ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)が今年7月にパリのオートクチュールコレクションで発表した16-17AWコレクションが21日、東京の表参道ヒルズ・スペース オーでインスタレーション形式により披露された。会場内には7つのホログラムのミラーが張られたブースが設営されており、その各ブースをモデルがインターバルをおきながら回遊するという趣向。モデルはマネキン同様に足首が固定され、機械式で回転する仕組みで、モデルの腕が樹脂になっているなど、アンドロイドさながら。今回のインスタレーションのテーマ「UN KNOWN」通り、未知なる世界が展開された。今回発表されたコレクションはパリで発表された作品から1体増え、計13ルック。パリでは発表されなかったアイテムもスタイリングに加えられた。全体を構成するのはホログラムプリントを折り紙のように折ったパーツを、一切ミシンを使用せずつなぎ合わせたユイマナカザトを代表する「ユニット」と呼ばれるライン。細胞が増殖するように連結するユニットは光のプリズムが未来的な印象を与え、パーツはすべて3DCGのデータによってプロッターで出力されるが、そこからの作業はすべてハンドメイド。一着作るのに膨大な時間がかかるという。PVC素材にUVプリントされたホログラムはデザイナーの中里唯馬自身が約6年前から研究を重ね、昨年よりバッグなどアクセサリーで商品化されている。これまで舞台や映画などでコスチュームとして発表されてきたが、コレクションラインとして世に出たのは今回が初めて。来場者がスマートフォンなどで撮った一次画像がSNSで拡散されることを前提に考えられた演出は、この数シーズン海外のコレクションやフラッグシップショップのデザインにおいてもっともブランドアイデンティティを問われる要素。ラグジュアリーであるかどうかが計られるイノベイティブな発想と提案は、今回のAmazon Fashion Week TOKYO(アマゾン ファッション ウィーク東京)のコンテンツのなかでも際立っている。Text: 野田達哉
2016年10月25日伊インテリアブランド・カルテル(Kartell)のフラッグシップショップ「カルテル東京(Kartell TOKYO)」が10月22日、東京港区南青山5-5-4にオープンした。同ブランドは17年1月よりトーヨーキッチンスタイルが日本総代理店として独占輸入販売権を締結しており、東京に先駆けて10月15日に名古屋店(名古屋市名東区一社2-21)にも旗艦店をオープンしている。地下1階地上2階の3層からなる南青山の店舗は、世界中のカルテルのオフィシャルショップや同ブランドの製品のデザインを手掛けるデザイナー、フェルーチョ・ラヴィアーニの店舗デザインで、ソファや照明、日本では初の展開となるフレグランスなど400種類以上のアイテムが並ぶ。今年のミラノサローネで注目を集めた吉岡徳仁デザインの照明「プラネット(Planet)」を始め、昨年4月の同展で発表されたフィリップ・スタルク(Philippe Stark)がデザインした布張りのアームチェア「マダム」にエミリオ・プッチのスカーフコレクション「Cities of the world」がコラボした「マダム・プッチ(Madame World of Emilio Pucci)」、14年に発表された「プレシャスコレクション」など話題作、代表作が一堂に会している。また、エットーレ・ソットサスの復刻ライン「Kartell goes SOTTSASS A TRIBUTE TO MEMPHIS」のチェアやソファも商品として展示されている。「カルテルは日本ではこれまでプラスティック素材のアイテム単品で紹介されることが多く、イタリア本国でのトータルなインテリアブランドとしての認知とマーケットにズレがあった。今後、同様のトータルで見せられるショップを全国で展開していく予定」とトーヨーキッチンスタイルの渡辺孝雄社長は話す。Text: 野田達哉
2016年10月25日ミントデザインズが10月19日、東京・恵比寿のリキッドルームで17SSコレクションを発表した。東京ファッションウィークの期間中ながら、公式スケジュールではなく単独での開催。今春にはブランド初となる路面店を青山にオープンし、東京モードを代表するブランドとして、存在感のあるランウェイを披露した。シーズンテーマの「SUBWAY」からか、NYの地下鉄のグラフィティやステンシル、キース・ヘリング(Keith Haring)のバーキングドッグ風ジグザグパターンなど90'sのストリートアイコンを、ハイテク素材やパンチングなどの最新加工、刺繍、マクラメなどハンドメイドの布地処理で、同ブランドらしい凝ったスポーツウェアに落とし込んだ。星、ストライプ、ボーダー、ドット、チェックなどミニマムな柄をレーシーな素材や立体感のある素材とレイヤード。丈の変化、シャーリングのテクニックなども色数を抑えることで、全体のバランスを新しく表現している。ビッグシルエット、アシンメトリーなシャツブラウジング、ロングスリーブ、フーディー 、ワイドパンツなどのエッジィなトレンドを抑えつつ、デザインコンシャスな姿勢は失われていない。90年代以降、東京が海外のファッションシーンに影響を与えたストリートブランドとは違うポジションで、東京モードを代表するデュオブランドに成長させたデザイナーの勝井北斗と八木奈央。ともにセントマーチン芸術大を卒業後、2001年にブランドをスタートし、2003年に東京コレクションに参加し今回が30回目のコレクションとなる。最近ではフレッド・ペリー(FREG PERRY)とのコラボや、服飾以外のさまざまなプロダクトデザインなど、そのアイデアは常にユーモアとウイットに富み、今後、海外での本格的な展開にも期待がかかる。ショーは21時半を過ぎてのスタートながら、会場には70'sのTD6、80'sの東京コレクションを見続けるジャーナリストやバイヤーの顔ぶれが並び、その注目度の高さを示した。Text: 野田達哉
2016年10月20日来年ブランド創立30年を迎えるイタリアのスニーカーブランド「ルコライン(RUCOLINE)」が、銀座並木通りのフラッグシップショップをリニューアルした。店舗デザインは、雑誌や広告のグラフィックをはじめMV、プロダクトデザインなど活動の幅を広げているアートディレクターの千原徹也(れもんらいふ代表)がプロデュース。ブランドロゴも同店だけ同氏が手掛けた新しいロゴが使用されるなど、イタリアに先行してリブランディングが東京から発信されている。店内には千原氏がディレクションしたという黒のコスチュームが新作スニーカーとプレゼンテーションされ、従来のコンフォートシューズとしてのステイタスから、ラグジュアリースニーカーへとイメージを刷新。今秋冬シーズンより新たに提案されているシャイニーなハイテク素材とマットなレザーとを対比させたアイテムと、和紙、漆、石など黒を基調にしたインテリアによって、イタリアと日本の伝統的な素材と技術を融合させている。Text: 野田達哉
2016年10月19日JTB、日本通運、三越伊勢丹ホールディングスの3社は、アジア、ASEANのインバウンド向けのデジタルマーケティング事業新会社Fun Japan Communications(ファン ジャパン コミュニケーションズ 以下FJC)を共同出資で10月18日に設立することを発表した。さらにJALと業務提携することを発表した。資本金は10億円、持株比率はJTB50%、日本通運40%、三越伊勢丹HD10%。新会社のFJCは日本通運がASEANに進出している日本企業と、訪日増加に向けて現地消費者のニーズを汲み取ることを目的に運営されてきたオンラインメディア「FUN! Japan」をベースに、トラベル、リテール、物流、エアラインの異業種4社でアライアンスを新たに構築。現地ユーザーのニーズとの情報共有のタッチポイントを創出し、日本の細かな情報を発信していくことを目的としている。「FUN! Japan」は現在インドネシア、タイ、マレーシア、台湾で毎日約3本の日本紹介記事を配信。インドネシアでは既に900日を超えるアーカイブを蓄積。サイトは英語ながら、SNSは現地語で発信されており、ユニークユーザー数は日/131万人、月間リーチ数は6,120万。SNSのいいね!数は333万人。WEB会員数は33万人とアジア地域内での日本の情報発信力で高い情報力を誇っている。今後フィリピン、ベトナムでもサービス開始が予定されているという。訪日外国人観光客数は今年の約2,000万人を超えることが予想され、2020年には4,000万人へと倍増、さらに2030年には6,000万人という目標を政府は掲げており、今後インバウンドビジネスにおいて、企業、自治体が抱える共通の課題は、海外消費者の現地でのリアルなニーズの収集。「アジア、ASEANと言ってもそれぞれの国によってニーズはまったく違っており、成功のポイントはアジア新興国の旅行客をいかに取り込むか」(高橋広行・JTB代表取締役社長)、「海外で商品を売りたいという国内企業に対して、的確な現地の情報を提供していくことが必要」(渡邉健二・日本通運社長)と、異業種によるデータ共有によるデジタルマーケティング事業が新会社の業務目的となる。「多様化するニーズのなかで、海外からの潜在的な要望を取り込んで展開していくために、業界を超えてインバウンドのお客様に対して商品のメッセージ性を伝えて、プロダクトアウトしていくためのプラットフォームが出来たことは非常に有意義。三越伊勢丹の役割としては、既に展開してきている日本のプロダクトを紹介しているJAPAN SENSES(ジャパン センスィズ)を今回のプラットフォームで紹介し、拡大していくことが重要」と大西洋・三越伊勢丹HD代表取締役社長。同サイトの情報発信力を生かして「地方創世に向けて自治体との連携を強化し、日本のモノやコトを発信していく」と藤井大輔FJC社長は話しており、ソーシャルプロモーション、市場調査、消費者データベースを活用したマーケティングサービスが事業の柱となる。Text: 野田達哉
2016年10月18日シアタープロダクツは10月12日、原宿VACANTで17SSコレクションをインスタレーション形式で発表した。会場にはマネキンとモデルが混在、カーペットの上に商品が置かれるなど、アフリカや中東のスーク(市場)を思わせるプレゼンテーション。前シーズンの近未来の月旅行と一変して、リアルに地球で生きる人々のスタイルがモチーフとなった。アフリカンファブリックのカンガをイメージさせるプリントや、ムスリム風のヒジャブ風ドレス、カフタン、サリーのスカートなど、アフロ、アラブ、アジアなどファッションにおけるエスニックを、今シーズンのテーマである「GOLDMINE(=ゴミの山は誰にとっても宝の山)」を軸にコレクションは構成されている。ヒンズー語でシアタープロダクツとプリントされたニット、PVで作られたハンドクリームの空箱モチーフをTシャツに付けたデザインのTシャツや、頭に巻いたスカート、頭にのせたり、首から下げたバッグなどはじけ具合はシアタープロダクツならではの表現。ギャザー、シャーリングのボリューム変化、レイヤード、布の巻き方などステレオタイプなスタイリングのタブーを見つめ直すことで生まれる新しい価値観を楽しんでいる。リサイクル素材も意識的に使用されているが、奄美大島の泥染めやタイダイ、ハンドペイントのテレコなどオリジナルテキスタイルもコレクションのテーマに合わせ、海を渡ってきた漂流物のイメージ。今回行われたインスタレーションはJFW(日本ファッション・ウィーク推進機構)が17日からスタートするAmazon Fashion Week TOKYO(アマゾン ファッション ウィーク東京)」初日にも、一般に向けて行われる。Text: 野田達哉
2016年10月14日広汎性発達障がい、解離性障がいがありながらも、数々のコンクールに入賞し、5年ほど前からソロコンサートを開いている宮崎出身のピアニスト、野田あすか。彼女が初めて東京でのソロコンサートに挑む。野田あすか ソロコンサート今回のコンサートは二部構成。前半では、ショパン「幻想即興曲」、ドビュッシー「2つのアラベスク」第1番といったクラシックを予定しているが、なんといっても注目は、後半に彼女が演奏する自作曲の数々だ。「この1年間に作った曲から何曲か弾きます。『あしたに向かって』は、明日に向かってがんばるエネルギーを充電して、爆発させるイメージの曲です。いつもがんばれるわけではないから、エネルギーを貯めるためにひと休みしたり、心をゆったりさせたりするところもあります。そういう、私の中のエネルギーの動きを曲にしました。また、『しあわせのプレゼント』を作った時は、まわりのひとや、ステージでわたしを包む光や音などを、表現したいと思いました。前半は、私がメロディで、その周りを、人や光の伴奏に包んでもらっています。後半は、幸せのメロディーを音にしました」幼いころから、障がいが原因で、いじめや転校、退学、自傷、パニック、右下肢不自由、左耳感音難聴などでの入退院を繰り返してきた野田。今も腕にはリストカットの傷が残る。しかし、今の彼女にあるのは感謝の気持ち。その情感豊かな演奏にも、紆余曲折を経て辿り着いた、明るさや優しさがあふれている。「私は今まで周りのみんなに迷惑をかけたり困らせたりしてきました。でも、ステージで演奏させていただくようになって、自分だけが練習して自分だけが舞台に立っているのではなく、たくさんの方に支えられて励ましてもらっていたことに気づいたんです。また、舞台のお手伝いをしてくれるひとやCDを聴いてくれるひとがたくさんいるんだとわかりました」他の楽器を弾いた経験もあるそうだが、ピアノのどこに魅せられたのだろうか?「ヴァイオリンやトランペットならひとつの音を自分で伸ばしたり、音を大きくしたりすることができるけれど、ピアノの音は、一度鍵盤を叩いたらあとは消えていく。その一音一音が切ないの。大事に弾き過ぎて、先生に『ちょっと遅い』と言われてしまうこともあります」はにかむように笑う姿が印象的だが、その言葉や音には、常にしなやかな強さがある。「東京でソロで弾くのは初めてなので緊張もしているけれど、心を込めて、みなさんがほっこりにっこり帰ってくれるように弾きます。いつもの私のコンサートでは泣いている人もいるけど、最後はみんな笑顔なので、ぜひ自由に楽しんでほしいです」公演は10月19日(水)東京・王子ホールにて。チケット発売中。取材・文:高橋彩子
2016年10月11日三越日本橋本店が7月25日付けで重要文化財に指定された。同店は1914(大正3)年に本館を竣工、1921(大正10)年に増改修工事を終えたが、1923(大正12)年に関東大震災による火災で被害を受け、駆体の鉄骨、床スラブを生かしつつ1927(昭和2)年に7階建ての建物として完成。6階の三越劇場もオープンさせた。「西洋古典様式を基調とした重厚な外観をもち、内部では格調ある色調で彩られた三越劇場、五層吹抜けの中央大ホールなどを中心に、各時代の先駆的な意匠を用いて華やかに装飾している。様々な集客のための仕組みを取り入れながら増改築が重ねられており、我が国における百貨店建築の発展を象徴するものとして価値が高い」と文化庁は選考理由をあげている。設計は戦前の商業建築を多数手掛けた横河工務所(現:横河建築設計事務所)によるもので、新館から後の増床まで一貫して同社が担当した。アーチを用いない水平、垂直を強調した構成、高塔(金字塔)や中央ホールの手すりグリルやガラスなどのアールデコ風装飾は、フランスの室内装飾家ルネ・ブルーの手による特別食堂とともに、外観と内装部に統一感を持たせ、古典様式と当時の新しい潮流を取り入れた濃密な空間として、今日に受け継がれている。今回の文化庁の審議会で重要文化財指定を受けたのは、愛媛県大洲市・臥龍山荘、宮城県仙台市・東北学院旧宣教師館、福島県伊達市・旧亀岡家住宅、群馬県太田市・旧中島家住宅、東京都豊島区・雑司ヶ谷鬼子母神堂、石川県輪島市・旧角海家住宅、三重県松阪市・旧長谷川家住宅、滋賀県大津市・延暦寺など12件の建造物。Text: 野田達哉
2016年08月08日前シーズン同様に、セルビッチデニムを使用したデニムのリコンストラクトからコレクションがスタートしたガンリュウ(GUNRYU)の17SSコレクション。インディゴデニム、ヒッコリーストライプ、コットンツイル、スウェットなどワークウエアをベースにした素材やアイテムを、凝ったパッチワークやイレギュラーなパターンをクールに合わせてしまうグラフィカルなテクニック。全体のスタイリングをまとめるボトムスのバランス感は秀逸だ。今シーズンからメンズのみの展開となったアイテム。モデルは全員グラムなメイクで彩られ、ボーダーやギンガムチェックのシャツのグラフィックパターンはメンフィスデザイン風にパターン処理されている。ネオンカラーのコットンサテンのアイテムのカラーパレットや、ジオメタリック柄のニットなどは80年代初めのロンドンニューウェイブを先導したクラバーたちが、プレッピーにファッションソースを求めた時代を彷彿とさせる。単にファッションのノスタルジアにテーマを求めるのではなく、カラビナとストラップでアウターをアクセサリーに変えてしまうアイデアなど、ブランドのシグニチャーとなる要素が随所に登場。機能性とは無縁のパンクのボンテージパンツとは違い、街やフェスなどで機能する時代を読み込んだデザインが、このブランドの立ち位置とそのタレント性を十分に表現している。Text: 野田達哉
2016年07月22日RADWIMPSのヴォーカル、野田洋次郎のソロプロジェクト「illion」が2016年10月12日(水)にアルバムを発売予定だ。RADWIMPS(ラッドウィンプス)は、その独特の歌詞と音楽性で多くのファンを魅了し続ける4人組のロックバンド。2016年3月には、彼らのドキュメンタリー映画も公開され、益々注目を集めている。ヴォーカルの野田洋次郎は、2012年からソロ活動を開始し、ファーストファーストアルバム『UBU』をイギリスやドイツなど、世界8ヵ国で2013年にリリースした。より前衛的な楽曲が並び、また海外での活動を視野に入れ、多くの楽曲が英語詞で構成されており、海外のオーディエンスにも大きな支持を得ている。注目のアルバムには、2016年7月15日(金)より全世界先行配信が開始された新曲「Water lily」を含めた全10曲を収録予定だ。また、初回限定盤は、CD+DVDの2枚組で、新作アートワークをフィーチャーしたアートブックが付属する。DVDには、ロンドンで行われた初ライブの映像や、街頭ビジョンのみで公開されていたAbbey Road Studiosでの「BRAIN DRAIN」スタジオライブ映像、「MAHOROBA」「BEEHIVE」のミュージックビデオなどが収録される。【詳細】illion アルバム ※タイトル未定発売時期:2016年10月12日(水)価格:・初回限定盤 (CD+DVD+アートブック) 3,500円+税 ・通常盤 (CD) 2,500円+税 ■CD収録楽曲「Water lily」ほか10曲収録予定■DVD収録内容(初回限定盤のみ)・Live at London, O2 Shepherd's Bush Empire 2013「BEEHIVE」「LYNCH」「γ」「MAHOROBA」「BRAIN DRAIN」「GASSHOW」・Music Clip「BRAIN DRAIN (Performed in Abbey Road Studios)」「MAHOROBA」「BEEHIVE」「MAHOROBA (Music Clip Making)」
2016年07月18日ビズビム(visvim)が6月16日、伊フィレンツェのボーボリ公園で初のランウェイ形式による17SSコレクションを発表した。第90回ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)のゲストデザイナーとして招待されたもので、メンズとともにウイメンズ(WMV)のコレクションも披露された。欧米のメンズバイヤーが東京でのショッピングで必ず立ち寄ると言っても良いほど海外でも高い知名度を誇るビズビムが、ピッティウオモで初のランウェイを発表したのは至極、自然。今回もその幅広い世界観と偏執的ともいえるクリエーティブへのこだわりに対して、大きな賛辞とともに迎えられた。一方で、イタリアンクラシコ、イタリアンモードをベースにエキシビションを拡大してきたピッティウオモに、アメリカンカルチャーをベースにもの作りをしてきたビズビムがフィレンツェの地に招かれた事実は、イタリアの若い世代がこの数年で変革しつつあるアメリカンカジュアルへの憧憬を、クラシコの聖地の住人たちも認めざるを得ない、という伊国内のメンズマーケットの大きな変化を感じさせる。それは、NYに住みながらデザイン活動を行う中村ヒロキという日本人のレイヤーがあってのことかもしれない。昨年よりメイド・イン・USAブランドを集積した新館ブースを新設したピッティ側からの、国内マーケットに対するヒントであったようにも見える。コレクションは刺し子、抜染、半纏といった日本の伝統を取り入れつつ、デニムやスウェット、などワークウエアを中心にアメリカンヴィンテージをトレンドとは一線を画しビズビムらしく表現。古き良きアメリカンシネマのように明るい気分を醸し出すイメージは、今のメンズシーンにおいて貴重な存在だ。Text: 野田達哉
2016年06月24日ラフ・シモンズ(Raf Simons)がピッティ・ウオモ(PITTI UOMO)に戻ってきた。2003年を最初に2005年に自らのコレクション、2011年にはジル・サンダーのクリエーティブディレクターとしてこれまで同展でコレクションを発表してきたラフ・シモンズが、第90回ピッティ・イマジネ・ウオモで17SSメンズコレクションを発表した。昨年秋にディオールのクリエーティブから離れ、注目されたコレクションは会場に過去の自身のアーカイブをマネキンで展示。新作の17SSメンズコレクションはロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)の作品を、自らの20年にわたるアーカイブに重ねるように生地にプリント。たっぷりと用尺を取ったシャツやコート、ニットなどは構築的でありながらミニマムなデザインで、自身のテーマである“PRIDE IN INDIVIDUALITY(個性こそ誇り)”をアートなセンスとともにフィレンツェの地で再確認するように魅せた。パティ・スミス(Patti Smith)やローリー・アンダーソン(Laurie Anderson)、ウィレム・デ・クーニング(Willem de Kooning)などメイプルソープの白黒写真がプリントされたアイテムをベースに、ボトムスはほぼ黒。コレクションのブリッジとして登場する赤とコバルトブルーの色使いとレザーのエプロン、茶、紫、緑の差し色、チェック、ストライプのシャツがラフらしいイノセントな“ユース”を象徴している。Text: 野田達哉
2016年06月21日イタリア・フィレンツェで6月14日に開幕した第90回ピッティ・イマージネ・ウオモの2日目に、ゴーシャ・ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)が17SSコレクションを発表した。今回のピッティウオモのメイン・ゲストデザイナーとして招かれたロシア人デザイナーのラブチンスキーは、2008年のブランドデビュー以来、モスクワのストリートカルチャーを代表するスケーターファッションをイメージソースとしてきたが、今回の17SSコレクションでは、彼が牽引してきた“ユースカルチャー”から離れ、スーツ、ジャケットスタイルを発表。ストリートファッションの継承として、日本でも80年代にブームを起こしたフィラ(FILA)、カッパ(KAPPA)、セルジオ・タッキーニ(Sergio Tacchini)といったイタリアのスポーツブランドのロゴをあしらったアイテムをルックの要に取り入れ、ウィットに富んだモスクワっ子らしい表現で、今のメンズのモード感を打ち出した。これまでのプレゼンテーションでは自身のジンを発表してきたが、今回はランウェイと共にショートムービーが公開され、彼のクリエーションのベースにあるフォトグラファー、映像作家としての活動も同時に表現された。Text: 野田達哉
2016年06月21日今年10月、マレーシア・クアラルンプールにオープンするスペシャリティストア「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」の概要が6月7日発表された。同事業は2013年に海外需要開拓支援を目的に官民ファンドとして設立されたクールジャパン機構と三越伊勢丹グループが共同出資会社をマレーシアに設立したことからスタート。これまで百貨店として運営されてきたクアラルンプール伊勢丹LOT10店を全面改装し、新店舗として再構築される。「2年半前にクールジャパン機構が発足した翌日に大西社長にお会いして、全館丸ごとクールジャパンというような館を作れないかと相談した。その後、ASEANを回ってクアラルンプールにぴったりな店舗をお持ちだったので、このプロジェクトが実現に向かって走り出した。既に海外に“ジャパン”は沢山展開されている。我々が提案したいのは“カッコいいジャパン”。“ファッションの伊勢丹”とならそれが実現可能だと考えており、オープンに向けてワクワクしている」と株式会社クールジャパン機構の太田伸之・代表取締役社長。1万1,000平米の売り場面積で展開される同店の環境デザインには、伊勢丹新宿本店婦人服フロアをはじめとする再開発を担当した丹下都市建築設計の丹下憲孝とグラマラスの森田恭通を起用。6層のフロアはほぼすべてメイド・イン・ジャパンの商品で構成され、各フロアを日本庭園に見立て、それぞれにテーマ性を持たせた東屋(あずまや)を配置し、回遊する形式を想定している。「全館を日本というワンテーマで設計しており、一般的なデパートメントストアとは異なる存在。This is Japan を実践していく海外店舗として、日本の文化や様式を新しい価値として現地の人々の生活の中にインストールしていくことが重要だと考えている。そのため、従来の経産省分類とは違った展開分類で編集することで、テーマストアとしての性格を明確にした」と三越伊勢丹ホールディングス海外MD部の中川一部長が説明するように、商品分類を「雅・粋・繊・素」の4つの美意識、展開分類を「食べる・暮らす・過ごす・楽しむ・学ぶ」からなる5つの掛け合わせで編集されている。日本の1階にあたるグランドフロアのメインエントランスには建築家・田根剛と京都の千總のコラボレーションによるインスタレーションを東屋として、全館の品揃えを象徴する4つのエレメントをインデックスとして配置。ファッションはシンガポールを拠点に活躍するクリエイター、テセウス・チャンによるストアオリジナルのライフスタイルを提案するゼネラルストアでアジアと日本のコラボを実現する。また、深川製磁、堀口切子など竹、紙、漆などの素材をラグジュアリーに編集した雑貨や、日本が誇るテクノロジーを使ったアイテムを展開。1階はASEANのファッションピープルに向けて日本のストリート、ポップ、モードなどのカルチャーなどの情報発信基地として、マッドストア アンダーカバー、Y3、ポーター、オニツカタイガー、アンリアレイジ、アソビシステム、STRICT-G 、カラー、トーガ、N.ハリウッド、マメ、ミュベール、タロウ ホリウチ、ジョン ローレンス サリバンなどのブランドを集積。また、伊勢丹新宿本店の東京解放区の全国版、都道府県解放区「Find Japan」やTime Out Tokyoのカフェなども計画されている。2階は日本の素材や技術を生かした日常使うアイテムを集積したライフスタイルを提案し、東京西川のAir、UCHINO、マルニ木工、NUNO、ミナペルホネンなどとともに、資生堂、コスメデコルテ、アルビオン、SK-II等の化粧品とウェルビーイング、またアジア初出店となるUKAのサロンも予定されている。3階はセレクトブックストアや日本の文化を和空間の中で学ぶアカデミー、アニメクリエイター養成講座など座学、JTBとのコラボによるトラベルサロンなどイベント、カルチャーを軸としたフロア、4階はレストランフロア、地階は食のスタイルを提案するフード、イートインという構成。初年度の売り上げは1200万マレーシアリンギット(約35億円)、140万人の入店客数を見込んでいる。「2011年に経済産業省がクールジャパンの取り組みをスタートした時に、果たして我々が日本の良いモノをどれだけ理解しているかということを全社的に再確認した。クールジャパン事業は従来の営業施策のJAPAN SENSESから、企業メッセージのThis is japan へと規模を拡大し、弊社としても優先順位の高い取り組みとなる。今回のLOT10店は我々が日本を代表して、本格的に“カッコいい日本”を紹介していく最初の店舗となる。その意味でも緊張感を持って臨んでおり、その商圏はマレーシアだけではなく世界だと考えている。プロダクトはもちろんだがコトを含めて提案し、おもてなしに関しても米国で学んだ6名のスタッフがチームなでしことスタイリストを育成するなど、これまでの海外店舗とは違ったよりきめ細かい快適なサービスを心掛ける」と三越伊勢丹ホールディングスの大西洋代表取締役社長は話す。また、9月末にクアラルンプール店に先駆けてパリ日本文化会館内に「The Japan Store ISETAN MITSUKOSHI PARIS」が、90平米の面積でオープンを予定。ストアデザインはクアラルンプール店グランドフロアでインスタレーションを行うパリ在住の建築家・田根剛が担当。同店のオープニングと企画して、三越銀座店のリモデルグランドオープン時に好評を博した「CHABAKO(茶箱)」のプレゼンテーションが計画されている。Text: 野田達哉
2016年06月07日ミラノサローネと並びパリで開催される世界的なインテリア・プロダクトデザインの総合見本市パリ メゾン・エ・オブジェに今年1月に出展した日本ブランドの凱旋企画展が6月1日より日本橋三越本店でスタートした。同展は日本で唯一公式にパリのメゾン・エ・オブジェより冠の使用を認められているイベントとして、昨年10月に第1回凱旋展を開催。2回目となる今回は本館1階ホールと本館5階リビングフロアで行われ、日本の伝統技法、繊細な技術をモダンなデザインで表現し、パリでも高い評価を得た日本のライフスタイルブランド16社1団体がポップアップで紹介されている。1階ホールは7日まで、5階は6月28日まで開催される。前回に引き続き、京都とミラノにデザインスタジオとショップを持つスフェラ(SFERA)が1階と5階の両フロアで展開。ドイツにアトリエを構える名古屋の有松絞りをベースにしたプロダクトを展開するスズサン(SUZUSAN)も引き続き出店。重要文化財の指定を受けたフランス産赤斑大理石とイタリア産卵黄色大理石を張りつめた1階中央ホールで、新しい日本のイメージを担うデザインプロダクツが天女像を背景に並んだ。1階同ホール(7日まで開催)ではミラノサローネやフランクフルトのアンビエンテなどの国際見本市でも高い評価を得ている”組子”の技法をを小箱やオブジェなど立体で表現した新潟上越市の猪俣美術建具店のKinomo、彫刻家の高橋靖史氏が手掛けJR九州のななつ星のドアハンドルとしても使用されている木製ドアハンドルのブランド・すがたかたち、秋田の丸松銘木店の職人による編み込みの化粧板ALMAJIRO、色紙を合板に挟み込むことで美しいストライプの木口を実現した北海道の滝口ベニヤのペーパーウッドといった木工ブランドと共に、ファニチャーラグのZAPPETO、創業100年を超える京都・川並鉄鋼の切削加工技術をデザインに応用したメタルアートMETALSPICE、毛先にナノミネラルコーティングを施すことにより水だけで磨けるという歯ブラシMISOKAを開発した大阪箕面の夢職人のブースを設置。パリ以外では国内で初めて一堂に会し、実際に商品も販売されている。また本館5階ギャラリー・ライフ・マイニングでは、ニューヨークで高い評価を得ている布のテクスチャーをセラミックで表現したテーブルウェアを制作するOVOセラミックス、淡路島のお香と播磨のマッチというそれぞれの老舗がコラボしたお香hibi、鳥取の伝統的手漉き和紙技術を背景にモダンなランプシェードなどで提案する谷口・青谷和紙、新潟・燕市のカトラリーなどを手掛ける青芳製作所、1891年(明治24年)創業の手刷り木工版画の老舗、京都の竹笹堂、光学ガラスを使った祈りの道具FROM NOWHEREを開発したカドミ光学、“はがせる” 水性塗料のマスキングカラーなど、自社の技術を現代の生活に向けて開発する老舗のメーカーの注目商品が並ぶ。また、同エリアでは江戸切子や東京七宝、江戸更紗、江戸指物、江戸銀器、染工、木版、組紐、刷毛、御簾、網代編みなど東京の伝統工芸品を世界に発信するプロジェクト「東京手仕事」の製品も展示販売されている。Text:野田達哉
2016年06月04日レニー・クラヴィッツ(Lenny Kravitz)の『アゲイン(again)』のMVのロケ場所として使用され、多くのミュージシャンやモデル、セレブなどに愛されていることで知られるNYダウンタウンの人気レストラン「カフェ ハバナ(Cafe Habana)」が5月28日に代官山(東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビル1階)にオープンした。メニューは自家製のローストポークにハムとチーズをたっぷり挟んでチポトレマヨネーズが特徴のキューバンサンドイッチ「クバーノ」(1,400円)や、チーズとチリパウダーがたっぷり掛かった焼きトウモロコシ「グリルドコーン」(1本700円 1/2本400円)などNY本店の人気メニューのほかに、照り焼きチキンやセビーチェ、グリルドガーリックツナなど日本のオリジナルメニューも追加されている。フードトラック風のファサードにはNYスタッフのアートワーク、忍者がトウモロコシを囓るキュートなイラストが描かれ、店内はイエローを基調にキューバ音楽とメキシカンカルチャーをイメージさせるイラストなどで、アーバンリゾートのポップなヴィンテージレストラン風。4月にはクラブSANKEYSがオープンし、サンドイッチ、ファッションの人気店が集まり、最近熱い並木橋エリアにまたひとつ新たな人気のスポットが加わった。カフェ ハバナは、1997年にオーナーのショーン ミーナン(Sean Meenan)がメキシコシティにあるLa Habanaにインスパイアされて、NYのNOLITA地区に1号店をオープンし、現在ブルックリン、カリフォルニアのマリブ、ドバイにも店舗を展開しており、ニューオリンズにも近日新店舗がオープンする予定。アジア初出店となるこの「Cafe Habana TOKYO」はサマーソニックなど年間10以上の音楽フェスを主催している洋楽プロモーターのクリエイティブマンが初の飲食事業としてオープンした。「15年ほど前からニューヨークに行くたびに訪れていて、10年ほど前から何か新しいことをやりたいと思っていたときに、この店を日本で展開したいと考えるようになっていた。メニューはもちろん、飾らないダイナーのような雰囲気にいつも元気をもらっていたお店」と清水直樹・クリエイティブマンプロダクション社長は話す。Text: 野田達哉Photo by Tatsuya Noda(c)
2016年05月28日ミラノのアイウェアブランド「スーパー バイ レトロスーパーフューチャー(SUPER BY RETROSUPERFUTURE)」の人気モデル5型をアームまですべてレンズで使用した限定モデル「テュトレンテ(TUTTOLENTE)」が、6月8日から21日まで伊勢丹新宿店メンズ館2階のポップアップショップで先行発売される。同限定モデルは昨年もパリのコレット、香港のレーンクロフォード、マイアミのウェブスターなど世界でも有数のセレクトショップで販売され、話題となった。テュトレンテはイタリア語でオールレンズの意味で、その名の通りレンズと接合部分の金属パーツの2つの部品のみで構成され、軽量でカラフルなミラーフィニッシュとオールブラックの2つのシリーズで展開される。2007年にイタリアの雑誌『PIG MAGAZINE』の発行人らが、雑誌のスタイルに合うサングラスないことから、ミラノでスタートした同ブランドは、ミラノの職人によるハンドメイドのフレームに、レンズはドイツのカールツァイスというこだわりの仕様。ニューヨークにフラッグシップショップがあり、A.P.Cやマーク ゴンザレス、アンディ ウォーホル財団、ジョルジオ・モロダーなどとのコラボを展開。カニエ・ウエスト、ビヨンセ、レディー・ガガ、ジャスティン・ビーバーなど数多くのセレブが愛用していることで、高い人気を得ている。Text: 野田達哉
2016年05月26日三越日本橋本店の2020年を最終年度とする再開発(リモデル)計画の概要が発表された。2017年より順次リモデルを進め、2018年春に第1期グランドオープンを予定しており、環境デザインは建築家の隈研吾が担当する。同店は2014年3月に「カルチャーリゾート百貨店宣言」を行い、あたらしい形の百貨店への具現化を宣言。本館7階にカフェを軸とした体験型複合ショップ「Hajimarino Cafe(はじまりのカフェ)」をオープンするなど新しい試みを各売り場で提案してきたが、リモデル全体の具体的な内容に関して発表されたのは今回が初めて。第1期の投資額は約120億円。2020年春までに200億円規模を見込んでおり、2020年度に2016年度との売り上げ比10%増を目指す。因みに同店の店頭売上高(1~12月)は2012年101.8%、2013年103.8%、2014年101.9%、2015年100.5%と堅調に推移している。同店は1904年に呉服店の越後屋から三越百貨店へと“デパートメント宣言”を実施。「当時における流通業の大冒険を行った先人の勇気に習って、我々も変革を目指す」と中陽次・三越伊勢丹執行役員三越日本橋本店長。同店は2004年に新館をオープンし、2006年に本館地階と1階の耐震改修工事を実施したが、全館リモデルを行うのは数十年ぶりのこととなる。今回のリモデルでは顧客のグループ化を従来の年齢、性別などの「属」から、趣味、価値観で考察する「族」への考え方にシフトすることで40歳代の客層増を狙う。具体的なMD構成として従来のプレステージゾーンの上位にアート&オーダーを置き、衣(+飾)食住遊のカテゴリー構成比として「あそび(遊)」(美術・呉服・学び・スポーツなど)の展開面積を増やし、接客も同店のDNAでもある呉服の”座売り型“に見直しを図り、品揃えも広さより深さを追求していく方針。「従来のファッションの金太郎飴状態の百貨店業態から、文化軸の百貨店を目指すには日本橋三越は最適な店舗。歴史的に好立地であったが交通網などの変化によって立地環境が変化し、高齢化などによる同様の悩みを持つ百貨店は全国に80%以上あると想定される。あたらしい百貨店の歩むべき道のひとつの指針となるべきリモデルを目指す」と中店長は話す。第1期再開発計画では本館1~3階、新館1~2階を対象範囲に、本館上層階と新館を中心に「あそび文化」を展開。リモデルの象徴となるフロアとして新館1、2階に複数のコンテンポラリーアートのギャラリーを新設し、現在本館6階の美術にある5つのギャラリーが本館新館含め10箇所に増える。「単にインテリアデザインだけではなく、環境を含めたリモデルという人選から、適任ということで依頼した」(中店長)という隈研吾のデザインは、カルチャーリゾートというテーマから、開放感と、聞く接客を実践できることを環境コンセプトに、人が集まる“樹”と人が流れる“道”を中心に構成。それぞれのフロアは森をテーマにデザインされる。Text:野田達哉
2016年05月23日三越伊勢丹HDは5月11日、2018年度営業利益500億円達成に向けての3カ年計画の追加施策を発表した。仕入構造改革によるSPA事業化の推進、EC事業、ポイント戦略による新規顧客獲得、経費構造改革などを国内百貨店事業における計画必達の最重点項目に挙げた。「百貨店の売上は人口構成ピラミッドなどを見ても、今後伸びない。IT関連の通信費がモノ消費のマインドを圧迫しており、中間層の消費の伸び悩みは継続していく傾向。特に衣料品の落ち込みが目立ち、婦人服における国内大手アパレルのNBが苦戦。MDミックスによるリスク負担による差益低迷への対応を図るためには仕入構造改革をさらに進め、今後SPA事業化の推進を図らなければ、(2018年度営業利益)500億円には到達できない。インバウンドの売上は前期(2015年度)1.8倍と増加したが、本来売上目標値として設定すべきではないと考えている」と三越伊勢丹HD・大西洋代表取締役社長執行役員は2016年3月期の決算発表で説明した。同社の2016年3月期(2015年度)の連結決算は売上高1兆2872億円(前期比101.2%)、営業利益331億円(同100.1%)、経常利益367億円(同106.2%)と増収増益。三越伊勢丹百貨店事業単体では売上高6790億円(同103.5%)、営業利益243億円(同101.2%)、経常利益256億円(同98.4%)。基幹店は堅調に推移したが、地方店が消費増税のマイナス影響から回復できておらず、期初の目標を下回る結果となった。また商品カテゴリー別でも衣料品が第2四半期より前年割れの状態が継続しており、婦人服は前期比97.5%と35億円の減収。売り上げ構成比も1.2ポイント低下した。好調を続けてきた宝飾品も円高株安傾向から第4四半期より陰りが見えはじめている。大手アパレルのブランドの集約や廃止などによる売場撤退が相次ぎ、「お買場の商品を埋めるに自社で開発していかなければいけない」(大西社長)という地方店の現状から、今回の3カ年計画の追加施策の核となる仕入構造改革を当初計画の200億円以上から300億円以上に上乗せ。3カ年で50億円の営業利益増益を目指すため、SPA事業化の積極的な推進を図る。SPA事業の具体的な売り上げ計画は、2015年度の売上実績が9億8000万円と好調にスタートを切った婦人靴ナンバー トゥウエンティ ワンの18年度30億円を軸に、イセンタンメンズが18年度20億円、スライス・オブ・ライフ同15億円、BPQC同20億円、イセタンタータン同15億円のSPAコンテンツで合計100億円規模の売上を計画。まず支店・地域店への拡大(社内卸)、国内外の有力百貨店、セレクトストアへの卸(別会社化)、外部出店(SPA事業)へとステップを踏んで、取り組み拡大を図る。また多くの課題を抱える支店・地域店は、従来の大規模店舗をベースとした設計では事業構造が成り立たなくなりつつあるため、新たな店舗モデルの構築が急務と判断。自主MDゾーン(面積シェア70%)ではクイーンズ伊勢丹や三越伊勢丹トランジットなどによるフーズ&カフェ20%、SPAコンテンツ25%、レディ フォア ザ ウィークエンド、イセタン ミラー、リ・スタイルなどの自主編集コンテンツ55%の面積比率をベースに再構築を図る。テナントアソートゾーン(面積シェア30%)に関しては、ファストアファッション系ブランドを導入していない同社の方向性から、シニアサロンや医療モール、カフェなど自社開発のライフスタイル型テナントコンテンツの導入を図り、本店連動型のローコストオペレーションによる中小型店舗運営モデルを運用していく。その中小型店事業に関しては既に2015年度で12店舗32億円と成長軌道に乗ったイセタンミラーは2018年度25店舗70億円を計画。空港ストアも3店舗とも黒字化を達成、イセタンサローネは六本木ミッドタウンが目標の70%とやや苦戦している状況ながら、名古屋ビルヂングのイセタンハウスは順調に推移。2018年度には合計40店舗、売上高160億円(15年度実績23店舗・66億円)を計画している。EC事業の2015年度売上高は114億円で百貨店ECビジネスで黒字化を達成。2018年度には売上高300億円、営業利益16億円を計画しており、ラグジュアリーサイト、越境ECなど外部出店も今期中にスタートする。また、今期より情報戦略本部を新設し、これまで取り組んできたデジタル化の取り組みを統合。今期よりスタートしたTポイントサービス開始などによる新規顧客の創出や店頭ICTの強化、データ分析などによりマーケティングビジネスへの参入などの可能性も探っていく。■基幹3店舗の2015年度売上高基幹3店舗の2015年度店舗別売上高と2016年度の計画は、伊勢丹新宿本店2724億円(前期比105.4%)で今期計画は108.7%。三越日本橋本店1683億1600万円(同101.7%)で今期は107.3%を計画。三越銀座店852億9200万円(同114.6%)で今期は109.2%を計画。基幹3店舗に関しては3カ年計画で200~250億円の集中投資を図り、100億円の増益を達成を見込む。連結ベースでは2016年度売上高1兆3600億円(同105.7%)、営業利益370億円(同111.8%)、経常利益380億円(同103.5%)、当期純利益260億円(98.1%)を計画している。Text:野田達哉
2016年05月20日ロンドンのジュエリーブランド「バニー(BUNNEY)」が5月28、29日の両日、トゥモローランド渋谷本店でジュエリーの刻印イベント「BUNNEY Hand Engraving workshop "Monogram"」を行う。当日は同ブランドのディレクターのアンドリュー・バニー(Andrew Bunney)と英国王室御用達の彫刻職人が来日し、その場で購入者のイニシャルをモノグラムにして刻印する。バニーは2009年にブランドがスタート。スターリングシルバー、ゴールドなどを使用したモッズ、パンクなどロンドンのストリートカルチャーのシグニチャーアクセサリーの(缶)バッジやスタッズなどをミニマムなデザインで表現したアイテムを提案。ストリートカルチャーをベースにしたラグジュアリーなジュエリーとして、日本でもコアなファンに人気を得ている。今年1月から3月にかけて、モッズの象徴であるベスパ(Vespa)のテールランプ、ステップ、サイドミラーなど主要パーツを手作業のハンマー加工で制作したバニー・カスタマイズモデルのPX150がドーバー ストリート マーケット ギンザ(DSMG)、ユナイテッドアローズ アンド サンズ、トゥモローランド渋谷店、ヴァルカナイズ・ロンドン青山などを巡回して展示されたことでも話題を集めた。各アイテムには英国認定機関による銀の品質保証であるアッセイ・オフィス(Assay Office)のホールマークが打刻されており、ジュエリーへのモノグラムの刻印は、今回のみ特別に行われるという。28、29日のイベント両日は、ロンドンのワークショップの職人が、バッジやプレート付きバングルなどにその場で刻印のパフォーマンスを行い、イベント終了後の30日から6月5日まで、同店で刻印の受注を受け付ける。商品の到着は1~2ヶ月後。なお、刻印にはジュエリー本体価格とは別途、刻印料がかかる。同ブランドのディレクターのアンドリュー・バニーはこれまでに(アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)やJ.W. アンダーソン(J.W. Anderson)を輩出した英国ファッション審議会(British Fashion Council,BFC)の「NEWGEN(New Generation)」に3シーズン連続で選出されており、ロンドンの地下鉄のオフィシャルブランドである「ラウンデル ロンドン(ROUNDEL LONDON)」のクリエイティブディレクターとしても活動している。Text: 野田達哉
2016年05月19日サカイ(sacai)16-17AWメンズコレクションのテーマはLIIFE。1968年に発表されたスライ&ザ・ファミリー・ストーンの3枚目のアルバム、1994年に発表された小沢健二のセカンドアルバムの『LIFE』を連想させるロゴに、“I=愛”が加えられたロゴをあしらったスウェットパーカがアイコニックにインナーとして登場。サンプリングエイジの新しいメンズモードが強調されている。チェスターフールドコートはロイヤルネイビーパーカのフードに継ぎ合わされ、メルトンのダッフルコートがムートンにカットインし、メルトンのチェスターフィールドコートがシープスキンのアビエイタージャケットとミックスされる。レジメンタルストライプがムートン、ニット、ジャージなどの素材とコート、ジャケット、パンツにアレンジされ、ライダースジャケットはレザーとスウェードがスイッチされている。まるでDJのバック・トゥ・バックのように、アイテムや素材、柄、色がsacaiというパーティーの空間でつなぎ合わされ、ミリタリーやワークウェア、モッズやプレッピー、パンクとエスニックまでもが、予想外のアイデアでリミックスされ、着る側を楽しませてくれる。そして足元はメイド・イン・ジャパンを代表するエンダースキーマの手仕事によるスニーカーとミリタリーブーツ。高度に情報化したサブカルチャーをモードという軸でつなぎ合わせるsacaiのコンセプチュアルな手法は、ヒップホップをベースに再構築が進む欧米のラグジュアリーストリートブランドとは一線を画しており、ウィメンズ同様、地に足を着けた東京を代表するブランドとして進化を続けている。Text: 野田達哉
2016年05月13日三越伊勢丹がデジタル戦略の強化としてデジタルデバイスの予約販売を6月15日から開始する。スマートフォンやタブレットなどモバイル端末からの音楽と同期して歌詞が表示されるというこのスピーカーの価格は32万4,000円。スピーカーとしては業界初となる透過型スクリーン内蔵型とはいうものの、wifiスピーカーとしてはハイエンドモデルとなるこのスピーカー。果たして、何がすごいのだろうか?リリックスピーカー(Lyric Speaker)と名付けられたこの製品プロジェクトは、米国で開催されるIT業界の総合カンファレンス「サウス・バイ・サウスウエスト・インタラクティブ・フェスティバル(SXSW)」で2015年度のアクセラレーター・コンペティションでBest Bootstrap Company賞を受賞したことでも話題を集めた。目立った出資を受けていないが最も創造性と可能性にあふれ、今後飛躍が期待されるチームに与えられる賞だが、SXSWで日本のチームがアワードを受賞したのは初。この受賞背景には日本でも最近広まりつつある“リリックビデオ”の米国内での人気がある。ユーチューブの登場により米国では数年前からファンメイドによる歌詞だけを表示するムービーが注目されだし、洋楽業界ではプロモーションビデオとしてオフィシャルな作品が発表されるようになった。日本ではボーカロイドの登場により、ニコ動などで曲と一緒に歌詞が表示される作品が登場し、従来のカラオケビデオとはまた違ったシーンで、歌詞を表示する動画が注目を集め始めている。今回三越伊勢丹が販売するリリックスピーカーは、スマホで再生されている曲をwifi経由で自動的に曲のメタ情報を取得。歌詞をリアルタイムでモーショングラフィクスに変換し、スピーカーに内蔵された透過型スクリーンで動画再生するというもの。現在約30万曲近い楽曲データの歌詞を表示することが可能で、今後曲数は順次アップデートされていく。Apple公式サイトによれば、iTunesの取り扱い曲数は4300万曲ということだが、一般の通信カラオケの平均が25万曲程度ということから考えれば、メジャー曲にはほぼ対応している状況。歌詞のデータのない曲、インストゥルメンタルの曲は、iTunesのビジュアライザー同様、モーショングラフィックだけが流れる。画像はインテリアのツールとして開発しているため、すべてモノクロ表現となっている。「音楽に歌詞を取り戻したかったというのが、開発のきっかけ。レコード、CDで音楽を聴いていた世代は歌詞カードを見ながら曲を楽しんだが、ダウンロードやユーチューブで音楽を聴く時代になって、音楽に含まれる歌詞の文学的な価値が見失われている気がして」と話すのは同スピーカーの開発を手掛けたSIXのクリエイティブディレクターの斉藤迅氏。自身もプロのミュージシャンとして活動しており、『一瞬でやる気を引き出す38のスイッチソング』という歌詞カルチャーに関しての書籍も先頃出版している。「リリックビデオを自動作成する上で、単に歌詞を書き出すというのではなく、曲のムードに応じて、様々な動きで文字を動画で表示させるプログラミングが必要とされた」と話すのは、プログラミングを担当したドット・バイ・ドットCTOのSaqoosha氏。あらかじめ数人のモーショングラフィッカーが制作した動画を曲調、BPM(速度)音の大きさに合わせ、どの曲にも違和感なくクールなデザインで表示させるタイムスタンプ(タイミング)を設定する技術が、SXSWでも高い評価を得た。因みにSXSWでプレゼンテーションに使用されたのは、ボブ・ディランやエミネムなど、緩急織り交ぜた提案だったようだ。本体のスピーカーは透過型スクリーン内蔵のため、スピーカーユニットから電磁気回路を取り除き、スピーカー筐体内の空気振動を利用して動作させるパッシブラジエーター方式。IOT、デジタル戦略強化を打ち出す三越伊勢丹の新規事業の一環としてお目見えするこの新世代スピーカーは、6月15日伊勢丹新宿店本館5階センターパーク、三越日本橋本店本館5階、三越銀座店7階リビングフロアの基幹3店舗で展示、伊勢丹、三越のオンラインサイトで予約受け付けをスタート。納品は9月中旬を予定している。Text:野田達哉
2016年05月11日アッシュ・ペー・フランス(H.P.FRANCE)が東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)が1ヶ月を経過して好調に推移している。“ジェンダーレス”を牽引するJ.W.アンダーソン(J.W.Anderson)を始め、MSGM、ウォルター、スウォッシュ(SWASH)、などヨーロッパのデザイナーを中心に、ミキオ・サカベ、ジェニー・ファックスなど東京ブランドを加え、インポートブランドが90%以上を占める。ノームコア、アスレジャーのトレンドで同質化が進むセレクトショップのなかで、モード系ハイトレンドのエッジィな品揃えは国内では異質。雑貨、ファインジュエリーを含め、ショップオリジナルのアイテムに頼らないそのバイイングスタイルは、セレクトショップ本来のスタイル回帰を彷彿とさせる。東急プラザ銀座のエントランスフロアとなる3階の正面、150平米の広さで展開される同店は表参道店から面積が拡大され移転。4月27日には大阪梅田のハービスプラザENT大阪店も増床リニューアルを果たした。コンセント両店のバイイングを担当するパリ在住バイヤー&ディレクターの湯沢由貴子さんに話を聞いた。■オープン1ヶ月で売り上げ3,000万円達成Q:東急プラザ銀座店がオープン1ヶ月を経過し、当初の予想していた動きと結果はいかがでした?湯沢:数字的にはオープン1ヶ月で約3000万円売り上げており、当初の目標を達成している状況です。コンサバな商品だけが動いていて、洋服が売れない時代だと業界では言われがちなのですが、モード系の商品を求めているお客さまが実際には多いという印象です。昨日も和服でいらっしゃったお客さまが「最近は洋服で面白いものがなかったのだけれど、久しぶりに面白いモノがあった」と、私たちにとっては本当にうれしい反応を頂きました。以前、日本橋三越本店でポップアップを出店したときも、老舗百貨店なので落ち着いたお客さまが多いのでシックなものを好まれると思っていたのですが、若手のデザイナーの少し尖った商品を求められる大人の女性の方が多く、有名ブランドのブティックとはまた違ったものを探していた、という声は大人の女性からよく耳にしましたので、強気でモード系のバイイングをした結果が現れているのだと思っています。Q:実際の顧客はどういった方が多いのですか?湯沢:特に今シーズンはジェンダーレスが大きなキーワードになっていることもあって、男性のお客さまも多く、新しい流れを感じています。インバウンドに関しても、アジアだけではなく、オーストラリア、中東、ヨーロッパと幅広い購買層は、さすがに銀座というロケーションを実感しています。ジェンダーレスという傾向に関して、これは大阪店の例ですが、今年1月に入荷した J.W.アンダーソンの商品はメンズとウィメンズが全く同じデザインの商品があって、まずメンズから入荷したのですが、サイズが48と大きいにもかかわらず、オーバーサイズというトレンドの背景もあり、すべて女性が購入され、すぐに完売してしまいました。その後に、ウィメンズが入荷してそれを男性が買っていくという現象が既に起こっています。Q:ヴェトモンのオーバーサイズのコレクションが受けるのは、そういう時代の気分をいち早くつかんでいたからなのでしょうね。コンセントの今シーズンのバイイングテーマを説明して頂けますか?湯沢:「新しき変態」をテーマとしました。さなぎが蝶に“変態”するような感覚です。ジェンダーレスのテーマは、モードではすっかり一般化しているので、その先をというイメージです。(パリの雑貨・インテリアの総合展示会)メゾン・エ・オブジェでのテーマや、アカデミー賞を取った映画『レヴェナント』にしても、自然への回帰、野生への憧れというのは全体的な傾向としてすごく感じます。ノームコアとは対極にあるファッションの流れなのではないでしょうか。実際にオープン時に並べた、ウサギの剥製、動物や恐竜などのフィギュアなどのオブジェも早々に売れました。プロモーションスペースで展開したジョージア(旧グルジア)のデザイナーSOFIO GONGLIの手編みニットのカーディガンはウールの厚物だったにもかかわらず、ほぼ完売しました。彼女の商品は東ヨーロッパのデザイナーたちが集まって行っていた展示会で一目惚れして、銀座店のオープニングに是非、と実現。アニマルモチーフなどの大振りの七宝焼きのアクセサリーも好評でした。次の秋冬シーズンも強気でモード系ブランドを買い付けています。毛皮なども結構、発注しました。ジェンダーレスな、男性のものをさらっと着てしまうという女性像をイメージしています。■買い付けスタート時のテーマはいつも白紙Q:今回の銀座店は表参道店からの移設で、面積も増えましたが、これによるショップコンセプトの見直しはあったのですか?湯沢:いいえ。「21世紀をたくましく生きる大人の女性に向けたバイヤーズショップ」というコンセプトは2001年に大阪に1号店をオープンしたときから、変わっていません。価格ではなく価値を自分で決ることのできる女性がターゲットです。あるときはスポーティブだったり、クチュールなドレスであったり、ガーリーなファッションを着たり、ロック風なときがあったり、さまざまなスタイルを楽しみたいと思っている女性たちです。Q:各シーズンのバイイングテーマはどのようにして決定されるのですか?湯沢:毎シーズン、ロンドンコレクションからバイイングをスタートするのですが、その段階でテーマは全く白紙です。最後、すべて買い付けを終えマップを作って行くときに不思議とテーマが統一されているのです。普段は自分が好きではない色や形をオーダーしていたり、イメージが自然に決まっている。モードというのはその時代の気分です。展示会でクリエイターなどと話をしていくなかで、自分自身のバイイングのイメージも固まっていきます。そのシーズンの買い付けを終わったときに、自分がなぜそれを買い付けしたのかしっかりとスタッフに伝えていかなければならないという思いは、バイヤーをスタートしたときから変わっていません。自分がなぜそれを買い付けたか、という理由を常にスタッフに伝えられなければダメ。逆に実際のシーズン売れ筋のトレンドから外れ、買い付けを失敗したと感じた時も、店頭スタッフに私自身の買い付けの意図を理解してもらわなければなりません。売る難しさは、自分自身が百貨店の店頭に立っていた経験から理解しています。今でも2ヶ月に1度は店頭に立って接客しており、そこから市場のニーズも感じ取ります。■J.W.アンダーソン、MSGMの次に注目しているデザイナーは?Q:湯沢さんのキャリアは百貨店からスタートしていると伺いましたが?湯沢:80年代初めの最もモードが華やかだった時代に百貨店に入社し、ショップマスターとして売上高、差益率、在庫予算を57ヶ月連続で達成し、表彰を受け、パリに出張で行かせてもらったのが、海外コレクション体験の最初です。その後、婦人服飾のバイヤーになり、1993年に13年在籍した百貨店を辞め、語学の勉強のために渡仏。そのときは学生ビザで渡仏しました。その後、商社で貿易業務を経験しました。H.P.フランスに入社したのは2000年で、翌年にコンセントをスタートしました。Q:ビッグメゾンのショーと新人のショーすべてをご覧になっているのですか?湯沢:自分たちは大手メゾンのブランドを買い付けているわけではないので、ビッグメゾンのショーチケットはなかなか手に入りません。ディオールやシャネルなど、大きなメゾンのショーの華やかさは大好きですが、まだ大々的に知られていないような展示会を細かく回って、ということを1年中繰り返しています。Q:湯沢さんクラスのベテランバイヤーならチケット入手は容易なのかと思っていました。湯沢:パリコレのチケットを入手するのはいつの時代でも難しいですね。クレージュのショーを見ることができているのも、現在デザインを手掛けているデザイナーのアルノーとセバスチャンのブランド「コペルニ・フェム(COPERNI FEMME)」を以前から買い付けていたからです。Q:彼らは2014年度のANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award 2014)」でファースト・コレクション・アワードを受賞し、2015年にはLVMHプライズのファイナリストにも選出されましたね。デザイナーとのネットワークは重要だということでしょうか?湯沢:そうですね。でも彼らがビッグネームのデザイナーになっていくとまた、状況は変わります。それまで、買い付けができていたブランドも商社経由になって、急に買い付けられなくなることもありますから。それで悔しい思いをしていることもこれまでに数多くありますね。Q:現在、注目しているデザイナーを教えて頂けますか?湯沢:J.W.アンダーソンはデビューの時からオーダーしています。彼の何か新しいことを提案してくるというパワーと、周りを巻き込んでいくエネルギーは魅力的です。そういう、新しい世界を作っていけるデザイナーという意味ではGiuseppe Di Morabitoにも期待しています。スリッポンスニーカーでゆるく着られる新しいパンククチュールが作れるデザイナーだと思います。ミラノは素晴らしい工場があって、最高の製品が作れる一方で、新しいデザイナーが出てきにくい背景があるのですが、彼には期待しています。ミラノでは、マッシモ・ジョルジョッティのMSGMを最初のコレクションからオーダーしています。他の新人デザイナーたちがリアリティのない価格帯の商品を発表していた時に、ホワイトシャツを上代1万円台で販売できる価格帯で発表してきて、マーケットを理解した姿勢も業界から高い評価を得ている理由なのだと思います。Q:マッシモはショーで一般の撮影を禁止したり、現在の行き過ぎたSNSを使ったマーケティングなどにも独自の対応を示していますね。湯沢:最近はショーでも、プレスやブロガーが全身そのメゾンの洋服で現れてパパラッチされたり、ショーの最中や直後にコレクションの画像がSNSなどに上がるという状況に、私自身も少し疑問を抱いています。みんながスマートフォンで撮影している光景を見ると、せっかくショーを見るのだから、もう少し集中してはと思いますね。Q:ショー終了後、すぐに商品購入が可能なように、ブランドではシーズンの見直しを発表する動きもあります。湯沢:本当にそのブランドの洋服が好きで、半年間、店頭に到着するのを待っていらっしゃる沢山のお客さまと普段リアルに接している私たちは、その動きに対して違和感を感じています。実際にショー用ピースと販売アイテムが違うブランドもあり、ユーザーからするとあのブランドではできるのに、この店ではなぜ出来ないの?と誤解を招くおそれもあります。Q:パリの生活で、テロの影響は大丈夫なのでしょうか?湯沢:テロがあったからこそ、あえてカフェのテラスでお茶を飲むというようなフランス人の強さは感じます。こんな時代だからこそ、という思いはみんな同じなのではないでしょうか?(了)Text:野田達哉
2016年05月10日ポール・スミス(Paul Smith)の世界最大級となるフラッグシップショップが六本木に4月29日オープンした。東京ミッドタウンの向かい、秋にオープンするバーニーズ ニューヨークの並びで、外苑東通りに面した新店舗はワンフロア150坪でメンズ、ウィメンズのフルラインを展開。国内では表参道のポール・スミス スペース(3層170坪)、丸の内店(2層140坪)に次いで3店舗のフルラインナップの店舗となり、ワンフロアの展開としては国内最大となる。店内中央のフロアには3×3と呼ばれるスチールで囲われたキューブ型スペースが設置され、シーズンに応じてポップアップイベントが行われる。オープニング時は六本木店限定のRロゴのTシャツなど限定アイテムを展開。このキューブはポール・スミスが1970年に英国ノッティンガムに最初の店舗を持ったときの大きさで、これまでロンドンのドーバーストリートマーケットでのポップアップとして展開されていたが、ポール・スミスの店舗に設けられたのは初めて。店内には旗艦店最大となる23メートルのアートウォールが設けられ、ポール・スミス自身が選んだ絵やポスター、レコード、ポストカードなど272点の額が掛けられ、ポール自身が制作したのではと思われる自転車のタイヤチューブをアーカイブしたアッサンブラージュも展示されている。店内の什器はポール・スミス本人が収集したミッドセンチュリーモダンの椅子などが置かれ、一枚板のテーブル什器はロンドンのアルバマールストリートの店舗とこの六本木店だけ。店内奥のメンズテーラードゾーンの壁面のカラーブロックは英国の壁紙をカットして貼られており、エントランスの床にはオランダのイザベル・スミーツ(Isabelle Smeets)のコラージュタイルの作品が埋め込まれるなど、ポール自身が提唱するハンドメイドタッチが随所にあしらわれている。Text:野田達哉
2016年04月29日ピガール(PIGALLE)が4月22日、2016-17年AWコレクションのダイジェストとなるインスタレーションを東京・南青山で開催した。デザイナーのステファン・アシュプール(Stephane Ashpool)も来日。渋谷慶一郎がピアノでショーをバックアップし、会場には過去9回のコレクションのアーカイブも展示された。今年1月にパリで発表されたコレクションをプレゼンテーション形式で披露した今回のイベントは、同ブランドの日本で初のコレクションのお披露目となり、実際の商品も4月23日から渋谷円山町のピガール東京(PIGALLE TOKYO)で先行発売される。インスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどのSNSでコレクションの発表と同時に、タイムラインに流れる商品を発表直後に実際に買えるというモードの最新のサイクルトレンドを、同ブランドでは最初に東京でローンチさせることとなった。2010年にパリの路上でコットンに刺繍とハンドプリントで、自らのルーツを形にしてスタートしたコレクションは、モードとしてのコレクションへと確実に進化。男性のフェミニティ「エロス」をテーマに、他のメンズブランドと一線を画したジェンダーレスを各アイテムのディテールとカラーで明確に提案した。2015年の「ANDEM Fashion Award(フランス国立モード芸術開発協会ファッションアワード)」のグランプリを受賞し、25万ユーロの賞金と共にシャネルから1年間のクリエイティブ支援を受けている同ブランドらしく、シャネルのクチュール用刺繍メゾン・ルサージュによるPのロゴが背中にあしらわれたジャケットをステファン自身がフィナーレに着用して登場。モデルが手に持つバラのオブジェなど、コレクションのほぼすべてのマテリアルがメイド・イン・パリの伝統を受け継いだもの。若手デザイナーを育成するプログラムが、官民と共に文化として機能していることを印象付けた。Text:野田達哉
2016年04月23日今年6月にフィレンツェで開催される第90回ピッティ・ウオモでラフ・シモンズ(Raf Simons)が17SSコレクションを発表する。「フローレンス・コーリング(Florence Calling)」と題された今回の特別プロジェクトは、昨年10月に16SSコレクションを最後に3年半務めたディオールのクリエイティブディレクターを退任したラフ・シモンズが自身の名前で発表するコレクションとなる。ラフ・シモンズは2003年を最初に、2005年に自らのシグネチャーでランウェイ、インスタレーションをピッティ・ウオモのステージで発表。2011年にもクリエイティブディレクターを務めるジル・サンダー(JIL SANDER)のコレクションを発表しており、フィレンツェは特別な地。「フィレンツェという街は、私の心の中の特別なスペースを占めている。数年に及び、コレクションを発表する場として、私の考えを正確に映し出すベンチャー企業とコラボするために何度も訪れている。今シーズン春夏コレクションを発表するため、そしてピッティのためだけに企画している特別プロジェクトのために戻って来られることを大変うれしく思っている」とコメントしている。Text: 野田達哉
2016年04月15日今年6月14日より4日間の日程で開催される第90回ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)にビズビム(visvim)が招待される。同ブランドの初のメンズ、レディスのトータルコレクションが、フィレンツェで発表される予定だ。ビズビムが招聘されたプログラムは、毎回ピッティウオモが注目するデザイナーのプロジェクトを単独でランウェイ形式のプレゼンテーションする機会を与えるデザイナープロジェクト。今年1月に行われたピッティウオモ89ではアディダス オリジナルス バイ ホワイトマウンテニアリング(adidas Originals by White Mountaineering)がコレクションを発表し、昨年の第87回ではアンドレア・インコントリを起用したトッズ(TOD'S)にステージが与えられた。選出の理由は、デザイナーの中村ヒロキによるアメリカのワークウェアのハイテクデザインによる再解釈、素材品質の高さ、カルト的な人気を誇るシューズのコンテンツと機能性などが、この数シーズン同展で再評価されているアメリカンファッションとともに評価された。今回のピッティウオモのメイン・ゲストデザイナーは、1984年生まれのロシア人デザイナーのゴーシャ・ラブチンスキー (Gosha Rubchinskiy)。カメラマンとしても活動するラプチンスキーは、スケーターやクラブカルチャーなどをベースに、MA1やTシャツ、スウェットなどのアイテムを社会主義的な背景を感じさせるデザインとビジュアルで発表。15SSにパリメンズでデビューし、生産、販売はコム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)が手掛けている。また、イタリアの国内若手デザイナーをピックアップするピッティイタリックスのステージには、ファウスト・パグリッシ(Fausto Puglisi)とルチオ・ バノッティ(Lucio Vanotti)が選ばれた。ファウスト・パグリッシは、アンナ・モリナリやヴェルサーチのメゾンで経験を積んだ1976年シシリア生まれのデザイナー。今回のピッティでは17SSのメンズのカプセルコレクションとウィメンズのリゾートコレクションを発表する。同氏はメッシーナ(シチリア島北部)とLAを拠点に、NYを行き来しながら活動しており、セレブに向けて一点物も制作している。もう一人のバノッティは2002年に一旦ブランドをスタートさせた後、「Who is on Next? Uomo」のファイナリストに選ばれ、、年1月ミラノ・ファッションウィーク期間中にアルマーニ・シアターユニセックスなルックを発表した。イタリアのサルトリアルな才能と、ピュアで美しいシルエットで自然体でミニマルなコレクションを特徴としている。Text: 野田達哉
2016年04月11日ユマコシノ(YUMA KOSHINO)の2016-17秋冬コレクションは2016春夏シーズンに引き続きボタニカル、フラワーモチーフをプリントやジャカードなど様々な表現でレイヤーが重ねられた。ボタニカル柄でエスニックポップに表現したファーストルックのドレスは、グリーンのレギンスで80年代ロンドン風。タータンチェックやローゲージのニット、ケミカルなグラフィックプリントなどが黒をポイントに世界が構築される。ルーズ&タイト、ハード&フェミニンに相反する要素がミックスされ、ジオメトリックなアクサセリーなどとともに、ロンドンポップなスタイリングがブランドのアイデンティティとなりつつある。コレクション全体を包むテントシルエットのバランス、アールデコをモダンにアレンジした未来的なグラフィック、シャイニーな素材使いなど、この数シーズン、ママデザイナーとしてクリエーションを継続する彼女の洋服に対するアティチュードを感じさせるコレクション。来年、ブランドデビュー10周年を迎える同ブランドのネクストステージの序章を予感させるシーズンとなった。Text: 野田達哉
2016年04月08日ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)の16-17AWコレクションが3月17日恵比寿ガーデンホールで行われた。鱗文と七宝文などの幾何文様に白をベースに瑠璃色と唐茶色のジャカードニット。あるいはジオメタリック柄をコバルトブルーとシナモンカラーで組み合わせたジャカードニット。いずれも同じ対象物ながら表現が変われば、見えてくるイメージが変わる。メゾン創設は1964年と言うから世界的に見てもランウェイ形式でのコレクションを自らの名前のもと、現役で発表し続けるデザイナーとしてはギネス級だ。そのヒロココシノの原点とも言える東洋と西洋の融合が、この数シーズン以上に際立った今シーズンのコレクション。海外の老舗ブランドが次々にアーカイブを紐解くコレクションを展開するなかで、自らのアーカイブを自らが進化させるエネルギーは衰えを知らない。幾重にも重ねた贅沢な用尺は言うに及ばず、染色、プリント、ジャカード、刺繍など日本の伝統技術を最新の技法でエッジを際立たせ、まさにジャパンラグジュアリーのオンパレード。カラーパレット、柄、素材など、すべてが今回のテーマの「混沌」に表現されるべく、無秩序に溢れさせたかのようないたずらは、すべてのルックをスリッポンスニーカーでまとめているというのが、ブランドをエイジングさせないヒロココシノらしい時代観だ。Text: 野田達哉
2016年04月06日ロケットベンチャー、人工衛星ビジネスの話題もにぎやかで、宇宙旅行がいよいよ現実味を帯びるなか「UNNATURAL-月への身支度-」をテーマに、シアタープロダクツ(THEATER PRODUCTS)の16-17AWコレクションが発表された。毎シーズン、凝ったテーマでコンセプチュアルにアイテムを展開する“劇場型”ブランドの未来感は、どこか80年代のニューウェイブ風。パラドキシカルなモチーフやフォルム、素材がシーズン全体を包む。フェイクファーのニットが顔を包んだ有機的なシルエットのコートドレス、アルパカのロングカーディガンにウエストマークのハラコとレザーのベルト、2匹のフォックスのティペット、ハラコのゼブラプリントのドレスなど自然にある不自然、不自然の自然といった物の対比、組み合わせで、アールデコ調のモチーフがポイントで登場する。“UNNATURAL”をテーマとした、月旅行への身支度にふさわしく、宇宙食のビーフカリーのアルミパッケージや、ロケットカプセル型のバッグなどアイテムへの落とし込みも楽しい。毎シーズン楽しませてくれる音楽は、今回マルチソロパフォーマーのTuckerが全編担当。ターンテーブルのスクラッチからスタートした演奏は、エレクトーン、ベース、ドラム、ギターを一人で多重録音する即興で、レーザーカットのエンブロイダリーをレイヤードしたドレスから、レイヤードパンツスタイルなどさまざまなフォルムを重ねるコレクションと、“不整合な整合”が見事にライブで呼応した。Text: 野田達哉
2016年04月05日