「大腸がんの原因は、はっきり解明されていません。しかし大腸がんの約70%は、肛門のすぐ上、便がたまりやすい直腸とS字結腸にできるんです。つまり便秘になると、大腸がんになるリスクが高まると考えられます。腸内に老廃物をため込まないことが予防になるのです」こう語るのは、これまで4万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきた腸の専門医で、『腸はぜったい冷やすな!』(光文社)など、多くの著書を発表している、松生クリニックの松生恒夫院長(63)。9月に厚生労働省が発表した「平成29年人口動態統計」によると、昨年の女性のがん死亡者数1位は、15年連続で大腸がん(結腸、直腸)だった。その数は2万3,347人。さらに、国立がん研究センターが同時期に発表した今年のがん死亡者数予測でも、2万4,800人と、今年も女性の死亡者数1位は大腸がんと予測されている。30年前と比べて倍以上に増えている大腸がんによる死亡者数。多くの女性たちがこの病いが原因で命を落としてきた。「大腸がん増加は、日本人のライフスタイルの変化、特に食生活の変化が、腸に負担をかけていることが原因だと考えられています。それを改善するためにも、最初に自分の腸の健康状態を把握してください」(松生院長・以下同)松生院長監修のもと本誌が作成した、次のチェックリストをやってみよう。□ふだんから、野菜や生の果物をあまり食べない□水分をあまり取らない□炭水化物の摂取を避けている□牛肉や豚肉、加工肉(ベーコン、ソーセージなど)をよく食べる□下痢と便秘を繰り返している□排便後も残便感がある□排便時にときどき下血することがある□運動をしない□肥満気味だ□過度の飲酒や喫煙の習慣があるチェック数が、「3個以下」=特に問題なし。「4~5個」=やや問題があるので、チェック項目を見直そう。「6~8個」=要注意。生活習慣の改善を。「9個以上」=全面的な生活習慣の見直しが必要。近年、はやっている“炭水化物抜きダイエット”。「米やパンといった炭水化物は食物繊維と糖質でできています。食物繊維の摂取量が減ると、腸内に老廃物がたまりやすくなってしまいます。つまり便秘になりやすくなるわけです」一方、肉は大腸がんのリスクを高めるといわれているので、取りすぎは気を付けたい。さらに、夜にトイレに起きるのが、めんどうくさいなどの理由で、水分摂取を控えている人も注意が必要だ。「本来、便は腸内で泥状になっており、S状結腸で初めて固形便になります。水分が不足すると、S状結腸に至る前に固形化してしまって、便秘を引き起こします」食事や水分だけではなく、運動不足も腸の大敵だ。「大腸は、内容物を肛門のほうに送り出すぜん動運動を行っているのですが、筋力が衰えると、ぜん動運動が起こりにくくなり、便を押し出す力が弱くなってしまいます」
2018年11月12日子どもの便秘を「この子の体質だから」とあきらめていませんか?医学博士・松生恒夫先生によれば、がんこな便秘でも病院にかかる前に家庭で食生活に気をつければ、あるていど解消が期待できるとか。松生先生の新刊 「子どもの便秘は今すぐなおせ」 (主婦の友社)から、今日から始められる快便のための食事法を紹介してもらいました。もちろん、子どもだけでなく、ママ自身の便秘解消にも役立つはず!お話をうかがったのは…松生クリニック院長 松生恒夫(まついけ つねお)先生医学博士。大腸内視鏡検査や生活習慣病としての大腸疾患等を専門とする。30年間で4万人の腸を見てきた腸のエキスパート。なるべく薬に頼らない便秘解消のための食生活指導などを行っている。新刊に「子どもの便秘は今すぐなおせ」(主婦の友社)がある。■子どもの便秘「快便のサイクルを完成させる」3つの生活習慣松生先生のクリニックには、3、4日どころか1週間も便が出ないような便秘体質の患者さんが相談に来ています。「子どもを含め、あらゆる年代の人が来ますが、20歳ぐらいの若い人も多いですね。いつから便秘なのですか? と質問すると、『ものごころついたときから』と答える。腸内細菌のバランスは子どものうちにある程度決まるので、お母さんたちにはできるだけ早いタイミングで“腸育”を心がけてほしい。やはり幼少期に快便の習慣をつけることが大事です」(松生先生)“腸育”にはどんな方法があるのでしょうか? 「子どもの便秘は今すぐなおせ」で紹介されている生活習慣として気をつけるべきことは次の3つです。1)寝起きに1杯の水を飲み、1日3食きちんととる腸がうんちを送り出す“ぜん動運動”は、からっぽの胃に朝食が入ってくる朝が最も強く、消化に時間のかかる固形物よりまず水を飲むのがベストだそうです。「水で腸に刺激を送り込みましょう。子どもの寝起きに、コップ1杯の水を出してあげるといいと思いますよ。朝昼夕の3食をとるといいのは、規則的な食事をすれば、腸の動きも規則的になるから。決まった時間に排便できるようにするために、心がけてください」(松生先生)2)寝る3時間前は食べない大人のダイエットでも寝る前は食べないというのは鉄則ですが、子どもを快便に導くためにも、寝る3時間前からはものを食べさせないよう注意すべきとか。「就寝前に食事をすると、うんちのリズムをつかさどる自律神経が乱れてしまいます。また、朝の“大ぜん動”が起こりにくくなりますね」(松生先生)3)便意をがまんさせないオムツをしている間はだいじょうぶですが、トイレトレーニングが終わってから出てくる問題が、子どもがうんちをがまんしてしまうということ。かたいうんちを出すと痛いので怖がってしまったり、友だちと遊ぶのに夢中になってトイレに行かなかったり。まだ就学前の子どもでも、そういう傾向があります。「がまんすることが続くと、『うんちがたまった』と直腸が認識しにくくなり、便意が起こらなくなります。『したくなったらすぐ出す』習慣をつけることが大事です」(松生先生)具体的には、朝、時間にゆとりをもってトイレにすわり、便を出す習慣をつけること。また、おけいこごとや塾の時間などに「便意をがまんせざるをえない」状況を減らすこと。ママがこまめに「うんち? トイレへ行こう」などと声をかけるといいかもしれません。■子どもの便秘「便秘解消に効く食べ物ベスト3はこれ!」一般的なイメージとして、胃腸の働きを良くする食材というと、ヨーグルトや食物繊維いっぱいのキャベツなどを思い浮かべますが、松生先生によれば、便秘解消に効く食べ物は「キウイ」「植物性乳酸菌」「オリーブオイル」とちょっと意外なもの。この3つにはどんな働きがあるのか、聞きました。1)キウイオリゴ糖がたっぷり含まれていて、食物繊維のバランスが理想的なフルーツ。便をやわらかくし、カサも増してくれます。「私の調査によれば、便秘ぎみの中学生・高校生とその母親に1日1個のキウイを2週間食べてもらったところ、その約7割が1日1回以上の便通になったということ。キウイがきらいな子なら、バナナでも同じような効果が期待できます」(松生先生)2)植物性乳酸菌乳酸菌といえばヨーグルトを思い浮かべますが、松生先生によれば、「残念ながら、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌(通称)は、胃で死んでしまう場合が多い。植物性乳酸菌(通称)をとるように心がけてください」とのこと。「植物性乳酸菌とは、漬物、甘酒、みそなどの発酵食品に含まれるもの。生きて大腸に届き、善玉菌を増やしてくれます」(松生先生)3)オリーブオイル体に良い油として知られるオリーブオイルは、便通も良くするのでしょうか。「小腸で吸収されにくいので、腸をやさしく刺激してくれる天然の下剤ともいえます。また、それこそ潤滑油として、うんちのすべりをスムーズにしてくれます」(松生先生)ほかにも、海藻やきのこ、もち麦なども便秘解消に役立つそうです。どれもスーパーで買える食物で、日常の食事にとり入れやすいものばかり。子どもが便秘ぎみというママは、料理するとき、この3つを積極的にとり入れてみることをおすすめします。■子どもの便秘に効果的! 腸元気レシピ「キウイシャベーット」「子どもの便秘は今すぐなおせ」には腸が元気になる具体的なレシピがたくさん紹介されています。その中から、火を使わずにできる夏場にピッタリのかんたんメニューをピックアップ。子どもが喜ぶキウイのシャーベットデザートです。食べやすいので、食欲がないときにも試してみては?「キウイシャーベット」(レシピ:荻田尚子)【材料】キウイ 2個砂糖 40g【作り方】1. キウイは皮をむいて5mm厚さの輪切りにする。冷凍用保存袋に入れて砂糖を加え、袋の口を閉じる。上から軽くもみ、砂糖をとかす。2. 平らにならし、袋の空気を抜いて口を閉じ直し、バットなどにのせて冷凍室で冷やしかためる。3. かたまったら取り出し、室温で少しやわらかくする。めん棒でたたいてあらくつぶし、さらにめん棒を押しつけて転がす。やわらかくなったら、軍手をして袋の上からもんでつぶす。キウイをそのまま食べると、すっぱさが強い場合があり、子どもは敬遠しがちですよね。このレシピなら簡単なうえ、砂糖で甘みが増し、キウイもたくさん食べられるので、暑い季節にぴったりですね。「子どもの便秘解消のために、食事指導に一番力を入れています」と語る松生先生。うちの子、ちょっとうんちがかたいな、便通がないのにおなかを痛がるなど、便秘が疑われるときは、まず食事や食生活を見直してみましょう。参考図書: 「子どもの便秘は今すぐなおせ」 (主婦の友社)松生 恒夫著 1,200円(税別) 子どもの腹痛・イライラ・学校嫌い…それ、「便秘のせい」かも! ? 「母親が便秘なら子どもも便秘の可能性大! 子どもは約5割が便秘ともいわれているのに、気づかない親が多いのです」。便秘外来で多くの子どもを診療してきた松生恒夫医師が、子どもの隠れ便秘のチェック方法、改善法を紹介します。新生児〜6カ月、6カ月〜3歳まで、3〜12歳、12歳以降ではつまる場所、原因、対策などが違う子どもの便秘。特に幼児~小学生ママ必見の1冊です。
2018年08月29日テレビなどで活躍中の医学博士・松生恒夫先生が、新刊 「子どもの便秘は今すぐなおせ」 (主婦の友社)を発売。松生先生は、院長を務める大腸専門のクリニックで子どもの便秘相談が増えていることを受け、子どもの便秘についての本を執筆されました。本の中では、子どもが便秘ぎみになったとき、ママが生活の中でできる食事療法などを紹介しています。気になる子どもの便秘の解消法について松生先生にうかがいました。お話をうかがったのは…松生クリニック院長 松生恒夫(まついけ つねお)先生医学博士。大腸内視鏡検査や生活習慣病としての大腸疾患等を専門とする。30年間で4万人の腸を見てきた腸のエキスパート。なるべく薬に頼らない便秘解消のための食生活指導などを行っている。新刊に「子どもの便秘は今すぐなおせ」(主婦の友社)がある。■子どもの便秘が増えている!? 便秘かどうかを簡単チェック子どもは便秘が習慣化していても、なかなか自分の言葉ではそれを伝えられないもの。それだけに、子どもが小さいうちはママパパがわが子の「うんち事情」をある程度、把握しておく必要がありますね。そこで、子どもの便秘相談が増えていることを受けて、松生先生は次のような「子どもの便秘チェックシート」を考案。「もしかしたら、うちの子、便秘ぎみ?」と思ったら、以下のチェック項目に当てはまるかどうか考えてみましょう。チェックした項目が多ければ多いほど、慢性的な便秘である可能性が高まります。便秘は重大な病気が原因である可能性もあるので、1つでもチェックがついたら、危険な便秘かどうか確認する必要があるでしょう。■赤ちゃんの便秘「離乳食が始まるまでは、親が注意深く観察・発見」新生児から生後6カ月ごろまで(離乳食を始めるまで)、子どもの排便には100パーセント、親の管理が必要。赤ちゃん自身にいきむ力はなく、うんちは腸の反射的な動きで排出されます。オムツ替えをするときに、うんちの色がおかしくないか、うんちに血がついていないかなどをチェックするといいそうです。「赤ちゃんのうんちの管理は、正直とても難しい。まだ話せないのでどういう状態かも教えてくれません。『便秘かな?』と思ったら、肛門を綿棒でそっと刺激するのが有効です。またはワセリンを肛門の入り口に塗って『うんちは怖くないよ』と教えるのもいいですね」(松生先生)もし、4日以上うんちが出ないときは要注意。その場合や血便が出たときなどは自己判断せず、すぐに病院へ連れていきましょう。■子どもの便秘「3歳までに快便習慣を」毎日の“うんちの記録”がおすすめ離乳食をスタートすると、腸内環境が変わり、一時的に便秘になる子も。しかし、1歳になると、大脳が発達して「便意」を感じられるようにななり、「ママ、うんち」としたいときを教えてくれる子も多くなってきます。ただ、大人と同じ食事(普通食)に近づくにつれ、うんちは固くなるもの。排便の痛みによって「うんちはこわい」というネガティブなイメージが子どもにすり込まれてしまうこともあります。「オムツが取れたとしても、まだまだ大人の手助けが必要な時期。やはり多くの家庭でママは司令塔ですから、便秘にならないためにも、食事に気をつけたり、書籍に収録した『うんち日記』のような記録をつけたりすることが大事です。記録をしておかないと、いざ便秘になったとき、何日前からうんちが出ていないのか、わからないですからね。私のクリニックには、20歳過ぎてから便秘で困ってかけ込んでくる患者さんが多いんですよ。聞くとたいてい、もの心ついたころから便秘体質だったといいます。便秘にならないため、子どものころに親御さんができることはあると思いますよ」(松生先生)■子どもの便秘「良いうんちVS悪いうんち」排便で腸内環境を知るでは、子どもの「良いうんち」「悪いうんち」とはどんなものなのでしょうか? 「子どもの便秘は今すぐなおせ」の一部をここで紹介いたします。理想的なうんちは、においの少ない、黄色いなめらかなうんち。かたすぎず、スルリと出てくるバナナ状の便が望ましいそうです。 逆に要注意のうんちは、においが気になる、黒いカチカチうんち。悪臭がして思わず鼻をつまんでしまうようなうんちや、ウサギのフンのようなコロコロしたかたいうんちはNGです。子どもが成長するにつれ、ついつい出したうんちはチェックしなくなるものですが、便秘体質にさせないためにも、ママがトイレで確認する習慣をつけましょう。■猛暑が便秘を引き起こす?「大人も子どもも“大腸が砂漠化”!」記録的な猛暑日が続くこの夏。松生先生にはぜひ子どもを持つママに警告したいことがあるそうです。それは“大腸の砂漠化”。この暑さのせいで本来、水分が多くあるべき大腸がまるで砂漠のように乾燥してしまっているといいます。「この7月は、クリニックの外来で例年の1.2倍の薬を処方しました。毎日、気温35度を超えるような暑さですし、10度以上の寒暖差がある日もあって、大腸が温度変化についていけず、便秘や下痢になる人が増えているのです。大人も子どももたいへんですね。小さいお子さんを持つママ自身も、暑い中、子どもを遊ばせるために屋外へ出て、干からびているのでは。特に便秘で困っている人が増えています」(松生先生) どうして、大腸内の水分が減ってしまうのでしょうか?「実は、水や飲料の水分のほとんどは、小腸で吸収されてしまいます。そのため、大腸には水分を多く含む消化物(食べ物)を送り込むことが必要で、その中は泥状の食物残渣(しょくもつざんさ)で多く占められています。しかし、暑さのせいで食物摂取量や食物繊維摂取量が少なくなったり、発汗量が多くなったりすると、その残渣の量が減少し、大腸内の水分量が減るんです。泥状の残渣は水分が少ないと固形化しやすく、排出しにくくなるわけです。干からびた食物残渣が腸内に蓄積したようなイメージです」(松生先生)簡単に言えば、大腸が水分不足になるので、うんちが固くなってしまうということ。まさに砂漠化で、その原因としては「発汗量の増加」「食事量の低下」があげられるのです。夏バテで食欲がない子どもも多いですが、それが便秘の原因になっているかも? 夏にはよくあることですが、あまり軽く見ないほうがいいでしょう。「放置すると、干からびたような薄い食物残渣がひとつに固まらず腸内に貯留するような状況になり、腸の蠕動運動が低下。腹部にガスがたまりやすくなって、腹部膨満感や排便障害、便秘などが起こりやすくなってきます」(松生先生)暑い時期、子どもが「うんちが出ない」と言ったり、おなかに違和感を覚えている様子があったら「砂漠化」に注意! 病院で診てもらうことを視野に入れ、家庭内でも食事でできる改善策を考えてみましょう。子どもの便秘が続く場合、要注意のうんちが出た場合などは、まずは食生活から見直してみましょう。次回は、ふだんから便秘予防として実践したい食事法をご紹介します。参考図書: 「子どもの便秘は今すぐなおせ」 (主婦の友社)松生 恒夫著 1,200円(税別) 子どもの腹痛・イライラ・学校嫌い…それ、「便秘のせい」かも! ? 「母親が便秘なら子どもも便秘の可能性大! 子どもは約5割が便秘ともいわれているのに、気づかない親が多いのです」。便秘外来で多くの子どもを診療してきた松生恒夫医師が、子どもの隠れ便秘のチェック方法、改善法を紹介します。新生児〜6カ月、6カ月〜3歳まで、3〜12歳、12歳以降ではつまる場所、原因、対策などが違う子どもの便秘。特に幼児~小学生ママ必見の1冊です。
2018年08月25日便の異常とつらい腹痛が続く「潰瘍性大腸炎(UC)」とは?出典 : 潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は、大腸の粘膜に炎症が起きて、びらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。びらんも潰瘍も粘膜が傷ついた状態を指しますが、傷の深さが異なります。びらんは粘膜の表面がただれている程度なので、傷は浅く症状も比較的軽めです。一方で潰瘍は傷が深く、粘膜の深部まで傷が及んでいるので重症な場合が多いです。潰瘍性大腸炎は、病変の広がりや症状の重さなどによって下記のように分類されています。1)病変の拡がりによる分類:全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎2)病期の分類:活動期、寛解期3)重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症4)臨床経過による分類:再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型炎症は一般的に肛門に一番近い直腸から広がっていき、その範囲によって大きく3つに分けられます。・大腸全体に炎症が広がる「全大腸炎」・直腸から大腸の左側部分(左側結腸)まで炎症が及ぶ「左側大腸炎」・直腸のみに炎症が起こる「直腸炎」潰瘍性大腸炎は完治が難しく、治療は、症状が一時的に軽くなる、もしくは消える「寛解」と言う状態を目指します。また、症状がおさまる寛解期(かんかいき)と、治療によって落ち着いていた症状が再燃する活動期を繰り返すのが特徴です。再び悪化する可能性もあるため、定期的な検査や寛解を維持する治療をしていく必要があります。潰瘍性大腸の患者数は増加傾向。男女比率や発症年齢は?出典 : 日本での患者数は毎年増えていて、平成25年度末時点では16万6,060人を超えました。その後も急速に増加し続け、潰瘍性大腸炎の患者数は指定難病の中で最も多くなっています。出典:潰瘍性大腸炎(指定難病97)|難病情報センター発症年齢のピークは男女ともに20代で、性別による差はありません。0歳から高齢者まで、どの年齢でも発症します。参考:特定疾患医療受給者証所持者数|難病情報センター潰瘍性大腸炎の症状は?重症になるとどうなる?出典 : 潰瘍性大腸炎で多く見られる症状は、便の異常(血便、下痢、軟便など)や腹痛です。「軽症」であれば、1日の排便回数も4回以下と少なく、下痢や血便の程度も軽いです。ただし「重症」になると、1日の排便回数が6回以上と多くなり、37.5度以上の発熱や体重減少、強い腹痛、貧血などの症状も現れます。潰瘍性大腸炎は、起きている間だけでなく寝ている間も症状が出るので、質の良い睡眠が取れなくなってしまいます。またトイレに自由に行けない環境に不安を感じる場合も多く、生活の質は著しく下がります。精神的に落ち込む人も少なくありません。ちなみに軽症と重症の中間の症状を「中等症」、重症よりもさらに重篤な状態を「劇症」と呼びます。劇症になると、38.5度以上の持続する発熱や1日に15回以上の排便などの症状が起こり、早急な治療が必要になります。出典 : 潰瘍性大腸炎になると、合併症を発症することもあります。合併症には、腸管(小腸・大腸)に起こる合併症と、腸管外に起こる合併症があります。腸管の合併症では、腸管に穴があいたり(穿孔:せんこう)、狭くなったり(狭窄:きょうさく)、大量出血したりといった症状から、中毒症状を引き起こす中毒性巨大結腸症などが見られます。これらの合併症が出た場合は、緊急手術が必要になる可能性が高いです。腸管外の合併症としては、皮膚症状、関節や眼の痛みがあります。例えば口内炎や関節炎、脊椎炎、結膜炎などがあり、全身に症状が現れます。手術率は、発症時の重症度と炎症範囲によって決まります。重症で炎症範囲が広いほど、手術率は高くなります。潰瘍性大腸炎の死亡率はきわめて低く、潰瘍性大腸炎の患者とそうでない人の平均寿命は大体同じです。ただし、重症の場合の早期手術、大腸がんの早期発見が重要です。潰瘍性大腸炎の原因は?ストレスや食生活の乱れは関係があるの?出典 : 潰瘍性大腸炎のはっきりとした原因は、いまだに分かっていません。しかし、潰瘍性大腸炎の炎症に白血球が関わっていることは確認されています。白血球は本来、体内に入ってきた異物を食べて体を守る働きをします。ところが、免疫機能の異常が起こると、白血球が自分の腸管粘膜を外敵だと判断して攻撃してしまいます。その結果炎症が起き、潰瘍性大腸炎の発症につながってしまうのです。どうしてこのような免疫機能の異常が起こるのかは不明です。最近では、遺伝的要因、食生活の変化、環境要因など、さまざまな要因が絡み合って潰瘍性大腸炎を発症すると考えられています。潰瘍性大腸炎の診断・検査出典 : 潰瘍性大腸炎の診断はたいてい以下の流れで行われます。1.症状の経過と病歴などの問診…便の状態、排便回数、お腹の調子、これまでにかかった病気を聞かれます。いつから調子が悪いのか、血便は出ているか、発熱はあったかなど、答えられるようにしておくことがポイントです。2.血液検査…炎症の程度や栄養状態を調べるために行われます。3.便潜血検査 / 便培養検査…便に血液が混ざっていないか、血便を起こす菌がいないかを調べます。4.大腸内視鏡検査や注腸X腺検査、腹部X腺検査など…どの部位まで炎症が広がっているのか、炎症状態はどの程度か、腸内ガスは溜まっていないかを調べます。これらの検査から総合的に診断されます。潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは?出典 : 潰瘍性大腸炎と見分けにくい疾患としてクローン病があります。どちらも原因不明の慢性炎症性疾患であり、難病に指定されている病気です。患者数も増加傾向で、現れる症状(下痢、腹痛、体重減少)も似ています。潰瘍性大腸炎とクローン病の大きな違いは、炎症が起こる部位です。潰瘍性大腸炎は大腸のみですが、クローン病は口から肛門までのすべての消化管の部位に炎症が起こります。特に炎症が起きやすい部位は小腸や大腸ですが、どの消化管にも炎症が起こりうるのがクローン病です。発症年齢や男女比も違います。10歳代~20歳代の若年者に好発します。発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多くみられます。男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。また、クローン病は合併症が伴うケースも多く手術率も高い病気です。潰瘍性大腸炎と同様、再燃にも気をつけたい病気で定期的な検査が重要です。潰瘍性大腸炎では薬物療法がメイン。具体的な治療法は?出典 : 潰瘍性大腸炎の治療は、活動期にはまずは大腸の炎症を抑えて寛解させる治療を行います。症状が落ち着く寛解期には、寛解状態を維持して再燃させないための治療に移行します。・薬物療法と食事改善薬物療法では、大腸の炎症を抑える薬を使います。食事は、腸に刺激を与えるような食べ物や飲み物を控えることが重要です。例えば脂っこいものや香辛料は避けて、食物繊維を多く含む食品や発酵食品を摂取するようにします。・血球成分除去療法薬物療法で改善が見られない場合に用いられます。腕から抜いた血を専用の装置に通すことで、炎症を起こす白血球を取り除き、浄化された血を再び体内に戻す治療法です。1回の治療時間は1時間程度で、副作用に吐き気、発熱、頭痛などがありますが、一過性のものです。・手術(大腸の全摘出)最終手段として、切除手術が考えられます。大腸に穴があく(穿孔)、大量出血、重症なのに薬物療法や血球成分除去療法の効果がない、ガンの疑いがある場合などは、切除手術が必要な場合が多いです。術後は、潰瘍性大腸炎でない人とほぼ変わらない生活を送れます。潰瘍性大腸炎は再燃しやすい病気。普段から気をつけておきたいことは?出典 : 潰瘍性大腸炎は一度症状が良くなったと思っても、再び悪化することが多い病気です。ですが、自分に合った治療をきちんと続け、コントロールしていくことで、再燃させずに寛解を保つことができます。実際に、潰瘍性大腸炎にかかっていても、多くの人は仕事や学業を続けていて、妊娠や出産も可能です。再燃させないためには「質の良い睡眠」「規則正しい生活」が基本です。症状が落ち着いている寛解期に、食事の制限は特にありませんが、普段からバランスの良い食事を心がけておくと良いでしょう。腸を刺激しやすいアルコール、香辛料、脂っこい食べ物、冷たい飲み物、乳製品などはとり過ぎないようにして、よく噛んで食べるのも大切です。また発病後7、8年経つと、大腸がんを合併する可能性もあります。たとえ症状がなくても、1~2年に1回は内視鏡検査を受けることをすすめます。潰瘍性大腸炎は「医療費助成制度」を受けられる病気出典 : 潰瘍性大腸炎は国の指定難病に定められています。中等症以上の場合に限られますが、申請手続きをして認定されると「医療受給者証」が交付され、治療費の助成が受けられます。受給者証の有効期間は申請日から1年間で、医療費の自己負担割合が3割負担から2割負担になります。指定難病医に診断書を書いてもらい、お住まいの都道府県に指定難病であることを申請すれば手続きは完了です。所得や治療状況により、1ヶ月あたりの自己負担上限額が決まり、超過分は公費で助成されます。まとめ出典 : 潰瘍性大腸炎は原因不明の指定難病ですが、症状をコントロールできる病気の一つです。血便が出たり、排便回数が異常に増えたり、ひどい腹痛が襲ってきたりと、不安がつきまといますが、自分に合った治療を受けることで、再燃せずに過ごせる場合も少なくありません。治療には薬や手術だけではなく、普段の生活習慣(規則正しい生活リズム、バランスの良い食事)の見直しも有効です。中等症以上の患者さんは医療費助成制度を受けられるので、検討してみるのも良いと思います。
2018年06月11日チューリップのリーダーでボーカルの財津和夫(69)が2日、公式サイトを通じて大腸がんであることを公表した。45周年メモリアルツアーのうち6月、7月の4公演を中止し、今後は治療に専念する。 公式サイトによると、5月下旬に腸閉塞の治療のために受けた精密検査で、大腸がんが発覚したという。 財津は、「しばらくの間ステージ活動を休ませて頂き、治療に専念させていただくことをお許しください」と謝罪するとともに「チューリップ45周年ツアーもラストスパートに差し掛かっていただけに心残りです。完走できなかった今回のツアーですが、来年にはチューリップの一員として新たなコンサートツアーを開始するつもりです。皆様とお会いできることを楽しみにしています」と復活を誓った。
2017年06月02日今月5日に大腸ポリープの切除手術を受けた歌手の和田アキ子(66)が18日、TBS系バラエティ番組『アッコにおまかせ!』(毎週日曜11:45~12:54)に生出演。「きょう13日ぶりに飲む」と宣言した。和田は、「私事ですけど、やっと大腸ポリープが良性という結果が出た」と報告。「きょう13日ぶりに、この放送が終わったら、早飲みであびると飲むんです」とこの日出演のタレント・あびる優と飲みに行くことをうれしそうに明かし、「六本木周辺、気を付けてください!」と満面の笑顔で呼びかけた。共演者からは拍手が起こり、あびるの名前とかけて「浴びるようにね」という声も上がった。和田は、17日に放送されたニッポン放送のラジオ番組『ゴッドアフタヌーン アッコのいいかげんに1000回』でも、「5日に大腸ポリープの手術をして、この間結果が出た。おかげさまで良性の腺腫で、悪性ではなくて心配はない」と報告。医者から2週間飲酒禁止と言われていたが、1日早いきょう18日から飲んでいいと了解を得たことも明かしていた。
2016年09月18日大阪大学(阪大)、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)は3月31日、腸管上皮細胞に発現するタンパク質が、腸内細菌の大腸組織侵入を防いで腸管炎症を抑えるメカニズムを解明したと解明した。同成果は、大阪大学大学院医学系研究科 感染症・免疫学講座(免疫制御学)/免疫学フロンティア研究センター 奥村龍特任研究員、竹田潔教授らの研究グループによるもので、3月30日付の英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の原因のひとつとして、主に腸管上皮によって形成される腸管粘膜バリアの破綻が知られており、実際に腸管粘膜のバリア機能が低下しているマウスにおいては粘膜への腸内細菌への侵入が観察され、腸管炎症が起こるまたは起こりやすくなっていることがわかっている。大量の腸内細菌が存在する大腸は、粘膜バリアのひとつである粘液層に厚く覆われており、腸内細菌は容易に大腸組織に侵入できないことがわかっているが、どのように細菌の侵入が抑えられているのかはこれまで明らかになっていなかった。今回、同研究グループは、大腸上皮細胞に特異的に高く発現するタンパク質「Lypd8」に着目。Lypd8は、ヒトおよびマウスにおいて大腸上皮に発現し、大腸管腔内に恒常的に分泌されているが、潰瘍性大腸炎の患者では発現の著しい低下が観察された。そこでLypd8欠損マウスを作製したところ、同マウスの大腸では、正常であれば無菌に保たれているはずの内粘液層に腸内細菌が侵入しており、特に大腸菌やプロテウス菌などの有鞭毛細菌が侵入していたことがわかった。またLypd8欠損マウスに腸炎を引き起こすと、野生型マウスと比較して有意に腸炎が重症化した。有鞭毛細菌の多くは悪玉菌として知られ、腸管炎症との関連を指摘されている。同研究グループは、有鞭毛細菌のひとつであるプロテウス菌を使って、Lypd8分子の細菌への作用を調べた。この結果、電子顕微鏡を用いた観察では、Lypd8はプロテウス菌の鞭毛に結合することがわかり、さらに寒天培地を用いた実験で、Lypd8はプロテウス菌の運動性を抑制することが明らかになった。以上により、大腸上皮に高く発現するLypd8は、大腸管腔内に分泌され、特に有鞭毛細菌の鞭毛に結合し、運動性を抑制することで細菌の粘膜への侵入を防止し、腸管炎症を抑制していることが今回明らかになったといえる。同研究グループは、今後、Lypd8タンパク質の補充療法などの粘膜バリア増強による潰瘍性大腸炎への新たな治療法の開発が期待されるとしている。
2016年03月31日九州大学は2月19日、大腸がんが多様な遺伝子変異を持つ、不均一な細胞集団から構成されることを明らかにしたと発表した。同成果は九州大学病院別府病院の三森功士 教授と、HPCI 戦略プログラム 分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」プロジェクトの東京大学医科学研究所の新井田厚司 助教、宮野悟 教授、および大阪大学大学院医学系研究科の森正樹 教授らの研究グループによるもの。2月18日(現地時間)に米国学術誌「PLOS Genetics」に掲載された。大腸がんは1つの正常な大腸粘膜細胞が遺伝子変異を蓄積しながら進化し、異常増殖することで発生すると考えられている。この遺伝子変異の組み合わせは患者ごとに異なり、さらに同じ患者のがんの中でも異なる遺伝子変異の組み合わせを持つ細胞が1つのがんを構成していることが知られ、腫瘍内不均一性と呼ばれている。ある抗がん剤が効く細胞が腫瘍の大部分を占めているときは抗がん剤が有効となるが、その抗がん剤への耐性を引き起こす遺伝子変異を持つ細胞が存在すると、耐性細胞が増えることでがんは再発してしまう。これまで、多くの大腸がんに関わる遺伝子変異が同定されてきたが、実際にどのように遺伝子変異が蓄積されながらがんが進化するか、また大腸がんにどのような腫瘍内不均一性が存在するかは明らかとなっていなかった。がんの進化や不均一性を調べる方法として、1つのがんから複数の部位を採取し解析する方法がある。今回の研究では、9症例の大腸がんから5~21カ所、合計75カ所の検体採取を行い、解析した。その結果、大腸がんには一塩基変異、コピー数異常、DNAメチル化などさまざまなタイプの遺伝子変異について高い腫瘍不均一性が存在することがわかった。さらに、進化の前半にみられる遺伝子変異で、加齢と関連する異常が特徴的にみられたことから、がん化につながる遺伝子変異が正常細胞に徐々に刻まれていると考えられるという。また、スーパーコンピューター「京」によるシミュレーションと、遺伝子変異解析の結果を合わせて考えると、腫瘍内不均一性はがん細胞に有利になるようん遺伝子変異が選択され蓄積するのではなく、がん細胞の生存とは関係のない遺伝子変異の蓄積による「中立進化」によって生み出されていると推測された。今回の研究により、スーパーコンピューターを用いてがんの不均一性が生まれるメカニズムを理解することが可能となったため、がんの多様化を阻害する治療方法や不均一性を持つ細胞集団に効果的な治療戦略を考える重要な基板となることが期待される。
2016年02月19日京都大学は6月22日、大腸炎に伴い大腸がんを発症するマウスモデルを用いて、腸がん形成進展を促進する大腸での炎症反応がPGE2-EP2経路によって制御されることと、EP2を阻害することが大腸がんの治療につながることを解明したと発表した。同成果は京都大学 大学院医学研究科・次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点(AKプロジェクト)の青木友浩 特定准教授、成宮 周 特任教授らの研究グループによるもので、米国学会誌「Cancer Research」に掲載された。大腸がんの発生・進展には炎症が関係しており、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がリスクを低下させることが知られている。しかし、NSAIDsには副作用があり投与に慎重を要するほか、代替として開発されたCOX-2阻害薬も心血管障害の副作用があるため使用には制限がある。NSAIDsとCOX-2阻害薬はいずれも生理活性脂質である一連のプロスタグランジン(PG)の合成を阻害して効果を発揮する。これはPG経路が大腸がんの発生・進展に関与していることを示しているが、その機序については詳しくわかっていなかった。同研究グループは今回、大腸炎に伴い大腸がんを発症するモデルマウスを用いて、炎症性大腸がんの形成に寄与するPG受容体として、PGの一種であるPGE2の受容体の1つEP2を同定。続いて、がん組織内のEP2発現細胞を検討したところ、腸組織内に浸潤する主要な炎症細胞である好中球と、腫瘍細胞を取り囲むように存在している線維芽細胞(腫瘍関連線維芽細胞)がEP2を発現しており、この2つの細胞種でPGE2-EP2経路が周囲の細胞に刺激を与えるさまざまなタンパク質や細胞の増殖を助ける成長因子の発現を増加させることで大腸がん形成を促進すること、これらの細胞は自らPGを産生してこの経路をさらに増幅していることを突き止めた。また、選択的EP2阻害薬を投与することで、大腸での炎症とがん形成を抑制できることを確認した。今回の研究で大腸がんの促進に働くPGの種類とその作用機構が明らかになったことで、現在使用されているNSAIDsやCOX-2阻害薬を超えた、副作用の少なく、より安全な新規の大腸がんの予防・進展抑制薬の開発につながることが期待される。
2015年06月22日東京工科大学は11月20日、褐藻類シワヤハズ由来の「テルペノイド・ゾナロール」が、潰瘍性大腸炎を抑制することを発見したと発表した。同成果は同大学応用生物学部の佐藤拓己 教授らによるもので、米科学誌「PLOS ONE」11月19日号に掲載された。佐藤教授らが潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いた研究で、褐藻類シワヤハズに由来する化合物であるゾナロールを経口投与したところ、大腸における潰瘍を抑制する効果を確認した。ゾナロールが転写因子Nrf2の活性化に作用し、炎症反応を抑制したと考えられている。褐藻類とは、コンブやワカメなど、褐色をした海産の多細胞の藻類を中心とする生物群。シワハヤズは日本、台湾など北太平洋に分布している。今後は製薬会社や食品会社と連携しながら、医薬品や健康食品への応用、新たな治療法の開発を目指していくという。
2014年11月20日東京医科歯科大学と科学技術振興機構(JST)は8月16日、マウスをモデルとした実験で体外に取り出して培養した小腸上皮細胞を消化管(大腸)へ移植することに成功したと発表した。この成果は、同大学大学院医歯学総合研究科 消化管先端治療学の中村哲也 教授、同 消化器病態学分野の渡辺守 教授、同 水谷知裕 特任助教、同 福田将義 医員らの研究グループによるもので、米科学誌「Genes & Development」にて発表された。同研究グループは2012年に、大腸の最も内側にならぶ上皮組織の幹細胞を体外で増やし、移植することで傷害を受けた大腸の修復が可能であることをマウス実験で確認していた。しかし、小腸について同様に体外で増やした細胞の移植による上皮組織の再生が可能かどうかはわかっていなかった。今回の研究では、肛門付近の大腸に上皮の欠損を生じる大腸傷害マウスモデルを作成し、全身で蛍光を発する別のマウスから小腸上皮細胞を取り出して増やした後に、大腸傷害マウスへ移植。その後経過を観察して体外で増やした小腸上皮細胞を別のマウスへ移植し上皮組織が再生可能であるか、移植片内で再生する細胞はいかなる性質を示すのかを調べたという。大腸傷害マウスを調べたところ、移植直後から蛍光で識別できる移植小腸細胞が大腸組織に接着して新しい上皮を形成し、2週間後には、移植細胞が生体内で分裂・増殖を繰り返すことが判明。4週間あるいは4カ月経過後にも、小腸細胞が移植を受けたマウスの大腸に安定して組み込まれていることがわかり、移植細胞が体内で上皮組織を再生する幹細胞として機能することが確認されたという。次にこの移植片を詳しく調べたところ、増殖を繰り返す細胞群とともに通常の小腸上皮に含まれるすべてのタイプの細胞を含むことから、移植された細胞が個体内で小腸型の上皮幹細胞として機能していることがわかったという。それに加え、移植片内に通常小腸に見られ大腸には見られない特徴が含まれること、その細胞が示す遺伝子パターンも大腸とは明らかに異なることもわかり、実際に小腸型上皮幹細胞に特徴的な形態と機能を持つ細胞を確認することができたとのこと。同研究グループは、これらの結果から、「体外で増やした小腸上皮幹細胞が、たとえ自身が由来する小腸と異なる(大腸)環境に長期間おかれても、小腸型幹細胞としての性質を維持できることも明らかとなった」と結論付け、今後この発見がさまざまな細胞を利用する消化管上皮再生医療技術の基礎となることが期待されるとしている。
2014年08月18日東京大学分子細胞生物学研究所(IMCB)は1月23日、幹細胞マーカー「Lgr5」が、ほとんどのヒト大腸がんで多量に発現していること、そして大腸がんが腫瘍を作るために極めて重要な役割を果たしていることを見出したと発表した。成果は、IMCBの秋山徹教授、同・川崎善博講師らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月23日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。最近の再生医学や幹細胞研究の飛躍的な進歩によって、腸管では「腸管幹細胞」が自己複製すると同時に分化して腸管を形成する機構が解き明かされてきている。このような研究で重要な役割を果たしているのは、幹細胞に多く発現し、幹細胞を特定するための目印の「幹細胞マーカー」となるいくつかの分子だ。Lgr5も腸管幹細胞マーカーの1種で、さまざまな研究に利用されており、また、腸管幹細胞の機能に重要な役割を果たしていることが示されている。なお、Lgr5は「7回膜貫通型タンパク質」の1種で、細胞膜を7回貫通する特徴的な構造を持つタンパク質だ。細胞外の因子を受け取り、細胞内に伝える役割を持つ。一方でがん研究にも幹細胞という概念が導入され、腫瘍を形成しているがん細胞は一様でなく、一部の「がん幹細胞」と呼ばれる細胞のみが強い造腫瘍性を持つこと、さらに、がん幹細胞は、自己複製すると同時に、造腫瘍性の低下したがん細胞に異分化して増殖すると考えられるようになってきた。化学療法や放射線治療によって一時的にがんが退縮しても再発してくるのは、大部分の造腫瘍能の低下したがん細胞が死滅しても一部のがん幹細胞が生き残っている可能性が示唆される。従って、がん細胞における幹細胞性の重要性を明らかにすることは現在のがん研究の最も重要な課題の1つだ。そこで研究チームは今回、幹細胞マーカー「Lgr5」に注目。ほとんどのヒト大腸がんで多量に発現していること、そして大腸がんが腫瘍を作るために極めて重要な役割を果たしていることを見出したのである。例えば、特定の遺伝子の発現を抑えることができる「siRNA」(短いRNA配列)を用いて大腸がん細胞のLgr5の発現を抑制すると、胸腺を欠くため免疫機能が働かないマウス(ヌードマウス)で腫瘍を作る能力が顕著に低下することが明らかになった。一般に、腫瘍を作る能力が低下したがん細胞は、シャーレの中での増殖能が低下したり、細胞死を起こしたりすることがよく知られている。しかし、Lgr5の発現が低下した大腸がんの細胞はこのような性質を示さなかったという。従って、Lgr5の幹細胞性に関わる機能が造腫瘍性に重要である可能性があると示唆されたというわけだ。それでは、なぜLgr5は大腸がん細胞で多量に発現しているのかという点にも研究チームは迫り、大腸がん細胞では転写因子の1種「GATA6」が大量に発現しており、直接Lgr5の転写を活性化していることを見出した。なお転写因子とは、DNAの特定の塩基配列に結合して、遺伝子の発現を調節するタンパク質の総称のことをいう。またその後の解析によれば、大腸がんの細胞ではsiRNAの1種「miR-363」の発現が低下していることがわかり、大腸がんにおけるGATA6とLgr5の大量発現はmiR-363の発現の低下によるものと示唆されたという。miR-363はGATA6の発現を抑制する働きがあるが、発現が低下しているためにGATA6の発現が増加しているという仕組みだ(画像)。今回の成果は、細胞内におけるmiR-363、GATA6、Lgr5の3分子による情報伝達の仕組みががんの分子標的薬を創製する上で重要な標的となることを示唆しているという。今回の研究の成果により、今後、この仕組みを標的とした薬剤が開発され、大腸がんの治療に貢献することが期待されるとした。
2014年01月29日