今冬、東京・シアターコクーンでケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)の新作『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』が演出・キャストを変えて2か月連続上演される。12月に、まずKERA本人の演出で上演し、来年1月に蜷川幸雄が演出するという大胆な企画だ。“21世紀最大の演出対決”と銘打たれた作品に挑むKERAと、KERAバージョンに出演する小出恵介に話を訊いた。『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』KERAバージョンのチケット情報本作は、架空の町を舞台にしたダークファンタジー。強欲な市長とその娘たち、放浪の若者など、様々な人々が織りなす群像劇だ。小出は、祖母と暮らす内気な青年役を演じる。KERAは小出を起用した理由について「彼は本当に演劇が好きで、舞台と映像の違いをちゃんと分かっている」からだと話す。「2010年のナイロン100℃『2番目、或いは3番目』に出てもらいましたが、虚構性の高い作品だったので、大変だったかもしれない。でも十分健闘してくれました。だから、今回さらに踏み込んで一緒にやりたいと思って、串焼き屋で口説きました(笑)。今回の役は動物園の飼育係で、心優しい青年なんだけど、それがやがて変貌してしまう予定です」と語る。KERA作品に2度目の参加となる小出は、ナイロン100℃の公演にもよく足を運ぶ。「どの作品にもKERAさんならではの空気があって、大好きですね。笑えるんだけど、どこか嫌な気持ち、ざらっとしたものが残ったりもする。そのバランスが絶妙で。だから、今回、再び呼んでもらえたのは、すごく嬉しいです。前回はKERAさんとは初めてだったので、もの足りないところもあったと思いますが、今回はちゃんと戦力になりたい」と意欲をみせていた。『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』KERAバージョンは12月9日(日)から30日(日)まで東京・シアターコクーンにて、2013年1月11日(金)から14日(月・祝)まで大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて上演される。出演は小出のほか、生瀬勝久、丸山智己、安倍なつみ、大倉孝二、緒川たまき、夏帆、池田成志、久世星佳、西岡徳馬ら個性豊かなキャストが顔をそろえる。チケットは、東京・大阪公演ともに10月6日(土)より一般発売開始。なお、チケットぴあでは東京公演のインターネット先着先行・プリセールを9月30日(日)10時より受付ける。(インタビューの全文はチケットぴあサイトに掲載)取材・文:沢美也子※西岡徳馬の「徳」の字は旧字体が正式表記。
2012年09月28日劇団ナイロン100℃の第38回本公演『百年の秘密』が、東京・下北沢の本多劇場にて上演中だ。劇作家、演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が自身の劇団に1年半ぶりに書き下ろした、ふたりの女性の半生を描いた物語である。『百年の秘密』チケット情報ティルダ(犬山イヌコ)とコナ(峯村リエ)。ふたりの12歳の出会いから物語は始まるが、その後、時間軸は縦横無尽に移り変わっていく。ふたりが生まれるはるか以前の、ティルダの屋敷の中央にそびえ立つ楡の木のエピソードから、ふたりの少女時代、結婚、出産、そして死後、ふたりの曾孫の登場までを描くなかで、ふたりと彼女らをとりまく人々の人生が慎ましく、時に不穏な空気を纏って展開する。時間がいっきに数十年先送りされたり、ある局面に巻き戻されたりする毎に、私たち観客は新たな事実に驚き、その発端を探りたくなる。次から次へと小さなドラマを目撃し続け、そこで生まれるひとつひとつの“秘密”の共有者になっていく。寓話的な楡の木の存在、KERA作品に欠かせない映像効果の巧妙さにオープニングから心を掴まれ、瞬時に劇世界へと没入させられた。登場人物の世代交代の度に俳優も入れ替わるので、頭の中で相関図を確かめながら観るのも楽しく、集中が途切れない。中心人物でいながらティルダとコナのたたずまい、そのやりとりは訥々として素朴。それが徐々に重みを増し、ふたりの関係性を観る者に強く印象づけるのは、犬山と峯村の呼吸の確かさゆえか。描かれているのは女同士の友情に違いないけれど、どうも友情というこそばゆい言葉が観ている間はしっくりこなく、もっと無骨でシニカルな味わいだ。萩原聖人、山西惇、近藤フク、田島ゆみかの客演陣がKERAワールドに浸透して、それぞれの魅力を遺憾なく発揮。ティルダの兄エースを演じる大倉孝二は今回は笑いを控えめに、シリアスな表情で観客を惹きつける。案内人の役割を担う女中メアリー役の長田奈麻の、落ち着いた声の響きが心地良い。また、みのすけ、村岡希美といった巧者が、ティルダとコナの人生ドラマの脇役でいながらも、色濃い印象を残す旨味を見せる。2013年に結成20周年を迎える劇団の底力を感じる布陣だ。観賞後に訪れるのは、人生の大きなうねり、深い追憶の旅に同伴したような充足感。ナイロン100℃の集大成とも感じ取れる秀作に痺れながら、こそばゆかった友情という言葉をあらためて反芻したくなった。公演は5月20日(日)まで本多劇場にて上演中。その後、5月26日(土)に大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!、5月29日(火)にKAAT神奈川芸術劇場、6月2日(土)・3日(日)に福岡・北九州芸術劇場、6月9日(土)10日(日)に新潟市民芸術文化会館と各地を回る。チケットは発売中。取材・文:上野紀子
2012年04月27日演劇をベースに、音楽、映画などさまざまなフィールドにまたがり独自のセンスを発揮しているナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。今年は3本の演劇作品を手がけるが、福田恆存作『龍を撫でた男』の演出に続いては、自身の劇団ナイロン100℃で新作『百年の秘密』に取り組む。構想中の新作について話を聞いた。ナイロン100℃38thSESSION「百年の秘密」チケット情報昨年末に、「笑いからいったん離れたい」という気持ちが芽生えたというKERA。「笑いに飽きたわけではないんですけど、コメディという括りがあると、笑わせることが必須条件になって取りこぼすものもあるんじゃないかと」。その中で浮かんだ題材は、10年以上温めていた“ふたりの女性の半生”だ。「『あれから』(2008年)という作品で幼なじみのふたりの女性の話をやりましたけど、あれは過去を絡めながら、あくまでも現在を描いていた。今回はふたりの思春期、20代、中年期、老年期、死後を均等に描くつもりです。普通に時系列に進むのか逆行していくのか、もしくはバラバラにしてコラージュのようにするのか、構成はまだ決めていませんが、いろんな方法があると思います」。ふたりの女性に扮するのは、犬山イヌコと峯村リエ。「別に松永(玲子)や村岡(希美)でもできると思うんだけど、最初に浮かんだのはこのふたり。やっぱり劇団健康(ナイロン100℃の前身)時代から一緒っていうのが大きいのかな。このふたりのシーンを書くのが好きだし、凸凹なシルエットも面白いでしょ」。若手が加わりさらなる充実を見せるナイロン俳優陣に加え、ゲストの萩原聖人、山西惇らがふたりの人生に絡んでいく。ところでKERAは長年、“女性を描くのが上手い作家”と言われてきた。自身も「男ふたりの物語を書くことには全く興味がなかった」とキッパリ。「女性のことはわからないから想像で書いてるだけ。要は……不可解だってことなんですけどね。女性作家が書く女性ってどこか言い訳めいた感じがするでしょ?僕は『こう見えるよ』ってところから描いているから、その不可解さに説得力があるのかなとは思う」。そうしたKERA目線からすると、“女性の友情”も不可解なもの。「男に比べて女性は、環境などによってサバサバと生き方を変えていく印象がある。だから女性同士の友情ってピンと来ないんですよ。友情とはまた違う、もっと複雑でデリケートな関係を描ければ」。笑いにとらわれないKERAから生み出されるドラマは、どれほどの深さで観客を飲み込むのだろう。取材・文:武田吏都公演は東京・本多劇場にて4月22日(日)から5月20日(日)まで開催。チケットは2月25日(土)より一般発売する。チケットぴあでは2月16日(木)まで先行抽選を受付。
2012年02月15日作・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と、女優・広岡由里子との演劇ユニット「オリガト・プラスティコ」。その第5弾となる『龍を撫でた男』が、2月3日(金)、東京・本多劇場にて初日の幕を開ける。初日前日の2日、通し稽古が行われた。『龍を撫でた男』チケット情報精神病医の佐田家則は、妻の和子とその弟・秀夫、義母との4人暮らし。かつて事故でふたりの子供を亡くしており、そのショックから義母は精神に異常をきたしてしまっている。正月、そんな佐田家を訪れた、家則夫婦の知人で劇作家の綱夫と舞台女優の蘭子兄妹。綱夫は和子に、秀夫は蘭子に気があり、また蘭子と家則はちょっとワケありの様子だ。5人の思惑が交錯する中、「異常心理学会創立準備委員」と名乗る男たちまでもが現れて……。作・福田恆存、演出・KERAという、なんとも意外かつ、ワクワクする組み合わせが実現した。福田は評論家としても著名なだけに、硬い文章を想起する人も多いかもしれない。だが『龍を撫でた男』というタイトルからも分かるように、その文体はどこかユーモラス。さらに人間という愚かな生き物に対する優しい眼差しが、セリフの端々から感じることができる。恐らくKERAが本作に惹かれたのも、そんな点にあったのではないだろうか。そしてKERAは、その福田の世界観を過度に現出させることなく、それでいて行間には彼らしい過剰さもしっかり忍ばせる。もちろんそれを体現できる、KERA作品おなじみの役者陣が担ったものの大きさは言うまでもない。夫として、そして精神病医として妻を見守り、そして苦悩を募らせていく家則を演じるのは、山崎一。彼の中に積み重ねられていった、佐田家の負の要素。それゆえの微妙な変化を見せられるのは、やはり山崎の高い演技力あってこそだろう。和子役の広岡由里子、綱夫役の大鷹明良、蘭子役の緒川たまきは、感情の起伏、間合い、話し方など、正気と狂気の境界線上にいる人間ならではの見せ方が絶妙。狂気をさまよう人間の、切なさまでもが伝わってくるようだ。また秀夫演じる赤堀雅秋は、いい意味での気持ち悪さを醸し出し、その存在を強く印象づけた。本作の登場人物たちは、山崎演じる家則以外、何かしら皆精神を病んでいる。ゴーリキーの『どん底』の歌詞のように、暗い牢屋の中で、鉄の鎖に捕らえられてしまっているのだ。だが果たして牢屋にいるのは自分なのか、相手なのか。そして人生で真に望むべきものは、新しい冒険なのか、日々の繰り返しなのか。狂気と正気の差はまさに紙一重。辛辣なラストに、その答えを見た気がした。公演は同劇場にて2月12日(日)まで。チケットは発売中。文・野上瑠美子
2012年02月03日