HP「主婦er」を通じて、「これからの主婦の在り方」を、発信中。 吉祥寺の人気カフェで、マネーライター歴20年の経験を生かした「お金のワークショップ」を開催しています。 申し込みはHP「主婦er」の「お金のリビング」をクリック!
もし、子どもから「学校に行きたくない」と言われたら、どうしたらいいのでしょうか? 学校に行かない選択をした子が通うフリースクール「花まるエレメンタリースクール」の校長“はやとかげ”こと、林隼人先生にお話を伺いました。
発達障害と診断され、小学校低学年の時に特別支援学級に通っていた息子を持つライター。そんな子どもが中学高校生になってどんなトラブルが起こったのか、そして母親は息子に伴走しながら考えたことを綴ります。
子どもを危険から守ってあげたい。子どもには夢を叶えて欲しい。そのためには子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。そんな深い親の愛がじつは子どもをつぶしてしまっていることもあると話すのは、花まる学習会の高濱正伸さん。高濱さんに、今の日本の子育ての現場で起こっている問題点についてお話を伺いました。
物価高、エネルギー高騰。でもお給料はあがらず、老後不安はますばかり。そんな閉塞感を抱えてるママたちに、家計のプロが今すぐできる対策を教えます。
時代が大きく変わっている今、「見えない学力」を身に着ければ「見える学力」も上がると話すのは、映画『みんなの学校』で「不登校ゼロ」の公立小学校として話題となった大空小学校初代校長・木村泰子先生。「母親としてここだけは外さないポイント」を聞きました。
「学校に行きたくない」と子どもに言われたら、多くの親御さんにとっては青天の霹靂です。本連載の最終回は、ママやパパがテンパらないために大切なことを3つにまとめてお伝えします。引き続き、花まるエレメンタリースクールの校長“はやとかげ”こと、林隼人先生にお話を伺いました。 ヒント1.不登校の相談する先は学校以外にもある 不登校が増加の一途を辿る中、関連情報は刻一刻とアップデートされています。 楢戸 :国の登校支援の考え方は「学校復帰が前提」から、学校以外の場での多様で適切な学習活動の重要性を認める方向に変化しています。学びは「(地元の)学校に行く」の一択ではないことを頭に入れ、フリースクールなど 別の居場所 についての情報もインプットしておくと選択肢が広がります。 【「国の登校支援の考え方」について詳しくはコチラ】 また、そもそも不登校について相談する場所は、学校以外にもあるという 「他の相談先の存在」 を知っておくことも大切です。情報収集をするときに役立つサイトをピックアップして記事の最後につけておきました。 情報収集をする中で、「こんな考え方があるんだ」「こんな場所があるんだ」「こんな活動をしている人たちがいるんだ」と知ることも閉塞感を和らげる一助になると思います。 【POINT1】 (地元の)「学校に行く」一択ではなく、「いろんな場での学び方を試してみる」という選択肢を国が認めていること、「学校以外にも相談先として頼りになる場所がある」ことを知っておく。 ヒント2.「勉強の遅れが心配」で勉強させても意味がない 楢戸 :学校を休むとなると、「勉強が遅れてしまわないかが心配」というママも多いと思います。そこは、どんなふうにお考えですか? はやとかげ :不登校だった子が登校できるようになると、勉強の遅れが気になりはじめる方も多いです。そのときは、「もう(心配性や欲が)出ちゃっていますよ、お母さん」という話をします。 保護者の方が、勉強のことを心配するのは当たり前のことです。けれども、「今、保護者が勉強のことを考えたからといって、彼ら・彼女たちの 心のエンジン が動き出すのか?」という話です。 心のエンジンは、 ガソリンが満たされてから動く んです。勉強とは異なるモチベーションからでもエンジンが回りさえすれば、ボンと勢いがついて巻き返すことができます。 だから、心のエンジンが回っていないのに、「勉強が遅れるのが心配だから」という理由で勉強をさせようとしても、正直なところ、あんまり意味がないというか…。 楢戸 :そうは言っても、周りに遅れを取っているのが不安になってしまうんですよね…。 はやとかげ :保護者の切実な心配も理解できますから、面談で対話をしながら時間をかけて丁寧に伝えていくこともよくあります。 たとえば、本を読み出すタイミングって、人それぞれです。小学校のときから読んでいるからOKという訳でもなくて、高校になってから急に読みはじめる子もいます。それは、なぜか? といったら、 自分で「これだ!」と思ったから なんですよね。 「宇宙飛行士になりたい」という目的が見つかって、「この中学に行くんだ!」「この高校に行くんだ」となれば、本人に「何のために勉強するのか」というモチベーションがしっかりあるので、必要だと思えば勉強はします。実際に、入学当初は勉強に強い拒絶反応を示していてプリントにはまったく見向きもしなかった子が、「ここに行きたい!」という中学校を見つけたことがきっかけで夢中になって勉強をするようになったということもありました。 そういった内なる動機づけがなく、 「心配だから勉強をやる」というのは大人でも難しい と思います。勉強は、 「その子のヤル気スイッチが、いつONになるか?」 という話です。 楢戸 :「ヤル気スイッチ」は、保護者の永遠のテーマです。 はやとかげ :スイッチがいつONになるのか? ということで言えば、いろんな機会、いろんな体験をする中で、心が本当に 「私、これやりたいんだ!」に出会うか なんだと思います。気になったことを調べてすぐ芽が出ることもありますが、それだけでなく、大人になってから「こういうことだったのか」と 面白さに気づく こともとても大切です。 芽を出すタイミングはその子によってバラバラですが、 見たり、聞いたり、触れたり、感動したりしたもの は、その子の心の中に種がまかれています。今、私たち大人が子どもたちにできることは、 できるだけ多くの種をまくこと だと思って、いろいろな 体験の機会をつくる ようにしています。 ■ひとりの友だちがいればすべてを超える はやとかげ :不登校の場合は、それ以前の話として、その子が悩んで、 心のエンジンが動かなくなっていないかを考える必要 があります。そう考えていくと、根本は 「人生、今、楽しいな」って思えるか? 1番は、そこの部分です。そして、それは何かといったら、 「ひとりの友だちがいるかどうか」 なんです。 信頼できる仲間 と出会えれば、すべてを超えてしまうんです。心のエンジンさえ動けば、彼ら・彼女らは、僕らが想像しないことを成し遂げていく…。僕らは、そんな卒業生を見てきました。 楢戸 :花メンの第1回の卒業式に臨席しました。卒業証書を受け取った後、卒業生がひと言ずつ話す場面がありましたが、みんな自分の言葉をしっかりと持っていました。 はやとかげ :うちには、3~4年間くらい学校に行っていなかった子も多数在籍していますが、 勉強についてはまったく問題ない です。これは、全員に断言できます。 【POINT2】 勉強は心のガソリンを満たして動き出してから! いろんな体験をして、ひとりでいいので信頼できる友だちを作ることが大切! ヒント3.子どもが変わるきっかけは家の中にはない…!? 楢戸 :最後に、ママたちに「これだけは伝えたい!」ということはありますか? はやとかげ :不登校が長引いてしまった場合、彼ら・彼女らが変わるときは、おそらく 家の中ではない んです。変わるときは、何か機会が与えられて、 「きっかけ」が生まれたとき です。 たくさんの不登校の子どもたちと出会ってきた僕は「不登校が長引いてしまった場合は、 放っておいて治るということはない 」と考えています。そのまま放っておくだけだと、「ただ家にいる」という状態が年単位で続くこともあります。 「トラウマだから家で休んだ方がいい」と勧める医師がいたり、勇気を出してバスに乗ったら、やっぱり怖くなってパニックになってしまったり…ということもあるでしょう。 でも、やっぱり僕は 人が変わるときは、家の外で何かが起こっているとき だと思うのです。「今日を凌ぐこと」だけに終始していたら、 子どもはあっという間に大きく なります。 気がつけば数年経っていた、となったときに、「家で休んだ方がいい」と言っていた人が責任を取ってくれるのだろうか? そこは冷静に考えた方が良いと思います。焦る必要はありませんが、このことは忘れないでいて欲しいです。 【POINT3】 焦りは禁物! でも、今の状況を変えるきっかけは「家の外にある」というのを頭においておくこと。 ■不登校の子どもの課題がわかる…花メンの学び 楢戸 :花メンには、数年単位で不登校だった子どもたちが毎日楽しそうに登校しています。どのような学びが行われているのでしょうか? はやとかげ :漢字や計算といった 基礎学習の時間は、全体の20%くらい です。その他の比重イメージとしては、PBL(プロジェクトベースドラーニング・課題解決型学習)が20%、体育が20%、畑が20%、宿泊学習といった野外学習が20%といった学びの中で子どもたちは育っています。 いろんなタイプの授業 をやってみると、その子が 抱えている課題がわかる んです。ある長期不登校の子は、1年生からまったく学校に行っていませんでした。中学年になった今年から花メンに通うようになりましたが、その子の今の課題は、(PBLの一環である)フリマ(フリーマーケット)で見えたんです。課題が見つかったら職員室の全員で、その子のことを話し合います。 ■多種多様な生きた学びを子どもたちに! 楢戸 :花メンの職員室に伺うと、いつもいつも、子どもたちのことを話し合っています。 はやとかげ :花メンをつくる前に、みんなで「どんな学校をつくりたい?」ということを話し合いました。結論、 「職員室を、日本一子どもたちのことを話している職員室にしたい!」 となりました。 花メンは、不登校に特化した学校としてつくった訳ではないんです。そうではなく、「(既存の学校にはない)独自の子どもの伸ばし方をガンガンやろう!」という気持ちで、毎日子どもたちと向き合っています。 英語、スポーツ、農業と、僕らが今までやってきたことすべてを注ぎ込んだ学校で、いわば「日本版インターナショナルスクール」というイメージです。花メンの開校時間から考えると、不登校の子どもたちが通ってくれることは僕たちの思惑通りです。 楢戸 :取材当日、商店街で「一番好きな夏の歌」について街頭インタビューをしている花メンの子どもたちにばったり会いました。子どもからお年寄りまで世代の違う人に声をかけるのは勇気がいることだと思いますが、臆することなく話しかけていく姿に人間としての力強さを感じました。こうした多種多様な生きた学びで個性がどんどん発揮されていくのだなと感じました。 いかがでしたか? 長年、花まる学習会の高濱先生を取材してきました。花メンを運営している花まる学習会グループは、「新しい学びを追求しよう!」というエネルギーに満ち溢れていますが、そのエッセンスを濃縮したのが、花メンだという気がします。 子どもが不登校になるかもしれないという状況に動揺する親御さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、 発達障害と診断された息子を育てた筆者 は、 子どもが「ふつう」から外れたとき こそ、親子ともども世界が広がるチャンスなのだと実感を込めて思います。ぜひ、多くの学びの選択肢にアンテナを伸ばしてみてくださいね! ■不登校に関する情報収集で役立つサイト 【学校以外の子どもの居場所】 ● フリースクール全国ネットワーク 日本全国の子どもの居場所・フリースクールをつなぐネットワークのサイト。「加盟団体一覧」を見てみると、「新しい学びの可能性に挑戦している団体が、こんなに世の中にあるのか!」と驚く。地域毎に分かれているので最寄りのフリースクール探しに役立ちそう。 【学校以外の不登校についての相談先】 ● こころもメンテしよう(厚生労働省) 国が作った若者を支えるメンタルヘルスサイト。「困ったときの相談先」をクリックすると、若者向けのサイトなので「どんなふうに相談すればいいの?」と初めて相談をする時の心の持ち方を知るコンテンツもある。「こころの相談窓口」には、地域の保健所や保健センターなど、公的な相談先が多数紹介されている。 ● 児童相談所一覧(こども家庭庁) 不登校の相談は、児童相談所でも受け付けている。都道府県別の対応窓口の電話番号が出て来るのでアクセスしやすい。 ● カタリバ相談チャット 不登校支援の名著「不登校親子のための教科書」を作ったNPOカタリバのサイト。他の保護者の話が聞けるオンライン(Zoom)でゆるやかにおしゃべりする会を定期的に開催して」いるそう。不登校傾向で悩んでいる保護者を対象に、30分のオンライン面談も行っており、利用は無料。 【花まるエレメンタリースクールとは?】 花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)は、学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクールです。写真は実際の花メンの子どもたち。全員が不登校の経験があるとは信じがたい、生き生きと自信にあふれた表情です。 ●「花メン」の日々の様子: インスタグラム 林 隼人(はやし はやと)プロフィール 花まるエレメンタリースクール校長、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。元中学校教諭、サッカー日本代表 川島永嗣と立ち上げたグローバルアスリートプロジェクト学長を経て、高濱正伸との運命的な出会いがあり現在に至る。親と離れて暮らす社会的養護の子どもの人権活動にも取り組んでいる。
2024年08月30日近年は、「(地元の)学校に通うことだけが選択肢ではない」といった視点が主流になりつつあると話すのは、花まるエレメンタリースクールの校長“はやとかげ”こと、林隼人先生。子どもが学校に行かなくなった時に親がどうすればいいのかお話を伺います。 ■子どもが学校に行かないのは母親のせい? 楢戸 :子どもが「学校に行きたくない」と言いはじめたとき、ママは「私の育て方が悪かったからではないか」とか「辛い気持ちに気がついてあげられなかった私が悪い」と、 自分を責めてしまうことも多い と思います。 はやとかげ :そんなことは、全然思わなくていいですね。まったく‼ こう僕が声を大にして伝えたいのは、 「学校に行けない子どもに遠慮している親御さん」 に数多く出会ってきたからなんです。 「学校に行きたくない」と言われれば、誰もが不安になるでしょう。でも「学校に行けない」という問題はあるかもしれないけれど、 卑屈になる必要はまったくありません 。「そうか、学校に行きたくないんだね」と、落ち着いて 事実を受け止めて欲しい と思います。 不登校の根底の原因 は、多くの場合は 人間関係 です。人間関係での傷は、 人間関係でしか癒やせない んです。だから、 お母さんひとりだけで抱え込んでどうにかなる話ではない ということは、心しておいて欲しいと思います。 楢戸 :では、親は何もできないのでしょうか? はやとかげ :何かできるとすれば、 お母さんの失敗談や辛かったとき のことを話すのがいいと思います。たとえば、「お母さん、小学校のときにグループのなかで仲間外れにされたことがあってね。そのことを高校生のときまで誰にも言えなかったんだ」。こんな話をしてあげられたら、子どもは安心して、もしかしたら本音が出てくるかもしれません。 ■不登校の理由に嘘をつく子ども はやとかげ :一方で、もうひとつお伝えしたいことがあります。それは、 子どもの言うことをすべて真に受けない ということです。 楢戸 :子どもが言うことを真に受けてしまうのは、良くないのでしょうか? はやとかげ :時には クリティカルシンキング(批判的思考) も必要だという話です。 たとえば、不登校の「表向き」の理由で多いのは、「うるさい音が苦手」や「先生と合わない」といったことです。音に対しての感覚過敏や先生という理由は、 子どもにとって言いやすい んです。「何と言えば大人が納得するのか」ということを、子どもは真剣に考えています。 僕らは子どもたちと接するときに多大なリスペクトを持っていますが、 「子どもは嘘をつく」という大前提 も忘れてはいません。だから、「これは、嘘だな」とわかるんです。 楢戸 :子どもは嘘をつく!? はやとかげ :僕も「元・子ども」なので、よくわかります。子どもの頃は、その場逃れの大嘘をよくついていました。僕の周囲にいた友だちだってそうです。そして、(嘘をついていることを) 気づいてもらえると、じつはホッとしたり もしていました。 だから僕らは子どもと接するときに、本当にド直球で「それ、違うだろ」と真実を突いて、 彼ら・彼女らを解放してあげる こともあるんです。 これは、子どものためです。子どもの側も、嘘を見抜いてもらえないと大変です。最初は少しごまかすつもりが、気づいてもらえないと、雪だるま式に嘘をつき続けなければなりません。想像してみてください。 嘘に嘘を重ねていく時間の重さ を。真実を突いてもらえれば、そんな時間からは解放されます。 だから、僕らが気づいてあげて、「いや、お母さん。これはそんな大きな話ではなくて、シンプルな話です」と実情を話しつつ、状況を整理していくこともあります。 昔は、子ども同士で結構そういうことをやっていたんです。リーダー格の子が、「お前、嘘つくなよ」などと言ってくれた。それに似た感覚で、真実を突き、本人を解放してあげることで状態が良くなる子もいます。 ■学校を休む目安は? 楢戸 :今みたいなエピソードを伺うと、「たしかにママだけでは難しいな」と感じます。「(学校以外の)他の選択肢を探す」という段階と、「ちょっと学校を休ませて、少し様子をみてみる」という段階。この時期の見極めは、どうしたらいいでしょうか? はやとかげ : 1ヶ月半をひとつの目途 にしてください。学校を休んでゆっくりさせたのは良かったけれど、1ヶ月半を過ぎてくると、 「ここからはコンディションが下がってしまう一方」 みたいな段階が来ます。 楢戸 :学校に行かない期間が長引くと、保護者にも焦りが出てくると思います。 はやとかげ :1ヶ月半が経ってしまう前から、 (学校以外の)他の選択肢に目を向けはじめる という感覚を持てていると、楽ですね。 「地元の学校に通う」ということが野球だとしたら、スポーツはサッカーやバスケット、バレーやテニスなどいろいろある、そんな感覚です。継続的に通うかどうかは一旦置いておいて、 学校以外の居場所 に見学に行ってみることもおすすめしています。 学校に「行く」「行かない」という 2択の中で子どもを追いつめる のではなく、他の選択肢があることを知るだけで、「やっぱり学校に行くわ」と言い出す子どももいます。「海外に行ってみたら、日本の良さがわかった」というのに似たイメージかもしれません。 視野を広げるという意味でも、家に閉じこもりっきりになるのではなく、 さまざまな教育機会に触れる のは良いことだと思います。 【POINT】 不登校はけっして本人やママのせいではない! 学校に行きたくない理由は嘘をつくこともあるので、クリティカルシンキング(批判的思考)も忘れずに。最初の1ヶ月半の間に学校以外の居場所を探してみよう! 経験値に基づいたはやとかげ校長の言葉には、説得力がありました。次回は、ママやパパがテンパらないために大切なことをまとめてご紹介します。 【花まるエレメンタリースクールとは?】 花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)は、学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクールです。写真は実際の花メンの子どもたち。全員が不登校の経験があるとは信じがたい、生き生きと自信にあふれた表情です。 ●「花メン」の日々の様子: インスタグラム 林 隼人(はやし はやと)プロフィール 花まるエレメンタリースクール校長、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。元中学校教諭、サッカー日本代表 川島永嗣と立ち上げたグローバルアスリートプロジェクト学長を経て、高濱正伸との運命的な出会いがあり現在に至る。親と離れて暮らす社会的養護の子どもの人権活動にも取り組んでいる。
2024年08月29日夏休みも終わりが見えてきました。お子さんは、2学期を楽しみにしていますか? じつは、この時期は「学校に行きたくない」と言いはじめる子どもが多い時期でもあるのです。 もし、子どもから「学校に行きたくない」と言われたら、どうしたらいいのでしょうか? 学校に行かない選択をした子が通うフリースクール「花まるエレメンタリースクール」の校長“はやとかげ”こと、林隼人先生にお話を伺いました。 林 隼人(はやし はやと)プロフィール 花まる学習会の30年のノウハウが詰め込まれた「花まるエレメンタリースクール」校長で、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。元中学校教諭、サッカー日本代表 川島永嗣と立ち上げたグローバルアスリートプロジェクト学長を経て、高濱正伸との運命的な出会いがあり現在に至る。親と離れて暮らす社会的養護の子どもの人権活動にも取り組んでいる。 【花まるエレメンタリースクールとは?】 花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)は、学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクールです。写真は実際の花メンの子どもたち。全員が不登校の経験があるとは信じがたい、生き生きと自信にあふれた表情です。花メンでの学びについては、連載3本目でご紹介します。 ●「花メン」の日々の様子: インスタグラム ■「学校に行きたくない」は誰にでも…!? 不登校の現状 楢戸 :子どもに「学校に行きたくない」と突然言われたら、保護者は驚きます。そんなとき、まずはどんな声かけをするのがいいのでしょうか? はやとかげ :大前提として最初に知っておいて欲しいことは、 「学校に行きたくない」という状態は、誰にでも起こりえる ということです。近年、不登校は増加の一途で、社会的認知も進んできました。 楢戸 :たしかに、そうですね。内閣府の資料(※1)にもあるとおり、 不登校の子どもたちは約30万人 に達しており(令和4年度)、 前年度から約22%も増加 しています。小学校35人学級で考えてみると、不登校・不登校傾向の子は4.5人、約12%を占めることになります(※2)。特別支援教育が必要な子どもたちよりも数としては多いのですが、これまでは可視化されてきませんでした。 はやとかげ :大人は、子どもが「学校に行きたくない」と言いはじめたら、理由を探したくなりますが、 本人も理由が言語化できていない場合も多々 あります。 「社会に出たら、嫌なことはいっぱいある。頑張って学校に行きなさい」などと励ますお父さんもお見受けしますが、いまの時代、 (地元の)学校に通うことだけが学びの選択肢ではない ということは知っておいて欲しいと思います。 ■国が認めてる「学校以外」の選択肢 楢戸 :国の方向性を知っておくことも大切ですね。少し難しい話となりますが、大切な部分なのでご紹介すると、2017年に施行された通称「教育機会確保法」(※3)では、国や自治体に下記の措置を求めています。 ●学校以外の場における不登校児童生徒の学習活動、その心身の状況等の継続的な把握に必要な措置 ●学校以外の場での多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の休養の必要性を踏まえ、不登校児童生徒等に対する情報の提供等の支援に必要な措置 要は、教育機会確保法成立以後は、国の登校支援の考え方が「学校復帰が前提」から、 「学校に行けない子どもに休養を与え、学校以外の場での学びの重要性を認識していく」という方向に変化 しているんです。 【POINT】 (地元の)「学校に行く」一択ではなく、「いろんな場での学び方を試してみる」という選択肢を国が認めていることを知っておく。 ■学校を休ませたら癖にならない? 楢戸 :国の方向性を理解した上で、具体的なケースで考えてみます。「おなかが痛くて学校を休みたい」と本人が言っていても、親なら明らかに仮病だと気づく場合もあります。そんなとき、 「1回休ませたら、それが連続するんじゃないか」 という不安はあると思います。 はやとかげ :ひとつ言えるのは、「おなかが痛いから休みたい」と言っているときは、 子どもにとってはすでに結構ギリギリのSOSだ ということです。 「仮病でしょう」などと言って本人の気持ちを真っ向から否定するのではなく、まずは 「どうしたの? 何があったの?」 と聞いてみて欲しいと願います。 ■不登校の理由を一番知られたくないのは? はやとかげ :たくさんの不登校だった子どもと出会ってきた肌感覚から話をさせてもらいます。最初の面談で、「どうして学校に行きたくないの?」と聞いたときと、子どもが元気になってから本音を聞けたときとでは、 学校に行きたくない理由が違う んです。 本音を聞いている僕らからすると、 学校に行きたくない理由の根底には、人間関係の問題 があります。でも、子どもの立場からすると、人間関係で苦しんでいることを 一番知られたくないのが、お母さん なんです。自分がいじめられている、仲間外れにされているということを、子どもは隠します。 楢戸 :本当の理由を言ってくれない場合もあるのですね。 はやとかげ :当初は、言ってくれない場合の方が多いかもしれませんね。だからこそ、子どもに「学校に行きたくない」と言われたら、ひととおり理由を聞いたあと、いい意味で深追いはせず 「うん、じゃあ、今日は休もうか」 。最初のひと言は、これがいいと思います。 【POINT】 子どもが「学校に行きたくない!」と言ったら、「どうしたの?」と理由をひと通り聞いたあと深追いはせず、「今日は休もうか」と第一声は子どもの気持ちを受け止める。 今回は、国の登校支援の方向性を理解した上で、初動について伺いました。次回は、百戦練磨のはやとかげ校長に、子どもの心の内を伺います。 ※1:出典 文部科学省「 令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 」 ※2:出典 内閣府「 総合科学技術・イノベーション会議 資料 」 ※3:出典 文部科学省「 教育機会確保法 」
2024年08月28日大学生となった次男の湧太は、小学校の頃、支援級に通っていました。今は支援を必要としていませんが、彼が家庭にいるうちに、できる限り様々なトライ&エラーをして欲しいと思っています。なぜなら、トライ&エラーで得る経験値は財産だからです。 今回は、生きていくための必須項目、 「お金との付き合い方」のトライ&エラーについて 、我が家の事例を紹介します。 ■発達障害があるとお金のトラブルを抱えがち 発達障害があるとお金のトラブルを抱えがちである ことは、多くの支援者が指摘しています。 【発達障害の特性があるがゆえに抱えがちな困りごと】 (1)衝動的に欲しいものを買ったり、やりたいことやってしまう (2)見通しを立てるのが苦手なので、計画的にお金を管理するのが難しい (3)予算に関係なく、好きなものには徹底的にお金を使ってしまう 幼い頃の息子は、(1)(2)が該当していました。「このままだとマズイかも!」と考え、金銭教育には力をいれることにしました。 ■子どものお金の使い方をどうやって把握する? まずは、彼のお金の使い方を知るために、お金を精算制にしてみました。中高時代のおこづかいは3,000円。その他の必要経費は、「下記の精算用紙とレシートを提出すれば、後日精算します」という制度です。 お金の使い方は、優先順位をつけることが必須です。そのためには、大きく3つの項目に分け考えます。緑はインフラ、黄色はコスト、グレーはクッションです。 【緑:インフラ】 生活をする上でのインフラとなる費用です。将来的には家賃、水光熱費、通信費などです。 中高生で考えると、 部活の遠征や塾に行く際の交通費、学校から塾に行く間の腹ごしらえや時間調整のために入るカフェ代 をカウントしました。 【黄色:コスト】 生活をする上での、ランニングコストです。将来的には、食費、日用品といった生活費です。 中高生で考えると、 パンやおにぎりといったお弁当以外に食べる捕食代(中高生男子は、いつもお腹がペコペコです)、文房具代、書籍代 などをカウントしました。 【グレー:クッション】 イレギュラーなお金のことです。将来的には、レジャー費、交際費などです。 中高生で考えると、 お友だちとの外食やレジャー費 です。 クッション費については、「500円以上の部分」かつ「親が納得するようなプレゼンができれば」精算します、というルールでした。たとえば、休みの日に友だちと遠くに遊びに行った時の交通費や食事代を一部負担するといったところでしょうか。 この制度の良い点は、経費精算なので 「お金が足りなくなると、精算せざるを得なくなる」 ということです。「精算用紙を提出すれば現金が手に入る」と脳の報酬系を刺激する仕組みを作ることで持続可能な制度となりました。 ■息子の動きが透けて見える優秀な手がかり 思春期は、親子の会話の少ない時期です。「必要経費にするためのプレゼン」など、精算にまつわるアレコレが親子の大切なコミュニケーションになりました。 予想外の副産物として、レシートの優秀な探偵ぶりをあげたいです。息子が買い食いをしているレシートを見ることで、「こんなものを食べているんだ。この時間に、ここにいるんだ」と、息子の動きが透けて見えました。お金の流れは、本当に正直です。 ■無駄遣いは注意すべき? 私は、息子に対して、「無駄遣いをやめなさい」とか「節約しなさい」と言ったことはありません。むしろ、お金の小さな失敗を経験させたいと考えています。 たとえば、「友だちと遊びに行く予定があるのに、お小遣いが足りない。どうしよう!」とか「あの時無駄遣いしなければ、今〇〇円あるはずなのに!」といった感情経験です。 最初から、お金を上手に使える人なんていません 。お金の小さな失敗は、冒頭でお話した「トライ&エラーでしか得ることができない経験値」です。 本人が感情経験を素直に感じとれるよう、家庭内に、失敗も含めてお金の話を自然にできる雰囲気を作っておくことが大切 だと思います。 ■「お金の失敗をさせない」ことより大切なこと 成年年齢の引き下げで18歳、19歳の若者は、 未成年者取消権 (親などの同意なく行った契約を取り消すことができる権利)を使えなくなりました。 「お金の失敗は、誰にでも起こり得る」 という気持ちで親が構えていれば、子どもが実際に金銭トラブルを抱えてしまった時、親に相談がしやすいとも思います。 もっとも困ることは、子どもがお金のトラブルを抱えたまま、誰にも相談できず、問題が大きくなってしまうこと です。 高校を卒業するまでに、「この子のお金の使い方はどんな感じかな」と 子どものお金の使い方の癖を親が把握しておくこと 、 「お金の失敗は誰でもするんだから、何かあったら相談できる」という親子関係の構築 は大切だと思います。 ■もし子どもが金銭トラブルに巻き込まれたら…? 少し余談になりますが、子どもから金銭トラブルの相談を受けた時、保護者も動揺するでしょう。でも、大丈夫! 保護者は 「このトラブルは、どこに相談すればいいのかな?」 ということを子どもと一緒に考えてください。 「相談先を子どもと一緒に調べ、考える」という保護者の姿勢があるだけで、子どもは心強いと思います。 相談窓口は、下記などがあります。 ◎金融庁: 「中学生・高校生のみなさんへ」 「基礎から学べる金融ガイド」が、ダウンロードできます。お金のベーシックな知識は、これを読むと良いでしょう。また「基礎から学べる金融ガイド」の31ページ以降は「トラブルに注意」という項目となっており、相談窓口が記載されています。 お金を請求された場合、支払ってしまった後に取り戻すことが難しい場合もあるので、支払う前に、相談した方が良いでしょう。保護者の側にも、 「問題を一人で抱え込まずに、早めに相談機関と繋がる」 という感覚が必要です。 ■発達障害の診断を受けた息子の今! わが家の金銭教育について、息子はどう感じていたのでしょうか? 本人に聞いてみました! 湧太:精算制度のおかげで、浪費してしまった次の月は節制するなど、「自分で自分のお金は、コントロールできる」という感覚を持てるようになりました。 ■発達障害のある子はずっとこのまま?という不安 いかがだったでしょうか? 3回に渡って、発達障害と診断された息子の中学高校生活に伴走して考えたことをまとめてみました。 子どもに発達障害の特性があると、 育児最前線にいるママは本当に、本当に大変です 。いくら大変でも、ママには「育児をしない」という選択肢がない以上、毎日をゼーハーと“こなす”しかないですよね…。お疲れさまです。 でも、そんな日々を懐かしく思い出せる日が来るんです。私は、ある時、ふっとそんな日がやってきました。 発達障害がある子の成長スピードは、定型発達の子の7割くらい と言われています。幼い頃や学齢期だと、周囲の子どもと比べてできないことが多すぎて 「ずっとこのままなんじゃないか」 という気持ちになることもありますが大丈夫!! 「オムツがとれた」「立てた」「おしゃべりができた」といった時代、「あれ? うちの子、発達が遅い? 大丈夫かな?」などと気になっていたことはありませんか? でもあとから考えれば、それはたいした時差ではなかったですよね…。 発達のスピードはゆっくりかもしれませんが、 発達障害がある子も確実に成長します 。子どもが育つ力を信じて、その子なりの育ちを見守れると良いですね! 最後に最近の私の話をひとつ。「ふつう」という枠に入らない子を育てている母ばかりで話をする機会があった時のことです。 「私たちは、ヘビーな子育てだったがゆえに、いろんなことを考えざるをえなかった。そんな時間は、振り返った今となっては貴重だったよね」 というのは、全員一致の見解でした。 発達障害のある子を育てていると、途方に暮れることも多々あります。でも、大丈夫! 子どものことを一生懸命考えている自分を大切に扱いながら、自分なりの歩幅で歩いていけば、いつの間にか楽になる日が来るのだと実感を込めて思います。そして、そんな日々こそが人生の財産なんです。 本記事はあくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。 ■楢戸ひかるの著書 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 ギフテッドの生きづらさをリアルに描いたストーリーマンガ80ページと、約100ページの解説で構成。 当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案した書籍。
2024年05月31日小学校の頃、支援級に通っていた次男ですが、大学生の今は、支援を必要としていません。今回の特集では、環境調整(※1)をすることを第一に心がけながら、彼を育てた中高時代について書いてみます。 ■中学校の調査書に障害のことを書くべきか? 中学校になれば本人をとりまく環境は、親の目の届かない範囲まで広がります。言い換えれば、「社会に委ねるしかないフェーズ(局面)」が増えるのです。今回は、私が 社会とどのようにコミュニケーションをしたのか? について書いてみます。 次男は中学受験をして、私学に通いました。中学入学時に学校に提出する調査書には「学校側に何か知っておいて欲しいことはありますか?」という問がありました。この欄に 「支援級に通っていたことを書くかどうか?」 について、 小学校6年時の担任の先生に相談 に行くことにしました。 なぜなら、小学校を卒業する時点で、彼はまだ小さな支援が必要だったからです。たとえば、物の管理が苦手なので、「親が学校に置きっぱなしになっている上着7枚をとりにいく。そのついでに、ロッカーやお道具箱を整理する」といったことです(本人に何度言っても、上着を持ち帰れることはありませんでした)。 小学校の担任の先生からは、こんなアドバイスをいただきました。「彼は学級経営に支障をきたすタイプではありません。 調査書で先入観を持たれるよりも、湧太くんを見てもらった後の情報開示 の方が良いのではないでしょうか?」。 ■校風が子どもにはとても重要 小学校の担任の先生のアドバイスどおり、調査書には何も書かず、中学1年生に入学した最初の個人面談で、口頭で担任の先生に次の3項目をお伝えしました。 (1)通級経験があり、広汎性発達障害という診断がついています (2)彼に定型発達の子のような育ちは、望んでいません (3)学級経営に支障が出ない限りは、「彼にはできないこともある」と考慮いただけると嬉しいです 万一学級経営に支障をきたすような場合は、家庭で全力フォローをするのですぐに教えてください。 その時の担任の先生の回答は、「大丈夫ですよ。全員が湧太くんみたいな子だったら困りますが、湧太くんみたいな子は、どの学年にもいますから」でした。 この先生には、中1~高2まで担任して頂きました。もしかしたら、「自分の手元に置いておこう」と、ご配慮くださったのかもしれません。その後の個人面談でも、「授業態度、生活態度、忘れ物など、彼はすべての項目でクラスのワースト3に入っていますが、ワースト1の項目はないので、まぁ、良いんじゃないですか?」と、手綱をゆる~く持って接してくださっていた印象です。 彼の通った学校は、キリスト教をベースにした 家庭的でおっとりとした校風 です。彼なりの育ちを見守っていただけたという意味で、この 校風に助けられました 。もしガチガチに管理するタイプの学校だったら、親子ともども苦しかったと思います。 ■子どもが発達障害であることをカミングアウトする? 私学中学に通うとなると、お友だちも総替わりです。小学校時代は支援級に通っていたこともあり、周囲は「叱られるようなことばかりする湧太」を、「そういう存在」として受容してくれていました。私は、この状態を「市民権がある」と表現しています。 ▼目指すは、市民権の獲得! 「あいつ、ちょっと変わっているけど、いいところもあるし、いいんじゃないの?」みたいな存在です。 私は、 発達障害のある子の子育てで目指すラインは「ふつう」ではなく、「市民権の獲得」 だと考えています。何を隠そう、発達障害の特性が強い私の生存戦略が「市民権の獲得」だったからです。 ▼部活のママ友には早めにカミングアウト ここからは、「私は、こう考えた」という私見として話を聞いて欲しいと思います。 中学・高校という難しい時期に、発達障害の特性を周囲に伝えることの是非は、100人いれば100とおりの考え方があるでしょう。 私の場合は、大きく2つの理由で、彼が入っている部活のママ友には早めにカミングアウトをしました。 (1)部活は、彼の学校生活の多くの時間を占める場所であること (2)万が一問題が起きた時、早めに対処するため 「変な遠慮はせず、早めに教えてもらいたい」と考えてカミングアウトしたせいか、ママ友には、随分と助けていただきました。 ▼カミングアウトのおかげで助かった部活トラブル 高校2年生の時は、家庭として「部活の会計係」をお引き受けしました。精算すべきレシートは息子が預かって私に渡すはずですが、全紛失。 息子の同級生たちは、お母さん経由で精算金額を教えてくれました。そして私も、同級生くんに「精算金を息子に渡したのでピックアップをお願いします」とお母さん経由でお伝えしていました。協力体制をお願いしておいて、本当によかったです。 ■「できない」ことを諦める 発達障害というのは、 「できることと、できないことの差が激しい状態」 です。「できない」ことを、あたかも「できる」風にするには、他の人の数倍の労力を使います。 そうであるなら、最初から「そこはできない」と諦める。そして周囲にSOSを出したり、ご迷惑をおかけしていたならば、襟を正してお詫びをする力も必要です。 息子は、多動で不注意ゆえに、「やらかす」ことが多々ありました。たとえば、足を出して友だちを転ばせケガをさせる、友だちの持ち物を壊す、細々とした校則違反…。 保護者会の前に、息子に「私が知っておくことは?」と聞くと、「家庭としてお詫びが必要な案件」が数件出てくるのが常でした。保護者会では、菓子折りを複数持ってクラスをまたいでお詫びをしたり、保護者会の後に先生にお詫びに伺ったり、「お詫び行脚」をしていました。今では、懐かしい思い出ですが。 ■発達障害の特性を「怠けている」と言われた場合 2019年度から、特別支援教育に関する内容が、教職課程の必須科目になりました。 「先生が発達障害についてまったく理解がない」 ということは今後、減っていくと思います。 けれども、実際の社会では、いまだ発達障害への理解が進んでいない人もいます(中高年に多い印象です)。私自身が、発達障害の傾向がある当事者です。発達障害についての理解がない人から、「怠けている。努力が足りない」とお説教をされたり、特性を理解してもらおうと話をしても、それを 「発達障害と言えば何でも通ると思って、開き直っている」 と言われたこともあります。 ここについては、今でも私自身、トライ&エラー中です。 自分として試行錯誤をした結果、 発達障害について理解がない相手とは、適正な距離をとるのが良い ように感じます。世界は広いのですから、相手を価値観を変えようと奮闘するより、他の世界に目を向けた方が建設的だと思います。 こんな自分の経験を踏まえ、発達障害の特性がある場合、最終的には、大きくは次の3つが必要だと私は考えています。 1)発達障害の特性を否定されない環境(人間関係も含め)を選ぶ 2)必要に応じSOSを出す、迷惑をかけた場合は素直に謝る 3)生活上の細かい部分は工夫をする 上記は、その人が置かれている生活環境によって違うので、自分でトライ&エラーで学んでいくしかありません。私は、息子が家庭にいるうちに「この子と一緒に、トライ&エラーが何回できるかな?」と、考えています。 トライ&エラーの回数を増やすことは、 経験値という息子の財産を増やしている ことだと思います。イメージとしては、「将来大きな花が咲くために、植木鉢に栄養を蓄えている」といった感じでしょうか。 ■発達障害の診断を受けた息子の今! 中学校・高校時代の母の支援について、本人はどう思っていたのでしょうか? 湧太:母のお蔭で、担任や周囲が障害のことを理解してくれていた。学校生活は、のびのびと過ごすことができました。 次回は、生きていくための必須項目、「お金の管理」について考えてきたことを書いてみます。 ※1 【環境調整とは?】 次男への支援を考える時、私はWHOの社会モデルを使って障害を捉えました。「社会のスタンダード」にわが子を矯正するのではなく、「社会のスタンダード」に対してと、わが子ができないことを見極め、具体的な「手立て」で環境を整える。そんな視点での支援です。 本記事はあくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。 ■楢戸ひかるの著書 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 ギフテッドの生きづらさをリアルに描いたストーリーマンガ80ページと、約100ページの解説で構成。 当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案した書籍。
2024年05月30日次男の湧太(仮名)は、小学校低学年の頃、特別支援学級に通っていました。大学生となった今は、支援は必要なく暮らせています。今回の連載では、そんな彼の中学・高校生活を伴走しながら考えたことを綴ります。 ■「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら 今回の連載は、2016年に掲載された『「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら』の続編となります。 実際にわが子が発達障害と診断されたライターが実体験を連載形式でお届けします。 ■「俺って、発達障害なの?」 つい先日、「お母さん、俺って、発達障害なの?」と、息子の湧太から聞かれました。「何で?」と聞いたら、「発達障害の友だちに、『お前も、絶対に発達障害だろ!』って、言われた~!」と屈託なく話す彼を見て、「これで、良かったんだ」と思いました。 私が息子を育てるにあたり、多大な影響を受けたのが、 NPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子先生 (※1)です。 日本の発達障害分野を牽引されてきた高山先生は、よくこんなふうにおっしゃいます。 「発達障害の子」ではなく、「湧太くん with発達障害」と表現しよう 「発達障害の特性」からくる、困った状態はたしかにあります。けれども「湧太くん with発達障害」という表現には、「湧太という個性を大切にして慈しもう」そんな意思を感じます。 ■「普通」のやり方で子どもを育てられなかったら? 高山先生はご自身がADHD(注意欠如・多動症)と診断されていて、小さい頃からたくさんの失敗を繰り返してきたそうです。「失敗のたびに、祖母が私にかけてくれた言葉がある」と、高山先生は言います。それは…。 失敗は成功のもと、次にうまくいく方法を考えればいい この言葉は、私が育児をする上での座右の銘にもなりました。 「頑張れ」といった精神論ではなく、「今、ここにいる湧太」と楽しく暮らす方法を具体的に考えること。一般的なやり方でうまくいかないのなら、うまくいく工夫(手立て)を考えればいい…。ただ、それだけの話なんだと思ったら、とても気が軽くなりました。 そして、困ったことが起きた時は、こんな「問い」を自分に返す習慣をつけました。 湧太が暮らしやすくなるために、私ができることは何だろう? ■子どもの特性を矯正せずに親ができる対策 結論から言えば、私ができることは 環境調整 (※2)です。環境調整とは、子どもの特性を矯正するのではなく、 特性があっても大丈夫なように、子どもの周辺環境を整える イメージです。 「環境調整」という概念を最初に知った時、コペルニクス的な発想の転換だと感じました。環境調整については、この記事の最後に少し詳しい説明を入れましたので、良かったらお目通しください。 ■「モノをなくさない」が前提になった社会に親ができること 環境調整を、具体例に考えてみましょう。たとえば、湧太は、 物の管理が壊滅的にできません でした。ADHD傾向がある子に対して、「なくしものを『しない』支援」にトライしたことがある人なら、大変さはイメージしていただけると思います。 今の日本社会は「なくしものはしない」ことが前提になっています。でも、湧太は爆発的になくしものする…。「なくしものはしない」という(社会の)前提に湧太を矯正するのではなく、 湧太がなくしものをしても大丈夫なように、環境の方を整えます 。 私が実践した工夫(手立て)を3つほどご紹介しましょう。 ■私が実践した環境調整3例 1)傘や手袋は消耗品と考え、ビニール傘や100均手袋を大量に購入しておく 2)鍵は専用のホルダーで管理をし、本人には持たせない 3)お弁当箱は、「タッパーとお箸箱」のセットを何組も作る ■「できない」ことを、解像度高くイメージする 湧太は、数限りない紛失劇を繰り返しました。上に書いたもの以外でも、学ラン(2着)、歯科矯正の器具、履いて出かけた靴、部活動の共有品(ボールが入った袋)などなど…。「そんなものがなくなるの?」と思うものも、たくさんありました。 いちいち「なんでなくすの!」と怒っていたら身が持ちません。「今回はそれなんだ!」と、ちょっと面白がる気持ちで対応しているうちに、私のキャパは広くなりました。 「特性がある子との生活」というのは、「なんで(誰もが普通にできることが)できないの?」といった感じで、「なんで?」の連続になります。 私は、自分に「発達障害の特性」があったので、「何でできないの?」と言われる側の人間でした。言い換えれば、できないことをイメージしやすかったのです。 ご自身が定型発達の親御さんの場合、 「何でできないかがわからない。そこを、うまくイメージできない」 という話はよく聞きます。そうなると、「頑張りや努力が足りないからだ」といった精神論に行きがちです。 そうではなく、まずは 「できない」ということを、保護者が解像度高くイメージする 。そして工夫(手立て)を具体的に考える。 工夫(手立て)のひとつ、ひとつは小さなことですが、それを積み重ねていくことが、「今、ここにいる湧太」と楽しく暮らすことと思っています。 ■発達障害の診断を受けた息子の今! 母の支援、息子は気がついていたのでしょうか? 本人に聞いてみました! 湧太:母がなくしものを叱らずに対処してくれていたのは、印象に残っています。そのお蔭で、「なくしものをしてしまったらどうしよう」といった気持ちに引きづられることなく、自由に生活することができました。 今回は、家庭で今すぐできる支援についてお伝えしました。次回は、社会(学校・友だち)とのお付き合いについてお話します。 【発達障害という「診断」について】 私は、認知機能がかなり凸凹で、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向があります。 発達障害と「診断」を受けるには、「発達障害の特性」とされる診断項目を、基準より多く満たしている必要があります。つまり「発達障害の特性」をひとつ、ふたつ、持っているだけでは、発達障害という「診断」はつかないのです。 私の場合は、「発達障害の特性」をいくつか持っていますが、仕事上や家庭で大きく困ってはいないので、「発達障害の傾向がある」という状態です。 ※1.【高山恵子(たかやまけいこ)さん】 NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。 臨床心理士。薬剤師。 専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。 ※2.【環境調整とは】 発達障害への支援を考える時、「世界基準では『障害』をどう捉えられているのか」を知っておくと良いでしょう。 WHO(世界保健機関)は、障害を「個人(医学)モデル」ではなく、「社会モデル」で捉えています。この場合の「障害」とは、 「社会への参加を制限されること」 です。 たとえば、足が不自由だった場合で考えてみます。「個人(医学)モデル」は、足が不自由であることを個人的な問題として捉えています。足の機能訓練をして歩けるようにしたり、介護者を募ったりといったアプローチは、いわば従来の障害の捉え方です。 一方で、「社会モデル」の場合は、必要とする人には公費で車椅子を支給し、社会全体をバリアフリー仕様にするなど、社会の環境調整をすれば、その人は社会参加を制限されませんから、「障害」とは捉えません。 私がやっている「息子の周辺環境の整備」は、いわば「社会の環境調整」です。発達障害の特性があることは、国籍や性別を本人が選べないことと似ています。そうであるなら、 発達障害の特性に付随する「大変さ」を本人だけが背負うのではなく、社会の環境を整えるサポートを一緒にできる と良いなと思っています。 本記事はあくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。 ■楢戸ひかるの著書 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 ギフテッドの生きづらさをリアルに描いたストーリーマンガ80ページと、約100ページの解説で構成。 当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案した書籍。
2024年05月29日子どもの「生きづらさ」を「らしさ」に変える【ギフテッドを知ると見えてくる、子育てのヒント Vol.2】(きほん編) の続きです。 知能が高いことで知られる ギフテッド ですが、 学校や日常生活で困ることがあり、配慮や支援が必要 ということを 前回の記事【きほん編】 でご紹介しました。 今回の【インタビュー編】では、 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』 の著者であり、Webメディア 「みんなの教育技術」 でギフテッドの担当をしているライターの 楢戸ひかる さんに、 日本のギフテッドの現状や課題 についてお話を伺います。 ギフテッドについて知ることは、 これからの時代を生きる子どもたちの生きやすさ にも関わってきます。 また、 個性を潰さないためにどのような教育環境を整えればいいのか というヒントにもなるはずです。ぜひギフテッドについて一人ひとりが理解を深め、社会全体でより良い議論ができるようになることを願います。 \ 教えて楢戸さん / ギフテッド Q&A 「うちの子、ギフテッドかも?」と悩んだ場合 Q. 我が子はギフテッドかも… と感じたら、 最初にすべきこと はなんでしょうか? また、どこへ相談すればいいでしょうか? 学校への説明などでアドバイスがあればそれも含めて教えてください。 A. 手前味噌で恐縮ですが、今回の著書『 ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊) 』をまずは読んで欲しいと願います。 日本でのギフテッドに関しての論議は、始まったばかりです。多角的にノウハウを蓄積している専門機関はまだ少ないのが正直なところです。 でもお子さまの特性が心配になった場合には、まずはひとりで悩まずに誰かとつながる場所を見つけることが大切です。書籍でも紹介している「一般社団法人 ギフテッド応援隊」についてはこの続きをお読みください。 また書籍では家庭の中に「ギフの湯」を登場させる方法についても書かれているので、ぜひこちらも読んで欲しいと願います。 情報の海で溺れるのは、本当に辛いですよね……。この応援ブックは、厳選したベーシックな情報で構成しました。 気持ちの整理 をする際に、浮き輪のつもりで使って下さい。 そして、 『まずは、お母さんの心の居場所を確保して下さい!』 と、お伝えしたいです。 お母さんの心が安定 していれば、たいていのことは何とかなります。 居場所の確保という意味では、一人でもいいから子育てのことを本音で話せたり、相談できる相手がいることが重要です。 一般社団法人ギフテッド応援隊 だと、ギフテッドの子育てに共通理解がある人に出会いやすいと思います。 この応援隊は、全国規模で活動する 保護者の自助団体 です。会員専用SNS内では、相談機関の情報なども共有されていると聞きます。先輩のお母さんから方から、経験談なども聞けるとよいですね! 学校への説明の際は、そのギフテッド応援隊が提供している サポートブック の使用をおすすめします。会員の方は、サポートブックを会員専用SNS内から無償でダウンロードできますが、一般の方への販売も行っています。(楢戸さん) まわりにいるギフテッドの子との接し方 Q. 身近にギフテッドの子がいる場合(兄弟やクラスメイト)、子どもたちには どう説明 すると理解しやすいでしょうか? また接し方で 注意すべき点やアドバイス があれば教えてください。 A. もし私に読者の方と同世代の子ども(未就学児や小学生)がいたとしたら、ギフテッドという言葉は使わずに、ギフテッドの子の特徴(周囲との違いや困っていること)を、 『そういう子も、当たり前にいるよね』といった気持ちで子どもと対話 をしてみると思います。 たとえば… 『チャイムの音、〇〇(お子さんの名前)より、うんとびっくりしちゃう子がいるんだよね』 『もし〇〇が、悲しい気持ち、うれしい気持ちが、いまより10倍強く感じたとしたら、どうかな?』 … といった感じでしょうか。 人はそれぞれ異なる ということ。ギフテッドをひとつの入口にして、いろいろな角度から子どもと話をしたら楽しいと思います。 ギフテッドだからといって、接し方で注意すべき点は、とくにありません。ただ、ギフテッドの子がもし我が家に遊びにきてくれたとしたら、私はその子自身に あらかじめ声かけ をしておくかもしれません。 たとえば、『人はそれぞれ違うから、△△ちゃんが嫌だなとか思うことがあったら、教えてもらえると助かるな。私、気が付けないと嫌だからさ』といったように。 私が実際に出会ったギフテッドたちは、繊細で聡明。1を見て10を知るみたいな感じの子どもたちでした。 私も最初の取材時は『ギフテッドと、どう話せばいいんだろう?』と、緊張をした記憶があります。でも妙に構えず、 率直 に話しをすれば、楽しく会話ができました。 もしかしたら、 “子ども扱い”はしない方がいいかも しれません。ギフテッドは 姿かたちは幼児でも、確固とした自己を確立している お子さんも多いからです。(楢戸さん) 日本での現状のギフテッドの課題 Q. 最近になってギフテッドへの認知が、徐々に広まってきているように感じます。 長年取材をしてきた楢戸さんがいま感じている 『日本におけるギフテッドの問題点や改善点』 について教えてください。 A. ギフテッドと発達障害が混同されている点 が気になります。 “ギフテッドの特性”と“発達障害の特性”はそれぞれ分けて考えた方が、その子が必要とする支援ニーズを整理しやすく、結果として 必要な支援に辿り着きやすい と考えます。 ギフテッドという言葉が広がることで、 発達障害に対する対応が遅れてしまうことを懸念 しています。とりわけLD(学習障害)は、 専門の配慮や介入が必要 なので、 見過ごさないで欲しい と思います。 また、ギフテッドという言葉を、日本では “稀にいる天才”といった意味だと誤解している人がいる ことも気がかりです。本連載でお伝えしたように「ギフテッド」とは、 知能が高いだけでなく、“学校や日常生活で困ることがある” お子さんのこと。それぞれに適したサポートが必要なのです。 欧米の国の中には、公教育の中でギフテッドの教育保障をしている国もあります。私が取材した範囲では、ギフテッドの割合は約5~7%と見積もられていました。日本の35人学級で換算すると、 1学級に1~2人はギフテッドがいる 計算です。 日本も文部科学省が2023年から予算をつけ、 ギフテッドの支援事業 を開始しました。ギフテッドの教育が、 公教育の枠組みの中で実施されること が大切です。(楢戸さん) ギフテッドに関心を持ったあなたへ 今回初めてギフテッドについて知った方へ、メッセージがあればお願いします! この記事をご覧になってくださったあなたは、いまどんな状況でしょうか? ご自身のお子さんの 強い個性 を 『発達障害の文脈だけでは、どうにも腑に落ちない…』 と感じていたならば、『うちの子、ギフテッドなのかもしれないな』と思われたかもしれません。 お子さんは、学校に行けていますか? 『不登校の子の中には、ギフテッドとしての対応が必要な子どもがいることを念頭に、具体的な支援が必要な時期に来ている』 と指摘する研究者もいます。 『うちの子とは、まったく無縁の話だわ』と思われる方も、もちろんいらっしゃるでしょう。 けれども、 お子さんのお友だちのなかに、ギフテッドがいる可能性 はあります。 今後、お子さんとギフテッド傾向のある子がお友達関係を築いていく上で、 ギフテッドの知識 が多少あった方が、お母さんご自身も安心なのでは… と思います。 世界ではギフテッドの論議が進んでいますが、日本ではギフテッドの論議はまだ始まったばかり。 でも、日本にもギフテッド当事者の声に耳を傾け、真摯にサポートをしている支援者、教育実践者、研究者たちがいます。 私が取材したギフテッド情報をどのように伝えれば、多くの方に関心を持っていただけるのだろうか? 私自身、まだまだ試行錯誤をしています。読者のみなさまと一緒に考えていけるとうれしいです。(楢戸さん) \ ご紹介した書籍 / 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 2023年10月3日発売 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 著者:楢戸ひかる プロフィール ライター。息子の通級をきっかけに、「特別な教育ニーズのある子どもたち」を軸に教育記事を執筆。通級を経験した母親として、当事者目線の発達障害理解教育の講師活動も行っている。主事業の最適化を考えるサイト「主婦 er」運営中。ウーマンエキサイトでも執筆中。 HP: 楢戸ひかる 記事一覧 >>
2024年02月05日マンガで解説! 「ふつう」が子どもを苦しめる【ギフテッドを知ると見えてくる、子育てのヒント Vol.1】 の続きです。 ここ数年で少しずつ認知が広がってきた、 ギフテッド 。しかし、言葉だけが先行し、ギフテッドである 当事者の生きづらさや、周囲の人たちの最適な接し方 といった本質的なところまではなかなか理解が進んでいません。 そこで今回の 【きほん編】 では 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』 から一部抜粋・編集し、 ギフテッドとはどんな特性をもっていて、どのような配慮が必要なのか 、をご紹介します。 本書ではギフテッドをとりまく現状や課題、有識者たちによる知見やアドバイス等を、マンガを交えてわかりやすく紹介。「子どもの成長に必要なもの」が生き生きと描かれており、 当事者のみならず「すべての親たちに役立つ子育てのヒント」 が詰まっている。 さらに、この本の著者 楢戸ひかる さんに、 日本におけるギフテッドの現状や課題 についても伺いました。(次回【インタビュー編】にてご紹介) 本連載は、初めてギフテッドについて触れる方にもわかりやすいよう 【マンガ編】 【きほん編】【インタビュー編】の3部構成でお届けしています。これを機に「ギフテッドをとりまく環境」に少しでも関心をもっていただき、 すべての人が生きやすい世の中 をみんなで作っていけたらと願っています。 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』 著者:楢戸ひかる 監修:北海道教育大学旭川校 片桐正敏教授 本書では片桐教授のほか、佐賀大学教育学部講師の日高茂暢さん、ギフ寺住職の小泉雅彦さんの3名をはじめ、ギフテッド当事者・保護者に繰り返し取材をし、その叡智を楢戸さんが結晶させた“富良野カムイ”という架空のキャラクターも登場。 ※本記事は、楢戸さんがナビゲーターを務め、カムイが答えるQ&Aページや 一般社団法人ギフテッド応援隊 と みんなの教育技術 編集部による座談会ページなどから一部抜粋し、編集しています。 \ ギフテッド【きほん編】 / 知ってるようで知らない、そもそもギフテッドって? 「ギフテッドとは、教育学や心理学で使われる用語で、一般的には 知的能力(知能)の高い子ども を指して使います。医学的な診断名ではないので、 医療機関を受信しても、ギフテッドと診断してもらうことはできません。 アメリカではギフテッドに関する項目に 定義 が記載されていますが、日本には定義はまだありません。しかしながら、2022年秋に 有識者会議から文部科学省への提言 がおこなわれ、今後の施策が示されるなど、日本でも議論がスタートしているところです」 IQや能力が高いひと=ギフテッド なの? 「ギフテッド」とは、知能が高いだけでなく、 “学校や日常生活で困ることがある” お子さんのことを指します。 「ギフテッドの教育整備が進んでいる 北欧のデンマーク では、2024/25年度からギフテッドの スクリーニングチェックリスト の活用を目指していますが、このチェックリストのもととなった研究では、ギフテッドに該当した子どもの84%が IQが120以上 だったという報告があるそうです。 知能が高いというのはギフテッドのひとつの特性といえます。そしてもうひとつ大切なポイントは、 “学校や日常生活で困ることがある” ということです。 知能が高くても、学校や日常生活で困っていない子もいるでしょう。あえてギフテッドというラベルを使うのは、実際に困っている子がいるからです。 ギフテッドは、 言語理解力や記憶力、好きなことに対する探究心 などは高いです。一方で、 日常のルーチンが定着しない、精神的にちょっと幼い と感じるケースが、よく見受けられます。 幼児期はとりわけ知識の高さに生活力が追いつかない時期で、そこにギフテッドによくある 完璧主義や正義感の強さ が結びつくと、 イライラが募って癇癪を起こす など、 周囲の人との軋轢 を生んでしまいます」 ギフテッドの子が感じている“生きづらさ”って? ギフテッドの生きづらさはさまざま。例えば… ・仲間に出会えずひとりで 孤独 を抱えている子が多い ・多くの人が自然に受け入れることができる物事に、 過剰に反応 してしまう。同年齢の集団の中で浮いてしまう ・ 自分に合った学習環境 が手に入らず、知能に見合った学習成績が得られない …など。 これまでの教育実践や研究から、ギフテッドの生きづらさを 大きく3つ に分類してみました。まず 1 と 2 について説明しましょう。 1. ギフテッドは「姿」が見えづらい 2. 「非同期発達」と「過度激動」が知られていない 3. ギフテッドと発達障害との混同(→次ページで解説) 1. ギフテッドは姿が見えづらい まず 量的 な問題として、 ギフテッドが少数派 であることから、 仲間に出会えず、孤独を抱えている子が多い ということが挙げられます。 内閣府がギフテッド(特異な才能のある子ども)と仮定したIQ130以上に該当するのは、約2.3%。ボリュームゾーンである約7割の多数派からは外れてしまいます。 小・中学校の頃は家と家庭が時間の大半を占めている時代です。 今いる世界の中で多数派でないことは、大人が思っている以上に辛い ものです。 そしてもうひとつは、 才能というのはそもそも見えづらい という点です。ギフテッドの中には、その子に合った学習環境を手に入れられず、 知能に見合うだけの学習成績が得られない子(アンダーアチーバー) もいます。 才能は学業成績だけでは測れませんし、子どもたちの中には 学校の勉強に興味を持たない という子もいます。まずは、 好き! やりたい! を尊重することが大切 です。 2. 「非同期発達」と「過度激動」が知られていない どちらも聞き慣れない言葉かもしれません。 まず 「非同期発達」 について。 いわゆる知的能力(認知能力や言語能力)、社会的な能力、情緒的な能力、運動能力は、一般的には 相互に関係しながら、年齢とともに発達 していきます。 この発達が同期している(相互に関係がある)状態に対して、ギフテッドの場合は 発達が同期していないように見える ことが多いため、「非同期発達」(発達の非同期性)と呼ばれます。得意な領域の発達が目覚ましいため、ほかの能力の発達と 大きな開き が出てくることがあるのです。 情緒面 では同年齢の子より 幼さ が見られることもあるほか、 運動能力も比較的ばらつきが大きい かもしれません。 そしてギフテッドの多くに見られるもうひとつの特徴である 「過度激動」 とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態。 多くの人が自然に受け入れることができる物事に過剰に反応してしまうなど、過度激動があると 集団生活の中で苦しい ことがあります。環境からの刺激に対して、 強い行動力・感情的な反応 を引き出すので、 同年齢集団の中で浮いてしまう ことも。 普通を主語にして物事を考えること自体が、時代遅れ。 その状態がギフテッド本人の葛藤になったり、周囲の人や環境との軋轢を生むことになる 可能性もあります。 そのため、ギフテッドのカウンセリングをする際には、過度激動に対して否定的に捉えるのではなく、 自分の過度激動に関して理解を深めることが重要視 されています。(※より詳しい過度激動の5つのタイプは書籍にて紹介) 「普通の枠内に収まらない強い個性を持ったギフテッドが、普通であることを求められる環境にいると 強いストレス を感じます。 日本では“多数派”側にいないと“普通”じゃないといわれがちですが、多様性が尊重される今の時代、 普通を主語にして物事を考えること自体が、時代遅れ 。いわゆる 普通でない仲間もたくさんいること や、 本人の辛さやSOSに周囲が気づくこと が大切ですね」 ギフテッド=発達障害 ではないの?? ギフテッドと発達障害は、分けて考えることが重要 です。なぜならば 支援ニーズが全く異なる から。 大切なのは「この子はなぜ生きづらいのだろうか? ギフテッドの特性があるからなのか? それとも発達障害の特性があるからなのか?」という 問い なんです。 「たとえば、発達障害の種類のひとつである ASD(自閉スペクトラム症) の特性である “こだわり” がある子は、興味関心のある分野についてかなり深い知識を持っているため、それを他者に滔々と話すことがあります。 これはギフテッドに見られる知性過度激動の【知的好奇心が強く、言語発達も早熟。時として、周囲と話が合わずに困る】という状態と、 一見すれば似たように 見えます。 しかしギフテッドは、総合的な学習の時間などの話し合いのある場面では、 イニシアチブを発揮しながら、友だちの意見を交えつつ問題解決に向けて学習を進めていくことが可能 です。 話題が噛み合っていないなと感じることもできますし、話をしている相手の感情なども感じ取ることができます。 ギフテッドとASDが決定的に異なる点は、ASDのある人は他者の感情や意図の読み取りが難しい ということです。 また、 ギフテッドの中には発達障害がある人もいて、このような人を2E (ツーイー)といいます。 発達障害とギフテッドでは 異なる支援ニーズ があり、 アプローチも異なり ます。したがって、 両者をしっかり分けて考え、両方の特性がある場合はそれぞれの配慮と支援を考える必要 があります。両者を同じだと考えたり、どちらか一方しかないと思い込むと、支援がうまくいかないことがあります」 ギフテッドの子への配慮や声がけ、どう気をつけたらよい? 義務教育のカリキュラムは、平均的な知的能力の人向けなので、 その環境に自分を合わせようと無理をしてがんばっているギフテッドがいる ということを、まずは知って欲しいです。 ギフテッドの強みと弱みは表裏一体。 子どもの個性を多角的な視点で捉えることが重要 です。 「仮にわが子が不登校で、その子が久しぶりに学校に行って帰ってきました。何て声がけをしますか? 頑張ったね! すごいね! という声がけをする気持ちはわかります。でも、 その声がけを子ども視点でチェックしてみて欲しい のです。学校に行ったことを褒めることで 暗黙のプレッシャー を与えていないでしょうか? 久しぶりに学校に行ったときには『大変だったね』『お疲れさま』『ご苦労さま』と、 まずは気持ちを汲みとり、いたわることが大切 です。 ギフテッドはとりわけ 環境に敏感 な子どもです。がんばって合わせようとしていても、そもそも合わない環境に置かれているので、フィットするのは至難の業。それを怠けている、我慢が足りないで片付けられてしまうと、 本当にしんどい のです。 特性である 強い集中力 は、強みでもありますが、 集中しすぎる(過集中)状態 のときはまわりのことが見えていなかったり、ほかのことはおろそかになりがちです。 つまり、 強みと弱みは表裏一体 。強みをうまく扱うことができれば強力な武器になりますが、一方で自分や周囲を傷つけてしまう可能性もあります。 現状、日本の教育現場では、どうしても弱みや困っていることに対する配慮や支援が優先され、 強みに対する配慮や支援の重要性 はあまり議論されていません。 ギフテッドへの理解が学校現場に浸透することで、 強みに対する配慮や支援という発想 が広がっていくことを期待しています」 ギフテッドについて理解し、多様性を受け入れよう! 今回の【きほん編】では、ギフテッドとはどんなものなのか、いくつか抜粋してご紹介しました。 まずは、ギフテッドは単に知能が高いだけでなく、学校や日常生活で困ることがたくさんあるということを理解しましょう。そして、社会全体で多様性を認め合って、誰しもが生きやすい環境を整えていけるよう、 関心を寄せていくことが大切 です。 次回 は、『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』の著書であるライターの 楢戸ひかる さんに、日本のギフテッドの現状や課題について、さらにお話を伺います。 \ ご紹介した書籍 / 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 2023年10月3日発売 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 著者:楢戸ひかる プロフィール ライター。息子の通級をきっかけに、「特別な教育ニーズのある子どもたち」を軸に教育記事を執筆。通級を経験した母親として、当事者目線の発達障害理解教育の講師活動も行っている。主事業の最適化を考えるサイト「主婦 er」運営中。ウーマンエキサイトでも執筆中。 HP: 楢戸ひかる 記事一覧 >>
2024年02月05日近年、 「ギフテッド」 という言葉を耳にする機会が増えてきました。ギフト=贈り物という意味から、特別な才能を授かった人という認識の方が多いかもしれません。 しかし、ギフテッドの生きづらさや個性といった本質的な特徴を、 きちんと理解している人は少ない のが現状ではないでしょうか。 そこで、 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』 の著者で、 Webメディア「みんなの教育技術」 でギフテッドの担当をしているライターの 楢戸ひかる さんに、 ギフテッドを理解するうえで知っておきたいこと についてわかりやすく解説していただきます。(全3回) 今回の「マンガ編」では、著書に掲載されている“ギフテッドの生きづらさとは何か”がわかるマンガの一部を転載してご紹介します。 第1話: 「ふつう」がわたしを苦しめる 主人公は小川結衣(おがわ・ゆい)。生まれつき知能指数が高く、突出した絵やデザインの才にも恵まれたギフテッドの少女。一人っ子。 ※マンガのストーリーは、北海道に実在する「ギフ寺」(ギフテッドの子どもたちのための居場所)への取材に基づいたフィクションです。登場人物・場所・設定は、実在のそれとは無関係です。 ↓ココから読む(左から右) ギフテッドである主人公・結衣が、どんな場面で生きづらさを感じているのか少しご理解していただけたのではないでしょうか。 結衣はこの後、ギフの湯で自分の居場所を見つけ自分らしく毎日を過ごせるようになります。(マンガの続きは、『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−(小学館刊)』に掲載されています。気になる方はぜひお手に取ってご覧ください) ギフテッドにとって、 “自分のことを理解し、理解してくれる仲間を作って、自分のやりたいことができる安心・安全な環境をもつ” ということが、 自分らしさを失わずに生きていく うえでとても重要になります。 続く 【きほん編】 では、楢戸さんのインタビューを通じて 「ギフテッドとは何か」 について、イチからご紹介します。 \ ご紹介した書籍 / 『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊) 2023年10月3日発売 定価1,760円(税込)/192ページ 著:楢戸ひかる 監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授) 取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊 マンガ:黒川清作 著者:楢戸ひかる プロフィール ライター。息子の通級をきっかけに、「特別な教育ニーズのある子どもたち」を軸に教育記事を執筆。通級を経験した母親として、当事者目線の発達障害理解教育の講師活動も行っている。主事業の最適化を考えるサイト「主婦 er」運営中。ウーマンエキサイトでも執筆中。 HP: 楢戸ひかる 記事一覧 >>
2024年02月05日今回は、編集部に寄せられたお悩み、「わが子が他の子をいじめていた。その時、母親がすべきことは?」について、花まる学習会の高濱正伸さんにお話を伺いました。 ■いじめはなくならない ――わが子が他の子をいじめていた。母親にとっては衝撃的です。どう考えればいいんでしょうか? この話は、脳の進化の過程、とりわけ 「原始脳」 についての知識があると、理解が早いです。人間は、理性だけで割り切れるほど、単純な生き物ではありません。 【原始脳】 大脳辺縁系とも呼ばれ、動物として生きるための必要な機能を担う。感情が生まれる中枢であり、情動と密接に関係する部位と言われています ――「いじめの話」と脳の話はどう結びつくんですか? 人間を理解する前提として、「原始脳が司っている『人間らしい感情』は、全員が持っているものなんだ」と、知っておくことが大切です。 お母さんが、子どもを「心の底から愛している!」と感じるのも、この部分の脳です。一方で、怒ったら「自分でもどうしてここまでオーバーヒートしてしまうんだろう?」と、理性で制御がきかない状態になってしまう。それも、「原始脳だから」と捉えれば、納得できるわけです。 ――感情は「原始脳に由来する」ということですか? はい。それで私が言いたいのは、 「いじめはなくなりません」 ということです。なぜなら動物としての人間は、 残酷な生き物 だからです。 そこを「ないこと」にせずに、 まずは認める 。その上で、心のバランスをコントロールする。この二段階のステップが必要です。 つまり、いじめについては「絶対にあってはならないものだ」と言い出す人がいますが、「いや、いや。普通にあるでしょ」という話です。 「絶対にいじめちゃいけないのはわかっているけれど、どうしてだか腹が立つ」とか、「言っていることはわかるんだけど、なんかイラッとする」とか…。 「生きていればそういうことの連続で、それが自然なことである」 という人間理解が必要です。 ――「『いじめたい』」いう感情があることは人間としては自然だ」ということですか? こういった負の感情を飼い慣らしながら生きていくのは、大人だって難しいですよね…。だからこそ、お母さん方に考えて欲しいのは、 「いじめている側の子の根底にあるのは何か?」 ということです。 ――いじめている側の根底にあるのは、何なんですか? 不足や不安です。 「自分が認められていない」「欲求が満たされていない」 という時に、人は他者をいじめたくなります。 世の中に、満たされてる人、満たされない人がいるのは、当然です。お金持ちの人、そうではない人がいるのと同じで、必ずアンバランスになっています。 不満に思っている側は中傷したくなるし、いじめたくなるし、満足している人を嫌な目に遭わせたくなってしまうのです。 「社会で生きていく」 というのは、そういったことをどうかいくぐっていくのか? という話なんです。 ■もし子どもがいじめをしている側だったら? ――いじめている側の親になった時は、どうすればいいのでしょうか? 「わが子が加害者である」 という事実は、とてもショックです。けれども、その勢いのまま子どもを叱ってしまわずに、一呼吸置いて考えてみて欲しいのです。 「この子に何が足りていなかったのかな?」 と。親御さん自身で、問いを持って欲しいと思います。 ――「この子に何が足りていなかったのかな?」という問いとはどうすればいいですか? 特効薬は、 「1対1で、親が向き合うこと」 です。親も忙しいですから、子どもを理解する時間が少なくなってしまっていたのかもしれません。 子どもが本当に欲しいのは、ぎゅーっと抱きしめて、「あなたさえいれば、お母さんは何もいらない」と言ってもらう時間です。もしくは、「うん、うん、そうだよね、お母さんもそう思うよ」と、親にしっかりと話を聴いてもらう時間です。いじめている子は、結局、 根本的なところの愛が足りない だけなんです。 ――「根本的なところの愛」ですか? はい。その前段として、 「母親である自分自身が、大丈夫なのかな?」 というモニタリングがすごく大切です。 お母さんは、わが子がいじめっ子だと聞けば「子どものいじめを止めなければ!」と思いますが、 「その根本は、あなたの不安から始まっています」 と、言いたい時もあります。 ――何だか、耳が痛くなってきました。親はいつも不安なので… 大丈夫です。完璧な人なんていませんから。ただ、周囲に対して、 「これ以上は、言っちゃいけない」「ここは、引かなきゃいけない」 とコントロールができる程度には、自分をモニタリングできる余力は残しておいたほうがいいですね。 ――正直言えば「余力なんて、ありません!」という場合も多いと思いますが、どうすればいいでしょうか? 働くお母さんからの相談で一番多いのは、 「時間がない」 ということです。「子育ても仕事も、どっちつかずで中途半端になってしまい、自己嫌悪を感じている」という声もよく聞きます。 そんな時、私がよくお伝えするのは、 「(1)人との比較」「(2)やらされ感」「(3)コンプレックス」 は、3悪なんですよということです。 ――働くお母さんが持ってしまう自己嫌悪をどうすればいいですか? 働くお母さんは、自分を専業主婦のお母さんと無意識に比較していませんか? そんなお母さんたちに言いたいのは、「専業主婦と働く主婦は、スポーツの種別が違うんだ」ということです。 サッカーをやっている人が、「あっちは野球バットがあっていいな!」なんて言っても、意味がないでしょう? 「あなたは、サッカーをやっているんですよね?」と。「共働き」という種目でベストを尽くせばいいだけです。専業主婦のお母さんや自分の母親世代と比較してもしょうがない。 ――「仕事と家庭の両立」は幻想だと私も思います。でもどうモニタリングすればいいでしょうか? 働くお母さんなりの「安心できる自分」をどうモニタリングするかは、「今日の私、何だかイライラしている。どうしてかな?」と、あくまで 「自分の安心」 を中心に考えることです。 うまくやれているように見える人と比較をしない 。自分自身をちゃんと見る。それがもっとも大切なポイントです。 また、仮に他者から嫌なことを言われたら、「この人、心に穴があるのだろうな、可哀そうに」と思いながら、こなしていく力を持つ。嫌な上司に対しても「哀れだな」と思えば、腹も立たなくなるじゃないですか。 ――「お母さんを楽にするには、どうしたらいいんだろう?」と、記事を書きながら、いつも思います。お母さんが大変だから、子どもに「とばっちり」が行ってしまうのではないかと… 解決の基本は、シンプルです。 子どもと話をたくさんする 。その子との二人の時間を楽しむだけで充分です。それだけで、子どもは動物的に嬉しいのです。「解決策をちゃんと出そう」などと思うと、苦しくなります。 もし、「子どもと会話ができない」と思うのであれば、 「指示命令だけになっていないかな? 対話やコミュニケーションできていたかな?」 と振り返ればいいんです。 ――「子どもと話をたくさんする」でいいんですか? 自分の心持ちだけの話なんです。そして、今、子どもと対話やコミュニケーションができていない大人が多いのは、 あなた自身の問題でもない のです。 正直なところ、 教育の仕組みに大きな穴がある と思っています。端的にいえば、評価基準にさらされ続けている教育です。偏差値、いい大学、いい会社、高い年収といった数値指標ばかりを見せられているのです。 ――「教育の評価基準がそもそもおかしい」ということですか? そうです。他人の尺度で評価するのではなく、自分の軸を持つ。 自分の選んだ道が正解です 。子どもたちには、 自分の幸せを自分の心で決められる人 になって欲しいです。 そのためには、親がそういう メンタリティを獲得する必要があるんです。だからこそ、まずは 大人が自分の決めた場所で面白がる ことから始めてみませんか? いかがでしたか? 筆者は、高濱先生の取材を「高濱先生浴」と呼んでいます。高濱先生の肯定的で前向きな言葉や思考を浴びると、ものすごく元気になります。私自身、「自分の決めた場所で面白がること」から始めてみようと思います! ■今回お話を伺った高濱 正伸先生の著書 『どんな時代でも幸せをつかめる大人にする つぶさない子育て』 高濱 正伸 (著)/ PHP研究所(1,540円(税込)) 子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。あの時、子どもに「あれをやらせておけばよかった」と後悔したくない。そんな深い親の愛が時に暴走してしまうことがある…。 「どうしてできない!?」と子どもを責めたり、「そんな点数じゃ、○○中学なんて入れないぞ!」と脅してしまったり…。それで、子どもがつぶれては本末転倒です。 そんなお母さん、お父さんたちに意識して欲しいのが「伸ばすよりも、つぶさない子育て」。子どもとの適切な距離感がわかり、子育て不安が軽くなる1冊です。 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)先生 1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒。 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。 武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)特任教授。
2024年01月17日前回、「『心を強くする経験』は、これからの子育てを考える時、一番のキーワードになります」と、花まる学習会の高濱正伸さんに教えていただきました。 そのためには、「『そういうこともある!』と、『事件にしない』という形で、親が子どもに状況を提示してあげる必要があります」とも。 では、最近増えている不登校は、どのように考えればいいですか? 引き続きお話しを伺いました。 ■不登校と言っても実態はさまざまある ――最近、不登校が増えていることについては、どうお考えですか? 「不登校」と一言で言っても、その実態はさまざまです。じつは、「 学校が『つまらない場所』 だから行きたくない」という子も一定数います。そういった子は、 大人になって自立さえできれば、不登校でも問題はない と思います。 ――「不登校だからダメ」と一概には言えない? もちろんです。ただ、長期の引きこもりの人たちの履歴を見ると、不登校からスタートしている場合も多いので、「入口の対応」という意味では「不登校であるという状態」をどう扱うかは大切です。長期化すると、「外に出るのが怖い」とか「朝晩逆転」といったことに繋がることもありますから。 ――不登校については、何から考え始めたらいいのでしょうか。 一言で言えば、 愛 です。ラポールです。 【ラポール】 ラポールとは、フランス語で「橋を架ける」という意味。心が通い合い、互いに信頼し合い、相手を受け入れている状態のこと。 今の学校の先生の中には、 子どもとの信頼関係が築けていない人 もいます。そんな先生のことを、子どもはどう見ているのか? 「この人は、授業をやらないとお給料がもらえない人。この人が困るから、黙って授業を聞くしかない」といった目で見ている可能性もあります。 先生に悪気がないのはわかります。でも、「そこに、【ラポール】~子どもとの信頼関係~があるのか?」という話です。 ■今の学校は古い⁉ ――先生と信頼関係が築けないお子さんにはどんな特徴がありますか? 知能が高かったり、才能がある子ほど、ラポールに敏感です。今、そういった子たちが、 学校の中に居場所を見つけられない という現実があります。 ――学校に居場所がない子どもはどうすればいいんでしょうか? 私は、この現実を受けて、花まるエレメンタリースクールというフリースクールをつくりました。昨年が一年目で、今は二年目なんですが、手ごたえを感じています。 ――フリースクルーでの手ごたえとは? 昨年からいる(1年目からいる)24人が、先輩面するんです。「俺も暴れていたから、わかるよ」みたいなことを言う(笑)。大人に言われるより、 「自分もそうだった」という先輩 (そう言っても子どもですが…)の言葉を届けることができることが大きいんです。 そういった仕組みを作ることが大事だったんです。 「現状の学校に収まりきらないタイプの不登校」に対しては、花まるエレメンタリースクールの教育実践を通して、ひとつの答えが出ました。 ――どんな答えですか? 子どもが心から安心できる居場所 を作ればいいのです。要は、 「仕組み」の問題 なんです。この話も何度もしていますが、 今の学校がもう古い んです。先生一人一人には、絶対に悪い人はいないんです。 ■日本の教育は、何が問題か? 高濱先生は、いまの日本の教育の問題点として、「粒のそろった兵隊を作る教育」なところと挙げています。そして高濱さんは、「上の言うことを忠実に聞く兵隊を作るのではなく、これからの教育では『自走する人間』を育てていく必要があるんです」と、言います。 ■居場所を見つけられない子どもに届く言葉とは ――居場所に辿り着けてないご家庭は、どうしたらいいでしょうか? 「子どもを癒やすのは何か?」という話です。それは、 「大丈夫。あなたは、私の子どもなんだから、絶対に大丈夫」 という 親の言葉 です。この言葉が、効きます。私は本当に、たくさんのいろいろなタイプの親子を見てきました。だからこそ、言えるのです。「あなたは、大丈夫。母さんの子どもだから、大丈夫」という言葉が、もっとも子どもの心に響くのです。 子どもは親から「大丈夫!」と言われたい し、その言葉を信じたいのです。毎日、家庭でしっかりと愛情を与えていれば、少々、外でつらいこと、嫌なことがあっても耐えることができます。 前話の話にも通じますが、多少の試練は、心の免疫をつけるために必要です。親元にいる時に、心の免疫をつけてあげる、と考えてみてはどうでしょうか? ■子どもが不登校になったとき母親がしてはいけないこと ――お母さん自身が、子どもに対して「あなたは、大丈夫」と言い切れるエネルギーがない場合もあると思うのです。その時は、どうすれば良いですか? そんな時は、お母さんが孤立しているのです。 「孤立した母」 というのは、現代の社会が抱える問題です。この問題の解決策として言えることは、「繋がりを持ちましょう」ということです。 子育てとまったく関係のない、趣味のサークルに入るのでもいいし、パートに出るのでもいいし、大学時代の友達に会うのでもいい…。繋がりをいくつか作ったなかで、誰か一人でいいから、心を開いて話ができる人、居場所を、お母さん自身が確保するのがもっとも大事です。 お母さん自身も、正解が欲しいわけではないでしょう? 「うん、うん、そうだよね」と話を聞いてもらって、安心したいのです。 ――お母さん自身の居場所を、まずは確保するのですね そうです。昔は、隣近所にそういう人がいたかもしれません。けれども、今は 「自分で意識して、居場所を確保しないとならない時代なんだ」 と、お母さんがしっかりと踏まえておくことが大切です。 子どもが不登校の時、「私がちゃんとしなければ!」と、一人で抱え込んでしまう人がいます。大切なのは、 一人で頑張ることではありません 。人と繋がり、自分自身の居場所をまずは見つけて欲しいです。 ――キーワードは「繋がり」ですね はい。居場所は、専門的な相談場所でもいいし、気のおけない友だちとカフェで喋るといった時間(心の置き場)でもいいのです。とにかく、 誰かと繋がって、孤立をしないようにする 。 子どもは、そんな母を見て、安心するのです。「お母さん、楽しそう!」と思うと、子どもも、なんとかなりそうな気がしてくるものですよ。 ――子どもが、「なんとかなりそうな気がしてくる」って大事ですね 私の経験から言わせてもらえば、 14歳までに自己肯定感に穴ぼこ ができなければ、大体のことは大丈夫です。14歳は、昔の元服です。人が育つ本質は、そう変わらないのです。 不登校で多少、勉強が遅れていたとしても、自己肯定感さえあって、「やっぱり俺、ちゃんとやるわ!」と本人が言い出せば、大丈夫です。 ――高濱先生に「大丈夫」と言っていただけると、何だか安心します。 「あの問題児が!?」と、いい意味で裏切られる子とたくさん出会ってきました。別人になりますからね(笑)。嘆き悩んでいたお母さん方が、「本当に『大丈夫』でした」とおっしゃる例も、たくさん見てきました。大学に入るのが1~2年遅れたとしても、そんなのたいした話ではありません。 ■高濱先生は三浪四留!? 高濱先生は、東京大学に入るまでに三浪していて、大学に入ってからは四回留年しています。二浪した人からは、「自分が、『人生、回り道した』などと言っていて、お恥ずかしい限りです。すいませんでした」と、謝られるとか…。 高濱先生のお話を聞いていると、自分の悩みが小さく感じられます……。 次回は、編集部に寄せられたお悩み、「わが子が他の子をいじめていた。その時、母親がすべきことは?」について、高濱先生にお話しして頂きます。 ■今回お話を伺った高濱 正伸先生の著書 『どんな時代でも幸せをつかめる大人にする つぶさない子育て』 高濱 正伸 (著)/ PHP研究所(1,540円(税込)) 子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。あの時、子どもに「あれをやらせておけばよかった」と後悔したくない。そんな深い親の愛が時に暴走してしまうことがある…。 「どうしてできない!?」と子どもを責めたり、「そんな点数じゃ、○○中学なんて入れないぞ!」と脅してしまったり…。それで、子どもがつぶれては本末転倒です。 そんなお母さん、お父さんたちに意識して欲しいのが「伸ばすよりも、つぶさない子育て」。子どもとの適切な距離感がわかり、子育て不安が軽くなる1冊です。 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)先生 1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒。 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。 武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)特任教授。
2024年01月16日世の中がすごいスピードで変化している今、「何を道標にして、子育てをすればいいのかな?」と、悩むことはありませんか? 「子育ての最終的な目的は、たったひとつ。経済的、社会的、精神的に自立した『自分でメシを食っていける大人』にすること」と、30年言い続けている花まる学習会の高濱正伸さんにお話を伺いました。 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)さん 花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長・算数オリンピック委員会理事。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。 ■攻撃的な子どもが増えている⁉ ――高濱先生のご著書『つぶさない子育て』というタイトル、衝撃的でした。高濱先生は、最近は、どんなことに関心をお持ちですか? 先日、『傷つきやすいアメリカの大学生たち 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』(グレッグ・ルキアノフ著 ジョナサン・ハイト著/西川由紀子 訳)という本を読みました。本の内容は、ざっくりとこんな感じです。 ■『傷つきやすいアメリカの大学生たち: 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』とは アメリカの20代で、自殺、うつ病、精神疾患が増えている。一方で、大学教授のちょっとした発言に対して、言葉狩りのような吊るし上げをした挙句に辞職に追い込んだりする、攻撃的で他罰的な子が量産されてる……。このような 状況が、なぜ起こっているのか? それを学術的に調べた本 ――一体、子育ての現場で何が起きているのでしょう? 一言で言えば、 「トラブル回避に重きを置く子育ては危険だ」 ということです。母親は、 「心配する生き物」 です。母親一人「だけ」が子育てのすべてを担うと、トラブル回避の子育てになってしまうのは当たり前のことです。 ――「心配する生き物」である母親は何が危険なのですか? 私は30年間ずっとこの話を講演でし続けています。 「怪我をしないように」「傷つかないように」「喧嘩をして欲しくない」 というような子育てをしていると、本当に危険です。 ――トラブル回避は、そこまで危険なことなのですか? はい。保育園、幼稚園、小学校では、さまざまな人間関係を築きます。もちろん、仲良しの友だちとの楽しい時間も大切です。けれども、「嫌な目にあった」とか「ちょっと価値観が合わない人がいる」といった時にどうするのか? この本の言葉を借りれば、 「心の免疫」 をつけるために保育園、幼稚園、小学校に通っているという時期は非常に重要です。トラブルを回避することで、大切な時代に心の免疫がつかないまま大人になってしまう子がいるのです。 ――心の免疫がつかないとはどういうことですか? 要するに、 無菌主義、除菌主義、喧嘩をさせない、いじめは絶対にあってはいけない …そのように考え始めることが、危ないんです。 たとえば、雪合戦で投げられた雪玉の中に石が入っていて、子どもが怪我をしたとします。その子の親御さんが学校に申し立てをすると、校長は保護者を一同に集めて、「今後、子どもたちには雪を一切触らせないと会議で決めました」と報告をするということが起こります。 たしかに、そうすれば「雪合戦での怪我」はなくなります。けれども重要なことは「雪合戦で怪我をしないこと」なのでしょうか? 私が危惧しているのは、「怪我をしないように」とトラブル回避をすることで、「雪合戦をすることで得るさまざまな経験」がすべて除去されてしまうことです。 ――確かに今の日本の教育現場では、そういう話が起こりえそうですね こうして話すと、あたかも笑い話のように聞こえますが、 日本でもずっと前からこのような状態 なんです。私は、「教育の目的はそこなんですか?」と、講演会で訴えているのです。 ■社会全体がトラブル回避の思考回路に陥っている ――このご時世、「子どもを預かる立場」だと慎重にならざるを得ないのではないでしょうか? 預かる側に悪気はありません。「何かあったら、訴えられてしまう」という思考回路に陥るのは当然です。ただ、 「トラブルが起こらないこと」が最優先項目になった教育の先 に何があるのか? ということを、一度考えてみて欲しいのです。 日本だけではなくアメリカでもそうなら、 世界全体がトラブル回避の思考回路 に陥っている可能性も考えられます。 ――そんな時代、保護者はどうしたらいいですか? まず、「今の世の中は、トラブル回避に進みがちだ」と知っておくことです。そんな時代に子育てをしているのだから、 「子どもの心を強くする経験をさせる」 ということを、保護者は強く意識していかないといけません。 「心を強くする経験」は、これからの子育てを考える時、一番のキーワードになります。もう少し具体的に言えば、 「事件化しない」 ということです。 ――「事件化しない」とは? 何か困ったこと、嫌なことがあったとしても、「そういうこともある!」と「事件にしない」という形で、親が子どもに状況を提示してあげる必要があります。 周りを見渡してみても、強くてめげない人の基礎には、「いちいち事件化しない姿勢」「いろいろなことがあるけれど、乗り越えてきた」という経験が必ずあるものなのです。 初っ端から高濱先生のお話は、心に響きます……。 次回は、母親にとっては事件中の事件、最近、増えている不登校についてお話ししていただきます。 ■今回お話を伺った高濱 正伸先生の著書 『どんな時代でも幸せをつかめる大人にする つぶさない子育て』 高濱 正伸 (著)/ PHP研究所(1,540円(税込)) 子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。あの時、子どもに「あれをやらせておけばよかった」と後悔したくない。そんな深い親の愛が時に暴走してしまうことがある…。 「どうしてできない!?」と子どもを責めたり、「そんな点数じゃ、○○中学なんて入れないぞ!」と脅してしまったり…。それで、子どもがつぶれては本末転倒です。 そんなお母さん、お父さんたちに意識して欲しいのが「伸ばすよりも、つぶさない子育て」。子どもとの適切な距離感がわかり、子育て不安が軽くなる1冊です。 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)先生 1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒。 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。 武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)特任教授。
2024年01月15日■前回までの話 家計が厳しくて教育費を削るべきかどうか…で悩むママたちは多くいます。そんな時に考えたい「習い事の始める時と辞め時」について。また子どもとお金の話をするときに「うちはお金がない」と言ってしまってもいいのか? という問題も横山先生が回答します。 >>1話目を見る 「節約は得意だけれど、投資は怖い…。でも、最近、 「つみたてNISA(ニーサ)」や「iDeco(イデコ)」 という言葉をよく聞くから、やっぱり投資はしておくべき?」 そんなママたちを代表して家計再生コンサルタントの横山光昭さんにお話しを伺ってきました。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 ■「投資はすべきか?」プロの驚くべき回答は? 楢戸 :直球で聞きます。投資ってするべきなんですか? 横山 :「するべきか?」というよりも、 「しなければマズい!」という人たちが多い のが現実です。「怖い」といった感情的な判断軸で、判断している場合ではないというか…。正直なところ、極論を言ってしまえば、「やらなければ、アウト」な人が多いんです。 楢戸 :え!? それって「貯金」というペースだけでは、必要な老後資金を貯められないという意味ですか? 横山 :そうですね。 「老後資金を、公的年金だけで十分賄えます」という人はレアケース だと思います。そうなると、ある程度は自分で用意しておく必要があります。 私たちは、 ライフプラン表 を使って、具体的に計算をします。そうすると「この貯金ペースだけでは、必要な老後資金を貯められない」という人が、大半なんです。 ■投資が初めての人におすすめの「パッチテスト」 楢戸 :厳しい現実ですね…。でもお金のことを、「ライフプラン」という長い時間軸で考えられる人は、まだ少ないと思います。 「節約を頑張れば大丈夫なのでは?」という目線の方に、「ライフプラン的に見て、投資をしなければ間に合わない」という話をしても難しい…。この目線の切り替えは、どうしたら良いでしょうか? 横山 :よくある話ですけど、 「投資を少額からやってみる」 というのは、王道だと思います。「つみたてNISA」や「iDeco」は、税制の優遇制度なのはご存知ですか? 入口としては、「つみたてNISA」の方が入りやすいですね。こういった制度を使って、まずは投資を少しだけ始めてみるんです。 楢戸 :NISAは「少額投資非課税制度」の愛称です。この制度には 「少額投資を、税金の優遇制度を使って推奨します!」 という国からのメッセージが込められています。 「少額の投資を体験する」という意味で、いわば 「投資のパッチテスト」 です。自分が投資に対して、どんな反応をするのか? それを知ることから始める…くらいのテンションだったら、「やってみようかな?」と思える人もいるかもしれません。 横山 :パッチテストいいですね! うちでも使います(笑)。本格的な投資を始める前に、まずはパッチテストで体験予想をしておくと心理的なハードルは下がります。 ■リアルに投資を始めた人の実感は? 楢戸 :以前、ウーマンエキサイトの連載で、横山さんの 「貯金感覚で始める3000円投資生活」 を特集したことがありました。特集を担当した編集者さんが、この特集を機に投資を始めたそうなんです。 その編集者さんは「最初は全然増えずに、放ったらかしにしていました。ある時、フッとみたら上がっていて、そこから勉強を始めました」と、おっしゃっていました。 投資に対して、頭で「減った時のこと」を考えるのではなく、行動を起こして、「増えた」というプチ体験をすると、投資をスムーズに始められると思います。いい意味での「欲」を持てるようになれば、興味も沸きますしね。 横山 :好奇心ですよね。 楢戸 :好奇心という言葉、いいですね! ▼「貯金感覚で始める3000円投資生活」 ■投資の「値動き」に一喜一憂しないためには? 横山 :私が推進している投資は、 「インデックスファンドを長い時間をかけて積み立てする」 というもので、そんなに怖くはないと思っています。 「家訓として言われているので、僕は絶対に投資はできません!」と、おっしゃる方も、一定数いらっしゃいますが…。そういう方は、「投資」と「投機」を混同されているのかもしれませんね。 楢戸 :インデックスファンドを長期で積み立てするというのは、世の中のお金の流れに乗り遅れない、最も手軽な方法だと私は思っています。 横山 :ただ、コロナショックもそうでしたが、「半年」「1年」といった短いスパンで見てしまうと、値下がりをすることもあります。投資に慣れていないと、この最初の値動きのアップダウンで、「やっぱり投資は無理」と思ってしまう人がいるのかもしれません。 繰り返しになりますが、私が推奨しているのは、 10年単位で保有をする「長期投資」 です。10年単位のスパンで見れば、値動きしつつも、資産は増えていくとは思います。今、個人投資家の数は日本の人口の6分の1くらいかな? もう少し増えてもいいと思います。 ■夫に「お金の話」をどう切り出すか?の大問題! 楢戸 :最後にひとつ聞いていいですか? 投資に対しての価値観の擦り合わせにも繋がると話ですが、結局のところ「お金の話」は、ママひとりでは、解決できないと思うんです。 でも 「お金のことを、夫にどう切り出すか?」 。このハードルは、とてつもなく高いと思うんです。そんなママたちに、アドバイスをお願いします! 横山 :とても難しい問題ですね。旦那さんにお金の話をする際に、私がお勧めしているのは 「実際の数字を見せる」 ということです。 「今月の収入は〇〇円で、支出の内訳はこうでした」みたいな一覧表を作るのです。具体的な数字があると、男性はイメージが沸きやすいと思います。 楢戸 :感情に訴えるのではなく、相手が理解しやすい資料を用意するということですね。あとは、 「ひとりで不安にならない」 ってことですかね? 横山 :それは、大いにあります。それから、子どもにも一緒に話に参加してもらう。 楢戸 :子どもに「わが家のお金の話」をすることは、 「自分は、この家の大切な構成員なんだ」 という子どもの自尊感情を育てることにも繋がると思います。 横山 :そうですね。私自身も、子どもたちに対して、「みんなが『株式会社 横山』のメンバーなんだ!」という気持ちで接しています。大人は固定概念に囚われがちなので、子どもからお金について新鮮な目線を教えてもらうこと、今でもありますよ。 【この記事のまとめ】 投資をしないと、アウトな人が多い。横山さんの言葉は、かなり衝撃でした。でも、お金を「ライフプラン表を使って人生の最後まで考えてみる」という視点は、大切ですね。 昨年(2022年)12月には、NISAの制度改正も発表になり、これから投資分野はますます熱くなりそう…。ひとりでお金のことを悩むのではなく、家族でお金の話を共有しつつ、具体的な行動ができると良いですね! ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 90日で「貯める力」をつける本 (横山光昭著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 1540円(税込)) 「赤字家計」「貯金ゼロ」「低収入」の家計を再生してきた伝説のメソッドが超リニューアル! なぜ、今、「貯める力」なのでしょうか? 1つ目は 「リスク対策」、2つ目は「お金を増やすため」。 「貯める力」は、一生お金に困らない“基本の力”となります。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 イラスト:ありま
2023年07月12日■前回までの話 家計のプロである横山光昭さんによると、「家計費でここはまだ削れる」というところが2つあるといいます。ひとつは携帯代金。もうひとつは保険。どこに、どうやって情報を取りに行けばいいかが、わからない…。そんな方はどうすればいいのでしょうか? >>1話目を見る 「これからどんどん教育費かかるよね…でも少しでもお金削りたいなんて親失格かな…」そんな風に悩むママが多くいると聞きます。 全然、親失格なんかじゃありません! かえって「どんなに家計が苦しくても、教育費だけは削らない」などと、ママがひとりで節約を抱え込んで頑張る時代は終わりました。 今後、教育費のことをどんなふうに考えていけばいいのか? 6人のお子さんがいる「お父さん」でもある家計再生コンサルタントの横山光昭さんにお話しを伺いました。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 ■習い事の辞め時シグナルを見逃さないためには 楢戸 :教育費について、横山さんはどんなお考えなんでしょうか? 横山 :わが家の指針として間違いなくやっていることは、教育費について子ども自身とよく話し合って、 子どもの意向を聴く ということです。 たとえば、大人もそうかもしれませんが、習い事は「やりたい!」と思った時点が、「やりたい気持ちがMAX」なんです。けれども半年くらい経ってみると、「思っていたほど、面白くないな」といったことってありませんか? 「習い事に、少し遅れて行く日がチラホラでてきた」…。そんなところに、 「習い事、辞め時のシグナル」 は出ています。子ども側としても、「あれだけ『やりたい!』と言った手前、すぐに辞めたいとは言い出せないな…」と、思っている可能性もあります。「習い事の辞め時シグナル」を見逃さないためにも、子どもの意向を聞くことは大切です。 ■習い事を始める前に親が覚悟すること 楢戸 :今の話のポイントとして「やりたい気持ちがマックスなら、やらせてみてもいい」というのは、ひとつ、ありますか? 横山 :ただ親の都合で「お金がないから、途中で辞めさせる」というのは違うと思います。習い事を始める時には、親は 「月謝を払い続けられるかどうか?」 をよく考えて、覚悟を持って通わせ始めないといけないと思います。 楢戸 :そういった「家計の舞台裏」を、実際に子どもに話してみるというのはどうですか? たとえば「うちの家計は、〇〇円です。あなたの習い事代は〇〇円、1ヶ月の食費の1/4と同じくらいの金額がかかっています。お母さんも節約を頑張って月謝を払っているので、あなたの気持ちが変わったら早めに言ってね」といった感じです。 横山 :いいですね! お金の話を家庭内でする習慣 があると、子どもの視点が違ってきますよ。たとえば、うちの中学生の子は、自分からこんな提案をしてきました。 「A塾は16,500円で、B塾だと19,000円くらいかかる。内容的にはB塾の方がいいので、少し高いけどお願いだから通わせて」と。本人が、塾の内容と金額の両方を見て、自分で選んでくれるのは助かります。 楢戸 :子どもが 「自分で考え、選択をする」 という場面は、尊重したいですね。そのためにも、「わが家のお金の話」を、幼い頃から子どもに話していく必要があると思います。 ■「うちはお金がない」と言っていいの? 横山 :子どもにお金の話をする時に注意して欲しいのは、 「ネガティブな言い方をしない」 ということです。「うちはお金がないから、〇〇できない」といった言い方だと、子どもは心配になってしまいます。 わが家でお金の話をする時には、「〇〇をするためにはどうしたらいいかなぁ? みんなで一緒に考えようぜ!」という“ノリ”で話をします。 楢戸 :なるほど。ネガティブなトーンではなく、 「これを達成するために、みんなでやろう!」 という明るいトーンで話をするのですね。「お金の話」をする時の大事なポイントです。 横山 :子どもたちに家計をオープンにした副産物として、「いくら言っても水をジャージャー使っていた子が、歯磨きをする時は蛇口を締めるようになる」みたいな循環が、わが家では生まれています。 ■子どもの前でお金の話をするのは悪いこと? 楢戸 :そうは言っても、家庭内で「お金の話」をすることに、抵抗がある人もいると思います。 横山 :たしかに少し前の日本では、「お金のことを話すことは、はしたないこと」といった価値観がありましたから…。でも、家庭内でお金の話を聞かずに育った大人は、今、困っていると思うのです。 楢戸 :この記事を読んでくださっているママは、もしかしたらひとりで「教育費を何とかしなきゃ!」と思っていらっしゃるかもしれません。 横山 :ひとりで抱え込むのは、よくないですね。 楢戸 :「子どもにお金の話をするのは、子どものためでもある」ということを、今日は知って欲しいと思います。横山さんに教えていただいた「お金の話の伝え方のポイント」に注意しながら、少しずつ、子どもに「わが家のお金の話」をしていけると良いですね。 【この記事のまとめ】 子どもは、大人が思っているよりずっと、 「自分の家のこと」に敏感 だと思います。家族の一員として、習い事代といった「自分に関係のある話」あたりから、少しずつ、「家のお金の話」に触れていく…。そうすると、子どもは、実感を持ってお金に慣れていけるのではないでしょうか? 次回は、「節約は得意だけれど、投資は怖い…」というママに向けた投資のお話。お金のプロであるFPの横山先生に直球で「投資ってするべきなんですか?」と聞いてみました。すると返ってきた答えは衝撃の一言でした。 ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 90日で「貯める力」をつける本 (横山光昭著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 1540円(税込)) 「赤字家計」「貯金ゼロ」「低収入」の家計を再生してきた伝説のメソッドが超リニューアル! なぜ、今、「貯める力」なのでしょうか? 1つ目は 「リスク対策」、2つ目は「お金を増やすため」。 「貯める力」は、一生お金に困らない“基本の力”となります。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 イラスト:ありま
2023年07月11日■前回までの話 マネーライターである楢戸さんは以前収入減に陥った過去が…。そんな家計のピンチに初めて家計管理と向き合うことに。そんなピンチがあったからこそ、自信につながったという。そんな楢戸さんが「子供が10歳になるまでに、一度、真剣に家計と向き合うことは、おすすめです!」と話す。 >>1話目を見る 節約の記事は、よく見かけます。試しに、今、「家計 節約」と検索してみたら、節約案の筆頭に「スマホを格安スマホに乗り換える」とありました。 でも、実際の多くの人は「知ってはいるけど、行動に移せない」という段階なのではないでしょうか? そこで、どうしたら実際の行動に移せるのか? を中心に、家計再生コンサルタントの横山光昭さんに、お話しを聞いてきました! 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 ■携帯代金は半分の人が見直す余地がある!? 楢戸 :今、家計が不安な人は多いと思うんです。家計のプロから見て、「ここをチェックしてみて!」という部分は、どこでしょう? 横山 :筆頭は、 携帯代金 です。ここ2、3年で、携帯費用を抑えられている方も増えてはいますが、まだ半分くらいの方は見直す余地があると思います。 楢戸 :携帯代金は、どんなふうに見直せば良いのでしょう? 横山 :(自分が入っている)大手キャリアに「携帯代金の割安プラン」を相談に行っても、料金はそう大きくは変わりません。まずは、家電量販店の「格安携帯」というコーナーに行ってみて下さい。 楢戸 :家電量販店に行って、「格安携帯かどうか」というのは、わかるものですか? 横山 :最近は、コーナー自体が目立つようになっています。担当者の方が「格安」という法被を着ていたり、旗が立っていたりするんです。 ■携帯を変更する「心理的ハードル」が高い人は? 楢戸 :なるほど、そうなんですね…。削りどころを質問しておいてナンですが、やっぱり「携帯を変える」という心理的なハードルは、かなり高いような気もします…。 横山 :そんな方は、こんなふうに考えてください。 「家電量販店には、現状を相談に行く」 と、思ってみるんです。最初から「携帯を変えるぞ!」と思っていると、お店に行くこと自体が億劫になります。 たとえば、買い物に出たついでに、ふらっとお店に寄ってみる。そこで、「私は、こんなふうに携帯を使っているけれど、どんなプランがありますか?」と、話を切り出します。 ギガ数が多い方がいいのか、通話があった方がいいのか…。人によって携帯の使い方は違いますから、自分にとってベストな使い方と、それにかかる料金を聞いてみましょう。 楢戸 :「携帯を変える」ではなく、「まずは相談する」で、良いんですね。安心しました。 ■お得情報はアップデートしないともったいない! 横山 :最初の一歩は、「携帯料金が、安くなるんだ」ということを「知る」だけでも充分です。「料金が安くなる可能性がある」と 「知る」 だけで、気持ちや意識は変わってきますから、キャッチする情報も違ってくるんです。 相談に行った際には、 「デメリット」 も、一緒に聞いておきましょう。デメリットを聞いて、「相談はしたけれども、変更しない」という結論でも大丈夫です。 大切なのは、「格安携帯って、繋がらないんでしょ」などと、頭の中のイメージだけで判断をしないことです。実際に足を運び、具体的な料金を知り、メリットとデメリットを比較検討しながら、自分で考えてみるということが重要です。 楢戸 :お得情報はアップデートされているので、「知らない」のはもったいないですね。「情報をチェックに行く」、それくらいだと気が楽です。 横山 :わが家は今、携帯を7台使っていますが、7台で、月額料金は、8000円弱だったと思います。 楢戸 :7台で、8000円弱!? 横山 :ここが、 「工夫」 なんです。たとえば、家や会社にWi-Fiがあれば、ギガ数がかかるものは、そこで使うようにする。そうすると、「毎月、私は10ギガ使うかな?」という自分に対しての問いが生まれます。こんなふうに、節約は、情報力と自分なりの工夫で何とかなる部分もあることを知って欲しいですね。 ■1回頑張るだけで効果が持続する費目は? 楢戸 :携帯料金の次にチェックする費目はありますか? 横山 :次に検討して欲しいのは、 保険 です。保険は、「固定費」の代表格ですから。保険の見直しは労力かかりますが、 「1回だけ」頑張ればいい んです。 楢戸 :1回だけ!? 横山 :固定費の見直しは、1回見直しさえすれば、あとは気を抜いていても効果は持続します。そういう 「面倒だけれど、確実に効果がある」 という節約を、意外と皆さんやってないんです。 楢戸 :なるほど! では、「保険の見直し」は、どのようにすればいいのでしょう? 横山 :携帯の見直しと似ていますが、プロに聞くのが早くて楽です。信頼のおけるファイナンシャルプランナーに相談に行くのが近道だと思います。 楢戸 :皆さんのニーズとして、「自分が入るべき保険って、本当にこれでいいのかな?」というのはあると思うんです。けれども、どこに、どうやって情報を取りに行けばいいかが、わからない…。そんな「保険難民」の方、多いと思います。 横山 :うちは、「金融商品のセカンドオピニオン」サービスもしています。「提案されて保険に加入したものの、どうも腑に落ちない」といったモヤモヤを一人で抱えている方って、思っている以上に多いんです。 たとえば… 横山さんのところで、保険の見直しの相談は1回5,000円。死亡保障、医療保障の内容チェック、貯蓄性のある商品の整理整頓などをしてもらえます。 楢戸 :そういった方たちも、ある意味「保険難民」ですね。 横山 :少し暑苦しいのですが、私は、「そもそも、どこに保険をかけるべきなのか?」という「『保障を買う』という根本の考え方」をお伝えする資料も渡すようにしています。 「加入している保険の意図」と「自分の意図」が合っているかどうか? を、御自身で考えてみるために、最低限の基礎知識は必要だからです。 楢戸 :普通の人が、「保険証券を見て、保障(補償)内容を読み解き、自分に合っているか判断する」というのは、難易度が高すぎですね。 横山さんは、保険証券とその方との「通訳」をしてくださっているんですね。たしかに、保険の見直しは、プロ(通訳)なしだと厳しいのかもしれません。 【この記事のまとめ】 家計が不安だと、とっつきやすい節約として、やみくもに「買い物を控える」という選択をしがちです。けれども、それが守れなくて落ち込んでしまうことはありませんか? 今回、横山さんに教えていただいた節約のキーワードは、 「自分で考えてみる」 だと思います。もちろん、必要に応じて、プロの手を借りてOK! まずは、「家計について、ゆっくり考える時間を作ること」から始めようと思います。 次回は、教育費のお話。「教育費を削りたいなんて親失格かな…」そんな風に悩むママが多くいると聞きます。ひとりで節約に悩むママに向けて、家族で取り組む方法を教えてもらいます。 ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 90日で「貯める力」をつける本 (横山光昭著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 1540円(税込)) 「赤字家計」「貯金ゼロ」「低収入」の家計を再生してきた伝説のメソッドが超リニューアル! なぜ、今、「貯める力」なのでしょうか? 1つ目は 「リスク対策」、2つ目は「お金を増やすため」。 「貯める力」は、一生お金に困らない“基本の力”となります。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 イラスト:ありま
2023年07月10日物価は高くなるし、エネルギーも高騰。それなのに、お給料は全くあがる気配がない…。そんな閉塞感の中で、将来への不安を感じている人は、多いのではないでしょうか? でも、大丈夫! ピンチは、チャンスでもあるんです。これまで、「ちゃんとしなきゃ!」と思いながらも、何となく先送りにしていた「お金のこと」と、今、向き合ってみませんか マネーライターである私・楢戸ひかるがお金のプロである横山光昭先生に今のこの時代をどう乗り切っていけばいいのか、直球質問した対談をお送りしていきます。 ■マネーライターなのに家計がヤバい! まず最初に私自身のことを少しお話させてください。 じつは、私自身、30代の時に、 「毎年、世帯年収が減り続けた時期」 がありました。理由はふたつあって、夫の会社が、「3年間で社員の年収を5%引き下げる」と決めたこと。加えてフリーランスのライターだった私が、軸足を仕事から家庭に移したこと。 長男ひとりのときは共働きをしていましたが、夫の転勤先の北海道で双子を授かり、(ほぼ)専業主婦になりました。軸足を仕事から家庭に移したのだから、収入減は当たり前ですが、大きな打撃でした。 でも、今、考えると、家計がピンチになって、ようやく初めて家計管理と向き合えたんです。当時の私は、結婚しても、長男を産んでも、20代の浪費体質&どんぶり勘定を引きずったまま、30代後半を迎えていました。マネーライターなのに…です。あのとき、必要に迫られなかったら、今でも、放漫家計だったと思います。だから、「必要に迫られる」って、大切です。 ■収入源のピンチを乗り切った今思うこと な~んて、恰好いいことを言ってみましたが、収入激減は、すごく、すごく不安で、亀が手足を甲羅に引っ込めるような気持ちで、毎日を過ごしていました。 お金を使うこと自体に強い罪悪感があり、1000円のランチに行ったことを、「無駄遣いしちゃった」と、3日後悔するような日々。お風呂を沸かすのを節約するために、洗面所で息子の手足を洗ったこともありましたっけ…。 でも、家計が苦しい時期を何とか乗り切ったことは、その後の自信になりました。そして、思ったんです。 「あの時に、家計と真剣に向き合って良かった!」 と。 「お金を貯められるのは、子どもが10歳まで」 というフレーズ、聞いたことありませんか? 春からわが家は子どもたちが大学生2名と社会人になりましたが、「それって、本当だな~」と、つくづく思います。放漫家計のままだったら、教育費が山場の今、もっと苦しかったと思います。 そんな私だからこそ、「子どもが10歳になるまでに、一度、真剣に家計と向き合うことは、おすすめです!」と、言いたい。今、閉塞感を抱えてるママたちに、「ピンチはチャンス!」とエール送りたいです。 次回は、節約案の筆頭にある「スマホを格安スマホに乗り換える」。「知ってはいるけど、行動に移せない」という人のために お金のプロの横山光昭先生に対策をお聞きしました! ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 90日で「貯める力」をつける本 (横山光昭著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 1540円(税込)) 「赤字家計」「貯金ゼロ」「低収入」の家計を再生してきた伝説のメソッドが超リニューアル! なぜ、今、「貯める力」なのでしょうか? 1つ目は 「リスク対策」、2つ目は「お金を増やすため」。 「貯める力」は、一生お金に困らない“基本の力”となります。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで24,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 イラスト:ありま
2023年07月10日■前回の木村先生のお話 これまでは学校も親も「正解通りにできること」を、教育の目標に掲げてきました。「これから育てるべきは、自分の頭で考えることができる子」と話す木村先生。でもそういう子どもを育てるためにはどうしたらいいの? 「自分の頭で考えることができる子」を育てるべきと木村先生は言います。けれども、一方で、中学受験など低年齢化した「受験熱」は、親たちの間でヒートアップしている感もあり、目先の詰め込み教育に追われる日々を過ごすママも、現実には多いのかも!? 「学歴だけでは生きていけない」と頭ではわかっていても、受験の波に巻き込まれたら最後、自分を見失ってしまう…。「私の子育て、どこに向かって何を頑張ればいいんですか?」再び読者Aさんと木村さんの会話に戻りましょう。 ■子どもに正解を言うと対話が終わってしまう 木村先生 :今までの受験社会で評価されてきたこと「インプットをした『正解』を、どれだけ正確にアウトプットできるか」は、これからの社会を生きていく上では、優先順位の上位ではないと思うのです。 Aさん :では、どうしたらいいのでしょうか? 木村先生 : 「ママが「勉強させなければ!」と思うのは当然…でも勉強すれば幸せになれる?」 でお話ししたとおり、子どもを思いどおりに動かす子育てをしている保護者の方もいるでしょう。でも言うことを聞かせようとするから子どもは、そっぽを向くんです。それをやめれば、子どもは「ねえねえ」と勝手に寄ってきます。 どういうことかというと、子どもが何を言っても、一言も口をはさまず、とにかく子どもの言うことを 「聞く」「受け止める」 ことから始めるんです。大人だって、自分の言うことを聞いてくれそうだと思ったら、話をしたくなりますよね? たとえば「今日、学校でAちゃんが暴れて大変だった。何とかして!」と言ってきたら、まず「ああ、そうなんだ」と受け止める。いったん受け止めることをせず「そんなことを言っちゃダメでしょ!」などと、いきなり正解を言ってしまったら、それで対話は終わってしまいます。 ■ゲーム嫌いなママとゲームの話しかしない子どもの場合 Aさん :対話が大切なんですね。 木村先生 :はい。 「『正解通りにできる子ども』は生き抜けない…今の学校がつらい子どもにできること」 でお話しした新学習指導要領(※)のキーワードは、「主体的・対話的で深い学び」です。学校の先生であれば、このキーワードはみなさんご存知だと思います。国が、どの方向に向かって、教育を組み立てようとしているのか? それは、ママたちも知っておくと良いかもしれません。 Aさん :主体的・対話的で深い学び…難しいですね。親は、何をすれば良いのでしょう? 木村先生 :難しく考える必要はないです。たとえば、ある子どもはゲームの話だけはよくお母さんにしていたそうです。でも、ゲームが嫌いなママはゲームの話なんか聞きたくない…。口を開けば「いつまでやっているの!」「宿題は?」という小言や指示命令ばかりだったそうです。 「そうなんだ」と受け止めるという私の話を聞いたそのママは、意をけっして子どものゲームの話を(我慢して)最後まで聞いたところ、息子さんが「ねぇねぇ」と言って面白い動画をお母さんに見せに来てくれたそうです。 子どもの話を受け止めただけで、親子の関係性が変わり、対話が生まれたんです。親が受け止めると「おお、自分の話を聞いてくれた!」と、子どもは思いますからね。 ■指示命令をしてきた親子関係は急には変わらない 木村先生 :これで第1段階クリアです。ようやくスタート地点に立ちました。 Aさん :スタート地点!? 木村先生 :指示命令を続けてきた「これまでの長い親子関係」があるので、すぐに劇的な変化が訪れることは、まずありません。時間がかかるのです。でも、スタート地点に立てれば、だんだん、子どもの言うことを受け止めることができるようになっていきます。それが日常的に自然にできるようになったら、次の段階に行きましょう。 Aさん :なかなかに険しいですね…。 木村先生 :そりゃ、そうです。次の段階は、たとえばニュースを見ながら「お母さん、これがわからないんだけど、あなたはどう思う?」と質問してみます。ただし「すぐに子どもが素直に答えてくれる!」みたいな変な期待は、最初から持たないことです。 「あなたは、どう思う?」と聞いても「別に…」「知らない」「わからない」しか子どもが言わないようなら、 しつこく追いかけないのもコツ のひとつです。子どもが逃げているのですから、察知して、追いかけるのはNGです。「残念、バイバーイ!」と、あっさり引き下がりましょう。しつこくすると、せっかく築いた関係が元に戻ってしまいます。 ■子どもとの関係がマイナスのスパイラルに陥ったら Aさん :子どもは、野生動物みたいですね…。 木村先生 :大空小学校でもありました。せっかく教師が自分を変えて、子どものほうから来てくれるような関係性ができてきたのに、あるとき子どもから「うるさい、そんなん知るか!」と言われた途端、「ちょっと待て!」などと言って教師が怒ってしまった。そこまでにほんの少しできてきた関係性の絆が切れてしまうと、マイナスのスパイラルに陥ってしまうこともあります。 Aさん :そんな時は、どうしたら良いのでしょう? 木村先生 :笑いで終わらせる。しつこく追いかけない。私は学校でも、「それは残念!」などと言って軽くおどけながら子どもから離れるようにしていました。そうすると不思議なもので、「何で人がしゃべっている最中に、出ていくねん」とぶつぶつ言いながら子どもが帰ってきたりします。 軽い笑いに変えると、「あなたは悪くないよ。そういうこともあるよね」という空気になるんです。その場が軽くなるような言葉をいくつか持っておくといいですね。関西人は、ちょっと有利かな(笑)。 Aさん :本当にそうですね。 木村先生 : 今、この記事を読んでいるママたちは「現状を何か変えたい!」と思っている時なのかもしれませんね。すごいチャンスの瞬間です。現状を変えたいと思った時が、大人一人ひとりが自分で考え始めるチャンスなんです。「自分は、こう育ったから」「夫が、言うから」「ママ友が、こうだから」ではないんです。 「自分がこの子だったら、どうしてほしい?」「自分が、今、やっていることは、この子にとってどうなんだろう?」 こんなふうに大人一人ひとりが常に自分に問い続けて、自分の頭で考え始めてみることが大切なんです。 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 7.子どもに言うことを聞かせようとしない。話を受け止めることから始める 8.新学習指導要領のキーワードは、「主体的・対話的で深い学びの実現」である 9.大人一人ひとりが、自分の頭で考え始めることが大切 いかがでしたか? 子どもが自分が思ったようにならない時、つい「自分の言うことを聞かない子どもが悪い」と思ってしまいがちです。けれども木村先生のお話しを聞くと、「あれ? じつは私自身に問題があった!?」と、ハタと我に返ります。 自分の頭で考えられる子を育てるためには、まずは大人が自分の頭で考え始めることが大切…。いやぁ、本当にそうですよね! 木村先生の取材をすると、毎回、私自身(いつもよりは)深く考えます。そして木村先生と一緒に、学びを深めていきたいと思うのです。 ※文部科学省: 学習指導要領「生きる力」 学校で学んだことが、明日、そして将来につながるように、子どもの学びが進化します。新しい学習指導要領、スタート。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは? 【木村泰子(きむら やすこ)先生】 映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集める。
2022年02月03日■前回の木村先生のお話 これからの時代を生き抜くためには母親も子どもも、失敗しても立ち直れる「レジリエンス」が必要。しかし親が過保護になって必要以上に子どもに関わり続けてしまうとこの力は伸びません。そうならないためには…? つい、子どもに口うるさく行ってしまうのは、ママが不安だから。ヘリコプターペアレント(ヘリコプターのように子どものまわりを旋回し、管理・干渉し続ける保護者を意味)のような子育てをしないためには、「周囲の同調圧力に負けずに、子どもを信用するが大切」と木村先生に教えていただきました。再び読者Aさんと木村先生の会話に戻りましょう。 ■勉強しない子どもを信じることができる? 木村先生 :「勉強をしない」、「素行が良くない友だちと付き合ってる」…。こういったことを長い人生の中で経験することは、悪いことではないと私は思っています。子どもが成長する最中には、山あり谷ありであることの方が自然です。「わが子は今、回り道をしているけれども、最終的には自分らしく幸せな大人になっていく」と、信じていればいいんです。 Aさん :その状況で、子どもを信じるって、とても、とても、難しいと思います…。 木村先生 :どうして? だって、自分の子どもでしょう? ゲームばかりしていても、親に迷惑をかけていても、自分の子どもでしょう? その子は、世界にたった一人しかいない、わが子でしょう? 「自分には、最終的に帰るところがある」 と、子どもが思えていること。これが、とても大切だと私は思うのです。そのためには、「どんなことがあってもお母さんは、あなたの味方だよ」と、ママ自身が子どもを信用するしか方法はないと思うんです。 ■勉強しない子ども自身が困っている可能性もある Aさん :子どもに、「お母さんは、あなたの味方だ」ということが伝わっているのかな? というのがわからなくて…。どう伝えればいいのでしょう? 木村先生 :たとえば、子どもが「勉強したくない」と言ったとしましょうか。そんな時、親は心配だから「なんで?」と聞きます。聞かれた子どもは、自分の中に原因があると考えて、不安になったり、塞ぎこんだりしてしまうのです。 そんな時は、発想を転換する! HOWを使うんです。「どうしたら、あなたが楽しく勉強ができるようになると思う?」「どうしたら、あなたが勉強したいと思うようになるかなぁ?」と、子どもに聞いてみるのです。 Aさん :なるほど。声かけをそんなふうに変えていくことから始めればいいんですね。 木村先生 :子どもに対して「指示命令」をするのではなく、 「問いかけ」 をしてみる。そして、その問の答えを子どもから言ってもらえる。親は、そんな大人になればいいのです。 「子どもが、勉強をしない」と親が困っているとしたら、子ども自身も、本当に困っていることが多いのです。 「(本当は勉強したいと思うのに)、その方法がわからない、向き合い方がわからない」 といった感じでね。 子どもが困っている原因は、じつは本人の中ではなくて、案外、周りの環境の中にあるんです。私が校長を務めていた大空小学校(映画『みんなの学校』の舞台となった学校)には、学校に通えなくなった子どもがたくさん転校してきました。でも、大空には通えるんです。「違いは、何?」と聞くと、「空気が違う」と、子どもたちはみんな言っていました。 Aさん :空気…。子どもたちは、きっと、今の世の中や、学校の空気がつらいんですよね。 木村先生 :今の学校の空気に入ろうとしたら、自分をガチガチのスーツケースの中に閉じ込めなければならない。でも、それを風呂敷に変えたら? 風呂敷は、どんな形にも自由自在になるでしょう? だから「子どもを育てる」のではなく、「子どもが育つ」。その周りにいる自分たち自身を少しずつアップデートしていこう! 大空は、そんな大人の集まりでした。 Aさん :子どもを主語にして、自分が変わっていく…、そんな感じでしょうか。 ■10年後の社会で「生きて働く力」とは 木村先生 :そうですね。だからこそ、「勉強をしないさい」と子どもに言うときには、「勉強って、何だろう? 学びって、そもそも何だろう?」といったことを、ママたちには自分の頭で考えてみて欲しいのです。下記は、私が文部科学省から聞いた文言です。 「みんなと同じことができる」 このことが評価される時代は終わった。 他人と違うことに価値のある時代になってきた。 木村先生 :文部科学省は10年に一度行う「学習指導要領」の改訂をし、小学校では2020年度から既に新しい学習指導要領(※)での指導が始まっています。 ところで、今の学習指導要領の下で育った子どもたちが大人になる、10年後、20年後は、どんな世の中になっていると思いますか? Aさん :10年後、20年後…。そうですね、学歴があることよりも、「自分が何をやりたいか?」を追求していける子が生き抜いている気がします。 木村先生 :本当にそうですね。今の学歴社会、受験社会が、どこまで通用するのかな? と、私は、思います。 Aさん :でも中学受験など受験が低年齢化して、ママたちがヒートアップしている現象もある気がします。この歪みが、どこで調整されるのか? いつ世の中が変化していくのかが不安です。 ■「正解通りにできること」が目標? 木村先生 :Aさんが世の中の変化を感じていないのであれば、残念ながら娘さんが通っている学校は、変化をしていない可能性もありますね…。 私の肌感覚としては、「全国の学校」という日本の全体像で見れば、随分と動き始めている印象です。一方で、旧態依然のまま、まったく変化をしていない学校があるのも事実です。たとえば、オリンピックがありましたが、現状はそのキーワードだった「多様性」や「共生」が、行動に繋がっていない人が多いのと似ているイメージでしょうか…。 木村先生 :ところで、多様性ってどんなことだと思いますか? 私は、多様性とは「違う文化をリスペクトすること」だと思っています。子どもがふたりいたら、ふたりともが、それぞれ別の人間ですから違います。お互いがお互いをリスペクトできる。言い換えれば、それぞれの人が、それぞれの人をリスペクトできれば、すべての人が 「自分の人生」を生きることができる のです。 具体的に考えてみましょうか? たとえば小学校1年生になったら「廊下は、右側を歩きましょう」と、習います。右側を歩くのが「正解」で、これまでは「先生に言われなくても、自主的に右側を歩けること」が評価されてきました。学校も親も「正解通りにできること」を、教育の目標に掲げてきたのです。 けれども、「正解通りにできる子ども(右側を歩ける子ども)」を育てたところで、多様性が尊重される社会で生きていけますか? これからの世の中には、左右がわからない人が歩いているかもしれないし、「左側を歩くことが正解」という文化の外国人の方だって増えていくでしょう。 Aさん :本当に、そうですね…。 木村先生 :これから育てるべきは、「きちんと右側を歩ける子ども」ではなく、「道で人にぶつからないためには、どうすればいいか?を、自分の頭で考えられる子ども」なんです。 そのためには、「曲がり角では、立ち止まるようにしよう」など、日々生活の中で、都度、自分で考えていかなければなりません。 Aさん :そういう子を育てるためには、どうしたらいいんでしょうか? 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 4.「自分には、最終的に帰るところがある」と、子どもが思えていることが大事 5. 指示命令ではなく、「あなたはどう思う?」と、子どもに聞いてみる 6. これから育てるべきは、自分の頭で考えることができる子である 「自分の頭で考えることができる子」を育てるためには、私はどうすればいいですか? 次回も、木村先生と一緒に考えます。 ※文部科学省: 学習指導要領「生きる力」 学校で学んだことが、明日、そして将来につながるように、子どもの学びが進化します。新しい学習指導要領、スタート。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは? 【木村泰子(きむら やすこ)先生】 映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集める。
2022年02月02日子どもを産んだら、ママになる。けれども、自分がイメージするようなママになれず、落ち込んでしまうことは、ありませんか? 今回は、「子どもに、『あれしなさい』『これしなさい』とばかり言っている気がして、落ち込む」という読者のAさんと木村泰子先生の会話からスタートします。 【木村泰子(きむら やすこ)先生はこんな人】 木村先生は、映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長です。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「木村先生が子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集めています。 ■「あれしなさい」「これしなさい」ばかり言ってしまう Aさん :私の悩みは、つい、 子どもに「あれしなさい」「これしなさい」とばかり言ってしまう ことなんです。本当は、何でも大らかに受け入れて、「大丈夫よ!」と、子どもの気持ちに寄り添いたいのに……。 木村先生 :表面上、「大丈夫」と言って子どもを落ち着かせようとするのは、「大丈夫」という言葉を、単なる道具として使おうとしているのかもしれませんね。 子どもは、それをすぐ見抜きます。子どもが暴れたりイライラをぶつけたりするのは、 親を困らせようとしているのではなく、ただ、本人が困っているだけ 、不安を抱え、困っている子どもに対して、大人は寄り添おうという気持ちが大切です。 今、こんなふうに偉そうに言っている私ですが、私の娘が孫にあれこれ言っているのを見て、「そうやって力で押さえつけても、子どもは納得しないよ」と伝えたら、娘から言われた言葉があるんです。 Aさん :娘さんは、何と? 木村先生 :「お母さんにだけは、そんなこと、言われたくない!!」と、猛反発されました。私も、母親時代は、娘と同じことをやっていましたからね。 Aさん :木村先生も、自分の娘さんに、あれこれ言ってしまう母親だったのですか? 木村先生 :そりゃそうです、当たり前です。 Aさん :木村先生でもそうだったと伺って、何だかホッとしました。学校の宿題など、「どうしてもやって欲しいこと」があると、子どもに寄り添えなくて、落ち込みます。 木村先生 : 親は、「子どもが自分の望んでいるような姿になって欲しい!」と願う生き物 です。私も、「いろいろなことができるお子さん」を見ると、「うちの娘も、ああなって欲しい!」と、いつも思っていましたよ。 Aさん :「こういう子になってほしい」という自分の気持ちを子どもに押し付けてしまう気がして…。 木村先生 :母親だったら、全員そうでしょう。親の思うように行動していない子どもに、「あなたは、大丈夫!」なんて、とても言えませんよね。仮に母親が表面上そう言っていたとしても、子どもは見抜きます。 ■勉強をしたら、幸せになれますか? Aさん :では、どうしたらいいんでしょう? 勉強をする時間になっても、子どもがダラダラと漫画を読んでいる時、どんなふうに声かけをしたら良いですか? 木村先生 :その前段階として、勉強をする目的を、ママはどう考えていらっしゃいますか? Aさん :子どもが勉強することで自立する手助けになればと。私が高齢出産なので、少しでも子どもの選択肢が広げられたらと思って…。 木村先生 :わかります。私は、一人っ子なんです。そして、小学校の参観日に母が来るのがすごく嫌でした。友だちから、「お前は、おばあちゃんが来ているのか?」と聞かれるほど、友だちの母親と比べて年配感が漂う母だったんです。でも「世界中で一番尊敬している人は誰?」と、聞かれたら、私は「母」と答えると思います。 そんな母ですが、一緒に暮らしている間、ずーっと私に、「勉強しなさい」と言っていました。その時代の自分を省みて思うのは、「勉強しなさい」と言われたところで、勉強なんてしません。勉強をしている「ふり」だけして、まったく勉強しないで大人になりました。小学校の成績は、真ん中より下だったと思います。 Aさん :そうだったんですね…。 木村先生 :でも、「勉強しなかったら、大人になった時に幸せになれないのか?」と問われたら、そんなことはないと思うんです。ママたちは、今、子育ての真っ最中で、「子どもが勉強をしていれば安心。勉強をしていないと、不安」なのは、とてもよくわかります。 私は子育てが終わっているので、「このように育てたら、こんな結果になる」ということがわかっている人間です。その人間から言わせてもらえば、「勉強して、いい学校に行けば、子どもは幸せになる」というのは幻想です。 繰り返すようですが、「わが子が勉強をしていない」という姿を目前にすれば、 母親なら誰だって、「勉強させなければ!」と思うのは当然 のことなんです。けれども、そんなママたちだって、一個人に立ち戻った時に、 「勉強すれば、幸せになれるの?」 と問われたら、もはや「そんなことは、ない」と、気がついてはいるでしょう? ■これからの母親に必要な力とは? 木村先生 :時代が大きく変わっている今、「母親として、ここだけは外さないで欲しい」と私が思う力は、 復元力 です。 イメージとしては、大波に揺られても転覆しない船です。子どもは、大海でいろいろな波に揉まれながら、進んでいくわけです。いろんな波があっても、船が沈まないのは復元力があるからです。復元力は、最近よく使われる言葉として、 「レジリエンス」 とも言い換えられます。 私は娘ふたりの母親ですが、上の子と、下の子は、同じ親から生まれ、同じ家で育ったのにまったく違う性格です。上の子は、ありとあらゆることに反抗する子どもでした。とにかく先生の言うことを、聞かない。先生が、「右に、向きなさい」と言えば、「何で、右に向かなきゃいけないの?」と聞いて、「いいから、右、向きなさい!」などと先生が言おうものなら、「じゃあ、私は左向くわ!」と言って、どこかに行ってしまうような娘でした。下の子は、そんな姉を見ながら、生徒会に入って、「学校改革をしよう!」と言うような子でした。姉が中学3年間でぶっ壊してきた中学を、妹は生徒会の会長になって復活させた。笑い話です。 Aさん :すごいですね…。 木村先生 :「勉強をしない」、「素行が良くない友だちと付き合ってる」…。こういったことを長い人生の中で経験することは、私はけっして悪いことではないと思っています。 人が成長する最中には、山あり谷ありであることの方が自然で、子どもが大きな失敗をして親の元に帰ってくることもあるでしょう。そんな時、 「お母さん、一緒に考えるよ」 と、親が言える。こんなレジリエンス(復元力)を親が持っていたのなら、子どもはいろんな曲がり角にぶつかりながらも、最終的には自分らしく幸せな大人になっていくと思うんです。 Aさん :そんなレジリエンスを持てている親、いるのでしょうか? 木村先生 :それを持てるよう、親も子どもと一緒に学ぶのです。学びについては、別の機会に、ゆっくり考えていきましょう。今回、お伝えしたいのは、子どものレジリエンスが育ちづらくなる、親の関わりについてです。 それは「ヘリコプターペアレント」と言われたりする、 過保護になってしまいがちな親の行動 です。子どもの様子を逐一把握していないと心配で、必要以上に関わり続けてしまう…。 「自分の視界」「自分の想定」の範囲に子どもがいないと不安で、結果的に子どもを縛り付けてしまう…。縛りつけておかないと、子どもがどこかに行ってしまうような気がして不安なんでしょうね。そうならないため大切なことは、 大人も周りの同調圧力 に負けない覚悟が必要です。 Aさん :覚悟…ですか? 親が覚悟を持つためには、どうしたら良いのでしょう? 木村先生 :子どもを信用するしかないですよね。 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 1.これからのママに必要なのは、レジリエンス(復元力)である 2.復元力とは、子どもが失敗をした時に「一緒に考えるよ」と子どもの味方なる力 3.ヘリコプターペアレントをしている限り、いつまでも不安のままである 次回は、「子どもを信用すること」について、木村先生にお話しを伺います。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは?
2022年02月01日■前回のあらすじ 「『良いお母さんをやろう』と思うから辛くなる。自分は、自分でいればいいんです。良いお母さんである前に、自分自身を大切にできていますか?」と問う高濱先生。 良いお母さんである前に、「あなたは人として、自分を大切にできていますか?」…そんな問い、考えたことあるママはいるでしょうか? どうしても「良いママ像」に縛られがちなママたちに高濱先生は、「自分は、何をしている時が楽しいか?」をママには絶対考えて欲しいと話します。 ■「自分は何をしている時が一番楽しいか?」を考える ――「良いお母さんであらねばならない」みたいな呪縛は強いと思います わかります。ママ友の目だってあるだろうし、住んでいる地域によっては、お姑さんや、御近所の目がうるさいということもあるでしょう。「あのお母さん、子どもを放っているよね」みたいなね。でも、やっぱり、そこでも「人目」を気にしている…。 もう、そういう時代じゃないんですけれどね。「誰に何を言われようと気にしない」みたいな人たちの時代が来ているというか。いま、勢いがある企業のトップの方というのは、そういう人々が多いですよね。 ――でも思い切るのは、なかなか難しいと思います でもね、 お母さん自身が「自分でいること」に焦点を当てられるように なりさえすれば、「何が起こっても、人生、楽しんだけどな!」みたいな感覚は得られるんです。まぁたしかに、かなり勇気が必要です。 やっぱり周りに言われちゃうから。「本当は働きたい」と思ったから、実際に働いてみたら、じつのお母さんに、「子どもがかわいそうじゃない」と言われてしまったりしてね。 ――言われちゃったら、どうしたらいいんですか? 言わせておけばいいんですよ。「そういうことを言う人も、いる」ということですよね。でも一方で、働くことへの理解者や仲間もたくさんいますよね。 やっぱり、お母さん自身が、 「自分は、何をしている時が楽しいか?」を考えてみる ことが、こんな時期だからこそ、本当に、本当に、大切なんです。 ■子どものために、ママ自身が自分を楽しく生きればいい ――「自分は、何をしている時が楽しいか?」を考える…。それ、難しい!! 難しいけれど、ママたちには絶対に考えて欲しいんです。では、私の場合をお話ししましょうか。私の出身は熊本です。父は医者で私は長男なので、「当然、親父の後を継ぐもの」と周りは思っていたんです。 でも、私はその環境から逃れたかった。「東大だったら、文句は言われないだろう」と東京に出てきて、さきほどお話ししたとおり、本当にいろいろなことをやった挙句、「やっぱり、俺は子どもが好きだ」という結論が出たんです。 映画が好きでたくさん見ましたが、子どもが主人公の映画に5つ星をつけている自分がいる。バックパッカーをやった時も、タージマハルに行って、建物ではなく、その横にいた子どもたちと遊んだことを10ページくらいノートに書き綴っていました。 「俺は間違いなく子どもがすごい好きで、子どもと一緒にいるとワクワクするんだな」ということを自分自身で捉えることができたので、「子どものことを仕事にすれば、一生楽しめるな」と、思ったんです。 ――お母さんが好きなことをしていれば、その姿を見て子どもは育つんですものね お母さん自身が輝いて生きていれば、子どもはそれが一番うれしいものなんです。お母さんが、仕事が大好きで、仕事を頑張っていれば、きっと、「私も早く働きたいな!」と思うんです。 子どもは学校で嫌なことがあったとしても、家に帰ってきてニコニコしたお母さんを見ると、 「世界には、いいものがある」みたいな気持ちになるもの です。嫌なことなんて、浜辺に書いた文字のように、波ですうっと消える感じですよ。 だからこそ、 お母さんたちには、好きなことを主軸に生きて欲しい のです。子どものために、自分が楽しく生きればいいんです。それが、もっとも子どもに良い影響がある「良い母親像」です。 私が「子どもを放っておけ」と言ったとしても気にかけてしまう母親が多いと思います。だったら、「今日、私、何が楽しかったかな?」ということを、まずは自分に聞いてみてあげてください。 ■「今日、楽しかったこと」を子供と会話してみる ――そんな質問、自分にしてみたことないかもしれません じゃあ、もう一つお伝えしておきます。自分の人生観として、最近、「確信」が出てきたことがあるので。 ――どんなことでしょう? 私は、人から感謝された時が、一番いい「ポカポカ」を感じるんです。「誰かの役に立つ」ということが、人間にとってもっとも幸せだということです。そしてそれは誰にでも同じことが起こるんだ、ということを確信したんです。 2021年の前半の今は、まだ「外付けの枠組み」で生きている人も多いでしょう。でも、 今こそ自分の心だけ見るべき だと思いますね。私は、社会で活躍している人たちにお会いする機会も多いですが、みなさん、そこの部分がシンプルに整理できています。 ――「今日、お母さん、こんなこと楽しかったんだ」などと、子どもと会話するのはどうでしょう? すごくいいですね。実際に、それをやっている人もいます。寝る前など、布団に入った時に、みんなで「今日、良かったこと」を言い合うみたいなね。 ■コロナ渦での学習の遅れは? ――最後に、「コロナでの学習の遅れ」についてのご意見をお願いします 「コロナでの学習の遅れが心配」という声は、たしかにあります。けれども、コロナだっていつかは収束するでしょう。そうしたら、何だかんだと追いつきますよ。コロナの間の学習の遅れは、 ちょっと「やる気」になれば取り戻せるレベル です。そんなに深刻に悩まなくても大丈夫です。 それよりも、コロナ禍だからこそ、「発見できること」がたくさんあると思うのです。夏目漱石が、「眺めて楽しむ」と言っていましたが、目の前で起こっている事象のすべてを面白がることができる気持ちが持てるかどうかが大切です。 危機の時にこそ、そういう気持ちが大切です。同じ事象でも、認知の仕方でまったく違ってきますよね。たとえば、「コップに半分水が入っている」というニュートラルな状態も、捉え方次第でまったく異なった見方になります。 コップに半分「も」水がある。コップに半分「しか」水がない 今の時期は、どうしてもネガティブな方向に気持ちが持って行かれてしまうから、ここは大人たちの頑張りどころだなと思うんです。 親がガックリしていれば、子どもは不安になります から。勉強の遅れは、コツコツやれば取り戻せます。それよりも、「今の危機にしかないこと」をキャッチして、「経験値貯金」にしておけば面白いと思います。 ――オンライン授業については、どうお考えですか? オンラインで困るのは、やっぱり低学年ですよね。私たちもやってみて、1年生までは、正直、お母さんが横にいないと厳しいかなとは思うんですよね。 低学年のお子さんがいる方には、「基盤力に絞ってください。簡単に言えば、 字の練習と計算 です。そこだけは、学年相応のことをやっておく。それぐらいで十分です」とお伝えしています。 字の練習と計算は反復練習なので、保護者でも対応できると思うんです。その際、多少声を荒げるようなことがあっても、大丈夫です。子どもは、お母さんたちが心配しているほど、傷つかないものです。 でも、お母さんが少し欲を出して文章題を教え始めると、危ないです。お母さんが魔物に変身して行きますからね(笑)。文章題は、(教えることの素人である)お母さんたちが指導しない方が良いエリアかもしれません。 大丈夫ですよ。たとえば1、2年生でまったく文章題をやらなくても、4年生で4年生の文章題をやるようになれば、できるようになります。「1、2年生の頃、しっかり文章題をやったから」という理由で、高学年で伸びるというものでもないんですよね。 ――高濱先生にそう言っていただけると、ホッとするママもいると思います ただ、これからの保護者は、ざっくり大きな見通しとして、 「授業がオンラインになることもある」 ということは、視野にいれておいた方が良いですよね。今までだってインフルエンザで学級閉鎖などはしていましたが、これからは「インフルエンザ期間は、2週間オンライン授業です」ということがあるかもしれません。そうなること前提の準備は、しておいた方が良いというのはありますね。だからといって、「学校的なもの」がなくなるということは、ないと思います。子どもは、他の子どもの声を聞きたい生き物ですからね。 いかがでしたか? 取材で高濱先生とお会いすると、「元気をいただく」という気持ちになります。なかなか難しいですが、「自分は、自分でいればいい」にトライしてみようと原稿を書きながら思いました。自分を尊重することで、子供に寄り添うといった気持ちの余裕が生まれる予感がします。 高濱先生のメッセージが、一人でも多くのママたちに届くことを心より願っています! ■今回、取材を受けてくださった高濱正伸先生の書籍 花まるな人生 はみ出しても、回り道しても大丈夫! (高濱 正伸/幻冬舎(¥1,320(税込))) 花まる学習会代表・高濱正伸が自身の幼少時代を紐解きながら、はみ出し、回り道しながらたどり着いた「花まるな人生」について語ります。逆境を楽しみ乗り越える強さ、自分で学べる賢さ、誰とでも仲間になり人を幸せにできるしなやかさ…。これからの時代に必要とされる力を育むために、親が子どもにしてあげられることとは? 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)さん 花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長・算数オリンピック委員会理事。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。 『情熱大陸』(毎日放送)など、数多くのテレビ番組や『AERA with Kids』(朝日新聞出版)などの雑誌にも登場。『メシが食える大人になる! よのなかルールブック』(日本図書センター)など、著書多数。
2021年04月02日■前回のあらすじ 「コロナ禍、イライラするのは当たり前。でも煮詰まってしまうママには特徴がある」と話す高濱先生。子どもにも悪気なく「親が、価値があるものだと思っているもの」を押し付けてしまうママたちはどうすればいいのか? 消しゴムのカスを集めている子どもに対して、「そんなの集めていて、何になるの? そんな意味のないことをしていないで、勉強をしなさい」と、親が無自覚に自分の価値観を押し付けていることが、子どもの自己肯定感の低さに繋がっていると、高濱先生に指摘を受けました。そう言われても…。 ■誰にでも心が疲れてしまう時はある ――おっしゃっていること、頭では理解できます。でも、消しゴムのカスを集める子どもを見守る境地にたどり着くには、まだ遠いです 私は東京大学に入るまでに三浪していて、大学に入ってからは四年留年しています。三浪四留、まだ誰にも負けたことはないです。 二浪した奴からは、「自分が、『人生、回り道した』などと言っていて、お恥ずかしい限りです。すいませんでした」と、謝られます。 ――三浪四留! 四留って、大学に在学できる、ギリギリラインなのでは? そうです(即答)。三留までは、自分の中で、「そこまでは自由にやろう」と計算して、映画や恋愛、落語など、思いっきり楽しんでいました。四留目は1単位のためだけに留年したんです。 ――なんか、すごいんですね…(絶句) 私だって、「褒められる側」に回ろうとしたこともあります。25、26歳の頃でしょうか、「遊ぶだけ遊んだので、そろそろ人がやれないくらい勉強しよう」と思って、いきなり十ヶ国語を勉強し始めたんです。そうしたら、2ヶ月くらいで調子が悪くなりました。 いまでいうところの、パニック障害のような症状が出たんです。ドキドキするからトイレに行って鏡を見てみたら、自分の顔が土気色になっていました。高校の同級生だった西郡(※)に「俺、本気でヤバイかも」と下宿先に来てもらって、二人で精神科医になりたての友だちに電話しました。そうしたら、そいつから「それは、心身症の一種だと思う」みたいなことを言われたんです。 そこから2年半~3年ぐらいは電車に乗れず、「すべてが怖い」という状態です。精神的に病んでしまった時は、人からの声かけや元気づけでどうにかなるほど甘くないんだ、ということを学びました。 精神的な病のことは、書きづらいこともあるかと思います。私のこの話、もしかしたらメディアに載るのは初めてなんじゃないかな? ただ、今の時期だからこそ、私は書いてもらった方が良いと思っているんです。元気なイメージが強い私でも、精神を病んでしまった経験はあるんです。だから、 すごく毎日を頑張っていても、ある日いきなり心が疲れ切ってしまうことは誰にでも起こりうる ことなんですよね。 ■「良いお母さんをやろう」と思うから、不幸せになる ――ママが精神的に、一杯一杯になってしまった時、どうしたら良いのでしょうか? そういう状態になってしまっている時は、自分しか見えていないんです。「私だけが、ダメなお母さんになっている」「私だけが、子どもが可愛くなくなってしまっている」みたいな…。 まず、強く言いたいことは、「それ、全然違います」ということです。そんなことは誰も思ってなくて、自分が思っているだけなんです。「良いお母さん像から離れてしまっいてる」「子どもを邪険に思ってしまっている」「自分がいけない」みたいなね。 それは、 「良いお母さん像」に引きづられてるだけ なんです。「一人になりたいから、子どもにあっちに行っててもらいたい」と思う自分がいても、全然、構わないと思うんです。 「良いお母さんをやろう」と思うから、不幸せになってしまうんです。自分は、自分でいればいいんです。良いお母さんである前に、「あなたは人として、自分を大切にできていますか?」と、まずは自分に聞いてあげて欲しいんです。 「まずは自分に聞いてあげて欲しい」という高濱先生の言葉に、緊張で張りつめていた心が、ふっと緩みます。そうか、そういうことをしても良いんですね。 次回に続く! ※西郡文啓(にしごおり ふみひろ)さん 花まるグループ「西郡学習道場」代表を務める西郡さんは、高濱さんの高校の同級生。創成期から二人三脚でやってきた二人は、大学時代に一緒に牛乳配達をしながらひたすら哲学をした時期もあったそう。 ■今回、取材を受けてくださった高濱正伸先生の書籍 花まるな人生 はみ出しても、回り道しても大丈夫! (高濱 正伸/幻冬舎(¥1,320(税込))) 花まる学習会代表・高濱正伸が自身の幼少時代を紐解きながら、はみ出し、回り道しながらたどり着いた「花まるな人生」について語ります。逆境を楽しみ乗り越える強さ、自分で学べる賢さ、誰とでも仲間になり人を幸せにできるしなやかさ…。これからの時代に必要とされる力を育むために、親が子どもにしてあげられることとは? 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)さん 花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長・算数オリンピック委員会理事。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。 『情熱大陸』(毎日放送)など、数多くのテレビ番組や『AERA with Kids』(朝日新聞出版)などの雑誌にも登場。『メシが食える大人になる! よのなかルールブック』(日本図書センター)など、著書多数。
2021年04月01日「コロナ禍で『母親』をやっていれば、イライラするのは当たり前」、そんな風に話すのは、花まる学習会の高濱先生。 ママは感染に気を使い、家で過ごすことが多い毎日のなか、家事や育児に日々頑張っています。でも口にはなかなか出せないけれど、「コロナ禍、そろそろ本当に疲れてきた…」そう思っている人も多いのではないでしょうか。 そこでこんな逆境の時代でもママが笑顔で暮らせるように、背中を押す言葉を花まる学習会の高濱先生にお聞きしました。 高濱 正伸(たかはま まさのぶ)さん 花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長・算数オリンピック委員会理事。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。 ■イライラするママが悪いわけではない ――コロナ禍でお疲れ気味のママたちに、高濱先生からメッセージをお願いします! コロナ禍で、夫婦のこと、子どものこと、この2つの問題で悩んでいる人は多いと思います。「潜在的な問題がコロナ禍で表面化した」などと言う人もいますが、あまり深刻に考える必要はないと思うんです。 人間は、距離が近くなりすぎると、相手に対して苛立ちの感情が出てくる「生き物」なんです。どんなに大切に思っていても、 一緒にいる時間が長くなれば、疲れが出て、イライラするのは当たり前 です。私は、自分の経験からそう考えるようになりました。 ――どんな経験なのでしょうか? 私が大学1年生の時のことです。仲が良かった友だち5人で、南アルプス登頂に挑戦しました。私だけ山登りの初心者で、他の4人は山登りの経験値が高かったせいもあり、「ついていけるかなぁ」と心配で、事前に山の専門家に注意点などを質問しに行きました。 専門家の方からは、「体力的な面では、高濱くんはずっと野球をやっていたから大丈夫だよ。でも、必ず喧嘩になるだろうから、そこだけは気をつけて!」と、言われたんです。そう言われても、「南アルプス登頂に挑戦しよう」と思うほど仲が良い仲間だっただけに、「喧嘩なんか絶対にしないのにな…」と不思議でした。 ところが、やっぱり喧嘩になったんです。人間は、長い時間、一緒にいることを強いられると、関係性が絶対におかしくなるものなんです。当時、私は日記をつけていたのですが、「俺のカレーだけ肉が少ない。他の奴には多めに肉をいれているのに、どうしてだ」とか、そのレベルで本気で苛立っているんです。 ――コロナ禍、ささいなことでイライラするのは、私だけではないと? そりゃ、そうですよ。母子の愛は崇高ですが、長い時間、一緒にいれば疲れます。そこで、「問題が表面化した」などと深刻になるより、「そういうものだから」と思っておいた方が、気が楽じゃないですか。 ――高濱先生に「そういうものだから」と言わると、何だかホッとします 何回でも言いますよ。あなたが悪いんじゃなくて、 「コロナ禍で『母親』をやっていれば、イライラするのは当たり前だ」 ということです。 そんなの、絶対に当たり前です。そもそも、「お母さんになる」ということだけでも、ものすごいパワーの要ることなんですよ。皆さん、突然「お母さんになる」わけでしょう? いままでとまったく違う状況に、突然、放り出される感じじゃないですか。不安になってあたり前だし、不安な自分を受容するにはパワーが必要なんです。 ■「行き詰まってしまうママ」には、特徴がある ――でも、先ほど、高濱先生は「母子の愛は崇高」と、おっしゃっていました お母さんが子どもを想う愛は、崇高だと思います。それは事実として、あります。一方で、「立派な母であろう!」みたいになると、あっという間に行き詰ってしまいますよね。じつはね、「行き詰まってしまうママ」というのは、特徴があるんです。 ――どんな特徴ですか? 人の評価を気にしたり、人と自分を比較したり…。とにかく 自分の意識が、「人の目」の方向にいってしまうと危ない です。もっとも、日本人の大半は、「人の目」の方向に意識がいってしまっているんです。それが、「日本の子どもたちの自己肯定感の低さ」に繋がっていると、私は考えています。 ――どうして人の目を気にすると自己肯定感が低くなるんですか? 人生は、 「自分で決めたこと」が、一番面白い んです。だから、もっとも大切にするべきは、「自分は、何に関心があるのか?」です。言い換えれば、「どれだけ、自分の心に焦点を当てることができるのか?」が、勝負なんです。 けれども、親は何かと口を出してしまいます。小さい頃から、「これをやれば、いい」とか、「この点数を取れば、合格できるよ」「ここの中学に行ったら、すごい」みたいな感じで、日本の子どもは、「外付けの価値」を与えられて育つことが多いんです。 本当は、その子は、「私は、消しゴムのカスを集めたかったんだ!」と思っているかもしれないですよね。はたから見たら、「ただのゴミじゃん」と、思われるようなものでも、「あなたたちはゴミと思うかもしれないけれども、私にとっては、これが大切なんです」という気持ちを持つことが大切なんです。 「自分が本当に関心を持っているもの」を見失わないでいられれば、人間は大丈夫 なんです。「自分が、何にワクワクするか?」を見失わずにいられれば、どんなことがおきたって、大したことではないんです。すべて、楽しいんです。 ――消しゴムのカス、ですか? 高濱先生節が炸裂していますね… 私は、もう、こういう子どものワクワクする価値観の大切さを話したいんです! たとえば、「友だちの夫はお金持ちなのに、うちの夫は出世しない」といったように、比較ばかりしてしまうからつらくなるんです。子どもたちも同様に「他者と比較して、自分はこうだ」とか、小さい頃から植え付けられて、それを価値基準に置いてしまう。 そうではなくて、「私は(僕は)、これをやりたいんだ!」ということを、繰り返して成長していかれれば、人間は幸せになれるものなんです。 子どもがワクワクしている「消しゴムのカス」に対して「そんなの集めていて、何になるの? そんな意味のないことをしていないで、勉強をしなさい」みたいに、 「親が、価値があるものだと思っているもの」を押し付けられるところから、子どもの自己肯定感の低さが生まれる と私は考えています。 もちろん、親の方にはまったく悪気がなくて、心の底から子どものためを思って言っているのはわかっていますよ。だからこそ、余計に危ない。親の価値観自体が、「外付けの枠組み」をもとにしてしまっているのです。 アイタタ! 高濱先生の言葉、思い当たりすぎて、胸が痛くなります…。でも、だからって、私はどうすればいいのでしょうか? 次回に続く! ■今回、取材を受けてくださった高濱正伸先生の書籍 花まるな人生 はみ出しても、回り道しても大丈夫! (高濱 正伸/幻冬舎(¥1,320(税込))) 花まる学習会代表・高濱正伸が自身の幼少時代を紐解きながら、はみ出し、回り道しながらたどり着いた「花まるな人生」について語ります。逆境を楽しみ乗り越える強さ、自分で学べる賢さ、誰とでも仲間になり人を幸せにできるしなやかさ…。これからの時代に必要とされる力を育むために、親が子どもにしてあげられることとは?
2021年03月31日「家計をシンプルにする第1歩は、お金の流れをシンプルにすること」。そう言うのは、家計再生コンサルタントの横山光昭さんです。 でも、そもそも、家計の把握の方法がわからない場合は、何から始めたらいいですか? 引き続きお話しを伺います。 この記事は、 「『コロナで家計がヤバい!』やりがちな失敗パターンと今やるべきこと」 なぜかお金が貯まらない…じつはお得だと思っていたものが元凶!? の続きです。 ■夫婦で「家庭」という会社を共同経営する ――家計の「お金の流れ」、なかなか把握ができないんです 皆さん、そうですよ。ただ、とくに共働きのご家庭は、忙しいから、それぞれの収入にノータッチになりがちゆえに、複雑になってしまいがちだという印象があります。 夫婦それぞれの入出金が不透明だと、家計が悪化しやすい傾向 があります。 ――共働きなのに、お金が貯まらない‥‥。それって、よくあることなんですか? そうそう(笑)。正直なところ、それはよくあります。そういう方たちに対して、僕は、「どちらか一人が黒字会計にしようとがんばるよりも、 二人で力をあわせれば圧倒的に効果がでやすい んです」とお伝えしています。 できれば、夫婦で「家庭」という会社を共同経営しているという感覚が持てるようになると良いですね。夫婦(家族)の家計づくりは、次のような手順で進めます。 ●夫婦(家族)の家計づくりの手順 1)お互いの収入を把握する 2)夫婦共通の口座から支払う支出、おこづかいから支払う支出を決める 3)毎月の夫婦の目標貯蓄額を決める 4)それぞれのおこづかいの予算額を決める 5)毎月の振り返りを一緒に行い、必要があればルールを調整する 出典: 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 (出典:『横山先生ド素人の私にわかりやすく教えてください! これからの「お金」の貯め方&使い方) ■お金と上手につきあっていく、たった2つのポイント ――「夫とお金の話をする」というだけで、めちゃくちゃ、ハードルが高いです その気持ちも、よくわかります。でも、要は、次の2つができれば良いんです。この2つさえできていれば、お金を使いすぎて赤字会計に陥ることはありませんから。 1)今の状態を知る(現状把握) 2)収支のバランスを記録&チェック 「夫婦でお金の話し合いをするのは、ハードルが高い」と感じる人は、大切なことは先ほどの2つなんだという、ゴールのイメージを知ることから始めると良いかもしれませんね。 ●夫婦の家計づくり ■家計簿をつける上で、最も大切なこと ――そう言って頂けると、少し心が軽くなります… 家計簿も、難しく考えずに、「次の2つをするためのもの」と、ある意味、割り切ってみてはどうでしょう? 大切なことなので、何回も繰り繰り返しお伝えします。 1)今の状態を知る(現状把握) 2)収支のバランスを記録&チェック 家計簿の肝は、「ふりかえり」なんです。 家計簿が続かない理由として、「細かくつけようとして数字が合わない」とか「分類や記録の仕方がわからない」といった声をよく聞きます。 けれども、家計簿で大切なのは、「費目分けがきちんとしていること」でも「収支がきっちりとしていること」でもないんです。 家計簿は、自分のお金の現状を把握し、収支のバランスを記録&チェックするためのもの です。 ■「記録をつける」ということに労力を使わない工夫を! 僕が声を大にしてお伝えしたいのは、くれぐれも、家計簿の「記録をつける」ということに囚われない(労力を使わない)工夫をして欲しい! ということです。 そのためには、例えばスマホのアプリなどを活用するのも一つです。スマホには多くの家計簿アプリが存在します。そのなかには銀行口座やクレジットカードと連携することで、細かな記録をつけなくても自動管理してくれるものもあります。 家計簿の肝である「ふりかえり」に一番、労力が割けるように、「記録をつける」部分を楽にする方法を、自分なりに工夫をしてみる。その工夫をする試行錯誤にこそ、まずは労力を使って欲しいですね。 いかがでしたか? 筆者は、「このままでは、ヤバイ!」と思いつつ、なかなか着手できない3大項目のひとつが、「お金のこと」だと思っています(他の二つは、「ダイエット」と「お片付け」)。自分を上手にあやしながら、「お金のこと」と向き合うキッカケに本連載がなるとうれしいなと願っています。 最後に、横山さんから、皆さまにエールをいただきました! 「今回お伝えした事柄は、一見、地味に感じるかもしれません。でも、最初にお伝えしたとおり、普通の道を着実に歩いた方が、結局、挫折はしないから長続きするんです。 今、コロナ禍で不安に感じている人が多くいると思います。でもパパママ世代は、心配することはありません。今から、頑張れば大丈夫です! これらの方法を実践した人は、最初こそ『お金のことが苦手』だったかもしれませんが、いつしか『家計の達人』になりました。23,000万件以上の家計相談を受けてきた僕は、その事実を、皆さんに強くお伝えしたいのです」 ■「これからを生き抜くお金の貯め方」第3回まとめ 1)家計の再生は、夫婦二人で力をあわせれば圧倒的に効果がでやすい 2)家計簿の肝は、「ふりかえり」である 3)効果が出やすい見直し費目は、「携帯費」「交際費」「保険料」である ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 (横山光昭 (著), マネーフォワード (著)/かんき出版 ¥1,540) マンガとイラストで、わかりやすくて面白い「お金」の本。書籍では、年金2000万円問題から電子マネーやスマホ決済まで、「お金」の今さら聞けないことや得することが、この本1冊でわかります。さらにスマホで行えるらくらく家計簿についても解説! 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。
2020年08月30日「貯まらない人の共通点は、『お金の流れ』がごちゃごちゃしていること。反対に言えば『家計の混乱』をうまくほどいて、シンプルにすることで、お金はきちんと貯められるようになるんです」と言うのは、家計再生コンサルタントの横山光昭さんです。 そこで、『家計の混乱』をうまくほどいて、シンプルにする具体的な方法を、伺ってきました! 「『コロナで家計がヤバい!』やりがちな失敗パターンと今やるべきこと」 の続きです。 ■『家計の混乱』ほどき方その1、銀行口座を書き出す まず、最初にやっていただきたいのが、銀行口座の確認です。 お給料の入ってくる口座、貯金をしている口座、教育資金を貯めている口座、生活費などを支払っている口座、生命保険や自動車保険の支払い口座、住宅ローンの支払い口座、クレジットカードの引き落とし口座などなど、とにかく全部書き出してみます。 ――うっ! それを、全部やるんですか? いきなり、気分が萎えてしまいます ここは、がんばりどころです。自分を励ましながら、書き出してみましょう。全部書き出したら、次は、これらの口座を絞り込んでいきます。大切なのは、 「使う口座」を一つに絞り込む ことです。 人によっては、光熱費はA銀行で引き落とし、食費はB銀行から引き出して使う、クレジットカードの引き落としはC銀行というふうにあちこちの口座からお金が引き落とされ、何にいくら使ったのかよくわからないという状況に陥っています。 ――銀行口座を絞り込む基準は、何かありますか? 絞り込む基準は、「自分にとって使い勝手が良い金融機関かどうか」です。たとえば、「家や会社から近い」、「ネットでの口座管理がしやすい」というように、あくまで自分にとって便利な口座を選んでください。 ――なるほど! 「ただ数を減らせばいいというわけでもないんですよ。3つの袋(口座)の考え方をお忘れなく! すると、銀行口座は、次のように絞り込まれると思います。 ※3つの袋(口座)とは 家計を①使う袋、②貯める袋、③増やす袋で考えます。ポイントは、できるだけ『使う袋』の口座に、出費や引き落としを集結することです。 ●銀行口座の絞り込み着地点 1)お給料振り込み口座(共働きなら2口座) 2)使う口座(生活費やローンの支払い) ⇒ 毎月一定額を補充する 3)貯める口座(貯金用) ⇒ 毎月一定額を貯める 4)増やす口座(資産運用・証券口座) ⇒ 毎月一定額を運用する 出典: 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 ■『家計の混乱』ほどき方その2、クレジットカードの絞り込み ――銀行口座の絞り込みが終わったらどうすればいいですか? 銀行口座の絞り込みが終わったら、クレジットカードも絞り込みます。クレジットカードの複数持ちも、ごちゃごちゃ家計の元凶です。 クレジットカードは店頭での決済タイミングと、引き落としタイミングが約1ヶ月ズレるため、いつ、何に、いくら、支払うかが、とにかくあいまいになりがちです。 だからこそ、枚数はできるだけ絞り込んでください。 「カードは一人1枚のみ!」 と声を大にしていいたいくらいです。それくらい、家計の混乱を招くものなのです。 ――クレジットカードや電子マネーの選び方を教えてください! 「自分の生活圏だったら、どれが使いやすいか?」で、考えてみると良いですね。 たとえば、自分がよく行くスーパーと相性の良いクレジットカードや電子マネーってあると思うんです。そうなると、おのずと選ぶべきものは、決まってきます。あとは、お得に翻弄されないということも大切です。 ――ドキっ! お得に翻弄されない…。耳が、とても痛いです クレジットカードや電子マネーは、ポイントに目がくらんで、使おうとしないということです。あくまで、ポイントは、お金を使うからつくものであるので、お得ではない…。それくらいのシビアな気持ちを持っておいて欲しいと思います。 ■『家計の混乱』ほどき方その3、お金の出口を厳選する ――ここまでできたら、結構すごいこどだと思います 仕上げは、お金の出口を一本化することです。まず、日頃、お金をどんなことに使っているか思い浮かべてください。 次のように、ざっと思いつくだけでもずいぶんあると思うんです。これらの支払い方法は、現金だったり、口座引き落としだったり、クレジットカード払いだったり、現金で支払っていたりと、普通、バラバラですよね? ●「日頃、お金をどんなことに使っているかの例 生活費(水道光熱費、日用品、食費、被服費)、医療費、通信費、住宅ローン、保険料、教育費(学校教育費や保育料)、レジャー費(交際費や旅行費)、習い事代 出典: 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 ――あらためて考えてみると、たしかに、いろいろな方法で支払っていますねぇ~ ここも、絞り込んでいきます。「口座引き落とし」「クレジットカード払い」「現金払い」を、なるべく1つの方法にまとめます。 たとえば、光熱費や通信費をカード払いにしているのなら、それを先ほど選んだ、1枚のクレジットカードから引き落とすようにするんです。当然、口座引き落としもクレジット払いも、元となる口座は、1本目で絞りこんだ『使う口座』にします。 ――はぁ(溜息) やっぱりお金のことって、面倒ですね… 最初だけです。たしかに、おっしゃるとおり、ここでお伝えしたことは、面倒なことかもしれません。でも、最初だけなんです。 一度だけ、覚悟を決めて銀行口座やクレジットカードを整理 してしまえば、後は、そのまま使えます。 それに、振り返りもしやすくなります。口座引き落としは、通帳。クレジットカード払いは、使用明細にお金を使った記録が残りますからね。ここは踏ん張りどころと思って、トライしてみて欲しいですね。 ■「これからを生き抜くお金の貯め方」第2回まとめ 1)銀行口座やクレジットカード、電子マネーは、「自分にとって使い勝手」で絞り込む 2)ポイントに目が眩まないようにする 3)お金の出口を一本化するのは大変だが、大変なのは最初だけ 次回は、誰もが気になる「家計簿」について、横山先生にレクチャーしていただきます。 !--[ARTICLE-E1596790262201]--> ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 (横山光昭 (著), マネーフォワード (著)/かんき出版 ¥1,540) マンガとイラストで、わかりやすくて面白い「お金」の本。書籍では、年金2000万円問題から電子マネーやスマホ決済まで、「お金」の今さら聞けないことや得することが、この本1冊でわかります。さらにスマホで行えるらくらく家計簿についても解説! 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。
2020年08月29日withコロナの生活が「日常」になって、「家計が厳しい!」と感じている人は多いのではないでしょうか? 「残業代が減るなど、月額1~3万円収入減のご家庭は珍しくないんです。そうなると、『ギリギリ何とか回っていた』『少しは貯蓄ができていた』というご家庭でも、俄然、厳しいと感じるようになっています」とおっしゃるのは、家計再生コンサルタントの横山光昭さんです。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万件以上の家計相談を受けてきた。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 ■コロナ禍にあって、家計が心配な方へ 横山光昭さんは、こんなふうに言います。「私は、長年、赤字家計の悩みを解決し、黒字にすることを仕事にしてきました。やり方さえ理解すれば、誰でも 『家計の達人』になれる んです」 ――ええ! 本当ですか? ぜひ、そのやり方を教えてください! 承知しました。最初にお伝えしたいことは、 「まずは、落ち着こう!」 ということです(笑)。 「家計を何とかしないと、本当にヤバイ!」というような勢いがある時って、気分的には修行系、茨の道をガシガシと行きたい気分なんだと思うんです。けれども、普通の道を着実に歩いた方が、結局、挫折をしないので長続きするんです。 ■自分が使っている金額は、世の中の平均的か? ――そう言われても、気持ちばかりが焦るんです そんな人は、家計の現状把握から始めましょう。「家計が黒字なのか? 赤字なのか?」。そこまでは、何となく把握している人が多いんです。 けれども、その先になると、じつは、「何にいくら使っているのか? さっぱりわかりません」という人は、多いものです。 ましてや、 自分が使っている金額が平均的なのか? そして、家計全体から見て、 その割合が適正なのか? といったことになると、ほとんどの人が把握していません。 ――え? そうなんですか? これは そういう方を否定している訳ではないんです。まずは、「多くの人が、家計の現状把握ができていない」という事実を、皆さんに知って欲しいなと思ってお伝えしています。 でも、それって、ある意味、当然のことだとも思うんです。お金のことって、とてもセンシティブです。たとえ夫婦間や気のおけない友人に対してでさえも、細かい内容まで踏み込んで話す機会がないことの方が普通です。 そうなると、「自分のお金の使い方を客観的に眺めてみる」という経験や発想がないことの方が、当たり前だと感じます。 でも、たくさんの家計をみてきた僕から言わせてもらうのであれば、「がんばっているのになぜかお金が貯まらない、毎月赤字になってしまう」という方々には、やっぱり共通点があるんです。 ■赤字の「元」を根本から断つために必要なこと ――共通点!? それは、 「お金の流れ」がごちゃごちゃしている ことなんです。 生活費や水道光熱費、教育費、住宅ローンなどの支払い用の銀行口座が複数あり、いつ、どこの銀行から何円の支払いがあるか、ほとんど把握できていないご家庭がとても多いのです。 ――「それって、自分だけじゃないんだ」と、逆に、少しほっとしました そうなんです! 繰り返すようですが、「多くの人が、家計の現状把握ができていない」という事実を知るだけでも、皆さん、安心されます。それが家計と向き合う第1歩なんです。 ちなみに、ごちゃごちゃしているのは、支払い用の銀行口座だけではありません。貯蓄用の口座や資産運用のための口座が複数あったり、クレジットカードや電子マネーも、ポイントを貯めるために複数持っている人が多いですね。 ――だんだん耳が痛くなってきました… ひとつ言えることは、お金の出口が分散しすぎると、全体像が見えづらくなるということです。そうなると、家計は必ずと言っていいほど、うまく回りません。 でも、反対に言えば、複雑に絡み合った「家計の混乱」をうまくほどいて、シンプルにするだけで、お金はきちんと貯められるようになるんです。 ■家計は、「3つの袋」で考える ――シンプルにする…。それって、どういうことですか? 最初に、目標とするイメージをお伝えしますね。 考え方としては、次の図のように、家計を、「3つの袋」で考えます。ポイントは、できるだけ『使う袋』の口座に、出費や引き落としを集結することです。 ●「3つの袋」 ――なるほど 「家計を何とかしないと!」という今の焦りや勢いを、銀行口座やクレジットカードを整理することにぶつけてみてはどうでしょう? 最初はちょっと面倒ですが、一度やってしまえばあとは手間がかからないから、おすすめです。 ■「これからを生き抜くお金の貯め方」第1回まとめ 1)自分のお金の使い方が適正かどうか把握している人は、実は少ない 2)『家計の混乱』をほどいて、シンプルにすることで、お金はきちんと貯められる 3)家計は、「3つの袋」で考える。 次回は、銀行口座の統合や、クレジットカードの整理の手順を具体的にお伝えします。 ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』 (横山光昭 (著), マネーフォワード (著)/かんき出版 ¥1,540) マンガとイラストで、わかりやすくて面白い「お金」の本。書籍では、年金2000万円問題から電子マネーやスマホ決済まで、「お金」の今さら聞けないことや得することが、この本1冊でわかります。さらにスマホで行えるらくらく家計簿についても解説!
2020年08月28日2019年に話題となった公的年金の「2000万円足りない」問題。何となく気になっている人は、パパママ世代でも多いかもしれませんね。 お金の超プロフェッショナルである横山光昭さんは言います。「2000万円問題は、年金を自分事として考えるいいキッカケなんですよ」 この記事は、 第1回「『老後が不安』で終わらせていいの?」 第2回「じつは『老後に2000万円必要』とは報告されてなかった!?」 第3回「老後資金『2000万円以上必要な人』と『2000万円かからない人』 の続きです。 ■今、私たちがやるべきこと2つ 本連載の 第2回 では、横山さんに年金を自分事として考えるために、今、私たちがやるべきことを、ポイントを2つに絞って教えてもらいました。 ●今、私たちがやるべきこと2つ 1)自分自身の年金受取額の見込みを把握すること 2)今とこれからの社会状況を認識した上で、『将来の自分の場合はどうなのか』を知っておくこと 出典: 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』(横山光昭著/KADOKAWA刊)より抜粋) ■自分自身の年金受取額の見込み額を把握するには? 今回は、自分の年金受取額の見込み額を把握するための方法からお伝えしましょう。みなさん、お誕生日月に「ねんきん定期便」が送られてきますよね。現役世代では、基本的に次の4パターンで郵送されてきます。 ●「ねんきん定期便」の郵送パターン 1)50歳未満の人(35歳、45歳の人を除く):ハガキ 2)35歳・45歳の人:封書 3)50歳以上の人:ハガキ 4)59歳の人:封書 筆者作成 大まかに言えば、50歳未満と50歳以上で「ねんきん定期便」の形式が違います。ここで、ひとつ問題点があります。それは、50歳未満の人の場合は、「ねんきん定期便」だけでは、将来の自分の受給予定額がいくらなのかが、わからないんです。 ■ねんきんネットは、ご存知ですか? 「自分の年金額を早めに把握しておくと、現在の生活費と老後を比較したときに、どれだけ足りそうか、足りなさそうかが推測しやすくなります」(横山さん) 筆者も、「将来の自分の年金額は早めに知っておくに越したことはない」と思っています。50歳未満の人が、将来の自分の年金を知りたい場合は、「ねんきんネット」を使いましょう。 ただ、「ねんきんネット」を見るためには、毎年のねんきん定期便についていくる「お客様のアクセスキー」や基礎年金番号での利用登録が必要です。利用登録をしてユーザーIDを取得すると、自分の年金の試算などができる仕組みになっています。ちなみに、アクセスキーの有効期間は、ねんきん定期便到着後3ヶ月間です。「毎年、お誕生日月に将来の年金額を試算してみる」など、自分の「年中行事」のひとつに組み込んでも良いですね。 ■年金事務所はご存知ですか? それでも、やはりわからないことはあるはずです。「年金全般に関する不明点があれば、直接近くの年金事務所に足を運んでみたり、ねんきんダイヤルに電話をかけて聞いてみることです。いずれにしても、みずから動いて聞きに行くことが大事です」(横山さん) ●ねんきんネット: ●全国の相談・手続き窓口: ●ねんきんダイヤル:0570-05-1165 ■繰り下げると受給率が増える老齢年金 ここまで読んで、「年金、やっぱり、面倒くさい」と、ちょっと憂鬱になってしまいましたか?(笑)。 では最後に、とても大切なことをお伝えして、本連載を終わりましょう。 年金は繰り下げると、受給率が高くなる 年金を「繰り下げる」とは、年金の受給開始年齢を遅らせることをいいます。次の表のとおり、1ヶ月繰り下げるごとに受給額が0.7%増える計算で、今は、70歳が後ろ倒しにできる最高齢です。 ちなみに、70歳から受給を開始すれば、増額率は42%! つまり142%の年金がもらえるんです。なかなか、すごいスゴイ数字だと思いませんか? ●老齢年金の繰り下げ受給の増額率 ■65歳までに1560万円を! そうは言っても、現状、多くの人の定年は、65歳。年金の繰り下げの恩恵を最大限に利用できる70歳まで年金を受給しないとなると、65~70歳の生活費を確保しておく必要があります。 たとえば、第2回でご紹介した 「金融審議会」 のモデル家計を例にとって、65歳~70歳の生活費を試算してみましょう。モデル家計の毎月の生活費は、26万円でしたから、これの5年分。具体的には、1,560万円です。 生活費月26万円×12ヶ月×5年=1560万円 一言で、「65歳までに1560万円を貯める」といっても、30歳、35歳、40歳では、老後までの持ち時間が違います。そうなれば、毎月の貯蓄目標額も違ってきます。残りの月数から逆算した、毎月の貯蓄目標額を表にしてみました。 ●スタート年齢から逆算する老後資金貯蓄額(1,560万円の場合) ■年金を自分事として考え始めることが大切 いかがでしょう? 具体的なベネフィット(それをやることで得られる未来)を知れば、自分年金について少しはヤル気が出てきませんか? こんなふうに、少しずつでも、年金に対しての知識を増やしていくことが、今は大切な時期なのだと筆者は思います。 私はマネー記事の取材を通じて、日本の年金制度は、「最低限の生活保障」というカタチになっていくと予測しています。NISAのモデルとなったイギリス、iDeCoのモデルとなったアメリカ、両国ともに年金の自助努力を促すために税制優遇制度を作り、年金は「最低限の生活保障」という位置づけです。NISAやiDeCoが「輸入」されてきたのですから、日本の年金政策はイギリスやアメリカと同じ方向に舵を切っていると考えるのが自然でしょう。 老後までの時間が、まだある今だからこそ、「自分らしい老後」を送るために、年金に対して学び始めること。それは、ライフデザインも含めて、「未来の自分」について考えることでもあると思います。 ●「老後までに2000万円貯められる?」第4回のまとめ 1)「ねんきんネット」の利用登録をして将来の年金額を試算してみる 2)年金の「繰り下げ」を知る 3)まずは、65歳までに1,560万円を貯金しよう ※本連載で紹介する制度などに関する情報は、2020年2月26日時点のものです。 ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』 (横山光昭/KADOKAWA ¥1,540円(税込み)) 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万人以上の家計を再生。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 >> 「老後までに2000万円貯められる?」連載 記事を見る 第1回「「老後が不安」で終わらせていいの?」 \おすすめ動画もぜひご覧ください!/ 母ちゃんTVはコチラ チャンネル登録お願いします♪
2020年03月18日「『老後2000万円問題』で不安や疑問を覚えた今こそ、年金について学び始めるチャンスです」と言うのは、ファイナンシャルプランナーの横山光昭さん。 学び始めると言われても、何をどうやって考え始めればいいの? 最初の1歩がわかりません!! そんな人のために、「2000万円より必要な人、少なくて済む人」の具体例を教えてもらいました。 この記事は、 第1回「『老後が不安』で終わらせていいの?」 第2回「じつは『老後に2000万円必要』とは報告されてなかった!?」 の続きです。 ■そもそも「2000万円が不足」って、何? 前回の記事で、 「2000万円問題は、ある一組の夫婦の資産の(例)にすぎない」 と、書きました。(例)となっている家計は、下記です。ポイントを3つあげておきましょう。 ●「2000万円問題」のモデルとなった家計のポイント3つ 1)夫が65歳以上で妻も60歳以上。二人とも無職 2)年金収入が約21万円なのに対し、支出は約26万円 3)月額5万円の赤字が出る 筆者作成 家計の内訳は、次のとおりです。ご自身の家計と比べてみて、いかがですか? たとえば、この家計の住居費は、月額13,656円です。この金額ですと「家賃」というよりは、「持ち家でローンは完済。固定資産税などを月額割にした数字」なのではないでしょうか? ■「どんな生活をしたいか?」で必要な金額は変わる こんなふうに、モデルとなった家計と、「わが家の家計」を照らし合わせてみる作業を、まず始めてみると良いと思います。その上で、「では、自分自身の老後をどんなふうにしたいか?」を、考え始めてみましょう。 「まずは自分の老後のビジョンを決めることから始めましょう。そうでないと老後の必要額はわかりません」(横山さん) そう言われても、多くの人は「心配のない老後にしたい」というくらいしか、イメージが沸かないかもしれませんね…。 そこで、23,000件以上の家計をみてきた、家計のプロ横山さんの出番です! 今回は、「2000万円」を基準にして、2000万円以上老後資金が必要な人、2000万円までなくても大丈夫な人の、「ありがちな収支パターン」を教えていただきました。 ●ありがちな収支パターン4例 1) Aさん:2000万円では全然たりない人 2) Bさん:2000万円までなくても足りる人 3) Cさん:年金のみでもいける人 4) Dさん:Aさんのバージョン違いの「2000万円ではたりない人」 ※Dさんは、わりとよくみられるパターンだそうです。 ここで、今回の「試算の条件」のポイント整理しておきましょう ●今回試算条件 1)「将来の収支予想の収入」は年金のみの収入で、年金のみで生活した場合 2)年金受給額は、今後の加入状況や収入の状況を予測した概算 3)予備費用は、リフォーム、介護、病気、旅行費用に充てるための金額 筆者作成 ▼パターン1)Aさん 2000万円では全然たりない人 【診断】 高支出メタボ家計 Aさんは、こんな人 → ちょっといいもの症候群 Aさんは、現役時代の年収が1100万円と非常に高いので、いわば「ちょっといいもの症候群」です。 消費では、「ちょっといいもの」を選びがちなので、生活コストがかかります。また、資産形成は、「賢くできるはず!」という気持ちで堅実路線とは言い難いチョイスをしていますが、思うような結果は得られていません。 ▼パターン2)Bさん 2000万円までなくても足りる人 【診断】 無駄のない節約家計 Bさんは、こんな人 → 堅実な生活者 Bさんの現役時代の年収は500万円で、「堅実な生活者」です。 そもそも、現役時代に使えるお金が特別高いわけではないので、消費は、「地に足がついた感じ」です。普通の収入なので、生活もごく質素です。もっとも「質素」と「貧乏くさい感じ」は、まったく違います。家計の収支について、きちんと考えています。 ▼パターン3)Cさん 年金のみでもいける人 【診断】 年金を貯蓄に回せる理想家計 Cさんは、こんな人 → 老後は実家の田舎で暮らす予定の人 Cさんの現役時代の年収は、600万円。老後は実家に戻って田舎暮らしを始める可能性があるそうです。住宅ローンは返済中ですが、これを完済して持ち家を売れば、1000万円くらいの資産になるかもしれません。 田舎に戻ったあとは、親と変わらない近所付き合いをし、食材はもらったり安く買えたりしそうなので、生活コストは低そうです。 ▼パターン4)Dさん 2000万円より多く必要な人人 【診断】 賃貸住宅が老後にも響く赤字家計 Dさんは、こんな人 → 「老後の家賃」が厳しいタイプ Dさんの現役時代の年収は、700万円。比較的慎重派で、何千万もの住宅ローンを組んで持ち家にすることは考えていません。家は必ず買わなくてはいけないというものではありませんが、老後の限られた収入の中でやりくりするときには、家賃は、かなり負担の大きな支出となります。 あなたの家計は、どのパターンが近かったですか? この記事をキッカケにして、老後というのは、「どこかの国の誰かの話」ではなく、「今日の私の地続きにある話」というイメージを持つことが、年金を自分事として考える第1歩なのだと筆者は考えます。 ■老後対策の柱は、3つ 「老後生活を送っている自分」のイメージが持てるようになると、ようやく自分年金づくりのスタートラインに立ったということなのだと思います。では、スタートラインに立ったら、何から始めれば良いのでしょうか? 横山さんは、言います。「老後対策は、総じていえば、次の3つのアプローチから手をつけていくと、良いでしょう」 ●老後対策の柱3つ 1)年金以外の収入の道を探る 2)支出は現役世代のうちからコントロールする習慣をつける 3)運用もできるだけ早いうちから始める 出典: 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』(横山光昭著/KADOKAWA刊)より抜粋) ●「老後までに2000万円貯められる?」第3回のまとめ 1)「2000万円問題」のモデルケースを知り、自分の家計と比べてみる 2)老後は、「今日の私の地続きにある話」である 3)「老後対策の柱3つ」を知っておく 次回は、いよいよ「自分年金の作り方」について、具体的に考えてみます。 ※本連載で紹介する制度などに関する情報は、2020年2月26日時点のものです。 ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』 (横山光昭/KADOKAWA ¥1,540円(税込み)) 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万人以上の家計を再生。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 >> 「老後までに2000万円貯められる?」連載 記事を見る 第1回「「老後が不安」で終わらせていいの?」 \おすすめ動画もぜひご覧ください!/ 母ちゃんTVはコチラ チャンネル登録お願いします♪
2020年03月17日2019年は、公的年金だけでは 「2000万円足りない」 問題が注目されたことにより、「老後について、本気でどうにかしなきゃ!」と、危機感を感じた人も少なくなかったのかもしれません。 「老後に2000万円足りないって、本当?」お金の超プロフェッショナルである 横山光昭さん にお話しを伺ってきました! この記事は、 第1回「『老後が不安』で終わらせていいの?」 の続きです。 横山 光昭(よこやま・みつあき)さん 家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。お金の使い方を改善する独自の家計再生プログラムで、これまで23,000万人以上の家計を再生。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。 ■老後2000万円足りなくなるって、本当? 取材の冒頭、「老後資金が、2000万円足りないって、本当ですか?」という、素朴な疑問を横山さんにぶつけてみました。 横山さん曰く、「結論から言えば、ウーマンエキサイトのパパママ世代の方は今から、『自分の場合は?』と、 年金を自分事として考え始めれば大丈夫です 」とのこと。 ほッ! 良かった! では、年金を自分事と考え始めるためには、何が必要なのでしょうか? いわゆる 「老後2000万円問題」の整理 から始めましょう。 コトの発端は、6月上旬に公表された金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書です。全51ページの、たった一文(太線部分)だけが切り取られ、大騒ぎになりました。 ●金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書 年金だけが収入源となる無職のある高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)。夫婦の 年金収入が約21万円 なのに対して、 支出は約26万円 かかっています。 その収入と支出の差となる 不足額が毎月5万円 。 これが20年間続くとすると、 30年間で約2000万円が必要になる という試算です。 参考文献: 金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書 (全51ページの21ページ目) ■「絶対に2000万円が必要だ」などとは書いていない 報告書は、ネット上で誰でも目をとおすことができます。「私も報告書が公表されてすぐに目をとおしましたが、あの報告書では、 『老後の生活に、絶対に2000万円が必要だ』 とは書かれていません。紹介されていたのは、ある平均的な夫婦の老後の資産(例)です」(横山さん) 「ある平均的な夫婦の老後の試算(例)」についての解説は次回行うとして、ここでは、この報告書のポイントを整理しておきます。とても大切な報告書なので。 ●ウーマンエキサイト世代のパパママが知っておくべき3つのポイント 1)長寿化はこれからどんどん進んでいく。 2)充実した人生を送るためには年金だけでは足りない。 3)自分事として準備しましょうと「自助努力」を促す。 筆者作成 ところで。皆さんは自分の年金について、 「いつから」「どのくらい」 もらえるのか知っていますか? 年金について、今、何か準備していることはあるのでしょうか? 「自分の年金について考えたことのなかった方、これまで誤った情報に惑わされていた方に、この連載を通じてメッセージをお伝えしたいと思っています」(横山さん) ■キーワードは、「人生100年時代」 年金の問題を考える時、キーワードは、 「人生100年時代」 です。今では当たり前のように使われている「人生100年時代」というフレーズですが、そのキッカケは、『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社刊)という本がよく売れたことにあります。 この本の初版は、2016年10月なので、約3年前、にわかに「人生が100年になった」=「長寿化が現実味を帯びた」といったイメージでしょうか。 『LIFE SHIFT』の中では、「人生の組み立て方が、今までとは違ってくる」と提言されています。端的に言えば、「教育→仕事→引退」という三つのステージで人生を考えるのは、長寿社会では無理だということなんです。 100年という時間を、自分らしく生ききるためには、「学び直し」をしたり、「複数の仕事を同時に持つ」など、これまでの違う考え方で、人生を捉えていく必要があるとされています。 ■年金だけで暮らせる人は1割 私たちの親世代は、「教育→仕事→引退」というライフステージを送り、仕事を引退した後は年金だけで暮らしている人も多いでしょう。けれども、私たちが仕事を引退する頃は、高齢化が進んでいます…。 「端的に言っておきましょう。これからの日本では、 年金だけではほとんどの人は暮らしていけません 。ほとんどいうのは全体の8~9割くらいの人です」(横山さん) つまり、年金だけで暮らせる人は1割。「老後は年金があるから何とかなるだろう」という発想があるとしたら、それ自体、今の現役世代にとっては現実的ではないのです。「この記事をキッカケにして、ぜひ、その考え方から離れて欲しいと思います」(横山さん) ■老後に向けて、今、私たちがやるべきこと2つ では、どうしたら良いのでしょうか? 横山さんより、私たちがやるべきことをポイントを絞って2つ教えてもらいました。 ●今、私たちがやるべきこと2つ 1)自分自身の年金受取額の見込みを把握すること 2)今とこれからの社会状況を認識した上で、『将来の自分の場合はどうなのか』を知っておくこと 出典: 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』(横山光昭著/KADOKAWA刊)より抜粋) 1)の自分自身の年金受取額の見込みを把握する方法については、今後詳しく説明します。まずは、上記の2つをクリアした上で、「自分は将来どういったライフスタイルを目指すのか?」を考え、「そのためには、どうしていけばいいのか?」を、各人が探っていく必要がありそうです。 「人に勧められるままに内容を理解せず投資をしたり、極端な節約生活を続けていくのは老後の生活が危ういだけでなく、長続きしません」(横山さん) ●「老後までに2000万円貯められる?」第2回のまとめ 1)「老後資金2000万円問題」、年金を自分事として考えるキッカケにする 2)「人生100年時代」は、今までとは違った生き方をしていく必要がある 3)「今、私たちがやるべきこと2つ」を知っておく 次回は、年金を自分事として感じられるよう「2000万円より必要な人、少なくて済む人」について、具体的に考えてみます。 ※本特集で紹介する制度などに関する情報は、2020年2月26日時点のものです。 <参考サイト> 金融庁: 金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書 『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』 リンダ グラットン (著), アンドリュー スコット (著), 池村 千秋 (翻訳) ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』 (横山光昭/KADOKAWA ¥1,540円(税込み)) >> 「老後までに2000万円貯められる?」連載 記事を見る 第1回「「老後が不安」で終わらせていいの?」 \おすすめ動画もぜひご覧ください!/ 母ちゃんTVはコチラ チャンネル登録お願いします♪
2020年03月16日■「老後2000万円問題」は老後が不安になっただけ? こんにちは! ライターの楢戸ひかるです。私は20年ほどマネー記事を書いていますが、昨年の 「老後2000万円問題」 は、マネー史に残る、インパクトのある「事件」だったと思っています。 ママの毎日は、忙しい! いっぱいいっぱいの毎日のなかで、とてもじゃないけれど、老後のことなんて考えられませんよね? それなのに、不安だけ、ポトリと滴のように落とされてしまった……。 私個人の感想としては、多くのママにとって、2000万円問題が、 「ただ、老後のことが不安になっただけ」 なことが、すごく残念です。 ■老後資金、「知らないから不安」を払拭するには まずは、 「知らないから不安」 にエネルギーを奪われないよう、必要な情報を知ることから始めてみませんか? 「知っておく」こと、老後に対してのひとつの有効な備えだと私は思っています。 「老後2000万円問題」については、 ァイナンシャルプランナーの横山光昭先生 に取材させていただき、詳しい解説をこの後の記事で行っていきます。 記事を読んでいただければわかりますが、2000万円問題は、いいキッカケだと思うのです。そういう意味で、一般の人が話題にするレベルまで反響があった、この「事件」を、無駄にしたくないと思いました。 ■老後資金貯める余裕がないのに、不安がない理由 私自身、今、老後資金を貯める余裕は、ほとんどありません。高校生2人、大学生1人の息子の教育費がピークだからです。けれども、「老後が不安だから、お金を貯めなきゃ!」といった感じの漠然とした不安は、それほどないです。 なぜ、漠然とした不安がないのか? それは、「知っている」からです。私が何を知っているのか、書き出してみますね。 ●「老後の漠然とした不安がない」 私が知っていること 1)1ヶ月いくらあれば、足りるのか? 具体的な毎月の生活コストを把握している 2)家電の買い替えやリフォームなど、大まかな生活サイクルと必要額を把握している 3)わが家が、いつから老後資金を貯められる家計なのか? ライフプランニング表を書いて、予測がついている 4)取材を通じて、「介護」や「老齢期の医療」のイメージを持てるようになりつつある 5)投資を経験したことがあり、自分なりの投資方針がある こんなところでしょうか? 情報は力です。 30代、40代は、住宅ローンや教育費負担が重い時期。「老後資金を余裕を持って貯めています」というご家庭の方が少ないのでは? と感じます。 「知らないから不安」ということ、結構あると思うのです。それだったら、漠然とした不安にシャドーボクシングをしているよりも、具体的に考えてみませんか? ■今回、取材を受けてくださった横山光昭先生の書籍 『横山先生! 老後までに2000万円ってほんとうに貯められますか? 人生100年時代でも豊かに暮らす、資産と年金への向き合い方』 (横山光昭/KADOKAWA ¥1,540円(税込み)) >> 「老後までに2000万円貯められる?」連載 記事を見る \おすすめ動画もぜひご覧ください!/ 母ちゃんTVはコチラ チャンネル登録お願いします♪
2020年03月15日cakes史上、最も読まれた連載が書籍化されました! ガンを宣告された写真家・幡野広志さんによる人生相談です。幡野さんのところには、なぜか多くの人からありとあらゆる人生相談が集まるのですが「悩み相談を受ける中で、親子や家族関係で、悩んでいる人が多い」とのこと。 「親子関係」は、人間関係の原点で悩みも深いテーマなのかもしれません……。 親子の「距離感」は難しい 幡野広志さん(以下、幡野) :本のタイトルにもしましたが、人生の悩みを『なんで僕に聞くんだろう』とずっと思ってました。おそらく、相談者の方は「親に相談できる」という選択肢や人間関係を持てていないのかなぁ…と。自分の親に相談しても、納得のいく答えが出ないと思っているんでしょうね。 編集部(以後、―)自分が母親になってみると、耳が痛い話です。 幡野 :多くのお母さんの子どもに対しての距離感、僕は「不思議だなあ」と、感じます。少し距離をとっているお父さんのことをdisっちゃったりして。 ― 夫が、自分と同じくらい子育てに「一生懸命」でないのが腹立たしくなるんですよね… 幡野 :子どもからすれば、お父さんまで、お母さんと同じ距離感になってしまったら、逃げ場がなくなってしまいます。あまりよくないと思います。 ― 母親にとっては、「自分」と「子ども」の精神的な線引きが、難しいのかもしれません。 幡野 : 子育て以外に何かアイデンティティを持ってないと危ない ですよ。子どもが生まれると、自分の仕事や趣味を諦めてしまう人は多いですが、僕は逆じゃないのか? と、思うんです。子どもができた人ほど、色々なことをやってみるべきだと思います。ストーカーみたいな親にならないためにもね(笑)。 ― 子育て以外のことをしていい…。なかなか、そうは思えない人が多いように思います。 幡野 :とりわけお母さんと息子のパターンは、恋愛にかなり似たようなものを感じます。下手な恋愛みたいになっている親子を見てると、逃げられない子どもは可哀想だと思います。恋愛上手な人って、恋人との距離感の取り方が上手だと思います。 ― 子どもとの距離感について、幡野さんはどう考えてますか? 幡野 :今、僕の子どもは3歳ですけど、とても魅力的な存在です。子どもが生まれて、子どものことが何よりも大事になるのはわかります。あそこまで純粋無垢に自分のことを大好き!と言ってくれる存在は、他にはいませんから。「ママ大好き! パパ大好き!」という「大好きでいてもらえること」が嬉しくて、それに依存してしまうんでしょうね。 ―親が「子どもという存在」に依存してしまう…。わかります。 幡野 :でも、子どもが、大きくなれば親がどういう人間なのかというのはバレます。いずれ、こう、何というか……例えば依存が強い親だったら そういう人間だってことが子どもにバレちゃう んです。 僕だって、子どものころは「大人は立派で偉い人」と思っていた時期もありました。でも、大人が立派なわけではなくて、立派な人もそうでもない人がいることが自分が大人になるとわかりますよね。僕が子どもの頃、偉ぶっていた学校の先生がいましたけれど、今考えると大したことなかったと思います。いずれバレるんだから、あんまり子どもに偉そうな態度はしないほうがいいんじゃないかなと僕は思っちゃいます。 力の弱い人間に対して、どんな態度をとるかで人間性は出る ー著書の中で、「力の弱い人間に対して、どんな態度をとるかで人間性が出る」と。 幡野 :すごく出ると思います。これは、子どもに対しての話だけでもなく、たとえば、会社の後輩や、弱い立場の人に対する態度で人柄ってわかると思います。もちろん、これは男性だけでなく、女性も一緒です。 ― 反省しかないです…。家庭という密室の中で、どうしても子どもに対してイライラをぶつけてしまうことがあって…たとえば、出ないといけない時間なのに子どもがダラダラしている…とか、そういう些細なことなのですが。 幡野 :でも、子どもは、そういうもんなんじゃないですか? 僕は36歳で、もう36年も人間をやっているから、ある程度のことはできます。でも、3歳の息子は、地球に来て3年ですから。まだ新人ですよ。そんな人に怒ってもしょうがないかな~、と僕は思うんです。怒って子どもが成長するのだったら話は別ですけど、怒ったところであまり効果はないと思うので。 ― 怒っても何もいいことないのは、頭ではわかっています。でも、毎日の生活の中で、子どもと接していると、合理的な判断ができなくなってしまう瞬間もあって… 幡野 :そりゃそうですよね。その感じもわかります。お母さんの中には、完璧を求めている人が、多くいる気がします。無意識に「絵に描いたような家庭」や「良妻賢母なみたい自分」を目指してしまっているんだと思います。そんな「絵に描いた餅」を目指したって、無理なんじゃないですか? ― どうして、母親は「「絵に描いた餅」を目指してしまうのでしょうね? 幡野 :う〜ん…人の目を気にしているからじゃないですか? 僕は、人の目を全く気にしないから、あまり子どもに怒らないんだと思うんです。たとえば、「オムツが早くとれることは、良いことだ」と、思っていませんか? 無理にオムツを取ろうとして、それでおもらしをして子どもにイライラして、ストレス抱えるぐらいなら、オムツが自然に取れるのを待てばいいんじゃないかなと思います。きっと、「他の子よりも早くオムツがとれる」とか「喋り出すのが早い」とか「立つのが早い」とか……。 無意識に他の子と比較しちゃう んでしょうね。次は、学校の成績や習い事の上手い下手、進学先や就職先、結婚相手……と比較ばかりしていると、その先にあるのは 「自分のことを他の誰かと比較する人間」のできあがり ですよ。 ―幡野さんは、比較とは無縁そうですね…(笑) 幡野 :僕自身、誰かと比べられるのが嫌いなので、自分の子どもを他の子どもと比較するなんて絶対に嫌です。妻の実家に行くと、「早くオムツ取れるといいわね」と言われるんですけれど、「関係ねえよ」と、僕は大きい声で言っちゃいます。 人は比較する生き物だというのはわかっているんですが、あまり巻き込まれたくないので、面倒くさい人に釘を打つのは、大事な仕事かなぁと。 僕は、1人の子どもを夫婦2人で育てていて、かなりギリギリだと感じています。これは僕もやってみてわかったことです。もし、ワンオペでやらざるをえないんだったら、よっぽど他の部分を切り捨てないと無理です。家事なんか、無理。バッサリと割り切って、合理的にやっていかないと難しいと思います。 ― ワンオペ育児でも「家事をきちんとやらないと」と思う人は多いですよね…。 幡野 :毎日の食事を自分で作らなければいけないと思っている人は多いですが、「そんなにがんばらなくていいんじゃないかな?」と、思います。もちろん好きで楽しんで食事を作ってる人はいいのですが、うちはかなりウーバーイーツに頼っています。子育てという、あんな大変な仕事を、1人でなんて、絶対に無理です。何度も言いますが、ウチは1人の子どもを夫婦2人で育てていてギリギリです。 子どもが泣き止まない。僕はそんな時、音楽を聴いている ― 幡野さんみたいに、「合理的」+「人と比べない」だと、だいぶ楽になれそうです 幡野 :そうですよ。 人の目を気にするより、自分の子どもからの目を気にした方がいい ですよ。僕は、子どもが泣き止まないとき、イヤホンをつけて音楽を聴くこともあります。「泣き声」でイライラするくらいだったら、イヤホンをつけて自分の好きな音楽を聴いていた方がいいじゃないですか。 ―泣き声は、自分が責められている気がしてしまうんですよね 幡野 :泣き声は生理的に不快だから、ですよね。それだったら僕は自分が耳栓をしたり、イヤホンで音楽を聴いて自分の気持ちを落ち着けてから子どもの対応したほうがいいと思うんです。「子どもが泣いているのにイヤホンで音楽を聴いているなんて、何て、ひどい人!」と言う人もいると思いますが、僕は「合理性に欠けるな」と、思っちゃいます。楽するところと、がんばるところを分けて考えればいいのに。 親の方が立場が強い期間なんて一瞬 ― 楽をしていいところを見極める……。そういう「境地」になかなかたどり着けないです 幡野 :まず、人のことを気にするのをやめたらいいと思うんですよね。周りの人のことより、自分と自分の子どものことを気にした方がいい。あとね、最終的に「子どもの評価」を「自分の評価」にすり替えちゃう人がいるんです。 ― 子どもは、自分とは切り離して考えた方がいい? 幡野 :そりゃそうですよ。想像するのが難しければ、「先輩」「後輩」ぐらいの関係性で考えてみたら、どうでしょう。 自分が何もできない新人の時に、「ガミガミ怒る先輩」と、「優しくいつも待って教えてくれた先輩」、どちらに信頼を置きますか? おそらく、感情的に「ガミガミ怒る先輩」を尊敬することって難しいですよね。それは親子関係でも、同じだと思います。今、子どもは自分よりも弱い存在ですが、15年ぐらいで抜かれますから。親がよっぽど成長する人でない限り、そのうち絶対に抜かれます。親の方が立場が強い期間なんて人生で圧倒的に一瞬ということを意識した方がいいと思います。 幼少期は、自分と子どもの信頼関係を積み重ねる時期 ― 著書の中の「言葉で人の歩みを止めることも、背中を押すこともできるならば、できるかぎりぼくは背中を押す人でありたい」という言葉が印象に残りました。子どもの背中を押すことができるママになるために、どうすればいいですか? 幡野 :子どものことを、否定しないことじゃないですか? たとえば、うちの息子がyoutubeを見て「これ、欲しい」と言った時、僕はいつも「いいね! 今度、探しにいこうか」と、言うんです。3歳の子どもが「これ、欲しい」というのは、少し噛み砕けば、「これ、いいな」ということでしょう? それを、大人の都合で「いらない」とか「すぐ飽きちゃうよ」と決めつけるのは、子どもの感情の否定だと思うんです。買う、買わないは、別の話として、「いいね! 今度、探しにいこうか」って言えばいいと思うんです。 ―どうして、幡野さんは、そういうセリフがサラっと出てくるのでしょうか? 幡野 :そうだなぁ、そうですね……。いずれ評価をするのは、子どもだと思ってるからですかね。最後は自分の人間性が子どもにバレるんです。だから僕は子どもに自分の価値観をできるだけ押しつけないようにしています。幼少期は 自分と子どもの信頼関係を積み重ねる時期 なんだと僕は思ってるんです。 幡野さんの人生相談が人気の理由 詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、恋愛相談から家族のこと、病気の悩みなど多種多様な人生相談に幡野さんが答えています。 「家庭のある人の子どもを産みたい」「娘がイジメられていて自殺を考えている」「2歳半の息子の子育てがツラい」「娘が非行にはしった」「中2の息子の成績が悪い」「友人と同じ人を好きになった」「夫の浮気が判明し、自分の病気も発覚した」 ヘビーな相談も多いのですが、幡野さんは、子どもや立場の弱い人に徹底的に寄り添いつつ、合理的――そして、問題の本質をさらっと見抜きつつ 本音で生きることの大切さ を伝えてくれます。 合理的で優しい…このバランスの絶妙さ が幡野さんが人気の秘密だと思いました。 …本の帯には「言葉で人の歩みを止めることを、背中を押すこともできるならば、できるかぎりぼくは背中を押す人でありたい」と書かれています。幡野さんが誰かの背中を優しく(時に強く)押している言葉をぜひ読んでみてください。子どもとの関係に役立つ言葉はもちろん、人生のヒントがたくさん散りばめられています。 ガンになった写真家に なぜかみんな、 人生相談をした。 Amazonで詳細を見る 『なんで僕に聞くんだろう。』 幡野広志著/幻冬舎刊 定価(本体1500円+税)
2020年02月26日