自閉症児は「死」をどう受け止めるのか。祖父の死を経験した息子は
涙する家族。ウロウロと歩きまわる息子。
Upload By 立石美津子
私たち家族は、父の死に目には会えず、病院に駆け付けたとき身体は冷たくなっていました。みんな号泣していました。
そんな状況なのにも関わらず、息子は病室内をウロウロと歩き回り、ファンタジーの世界に没頭しているのか、場にそぐわない笑みまで浮かべていました。
看護士が「どういうお祖父様でしたか?」と尋ねても、「怒る人、怖いおじいちゃま」と言葉を飾ることなくそのまま答えていました。
病院の近くにある実家に寄った時も、玄関に付いている「立石信義(=祖父の名)」の表札をいつ変更するのかということばかりを気にしていて、一切涙をすることはありませんでした。
こういう態度を見て「やっぱり自閉症なんだなあ」とつくづく思いました。
「お祖父ちゃまが死んで悲しくない?悲しい?」息子に問うてみる
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周りが泣いているのにも関わらず自分の世界に没入する息子。
「自閉症児がする典型的な態度だが、だからといって、息子が人の死に対して何も感じていないはずはない。」
そう考えた私は、葬儀までの一週間の間、息子に何度か質問してみました。
はじめに、「おじいちゃまが死んで悲しい?」と聞くと、息子はオウム返しに「悲しい」と答えました。続けて「おじいちゃまが死んで悲しくない?」と聞くと、これまたオウム返しに「悲しくない」と答えます。
いつもこのパターンで、相手の言ったことをリピートするのです。
聞き方を変えて、選択肢を与えながら「お祖父ちゃまが死んで悲しい?悲しくない?」と問えば、本心が聞き出せるかというとそうでもないのです。
この質問の仕方ですと、印象に残りやすい後者のフレーズ「悲しくない」を機械的にリピートすることが予想されました。
そこで順番を入れ替えて「お祖父ちゃまが死んで悲しくない?悲しい?」と、淡々と聞いてみました。こういう風に、意図的に文中の言葉を選ばなくてならない状況にさせて意思確認をすると本心が言えることを、自閉症の息子を15年間育ててきた経験上、私はわかっています。
すると息子は、「悲しくない」と答えました。はっきりとした意思を持って前者のフレーズを選んだのです。
息子は何かと自閉症を理解できない父からよく怒鳴られていたので、それは正直な気持ちだったのかもしれません。いつまでも裏表のない子どもなのです。