【日本初】Lancet Countdown 2023 Japan プレゼンテーション 子どもの健康問題としての気候変動セミナーを実施
直近では年間平均約1300人が熱中症で亡くなっており、そのうち8割を高齢者が占めています。この熱中症による死亡者数を自然災害による死亡者数と比較すると5倍以上が熱中症によって亡くなっており、
“熱中症は災害として捉えるといった認識が大切”になってきます。ほぼ温暖化対策(緩和策)を実施しなかった場合、熱中症の救急搬送数は今世紀半ばには1.7倍、世紀末には4.5倍になるという予測結果が出ています。
資料(3)
■日本でデング熱が流行する可能性も
また、デング熱に関して、ウイルスを媒介するヤブ蚊と呼ばれるヒトスジシマカの分布可能域を見ますと、1950年代には北限が北関東であったものが、50数年経ちますと徐々に北上し、2010年には秋田県岩手県辺りまで到達します。さらに2015年には青森でも生息が確認されています。このまま温暖化対策を推進し実施しなかった場合、北海道でも十分生息可能になると予測されています。デング熱は今のところ海外から持ち込まれる輸入症例がメインですので、すぐにデング熱のアウトブレイクに繋がるわけではないのですが、潜在的なデング熱流行のリスクは高まっていると思います。
■気候変動は心の健康にも影響を及ぼす
決して無視できないのがメンタルヘルスへの影響です。
例えば極端気象による災害が激甚化した場合、一番極端なメンタルヘルスの影響が自殺です。実際に日本のデータでは、気温が上がっていくと自殺のリスクも上がってくることが疫学研究で分かっています。例えば気温が7.7℃程度から23℃ぐらいまで上がると、自殺のリスクが5%程度上昇することがデータで示されています。将来予測では、気温によって発生している自殺者数は今世紀末には6.5%程度に上昇してしまうだろうといった報告もされています。そのほかにも極端気象、洪水、山火事、熱波などの自然災害が増えることによって直接的な影響の他にも災害後のPTSD、あるいは不安と抑うつといったような影響があります。
気候危機は健康の危機であるといった危機感を持って臨むことが大事であり、健康を中心にした気候変動の対策を考えていかなくてはいけないと思います。ひいては人々の健康を預かる医療従事者が気候の影響というのも見据えた上で広く自分の患者さん、また、広く社会に働きかけをして気候変動対策を進めていく、それも「人新世」時代の医療従事者の新たな役割なのではないかと考えています。