子育て情報『行動障害のある家族を支えることに「限界」を感じたときは―児童精神科医・吉川徹(9)』

2016年10月19日 16:00

行動障害のある家族を支えることに「限界」を感じたときは―児童精神科医・吉川徹(9)

そしてご家族や支援者の気力や体力、時間に限界が近づくと、「もう家で、地域で、施設で暮らせないから、入院させよう」というアイデアも浮かんできます。入院すれば魔法のように行動障害がよくなって、落ち着いた状態で帰ってきて、しかもその後その状態が長く続くといった、ちょっと現実離れした期待をしてしまうこともあります。

ではこの強度行動障害に対して、実際に医療は何ができるのでしょうか。強度行動障害の本質は、先に述べたように、本人の特性と環境との不適合、そしてそれを補うために誤って学習された行動のパターンです。このように考えていくと、実は医療で出来ることはそれほど多くないことがわかります。

知的障害があり、強い行動障害のある患者さんが入院する場合、ごく一部の専門病床を持つ病院などを除けば、ほとんどの総合病院や精神科病院の場合には、外から鍵をかけた個室に入っていただくことになります。激しい他害や自傷がある場合には、身体拘束といって、手足をベルトなどでベッドに固定したりすることも少なくありません。

こうした対応は、緊急時に本人と周囲の人の安全を守るための手段としては、やむを得ない場合があります。
興奮が激しく、このままでは自宅で安全に暮らせないという状況で、家族や支援者がそれに対応する時間と気力と体力の余裕を取り戻すために、一時的に入院を選択することは充分にありえます。

逆に病院は、施錠や身体拘束という方法を法的に許されているために、慣れていない患者さんが急に入院してきた場合でも、本人や周囲の人の安全を比較的守りやすいのです。

しかし、このような対応を長く続けることは、本人がその特殊な状況に合わせた、更にうまくいかない方法を身に付けてしまう結果に繋がることがあります。本人にとっても辛い状況であることも多いので、退院した後、行動の問題が悪化することも少なくありません。また入院が長期化すると、地域の支援体制はだんだんと手薄になって、時間が経てば経つほど、地域に戻りにくくなってしまうこともあります。そして行動を制限された入院の環境は、本人の誤った学習、うまく行かない行動のパターンを変えていく、別のやり方を模索していくためには、とても不利な状況でもあるのです。

更に言えば、こうした行動障害に対しては、第7回の記事で触れたように、お薬が使われることがあります。しかし行動を強く制限された状態では、お薬の量の調整がうまくいきません。

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