■自分で限界を決めてない?「ノミの法則」をご存じでしょうか?本来、ノミは30cm近くジャンプする力があるのですが、高さ5cmの容器を上から被せた環境でしばらく放置していると、容器を外してもその高さまでしか跳べなくなってしまうのです。しかし、そのノミを30cmの高さを跳べるノミがいる環境においてあげると、再び30cmの高さまでジャンプできるようになるというのです。つまり、高く跳べなくなったノミは自分で限界を決めてしまっていたのです。「ノミの法則」のような現象は、「サンガつながり隊」でたびたび見かけます。例えばボールをバウンドさせてキャッチするプログラムがあるのですが、難易度を上げると最初はみんなうまくできません。ところが、誰かひとりができるようになると、周りの子が次々とできるようになるのです。個人だけでなくクラス対抗のグループプログラムでも同じような現象が起こっています。大切なのは、「ムリ」と決めつけて諦めるのではなく、「仲間」あるいは「身近なライバル」と一緒に取り組みながらチャレンジする気持ちなのです。ペアで練習するようなトレーニングなどで、楽しみながら自然に成長できます■サッカーでの成長にも「とりあえずやってみよう」精神が大事最近は、自分の失敗を他人に見せるのを頑なに拒む子や、負ける自分が許せない子が増えています。しかし、「とりあえずやってみよう」というチャレンジ精神や、「うまくなりたい」という向上心を持たなければ、成長は望めません。山登り未経験の人がいきなりエベレストに登ることはできませんが、自分より少し上手い人は身近に見つけられるはず。私も小学校、中学校時代は1学年上の先輩に憧れ、彼らの練習を見ながら育ったことで、サッカーが上達できたと思っています。皆さんも、サッカーの練習であれば、パス練習などのペアトレーニングを一緒にやってみたり、学業なら成績の良い人と一緒に机を並べて勉強してみたりしてはいかがでしょうか?楽しい時間を過ごしながら、自然と自分が成長することを実感できるかもしれませんよ。<<前回|連載一覧>>福中善久(ふくなか・よしひさ)大阪体育大学卒業後、大阪YMCAで幼児~小学生を中心に様々なスポーツやキャンプ指導にあたった。また、大学生の指導者育成や高齢者スポーツなど幅広く活動。京都サンガでは未来を担う子どもたちに、スポーツを通じて「人と人がつながっていくことの大切さ」を伝える「サンガつながり隊」のコーチとして活動。地域の小学校を中心に年間2万人の子どもと関わっている。▼サンガつながり隊の詳細はこちら
2019年12月16日京都サンガでは「サンガに関係する全ての人々と夢と感動を共有し、地域社会の発展に貢献する」を理念としています。この理念をもとに「子ども」に焦点を当て、「子どもまんなかプロジェクト」と題し、2012年から「サンガつながり隊」という活動を行っています。2012年の発足からこれまでに接した人の数は11万人以上。たくさんの小学生とその保護者らを見てきたよっしぃコーチの「みんながつながり隊っ!」。今シーズンは子どもたちからの質問に答える形でお送りします。第六回目の今回は、「頑張っているのに上手くいかないときはどうすればいい?」と子どもからの質問です。サッカーでもほかの事でも、頑張っているのになかなか上手くいかないときはあるもの。そんな時、壁を乗り越えるためにどうしたらいいのでしょうか。上手な導き方とは?<<前回|連載一覧>>頑張っているのに上手くいかないときはどうすればいいのか【今月の子どもからのQuestion?】頑張っているのにうまくいかないときはどうしたらいいですか。<よっしいコーチの回答>サッカーを続けていると、なかなか上手くなれない時期が必ずあります。本人としては「こんなに頑張っているのに、どうして上手くならないんだろう」と不安になる人も多いのではないでしょうか?でも、そんな時は少し視点を変えることで、乗り越えるためのヒントを得ることができるのです。■上手くならないのは練習量の問題ではないサンガつながり隊では、つま先をくっつけた状態で仲間と手をつなぎ、立ち上がるプログラムや、「なべなべ底抜け」を行うことがあります。2人でやるのは簡単ですが、4人、8人と人数が増えてくるとなかなか上手くできません。二人でならばうまくいくことも...人数が増えると「今までのやり方」では成功しなくなるので、新しい方法を考えなければならないのです特にこの2つのプログラムは2人で成功できても4人、8人など人数を増やして成功させるには、方法を変えなければ成功しません。今までのやり方だけにこだわるのではなく、少し距離を置いたり、視点を変えることで、新しい方法を考えなければならないのです。つまり、「ある程度のレベルに達してから、なかなか上手くならない」「どうしてもできないことがある」というのは、練習量の問題ではなく、考え方や物事の見方の問題なのです。■ドリブルで相手をかわせない場合は......皆さんも「これはこうするものだ」と思い込んでしまっていたり、無意識に「枠組み」をつくってしまったりしていませんか?サッカーに例えるとすれば、ドリブルで相手をかわすことがうまくいかない場合、ドリブルで何とかすることを考えるより、「パスを使って相手をかわしてみよう」など考え方を変えてトライしてみてはいかがでしょうか。ずっとフォワードとしてプレーしてきた選手が伸び悩んでいるとします。そんな時は、試しにディフェンダーとしてプレーしてみるのはいかがでしょうか?センターバックとして相手フォワードと対峙すれば、身体の使い方やフェイントなど、どんなプレーがセンターバックとして守りにくいのか、また、サイドバックであれば、自分が攻め上がってクロスボールを入れる時、フォワードにはどんなポジショニングをしてほしいかを体験から知ることができるはずです。私自身も、試合に出ていてうまくいかなかったことが、試合に出られなくなった時に外から他の選手を見て気づくこともたくさんありました。学生時代、ファッションに詳しい友人に服を見立ててもらったことがあります。これまでの私はモノトーンの服ばかり着ていたのですが、友達が見立てたのは黄色のチェックのシャツ。自分では絶対に選ぶことはないものでしたが、実際に来てみるとすごく似合っていて気に入ったことがあります(笑)冬休み、これまでの考え方や物事の見方を変えて、新たなチャレンジをしてみてはいかがでしょうか?<<前回|連載一覧>>福中善久(ふくなか・よしひさ)大阪体育大学卒業後、大阪YMCAで幼児~小学生を中心に様々なスポーツやキャンプ指導にあたった。また、大学生の指導者育成や高齢者スポーツなど幅広く活動。京都サンガでは未来を担う子どもたちに、スポーツを通じて「人と人がつながっていくことの大切さ」を伝える「サンガつながり隊」のコーチとして活動。地域の小学校を中心に年間2万人の子どもと関わっている。▼サンガつながり隊の詳細はこちら
2019年12月09日神奈川県横浜市を拠点に活動するFOOTBALL CLUB 66。ジュニアのスクール、ジュニアユースのチームを持ち、精力的に活動を続けています。スクールでは個を伸ばすことに重点を置き、ジュニアユースは「やるからには真剣に、プロを目指そう」というテーマで活動をしています。ジュニアを経てジュニアユースでは、どのような心構えでサッカーに取り組むべきなのでしょうか?鈴木浩二監督に聞きました。(取材・文・写真:鈴木智之)クラブでは、選手たちの将来を考えて「プロになりたいのならば、大学まで見据えよう」という話をするそう(C)鈴木智之■サッカーだけでは強豪校に行けない時代FOOTBALL CLUB 66では、選手たちに「プロになりたいのならば、大学まで見据えよう」という話をするそうです。近年、大学経由でJリーガーになる選手が増え、即戦力として活躍しています。大学卒業の肩書があれば、セカンドキャリアの選択肢も増えます。「大学で頑張って、Jクラブの特別指定選手になれば、上田綺世選手(法政大→鹿島)のように、大学の途中でJリーグに入るケースもありますよね。小池裕太選手(流通経済大→シント・トロイデン→鹿島)のように、大学から海外に行く可能性もあります。そのためには、勉強もしなければいけないんです」勉強の重要性は、ジュニアユースに入ると顕著になります。なぜなら、高校進学があるからです。「高校サッカー選手権にあこがれて『強豪校でサッカーがしたい』という選手は多いです。昔はサッカーの能力が高ければ、スポーツ推薦で高校に入ることができましたが、最近は学力を重視する強豪校が増えています。5段階評価で9教科あり、最大が45だとして、32から36ぐらいは取っておかないと、サッカーが上手くても『その成績では無理ですね』と断られてしまう可能性があります」学力が高ければ、学校選びの選択肢も増えます。せっかくサッカーの能力が高くても、学力が到達しないがゆえに、希望校に進めないとなると悔いが残ります。FC66のジュニアユースでは、勉強の成績によって、クラブでの活動を停止するというルールを作ったそうです。「いまは、サッカーだけやっていればいいという時代ではありません。成績が9教科で20台の子は、自己申告でいくつまで内申を上げるのか決めてもらいます。30以上の子は、一つでも成績が落ちたら、テストからテストまでの期間はサッカー活動を停止してもらいます。親御さんからは『すごくいい。助かります』と言われますし、それで成績を4上げたり、最大で6上げた子もいました。クラブは月謝をもらっている手前、活動停止には中々踏み切れなかったんですけど、大事だと思って『やります』と言ったところ、成果につながっています」サッカーの能力と学力。この2つがなぜ必要なのかというと、誰しもがプロになれるわけではないからです。ましてや大学まで進んでプロになるキャリアを描いているとなると、学力は切っても切り離すことができません。「勉強以外にも、人間性を育むことも大事な軸にしているので、社会のマナーを身につけさせたいと思っています。たとえば、練習後の買い食いは禁止にしています。プロテインを持って来させて、補食も摂らせるので、練習後に最低限の栄養摂取をさせています。家に帰った後も、消化の良い物を食べるという風にしています。夜遅くにコンビニに寄る姿は良くないですし、歩きながら食べるのも良くない。ましてや電車の中で食べるなんて、もってのほかです」■サッカーを思い切りやれているのは「当たり前」ではないなぜ社会のマナーを大切にするのでしょうか。その理由を、鈴木監督は「子どもたちの将来のため」と言葉に力を込めます。「極端な例ですけど、いまは不自由なく育っていたとしても、何かのきっかけにサッカーが続けられなくなったり、家庭の事情で働きに出なければいけなくなる可能性もゼロではありません。将来どうなるかは、誰にもわからないですよね。いつ社会に出てもいいように、最低限の社会性は中学生年代の内に身につけてほしいと思っています。言葉遣いもそうですが、『了解です』という言葉は、目上の人には失礼にあたりますよね。 LINE やメールを送るときも『承知しました』『かしこまりました』など、社会人が送るような文面や内容、日本語の使い方なども教えています」子どもたちには「いろいろな人の助けがあって、好きなサッカーを思いきりやれていることを、当たり前だと思わないこと」と、常々言っているそうです。「親から買ってもらったスパイクやバッグを大切にすることもそうですし、感謝の気持ちを持ってプレーしてほしいですよね。普段の生活はプレーに出ますから。いい加減な生活をしている人は、プレーもいい加減です。保護者には、『プレーには普段の生活が出るので、何かあったら、言ってください』と伝えています。『親御さんが言っても直らないようであれば、僕らの名前をうまく使ってください』と。『鈴木コーチに言うからね』と、僕が悪者になっても構いませんので(笑)」■成長には個人差がある。「今」できなくても他の子と比べないで!成長には個人差がある、わが子が「今」ほかの子よりできない部分があっても比較しないこと(C)鈴木智之様々な角度から、選手を成長させるアプローチをする鈴木監督。「選手の成長は、個々にタイミングが異なる」と言います。「成長には遅い、早いがあるので、慌てずにその子の成長スピードを見ながら、かける言葉を変えています。他の子ができることができなかったとしても、今は仕方がないと割り切ることも大切です。時間をかけて育っている途中なので、保護者も他の子と比べるのではなく、懇親会などで話をして、『慌てないでください。僕らが慌てていないので、お父さんお母さんが慌ててはだめです』と言いますし、選手本人ともしっかり話をします」子どもの成長について、様々な観点から考えを聞かせてくれた鈴木監督。最後に、保護者がどのようなサポートをすればいいかを聞きました。「親ができることは、子どもを後ろから支えてあげること。子どもを信じて、後方支援をしてもらいたいというのが一番ですね。あとは、小学校高学年、中学生年代は成長期なので、食事の面は最大限サポートしてあげてほしいなと思います。親御さんだけでサポートをするのが難しいことに関しては、僕ら指導者や学校の先生と三位一体となって、子どもを成長させていくことが大事だと思っています」今回お話を伺った鈴木浩二さんが監督を務めるFOOTBALL CLUB 66のHPはこちら>>
2019年12月06日2010年12月6日にオープンしたサカイクは、今日で10年目を迎えました。この10年目という節目に、あらためて読者のみなさんにお願いしたいことがあります。■子どもの楽しいを大人が邪魔しているオープン最初の月はわずか4,000人しか訪れなかったサイトも、今では月間40万から50万人の方々にご利用いただいています。これまで支えてくださった読者の皆様、取材にご協力いただいた皆様、制作パートナーの皆様、そして我々の考えに賛同いただきサポートしてくださっているスポンサー企業の皆様、すべての方々に心よりお礼申し上げます。サカイクは「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をスローガンにしたジュニアサッカーの保護者向けメディアです。サカイクをオープンさせる前、調査として様々な大会現場に足を運びました。プレーが途切れるごとにグラウンドに大声が響き、子どもたちはボールではなくその声の主を目で追いかける。コーチはベンチから指示を出し、指示通りに進まなければ 怒鳴り声をあげる。「シュートだよ!」 「パスだパス!」 保護者も大声で子どもたちへ激を飛ばす。試合が終われば罰走や反省会。そんな環境でプレーしている子どもたちの顔は、決してサッカーを楽しんでいるようには見えませんでした。『子どもの「サッカーが楽しい!」を大人が邪魔しない世界をつくっていきたい』そんな思いからサカイクはスタートしました。子どもが好きではじめたサッカーなのに、周囲の大人たちは余裕をなくし、目の前の結果にこだわってしまう。一生懸命やればやるほど子どもたちは追い詰められていく。子どもからサッカーの本当の楽しさを奪っているのは、周囲の大人たちが作り出す環境にあるのではないか...。■サカイクを読んで欲しい人には届かない「子どもが心からサッカーを楽しむことが、やる気につながり、子どもの自立や成長を導く。大人がやらせるではなく、子どもが自発的にプレーし、成長していける環境をつくっていくためには?」サッカーの現場で起きる問題はサッカーの世界、スポーツの世界だけの問題ではなく、子どもたち自身の問題、そして親やコーチ、周囲の大人の問題、広く社会の問題に直結しています。様々な問題に関する情報、考え方や解決の方法を伝えていくことで、変わるきっかけにしてもらいたい。サカイクはこの10年間で約13,500本の記事を配信し、300万冊以上のフリーマガジンを配布してきました。オープン当初は、子どもファーストな考え方に批判的な意見をいただくこともありましたが、おかげさまで、多くの賛同者を増やすことができました。少しずつですが、少年スポーツの価値観や、スポーツや子育てに対する考え方が変わってきていることを日々実感しています。しかし、残念ながら今でもスポーツ界の悲しいニュースは後を絶ちません。指導者による暴力・暴言は根強く残り、九州のあるバレーボールチームでは、指導者の体罰を保護者が隠蔽していたというニュースもありました。目に見える数は少なくなったのかもしれませんが、未だに変わらない現実が至るところに存在しています。まだまだ変えていかなければなりません。ただ、そのためには、私たちの力だけでは実現できません。なぜなら本当に変わってほしい人は、なかなかサカイクを読んでくれないからです。変えていくためには現場に関わっていらっしゃる皆さんの力が必要です。皆さんの声で発信し、賛同者を増やしていくことが大事なのです。■サカイクをみんなのハブに。10年目のアクション2017年4月、サカイクは、子どもが心からサッカーを楽しむための「サカイク10か条」を作成しました。子どもを「勝たせたい」「うまくさせたい」よりも先に、大人が大切にしてほしい"10の心得"です。子どもが心からサッカーを楽しむための「サカイク10か条」1.子どもがサッカーを楽しむことを最優先に考えよう2.今日の結果ではなく、子どもの未来に目を向けよう3.子どもの力を信じて、先回りせずに見守ろう4.子どもは小さな大人ではないことを理解しよう5.コーチやクラブの考えを聞いてみよう6.ダメ出しや指示ではなく、ポジティブな応援をしよう7.あなたが子どもの良いお手本になろう8.子どもの健康や安全に気を配ろう9.サッカー以外のことを大切にしよう10.笑顔で子どもとサッカーを楽しもうチームなどで配っていただけるよう、サカイクのサイトからPDFをダウンロードできるようになっています。すでに多くのチームが保護者会や大会現場などで配布してくださっています。「サカイク10か条」のダウンロードはこちら>>以前、サカイクでもおなじみの池上正さんが「サカイクをうまくハブに使えばいい」という話をしてくださいました。面と向かって言いにくいことも「サカイクにこう書いてあるよ」とか、記事をシェアするだけでも目にしてもらえる機会になりますし、それが考えを変えるきっかけになるかもしれないと。サカイク10か条は、メールやLINEでシェアしていただいても、チームのホームページからリンクしていただいても構いません。ぜひ、自由に使っていただき、この考えを一緒に広めていっていただきたいのです。サカイクは10年目のアクションとして、この10か条を多くの方に知っていただくことと、サカイクの考えに賛同いただける方をパートナーとして迎え入れ、さらに活動の幅や影響力を大きくしていきたいと考えています。また、サッカー界だけではなく、他競技とも連携していき、日本のスポーツ界全体を変えていくアクションにつなげていきます。そのためには、現場のリアルにもっと向き合っていかなければなりません。今後はさらに皆さんの意見や考えについても話を聞かせていただく機会を増やしていくつもりです。ぜひ、ご協力ください。そして、サカイク10年目の2020年は東京オリンピックの開催年でもあります。日本人のスポーツに対する価値観や考え方が大きくパラダイムシフトする年になるかもしれません。この絶好のタイミングに、もっと多くの子どもたちが心からサッカーを、スポーツを楽しめる環境をつくっていけるよう、一緒に取り組んでいきましょう。
2019年12月06日これからを「生き抜く」力となるライフスキル。サカイクでは、サッカーを通じて「生き抜く」力を育むことを目的に、2017年の春キャンプより、ライフスキル研究の第一人者である慶應義塾大学・東海林祐子先生の監修のもとライフスキルプログラムに基づいたトレーニングをキャンプで行っています。ライフスキルに共感してキャンプに参加してくれる親御さんから「家庭でもライフスキルを伸ばす方法が知りたい」とのお声をいただくことも多いので、サカイクキャンプのヘッドコーチ・高峯弘樹さんに、家で実践できる5つのライフスキル(考える力、チャレンジ、コミュニケーション、リーダーシップ、感謝の心)を伸ばす方法を教えていただきました。第四回目は、リーダーシップ力についての提言です。子どもたち本人はもちろんですが、親がすべきこと、できることを教えていただきました。(取材・文:前田陽子)<<第三回:大人しいからコミュニケーション力低い、ではないこれからの社会では旧来のようなリーダー気質のある子だけでなく、「みんな」に求められる力なのです(写真はサカイクキャンプ)■周りにいい影響を与えることができるのもリーダーシップリーダーシップのある人と言うと、日本代表の長谷部誠選手などが思い浮かぶかもしれません。ですが、「もともと長谷部選手のような資質を持っている子は少ないので、それを子どもに求めるのは難しいです」と高峯コーチは言います。サカイクキャンプで実践しているのは、まずは自分に対してリーダーシップを持つことだそうです。例えばキャンプで、朝起きてコーチに挨拶をするのが恥ずかしいけれど勇気を出して「おはようございます」と言ってみる、など自分を引き上げることからリーダーシップは始まるのだそう。また、「周りにいい影響を与えることもリーダーシップのひとつ」だと言います。声を出すのが苦手なら、得意なプレイでチームメイトを鼓舞することもリーダーシップだと考えているそうです。プレイ中はボールを持っている人が、次のプレイを決めることになります。ですから、ピッチにいる選手全員にリーダーシップが必要になります。その力を養うためには、自分で決断してアクションを起こせる状況を作ることが大切なのです。そのためには、さまざまな局面で子どもに決めさせることが大事になります。■自分に自信が持てると人の前に立つことが容易になる何か一つ、ほかの人には負けない強みを身につけると自信が持てる(写真はサカイクキャンプ)10年後、子どもが社会に出るころには、世の中はもっとグローバルになっているでしょう。日本企業で日本人だけに囲まれて働く、というこれまでの働き方自体が少なくなることが考えられます。その時に必要なことは何だと思いますか?仕事も、プロジェクトごとに得意分野を持つ人材が集まって、それぞれの強みを活かしながら共同で進めていくやり方なども増えると予想されます。そんな社会を生きるためには、「何かひとつ自分に自信があるといい」と高峯コーチは言います。他の人には負けないという強みは、生きていく上でとても力になります。それがサッカーに関することでも、まったく違うことでも構いませんので、子どもがやりたいと思ったことをやらせてあげて、自信が持てるほど探求できるものを探させましょう。以前、サカイクキャンプに参加した子の中に、プレーはそれほど目立たないけれど、Jリーグの「サンフレッチェ広島」についてとても詳しい子がいたそうです。その子は何年の第何節でどの選手がどんなプレイで得点をしたのかを覚えているようなサンフレッチェファンで、彼の話に回りのみんなが引き込まれていたのだそうです。子どもの世界でもプレーの上手下手で力関係ができてしまうこともありますが、その子は自分の「これだけはほかの子よりできる」という自信を持っているものがあったので、臆することなく話せたし、周囲の子も「すごい」と一目置いたのです。ご家庭でリーダーシップを身につけるためには、サカイクキャンプでも実践しているように何か当番などの役割を持たせるのもいいと高峯コーチはアドバイスします。食器を片付ける、靴を揃える、洗濯物を畳む......など、家庭の中で自分に何ができるかを考えさせて、役割を持たせます。そしてそれを責任を持ってやり続けさせると小さなことでも積み重ねることが大事で、続けられたという事実がとても自信になります。忙しい親御さんたちが、子どもに一発で効果が出る「魔法」を求めたい気持ちはわかりますが、このようなことには特効薬はないので、時間をかけて自信を育んでいきましょう。責任をもってやり続けること、自分の得意なことに自信を持つことで少しずつリーダーシップも育まれていくのです。<<第三回:大人しいからコミュニケーション力低い、ではない
2019年11月29日サッカーは自分で考えて判断するスポーツ。しかし、長年に渡り日本サッカーの育成年代に携わり、現在はFC市川GUNNERS(ガナーズ)の代表を務める幸野健一さんは「自分で考えられない子どもが増えている」と警笛を鳴らします。少子化に加え、社会の利便性がますます高くなる中、"過保護"な環境下で育ってきた現代の子どもたち。幸野さんは「従来のようにサッカークラブは"サッカーを教えるだけ"ではダメ。クラブの哲学や指導方針について親とコミュニケーションをとり、一体となって子どもが自主・自立できる環境を作っていかなければならない」と話します。そこで今回は、他のチームも参考にしていただきたい、FC市川GUNNERSが取り組む保護者とのコミュニケーション改革についてご紹介します。■サッカーは自立していないと上手くならないスポーツ千葉県市川市にある広大な人工芝グラウンド「北市川フットボールフィールド」をホームとする「FC市川GUNNERS」。スクールをはじめ、U-12、U-15、U-18、レディースのチームを運営し、400名近くの子どもたちがプレーしています。代表の幸野さんは、サッカーというスポーツにおける「自主性・自立性」の重要さを噛みしめるように説きます。「電車はいつも時間通りに動き、タクシーに乗り降りするときには自動ドアが開け閉めしてくれます。喉が乾けばすぐに自動販売機で飲み物を買うこともできる。現代の日本は便利さや快適さを追求するあまり、"適切な競争原理"が排除されつつあるんです」幸野さんは、「考えないこと」が当たり前になってきている日本の現代社会に警鐘を鳴らしつつ、親の子どもに対する関わり方が選手の育成において重要であると話します。「海外の人からよく指摘されるのは、日本では上司や親や先生の言うことを、"分かりました"と素直に聞く子=良い子という文化が昔から定着しているということです。でもサッカーというスポーツは、監督にサインを仰ぐことなく、ピッチに立てば最初から最後まで基本的に自分で判断してプレーしなければいけない。そもそも自立していないと上手くならないスポーツです」「そして戦後70年以上が経過した現代、学歴社会や年功序列の考え方は変わりつつあり、今の子どもたちに求められるものは一人一人の"付加価値"です。"自分にしかできないこと"、"自分にしかない価値"を子どもたちは身につけていかなければいけません。そういう意味では、僕らが子どもだった頃よりはるかに生きていくのが難しい時代になってきました」■クラブと保護者の関係を大きく変えていく必要がある加えて少子化が進む中、日本ではどうしても子どもを大事に大事に育てる傾向が年々強くなってきていると幸野さんは話します。「それはもちろん素晴らしいことですが、それだと子どもたちの自主性や自立性は育まれません。親御さんは、子どもと適切な距離を図りつつ、手を出しすぎず、成長するのを見守っていかなければいけません。だから、うちのクラブでは"ただサッカーを教えます"ではなく、保護者としっかり連携して子どもの自立心を育む環境をつくっていかなければならないと考えています」そのためには、クラブと保護者がお互いの考えを理解し信頼を深めていく必要があります。市川GUNNERSでは、定期的に、保護者向けの説明会や面談を実施し、クラブの哲学や指導方針を保護者に伝える機会を設けているそうです。しかし、市川GUNNERSの選手数は400名近く。現実的には、全員に考えをきちんと伝えるのが難しい部分もあったと言います。「正確な情報とクラブの価値共有を通じて、誤解を減らし、お互いの信頼を築くことで、クラブの考えを理解し、親御さんが安心して子どもを預けられると感じてくれれば、親の過干渉も減らすことができるかもしれません。そうすれば、コーチも安心して子どもの指導に集中でき、子どもたちも自ら成長できる環境を得られる。そういった観点からクラブと保護者のコミュニケーションの方法を大きく変えていく必要があると感じていました」■コミュニケーションを改善する新しいツールの導入では、具体的に市川GUNNERSでは、どのような改革を行ったのでしょう?幸野さんに聞いてみました。「以前は、保護者との情報共有やコミュニケーションはメールやLINEを使っていました。しかし、メールは届いたのか開封されたのか分かりませんし、LINEは情報がどんどん流れていってしまい、後から確認することが大変でコミュニケーションに大きなストレスを感じていました。また、ファイルや画像も保存期限が切れると削除されるので、過去のデータを蓄積することがほとんどできません。そのため、途中から入団してくる選手の親御さんには同じことを共有しなければなりませんでした。そこでよりよい方法を探していたところ紹介されたのが『BAND』でした」市川GUNNERSが導入したのは「BAND」という無料のグループコミュニケーションアプリです。しかし、チームのツールを変えることはとても大変な作業。コーチや保護者の抵抗はなかったのでしょうか?「常により良い、最新のツールを使いながら選手の育成に取り組んできた僕らからすれば、BANDの導入は自然な流れでした。これまではLINEのグループを各チームで作り、連絡を取り合ってきましたが、LINEからの切り替えも親御さんへのアナウンス一回だけで完了できスムーズでした。使い方もLINEに似たようなところがあり、移行には苦労しませんでしたね。無料で使えるという点もメリットでした」■わずか3ヶ月で大きな手ごたえを実感BANDを使い始めてから3ヶ月という市川GUNNERSでは、すでに様々な面での変化を実感しているそうです。「基本的な使い方はBANDもLINEとあまり変わらないのですが、BANDには掲示板機能があり、シェアしたい情報を投稿していくことができます。そこで、クラブが取材された記事を投稿したり、親御さんに読んでほしい情報などをシェアしています。プッシュ通知も届くし、Facebookのタイムラインのようにインターフェイスも見やすいので、親御さんに読んでいただける確率は以前より高くなったと思いますね。加えてBANDの場合だと閲覧の有無を全て把握できるので、普段から誰が読んでくれているかも分かるようになりました(笑)うちのクラブでは全ての試合映像をBANDで共有しているのですが、どの家庭が見ているか、見ていないかも分かるので、サッカーへの取り組み方が既読を通して把握できるようになり、個別にフォローできるようになりました。また、BANDは動画のアルバムも作成できますし、写真や動画を半永久的に残すことができるため、親御さんからも非常に好評です。クラブとして持っている過去のデータをBANDで蓄積していくことができるので、アーカイブとしても今後役立つと思います」さらに、コミュニケーションの改善だけでなく、保護者とやりとりするコーチにとっても大きなメリットだったと幸野さんは話します。「これまでコーチと親御さんのコミュニケーションで最も時間がかかっていたのが、出欠管理でした。バスの送迎有無など個別にLINEで届くメッセージをとりまとめ、集計するだけでも骨の折れる作業でした。しかし、BANDでは、掲示板以外にもカレンダーの共有や出欠確認のツールなどあらゆる機能が揃っているので、コミュニケーションの効率化を図ることができ、本来コーチが時間を割くべきところに力をかけられるようになりました」まだ導入して間もないので、改革はまだまだこれから!と話す幸野さんですが、選手、コーチ、そして保護者が『三位一体』となった育成に力を注げるよう、いろいろな機能を試しながら今後もコミュニケーションの質を高めていきたい! と、力強く語ってくれました。★あなたもクラブ運営の達人に!【BANDを導入すべき理由4選】①掲示板に投稿するだけでメンバーに伝えたい情報が漏れなく届く②情報のやりとりが簡単になり、メンバーとのコミュニケーションロスも解消③クラブの様々なデータ、写真や動画が容量制限・期限切れなく保存できる④カレンダー、出欠確認機能でコーチの負担を減らし、効率的な運営を実現BANDのアプリダウンロードはこちら>BANDの詳しい説明や導入事例を知りたい方はこちら>
2019年11月28日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■大分のバレーボール暴力問題「そこまでして隠す」保護者達の意図全国大会に出場した大分県日出町の小学生女子バレーボールチームで発覚した男性監督の暴力問題。公立小学校の教頭でもある監督が女児を平手打ちした事実がありながら、県小学生バレーボール連盟(県小連)は、被害女児やその保護者に一切聴取せず「暴力はナシ」で済ませていました。そのうえ、同時進行で一部の保護者が、事実を外部に漏らさないよう保護者全員に誓約書への署名を迫るという驚きの行動に出ていました。過去にも、中高の部活動で顧問教師の暴力が明るみになると、保護者が「いい先生なので処分の軽減を」と署名に走ったり、告発した保護者を仲間外れにするケースは多いです。が、ここまで結託して積極的に暴力の隠ぺいを図るケースは初めて聞きました。少年スポーツ現場での暴力事件が報道されると、「まだやっている指導者がいるのか」という感想になるのですが、今回は「周りの大人たちもそこまでして隠すのか!?」と呆れるばかりです。ただし、隠そうとするということは、彼らに今の社会では許されないという自覚があるということ。わかったうえで見て見ぬふりをするのですからたちが悪い。非常に厄介です。親たちは、わが子が叩かれ、殴られ、蹴られて指導を受けていることを、本当に喜んでいるのでしょうか?少年サッカーでわが子が暴力を振るわれていた人は「嫌だけど仕方がない。全国大会に連れて行ってくれるのだから、他のコーチには代えられない」と話したと聞きました。■バレたら子どもが高校に行けなくなる個人の損得でしか考えられない親たち毎日新聞の報道によると、このバレーボールチームの親たちは記者の質問(恐らく「なぜ口止め誓約書を配布したのか?」)に以下のように答えています(一部標準語に変えています)。「県小連とかに密告したら、自分の子どもに返ってくるのが、(被害児の親は)わかっていないのか。バレたら子どもが高校に行けない可能性がある。チームの傘下に入った以上、そこは分かってほしい」「体罰を受けているのは子どもたちも分かっている。先生(監督)の言うことを一回で聞けば、そうはならない。体罰の何が悪いのか」「連盟に報告する意味があるのか。チームの存続が危うくなるし、監督が職を追われるということになりかねない」「全国大会に行くために練習してるのでしょう」「一致団結しなくては」「学校だったら横社会だけど、社会体育は縦社会。下が上に教わるとか、社会に出るための第一歩を教わるのが社会体育だ」(毎日新聞報道内容より)私に言わせれば、みなさん、めちゃくちゃです。社会の規範、常軌を逸しています。「子どもが高校に行けない」と言うのは、まだ小学生なのに、すでに強豪校への推薦入学を視野に入れているのでしょう。チームスポーツなのに、個人の損得でしか考えていません。しかも、このチームに入ったのだから、暴力があるのはわかっているでしょ?という考え方。他の方も含め、暴力は傷害事件に発展するもので、特に教育やスポーツの世界は何らかの処分を受けることをご存知ないのでしょうか。最後の社会体育の定義も含め、理不尽な意見ばかりですが、もっとも説得しづらいのは「体罰を受けているのは子どもたちも分かっている」。これはつまり、「監督は優秀な指導者だから、暴力的な指導であっても子どもたちは歓迎している」という考え方です。これは、もし、万が一、被害女子も含めたチームの選手全員がそうだったとしても、その考えを矯正するのが親の役割です。ミスや一瞬集中できないなど、悪いことをしたら監督に叩かれる。そのような委縮させられる環境で8~9歳から12歳の小学生がバレーボールをしていたわけです。■ドアとカーテンが閉められる......「今日は殴られるんだ」私の大学の卒業生でバレーボール部員だった学生は「高校時代、殴られる日は、体育館のドアが全て閉められ、カーテンも全て閉められるからすぐ、あ、今日は殴られるんだなとわかります」と話していました。「日本のバレーはダメだ」と言うので、私が10年前に読んだ本『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(米虫紀子著)の話をしました。ブラジルは今や男女ともに世界トップレベルのバレー王国です。育成は以下のようなコンセプトでやっていました。14歳までの段階では、・バレーをとことん楽しませて大好きにさせる・ミニバレーでボールに関わる回数を増やし、ポジションはすべてローテーションでやらせる・アタック専門、セッター専門といったポジションの固定をやらないすると、その学生は目を輝かせて「だからですか!だからブラジルの選手はアタッカーでもレシーブが上手いんですね。セッターでもアタックができる。穴がないんです」と感心していました。ところが、そのブラジルは、それらのメソッドを日本から学んだと言うのです。なぜ他国がそれを盗んで発展し、日本は以前より低迷しているのか。「理由はわかります。日本は小学校のときからずっとアタッカーで、セッターはずっとセッターです。だから、アタッカーはレシーブが不得意なことが多いです。でも、エースアタッカーは自分以外の選手を下に見ていることがあったりします。決めるやつが偉い、ってなってる感じです」学生はそう話してくれました。スポーツ界、教育界が体罰根絶に舵を切ったのは、大阪の高校バスケットボール部員の自死した翌年の2013年から。当時は「選手に愛情があればいいのではないか」「熱血なだけだ。私たちも叩かれて強くなった」と、暴力を駆使して鍛えてきた指導者をかばう意見が多数を占めました。バレーボールでいえば、元全日本選手の女性タレントが「体罰がダメだとなれば、日本のバレーボールは弱くなる」と将来を憂いていました。■大分県日出町の現実が日本のバレー界の縮図(写真は少年サッカーのイメージです)しかし、体罰指導がなくなったから、日本のバレーが弱くなったのではありません。大分県日出町の現実が、日本のバレー界の縮図だろうと思います。隠れて暴力を繰り返した指導者、もみ消そうとした連盟、保護者。本来なら、子どもたちが安心してスポーツを楽しめる環境をつくる役目を負うべき大人たちが、そろって隠蔽に奔走していました。これは、子どもたちに対する完全な裏切り。罪です。スポーツマンのこころの考え方の心髄は「自分を大切にする=自分を磨く」です。だから、少し怠けている選手には「自分を大切にしてるか?」と話したりします。逆にいいことがあったときは「自分を大切にできたな!」と言って喜び合います。子どもを裏切る大人は、子どもの「自分」を大切にしていないばかりか、大人自身の「自分」も疎かにしていることに気づくべきでしょう。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。大分県日出町の現実が日本のバレー界の縮図
2019年11月27日『ドリブルデザイナー』として、世界中で活動する岡部将和さん。ネイマールやマテラッツィ、ダーヴィッツ、日本代表の乾貴士選手、原口元気選手など、様々なスター選手とドリブルを通して交流し、サッカーの魅力やドリブル技術と理論、チャレンジする心の重要性などを発信しています。子どもの頃からプレーの中ではドリブルが一番好きで、マラドーナのビデオを擦り切れるほど見ていた岡部さんは、フットサルのFリーグやスペインのフットサルリーグでプレーした後に指導の道に入り、現在は『ドリブルデザイナー』という肩書で活動を続けています。そして岡部さんが今回、「Jリーグの厳選プレーから学ぶ 日本人が世界で活躍するためのドリブル実戦テクニック」というDVDを監修するにあたり、サカイクでは岡部さんにドリブルを上達させるポイントや理論、Jリーガーや日本代表でお手本となる選手のドリブルについて話を伺いました。(文・鈴木智之)Jリーグの映像から>>岡部氏のドリブル理論も学べる>>DVDの詳細はこちら>>保護者やコーチの一番の役割は子どものやる気に火を灯すこと岡部さんに、子どもたちがドリブルを上達する上で大切なことを尋ねると、次のような答えが返ってきました。「どんな練習が大事なのかというよりも、どんな想いで取り組むのか。そこが大切だと思います。自分が本気で求めれば行動が変わるので、結果も自然とついてくると思います。ドリブルが上手くなりたい気持ちがある人は、ドリブルの上手な人のプレーを見たり、ドリブルが上手な先輩の練習方法を見たりすると思います。自分で『もっとうまくなりたい』と強く想うことで、マインドが変わってくるんです」好き、楽しい、おもしろい、こうなりたい! という、心の内側から湧き上がってくる気持ちに耳を傾けることで、おのずと何をすればいいかを考えるようになります。これを『内発的モチベーション』と言うのですが、保護者やコーチの一番の役割は、子どものやる気に火を灯すことなのかもしれません。岡部さんは言います。「子どものときはボールタッチの練習でも、試合でも、楽しんでやれる、没頭できるものがいいと思います。ちなみに僕は子どもの頃、公園で試合をたくさんしていました。子どもたちが楽しんで没頭しているのであれば、指導者や保護者は口出しせず、応援してあげるだけでいいと思います」岡部さんはかつてサッカースクールの指導者として、子どもたちを教えていました。当時は保護者から質問をされることもよくあったそうで、そこでは「どんなドリブルをしたらいいですか?」や「子どもにどんな声かけをしたらいいですか?」と聞かることが多かったと言います。「極端な例かもしれませんが、子ども自身が不幸せでありながら、親の言うことを全部聞く状態と、子ども自身は幸せだと感じているけど、親の言うことを聞かずになにもできないのと、どちらが良いでしょうか?もちろん、親の言うことをすべて聞いて、何でもできる子になるのが一番良いのですが、なかなかそうもいかないですよね。なによりも子ども自身の幸せが大切で、楽しんで取り組んでいれば良いのではないかと思います」さらに、保護者に向けては、次のようにメッセージを送ります。「保護者の方は、お子さんと向き合うときに『なぜ子どもにサッカーをさせたいのか?』を考えてみると、良いのかもしれません。おそらく多くの人は、子どもをプロサッカー選手にする事を1番に考えて、サッカーをさせているのではないと思います。好きなことを続けてほしい、健康であってほしい、サッカーが成長にとって大切だと感じているから、子どもたちにさせていると思うので、まずは子どもが自発的に楽しめるような声かけをして、寄り添ってあげることができれば良いのかなと思います」ドリブルを実行する上で大切なのは「距離と角度と一歩を踏み出す勇気」岡部さんは、常々「ドリブルをするにあたって大事なのは、距離と角度と一歩を踏み出す勇気」と言っています。一歩を踏み出す勇気は、親や指導者といった、大人の声掛けでサポートできる部分かもしれません。たとえば、ドリブルを仕掛けようと思っても、相手に取られることが怖くてチャレンジできない子に対しては、次のような考え方がおすすめです。「まずは、ドリブルをして取られることの何が怖いかを明確にして、それ以上に怖いことがないかを伝えます。どういう事かと言うと、ドリブルを仕掛けて取られると、周りの選手からネガティブな反応をされたり、コーチに怒られて、試合に出られなくなってしまうかもしれません。これが最初の怖いことです」さらに、こう続けます。「でも、それ以上に自分のやりたいこと(ドリブル)を通せない、通すだけの責任をもってトレーニングができていないことの方が、人生において大きな痛手ですよね。まずはそのことを親や指導者が伝えてあげて、子どもたちには『チャレンジしようという気持ちになっているのだから、大きな意味で失敗ではないんだよ』と、マインドを変えてあげるような声かけができると良いと思います」ドリブルを仕掛ける勇気は、人生に立ち向かう勇気と似ているのかもしれません。納得できるほどに練習を重ね、チャンスと見るや積極的に仕掛ける。失敗と成功を繰り返し、チャレンジを続けることで、いつしか上手くなり、相手を抜けるようになります。多くのトッププレイヤーも、そうした幼少期を過ごし、スターへの階段を登っていきました。Jリーグにも、ドリブルが得意でお手本になる選手はたくさんいます。そのような選手のプレー、そしてマインドを想像して見ることも、上達するための一歩になるのではないでしょうか。ドリブルを上達させる上で大切なことや子どもたちをサポートする保護者や指導者の方に担ってほしい役割について話してくれた岡部さん。次回は岡部さんから見た「トップレベルの選手に共通している特徴」や「ドリブルをする上での心構え」についてお話しを伺っていきます。Jリーグの映像から>>岡部氏のドリブル理論も学べる>>DVDの詳細はこちら>>岡部将和(おかべ・まさかず)神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、フットサル選手として活躍。引退後は、誰でも抜けるドリブル理論を持つドリブル専門指導者『ドリブルデザイナー』として活動し、Youtubeを始め SNS上で配信するドリブル動画閲覧数は約1億PVを超える。少年サッカーから現役日本代表選手まで幅広いレベルの選手を対象に、独自のドリブル理論に基づいた指導を行っている。Jリーグの映像から岡部氏のドリブル理論も学べるDVDの詳細はこちら>>
2019年11月26日これからを「生き抜く」力となるライフスキル。サカイクでは、サッカーを通じて「生き抜く」力を育むことを目的に、2017年の春キャンプより、ライフスキル研究の第一人者である慶應義塾大学・東海林祐子先生の監修のもとライフスキルプログラムに基づいたトレーニングをキャンプで行っています。ライフスキルに共感してキャンプに参加してくれる親御さんから「家庭でもライフスキルを伸ばす方法が知りたい」とのお声をいただくことも多いので、サカイクキャンプのヘッドコーチ・高峯弘樹さんに、家で実践できる5つのライフスキル(考える力、チャレンジ、コミュニケーション、リーダーシップ、感謝の心)を伸ばす方法を教えていただきました。第三回目は、コミュニケーション力についての提言です。子どもたち本人はもちろんですが、親がすべきこと、できることを教えていただきました。(取材・文:前田陽子)<<第二回:「チャレンジする力」の育て方相手の言い分を理解して、自分の意見を口にできることが大事なのです(写真はサカイクキャンプ)■大人しい、内気=コミュニケーションが苦手、ではない!サッカーはチームでプレイする競技なので集団の力を上げることが最重要です。もちろん個の力があってこそですが、その個の力をつなげるための力=コミュニケーション力が必要不可欠です。サカイクキャンプには、恥ずかしがりやで自分から声をかけられない子もたくさん参加してくれています。高峯コーチは、キャンプでライフスキル講座も行っていますが、「声をかけられない=コミュニケーション力がないわけではありません。人の話を聞けて、それについての意見を口数の多い少ないではなく、発言できたり態度で示すことができれば、コミュニケーションができていると考えていいと我々は考えています」と断言します。お父さんお母さんの中にも、コミュニケーションスキルというと「明るい」「社交的」などのイメージを持つ人も少なくありませんが、コミュニケーションの本質はそうではないことを理解してください。これまで「親自身もあまり社交的ではなくて......」と自信がなかった方も、子どものコミュニケーション能力を家庭で高められる方法ですので、ぜひ実践してみてください。コミュニケーション力とは、思っていることを伝えることができる力です。思いや考えていることは、伝えなければ相手に届きませません。それは態度でも構いませんが、言葉で伝えるのが一番わかりやすいはず。思いを伝えることは、サッカー以外でもこれから先、生きていく上でても大事になってきます。グローバルな社会になればなるほど重要とされるスキルですが、多種多様な人材が働く企業などで働く方々を見ても、内容が正しい、間違っているではなく、相手の言い分を理解して、自分の思いを伝えることに長けていて、そこは見習いたい部分です。自分の思いを他者に伝えるためには、やはりベースとなる「考える力」が大事だと高峯コーチは言います。■リアクションは大げさに。興味を持って話を聞く口数の多い少ないではなく、自分の意見を言えることがサッカーにおいても大事なことなのです(写真はサカイクキャンプ)家でおしゃべりの中心が親御さんになっていませんか?一方的に話しをするのではなく、親子でディスカッションをしましょう。子どもは時に的外れな事を言うかもしれませんが、それでも興味を持って聞いてあげることが大事なのです。「すごいね」「そうなんだ」「それで、どうしたの?」などと話しについてリアクションを取ってあげると、話も盛り上がります。高峯コーチは、「どういう質問をしたら子どもが答えやすいかを考えてあげてください。そして言っていることに対してリアクションをしっかりと取ってあげることが大事です」とアドバイスを送ります。わかりやすい例でいうとTVの司会者などです。たとえば明石家さんまさんのように大げさなリアクションで上記した「相手への興味を伴う質問」をすると、相手は話しやすくなるのだそうです。自分の話しを聞いてくれていると実感すれば、話はどんどん盛り上がるのです。そのために、親は話を聞く体制を整えることが大事だとコーチは言います。親御さんも毎日忙しいとは思いますが、家事をしながらやスマートフォンの画面を見ながらの対応でなく、きちんとお互いの目を見て話す時間を作っては、とアドバイスを送ります。時間に追われる日々の中では難しいかもしれませんが、1日1時間ぐらい時間を作って子どもの目を見て、大げさなぐらいのリアクションを取りながら子どもの話を聞く。そうすることで、話を聞いてもらっている実感ができ、積極的に話ができるようになるはずです。自分の意見が言えないと、プレイにも影響が出ます。ボールが欲しいと言えなかったことで、得点チャンスを逃すこともあるでしょう。大人の世界でも、不満を持ちながらも「誰かがやってくれる」と意見を言わない人はたくさんいるのが現状です。けれど、なりたいもの、欲しいもの、変えたいこと、叶えたいことなど要望があるのに何も意思表示せず行動もしなければ、希望を実現することはできません。これからはその「誰か」に自分がなることが大事だとサカイクは考えています。会話がポンポン弾む、会話のキャッチボールがコミュニケーション能力ではないのです。口数は多くなくてもきちんと相手の言い分を理解し、自分の考えを示すことができる。これは日常の会話の中で実践できることなので、ぜひご家庭で習慣にしてみてください。<<第二回:「チャレンジする力」の育て方
2019年11月25日これからを「生き抜く」力となるライフスキル。サカイクでは、サッカーを通じて「生き抜く」力を育むことを目的に、2017年の春キャンプより、ライフスキル研究の第一人者である慶應義塾大学・東海林祐子先生の監修のもとライフスキルプログラムに基づいたトレーニングをキャンプで行っています。ライフスキルに共感してキャンプに参加してくれる親御さんから「家庭でもライフスキルを伸ばす方法が知りたい」とのお声をいただくことも多いので、サカイクキャンプのヘッドコーチ・高峯弘樹さんに、家で実践できる5つのライフスキル(考える力、チャレンジ、コミュニケーション、リーダーシップ、感謝の心)を伸ばす方法を教えていただきました。第二回目は、チャレンジする力についての提言です。子どもたち本人はもちろんですが、親がすべきこと、できることを教えていただきました。(取材・文:前田陽子)<<前回|連載一覧|次回>>失敗を恐れてチャレンジしないことは、成長もしないということです(写真はサカイクキャンプ)■成果だけを見ないこと!チャレンジしないのは本末転倒チャレンジできないことの要因のひとつが、「失敗したくない」「ミスをしたらどうしよう」という気持ちです。チャレンジをしなければ失敗することはありませんが、人はミスや失敗からたくさんのことを学んで成長します。成長を望んでいるのにも関わらず、失敗を恐れてチャレンジしないのは本末転倒ということ。「こっちの方がいい」「それは良くない」と、子どもが選んだことを否定したり、親があれこれ関わってしまうと「じゃあいいや」とチャレンジしなくなってしまいます。親は子どもの失敗を避けようとせず、たとえ失敗するとわかっていてもその決断を尊重して背中を押してあげることが大事。そして、子どもと一緒に喜んだり、残念がってあげましょう。そうすることで子どもは「失敗してもいいんだ」と感じることができるはずだと高峯コーチは言います。成功や失敗という結果より、チャレンジしたという過程が大切です。勇気をもって挑戦したこと、その際に考えたことやとった行動を「よくがんばった」「そういう方法があったんだ」とほめてあげます。ほめられてうれしくない子どもはいません。ほめられることで、自分に自信を持つことができ、目の前のことにチャレンジする勇気がでるのです。高峯氏がヘッドコーチを務めるサカイクキャンプでも、コーチたちはチャレンジの過程や、その際に考えていた事を肯定し、子どもたちに自信をつけさせています。■誰かと比較するものではない「できている子」やチームメイト、兄弟など他者と比較して優越感を得たり落ち込んだりするのは親の事情。子どもの「楽しいからやる」気持ちを大事にしましょう(写真はサカイクキャンプ)チャレンジは、誰かと比較をするものではなく、自分の中で完結するものです。「お友だちや兄弟はできるのに......などと他者と比べることは絶対にしないでください。誰かと比べられることで、チャレンジする気持ちが高まることはなく、むしろ子どものやる気を削いでしまうことになります」と高峯コーチは警鐘を鳴らします。お父さんお母さんの中にもついつい周りの子と比較してしまう方がいると思いますが、それで気持ちよくなったり落ち込んだりするのは「親」の事情であり、子どもの成長を阻害するものです。チャレンジする力の基本は、「楽しいからやる」ということ。誰かに何かを言われてやるのではなく、自分がやりたいと思って楽しむことがベースです。なので、「子どものためにとチャレンジする何かを親が用意する必要はありません」とコーチは言います。親は子どもが何に興味を持つか、わが子をよく見て「これやってみたい」と子どもが思ったことを「危ないからやめなさい」などと理由を付けてやめさせないことが大事だそうです。「楽しそうだね」と共感して、一緒にチャレンジするのもいいでしょう。新たなことへのチャレンジに心配はつきものです。親が子どもの心配をするのは当然のこと。ですが、口出しは禁物です。「チャレンジする力を育むためには、考える力と同様、親の我慢が重要なポイント」と高峯コーチ。親が「この子には無理」と子どもの可能性の芽を摘んでしまわないことが、チャレンジする力を身に付けさせる第一歩なのです。<<前回|連載一覧|次回>>
2019年11月21日ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手独自のサッカーアカデミー、「Iniesta’s Methodology(イニエスタ メソドロジー)」では2020年1月8日より「六甲アイランド校」を開校。開校に伴い、体験会と開校キャンペーンを実施します。■U5からU12までの体験会参加者を募集!●日程:11月27日(水)、28日(木)、12月4日(水)、5日(木)の4日間●時間:U5,6,7⇒6:30~17:40 (70min)U8,9⇒17:50~19:00 (70min)U10,11,12⇒19:20~20:50 (90min)U5=年中、U6=年長、U7=小学1年生、U8=小学2年生、U9=小学3年生、U10=小学4年生、U11=小学5年生、U12=小学6年生※1月以降の本コースについても水曜日・木曜日に上記同様の時間帯でスクールを実施いたします。●会場:セレゾン6-aiフットサルクラブ●参加費:3000円(税込)詳細はAcademyページよりご確認ください。●体験 お申込み方法:イニエスタ メソドロジーHPの体験申し込みフォームよりお申込み下さい。※入会、体験へのご参加は先着順でのお申込みとなり、定員に達し次第受付を終了させていただきます。※先着順の為、お電話でのお申し込みは受け付けておりませんのでご注意くださいませ。■六甲アイランド校開校キャンペーンを実施中!●対象:12月15日(日)までにご入会申込の方で、1月に六甲アイランド校にて初回スクールを迎えられる方●特典:2020年1月分の月会費が無料※ご兄弟でご入会の場合の家族割引は2カ月目より適用いたします。※ 新規会員様はイニエスタ メソドロジーに初めてご入会される方が対象です。過去に入会実績のある方は対象となりません。※ ご入会申込フォームからの申込みをもって本キャンペーンのお申込みといたします。※ 新規ご入会された方が自己都合で入会後3ヶ月以内に退会された場合は、退会月に特典相当分を請求させていただきます。※月2回コースは対象に含まれません。●本コース お申込み方法イニエスタ メソドロジーHPの入会申し込みフォームよりお申込み下さい。こちらも先着順の為、お電話でのお申し込みは受け付けておりませんのでご注意くださいませ。■イニエスタ メソドロジーとは?イニエスタ メソドロジーは、世界中のサッカープレーヤーに教科書とも評されてきたアンドレス イニエスタの長年の経験に基づいて設計された、統合的なトレーニング手法です。サッカースキルを向上させるだけでなく、アンドレス イニエスタが、プレーヤーである前に、ひとりの人間として体現してきた価値観を身に付け、プレーヤーとチームの観点から「選手」と「指導者」を最適な方法で育成することを目的としています。年齢に合わせたトレーニングで、チームワーク、空間や時間をコントロールする術、ゲームの流れの読む力を身に付け、そして、ボールを自分自身の最高の味方にするための技術を学びます。イニエスタ メソドロジーではイニエスタ本人のビジョンと哲学を共有し、幅広い知見を併せ持つコーチ陣がトレーニングを指導します。イニエスタ メソドロジー六甲アイランド校のスクール概要はこちら>>
2019年11月21日運動神経が悪くて体操やスイミングも、3つか4つぐらい年下の子より下手なほどの息子がサッカーをやりたいと言い出した。きっと試合には出られないだろうし、今より劣等感を持たせたくない。でも、楽しさ重視のスクールは通わせるメリットが見いだせない。夫婦ともにスポーツができないし、近所の友達付き合いもないのでプライベートでサッカースキルを上げてやることもできない。さらに、親の私自身が「スポーツの得意な子の親」の雰囲気が苦手......。どうしたらいい?とご相談をいただきました。すべての項目が、ではなくても共感される親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<チームで一番上手いから?息子が努力しないんですけど問題<サッカーママからのご相談>息子(10歳)は運動神経が悪く不器用な子です。器械体操とスイミングを二年程習っていますが、どれも3、4歳下の子より下手なくらいです。最近サッカーがやりたいと言い出し、本人が望むならやらせてあげたい気持ちもありますが、団体競技で、なかでも人気のスポーツであるサッカーをやらせることに親としては抵抗があります。絶対ということはないかもしれませんが、監督やチームの温情以外では試合には出られないだろうし、そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難いです。そもそもスポーツが得意な子や親御さんの雰囲気が、親の私自身が苦手で、息子も年下や気の強い子どもにいじめられるのでは、という心配もあります。サッカーを始めることで、「自分は出来ないんだ」と今以上に劣等感を持ってしまうのではと子どもが実感してしまうことが人格形成上心配でもあります。一方で、楽しさ重視のスクールにはお金と時間をかけて通うメリットが感じられません。私たち夫婦はサッカーやスポーツは出来ませんので相手をしてあげることもできませんし、近所での友達付き合いもないので、スクールにいれるほかなく。色々と矛盾しているのですが、子どもがこれ以上スポーツが苦手にならず、嫌いにならず、サッカーに参加したりスクールや少年団に入る前に、サッカーに関する基礎が身に付けられる方法はないでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。ご相談文を読んで、お母さんはお子さんをとても愛しているのだなあと感じました。なぜなら「運動神経が悪く不器用な」息子さんに、器械体操とスイミングを習うことを許可しています。文中に「サッカーをやりたいと言い出した」とあるので、器械体操もスイミングも通いたいと言い出したのは息子さん本人なのだと推測します。「下手なんだからやめなさい」「やっても無駄」と出来栄えだけを見て辞めさせることもできるのに、お母さんはそれをずっと見守ってきた。「本人が望むならやらせてあげたい」と書かれているように、子どもの気持ちを尊重する子育てをやってきた。とても素晴らしいと思います。■子どもの「好き」を優先させましょうところが、今度はサッカーをやりたいと言ってきた。サッカーは体操や水泳とは少し勝手が違う。試合に出る、出ない。試合に勝つ、負ける。先の2競技よりも、子どもがシビアな局面にさらされる。試合に出られないのでは?いじめられるのでは?劣等感をもつのでは?お子さんが傷つくと、同じように痛くてたまらず混乱するタイプの親御さんにとって、少年サッカーは(ところによって)ハードな要素がてんこ盛りです。そのため、お母さんが貫いてきた「本人が望むことをやらせてあげたい」子育ての軸が揺らいでしまったのではありませんか?どこかのチームに入る前に、息子さんに基礎的なスキルをつけさせて、入っても苦労しないよう準備させよう。ところが、最近のスクールときたら「楽しさ重視でお金と時間をかけて通うメリットが感じられない」こんなんじゃ、ダメじゃん、ってなりますよね。どこかに、サッカーの家庭教師とかないのかな?何かいい方法はないのかな?と、一所懸命に考えて私にメールをしてくださったのでしょう。しかしながら、今の子育てのベクトルがゆがんだ状態で突き進んではいけません。ちょっと立ち止まってみませんか。ここは、ぜひお子さんの「好き」を優先する子育てに戻りましょう。そこがお母さんの原点だと私は思います。■子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下原点に戻らなくてはいけない理由は、「転ばぬ先の杖」のリスクです。昨今は、サッカーやったら?野球やったら?スイミング行ったら?と、親の思惑に振り回されて自分が一体何が好きなのかさえわからなくなっている子どもが少なくありません。大学生にしても、就職する前に自分の好きなこと、やりたいことが見つからない。それは好きだと感じる機会や、やりたいことかどうかを確かめる冒険をしていない。いろいろな経験を積ませてもらっていないからです。つい最近も「何の資格取ったらいい?」と大学生の息子に尋ねられ「自分の意思がないんです」と困惑するお母さんの相談に乗りました。このような場合、親がわが子に、あれはダメ、こっちをやれと指示命令してきたことが往々にして影響しています。そんなふうに指示してしまうのは、子育てのベクトルがゆがんでいるからです。「子どもに決めさせた方がいいのかもしれないけれど」「好きなことをさせてあげたほうがいいかもしれないけれど」「余計な口出しはしないほうがいいかもしれないけれど」多くの親御さんが、「子育てに大切なこと」を知っています。つまり、正論は理解しているのです。ところができない。私も同じ道をたどっていているので、痛いほどわかります。転ばぬ先の杖を渡してしまうのは、親自身が子どもが失敗したり、苦労する姿を見たくないからです。お母さんも「そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難い」と書かれています。お母さんは、ぜひ達観する力をつけてください。目の前の子どもではなく、私はこの子の人生を応援するのだ。そんなふうにマインドセットを変えましょう。子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下。逆に、早期の栄光や名誉がその先の人生を狂わせることだってあるのですから。子どもが試合に出られず、途中でサッカーが嫌になれば、やめるでしょう。もっと試合に出られそうなチームへ行きたいと言えば、一緒に考えてあげればいい。でも、子どもがそこで仲間と続けたいと言えば「ああ、そうなんだね。じゃあ、頑張って」と送り出せばいい。試合を見たくないなら見に行く必要はありません。当番などがないクラブを選べばいいし、行きたいチームにそれがあるなら、当番のときだけ行けばいいのです。■「転ばぬ先の杖」が奪う、子どものエネルギー(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後に。転ばぬ先の杖は、前述した大学生のように、自分で考える力を養えない、段取り力がつかないといったさまざまなリスクをもたらします。そのなかでも、自分の好きを見つけて取り組むエネルギーを奪うリスクが一番怖いと感じています。「好きだ」と感じて、それを「やってみよう」と前に踏み出す。そこにはエネルギーが必要です。ところが、お子さんはそんなエネルギーをすでに持っています。3つも4つも下の子より体操も水泳ができなくても、今度は「サッカーしたい!」と言い出した。いい。とてもいい。彼が、楽しさ重視のスクールに通いたいと言うなら、無理のない範囲でやらせてあげてください。お金と時間をかけて通うメリットはあります。ただ、体操と水泳、サッカーはやり過ぎだから、どれかひとつはやめるように。何かを得るためには、何かを失うことだということを学ぶ機会にもなります。お子さんの意思を尊重できる、肝っ玉母さんになってください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2019年11月19日これからを「生き抜く」力となるライフスキル。サカイクでは、サッカーを通じて「生き抜く」力を育むことを目的に、2017年の春キャンプより、ライフスキル研究の第一人者である慶應義塾大学・東海林祐子先生の監修のもとライフスキルプログラムに基づいたトレーニングをキャンプで行っています。ライフスキルに共感してキャンプに参加してくれる親御さんから「家庭でもライフスキルを伸ばす方法が知りたい」とのお声をいただくことも多いので、サカイクキャンプのヘッドコーチ・高峯弘樹さんに、家で実践できる5つのライフスキル(考える力、チャレンジ、コミュニケーション、リーダーシップ、感謝の心)を伸ばす方法を教えていただきました。第一回目は、ほかのスキルのベースになる「考える力」です。(取材・文:前田陽子)サッカーは自分で考え、判断することが求められるスポーツ(写真はサカイクキャンプ)■「うちの子何も考えてなくて」は親が原因かもサッカーは常に自分で考え、判断することを求められるスポーツです。試合中コーチや他の選手に助言やサインを求めている時間はありません。親御さんの中には「うちの子はプレイ中に何も考えていなくて......」と相談に来る方がいますが、本当にそうでしょうか?と高峯コーチは言います。親御さんには理解できないかもしれませんが、子どもたちは常に考えていると現場のコーチたちは考えているそうです。家でも考える力をつけさせたいなら、親が何も言わないことだと高峯コーチは言います。「勉強をしなさい」「ユニフォームを出しなさい」「お風呂に入りなさい」などなど、忙しい日々の生活の中で親は子どもに指示してばかりになりがちです。しかしそれでは、彼らはその指示を待つのが当然だと思い、自ら考え動くことをしなくなるそうです。考えるきっかけを作るためには、たとえばご飯など毎日の生活の中にあることから始めてみてはどうでしょうか、と高峯コーチは言います。当たり前に親がメニューを決めるのではなく、子どもに「何が食べたい?」と聞いてみましょう。そうして「これが食べたい」と子どもが決めたなら、その意見に従います。もし親の希望と違っても、子どもの意見を尊重することが大事です。ここで子どもの意見を変えてしまうと、子どもはせっかく考えたのに実行されないと「もういいや」となってそれ以降考えなくなってしまいます。■考える力を育むには親の我慢が大切「何を」という漠然とした聞き方で答えられない場合は、選択をさせることから始めましょう(写真はサカイクキャンプのライフスキル講習)「そんなことをしたらうちの子は何もしない」と思う方は、「何を」という漠然とした聞き方ではなく、「今日の夕食はカレーとトンカツどっちがいい?」など選択させるのはどうでしょう。もちろんこの時も、子どもが選んだものを否定してはいけないと高峯コーチは言います。2択、3択と選択肢を増やしながら、「どうしてそうしたいと思ったの?」「どうしてそれを選んだの?」と、理由を考えさせるのも効果的です。子どもの頭がどうやったら動くのか、どうやったら考えられるのかを、親が想像し話しかけ、行動を起こしてみましょう。親御さんが思っているほど、子どもは未熟でも、何もできないわけでもありません。時間がない、子どもに判断をさせるのは不安、親が考えた方が楽......など様々な事情はあるかもしれませんが、日々の生活の中で親が子どもの先手を打つことが、子どもから考える機会を奪ってしまっているのです。考える力を身に付けるには、たくさん考える機会を作ることが一番の近道です。日々、学校や練習、塾などで現代の子どもたちは分刻みのスケジュールをこなしています。しかし、そのなかで自分で考え、行動に移すことはどれ位あるでしょうか。高峯コーチは、1週間のうちの1日、まったく予定のない日を作ってみるのもいいと提案します。朝起きる時間も何をするのかも子どもの自由。親が口出し、手だしはせず、命にかかわること以外はじっと見守ります。最初のうちはずっと寝ていたり、ダラダラと過ごすかもしれませんが、多くの場合は「これでいいのかな」「せっかくだから○○をしよう」と、考えるようになるはずだと言います。そして、その考えを実行に移すのです。子どもの考える力を伸ばすには、親の我慢が不可欠です。「子どものためを思って」や、「良かれと思って」つい口も手も出してしまいがちな親御さんたちにとって何も言えないのはきっと苦しいと思いますが、子どもは何も考えていないわけではありません。じっと見守って自分から動いてくることを待ってあげましょう。
2019年11月18日大阪府・茨木市を拠点に活動するレオSC。U-15の監督を務める安楽竜二さんは、47FAのチーフインストラクターを務め、昨年度まで長期に渡って関西トレセン、大阪府トレセンのスタッフを兼任するなど、育成年代の指導経験が豊富で、名古屋グランパス加入内定の児玉駿斗(東海学園大学)などのJリーガーを輩出しています。自身もサッカーをする子を持つパパでも安楽さんは、お子さんとの関わり方をどのようにしているのでしょうか?お話をうかがいました。(取材・文:鈴木智之)頑張ることを促すのは必要だけど、親が先走ったり、逆に無関心になるのもダメ■子ども以上に親の気持ちが先走ってない?安楽さんに「小学生年代の子どもを持つ親として、気をつけていることはありますか?」と尋ねると、次のような言葉が返ってきました。「先日、小学生の息子をJクラブのセレクションに連れて行ったのですが、保護者の方が子ども以上に熱が入ってるんちゃうかなという光景を目にしました。子どもたちがコートを移動するたびに声をかけて、『もうちょっとワンタッチでプレーした方がええんとちゃうか』とか『なんでサイドのポジションやねん』とか。気持ちはわかりますけど、サッカー面は口出ししないほうがいいんじゃないかと思いましたね」ひょっとしたら、Jクラブに入りたい子ども以上に、親の「Jクラブに入れたい!」という気持ちが先走っているのかもしれません。「僕の子どももサッカーをしているので、親の気持ちはめっちゃわかるんです。ですが、セレクションを受けると決めたのが本人なのであれば、そこでのプレーには口を出さないほうがいいと思います」■サッカーとしつけをごっちゃにしてしまう親がいるさらに、こう続けます。「僕も子どもができるまでは、全部コーチに任せておいたらええやん、子どもと距離が近い親はしんどいなと思っていたんですが、いざ親になってみると、人に迷惑をかけたらあかん、失礼な態度はあかんとなると、口出ししたくなるんですよね。しつけは大事ですから。ただ、サッカー面としつけは分けなければいけません。そこをごっちゃにしている親が多いのかなと感じます」サッカーとしつけは分ける。それがキーワードのようです。「サッカー面で子どものプレーを見たら、気になることはたくさんあります(笑)。でも、うちの子は僕が指導者であるがゆえに、自分からは聞いてこないですね。小学5年生からゴールキーパーをしているのですが、最初はフィールドプレイヤーだったんです。でも、自分で決断してGKをやろうと決めたので、尊重したいじゃないですか。セレクションで見た保護者のように、ポジションがどうやとかは言えないですよね」「サッカーの部分はコーチに任せた方がいい」と言う安楽さん。子どもにどうやったら上手くなるの?と聞かれたときは「わからんけど、両足で蹴れた方がいいんちゃうか?ぐらいしか言いません」と笑顔を見せます。「そしたら、両足で蹴れるように練習してますね。頑張ることをうながすような声かけは必要やと思うんです。無関心でいるのも違うと思うし。僕らの頃と違って、今の子の親は難しいと思いますよ」■食事中にネガティブな話はしない家庭で気をつけることは「食事中はサッカーのネガティブな話はしないこと」だと言います。「食事は親子のコミュニケーションの大切な時間だと思います。その時間に大好きなサッカーのネガティブな話をされると、子どもにとってはしんどい時間になると思います。食事中に嫌なことを言われたら、ご飯の味も変わりますよね(笑)。それなのにアスリートは食事が大事やというのは、本末転倒やと思うんです」食事とグラウンドへの送迎。この2つは親子が密接に関わる時間でもあります。「送迎の時も、子どもの話は聞いた方がいいと思いますが、評価はしない方がいいですよね。『今日どうやった?』『あんまり調子よくなかった』と言うたら『そうか。また頑張ろうな』ぐらいでいいと思うんですよ。プレーの細かな評価やダメ出しには、ならない方がいいです。今は昔と違って、サッカーの知識のある保護者の人もいると思うんですけど、我が子のプレーを応援こそすれ、ジャッジはしない方がいいですね」サッカーの指導者として、たくさんの家庭と関わってきた安楽さん。「お父さんの関わり方が上手な家庭は、不思議と良い選手になっていきます」と振り返ります。■「察しの悪い大人」になるのも子どもの成長に必要子どものプレーをジャッジして、ああだこうだと言い過ぎないこと「多くの場合、両親のどちらかというとお母さんがお弁当を作ったり送迎したりと、絶対に関わらなきゃいけないじゃないですか。そこでお父さんが子どものプレーをジャッジするというか、ああだこうだ言い過ぎると、両方から言われる感じになってしまいますよね。できる子の親は、試合は見に来て応援はするけど、言いたいことはあっても言わない人が多いように思います」さらに安楽さんは「察しの悪い大人になってみてはどうですか?」と提案します。「例えば、こうした方がいいとわかっていても、答えを言わずにわかってないふりをする。親が先回りせず、子どもに判断、決断をさせる。そのスタンスが大切だと思います。チャレンジして失敗して、それを克服する過程で子どもは成長していくので、失敗はつきもの。『失敗しそうだな』と思っても、許容できる範囲のミスであれば、先回りをして障害を取り除かない。察しの悪い大人になるのも、子どもの成長には必要なのだと思います」次回の記事では、中学年代を指導する立場から、小学生から中学生に進むときの親子の心構えや進路の選び方などをうかがいます。安楽さんが指導をするレオSCのHPはこちら>>
2019年11月07日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■ただ号泣するのでなく、敗戦を未来に活かせる「泣き方」少年サッカーなどジュニアスポーツ関係者に向けた講演で、よく受ける質問があります。「最近の子どもは負けても悔しがらない。大敗しても泣きもしない。どうしたらいいか?」「子どもに楽しくサッカーをさせようという流れがあるが、子どもが負けて悔しがらないのはそのせいではないか」その人たちの半分以上は、過去に「負けたのに涙のひとつも出ないのか!」と子どもに言ったことがあるそうです。そんなコーチや保護者は、子どもたちが負けて号泣すると安心すると言います。サッカーに真剣に向き合っていると感じるからでしょうか?そこで私が「負けた時に泣くと失われてしまうものがあります」と伝えると、「ああ、男だから泣くなってことですか」と言われます。「いや、そういうことじゃなくて」と言って以下のことを説明します。負けて泣くことは、見る人にも、本人にもカタルシス(浄化)を与えます。負けたことを悲劇とし、「ああ、かわいそうに」や「なんて俺は、かわいそうなんだ」という憐れみの感情を呼び起こします。そうなると、その感情は泣いた時点で浄化されてしまうのです。簡単に言えば、泣いて(泣くことを見て)気分がスッキリします。泣いてしまうと、「負けた自分たち」を忘れ去る方向に向かうのです。それでは、その敗戦を未来に活かせません。無論、悔しくて熱いものが込み上げてくるのが人として自然な感情です。私は負けて泣くことを否定するわけではありません。ただ「泣き方」によると思っています。小学生でも高学年であれば、人前で号泣したり泣くじゃくるのではなく、そこでは悔しさをグッとこらえ、一人きりで自分と向き合った時に一筋の涙を流す、という感じであれば、意味がないともいえません。■負けたのが悔しくて閉会式に出ずに帰ってしまうコーチ欧州の選手たちも、悔し涙が目にたまることはあります。でも、彼らはおいおいと泣いたりしません。欧州のプレーヤーで私が最も印象に残っているのは、2002年日韓ワールドカップ決勝ドイツ対ブラジル戦終了後のシーンです。ドイツ代表のGKオリバー・カーンは終了のホイッスルが鳴ってしばらくしたら、ゴールポストにもたれて座りこみました。目にはうっすら涙がにじんでいたかもしれません。が、自分のミスを責めるような、試合なのか、その日までの道のりかを振り返るように、ポストにもたれたままひとり静かに歓喜に沸くブラジル代表の選手たちを見つめていました。彼のように、悔しさと共に勝者の姿をしっかり目に焼き付けることは、子どもにとっても必要です。そうやって負けたことを受け入れることは、弱い自分を受容し明日からの自分を叱咤するための糧になります。つまり、どこが弱いのか、相手に及ばなかったのかを考える機会です。その大きなチャンスが悔しい敗戦にはあるのだと子どもに伝えてほしい。それなのに、大人のほうが悔しがってしまい、それを隠そうともせず閉会式にも出ずに帰ってしまう。そんな稚拙な行動を「うちのコーチは悔しがりだから」と保護者が同情していた、という話もあります。サッカーは子どもを大人にするスポーツですが、子どものような大人がいては教育効果を阻害します。まずは、大人が「いまどんな態度をとるべきか」をきちんと理解してほしいのです。したがって、子どもが悔しがらないと残念がる人たちには「みなさんが勝て、勝て、と、言いすぎるからじゃないですか?」と答えます。大人が言いすぎるから、勝つことが「命令」になります。試合で負けようと思う子なんていないのに、言われすぎると「勝つぞ」という気持ちが薄れてしまのではないでしょうか?例えば、自分からやろうと思った時に、それを親から先に言われてしまったような感じです。私は、自己決定できなくなった選手ほど脆い(もろい)ものはないと思っています。パスも、ドリブルも、シュートも、教えられた通りにしかできません。もしくはベンチから「シュート!」というコーチの声を待ってからしか、打てません。だから「勝つぞ」という気持ちはあくまでも選手の中から生まれなければなりません。少年サッカークラブや少年団のチームサイトをみると大抵「自主自立」とか「全員一丸」「チームワーク」と書かれているのに、自主的に、みんなでボールをつないで全員でゴールを奪うのがサッカーだときちんと伝えていないようです。ラグビーの日本代表のような「ワンチーム」のマインドを育てていません。子どもが自分の意志で「このチームで絶対勝ちたい!」と思って臨むことが重要なのに、指導者がそうさせていないのです。■子どもだって、誰かのために戦うほうが力を出せる(写真は少年サッカーのイメージです)自分のためだけではなく、誰かのために体を張って戦うほうが、アスリートは力を出せます。少年サッカーでも、チームに特段目立つ子がおらず全員でカバーし合って頑張るチームにワンチームのマインドは育ちやすい。逆に、ドリブルの上手い子がひとりで突破してゴールするチームではそれを育てるのは難しいようです。したがって、飛び抜けたエース級の子がいたとしても、あくまでもチームの一員として扱うことが重要なのです。ところが、そんな工夫をしている指導者はあまりいません。「A君(エースの選手)のおかげだな!」と子どもたちと喜んで終わらせています。そうではなく、A君に「一流選手はドリブルとパスを、いつでも使いわけることができる。だから、自分も生きるし、周りの選手も生かせるんだよね」と伝える。練習の段階で、「全員でゴールする」というルール設定のトレーニングなどをするのもいいかもしれません。そういった工夫をしているか、していないかで、チームの空気感や、子どもたちのサッカー観はまったく違うものになり、一生サッカーを続けていく原因にもなるのです。敗戦の後に、そのチームのありようがわかります。上手い下手に関わらず、とことん真剣に勝利を目指すことを習慣化させてください。そうすれば、負けたときには悔しさが湧き上がるでしょう。そして、子どもたちには、勝って喜ぶ相手の姿をしっかり見させてください。自分より強い相手がいなければ、自分の成長は終わってしまうのです。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2019年11月02日サッカーの試合中、速く走りたい、もっと速くプレーしたい!というのはもちろんですが、小学生にとっては運動会の100m走やリレーでも速く走れるようになりたいというのも大きな願いです。その願いを叶えるためには「スピードとはなにか?」を理解することが大切です。今回は、小学生が速く走れるようになる方法をお伝えします。動画での解説、タニラダーを使った練習法も紹介しますのでご覧ください。正しい知識を得て正しいフォームで練習することがスピードアップにつながります。(取材・文:鈴木智之撮影:藤森悠仁)速く走るために大事なポイントを教えてくれました■速く走るための前提とはヴァンフォーレ甲府のフィジカル・コンディショニングコーチの谷真一郎さんは「プレースピード」を次の3つに分類します。それが、1:判断スピード、2:走るスピード、3:方向転換のスピードです。「判断スピードとは、いつ、どこへ動くかを決断するためのスピードのことを指します。これは、チーム戦術や個人戦術によって左右されるものですが、『このタイミングでここに動く』という決断ができれば、あとはいかに速く動くことができるかの勝負になります」速く動くために必要なのが、先に挙げた、2:走るスピード、3:方向転換のスピードです。「速く動くためには、進行方向に対して、大きなエネルギー(推進力)を得ることが必要です。このエネルギーは、地面を足の裏で踏み込むことで得ることができます。そのベース(前提)となるのが、正しい姿勢です」地面から得られるエネルギーを「地面反力」と言います。この地面反力を得るために適した走りの姿勢が、下の図になります。「地面に対して身体が少し斜めになるように前傾し、視線は進行方向を向き、顔を上げます。前傾姿勢を作ると、足の指の付け根に体重がかかるので、地面をしっかりと押さえることができます。この『地面を足の裏で押さえる力』が弱いと、踏みしめた足が後ろに流れたり、滑ってしまうので、前傾しすぎず、後傾しすぎない姿勢を維持しましょう」その姿勢で足を速く動かす動作を単一時間内に大きく繰り返し、地面から大きな地面反力を受け取り続けることで、スピードがアップします。速く走るためのポイントとは?■足指で地面をつかむことがスピードアップのコツ、家でできるトレーニング方法「いまの子どもたちは、良い姿勢を作ることを苦手としています。とくに、『浮き指』と呼ばれる、足の指が浮いてしまい、地面をつかむことができない子が増えていて、その数は実に9割以上と言われています」足の指はトレーニングをすることで、効果的に動かすことができるようになります。足の指を使ってじゃんけんをしたり、タオルを足の指でつかんで引っ張るなど、毎日繰り返すことで動くようになるので、ぜひやってみてください。地面からのエネルギーを受けて進んで行くときの理想的な走る姿勢は、肩とひざ、拇指球(足の裏の親指の付け根)が同じラインにあること。そして、力まずに肩の位置を固定し、ひじの角度を90度に曲げて走ります。「足の裏が地面と接地する際の、足首の角度変化は最小限にとどめましょう。加えて、膝が屈曲しないように気をつけてください。ひざと足首をロックして、角度の変化を最小限に抑えることにより、接地時間が短くなり、スピードアップにつながります。そして足をひざから上げることでストライドが広がり、地面を押す力も増していきます」足首がぐにゃぐにゃしていたり、ひざを必要以上に曲げると、地面反力を吸収してしまい、前に進むエネルギーへと変換する効率が悪くなってしまうので気をつけましょう。「そして、より大きな地面反力得るために、全身をひとつのかたまりにするイメージを持ってください。いわゆる『全身をパックする』状態です。全身の筋肉を同調させることが、速く走るためのポイントになります」ここまでが、走るスピードをアップさせるための体の動かし方です。■方向転換のスピードを上げる次に、「方向転換のスピード」について、説明してもらいました。「方向転換の動きと直線のスプリントの違いは、3つあります。それが、1:接地の仕方、2:姿勢(体勢)、3:パワーポジションです」接地するときは、足の指の付け根ではなく、親指の下にある拇指球から土踏まずによってできる、足裏の内側のアーチで地面を押します。「方向転換するときに、直線の動きと同じ足裏の場所(足の指の付け根)で接地すると、ひざが曲がってしまい、動きにタメができてしまいます。その結果、方向転換に時間がかかり、スピードが遅くなってしまうので、足裏の内側で接地するようにしましょう」足裏の内側のアーチで地面を押し、地面反力を得るためには、半身(はんみ)の姿勢もポイントになります。ひざをロックした状態にし、上半身を肩ひとつ分正対させることで、骨盤を素早くひねることができ、足を踏み変えることで左右どちらにも動きやすくなります。■速く走るための適切な足幅とはそして、3つ目のポイントが「パワーポジション」です。これは「地面反力をもっとも得られる足幅」のことを言います。「足を肩幅に開き、何度か地面を押してみて、強い反発を得られる場所を探してみましょう。それがパワーポジションです」パワーポジションで地面を踏むことを繰り返すことで、地面反力を得て、素早い方向転換ができます。「やりがちなミスとして、内側の足でターンをすること、ストライドが広すぎること、進行方向につま先を向けて、蹴り出すことなどがありますが、まずは適切なパワーポジションを身につけ、素早く足を踏み変えることができるように、ラダーを使ってトレーニングしていきましょう!」【動画で学ぶ】タニラダーを使ったトレーニング例地面反発を受けることが基本になります。まずはしっかりパワーポジションを身につけましょう。谷真一郎(たに・しんいちろう)筑波大学在学中に日本代表に招集され、柏レイソルで1995年までプレー。引退後は筑波大学大学院にてコーチ学を専攻し、その後、15年以上に渡りJリーグのクラブでフィジカルコーチを務める。500試合以上の指導経験を持ち、2012年にはJ2で24戦無敗のJリーグ記録に貢献。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』20年間のフィジカルコーチとしての経験をもとに考案したラダートレーニング『タニラダー』はJリーグのチームなどにも導入されている。
2019年10月28日何年も同じ学校の友達とサッカーをしているのに、小3でまだチームに馴染めなず、極端にミスを怖がる息子。馴染めなさは、サポートコーチをしている私に息子のチームメイトが「点とってハイタッチに行っても喜んでも笑ってもくれない」と言ってくるほど......。これまで口調は悪いながらも息子と色々話してきたつもりだったが、自分の育て方が厳しすぎたのか。サッカーをやめたいとは言わないから、自分が原因ならコーチをやめ、チームと距離を取った方がいいのか......とお悩みの親御さんからご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。お父さんが変われば息子さんも変わります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<負傷者を起用してまで勝ちたがる監督。出場できない息子が不憫で連れ帰った問題<サッカーパパからのご相談>小3の息子は年中からサッカーを初め、小学校入学からは通っている小学校の少年団に所属しています。私はその少年団のサポートコーチもしています。今回は、引っ込み思案で未だにチームに馴染めない、そして極端にミスを怖がるのをどうしたらいいかご相談させてください。私の育て方が厳しすぎたのか、引っ込み思案な子で、未だに誘われないとチームの輪に入れません。この間、チームの子に「○○くんは、僕が点をとってハイタッチにいっても喜んでくれないし、笑ってもくれない」と言われてしまいました。あと、極端にミスをすることを嫌います。そもそも運動はダメな子で、足も遅くチーム内でダントツで最後。でも、練習はまじめにやっていてやる気もあるように見えるし、それなりに成長していてうまくなっているように見えるのですが、試合ではまったく力を発揮することができません。「練習でできていることが試合でもできればもっと試合に出してもらえるはずなんだけど」と毎試合思って、残念でなりません。これまで、口調は悪いなりにも息子といろいろな話をしてきたつもりですが、これ以上同じことを何度も言うのもよくないかなとも思い始めています。それでも、これまでサッカーをやめたいとは言ったことがありません。私がわからないのが1.同じ学校の子ばかりのチームの輪に、3年生でまだ入っていけないこと2.練習でできることが試合でできないこと3.試合で闘争心がまったく見えないこと4.そんな状況でもサッカーをやり続けたいということです。正直、どう息子と向き合っていいのかわからなくなってきています。自分が原因なら自分がコーチをやめ、距離をとったほうがいいのかもしれないとも思っています。アドバイスをいただければ幸いです。よろしくお願い致します。<島沢さんのアドバイス>お父さん、よくぞ相談してくださいました。ありがとうございます。NHKのチコちゃんなら他人事。笑っていられるけど、ご自身のことです。シマザワさんに叱られる。おまえがダメだと怒られるだろうと思いながらも、八方ふさがりになってメールをくださったのでしょうね。■厳しすぎるのではなく、構いすぎている結論から申し上げて、お父さんの子育ては「厳しすぎる」のではなく、「構いすぎ」ていて、少し間違っています。誘われないとチームの輪に入れないのは、その子の性格もあるかもしれません。ただ、仲間が点をとってハイタッチにいっても喜ばないのは、サッカーを楽しめていない証拠だと思います。それは怖いお父さんの目があるからです。極端にミスを怖がるのも、お父さんが怖いからです。試合で力を発揮できないのも、ミスをしたらどうしようと委縮するからです。「練習でできていることが試合でもできれば、もっと試合に出してもらえるはずなんだけど」と毎試合思って、とありますが、その理由を考えましょう。そのことを子どもがダメなやつだから、で終わらせてはいけません。試合でできないのは、前述したようにミスを恐れて萎縮し身体も頭も動かなくなるからではないでしょうか。もっといえば、練習でやったことがすぐに試合でできるなんて思ってはいけません。できないから、練習を続けるわけです。「これまで、口調は悪いなりにも息子といろいろな話をしてきたつもり」とあります。口調が悪いのは直しましょう。感情的になると人は口が悪くなります。感情的な親の話は、子どもの心に入りません。また、息子さんが話をしたのではなく、ほとんどお父さんがお説教をしていたのではありませんか。彼の気持ちを傾聴することが重要です。■お子さんが抱えている二つの「怖い」という感覚お父さんがわからないという以下の四つのことに答えます。1.同じ学校の子ばかりのチームの輪に、3年生でまだ入っていけないこと⇒集団ですぐに慣れるかどうかは個人差があります。ほかの子ができているからその子もできるわけではありません。2.練習でできることが試合でできないこと⇒上でご説明したとおりです。3.試合で闘争心がまったく見えないこと⇒闘争心は、本人が「サッカーをうまくなりたい!」「勝ちたい!」と自己決定して初めて湧き上がってくるものです。父親の目に委縮している息子さんに期待するのほうが間違っています。4.そんな状況でもサッカーをやり続けたいということ⇒これは二つ考えられます。お父さんが怖くてやめたいと言えない。もうひとつは、お父さんが自分から離れてゆくのではないかという「置き去られ恐怖」です。この「言うことを聞かないと、親が自分から離れていくのではないか」というこの感覚は、虐待を受けてる子どもに多く見受けられるものです。叩かれても、蹴られても、児童相談所に引き取られると、「おうちに帰りたい」と訴える子どもは多いのです。一番良いのは、お父さんがコーチを辞めることです。ほかにもコーチがいて事情が許すなら、理由を言って辞めたほうがいいです。息子さんと離れましょう。試合を観に行くのもやめましょう。そして、お父さんは充電しましょう。子育てを勉強し直しましょう。今の親世代が受けたポピュラーな子育ては、子どもを抑圧し、叱って、怒鳴って、「だからおまえはダメなんだ」と脅す教育です。ところが、時代の流れに伴い、それらは1990年前後から本格的に見直されつつあります。少し的を外せば、児童虐待につながるという危険性がはらんでいるという深刻な理由もあります。よって、みなさん学びなおしています。夫婦で話し合ったり(時に罵り合ったり)、他人のよい子育てを見習ったり、その逆で反面教師にしたり。そうやってみなさん、どうしたらわが子が成長できるのか。わが子の人権を守って親として寄り添えるのかを懸命に考えています。が、お父さんはどこかでブラックホールに落ちてしまったんでしょうか?それとも、他人にアドバイスを求めるのが苦手ですか?■息子さんのこころが心配。お父さんが変われば息子さんも変わる(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もし、何か思い当たることがあるのなら、例えば『サッカーで子どもを伸ばす11の魔法』や『叱らず、問いかける』といった池上正コーチと私が作った本がひとつお勧めです。ほかにもサッカーと子育てを絡めた本はたくさんあります。良本もありますが、小難しい横文字が並ぶばかりで、わかりやすい実践が書かれていないこともあるのでお金の無駄になるかもしれません。気をつけましょう。そして、サカイクでの学びもぜひ続けていってください。息子さんはおそらく、こころが壊れそうな深刻な状況だと察します。私がそう思ったのは、息子さんが、仲間が点をとってハイタッチにいっても喜ばないし、笑わないという事実からです。お父さんが怖くて委縮しても、仲間が点をとってみんなが笑っていたら、自然に笑顔がこぼれるのが子どもだし、人間の自然な感情です。でも、そんなナチュラルな感情の回路が、すでにプツンと切れてしまっている。そんな状態になってもサッカーを続けなくてはならない息子さんが、私はとてもかわいそうに思います。ピンチはいつもチャンスの種。ここは、お父さんが父親として、人として成長するチャンスです。お父さんが変われば、息子さんは変わります。明らかに上手くいってないのに、自分は何ひとつ手法を変えず、子どものせいにする人にわが子を伸ばすことはできません。ぜひ一度息子さんのサッカーから離れて、家や日常での接し方や考え方を学びなおしましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2019年10月23日いつもは指導者の皆さんからのご相談にお応えしている本連載ですが、今回は番外編としてこの夏池上さんがドイツで視察してきた内容をお伝えします。ジュニア年代が一番多く、年齢が上がるとともにプレー人口が減るピラミッド型の日本と違い、ドイツは子どもから始めたら大人までやめるプレーヤーがほとんどいない、逆三角形に近い。なぜならサッカーを好きでい続けられる環境や、プレーができる受け皿があるからです。「日本とは環境が違う」という方もいらっしゃるかもしれませんが、サッカー大国ドイツの育成には、日本の指導現場でも参考にしたいこと、取り入れたい姿勢があります。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<熱くなりすぎて喧嘩してしまう子への対応を教えてください■普段の練習一つとっても、上達に差が出る要因がある夏の終わりに、ドイツの育成現場を視察してきました。今年で3回目。ドイツで長年育成コーチを務めている、サカイクでのおなじみの中野吉之伴さんが、案内係を引き受けてくださいました。今回あらためて感じたのは、子どもたちが何かに煽られて必死でやっている感じがまったく見受けられないことです。ここは日本の小中高校生と大きく違ところです。小学生が、左右の足で交互でボールを蹴るような練習をしていたときのことです。全員、交互に蹴っていました。日本で似たような練習をすると、左足は得意じゃないから、右で蹴る、という子が必ずいます。日本の子は自分が下手なのを見せたくないわけです。ところが、ドイツにはいませんでした。みんな練習をやる意味をちゃんと知っているからです。冒頭で伝えたように、そんなに必死に全力でやっているようには見えませんが上手くなるためにできないことにも挑戦する姿勢が見受けられるのです。いかがでしょうか。言われたことをきちんと理解してやっている子ども。うまくやらないとコーチから刺激を受けながら、煽られながらやっている子ども。私は、相当差が出るように思います。■右足しか使わない日本人、上手くいかなくても左右を使うドイツの子小学校高学年の練習に、ひとり日本人の子どもが入りました。このときはロングキックの練習で、時計回りで走ってきて蹴る、その逆に回ってきて蹴るといった動作を4か所に分かれて行っていました。反時計回り、つまり左から回ると、蹴るなら右足になります。逆だと左足になる。そうすると、ドイツの子はコーチに何も言われなくても左右使います。でも、日本の子どもは時計回りのときも右足で蹴ってしまうことがあったのです。動作がつながらないのでなんとなく不自然です。これはその子の個人的な問題ではありませんでした。その時に参加していた他の指導者の方にも聞いたのですが、上手くできないことが恥ずかしいとか、叱られるとかというプレッシャーからか、できないことを隠してしまう傾向は多くの日本の子どもに見られるということでした。この練習で、右利きらしいドイツの子は左足をうまく使えない子が何人もいました。でも、失敗して照れくさそうだったり、暗い顔をしたりする子はひとりもいません。つまり、「うまくできないことが恥ずかしい」と思っていないのだと感じました。ただ、ただ、楽しそうに、でも、熱中してボールを蹴る。次はこう蹴ってみよう、もうちょっと体をたてて、軸足を踏ん張ってなど、自分でいろいろ考えながらやっているのだと思います。■「そんなの無理!」日本の子たちが難しい課題にチャレンジしない理由中学生の練習でも、すごくよくチャレンジする姿が目につきました。ディフェンスの裏をとってゴール前に抜けだして、こんなふうにシュートしてごらん、とコーチが一度デモンストレーションをしたら、それをひとり3回ずつくらいやります。その後に、コーチが「じゃあ、ここからは自分たちで考えてやってごらん」と言います。そうすると、ドイツの子どもたちは、コーチに教えられたかたちではひとりもやりません。日本の中学生に「ここからは自分で考えてごらん」と言っても、きっとコーチが見せたかたちを繰り返す子が大半だと思うのです。そして、もしかしたら、そもそも「自分で考えてやってごらん」というコーチが少ないのかもしれません。日本で「こんな練習をします!」と子どもたちに言うと、「いや、ぼくはそれは上手くないから、こっちをやりたい」言ったりします。特に難しい課題を与えられると、「よし、じゃあがんばるぞ」という感じになりません。「そんなの無理!」のほうが、圧倒的に多いのです。つまり、根本的にサッカーと向き合うベースが違います。そのことを、一緒にドイツを訪れた日本人のコーチたちに話したら、みなさんうなずいていらっしゃいました。ほかにも、3対2をやると、2人チームの方が、一人少ないから勝てるわけないよ!と言って真剣に取り組もうとしないことがあります。少しでも難易度が高いと、チャレンジしなくなってしまいます。きっと普段から、少し難しいことをやって失敗すると、何か言われたり、言われないまでにもなんとなく嫌な雰囲気になる。ダメだったね、というネガティブな空気を恐れながら生きてきたのだと思います。恐らく日本の大人たちが、うまくできないことを、悔しいとか、恥ずかしいと感じることを、子どもたちのモチベーションにしてきたのだと考えます。怒鳴ったり、声を荒げるといった方法しか知りません。そのことによる悪い副作用が、失敗を恐れてチャレンジしたがらないマインドを作って来たのではないでしょうか。ドイツでもコーチはポイントをアドバイスするほかは、子どもと楽しそうにトレーニングをしていました。■同じ年数サッカーをしているのに、日本とドイツの強さに差が出るのはなぜ?(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ところで、私はここ数年、自分が住んでいる町の中学校で部活動の外部コーチをしています。中学生たちに「ドイツと日本はどっちが強い?」と聞くと、全員が「ドイツ」と答えます。サッカーを始めた年齢は同じくらいなのに、どうしてだと思う?そんな質問をしてから、前述した右足と左足の話をしました。「叱られたり、強制的にやらされたりした人たちと、自分で考えて自分から熱中している人たちが、同じ時間サッカーをやっていると、違いは出てくるね」そんな話をしました。しかも、ドイツの選手たちは18歳くらいまで、週2回か3回しか練習をしないし、週1試合しか試合もやらないのです。大人の方も、なぜ違いが出るのかを真剣に考えてみてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2019年10月21日ワールドカップと言えば、目下日本で開催中のラグビーにスポットがあたりますが、バレーボールのワールドカップ(W杯)も先日まで日本で開催され、盛り上がりを見せました。日本女子は5位と健闘。男子もロシアを10年ぶりに撃破するなど、メダルには届かなかったものの4位と熱い戦いを繰り広げました。元全日本選手として活躍した益子直美さんは、バレーボールの育成を真剣に考えるOGのひとりです。毎年1月に福岡県宗像市で自身の名を冠した「益子直美カップ小学生バレーボール大会」が開催され、来年の1月で6回を数えます。この大会、実はちょっと変わった「決めごと」があるのです。それは、「監督は絶対に怒らない」というもの。どうしてその「決めごと」を作ったのか伺いました。(取材・文:島沢優子)益子直美カップは怒られないので、「いつもより思い切ってプレーできる」という子どもたちの声も■「ああ、やっぱりね」怒ることが競技上達を阻む理由「監督は絶対に怒らない」決めごとを遂行するためにどんなふうにしているのでしょうか。益子さん:選手には、「もし、監督が怒ったら教えてね」と伝えてます。怒った監督は私が叱ります。長くやっているので、怒りそうな方は大体わかっています(笑)。そういったチームが試合をするときはベンチの横に座って、目を光らせています。とはいえ、すべてのチームを益子さんがチェックできるわけではありません。開催地の福岡以外に山口、佐賀、長崎、大分、熊本、鹿児島からも参戦するので男女合わせて450チーム以上。およそ600人の小学生が参加します。そこで、子どもたちの自己申告制にしてあるのだそうです。益子さん:子どもたちに「監督さんが怒鳴ったり、怒ったりしたら、私のところに報告に来なさい」と伝えています。すると、「益子さん、うちの監督が怒った!」とやってくる。そこで、私が監督さんのところに行くと「怒ってませんよ~」とおっしゃる。「でも、子どもたちが怒ったと言ってますよ」と伝えます。「次またやったら出て行ってもらうこともあるし、次の大会は出られませんよ」とそこまで言っちゃいます。重視するのは勝ち負けではなく「子どもたちが楽しくのびのびとプレーする」こと。それが大会のコンセプトであることを理解し、大会を機会に自分の指導の仕方を見直してほしいという思いもあるためです。試合の後などにヒアリングすると、益子さんに怒られた指導者は驚いたような顔をするそうです。「いや、怒ってませんよ」「あれは怒っているうちに入らない」「自分では怒ってないと思っていた」益子さん:いや、いや、いや。怒られて泣いている子たちもいるじゃないですか、と。それでも、指導者の方たちには、怒っている意識がないんですね。怒らないとなると、どうやって指導していいかわからないという話をされますね。自分から口にテープを×点に貼ってベンチに入る方もいます。一方の子どもたちはどうかというと、選手たちに話を聞くと、益子カップを楽しみに待っていたという声が多いのだと教えてくれました。なぜなら、「コーチの怒鳴り禁止」なので、失敗を恐れずに済むからです。この大会では思い切ってチャレンジできるからなのだそう。益子さん:「監督に怒られないとわかっていたから、いつもなら打てないアタックを打てた」とか「思い切って飛び込めた」という感想がありました。ああ、やっぱりそうなんだ、普段は怒られるからトライできないんだと思いました。この話は非常に興味深いものです。「大人が怒鳴ると子どもが委縮してトライできない」という事実を明確に示しているではありませんか。つまり、小学生バレーボールの指導者は、怒ることで子どもを委縮させてしまう「リスク」に気付いていないようです。試合でチャレンジできず安全なプレーだけをしていれば、上達は遅れてしまいます。失敗して学ぶというスポーツに最も必要なプロセスをたどれないのですから。益子さん:怒らなくても、怖い顔をしたまま黙って座っている人は少なくありません。怒ってはいないけれど、そのチームの子がのびのびプレーできているかと言えばそうではないことが多いです。怒るのをやめたら、次の段階として「ナイスサーブ!」とか褒める言葉を増やす。ポジティブな声掛けをしてもらいたいですね。■一番応援しなければならないのは、育成年代のスタートとなる小学生この大会に自分の冠をつけるなら独自性を出したい、ただの大会では終わらせたくないという思いがあったと益子さんは言います。過去にも、益子さんはゲイの方たちのバレーボール大会を10年間主催した経験を持ちます。現在のようにLGBT(性的少数者)が社会に理解される時代ではなかったため、ひっそりと10回やり終えたのだそうです。益子さん:この大会をやったあと、打診されたのがこの小学生の益子直美カップです。やはり一番応援しなくてはいけないのは、育成のスタートになる小学生だと思ったのですぐにお受けしました。すると、話し合いの中で、監督さんに怒らないでやってもらおうというコンセプトが出てきました。実は、開催に向け中心となって動いた男性は、当時9歳の長男と6歳の長女を水難事故で失っています。小学校入学前だった長女が、その男性が指導するバレーボールチームへの入団を楽しみにしていたのだそう。ただただバレーボールをやりたかったわが子の希望を叶えられなかったことを思い、子どもたちが楽しくできるバレーボールの大会を始めたそうです。益子さん:益子カップをやって、本当に良かったと思います。私自身にも大きな気づきがありました。自分がなぜバレーボールが大嫌いなのかがわかったのです。中学、高校と、厳しい指導を受けてきました。私たちの時代はそれが当たり前でしたし、おかしいとか、理不尽とか、何とも思いませんでした。後編では、選手時代はずっと怒られ「バレーボールが大嫌い」だった過去から、益子さんが気づいたものとは何かをお伝えします。益子直美(ますこなおみ)東京都生まれ。中学入学と同時にバレーボールを始め、高校は地元の共栄学園に進学。春高バレーで準優勝し、3年生の時に全日本メンバー入り。1980年代後半から1990年代前半の女子バレーボール界を席巻した。卒業後はイトーヨーカドーに入団。全日本メンバーとして世界選手権2回、W杯に出場。現在はタレント、スポーツキャスターなど幅広く活動中。
2019年10月18日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■抑圧、支配された環境下でクリエイティブなプレーができるのか先ごろ、鹿児島県出水市の私立高校サッカー部で、監督が部員に殴る蹴るの暴行を加えている動画がインターネット上で公開され問題になりました。動画は練習風景を映したもので、監督が生徒を呼びつけるといきなり足を蹴り、さらに顔を殴ると生徒がその場に崩れ落ちていました。監督は学校側に対し「素直に話を聞かないので、いけないのはわかっていたが手を出してしまった」と暴力に至った経緯を説明しました。ただし、暴行後も生徒への謝罪の言葉はなく「厳しい練習も今後に生きる」という趣旨の発言をしたと報道されています。読者のみなさんも感じていると思いますが、サッカーに限らず日本のスポーツ界では小中高の育成期の選手に対する暴力や暴言を用いたパワハラ指導は一向になくなりません。少年サッカーにおいても、現場のコーチたちに尋ねると「どのチームも怒鳴りがすごい」「指導を変えようというような態度は見受けられない」と言います。なぜこのような指導をしてしまうのか。それは、コーチ自身が「勝ちたい」「勝たせたい」ということを何よりも優先させているからです。そして、そういった勝利至上主義の指導者たちは、「選手たちの正しい日常生活」を競技力向上と絡めることを好みます。例えば、彼らは選手に口酸っぱく言います。「挨拶をちゃんとしなさい」「服装をきちんとしなさい」「時間を守りなさい」礼儀や作法みたいなものです。それをやらせていれば、良い人間をつくると考えています。冒頭の鹿児島県の高校で生徒を殴ったり蹴ったりした監督が「厳しさが必要」と言ったのは、恐らくそういうことでしょう。高校の顧問の先生に聞くと「怒鳴ったり怒るのは、プレーの良しあしではなく日常生活や練習態度なんです」と言いますから。でも、本当にそうでしょうか?暴力や暴言を指導に用いる人は、それらを抑圧的な態度をとり続ける言い訳にしてないでしょうか?自分が選手を支配するための道具にしていないでしょうか?怒鳴る監督は怖い。怖いから言うことを聞く。そんなふうに抑圧され、委縮し、支配されている人間に、果たしてクリエイティブなプレーができるのでしょうか?良い人間をつくるためと言うのは、支配するための理由なのではないかと思えるのです。■一流選手が持つ「自己決定」能力もちろん、日常生活の質を高めることはアスリートにとって重要です。一理あります。気持ちよく挨拶する。人の話を聞く。服装も時間管理も人として正しく過ごす。そうすることで、その選手の日常は「気力が充実する」という大きなメリットがあります。日常で気力が充実していれば、非日常のスポーツも心置きなく熱中できます。とはいえ、順番が違うような気がします。いい選手になるために挨拶するのではなく、意識の高いいい選手が気持ちよく挨拶をする。そういったことをやれる子が一流のアスリートになります。「自分から主体的に」やるべきです。指導者が人としてあるべき姿を言葉で伝えるだけでなく、自らの態度で示し続ける中で、スポーツの楽しさやチームで戦うことの素晴らしさを経験させていけば、選手たちの「日常」は間違いなく質の高いものになるはずです。なぜなら、自分たちがそういったことが必要だと気づき、自己決定するからです。「勝つチームはかばんを揃えているよな」「勝つチームは挨拶もして雰囲気がいいよな」自らそう気づいて、ひとつひとつ自分たちのものにしていくのです。過去の指導を振り返ると、それとはまったく違うものでした。例えば、軍隊で上の者が下の者を意のままに動かすために暴力をふるうような文化。日本のスポーツ界は、それをそのままひきずってきました。支配するための暴力がいつの間にか「人間教育」という耳障りの良いものに変容してしまいました。それが令和になった今でも踏襲されています。鹿児島県の高校の監督が「いけないとはわかってたが......」と前置きしたのは、もしかしたら「いけないけれど、やらなければならないときもある」と解釈しているのもかもしれません。「精神的に追い詰められる場面がないと強くなれない」という指導者もいっぱいいます。が、そういう選手は他人に追い詰められなければ立ち上がれない人間になります。もっともつくるべきは、自分で高い目標を掲げ、そこに自分を追い詰めて努力していける人間です。■方法論や順番を間違えると、ブラックな指導になる(写真は少年サッカーのイメージです)これを知る者はこれを好むに如(し)かず。これを好むものはこれを楽しむものに如かず。「論語」に出てくる有名な言葉です。知ることよりも、好きなことが、好きなことよりも、楽しむことが上達につながるという意味です。育成期の子どもたちには、ここを懸命に伝えなくてはいけない。それなのに、目の前できれいに整列する「出来栄え」を追求してばかりいる。それが今最も多い指導者の姿ではないでしょうか。思えば、私がおよそ20年前にドイツから帰国し「スポーツマンシップ教育を取り入れましょう。このままでは日本のスポーツは廃れてしまいますよ」と訴えたとき、学校関係者の方々の多くから「人間教育なら、もうやっているよ」と言われました。その当時はわかりませんでしたが、その方々が考えていた人間教育は、実は方法論や順番を間違えると、ブラックな指導になる危ういものだったのです。私たちは、もうそろそろ過去の常識を疑わなくてはいけません。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2019年10月17日5度の日本一を果たしても周囲からの称賛を喜べなかった日ノ本学園の田邊友恵監督。前編では12年間の指導者生活の中で気付いた選手が成長するタイミングについてや、褒められる嬉しさについてお聞きしました。後編の今回は、「オラオラ系」指導者だった田邊監督に訪れたもう一つの転機について振り返ってもらいました。(取材・文・写真:森田将義)なぜその練習をするのか、言語化して選手たちに理解させることが大事だと語る田邊監督<<前編:「私がオラオラ系指導をやめたワケ」■無冠の一年を経験し、できない原因の矢印が選手から自らに向いた男子サッカーの強豪校が新たに女子サッカー部を創部するケースが目立つなど戦国時代となりつつある現在とは違い、田邊監督が就任した当初は選手の質を見れば日ノ本学園は全国でも頭一つ抜けた存在でした。2012年10月にコーチから監督になった直後の選手権こそ全国3位で終わりましたが、2013年度と2014年度はインターハイと選手権の2冠を達成。2015年度も第1回大会から君臨し続けてきたインターハイ女王の座を守り、4連覇を達成しました。しかし、2016年度のインターハイは準決勝で敗退。選手権も2回戦で姿を消すなど就任以来、初めて無冠で一年を終えたのです。この年の選手権ではインターハイを落とした危機感が田邊監督にもあったのでしょう。大会直前の練習では、誰かのために頑張る姿勢が見えない上に練習でのコミュニケーションに欠ける選手が多かったため涙を流しながら激怒したこともありました。毎回、そうした指導を行うわけではなく、大舞台を前に選手の気持ちに火をつけたいと思った故の行動でしたが、「なんでやらないの?といった声掛けが多かったけど、あの年を境になんで?って言ってはいけないと思ったんです。今になって振り返るとあの子たちはあの子たちなりにやっているんです。一生懸命やろうとも頑張っていたのに、それをさせられない指導者が悪いという感覚がなかった。でも、今は『声出せ』、『やる気あるの?』というコーチングは全て自分が悪いんだと思えるようになりました」。「勝てなくなって、これまで通りうまくいかないことを選手のせいにして怒り続けるのか自分を変えるのか考えた結果、自分を変えて指導力をつけなければこの先やっていけないと思った」田邊監督は苦しい一年を経験して以来、「なんで」を口にするのではなく、原因を考えてから行動に移すようになったそうです。例えば、練習で選手の気持ちが乗っていないと感じた時は練習メニューと雰囲気作りが悪いと考え、設定やルールを変えたり、時にはあっさりと次のメニューに移ります。簡単に言えば、上手く行かない時の矢印を選手に向けていたのを自らに向けるようになったのです。「ピッチ外で上手くいかない時は、失敗の原因を自らに向けるタイプでした。でも、いざピッチに出ると『自分だったらこうするのに』、『今どきの子は...』などと自分の経験と違う事を受け入れられていなかった」と振り返るように、選手経験がある指導者に見られがちなケースと言えるかもしれません。自分ができていたことを言語化し、選手に伝えられていないから起こる現象で、"なぜ出来ないのか"の原因までたどり着けていないのです。原因にたどり着けても正しいと思う改善方法は指導者の現役時代に合っていた物で、今いる選手には合わない物だというケースもあるでしょう。これまでは女子サッカー選手の指導しか経験がなかった田邊監督ですが、今夏に行った指導実践で男子サッカー選手の指導を経験。「男の子はボールを渡して『ゲームをやるよ』と言えば楽しそうにプレーするけど、女の子は自分の立ち位置に敏感で乗る時と乗らない時の差が激しいと感じた。女の子は自分を気にして欲しい。自分が世界の中心だと思っているような子が多いと思います」。目の前の物事がつまらないと感じたり、なぜやるべきか理解できないと行動に移せない。サッカーに置き換えても、「声を出そう」とコーチングすれば活気が出る男子とは違い、女子はつまらないと感じる練習や意味がわかっていない練習で声を出す重要性や内容が理解できないから声が出せないのです。ただ、なぜ声を出せば良いかが分かれば指導者が求める以上の物が返ってきます。そのため、田邊監督は「『ちゃんとやれ』のちゃんとって何?というのをかみ砕いて言語化できないといけない。やるべきことを言葉に明確しないと指導者とのズレが生まれて上手く行かないのだと思います」と口にします。■"知っている"と"できる"は別物。変えるには指導者自身の経験が不可欠怖いと思われたら伝わるものも伝わらない、と選手たちとの距離は大事にしているそうサッカーの面では心にゆとりが生まれた田邊監督ですが、現在は新たな悩みがあると言います。「サッカー面では許せることが増えた分、学校生活の面での部分はしっかりと締めたい。ただ、そのバランスが難しい」。「オラオラ系」指導者だった以前と比べて選手を叱る機会は減りましたが、今いる選手がこれまでの姿を知りません。「私的には柔らかくなったつもりでも、選手にとってはまだ怖いみたいで(笑)。サッカー面で叱る回数は減ったのですが、日常生活の部分でやれていないことを注意したら選手がビクッとするのが分かるんです。怖いと思われ距離を置かれてしまったら、伝わる物も伝わらなくなるので、そこのバランスの取り方は悩みどころです」選手の足りない部分を指摘する際に優しい言い方を意識しているつもりでいても、伝える内容は選手の欠点を指摘しているため、指導者が思っている以上にきつく受け取られるのでしょう。今の田邊監督が意識しているのはズバッと指摘するのではなく、本人が足りない部分に自ら気付けるような言い回しができるかどうか。「『私はここが足りてないんですね』と自分から言い出したり、自ら欠点を克服する努力ができるようになる選手を増やすのが本当の教育ではないかって思うんです」。これらの考え方は知識として頭にあっても、実体験が伴わないと腑に落ちず自らの考えとして身に付かないのかもしれません。「知っている」と「できる」はまた別物なのです。様々な情報が簡単に手に入る現代は、知っただけで満足している人も多いのではないでしょうか。しかし、その情報を子どもたちが役立つ物に変えるには、大人に経験が必要なのかもしれません。田邊友恵日ノ本学園高等学校サッカー部監督。東京女子体育大学サッカー部時代には、関東大学女子サッカーリーグにて得点王、ベストイレブンに選出。2002年結成の「アルビレックス新潟レディース」初期メンバーで、FWとして活躍。2007年現役引退。2008年よりJAPANサッカーカレッジレディースの監督に就任。2012年より現職に。
2019年10月15日ダノンネーションズカップ実行委員会が、12歳以下の世界一を決めるサッカー国際大会「ダノンネーションズカップ2020 in JAPAN」の開催決定を発表しました。そして、日本国内大会20回目を迎えスポーツ機運が高まる2020年大会の節目の年に開催されるこの大会のアンバサダーに元日本代表の前園真聖さんの就任が決定しました。3年連続3回目の就任となった前園さんは、アンバサダーとして自身のSNSやブログを通して大会の情報を発信していくほか、一部地方予選や2020年3月に開催する本大会で決勝戦の解説などを務める予定です。また、今大会からは、より多くの女子選手に参加していただけるよう、複数のチームから構成される「女子合同チーム」でのエントリーを認定(※詳細は大会HPにて)しました。年々女子が参加できる大会としての規模を拡大し、日本の女子選手にとって世界の舞台で戦う希少な機会を手に入れることができる唯一の国際大会となっています。たくさんのサッカー少年少女の参加をお待ちしております。予選参加チームのエントリーはこちら>>前園さんのコメント「昨年に引き続き、今年もダノンネーションズカップ国内大会のアンバサダーに就任させていただき、とても嬉しく思っています。今年で3度目のアンバサダーですが、毎年世界に挑戦する子どもたちの頑張る姿を見させていただき、僕自身もとても刺激をもらっています。また、過去のダノンネーションズカップでは、東京オリンピック世代として日本代表で活躍する選手たちも数多く参加していたとも聞いていますので、この大会が登竜門になるよう、一緒に大会を盛り上げていきたいと思います。この3年で参加する女子選手も増えてきました。そして今大会、より多くの女子選手に参加してもらえる環境ができたことで、一人でも多くの選手が活躍できるよう期待しています。」
2019年10月09日ヴァンフォーレ甲府のフィジカル・コンディショニングコーチの谷真一郎さんに「スピードアップのための5つのポイント」を教えてもらう人気シリーズ。3回目のテーマは「上半身が前傾しすぎる動きの改善」です。タニラダーを使った、速く走るための練習法も動画でご紹介しますのでご覧ください。動きのコツを覚えて、サッカーのプレーや運動会の徒競走などに役立てましょう!(取材・文:鈴木智之撮影:藤森悠ニ)<短期集中連載>【今日からできる】運動会でも速く走る方法<<第一回|第二回>>気持ちが焦って頭が前に出てしまい、上体が折れるのはスピードを落とす要因です■気持ちが焦るあまり頭が前に出すぎるとスピードが落ちてしまう走るときに気持ちが焦るあまり、頭が前方に出すぎてしまい、上半身が折れてしまうことがあります。いわゆる『くの字』の姿勢です。「体全体が『くの字』になってしまう動きは、多くのデメリットを抱えています。まず良い姿勢を崩してしまうので、大きな地面反力を得られなくなります。スピードを決めるのが、一歩一歩のストライドと足の回転なのですが、上半身が『くの字』になると、ひざが上がりにくくなり、ストライドが狭くなります」走るときの理想的な姿勢が、体が一本の棒のようになり、肩、ひざ、拇指球(足の裏の親指の付け根)が一直線になっていることです。しかし、『くの字』の動きは、これとは正反対なのです。走る時の理想的な姿勢は、肩、ひざ、拇指球(足の裏の親指の付け根)が一直線になること「くの字になると、かかとから地面に接地するので、ブレーキがかかってしまいます。足を蹴って走るときに、前方へ足を持ち上げるのに時間がかかり、回転数が落ちてしまいます。肩甲骨が開いているので、腕を振りづらい状態でもあります。これらはすべて、スピードを落とす動きにつながってしまうので気をつけましょう」上体がくの字になるとどうして遅くなってしまうのか。走りを決めるストライドと足の回転との関係について解説します■陸上とサッカーでは「スタート」が違う。サッカーで速く動き出すために大事なポイント谷さんは言います。「陸上選手であれば、クラウチングスタートでスタートするので、最初の数歩は上半身が『くの字』になりやすいですが、サッカー選手は常に立った状態で動き出すので、一歩目から良い姿勢で足をつき、地面から大きなエネルギーをもらって、速く動き出すことが肝心です。『くの字』にならないように、常に良い姿勢で走ることを心がけましょう」サッカーの試合中は、周囲の状況を観て、どのプレーをすべきかの判断が求められます。『くの字』は顔が下がるため視野が狭くなり、余計なエネルギーロスも多いので、スタミナにも影響があります。省エネで動き、スタミナを持たせるためにも、良い姿勢を意識して動くようにしてみてください。よくありがちな間違ったトレーニング【正しいトレーニング...からのNGな姿勢】ラダー上は正しい姿勢でトレーニングできているのに、ラダーを駆け抜けた後にくの字になってしまう。ラダー上の「良い姿勢のまま」駆け抜けましょう<<第一回|第二回>>谷真一郎(たに・しんいちろう)筑波大学在学中に日本代表に招集され、柏レイソルで1995年までプレー。引退後は筑波大学大学院にてコーチ学を専攻し、その後、15年以上に渡りJリーグのクラブでフィジカルコーチを務める。500試合以上の指導経験を持ち、2012年にはJ2で24戦無敗のJリーグ記録に貢献。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』20年間のフィジカルコーチとしての経験をもとに考案したラダートレーニング『タニラダー』はJリーグのチームなどにも導入されている。
2019年10月09日ヴァンフォーレ甲府のフィジカル・コンディショニングコーチの谷真一郎さんに「スピードアップのための5つのポイント」を教えてもらう人気シリーズ。2回目のテーマは「腕の斜め振り&肘伸ばしの改善」です。走るためには腕の使い方はとっても大事なのです。タニラダーを使った、速く走るための練習法も動画でご紹介しますのでご覧ください。動きのコツを覚えて、サッカーのプレーや運動会の徒競走などに役立てましょう!(取材・文:鈴木智之撮影:藤森悠ニ)<短期集中連載>【今日からできる】運動会でも速く走る方法<<第一回は、顔や身体が力んでしまう子必見の、力みを取って速く走る方法速く走るためには腕の振り方も重要。肘が伸びてスピードを落としている子は、ぜひ正しい腕の振り方を身につけましょう■ポイントは上半身「速く走るためには、足を速く動かせばいいんでしょう?」そう思う人も多いかもしれませんが、下半身のスピードを上げるだけでは、速く走れるようにはなりません。ポイントになるのが、上半身の動きです。中でも「腕の振り」は、足を速く動かすため、そして上半身と下半身のバランスを保つために、重要な役割を果たします。しかし、最近の子どもたちは「日常生活の中で、舗装された平らな道を歩くことがほとんどなので、腕を振らず、膝から下だけを動かして歩くことが多い」(谷さん)そうです。「猫背で足を上げず、腕を下にダラッと下ろしたまま歩く姿は、速く走る動作とは対極にあります。走りの場面でありがちなのが、肘が伸びた状態で腕を振る、『でんでん太鼓』のような動きです。肘が伸び切った状態で腕を振るので、大きな力が必要になり、スピードを自ら抑えることになってしまいます」<重要なポイント>腕の振りは足の回転につながる!【正しい腕の振り方が速く走るのに重要な理由】速く走るためにどうして腕の振りが大事なのか、よくありがちな「でんでん太鼓」のように腕を振るとはどういうことなのか。足の回転とどうつながるのかを解説します。正しい腕の振り方を身につけるために、まずは正しい姿勢の歩行(連載第一回:正しい姿勢の作り方)から始めるのが良いそうです。「最初は肘を伸ばした状態で良いので、腕を大きく振って歩きます。それができるようになったら、肘を曲げて歩いてみましょう。きれいな姿勢、動作で歩くことが、速く走るための第一歩です。そして、肘を曲げて歩けるようになったら、やや前傾姿勢になり、肩から肩甲骨を動かすことを意識して、腕を振って走り出してみましょう」肘を曲げて肩から肩甲骨を動かすように腕を振ることで、足が前に出しやすくなるというメリットもあります。「肘の曲げ伸ばしで腕を振るのではなく、肩から肩甲骨を動かして、腕を前後に振るイメージを持つと、うまくできるようになります」最近の子どもたちの中には、動きがぎこちないロボットのように、右腕と右足、左腕と左足を同時に動かして歩いたり、走る子も多いそうです。それも、「肩からではなく、肘だけを動かして腕を振っていることが原因」とのことです。速く走るために、まずは正しい腕の振りを覚えるところから始めてみると良いかもしれません。ぜひ試してみてください。【肘から下だけが曲がるのもスピードを落とす要因】【小学生でも簡単正しい腕の振り方を身につける練習】まずはしっかり前後に振る動きを身体に覚えさせましょう肩から腕を動かす腕の振り方を身につけます。視線は真っ直ぐに次回の記事では、「スピードを落とす原因になる5つの動き」の中から、「上体が前傾しすぎてくの字になってしまう」動作の改善トレーニングを紹介します。<<第一回:顔や身体が力んでしまう子必見の、力みを取って速く走る方法谷真一郎(たに・しんいちろう)筑波大学在学中に日本代表に招集され、柏レイソルで1995年までプレー。引退後は筑波大学大学院にてコーチ学を専攻し、その後、15年以上に渡りJリーグのクラブでフィジカルコーチを務める。500試合以上の指導経験を持ち、2012年にはJ2で24戦無敗のJリーグ記録に貢献。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』20年間のフィジカルコーチとしての経験をもとに考案したラダートレーニング『タニラダー』はJリーグのチームなどにも導入されている。
2019年10月08日